インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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ボゥイ・ダンス・マスカレード

リベリオン、フェニックス・リヴァイヴ、そして道老龍。

フランスの月に照らされたビル渓谷の中を、三機の高性能IS専用機が異色の暴走ISであるアラクネ・ケントリアへ向かい駆け抜ける。

≪キシャアアーーーッ!!!≫

取り込まれたオータムの狂気を具現化したかのような風貌のアラクネ・ケントリアは、振り乱した髪の毛から20㎝程の長さの尖った弾丸を無数に発射して迎え撃つ。

分かりやすく言えば髪の毛針だ。

 

「散開っ!」

シャルロットの号令で三方向へとバラバラに離脱、リベリオンが毛針のターゲットを引き付けている隙に道老龍がそのスピードを活かしてしなりを利かせた槍を大きく振りかぶる。

「どっせーいっ!!」

反動をつけた軟槍の一撃はハンマーの一振りに等しい。

ごきん、と鈍い音と共にひん曲がるアラクネの上半身の腕。

神経が通っているわけでもあるまいに悲鳴をあげたアラクネに遠慮する事も無く、箒すら手も足も出せなかった怒涛の連突で攻め立てる。

両手で防ごうにも防げぬ、鞭のように自由自在な荒ぶる打神鞭に、アラクネは毛針の行き先を道老龍へと向ける。

危なげなく回避して距離を離した鈴は、アラクネ・ケントリアの背後から迫るリベリオンへと攻撃担当を交代した。

 

「行っけぇ阿宇っ!!」

「もうその呼び方固定かよ阿鈴!ネタバレのし甲斐がねぇな!!」

バイザーの下で苦笑いするボゥイはしかし、どこか嬉しそうでもある。

弧を描いた刃でもある弓・イチイバルを横薙ぎに振りかぶって投げ放つリベリオン。

巨大なブーメランのように回転しながらアラクネの首を切り裂いたイチイバル、その間も両手に複数構えた短剣・ダインスレイフを投擲。

下半身の昆虫体や上半身に複数本刺さったダインスレイフは、イチイバルにて放った同種の剣を接触させる事で連鎖的な爆発を生じさせることが出来るのだ。

風を切り裂きながら円を描いて手元に戻ってきたイチイバルにダインスレイフを番ったリベリオンは、光の弦を引き絞って首なしの蜘蛛と化したアラクネ・ケントリアを狙う、が。

 

≪ヴァアアアアアア!!≫

「おぉわっ!?」

 

それより早く、首だけとなったアラクネが単独で飛行しリベリオンに噛みついてきたのである。

無防備だった肩アーマーに亀裂が奔るが、ボゥイは構わずダインスレイフを発射。

当たる事を確信しての一矢であったが、顎をどうにか引き剥がそうともつれ合うボゥイは、振り回されたアラクネの腕に射出したダインスレイフが弾き飛ばされるのを目にして焦る。

「あれ!?」

「何やってんのよバカ!」

「バカで悪いかい!」

「任せて、フォローするよ!」

思わず放たれる鈴からの罵倒に言い返している間に、弾かれたダインスレイフをキャッチしたシャルロットが、その勢いを殺さずにアラクネへと投げ放つ。

アラクネの多脚の一つに突き刺さったダインスレイフの緑の宝石が放つ光が勢いを増し、別の個所に刺さっていたそれらが呼応して煌めき、大きな爆発が次々に巻き起こっていく。

 

「いい加減、離せ、おらぁ!」

いまだ歯を突き立てるアラクネの首へとダインスレイフを突き刺して引き裂き、蹴り飛ばしてイチイバルから射出し爆散させたボゥイは、派手に吹き飛んだアラクネ本体へと視線を向ける。

既にアラクネが吹き飛んだ先へ回り込んでいた鈴は、待ちかねていたかのように豪奢な三つ又の槍を取り出し、新兵器のお目見えとばかりに八重歯をむき出して笑う。

「こないだの戦いでこういう槍も必要って学んだかんね・・・!」

 

打神鞭とは違い、硬度のある三叉戟・雷公鞭。

 

鈴の意志通りに打撃の威力を増したり、三叉の先からビームソードを展開する事が可能となる、ISチャイナが開発した仮想大型敵機用の兵装である。

代打のホームランバッターさながらに深く構えた鈴は、雷公鞭の横腹にエネルギーフィールドを発生させて打撃威力を上げ、タイミングよく振り抜く。

 

