インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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I Was Bone To Love You

なにも、架神 忍は篠ノ之 束の浮遊要塞にて行動を共にしていたわけではない。

彼は地上で完全に別行動を取っており、全国的な情報収集や非合法組織やテロリストへの襲撃を行い、その情報を共有したり取得したISやコアを送ったりとサポートを行っている間柄、つまりは協力者である。

束とどのように知り合ったのかという経緯はまだ明らかになっていないものの、生身でISにある程度立ち向かえる身体能力を有しているあたり、まともな人間ではない事は確かだ。

そういう意味では遺伝子改良にて誕生した千冬や、肉体そのものがISであるボゥイと同族。

 

そんな彼が、遺伝子改良にて誕生したマドカを放っておけなかったのも、そのあたりに理由があるのかもしれない。

 

あの日、簪達と別れた後芝公園から離れ、竹芝桟橋近くの海沿いまでやってきた忍は、手を引かれてきたマドカに向き直ると左手だけをIS化させた。

部分展開と呼ばれるISの顕現方法で、PICの恩恵を大きく受けられない事から戦闘には向かず、ISの能力の一端のみを使用したい場合に使われる技法である。

「少し痺れるが我慢しろ」

「っ・・・!」

悪魔のような姿と圧倒的な力によって、手も足も出せずに屈服させられた事をフラッシュバックさせ、大きく震えながら怯えるマドカであったが、忍は返事を聞く事も無く彼女の足に自分の足を接触させ、軽い電流をマドカの頭から流し込んだ。

高圧電撃の放電と大容量の充電が忍の扱うジョーカーという全身装甲ISの単一仕様能力。

それによって生じさせた電流はマドカの全身を駆け巡ると、アースとして接触した忍の足から彼のコアへと還っていく。

ほんの少し痺れた感覚はあったがマドカには外傷はなく、むしろ自分を縛り付けていた何かが消えたような感覚すら覚える。

 

「身体の表面にいたナノマシンを殺した。これでてめえを操っていた組織から監視される事はもうねえ」

左腕のISを解除しつつ、ぶっきらぼうに説明する忍。

マドカは亡国機業という組織にて監視および管理されていた、織斑計画にて製造された千冬のクローンに近い存在である。

高い戦闘能力を持った兵士として調整されたマドカは、自分自身の意志を持てず、組織に言われるがまま破壊活動を行う事こそがすべてだと考えていた。

残虐である事が正しいと教え込まれ、汚れ仕事に従事していた彼女は、やがて千冬や一夏を害する事で自分自身を確立出来ると何者かに誘導され、亡国機業からの解放とそれによる織斑姉弟殺害を企てるようになった。

だから忍によって亡国機業とのつながりを断ち切られた事は彼女にとって嬉しい誤算の筈だった。

そう、つい先ほどまでは。

「・・・・・・・・・」

自分がやってきた事、自分がしようとしていた事が、他者へどれほどの苦しみと恐怖を味合わせる事になるのか。

それを思い知ったマドカには、監視用ナノマシンを破壊され、ようやく自由の身となった事を素直に喜ぶ事が出来なかった。

 

「これからどうしたい?」

忍の問いに答えられる程の知識や、想いをマドカは持ち合わせてはいない。

ただ、人を傷つける事がどういう事なのか、それは理解した。

簪が教えてくれたのだ。

 

========================

 

忍がゴーレムの駆逐に向かっている間・・・数十分の出来事。

 

震えるマドカを抱きしめていた簪は、自分の膝に頭を乗せて眠る箒と、木の根を枕にしている本音を順に見て、沈痛な面持ちとなっていた。

自分に力が無かったから、自分を庇って二人は傷ついて倒れたのだ。

それが簪には辛かったし、何も出来なかった自分が嫌だった。

ようやく姉とは違う、更識家とも袂を分かった自分の未来を考え始める事が出来ていたのに。

未だ自分は無力という枷からは逃れられていないのだと、簪は思い知った。

そんな彼女の様子に気付いたのか、マドカは視線を箒や本音へと向けて、恃むように簪へ問う。

「このひとたち、は、どうなる、の?」

「どうなる・・・?」

(わたし)が、攻撃して、怖い思いして、倒れて、死ぬ、の?」

 

