インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
学園祭も三日間に及ぶ行事もつつがなく終了し、時は後夜祭。
キャンプファイヤーに照らされながらライトなチークダンスを踊る学生達、そして教師。
「―――こうしていると、初めて会った頃を思い出しますね」
「そうですわね・・・なんだか、夢のようですわ」
優雅なステップで頬を染め合う綾とセシリア。
「だ、大丈夫か箒?」
「う、うむ。なんというか、慣れないものだな」
ぎこちない動きながら互いを気遣い合う一夏と箒。
「・・・もう、まさかジャンケンで負けるなんて。次は勝つわよ、乳モップ」
「おおおっ!うおおおっ!?何だか他の連中のダンスと違うぞ鈴!?」
不満気な鈴だが動きのキレは凄まじく、競うように合わせるラウラ。
「ばーか。ばーか。ボゥイのばーか」
「へいへい、バカで悪ぅございやしたー」
いまだ不機嫌なシャルロットをなだめつつ踊るボゥイ。
「しのぶさん・・・私、すごく、しあわせ・・・」
「そうかよ」
うっとりとした瞳で忍の動きに合わせる簪。
「あははっ!ねえさまっ、ダンスうまーい!」
「ふっ・・・お前も、悪くないぞ」
意外と息の合ったステップで笑い合う千冬とマドカ。
「やっほーー!!いえーーーい!!インド映画は踊るものだーーーっ!!」
「ダーシャっ!目が回るっ!ぎぼぢわるいいいいいっ・・・!」
上機嫌にミーアを引っ張り回すダーシャ。
それぞれが楽し気に祭りの最後を満喫する中、本音は技術棟の格納庫でずっと頭を悩ませていた。
一休さんのように両手の指を頭へ向けながら眉を寄せ、「むむむ」と唸り続ける。
彼女なりに、東京でマドカに襲われた際に簪を守り切れなかった事を悔いており、今のままの九尾ノ魂(ナイン・テイル)ではいけないと考えているのだ。
自分はIS学園の生徒であり、更識のメイドで、なにより簪の友達だ。
あんなことがこれからも起こるなら、自分だって無力のままじゃいられない。
そう思ってずっと自分の専用機の改造計画を練り続けていたが、どうしても純粋な強化の方向性が浮かばない。
更識のコネでIS学園入学前から設備を使わせてもらい、九尾ノ魂及び簪の打鉄弐式を作り上げる事は出来たものの、そこから先については考えられていない。
「・・・だめだー!!どうすれば強いのか思いつかないよー!!」
ぱたり、とコンクリート床へ仰向けに倒れ込む本音。
相手を驚かせたり虚をついたりするのは得意分野だが、普通に強くする事を目指すとどうしても詰まってしまう。
長々と溜息を吐く本音は、ISについてこんなに悩むのは初めての事だった。
ただ、簪や友達と楽しくやれればそれで良かった。
その中で綾に一目惚れし、いつの間にか失恋し、気がつけば何が自分に残っているのか分からない。
「こんなはずじゃなかったんだけどなー・・・」
天井から照るライトの光を遮る様に手を翳す。
もっと気楽に、悩むことなく過ごしたかったはずなのに、ままならないものだ。
「・・・あなたも悩んでるの、本音?」
そんな彼女へゆっくり歩み寄ってくるのは、更識 楯無。
自信が仕える簪の姉である彼女は、本音にとって幼馴染であり主人の上司のようなものだ。
本音は視線だけを楯無のスカートの中へ向けてストッキング越しに水色を確認すると、
「あ、たーにゃんだ。どしたのー?」
「うーん、人生について考え中」
「あはは、おんなじだー」
寝転がる本音の隣にぽすんと座り込んだ楯無は、扇子で口元を扇ぎながら遠くを見やる。
どこか元気のない楯無は、肩を落としながら胸中を吐露していく。
「・・・私、どこで間違ったのかな」
「たーにゃんでも間違うことあるんだねー」
「私もずっとそう思ってた。これまでつまづいた事なんて無かったし、これから先、適当にやってても問題なく過ごせるんだって。実際、更識家を継いでからも大した事件も舞い込んでこなかったし、あっても軽くこなしてやったくらい」