「こちとらいつだってホームラン狙いだっつーーーのッ!!」

 

目の前の高層ビルをバックスクリーンに見立てたクリティカルな打撃によりアラクネ・ケントリアは跳ね返り、待ち構えていたシャルロットのミサイルの嵐に迎え入れられる。

「再生するヒマなんて与えない!行くよ!」

バイザーを下げ、ミサイルでアラクネの座標を周囲に建造物の無いちょうど良い位置へと誘導するシャルロットは、そのまま真下へと位置取り、虎の子の武装である大型のバスター・キャノンを構えてターゲットロック。

横に向けての発射ではビル街に多大な損害を与えかねないが、真上への発射なら誰に迷惑をかける事も無い。

 

「フルドライブ!シューーーート!!!」

 

蓄えた陽電粒子を破壊の奔流と化し、並のISなら腕ごと落ちそうな反動と共に放つシャルロット。

粒子砲に対するカウンターとして反射装甲を装備されてあるアラクネ・ケントリアであるが、それならそうで反発する角度を計算して撃てば良いだけの事。

真下の反対は真上なのだから。

衝突した粒子の塊にバチバチと火花を散らし、自身の能力で上空へとロケットの様に飛び上がっていくアラクネ・ケントリアへと、道老龍とリベリオンがイグニッションブーストで追いすがっていく。

「後はお願い鈴!ボゥイ!」

 

雲を突き抜け、空気の淀んだ都会ながらも星が見える程の高度へと到達したアラクネ。

そこへ辿り着くまでに、鈴とボゥイはオータムの処遇について話し合う。

「シャルは殺したくないってんでしょ?なら生かして連れ帰るべきよ」

「オレは殺してぇ。でなきゃ腹の虫が煮えたぎって収まらねぇ!」

かつて煉獄のような痛みと苦しみを味あわされた怒りと憎しみ。

今を除いてこの怨念を晴らすチャンスなどあるものか。

ボゥイは仮面の中で歯を食いしばり、激怒を発散させる時を待ち侘びていた。

そんなボゥイへと呆れた眼差しを向ける鈴。

 

「バカねアンタ、ほんとバカ。いい?あの女とアンタの間に何があったか知らないけど、ここで殺したらそれで終わりじゃないの。ホントに憎くて仕方ないなら生かして痛めつけた方がよっぽど気持ちも晴れるんじゃない?」

「・・・・・・あ。」

 

頭に血を登らせていたボゥイの熱が、一気に冷める。

言われてみればそうである。

オータムの顎を砕き、鼻を折り、肋骨を破壊して、それで息の根を止める程度で満足できるような怒りではない。

もっともっと苦痛と侮辱を与えずに、この胸の業火が鎮まるわけもない。

「納得した?そんじゃ生かして連れ帰る方向でオーライ?」

「オーライ。バックアップは任せろぃ」

素直に敬礼するリベリオンにニヒっと笑いかけ、鼻歌でも歌うかのようにアラクネへとバーニアの出力を上げていく鈴を見て、ボゥイはバイザーの中で困ったように眉を垂らした。

「・・・へっ、こんな強くなってもかなわねぇな、阿鈴にゃ」

人殺しは良くないと諭すのではなく、復讐は何も生まないと知った口を叩くのではなく、ボゥイの納得できる形で代替案を準備できる・・・それも天然で、他意も無しに。

そんな鈴に昔と変わらない気の強さと不器用な優しさを感じ取ったボゥイは、この再会だけは神に感謝しても良いと考えてしまうのだ。

 

まだ上半身含む武装の再生が出来ていないアラクネへと追い付いた鈴が、シャルロットから受け取ったコア位置情報と照らし合わせて接近していく。

道老龍が登録情報からターゲットサイトを浮かび上がらせるのに頷いた鈴は、両腕に装備された龍咆改・乾坤圏を起動させた。

 

