インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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Smoke On The Water

コスモスと九尾ノ魂の改造がひと段落ついた時点で上がる話題はもちろん。

「わたくしとリョウは絶対に違うチームになりますわ!今度こそ勝負ですわよ!」

「きっとそう言うと思っていましたとも。それに、僕とセラが組んだら強過ぎてつまらない」

恋人でありライバルである綾とセシリアは、不敵に笑い合って拳を合わせるのである。

組めば最強とは言葉だけでなく、アマデウスの単一仕様能力【かつてない愛の感応】もありあながち冗談とも言い難い。

 

つまりは、チーム分けをどうするか。

 

その話ともなれば、当たり前のようにこの二人はこう言うのだ。

「私は一夏と組むぞ!」

「あたしは一夏と組むから!」

「下がっていろ低身長貧乳!」

「黙ってなさいよ乳モップ!」

福音戦では驚く様なコンビネーションを見せた箒と鈴だが、やはり普段の折り合いは悪いようでケンカが絶えない。

がしがしと頭突きをし合う二人を眺めた一夏は、いつものようにおたおたとするのではなく、落ち着いた表情でふむ、と頷く。

「だったらセシリア、俺と組んでくれないか。俺が前に出てセシリアが後ろから撃つ、これだけでもかなり戦えると思うんだけど」

「あら、良いですわね!打倒リョウ同盟ですわ!」

「「はぁ~~~~~~~~~っっ!?」」

がしりと手を組んだ一夏とセシリアに、納得いかずダブルで叫ぶ箒と鈴。

こういう時は息ぴったりである。

「ちょっ、どういう事だ一夏!?浮気か!?寝取りか!?そういうのが好きか!?」

「そんな特殊性癖持ってるなんて知らなかったわよ!?あたし嫌だからね、他の男と寝ろとかそういうの!?」

「いや何の話だよ!?」

噛みついてくる幼馴染sをなだめながらも、何故怒られているのかは理解出来ない一夏。

 

それに比べ、恋人を最初にスカウトされた綾はまったく動じておらず、

「成程ね、一夏もガチというわけですか。これは面白くなってきた」

「ああ、少しでもお前に勝てる可能性のある奴と組みたいからな。相性的にセシリアがバックアップしてくれた方が自由に戦える」

「ふふん、お任せなさいな!」

スピードもあり、目の前の一撃必殺のみならずほぼ無限射角といっていいビットと狙撃をも警戒せねばならない。

一夏とセシリアの組み合わせは、想像以上に強敵となろう。それに。

 

「リョウと戦いたいのは俺も同じだからな。俺と白虎がどれだけ強くなったか、見せてやる」

 

「ええ、これは楽しみで眠れませんね。では僕も相応の仲間を見つけねば」

「何を言ってる。お前にはわたしがいるだろう」

一夏の挑戦的な眼差しを受けてにやりと笑う綾の腹を、ラウラが裏拳で軽く叩く。

「わたしは綾とは戦わん。わたしは綾の盾だからな。いつだってお前を守るのはわたしの仕事だ」

「そうですね、僕らは一心同体の兄妹。最愛はセラに捧げようとも最好は君だ、ラウラ」

「ん」

ほくほく顔で綾が撫でるのを受けるラウラ。

 

難しい顔をするのは他の皆だ、大半が綾と戦うのにラウラを引き入れようとしていたのだから。

なぜなら、現時点でアマデウスのバスター・ランチャーを防ぎえる防御力を持っているのはラウラのシュヴァルツェア・ガーベラだけなのだ。

バリアを貫通してしまう一夏の白虎が唯一の穴であるにしても、その持続力とタフネスは相手にするにはとてつもない強敵となり、味方となればこれほど頼れる者はいない。

 