マドカは死や追い詰められる事の恐怖を知った。

これまでは漠然と、弱い者が至る末路としか考えていなかった死という概念。

直接手を下した事がなくとも、自分のせいで死んだ人間もいたかもしれない―――否、確実にいた筈である。

そう考えると、自分は一体何人の人間にあんな思いをさせてきたのだろう。

どうしてそれがこんなに怖いと知らなかったのだろう。

もしかしたら、正しいと信じてやってきた事は間違っていたのかもしれない。

だってこんなに自分の手は、これ以上人を傷つける事が恐ろしくて仕方ないのだから。

 

罪を識り、罰を享けたマドカは自らの行為に怯えているのだろう。

消え去ってしまいそうな程に頼りない小さな身体を蒼白にするマドカ。

簪は、そんなマドカの様子にはっと気付く。

彼女もまた、被害者なのだと。

本音や箒を傷つけたマドカに思う所が無いわけではない。

けれど目の前で、自分の腕の中でそれを悔いる彼女へ怒りや悲しみを向ける事は、きっと違うのだろう。

既に彼女は、忍によって裁かれている。

今は行き場を失って混乱し、孤独に怯えている幼い少女なのだ。

ならば、簪がすべき事は罵倒を浴びせる事でも叱りつける事でもない。

家族や、両親という概念すら無いマドカへ、一人の人間として接してあげる事だ。

 

抱き締めた手の片方をマドカの頭へやってやわらかく撫でる簪に、凍てついていたマドカの心がとくんと心臓の音と共に温かさを帯びていく。

忍から受けた厳しさ、それによって生まれた罪悪感、後悔。

それが正しいものの感じ方だと諭し、許すような優しさ。愛情。

これから先、マドカの人生に必要となる想いを、簪は可能な限りの愛情をもって伝えようとした。

愕いたような瞳を向けてくるマドカを慈愛と共に見つめ返す簪は、自身もまた、大きな愛情に包まれた経験はないものの必死に言葉を探しながらも語る。

「あなた、名前は?」

「・・・マドカ。織斑 マドカ」

「織斑・・・?」

(わたし)は、織斑 千冬の、バックアップとして生まれたから。(わたし)は千冬ねえさまのいもうとになるために、織斑 一夏を殺すためにやってきたのに、なのに」

担任教師であり世界的なISマイスターである千冬や、その弟でクラスメイトであり友人でもある一夏を殺すと想定外な言葉を紡ぐマドカに驚きを隠せない簪であったが、それすら自分の中で間違った考えではないかと悩むマドカを目にし、後回しとして首を振る。

「・・・もう、そんな事をする必要はないの。あなたはもう、誰も傷つけなくてもいいの。きっとこの人たち―――本音も、篠ノ之さんも、死んだりはしない」

「・・・ほんとう?」

「うん、ほんとう。マドカちゃん、あなたはあなたなの。誰かのいもうとにならなくてもいいし、織斑くんを殺さなくてもあなたはもうマドカちゃんなんだよ。だって、私がマドカちゃんを知っている。誰かを傷つける事を怖がる、普通の女の子だって分かってる。だから、ね?もう誰も傷つけないって、約束できる?」

小指を差し出した簪を不思議そうに見つめるマドカは指切りを知らない。

そうか、と理解した簪はマドカの小指と自分の小指を絡ませて、その尊い行為に呆けるマドカへ微笑んだ。

「これは指切り。たいせつな人と約束をする時にするの」

「たいせつ・・・やくそく・・・」

「そう。私は更識 簪っていうの。私はマドカちゃんの友達で、友達っていうのは、マドカちゃんを大切と思ってる人の事だよ」

陰キャを自称する自分としては、上手く伝えられているか自信が無い簪の言葉たち。

けれど不器用なりにストレートな言葉が功を奏したのか、マドカは先程までの凍える様な気持ちが流した冷たい涙ではなく、心が穏やかな、安心できる気持ちに包まれながら熱い涙を零していく。