甲龍から移植された武装である龍咆は、中国武術でいう気の流れを応用した兵装であるとされている。

目に見えぬ圧縮された空圧を放射する事でISの外部よりも内部―――操縦者本体へのダメージを重視した武装。

本家である中国拳法では鉄板で防護した相手を、鉄板には威力を通さずにその向こう側にいる相手のみへ気を伝えて破壊するという奥義があるという。

鈴がその高みに達しているかどうかは分からないが、箒から託された機体、綾が調整した性能、信じてくれたシャルロットがいる限り、彼女に迷いなど無い。

 

正面から見て腹部、鳩尾から下。

そこにコアがあり、重なる様に―――要するにコアを抱きしめて包み込むように、人間であるオータムの存在がある。

パイルバンカーのような武器ではコアを破壊しようとすればオータムごと貫いてしまうかもしれないが、道老龍の乾坤圏を利用した勁打ならば。

オータムを死に至らしめる事無くコアを破壊できるハズなのだ。

全長6メートルはありそうなアラクネの懐へと立った鈴は、吐息を吹き出すと構えを取り、寸勁を二度、三度空打ちして精神を集中させていく。

 

情けない話だと鈴は思う。

あの日、箒はぶっつけ本番の一発勝負でコアを切り裂いたというのに。

自分はこんなに、時間の許される限りの集中を許されているのだから。

箒の時とは状況が違うため、どちらが優れているなど評価のつけようもないが、箒へ強い対抗意識を向けている鈴からすれば常に対等な条件で勝利したいと願っている。

 

唯一あの時と同じ条件があるとすれば。

失敗が許されないプレッシャーの中で一打を放たねばならないという事。

追い詰められた自分こそ最大のパフォーマンスを発揮する、そう思い込む鈴は集中の精度を増し、ゾーンへと潜り込む。

 

最早今の鈴には何も聞こえない。

ただやるべきことを、放つべき一撃を放つ、それだけの事。

全身の筋肉の収縮を意識し、繰り返し身体に叩き込んできた動きを再現するだけ。

 

肺の中の空気を入れ替えた鈴は、やがて意を決したように爪先から拳の先まで流れる様な体重移動を行い、全威力を拳へと向ける―――。

 

≪ケヒャアーーーー!!バカメエエエエエエエエッッ!!!≫

 

刹那、急速に再生されたアラクネ・ケントリアの首が奇声をあげ、千切れ墜ちた筈の両腕が急速に再生して道老龍を圧し潰さんと交差され―――。

 

鈴の拳が、乾坤圏が、オータムに傷一つつけずコアを破壊すると共に。

投げ放たれたイチイバルと両手での袈裟斬りを仕掛けたリベリオンのダインスレイフによって、アラクネ・ケントリアの首と両腕は道老龍へ届く事なく、斬り落とされていったのである。

 

≪ギ、ガ、バカ、ナ、バカナアアアアァァァ・・・・・・≫

「てめぇのやる事くれぇお見通しなんだよ、ターコ」

拳法の基礎である礼を以て締める鈴の背後にて戻ってきたイチイバルを受け止めたボゥイは、PICとバリアを失って落下していくアラクネの胸部を一刀にて切り裂いて、中から無理くり瀕死のオータムを引きずり出して鈴に預け、斬り落とした首と両腕を空いた部分へと突っ込んだ。

「んじゃ、後始末の時間さね」

「りょーかい、任せたわ」

「あいよ」

今度はオータムを乱暴に肩に担いだ鈴が敬礼し、ボゥイがアラクネ・ケントリアの残骸の真下へと移動する。

コアを失い、依り代たるオータムを回収し、粒子反射装甲が機能しなくなったとしても油断は禁物だ。

残ったボディが自爆しないとも限らない。

だからボゥイは、リベリオンの最終兵器たる武装のロックを解除させ、その狙いをアラクネ・ケントリアへと向ける―――。

 

胸部中心に存在する装甲が二つに割れ、両側へとスライドすると、その中から大きなISクリスタルが顔を覗かせる。

ツインコアの出力を最大までチャージし、アマデウスのバスター・ランチャーに匹敵しかねない威力のフェルミ粒子波動砲を放つ、必殺兵器。

コア二つ分のリソースを武装の数と活動可能時間に割いているフェニックス・リヴァイヴに対し、リベリオンは粒子蓄積量とダインスレイフの搭載量に大きく振り分けている。

碧翠の光が収集していき、計測が難しい程の熱量が蓄積されていく。

そして、強大なリソースを余すことなく攻撃力へと転化した粒子の奔流が、今、放たれる―――!