すでに組むべき相手をキープしている簪は、両手に花とばかりにミーアとダーシャを抱き寄せてふんすと鼻を鳴らす。

「私はもうミーアとダーシャって決めてるから」

「ね、チーム名決めようよ、チーム名!」

「なんかオシャレなのがいいっしょ!オシャレ感重視で!」

そう、タッグトーナメントの時と同様、チーム名を考える必要もある。

それも含めてチーム編成は楽しいものであるのだ。

 

「簪さんが別チームとなると」

「電子戦で対抗できるのはシャルだけか。シャル―――」

「だめですわ一夏さん」

シャルロットへと声かけようとした一夏の首根っこをつかむセシリア。

驚きに振り返る一夏を横目で流し、セシリアはシャルロットと見つめ合う。

 

「わたくしが決着をつけたい相手はリョウだけではありませんの。シャル、わたくしの親友にしてかつての恋敵。白黒つけねば遺恨が残りますわね」

「もちろんだよ、大好きなセシリア。キミじゃなきゃ許せなかった気持ち、キミのせいで淀んだ想い、全部ぶつけるから―――全力で分かり合おう」

 

手を叩き合うシャルロットとセシリア。

二人の間に後ろ暗い恋愛のしこりなどは無い。されど、戦わねばならない。

それはけじめであるのだから。

「戦う事で分かり合う・・・か」

そんな二人を見て、鈴は思う。

 

学園祭の日、ボゥイやシャルロットと別れた彼女は一夏を誘って二人で展示を見て回った。

他愛のない話をしている中で、鈴は理解してしまった。

一夏は、あたしを見ていない。

だからって箒の事を見ているわけでもない。

彼が見ているのは、恋や愛といった感情ではなく―――ISでの戦い。

自分自身の進化のために剣を振り、ようやく隣に立てた綾と競い合うために走り続ける。

そしていつか、千冬をも追い越して・・・自分が戦う理由を探し始めるのだろう。

彼の道筋には幼馴染たちの気持ちの置き場がない、それが分かった。

後ろから追いかけて振り返って欲しいといくら叫ぼうとも、きっと彼は振り返らない。

どころか、無理にこちらを向かせようとすれば彼の邪魔になってしまう。

そんな事をしてまで振り向いて欲しいのか、それでずっと続く関係を築けるのか。

 

否だ。

そして嫌だ。

 

一夏を普通の男子として恋するのはもうやめよう。あたしが恋するのは一夏なのだから。

ならば参考にすべきは恋愛マニュアルなどではなく、同じ立ち位置で目まぐるしい進化を遂げて全てを得た、セシリアなのではないか。

だったら、答えは一つだ。

 

「シャル!あたしと組んで!」

「鈴?もちろんいいけど・・・」

声かけられてすぐ頷くシャルロットであるが、急な方向転換には首を傾げてしまう。

その表情を察して、鈴は力強く答える。

「あたしだって、もうこのままじゃいられない。振り向いてもらえないなら、目の前を走るしかないでしょ!あたしは一夏に勝つ。勝って勝って勝ちまくって、あたしを無視できない女になりたい!だから!」

「・・・すごい。鈴、やっぱりキミはカッコいいよ」

その手を取って、シャルロットは頼もしい仲間を迎え入れる。

 

「一緒に勝とう、鈴!ボク達ならやれる!」

「あたぼうよっ!」

 

またも強力なチームがひとつ。

白虎に匹敵するスピード、天衣無縫の槍撃と拳法を持つ道老龍。

万能な立ち回りと遠近での必殺兵器を持つフェニックス・リヴァイヴ。

技術において他を圧倒する二人の組み合わせは、お互いを補い合って余りある。

 

さて、残ったのは箒、本音、ボゥイの【ほ】トリオだ。

 

並べれば追い詰められた時の爆発力の箒、トリッキーかつ新たな能力を得た未知数の本音、呆れるほどのタフネスとパワーを持った総合力のボゥイとなる。

 