「かんざし・・・ともだち?」

「そうだよ」

「たいせつ・・・う、ぐすっ・・・!」

鼻をすすりながら、マドカは簪へとしがみついた。

受け容れる様に抱き返す簪。

初めて誰かに大切と思われた喜びに、形容しがたい気持ちでいっぱいになるマドカは、誰かに心を許すという事がこんなにも安心できるという事を知った。

この約束は、ずっと破りたくないと。

絡めた指を離すことなく、マドカはそう思った。

 

「・・・むむ。これでは怒るに怒れんではないか・・・」

一部始終を見ていた箒は寝たふりを続けながら、複雑な思いを口の中で呟いた。

 

========================

 

簪との約束。

もう誰も傷つけたくないという気持ち。

それらを考えると、もう亡国機業へ戻る気持ちも無ければISに乗りたいとも思わない。

おそるおそる自分の意志を伝えたマドカに、忍はどこか安心したような吐息を一つ。

「てめえの考えはわかった。なら後はどう生きていくかだ。誰も傷つけずに明日を生きるってのは色々と難しいが・・・ま、それはおいおいで良い。とりあえず束に連絡だな」

忍はぐしぐしとマドカの頭を撫でやると、白衣のポケットから専用の通信機を取り出し、登録されている暗号を入力すると通話ボタンを押下した。

2コールで応答が返ってくる。

『はい、お待ちしておりました、忍様。束様へ取り次ぎますので少々お待ちください』

「ああ。手早くな、クロエ」

束の身の回りの世話をする少女、クロエ・クロニクルが受話した様子で、主人たる束を呼び出すために保留音を鳴らす。

しばし待つと、期待していた束の声ではなく再びクロエの声が忍の耳へと届いた。

『申し訳ございません、忍様。ただいま束様は手が離せないとの事で、押収した未所属のISはいつもの手筈で送って欲しいとの事です』

「あ?どういう事だ?このガキはどうする?」

『詳しくはメールを送ったとの事ですのでそちらをご覧ください』

耳に指を入れてかき回しながら唾を吐く忍。

仕事の完了報告をこうして蔑ろにされるのは初めてではないが、苛立たしい事に変わりはない。

「相変わらず勝手な女だぜ・・・てめえも苦労するだろう」

『いいえ、拙は束様のために存在しておりますので』

「・・・苦労してんのは束も同じか」

『?どのような意味でしょう・・・?』

「どうでもいい話だ。一応了解したと伝えとけ」

『はい。それでは』

腹正しい思いを伝達係のクロエにぶつけても仕方がない。

眉間に皺を寄せながら終話ボタンを押し込んだ忍は、続けて機器のメールアプリを起動して束からのメッセージを開き、10秒で暗記した後に削除した。

それは機密事項隠匿の意味もあったのだが、怒りの比率の方が大きかったから。

束から送られた文章はこうだ。

 

★☆・‥…―━━━―…‥・・‥…―━―…‥・・‥…―━━━―…‥・☆★

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★☆・‥…―━━━―…‥・・‥…―━―…‥・・‥…―━━━―…‥・☆★

 

ノブちゃんへ☆

 

これを読んでいる頃には箒ちゃんを守っちゃえ作戦は完了したのかな?

きっとノブちゃんの事だから危なげなくミッションコンプリートしてるって束さん信じてるヨ☆

 

ところで、たぶん亡国機業からちーちゃんの妹あたりが差し向けられたと思うんだけど、ノブちゃんはその娘、保護したよね?したんだよね?ていうか確信?

 

なので束さんから新しいお仕事を依頼しちゃいます!