更識家はもともと、対暗部用暗部組織という特殊な立ち位置として日本における裏世界から表の世界を守護する、そんな家系であった。
楯無はその17代目当主。
当主は代々、楯無という名を継承する。
彼女の本当の名前は、更識 刀奈なのだ。
「でも、こないだのアメリカのISが盗まれた時なんかも更識家には全く話来なかったし、そこでも簪ちゃんが活躍しちゃったでしょ?ただでさえ男子IS使いの監視って任務もこなせてないのに、更識家の、私の意味ってなんなんだろうなーって」
「たーにゃん、全然いいとこないもんねー」
「・・・んぐぐ」
あなたに言われたくない、と言いかけて踏みとどまる楯無。
大きな活躍をしたとはいえないものの、銀の福音事件で簪をまるで被弾させないという立派な成果を出して勲章を貰った本音に比べれば、楯無は本当にいいとこ無しなのだから。
「そのうえ、簪ちゃんったら『更識に何の未練もありません』って。お父さんが激怒して殴りかかったのもひょいっとかわして逆に転ばせちゃうくらいだし。昨日だって、ガターザンの結果私を超えちゃうし。もう、いつ立場が逆転するか分かんないくらい簪ちゃんは成長しちゃって・・・なんだか、置いて行かれたみたい」
「気付くのおそーい」
ぽつぽつと思いを吐き出していく楯無のぼやきに、本音は少し怒り気味に答えた。
目を細めて睨んでくる本音に、意外そうにたじろぐ楯無。
遠回しに簪がいつまでも成長しないものだと思っていたと取られかねない言動が、本音の琴線に触れたのだ。
「かんちゃんはすっごい子なんだよ?わたしにはいつか、たーにゃんだって追い越せるくらいの才能があるってわかってたんだから。お姉ちゃんのたーにゃんがそれを信じてあげられなかったのはなんで?」
「え、だって、それは・・・」
「たーにゃん、小さい頃いつも泣いてたよ。『姉さんは何で私を助けてくれないんだろう。姉さんはお父さんに褒められるのが大事で、私を良く見せるための踏み台くらいにしか思ってないんだ』って」
「そんな事無いわ!」
思わず立ち上がる楯無。
けれど本音の眼差しは冷淡だ。
「じゃあ、どうしてかんちゃんが叩かれたり、無視されたりするの助けてあげなかったの?妹へのネグレクトから目を背けて『適当に行ける』なんて、わたしでも怒るよ?」
「だって、それは!お父さんが喜ぶような成績をあげられない簪ちゃんが悪かったの!それが出来ないのは可哀想だって思ってたけど、私が何か教えたって理解出来ないんだから仕方ないじゃない!私だって・・・お父さんに怒られるのは怖かったんだから・・・」
口にしているうちに、自分は何を言っているんだろうと情けなくなっていく楯無。
結局は、我が身可愛さに妹をスケープゴートにして逃げていただけではないか。
これまで、どうして簪が自分を嫌うのか、避けるのか分かっていなかった。
有能な自分に遠慮してしまっていると、父に認められている事に嫉妬していると、そう思い込んでいた。
だから気を遣うことなく自慢できるような姉を作ってきたつもりだった。
なんて愚か。
これで簪に好かれようなど、逆効果なんてレベルではない。
チキンレースでバックギアに入れてアクセルを全開にしているようなものじゃないか。
「どうして最近のかんちゃんが輝いてると思う?・・・ううん、かんちゃんが輝いてるとこ、たーにゃんは見ていたのかな?」
「それは・・・たまたま、活躍できる場所が運よく・・・」
「それもあるかもね。でも、わたしはかんちゃんをずっと見てたよ。はっきり変わり始めたのはクラス対抗戦かな。わたしがかんちゃんに勝った後、みーにゃんとだーしゃんがかんちゃんと仲良くなってから。わたし以外に心を許せる友達が出来た事がかんちゃんの救いだった」
ミーアとダーシャ。
ずっと傍にいすぎて、姉妹同然の本音には分かち合えない想いを、彼女達は簪と共有し、笑い合う事をしてくれた。
自分に出来なかった事を簪にしてくれた二人へ、本音は心から感謝していた。