 

「フェルミオン―――ブラスタァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 

火山噴火のごとき爆発的な威力が具現化され、その軌道にあるものを何もかも焼き尽くしながら突き進む光の波動。

天空から衝き上げていく爆発的な流動はアラクネ・ケントリアを巻き込んで分子崩壊させ、オゾン層を突き抜けて宇宙を奔り、やがて月の表面へと落下して霧散されていく。

 

「ひゅうっ、やるぅ」

規格外の威力に口笛を吹く鈴。

「すごい・・・!あんな途方もないのに、なんて綺麗・・・!」

月をエメラルドに染めたフェルミオンブラスターの粒子の美しさに目を奪われるシャルロット。

 

そして、それを観測していた束すらも、思わず息を呑んでいた。

「こんな力があるなんて・・・!やっぱり、ごーちゃんは天才だね・・・!」

 

「ミッションコンプリート、ってな!」

そして、粒子の放出を終えたリベリオンは、親指を立ててくる鈴にサムスアップを返し、仮面の下でいつもの楽し気な笑顔を浮かべるのだった。

 

========================

 

無手で立ち尽くしているかのようなジョーカー――架神 忍という男を目の前にして、著しくプライドを傷つけられたMという幼い少女は怒りと共にバックパックに搭載されていたシールドビット全機を目の前の黒いISへと差し向けた。

「もはや貴様が何者かは問わん。ズタズタに引き裂いて達磨にしてやろう」

「てめえ、人を殺した事は?」

オールレンジ攻撃の準備を整えて殺気を漲らせるMに対し、忍は静かに問いかける。

それがまたMの神経を逆撫でしていく。

「これから死ぬ貴様に関係あるか!!」

 

逃げ場を奪うように放出されるビームの乱れ打ち。

光の速さで伸びる熱線の群れ。

それら全てを、一歩進んで少し屈んだだけで回避するジョーカー。

狙いは完璧だったと自負していたMの表情から怒りも笑みも消え去る。

 

「な、に?」

「射角の計算が甘え」

「・・・!奇跡が二度続くと思うな!」

再度、素早くビットを配置し、避ける暇も回避する隙も与えない様時間差をつけて発射。

加えて手にしたレーザーライフル、スターブレイカーで狙撃を行う・・・も。

ステップを踏むかのように軽々とかわしていくジョーカーの姿は、離れた位置で観察している簪にはまるで赤子をあしらっているかのように見えた。

「くっ・・・!こ、こんな、こんな・・・!」

「おい、奇跡は二度続かねえんだろう。おれは後何回実力を示せばいい?」

ムキになってスターブレイカーの実弾も交え、続けてガトリングの掃射も行うも、必要最小限の動きのみで躱し続けるジョーカーに次第に焦り始めていく。

 

有り得ない。夢でも見ているのか。それとも、幻覚を見せる単一仕様能力でもあるのか。

 

ジョーカーは何一つ攻撃を行っておらず、付け加えるとバーニアも吹かしていなければPICも使用していない。

ただいたずらに、Mの攻撃が公園内を傷つけていくだけ。

相性が悪かったとはいえ箒すら圧倒した程の相手が、まるで脅威ではないのではと勘違いしそうなほどに、忍の身体能力と計算力、何よりも目の良さが桁違いなのだ。

「くそっ・・・!くそっ、くそっ!」

引き金を引き続けるMが知らず知らず大量の汗を流していると、ついにビットのエネルギーが切れてビームの放出が出来なくなる。

こんなに早くエネルギーを切らした事も、そもそもエネルギー切れまでに敵を仕留められない事など無かった。

わなわなと手を震わせてビットを格納するMには、目の前がぐにゃりと歪んで見えた。

「う、嘘だ・・・こんな筈は・・・!」

対して退屈そうに肩を落としながら溜息をついたジョーカーは、ぐりっと見下すように顔をもたげてMへ問う。

「茶番は終わりか、クソガキ」

「~~~~~~っっ!!」

 