 

その娘、亡国機業のデータベースにハッキングしていろいろ情報収集して【マドカ】って名前が判明したので、ノブちゃんの個人情報をサクサクっと操作してノブちゃんの娘として登録しておきました!

 

やったねマドぴー、家族ができるよ!

 

表向きは紛争地帯で親を亡くした被災者を引き取った事にしてるから口裏合わせヨロシクね☆

 

それで依頼のお仕事の内容だけど、ノブちゃんはそのままIS学園に保険教師として編入手続きしといたので9月1日から勤務お願いね~☆

 

IS学園のお仕事と護衛、娘の世話までしなくちゃならないなんてノブちゃん大変!

でも束さん信じてるよ、ノブちゃんならきっとやり遂げる!ネバギブ!

 

あ、あとあと、送られたISはマドぴーのために改造して送り返すから、どう使わせるかはマドぴーの意志を尊重してあげてね!

それじゃヨロシク!

 

かしこ

 

★☆・‥…―━━━―…‥・・‥…―━―…‥・・‥…―━━━―…‥・☆★

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★☆・‥…―━━━―…‥・・‥…―━―…‥・・‥…―━━━―…‥・☆★

 

「クソが!!」

喫煙可能区域ではないにも関わらず、コンクリートの地面に足を踏みつけながら煙草に火をつける忍。

一瞬のうちに頂点まで達したストレスゆえ吸わねばやってられないのだ。

この様子では電話をかけ直してもクロエに迷惑がかかるだけだろう、口が悪くてもそのあたりの分別がついた大人である忍は、居づらそうにもじもじとしているマドカを放っているのを悪いと思いながらもじっくりとクールを吸いこみ、強烈なメンソールで頭を冷やす。ややあって吸殻を携帯灰皿へ放り、困ったような視線を向けてくる娘へと仕方なさげに視線を移し、

「・・・とりあえず着替えか。それと、晩飯は何が食いたい?」

「え、その、わかんない・・・」

「ふん・・・ガキだったらオムライスあたりが丁度いいか。行くぞ、今日からおれがてめえを世話する事になった」

素っ気なくマドカの手を取ると歩き出す忍。

 

戸惑いながらついていくマドカは、恐怖の象徴であった彼の中にも簪に似た愛情があるように思え、煙草の臭いが染みついた掌を握り返しながら問う。

「・・・あなた、は」

「忍でいい。ガキが遠慮なんてするんじゃねえ」

「しのぶ・・・は、(わたし)が、たいせつなの?ともだち・・・なの?」

「誰に教わったんだか・・・」

言いながらも、自分の知らない間にマドカへ何かを教えられた人物など簪しか該当しないと分かっている忍である。

面と向かって大切と伝えるのは照れくさいが、それでも純真無垢な子供に対して自分を偽る事が将来的な相互不理解に繋がると知っている忍は、だからといって愛嬌を振りまく様な事はせず正直に答える。

「大切だ、マドカ。おれはてめえが間違った事をしたなら叱るし、上出来だと思える事をしたなら褒めてやる、そういう立場だ。てめえの事を第一に考えるし、そうできなかった時は謝って、てめえが謝るのなら許してやる、そんな奴だ」

「それが・・・ともだち?」

「あの更識 簪の事なら友達でいい。おれはてめえの友達じゃねえ、家族だ」

「家族・・・」

「てめえは今日から架神 マドカと名乗れ。おれは架神 忍。てめえの父親・・・親父だ」

「おやじ・・・?お、とう、さん・・・?」

有料駐車場に停めてあった車の助手席にマドカを乗せ、自動計算器に金額を入れてロックを解除して戻ってきた忍は、運転席に乗り込むと父親という響きにむずむずとするマドカのシートベルトを締めてやると、エンジンをスタートさせて言った。

 

「おれに対して思う所もあるだろう。おれを嫌いたきゃそれでいい。だが、おれはてめえが一人前の人間として自立出来るまでてめえを支え続ける、守り続ける。親父ってのはそういうモンだ。てめえも遠慮なくおれを使うといい、何よりも、てめえ自身のためにな」