残された側の箒は既に心を決めていた。

戦う事で一夏と分かり合いたい、この先の未来の選択肢に自分という存在を含めて欲しい。

そう思うのは鈴だけではなく箒も同じだ。そして。

甲龍の鈴ではなく、道老龍の鈴と決着をつけたいという思い。

それらを全て叶えるには・・・。

 

「綾、ラウラ」

「でしょうね、箒」

「正直安心したぞ。わたしがバリアを張る前に切り裂かれたらどうしようもないからな」

「あれが再現できるかどうかはわからないが、よろしく頼む」

手を組むは蒼き砲撃の知将、黒き防壁の絆魂、そして紅の神速抜刀術。

 

「箒・・・!」

その選択に二ッと笑った一夏は、いつか綾と二人がかりで挑み、一蹴された過去を思い出す。

あれほどの業、魅せつけられたまま尻込みなどしていられない。

超えるべき相手が一つのチームに集まったのなら、二人とも自分の手で倒してみせる。

ならば・・・最も自分が自由に戦える選択肢を。

 

そしてシャルロットもまた、鈴と頷き合う。

今の自分達を最大限に活かせるチームメイトなら、最初から決まっている。

 

「のほほんさん、一緒に戦おう!」

「ボゥイ!」

「ボク達と組んで!」

 

「ほほーい!」

「お、ご指名かい?」

それぞれ自分を呼んだチームメイトへと歩み寄る。

ビットと水流操作、更にもう一つ新たな力を得た本音の機体はセシリアとも一夏とも相性が良い。

集団戦となれば、これほど厄介な相手などいない。

気合と共に手を組む一撃必殺の猛虎、光雨の流星、急襲の妖狐。

ボゥイもまた、鈴とシャルロットとのチームワークはこの一か月で最も慣れ親しんだ組み合わせだ。

速度の鈴、技のシャルロット、力のボゥイ。

フランスの英雄たる三人は、高みを目指して手を取り合うのだ。

 

これで1年生の専用機持ち12人のチーム分けは完了した。

 

リーダー:鶴守 綾、ラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守、篠ノ之 箒。

機体名はアマデウス、シュヴァルツェア・ガーベラ、赤雷。

チーム【ゼクス】。

 

リーダー:セシリア・オルコット、織斑 一夏、布仏 本音。

機体名はレイニー・ステラ、白虎、九尾ノ神獣(ナインスレイブ)。

チーム【クリア・マインド】。

 

リーダー:シャルロット・デュノア、凰 鈴音、ボゥイ・シューマッハ。

機体名はフェニックス・リヴァイヴ、道老龍、リベリオン。

チーム【デスペラード】。

 

リーダー:更識 簪、ミーア・デイヴィス、ダーシャ・ラメッシュ・カーン。

機体名は打鉄弐式、ユルルングル(射撃型コスモス改)、チャンドラハース(格闘型コスモス改)。

チーム【アルストロメリア】。

 

2・3年生のチームを合わせて12チームが入り乱れる事となる専用機限定チームバトル。

 

以前のクラス対抗戦とは違ってリーダーを倒せば良いわけではなく、相手を全て倒せば勝ちとなる殲滅戦。

 

果たして、勝利の栄光を掴むのはどのチームか。

そして。

その後に迫る者達は、どのような手段で襲い来るのか。

 

========================

 

海上油田基地を偽装した亡国機業の隠れ家たる支部のひとつ。

執事風の男―――アドルフは、レッドカーペットの敷かれた通路を音を立てず歩く。

赤は炎の象徴、亡国機業四つの派閥における、炎の一族を示す色だ。

 

亡国機業は四人の長老の会合によって未来の指針が決定される。

それぞれ炎、風、水、地の一族。

炎は侵略、風は時代の変革、水は終わりと再生、地は強者との戦いを求める。

形は違えど全ての一族が戦争による人類の進歩を目指しており、常に平行線を辿る長老たちの話し合いの最終的な決議は、姿の見えぬ【大賢者】と呼ばれる謎の人物により執られるのだ。