「その後、タッグトーナメントではららちゃんに負けちゃったけど、ドイツ軍が攻めてきた時はかんちゃんがいなかったらどうなってたかわかんない。あの時、たーにゃんはカッコつけてただけで敵の罠にはまったく気付けなかったよね。どうして?」
「でも、あんなのっ!分かるわけないじゃない!」
「かんちゃんは気付いたよ?気付いて、先生たちと解析して、だからりょーちんはららちゃんを助けられたんだよ?」
「う、うぅ・・・っ」
責める様な、淡々と語る様な本音の物言いに、言い返す言葉すら浮かばない楯無。
それは運に恵まれていたのは簪ではなく、楯無こそがずっと運に踊らされていただけだと言わんばかりに。
「福音の時もかんちゃんは最初におかしい事に気付いた。コアが5個も搭載されてるなんて、かんちゃんが気付かなかったら日本が吹っ飛んじゃったかもしれない。・・・かんちゃんはね、すごく冷静な判断が出来る子なの。自分も含めて俯瞰的に見て、違和感に『何故?』って問いかけが出来るの。小さなバグやミスを見逃さないの」
「そのくらい、私だって・・・」
「出来ないからこの差が出来たんじゃないの?」
「くぅっ!」
本音の指摘は次第に楯無のプライドや、積み上げてきた自信を崩していく。
ジェンガの下から勢いよくパーツを引っこ抜くように。
「完全にかんちゃんが自立したのは、カガーミンせんせー・・・ヒーローを見つけた時。わたしは気を失ってたけど、後でかんちゃんから話を聞いて、納得しちゃった。あんな出会い方したら、わたしだって夢中になっちゃう」
「ヒーロー・・・?なに、それ・・・?」
架神忍が簪達を危機一髪のところで救った事は知っている。
けれど、ヒーローなんて。子供じゃあるまいし。
見下すような反応を見せた楯無へ、本音の怒りは最高潮へと達した。
「・・・もしかしてたーにゃん、かんちゃんの事何も知らないんじゃないの?」
「そ――――」
そんなわけない、そう言おうとした楯無の唇は、本音の無言によって動きを止める。
簪は、ずっと、自分を救いに来てくれるヒーローの到来を待ち焦がれていた。
姉に優しくされる事など、和解する事など微塵も期待していなかった。
忍の存在が、マドカの無垢さが、簪の心の闇を払ってくれたのだ。
だから。
あろうことかそんな簪の願望すら知ろうとしなかった楯無はもう、簪にとって手遅れなのだ。
むくりと立ち上がった本音は、隣に座る楯無へと―――幼馴染である彼女ですら見た事のない切れ味の流し目で睨み―――告げた。
「これ以上かんちゃんの良い姉貴面するなら、わたしだって更識家から離れるよ」
「―――っ」
立ち上がった本音は格納庫の入口へと視線を向ける。
その方角を楯無が目で追うと、そこには簪が、友人たちを伴ってこちらを見ていた。
「かん、ざしちゃん・・・」
「・・・・・・・・・」
静かに歩み寄る簪。
すれ違いざま本音と乾いた音と共にタッチした彼女は、あまり喋るのが得意ではない自分に代わって、楯無へ言いたい事を全て伝えてくれた事を感謝していた。
ふらつくように立った楯無の目に、簪の姿はどう映っただろう。
少なくとも、自分の比較対象として見下ろす事が出来ない程度には、路傍の小石の様に見過ごせないくらいには、大きく見えたのではないだろうか。
楯無の目の前に立った簪は、これまで卑屈に、目を合わせる事すら出来なかった彼女の目を真正面から見据える。
「姉さん」
「な、なぁに、簪ちゃん・・・」
余裕を見せようとするも、声が震えて格好がつかない。
知らなかった。気付きもしなかった。
自分の妹は、父に虐待のような扱いを受けていたこの子は、こんな強大だったのか。
「専用機チームバトルで決着をつけよう。私が勝ったら、楯無の名前を捨ててくれる?」
「な、何ですって・・・!?」
それは更識家当主を降りろという意味に他ならず。
覚悟を秘めた瞳はそれが冗談ではない事を確かに示していた。
「私が負けたら何でも言う事を聞く。なんなら一生姉さんの小間使いにでも奴隷にでもしてくれていい。どう?」