「・・・(わたし)の、ために・・・」

「親に叱られて、許されるのが子供の特権だ。それをさせねえ奴は親でも人間ですらねえ」

 

分厚い排気音を発しながら道路へと滑りゆくコルベットのギアを右手で操作しながら、忍はサングラスをかけ直す。

まるで、ここにはいない誰かを蔑むかのように。

そして、自分はそんな人間にならないように。

 

「おれに父親にならせてくれ、マドカ。おれに人を愛せると証明させてくれ」

(わたし)は・・・しのぶを、たいせつにして、いいの?」

「ああ。いくらでも受け止めてやる。いくらでも叱ってやる。いくらでも教えてやる。いくらでも褒めて、愛してやる。だから、てめえもおれにたくさんの事を教えてくれ。おれと作っていこう、家族って関係を」

「・・・うん・・・!」

 

シフトレバーを握る忍の手に、マドカの手が重なる。

意外そうな表情をした忍であったが、あれだけの暴力とも言える行為を振るった自分に対して笑顔を作ってくれたマドカの顔を垣間見て、らしくもなく口の端を吊り上げた。

他人を傷つけるべく武器を振るうマドカを殴りつけるのは心が痛かった。

たとえIS越しであろうと気分の良いものではないし、そうする事でしか彼女を止められなかった自分に憤ってもいた。

 

だけど、こういう事なのだろう。

これで良いのだろう。

こうやって許し合う事が出来るのが・・・家族ってやつなのだろう。

 

いつか、自分が誤った選択をした時にはきっとマドカが殴ってくれるだろう。

そして許し合う事を目指していく。

本来、親子という関係はそういうものなのだ。

 

自分の宿命からも、訪れる障害からも、確実にお互いを守り抜く。

不愛想で口も悪くガラも悪い、されど熱い気持ちを内面に秘めた天才医師・架神 忍。

サディスティックな嗜好を失い、大人しくもコミュニケーションを不得手とする、生まれたての心を持った少女・架神 マドカ。

ふたりの家族が紡ぐ未来への物語は、始まったばかりである。

 

そんな彼らを祝福するかのように、束からマドカのISと洋服一式が送られてきたのは、IS学園二学期が始まる二日前の事であった。

 

========================

 

忍たちが職員室で必要な手続きをしている間、1年A組の教室内は1限目の授業をロングホームルームとし、転校扱いでやってきたボゥイの紹介から始まっていた。

 

「うっす!産まれは中国、籍はイタリア、歩む組織はフランス・デュノア社!オレがボゥイ・シューマッハだ!趣味はドライブ、特技は料理、歳は忘れた!これからヨロシク!」

短ランに近い改造制服を身に着けたボゥイが教室の壇上から愛想を振りまきながら笑顔を撒き散らす。

懐っこい笑い顔はIS学園エリート集団の中でもA組というエリート中のエリート揃いの女子達の中でも好印象の様子で、どう扱うかでひそひそ話が始まっていた。

「はい質問!どんな女の子がタイプですか~?」

女子の一人がからかうようにそんな質問を投げかけると、ボゥイはうーんと軽く唸り、

 

「そうさねぇ・・・ポニーテールにしたデカいおっぱいのハイレグレースクイーンが好きかねぇ」

「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」

 