 

この日も炎の一族の長老たるスコールを含む、四人の長による会議がこの秘密基地にて執り行われており、アドルフはその結果をいち早く伺いに来たのだ。

アドルフがひときわ大きな―――それこそ、ゴーレムのための扉であるように錯覚するほどの巨大な鉄製の扉を難なく開くと、荘厳な空気の赤い部屋の中心に鎮座していた四人の長老たちが一斉に視線を向けてくる。

 

炎の一族、金髪セレブ風の白人女性、スコール・ミューゼル。

風の一族、アラブの石油王である黒人、ピクトル・バゼットフェザー。

水の一族、豊かな髭を蓄えた老紳士、ロバート・フレドリッヒ伯爵。

地の一族、喪服を着た細身の淑女、草薙 葵(くさなぎ あおい)。

 

「失礼致します」

向けられる視線にも動じず、アドルフはゆっくりと扉を閉じる。

円卓の四画に陣取った長老達へと腰を折るアドルフに対し、いち早くスコールがその麗しい風貌に怒りを滲ませて立ち上がる。

 

「・・・よくものこのこと姿を現わせたものね、【エデン】の飼い犬め」

「はて、よもや私が炎のミューゼル様の気に障る事でも致しましたでしょうか」

「何を白々しい!」

面を上げたアドルフに向けて、手近にあったボールペンを投げつけるスコール。

かわしもしない彼のこめかみへと痛烈に掠めたそれは、通り過ぎると壁にピンと突き刺さった。

インクの下に引かれた線の様な傷口から一筋の血液が流れるも、まるで意に介さずアドルフは再度頭を下げる。

「申し訳ございません。ミューゼル様が何にお怒りなのか察する事の出来ないこの愚鈍をお許し下さいませ。何がそれほどまでにお気に召さなかったのでしょう?」

「巫山戯るのもいい加減になさい、オータムの事よ!貴方が彼女にウイルス入りのデバイスを渡したのでしょう!?」

「オータム・・・ああ、あの女ですか。彼女は貴女のために任務を続行する気概がございましたので、同意の上でお力添えしたまでの事です。そんな程度の事にお怒りなので?」

「貴方はッ・・・!」

 

既にIS用ウイルス【アムリタ・ソーマ】の実験を終えたオータムの事など記憶するに値しないと言わんばかりのアドルフの態度に、スコールは怒りでわなわなと手を震わせる。

オータムはスコールと恋人関係にあった女性だ。

同性の恋愛など今時珍しい事でもなく、彼女の怒りもまた正当性のあるものである、が。

 

「そこまでにしておけ。炎の一族の問題など我々に関係ないだろう」

 

手を掲げ、風の長老であるピクトルが間に入る。

白いターバンと額の黒子が特徴的な、40代ほどの口髭を湛えたフェイスが印象的だ。

「貴様ら炎の一族の失態によりオータムが捕らえられた、その後始末についてこうして我々がわざわざ呼び立てられたのだ。これ以上無駄な時間を使わせるな」

「無駄ですって・・・!?」

「確かに長い目で見れば無駄だのう。何故炎の一族だけで解決出来ない?」

 

フルベアードの髭をもさもさと動かして喋るのは水のロバート伯爵だ。

たっぷりと蓄えられた髭の量に比べて頭髪は皺の目立つスキンヘッドゆえ、身なりがしっかりしていなければ浮浪者に見間違えても致し方ない風貌である。

飛び火したかのようにオータムから憎々し気な視線を向けられるも動じない風と水。

 

唯一、地の葵だけは鞘に納められた長刀を抱きながら静かに告げる。

「我ら地は一向に構わん。強者と戦えるのであれば・・・」

病弱そうな青白い肌、薄く長い狐目、深く静かな呼吸と短く刈り揃えられた頭髪。

達人を思わせる一挙手一投足には威圧感すら覚える。

唯一協力的な態度を見せているとはいえ、共感する様子など無い葵へ唾でも吐きかけてやりたいのを堪えたスコールは、忌々しげに座り直し足を組んだ。

 