忍のメンタルは、彼が吸う煙草の銘柄と同じくクールであった。

確かにビットによるオールレンジ攻撃は脅威的であり、ツボに嵌れば脱出不可能の広域制圧兵装となり得る。

だがしかし、ビットがどこへ動き、どのような癖をもっていつ攻撃を仕掛けるかを読み取ることが出来れば。

そこまでの先読みが出来ずとも、その場その場で少し頭を使って身体を動かせば。

回避出来ない事は無く、また、ビット兵器が長時間の運用が出来ないという欠点すら突くことが出来る。

まして、忍は地面に立つことで下からの砲撃を封じている状態なのだ。

360度からの攻撃ならまだしも、180度からの攻撃なら十二分に対処出来る。

こういったクレバーさはIS学園の生徒の誰も持ち合わせておらず、加えて束が切り札として用意する程の人材であると認めざるを得ない説得力を忍は示していた。

 

「なら・・・これでどうだっ!!」

エネルギーの充填もそこそこに、再びビットをジョーカーへ差し向けるM。

当たらないと分かっている筈なのに何をしようというのか、簪が眉をひそめて見守っていると忍は静かにかぶりを振り、

「・・・飽きたぜ」

呟くと同時にジョーカーの両肩部と頭部ビートルホーンから凄まじい電流が迸り、シールドビットの耐電能力を軽く超えた電圧を周囲へと撒き散らした。

取り囲もうとしたビットは一瞬の煌めきのうちに内部回路をショートさせ、次々に砂利の上へと落下していく。

 

ジョーカーの単一仕様能力、それは【高圧電流放出】。

単体で原子力発電所に匹敵する発電速度・量を溜め込み、自在に放射する事が可能な力。

落雷に匹敵する威力の放電をコンスタントに放つ事が可能なため、並大抵のISでは防ぎきれない攻撃力・防御力を同時に有する圧倒的な機体なのである。

 

もはやMには言葉も無かった。

忍は―――ジョーカーは、最初からこうやってビットを処理する事が出来たのだ。

だのにビットのオールレンジ攻撃に付き合ったのは、Mの射撃能力を量るため。

二度目を電撃で処理したのは、シールドビットの自爆機能をMの言動から見抜いたからに他ならない。

彼に言わせれば戦いにおける態度が幼過ぎると貶すのだろう、通用しなかった攻撃を性懲りもなく、充電も済んでいないのに再度行ってくるなど、何か仕掛けるけど油断してくださいと馬鹿正直に言ってきているようなものである。

 

また、単一仕様能力の発露以外何も手を出さずにMを追い詰めたジョーカーに、簪の憧れは増していくばかりだ。

 

圧倒的。

悪をもって悪を制すような物言い、冷静な判断、隙の無い身のこなし。

柄の悪い姿でありながら知的、自分の心の闇すら消し飛ばす雷光。

確信に近い程に彼を自分の求めていたヒーローそのものと定めた簪の心は、もはや名も知らぬ忍の虜となっていた。

 

がしゃん、がしゃんと足音を立てて近づいてくるジョーカー。

後ずさるM。

射撃主体のISを纏う彼女には、もう接近戦用のナイフしか太刀打ち出来る武装が残っていない。

苦し紛れにスターブレイカーを投げ捨て、ナイフを抜き放ったMは弱気になる自分へ発破をかけるように自信ありげな言葉を口にする。

「・・・何を勘違いしているのかは知らんが、吾の本領は接近戦にこそある。射撃を避けるのが上手いようだが、これ以上は―――」

「言え。人を殺した事はあるか」

「っ・・・!き、貴様を殺して、その証を手に入れてやろうというのだ!」

「殺した経験は無し、か」

スラスターを吹かし、撹乱するように高速でジョーカーの周囲を飛び回るM。

きっと奴はスピードに自信が無い。だから最小限の動きで回避を続けていたのだ、そうに違いない。

希望的観測により自身を奮い立たせながら、Mは振動により桃色に発色するヒートナイフを掲げて、ジョーカーの背中から飛び掛かっていく。

 

「もらった・・・!」

 

一切の慈悲も無く、鋭利な先端が突き刺さる。

――するりと振り返って躱したジョーカーの膝のニードルが、MのISの胸部装甲へと。

 

「おぐっ・・・!」

「見え見えなんだよ・・・歯を食いしばれ」

神速の膝打ちにナイフを取り落として地面に立ち、身じろぎするMへと、ボクシングでいうピーカーブースタイルで構えたジョーカーは情け容赦なく身軽なステップを踏み、両拳からのラッシュで小さな全身を打ち付けていく―――。