途端、しんと静まる教室内。

もう少しオブラートに包めば良いものを、女子だらけの巣窟でよくそんな戯言を言ってのけるものだと頭を抱える千冬である。

ドン引きして蔑視する女子たちのリアクションを気にすることも無く楽し気に笑っているボゥイ。

すると、がたんと席を立つ男が一人。

眼鏡の弦を中指で直しながら長い足でつかつかと歩いてくるのは綾。

彼は壇上へ登ると、ボゥイと睨み合って一触即発かと思われるような間を置いた後、

「わかります」

「だろぉ!?」

ピシガシグッグとボゥイと握手を交わした綾は、他に何かするわけでもなくそそくさと自席へと戻っていった。

これが後の歴史に刻まれる友情の誓い、巨乳同盟締結の瞬間であった。

「最低」

「最低」

「さいってー」

「リョウってそんな趣味だったんだ・・・」

一夏、箒、鈴、シャルロットからもそんな冷めた反応をされるも意に介さず、綾は自席へ頬杖をついて鼻歌まで歌っていた。

「何とでも言ってくださいな。好きなものを好きと言えない人生に何の意味がありましょう」

「それにしたってお前、よく自分の彼女の前であんな事言えたよな」

一夏に言われてセシリアの方を見やる綾は、正直なところ彼女からの鉄拳の一発でも飛んでくるかと覚悟していたのだが。

視線の先ではセシリアがちょっと頬を赤く染めて両指先をつんつんとしながら、

「・・・そう、そうなのね。リョウってそういう格好が好みですのね。ふぅん・・・」

と、なんだか照れた乙女の瞳で唇を尖らせていた。

 

「・・・・・・・・・その、セラ」

「なぁに、リョウ?」

「・・・・・・・・・き、期待してて、いいんです?」

「な、なな、何を期待されているのかしら?さっぱりわかりませんわ?おほほ」

 

少し、どころか滅茶苦茶嬉しそうな綾の問いにわざとらしい笑いを返すセシリアである。今日日おほほって。

そんなやり取りに彼女としての器の大きさを再確認してベトンと机に突っ伏すシャルロット。

このあたりが明暗を分けたのではと考えてしまう程度にはまだ引きずっているのである。

 

「あれか。やはり男というのは丸出しになった女の脚が好きなのか。一夏、わたしも着てやろうか、バニーガールの格好なら確かクラリッサが持っていた」

「ちょっと待てラウラ。ツッコミが追い付かないからボケるなら一個ずつボケてくれ」

「わたしは真面目だが?」

「なおさらタチが悪い!」

語彙力の死んだ例えにも唐突なバニーガールの提案にもそれを所有しているドイツ軍人にも言いたい事は山ほどある一夏であるが、真顔のラウラに振り回される彼に危機感を感じた箒と鈴が詰め寄ってくることで事態が悪化する。

「ま、待てラウラ!一夏はポニーテールで胸が大きめな女性が好みと言っているのだ!ならばここは私の出番ではなかろうか、ちょっと二人になれるところへ行こう一夏!」

「いきなりはっちゃけてんじゃないわよ乳モップ!アンタはそのデカいおっぱいにコンプレックス持って引っ込んでなさい!言っとくけど一夏、あたしにそういう格好させたらスゴいわよ?こないだネットニュースにあげられたあたしの写真見た?チャイナドレスのスリットから伸びる脚がセクシーだったでしょ?あれ結構自信あんのよね~!」

「いや急になんなんだ、みんな!?」

困惑する一夏。そもそもポニーテールでデカいおっぱいが好きと言ったのはボゥイである。一夏は何も言ってない。

 

「・・・・・・・・・」

「どしたの、カンザシ?」

「ダーシャ、反応しちゃダメ!簪ちゃんすごい気にしてるから!」

拗ねたような顔をしながら胸の上をさするような動きをする簪。

ミーアが指摘する通り、簪は胸がそんなに育っていない事を気にしているのだ。

姉である楯無や幼馴染である本音があんなに高い戦闘力(胸)をしているのに、自分が下級戦士(胸)なのは納得いかない。

わりと大きめなダーシャには理解しかねるが、同じく控えめなミーアには簪の気持ちがわかるのである。わかってしまうのである。

 

話が段々と逸れてきた事で千冬はボゥイの自己紹介を打ち切り、シャルロットの隣へと座るのを確認すると後の進行を山田先生へと譲る。

困ったような笑顔を浮かべながら山田先生は、二学期の予定として二つの行事を挙げた。

 