「なんのために、そんなっ・・・!」
「更識家を終わらせるため」
その一言が、どれだけの重さを秘めている事か。
17代にも渡って日本を守り続けた一族を終わらせようというのか、この妹は。
「か、簪ちゃん?自分が何を言っているか分かってるの?更識家よ?対暗部用暗部!裏から日本を守護し続けてきた私達がいなきゃ、この先―――」
「更識家のデータベースを全部調べた。この数十年、三代に渡って大きな事件には何も関わってない。それどころか、ISが公表されてから父さんの代では何もしていないも同然。過去の栄光に縋ってふんぞり返ってる一族に、存続する価値なんてある?」
「それはたまたま、運よく平和だっただけよ!ISについてだって、父さんもそれが分かってたから私に代替わりさせたのよ!ISを使えるのは女だけだから!」
「でも福音討伐に姉さんは来なかった。それどころか、私を当主に据えて更識家の手柄にしようとする程度に腐敗してる」
結局のところ、更識父が楯無ではなく簪を当主に立てようとしたのはそれが理由なのだ。
つまりは、日本政府からは出動要請すら貰えなかった没落家系が形振り構わなくなっているだけ。
男尊女卑の流れを延々と続けてきた更識家に、ツケを払うべき時がやってきた、それだけだ。
「私は、これ以上私のような子供が生まれて欲しくない。愛されない子供を作り出す父さんを許さない。時代遅れの襲名制も、更識の悪足掻きもこれで終わりにしよう。私は、姉さんに勝って、18代目楯無として更識を終わらせる」
揺るぎない想い、堂々とした宣言。
受け容れられない妹の成長、そして決断に、楯無は震える他なかった。
「戦おう、刀奈。鶴守くんみたいな分かり合うための戦いじゃない。決別の戦いを、二人で」
「・・・!や、やってやろうじゃないの!!」
本当の名で呼び捨てにされ、反射的に叫ぶ楯無。
ここまで言われて後に退けるわけがない。
楯無は簪を指差すと、眉間に皺を寄せながら吼える。
飼い犬に噛みつかれた主人の様に。
「17代目楯無の名において、その勝負受けてあげるわ!私が勝ったら二度とそんな口を利けなくしてやるんだから、覚悟しなさい!」
「そのつもり。更識に温情なんて期待できるもんか」
「っ・・・!ど、どちらにせよ、勝っても負けても簪ちゃんに帰る場所なんて残されてないのよ!それでもいいの!?」
「帰る場所はある。それは刀奈が考える事じゃない」
「こ・・・後悔するわよ!!」
捨て台詞と共に去って行く楯無。
このやり取りだけなら簪が圧勝したようなものであるが、ISでの戦いで言えば不利にも程がある。
だいいち、簪の打鉄弐式は戦闘よりバックアップや指揮、電脳戦に優れた機体である。
楯無のミステリアス・レイディの強力な性能には二回り以上も劣る。
それでも、勝たなければならない。
「後悔なんて、するもんか」
自分でも大きく出たと簪は思う。
けれど楯無は、乗り越えねばならない壁なのだ。
いつかきっと、なんて待ってたって何も変わらない。戦うなら今しかない。
更識に良い様に利用されているのは、楯無―――刀奈だって同じなのだから。
「・・・いや、凄い場面に立ち会いましたね」
「疎外感パないぞ」
と、後ろから見ていた綾とラウラがぽつりと呟く。
それを見て本音が首を傾げる。
「あれ、りょーちんとららちゃんだ。どしたのー?」
既に普段の調子に戻った本音からは、先程までの殺伐とした気配は感じられない。
端的に言えば、綾とラウラはおまけでついてきただけである。というのも。
「本命はアタシらだぜーぃ!!」
「い、いぇーい・・・!」
学園祭にて新型IS・コスモスを獲得した簪軍団、ミーアとダーシャである。
鶴守兄妹を押しのけてバーンと登場した彼女たちの後ろからは、他の専用機持ちの仲間達―― 一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロットがぞろぞろと続く。
皆、作業に適した格好―――ツナギや作業服でいる事からも、もう慣れたものである。