 

顔面を、喉を、頭を、頬を、鎖骨を、腹を、肩を、腕を、腰骨を、脇腹を、胸を、肋骨を。

幾度も、幾度も。

全身の筋力を振り絞って放たれる連打は既に簪の目にも追う事が出来ない速度で。

無酸素運動である筈のコンビネーションラッシュブローが果てしなく終わりを知らず。

 

バリア越しとはいえ数々の急所を痛烈に打たれ続け、防御する暇も与えられなかったMの意識は今にも飛びそうで、ヘルメット型のバイザーは壊れ落ちて顔中を腫らせながら虚ろとなっていった。

「あ、うぅ・・・」

「寝てんじゃねえ、止めいくぞ」

膝から崩れそうなMを無理に立たせ、息を切らすことなくジョーカーは左腕の液体金属サーバーから螺旋状の剣を拳の上へと精製していく。

 

篠ノ之 束特製、エレメントオリハルコンドリル。

【挿絵表示】

 

 

これで貫けない装甲は無いと束が豪語する通り、分厚い金属もバリアも力づくでこじ開ける、ジョーカー唯一の武装である。

耳障りな回転を行う螺旋剣が無慈悲に振るわれ、MのISの両腕部、両脚部が瞬く間に砕かれていく。

 

同時にバリアエネルギーを失ってISを解除させてしまうM。

見下ろすように立つジョーカーは、彼女の目に死神の様に映っただろう。

 

「ひっ・・・!」

縦笛の高音のような声をあげ、尻もちをついたまま後ずさるMの表情には、執事風の男や箒達と対峙していた時の高圧的で残虐な雰囲気が見る影もなく。

今度は簪ではなく、Mが歯を何度も打ち付けて失禁を我慢する番であった。

 

勝負あったとばかりにISを解除した忍は、悠長に煙草に火をつけながら怯えるMへと歩み寄る。

「く、来るな、来るなっ・・・!」

恐怖に支配された心で首を振りながら接近を拒むも、忍は目を細めて首を捻る。

「てめえよ・・・そこのガキ共を脅しかけてた時、何て言った?」

「な、何を・・・!」

自分達の存在に気付いてくれていたと簪が呑気な喜びに浸る間にも、Mは必死に自分の言動を思い返す。

 

もっと抵抗しなければ面白くない。

友人の頭が蒸発していく様をじっくり堪能出来る。

じわじわと迫る死の恐怖を愉しんで、苦しんでから死ぬがいい。

 

「あ・・・!」

さぁっと顔を青ざめさせるM。

自業自得これに極まれり。

追い詰めていた自分が、今度は追い詰められる立場に立たされている。

その事実に頭の中を白く染めるMへと、クールの煙を吹き出しながら忍は言う。

「さんざん怯える人間を煽ってただろうが。楽しかったか?答えてみろ」

「そ、それは・・・!」

楽しかった、などと言えるはずもない。

そんな事、自分で自分の頭に向けて拳銃を撃つようなものではないか。

 

「おれは全然楽しくねえよ」

 

やがて荒く呼吸をしながら後ずさりを続けたMの背中が木にぶつかり、退路を失う。

迫る忍の姿は鬼胎の化身か、悪魔そのもの。

もし彼が簪達の恨みを晴らそうというのなら、もはやMは殺されたも同然の状況だ。

ゼロ距離まで近づいた忍が足をMの背後の幹へと蹴りつけ、壁ドンならぬ壁シュートの体勢となった時点で、Mはこらえきれずに無意識に小水を漏らしていた。

見下す忍が咥えた煙草の先端から灰が落ちて、Mの股間から溢れる排泄物で消火されジュッという音を立てる。

 

「答えろ、クソガキ。人を傷つける事はそんなに楽しいか。人を殺す事はそんなに誇れる事か。おれには、何一つ理解ができねえんだよ」

 

「だ、だって、吾、わたし、は・・・!」

 