「それでは皆さん、ご存じかとは思いますが9月中旬には学園祭が催されます!また、9月後半は専用機限定チームバトルがありますので、参戦する人は今から準備を怠らない様お願いしますね!」

 

学園祭は読んで字のごとく、どこの学校でも執り行われる行事である。

学生主体となって各クラスや部活動にて出店や演目を行い、学校全体を巻き込んでのお祭り騒ぎ。

いわゆる高校三年間におけるビッグイベントの一つだ。

 

専用機限定チームバトルもまたそのままの意味で、専用機持ちのみで3人一組のチームを作り、勝ち星の数を争うIS学園ならではの大きな催し。

学園で学んだ技術や連携、各個体のバランスを図るには丁度良い公開戦闘訓練であり、ここで得られたデータから全国のIS企業は機体の調整や開発を行い、各国のISチームは新たな人材のスカウトに励むというわけだ。

ゆえにトーナメントではなく、総当たり戦。

戦闘のサンプルが多ければ多い程良く、勝ち星をあげる数が多ければ多い程優秀さの証なのである。

 

ともあれイベント盛り沢山の9月、学生たちの間でも活気が湧いてくる時期なのだ。

 

「それではまず、1年A組の学園祭での出し物を決めたいと思います!」

「えっと、誰か提案はあるか?」

クラス委員・・・ではなく、1組クラス代表たる一夏が壇上で挙手を募ると、女子達の一部がにわかにざわめき出して手をあげる。

一夏が一人一人を指名して話を聞くと、出るわ出るわの珍回答。

 

「織×鶴グッズカフェ、鶴×織ホスト喫茶、舞台白雪姫~ヒロインは一夏~、丸一日男子ISマイスターによるフリートークを眺める会(DVD予約受付予定)、ふんどし男子によるお化け屋敷・・・って、やるか馬鹿か何考えてんだっ!!」

 

えーっ、と不満の声があがるA組。

もはや嫌がらせかいじめの類であるのだが、腐った淑女達からすれば凄まじいご褒美だったのである。

「も、もうちょっと可愛いのにしない?ほら、女子多いわけだし・・・」

「否!断じて否ッ!!」

思わずフォローに入るシャルロットの提言にも耳を貸さない腐女子どもは、総立ちとなり拳を掲げて力強く主張を開始する。

「何のための男子!何のためのIS適正!全てそれは、我らの悦びの為にある!!」

「そう!二人の男がこの学園に現れたのが奇跡なら、三人目が訪れたのはもはや必然!」

「歴史は変わる!男と男の交わりによって新たな命が誕生する!その瞬間を我々は見逃してはならないのだッ!!」

「しゃ、シャルルの事を忘れないであげてっ!」

死んだ扱いにして再入学しておいて何であるが、律儀にシャルルが双子の兄だった設定を忘れず貫こうとするシャルロットは立派である。

たぶんもう誰も覚えていないだろう。

「いや、ていうか何で男同士で子供が産まれんのよ。ちゃんと保健体育勉強してんの?」

「鈴ったら知らないの?男にはやおい穴って器官があって、それ使えば子供も産めるのよ」

「そうなの!?」

「信じないで鈴~っ!!」

2組クラス代表たる鈴が呆れたようにカットに入るも、かわされて逆にレッドカードとなる。

ちなみにやおい穴とは「説明しなくていいから!!もっと普通の出し物にしよう!ね!?」

モノローグにまで容赦ないツッコミを入れるシャルロットだった。

 

その後も大した意見など期待できるはずもなく、迷走に迷走を重ねていく1年A組であったが、ぽちぽちとスマホを操作していた3組クラス代表のラウラがまたもクラリッサから入れ知恵をされた様子で、自信ありげに立ち上がって手を挙げた。