「みんな!」
「俺達にとっちゃ恒例行事になっちまったな、リョウ?」
「ええまったく。本当に楽しいったらない!」
「ふふ、強いライバルが増える程わたくしも燃えてきますわ!」
どういう事かと簪へ視線を向ける本音。
簪はくいっと眼鏡を直すと、その細長く白い人差し指を本音へと向ける。
「本音、どうして一人で悩んだりするの?」
「え?え?わたし?」
ぱちくりとまばたきして自分を指差す本音。
そんな彼女へ肩を組んでくるダーシャは、懐っこい笑顔で頬ずりし、
「困った時はお互い様っしょ!ホンネもISの改造したいなら一緒にやればいいじゃんっ!」
「ふぇ!?」
インド特有の香水の匂いを感じながら、本音は目を丸くする。
みんなには内緒で九尾ノ魂をカスタムするつもりだったのに、どうして。
「なに意外そうな顔してるの。他の人ならともかく、私には本音の考えくらいお見通しよ。ほら、チーム戦まで日がないんだから、本音もIS出して」
簪に背中を押され、戸惑いながら並んだコスモス二機の隣へと九尾ノ魂を並べる本音。
つまりはいつものように、ISの改造やミキシングをみんなで行うのだ。
「悩んでたんでしょ、私を守れなかったって。本音はいつだって私の事守ってくれてるのに、欲張りにも程があるわ」
「そ、そんなことないよ~?」
「でも、強くなりたいって気持ちは私達も一緒。だから、強くなるのも一緒がいい」
ポン、と肩に置かれた手を見て、本音は瞳を潤ませた。
自分一人で悩んで、考えたって改造プランが出来上がらないわけだ。
だって、簪が、皆がいてこそのわたしだから。
一人じゃ足りない事をみんなで補い合う、それがこの1年A組の強さなんだから。
「ほら本音!あんたの機体は接近戦に弱いからあたしと武器とか考えよ!」
笑いながら鈴が八重歯を見せて肩を叩く。
「鈴は同じ接近戦用のダーシャ担当!オールラウンダーならボクの出番だよ、ね、本音!」
そんな鈴を押しのけて、シャルロットが本音の手を引く。
「ズルいですわシャル!同じビット使いのわたくしをお忘れなく!」
「セシリアは射撃系なんだからミーア担当でしょー!」
「本音、日本刀に興味は無いか?九尾ノ魂は和系だから似合うと思うのだ」
「さり気にアピってんじゃないわよ乳モップ!」
「あはは」
やいのやいのとかしましい女性陣。
涙を浮かべて喜ぶ本音をみやり、ラウラはやれやれと苦笑いした。
「まったく、女三人寄れば、だったか?これだけいたら騒音で訴えられそうだぞ」
「ふふ、本当ですね。ラウラが良心ですとも」
「そうだろう、そうだろう」
にこやかに撫でてくる綾に、満足そうな頷きをするラウラである。
「へーい!おまっとさーん!」
そこへ、業務用エレベーターの中からボゥイが現れ、技術棟研究部から分けてもらったと思わしき機材やパーツを台車で押してくる。
合計で何百キロにも及びそうなそれを軽々と押してくるのは、ボゥイならではといえよう。
「ご苦労様、ボゥイ!大変だったんじゃない?」
「このくらい朝飯前さね!それより、オレにも出来る事を教えてくれよシャル子、少年!」
「なら主に力仕事ですね。シューマッハはそのあたり貴重な人材だ」
頭に黒いタオルを巻き、歯をみせて笑うボゥイは本当に笑顔が似合う三枚目である。
既に機嫌を直したシャルロットは持ってきた機材とパーツの分類分けをお願いし、綾はそれぞれの得意分野から改造するべきISの担当を振り分けた。
「一夏、箒、凰さんは接近戦のナレッジが多いのでダーシャさんについて下さい。セラと僕は射撃系なのでミーアさん。万能に戦えるラウラとシャロは本音に。全体の監修と設計書作成は簪さんにお任せしますよ。必要なパーツや分野や知識を振り分けて、チーム戦までの進捗管理をお願いします」
「任せて」
頷いて早速電子キーボードを高速で叩き始める簪。
自分自身の楯無への対策も大事だが、一緒に組むつもりのミーアとダーシャの強化も大切だ。
とても大切な仲間で、友達なのだから。