ぼろぼろと涙を零し、これまでの自分を思い返し、Mは声を震わせた。

だって、強さを証明する事が自分の産まれた意味だから。

少しでも【ねえさま】が誇れるように強さを誇示しなければ、意味が無いと思ったから。

こんなに強い自分ではなく、織斑 一夏が【ねえさま】の傍にいるなんて、許せなかったから。

そしていつか【ねえさま】すら殺せれば、自分がたったひとりの【織斑】になれると聞かされてきたから。

 

そのためにやってきたことなのに。

自分が他の人間に、こんな気持ちを味あわせていたなんて、知らなかったから。

初めて理解した、怖いという感情。

組織では教わる事が出来なかった、死への恐怖。

それがこんなに恐ろしいものだなんて、知ろうともしなかった。

 

「や、だ。やだぁ・・・!しにたくない。しにたくないよぉ・・・!」

 

力なく項垂れて縮こまり、こぼれ出る涙を拭いながら嗚咽をあげるMを見て、忍は幹から足を離した。

そして煙草の火を携帯灰皿で揉み消し、小水にまみれた地面に構うことなく膝をつけると、Mの小さな身体をそっと抱き寄せて頭を撫でた。

 

「それでいい」

 

ぶっきらぼうに、されど撫でる手は優しく慈しむように。

忍はMと呼ばれた少女へ諭すように教えていく。

 

「てめえがしてきた事は許される事じゃねえ。それでも怖いと感じられるうちはまだ取り返しがつく。その恐怖を忘れんな。痛みを心に刻み込め。いつか謝る事を覚えられたら、てめえの人生はようやく始まるんだ」

 

Mは何も答えない。

それでいいと忍は思う。

別に好かれようと思っているわけではない、他者を傷つける事の痛みを知ってくれれば、今はそれでいい。

焦る事は無い、少しずつ覚えていけばいいのだ。

彼女の様な人ならざる扱いを受けてきた者たちの救済、それが束と忍の利害の一致なのだから。

 

「ふん・・・」

遠くではまだゴーレムが活動している気配がする。

泣きじゃくるMから待機状態のISであるイヤリングを取り上げて抱き上げた忍は、ゆっくりと簪の元へと近づいて、膝枕された箒の傍へ丁寧に降ろした。

 

縋るような視線を向ける簪と視線を合わせた忍は、

「このガキを見ててくれ。おそらくもう危険はねえハズだ」

「は、はい・・・あのっ」

「んだよ」

だるそうに簪へMを任せた忍が、かちこちに緊張した簪から声をかけられてぶっきらぼうに応じる。

「そ、その、わ、私、更識 簪と申します。お、お名前を、教えてくれませんか・・・?」

「架神 忍だ」

「かがみ・・・しのぶさん・・・!」

嬉しそうに反芻する簪。

 

あれほどの強さと優しさを見せつけた彼が悪人である可能性など微塵も疑っていないといった風のキラキラした瞳に少したじろぐ忍は、舌打ちすると立ち上がって再びジョーカーを身に纏う。

「ゴミ掃除したら戻ってくる。それまではそのガキの監視以外好きにしてろ」

「はいっ・・・!お待ちしてます、しのぶさん!」

「・・・何なんだ、やりにくい」

口と態度の悪さから尊敬の眼差しを向けられる事に慣れていない忍は、マスクの下で苦虫を噛み潰したような顔をしながらバーニアをふかして飛び去った。

 

残ったゴーレムの処理も、ジョーカーの性能をもってすればそこまで難しい話ではなく、すぐに綾たちも到着するだろう。

Mという強大な相手を無力化した事により事態は収束に向かい、そして簪の胸には仄かな明かりが灯る。

 

「しのぶさん・・・しのぶさん」

泣き続けるMを抱き寄せながら、忍の名前を口にし続ける簪。

ふと、横たわった本音の顔を覗き見ながら、簪は嬉しそうに笑って呟いた。

 

「本音の言った通りだね。見つけたよ、私のヒーロー」

 




うわぁ(ドン引き)。
年端もいかない少女をボコにするとかノブちゃん・・・うわぁ・・・。

何度も言うけど、こんな奴でいいのか簪ちゃん。

そして炸裂したボゥイ君のボルテッげふんげふん。フェルミオンブラスターね。
シャルロットと鈴との三人で、わりと良いトリオが仕上がりました。
・・・ただまぁ、今後シャル子の胃痛ハンパねぇだろうなぁ。
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