「メイド喫茶はどうだ!」

ざわ、とする教室内。

ようやく男同士の絡みネタではなく可愛さに依った意見が出た事に喜ぶシャルロット。

そして納豆のおかずにされそうで目が死んでいた綾や、あまり腐ネタに詳しくないボゥイもその提案には顔を上げる。

「よぉ少年、メイド喫茶ってのはアレだろ?妙齢の女が『燃え萌えギューンッ♪』って指でハートつくるやつだろ?」

「なんだか歪んだ知識ですが大体合ってますよシューマッハ。というか君、僕の呼び方それなんですか?」

ひそひそとする綾とボゥイをよそに、ラウラは腕を組んで声を張り上げる。

「わたしの信頼する副官が言っていた、日本の神髄はメイドにこそあると!この格好での奉仕を極めし者こそが頂点に立つと!つまりISマイスターオブマイスター、最高のIS操者であると言っても過言ではない!」

「そ、そういうものなのか・・・!?」

「その話が真実ならうちのメイドが最強になってしまいますわ!?」

勢いに圧され気味な箒、反射的なツッコミのセシリア。

「メイドかぁ、ちょっといいかも」

「アタシあれ気になってたんだよね!みんな一緒に着れば恥ずかしくないっしょ!」

「メイド道・・・憧れるには近く、辿り着くには遠い・・・」

ノリ気の簪軍団。もちろん最後の老師的意見は4組クラス代表だった簪だ。

 

段々とメイド喫茶を良しとする意見が増えてくると、これ幸いと一夏とシャルロットは手を叩いてこれを支持する。

一夏ヒロインの白雪姫やらふんどし屋敷よりずっとマシだからね。仕方ない。

 

「いいんじゃないか、メイド喫茶で!」

「そうだね!可愛い格好できるもんね!」

「一夏がそう言うのならやはりメイドは最強なのか!ならば私はメイド喫茶に一票だ!」

「しょ、しょ~~~がないわね!あたしは乗り気じゃないけど?一夏が見たいって言うならメイド服着てあげたっていいわ!」

一夏が良いと言えば即肯定するのは箒と鈴だ。

 

こうしてメイド喫茶への票数が過半数を切った時点で募集を切った一夏は、赤丸をつけて胸を張って宣言した。

 

「よし、うちのクラスの出し物はメイド喫茶だ!みんな、気合入れていくぞ!」

「「「「「おーーーーっ!!」」」」」

 

湧き上がる歓声、やる気を出す腐女子達。

どうにかシュールストレミングよりも発酵した空気に陥らず安心する綾は、そんな態度はおくびにも出さず仕方なさそうな雰囲気を出した。

「やれやれ、気乗りはしませんが決まってしまったのなら仕方ない。精々頑張るとしましょうかね」

「喫茶店ねぇ、そいつぁ腕がなるじゃないか!料理はオレに任せとけ!」

腕まくりをするように力こぶをつくってみせるボゥイ。

「何着かはうちから取り寄せ出来るかもしれませんわね、ちょっと実家にかけてみようかしら」

スマホを取り出してメイド服の発注を行うセシリアが、オルコット家のメイドへと色々と相談していくと、ラウラは楽し気に綾へと話しかけた。

 

「楽しみだな、メイド喫茶!」

「ええ、ラウラのメイド姿も期待していますよ」

「うむ、わたしも期待しているぞ!おまえたちのメイド姿をな!」

「「「・・・・・・は?」」」

 

硬直する綾、ボゥイ、壇上から降りてきた一夏。

聞き間違いかと思ったがラウラは豪快に笑いながら続ける。

 

「最高のIS操者を決める催しだぞ?おまえたちも着るに決まっているだろう!」

 

言葉の意味が分からず、というか理解する事を放棄して真っ白に風化していく男子トリオ。

しばし電話でやり取りしていたセシリアは、その会話をスピーカー越しに聞いていた幼馴染のメイドから軽~く快い返答を貰っていた。

 

「・・・XXLサイズのメイド服、3着用意出来るそうですわよ?」

 




不器用親子とバカな男子高校生の温度差で体調崩しそう。
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