コスモスはもともと高性能ゆえ大掛かりな改造は必要ないが、得意分野を伸ばす方向のカスタムとなるとやはり適正や発想が大事となる。
つまりは取捨選択。
持ち合わせている能力をいかに生かし、いかに殺すか。
接近戦、それもハンドアックスの戦闘に長けるダーシャの機体に高性能すぎる射撃センサーは不要だが、フットワーク重視の射撃戦を主とするミーアの機体に重すぎるガーデン・カーテンは妨げになる。
打鉄から装甲をそぎ落とし、大型バックパックをビックリ箱に見立てたカスタム機の九尾ノ魂にも、実戦を考慮した装備か趣味性を伸ばすかの二択を迫られる。
そのあたりを考慮し、組み合わせ、試していく。
こういった作業や思考が、綾や簪には楽しくて仕方ないものであった。
そしてその仲間達も。
簪の指示通りにパーツの取り外しや整理を行っていく一夏と鈴。
接近戦をシミュレートしながら、ダーシャと方向性について擦り合わせを行う箒。
各々のISのデータを見比べ、内部構造や武装に頭を悩ます綾。
ミーアと射撃訓練を共にすることで彼女の癖を把握し、最適な武器を考慮するセシリア。
自由な発想で本音とディスカッションする事で想像の外から武装を考案するラウラ。
その議事録を取って要所要所に赤ペンを走らせるシャルロット。
ひたすら走り回ってISの部品を持ち運んでいくボゥイ。
それらすべてのデータを収集して設計を行っていく簪。
物陰から様子を伺っていた忍は、空気清浄機の効いた広い空間である倉庫内なら喫煙を許可されている事もあり、咥えたクールから煙を吹き出した。
「しのぶ・・・」
足元ではマドカが、自分も手伝いたそうに視線を向けてきている。
「・・・これで飲み物でも買ってきてやれ」
「うんっ!」
千円札を二枚渡すと、頷いて自販機へと走っていくマドカ。
それを見送り、どこか懐かしそうな顔で簪達を見守る忍へと、千冬が話しかける。
「あいつらは本当にISが好きだな」
「・・・みてえだな」
「混ざりたいのか、架神?」
「いや」
からかい混じりの千冬の言にふっと笑う忍は、目を離さずに答える。
「おれにも、ああいう情熱を燃やしていた時期があっただろうかとな」
「・・・ふっ」
「んだよ」
「いや、私と同じような感想を持つものだと思ってな」
「ふん・・・」
水を湛えた灰皿代わりのペール缶を忍の足元に置いた千冬は、忍と共に弟や生徒達を遠くから眺める。
「まだ、お前の目的や束との関係を聞けていないな」
「面倒くせえな。後でもいいだろう」
「そうやってズルズルと今に至ったわけだが。まあいい、一つだけでいい、聞かせてくれ」
「一つだけならな・・・」
相変わらず視線は向けてこないが、ペール缶へ灰を落としているあたり千冬を無視しているというわけではないのだろう。
この男は排他的に見えて意外と付き合いが良いのだ。
「束は、何と戦っているんだ?」
「男尊女卑だよ」
千冬の核心へ迫るべく問いに、忍が即答したのは想像の外をいく回答。
思わず眉をひそめる千冬。
この世界の常識は女尊男卑であるというのに、男尊女卑?
「・・・どういう、意味だ?」
「そのままの意味だ。束が女にしかISを使えなくしてる事で分かるだろう」
「なに・・・?」
吸い終わったクールを落とされたペール缶がジュッと音を立てる。
本当の敵は、束や自分達が戦ってきた敵は男だと、そういう意味なのか。
「ゴーレムを知っているな?あれが作られた時期を調べてみればいい。公表された時期じゃなく、本当の製作時期をな」
「・・・!」
ゴーレムとは、女性にしか扱えないISに男性が対抗するために製作された無人機だ。
装甲厚く、高出力のエンジンにより従来兵器より強力なパワーをもつがコストが高いわりにISに及ばない性能のため、今となっては土木作業に使われるかテロ組織がいくつか運用するにとどまっている。
それの経緯が、問題だというのか。
しかし、逆転の発想をすれば――――。
(ゴーレムに対抗するために、ISを世に送り出した・・・?)
もしISの発表より先にゴーレムが作られ、それのカウンターとして束がISを女性しか使えなくしたのなら、既存の視点がなにもかも誤りだった事になる。
本当かどうかは分からない。だが、裏取りをする価値はありそうだ。
「これだけでも大きな収穫だな。他にも重要な情報を持っていると思っていいか?」
「奴らは専用機限定チーム戦が終わったあたりで来る。分かってはいたがIS世界連盟からの防護機能増設も間に合わねえだろう」
ようは自分達で潰し合って消耗した瞬間を狙ってテロ組織が襲撃する可能性を忍は示唆している。
とはいえ、分かっていても可能性だけでは今からこの行事を止められるものではないのだが。
「・・・それは少なからず想定していた。自前での防衛力もかなり強化してあるがまだ足りないと?」
「そんだけの準備をしてもし足りないって話だ。分かるだろう、奴らはこの侵攻にそれだけの価値を見出だしている。暮桜を使っていたのはお前なんだからな」
「暮桜だと・・・!?」
暮桜とは、IS黎明期にて千冬が専用機とした、束製作の第一世代インフィニット・ストラトスだ。
別段、特殊な能力を持たず、武装も雪片のみというシンプルな機体。
今は故あってIS学園の地下にて凍結され、あらゆる外部干渉が出来なくなっているそれを―――敵が狙っているとでも。
驚く千冬をようやく振り返った忍は、嘆息交じりにぼやきつつ、
「・・・それすら束は説明してねえのかよ。ずぼらなのか罪悪感で責任逃れしたのか」
「どういう、事だ」
「鍵は中国に隠されていた。シューマッハが殺されたと言っていた寺院にな。どういう経緯でバレたのかは不明だが、それが奪われて解析までされたと知った束はこれ以上のコア生産を続けている場合じゃなくなった」
「鍵?」
かつて篠ノ之 束の遺産、隠し財宝と呼ばれ、豪がレティシアに回収を命じ、オータムに先んじて奪われたもの。
それが、鍵だった?
「鍵穴は暮桜に搭載されていた。その中身が敵に渡ったその時、世界は変わるぜ。女尊男卑がいかに生易しい世界だったか誰もが思い知る」
「言え!それは、何の鍵なんだ!束は暮桜に何を仕込んだ!」
忍の肩を掴んで凄む千冬だが、圧搾機に匹敵しかねない力で握られたはずの彼は表情をまるで変えず二本目の煙草に火をつける。
「鍵を開けて出てくるのはまた鍵。プロテクト解除キーだ―――ISコアの、使用者制限を解除するためのな」
「―――つまり、男でもISが使えるようになる・・・?」
いっそのこと千冬へ全て話して、千冬から他の者へ話させた方が手っ取り早いと判断したのか、忍はすらすらと答えていく。
「ISコアの量産システムは敵にコピーされている。鍵が開けられたら、訓練された男や良い様に操られた遺伝子改造チルドレンがこぞってISで女を支配にかかるぜ。そういう奴らだ」
「何なんだ、そいつらは!何を目的としている!?」
驚愕にさしもの千冬も声を震わせる。
忍は紫煙を吐き出しつつ、眉間に皺を寄せながら、言う。
「男性による人類種の支配。男こそが地球を管理すべきと考える男尊女卑の極み。非力かつ使い道の少ない女を不要として切り捨てようとするサイコ共。それが奴ら―――【エデン】だ」
話だけ聞いてるとエロ組織にしか聞こえないエデン。
薄い本が厚くなってしまうわ!
簪と楯無はなぁなぁで仲良くされるより、きっちりぶつかり合って欲しいと思ってました。
更識家の設定は「これいる?」って思ってたのも強い。
いつも通りISの改造も始まったし、ISリビルドワールドは通常運転です。