「・・・オータムを奪還しに行きたいのはやまやまだけど、戦力が足りないの。我々炎の一族は実働部隊、常に戦力が消耗する事は知っているでしょう。だから意味なく遊ばせている貴方達の手駒を貸してほしいのよ」

「金次第だな、儲けにならないのなら乗る気は無い。貴様はどうだ、水の」

「炎の終わりを見届けられるというなら喜んで貸そうとも。だが、生き延びるための戦いなら貸せぬ。始まりでもなく終わりでもない戦など美しくない」

「・・・クソどもめ。貴女はどう、葵」

「貴殿が我らの戦力を要求するのは何度目になる。つまらぬ雑魚の相手ばかりで我が配下の不満は爆発寸前だ。よほどの相手でなければ地の精鋭は出せぬ」

「ちっ、脳の足りないバーサーカー共はこれだから」

どうにも話が思う通りに進まないスコールは苛立たし気に卓を叩く。

 

「オータム様の奪還など不要です」

膠着状態となった会合を把握するや否やアドルフは口を挟んだ。

当たり前のように歯をぎちりと鳴らすスコールが何かを言う前に続ける。

「目下、IS学園の戦力が疲弊するイベントが近づいているのはご存じでしょうか。専用機限定チームバトル、などという茶番。厄介な専用機共が使い物にならなくなるこの機を逃す手はありません。我が主は、隙を見てIS学園への総攻撃をお望みです」

「馬鹿馬鹿しい!オータムに自白剤でも投与されたら我ら亡国機業の情報が表に漏れるのよ!?【エデン】のお遊びになど付き合っていられるものですか!」

自分達の都合を押し付ける様な物言いにまたも拳を落とすスコール。

 

しかし、手を叩いて喜ぶのは水のロバートだ。

「良いではないか、IS学園の終わりが見れるなら我らの兵を出しても良い。新たなIS使いの訓練が出来なくなれば、国家代表も生まれぬ。我々亡国機業の進撃も始められるというものだ」

「織斑千冬。あれと戦えるなら我自身が出るのもやぶさかではない」

くく、と喉を鳴らして同調する葵。

アドルフは付け加える。

「どちらにせよオータム様は現在意識不明の重体、貴殿方の情報が漏れるまでに時間の猶予があります。恐れながら、優先順位を見誤っているのはスコール様では?」

「くっ・・・!」

悔し気に歯噛みするスコールは、自身の恋人と気に食わない【エデン】の依頼がかかった天秤に苦しむ。

何より気に入らないのは、アドルフの言い分に理があると自分自身が認めてしまっている事だ。

そこへ。

 

『長老へ告ぐ』

 

低く、鉄の要塞すら揺るがしかねぬ威厳ある声が届く。

それを耳にした四長老と、アドルフがさっと壁にかけられた絵画へと傅く。

壁一面に貼られた絵画はミケランジェロ作・「アダムの創造」。

聞こえる声の主は、亡国機業を統括する【大賢者】である。

 

『炎の一族は全戦力をIS学園制圧に投入。風、水、地の一族は各々の判断で炎へ加勢せよ』

 

「「「ご意向のままに」」」

 

【大賢者】の気配はそれだけの指示を出すと消失し、やれやれと首をあげたピクトルは仕方なしにスコールへと顔を向ける。

「大賢者様の指示なら仕方ない、我がエクシード部隊を少し貸してやろう。IS学園の財産は5割頂くがな」

「・・・好きにすればいいわ」

皮肉めいた言い回しのピクトルが部屋を出ていくのを目だけで追うスコール。

最終的な落としどころとして、最初からその条件で兵を貸すつもりだったのだろう。

「なら儂のところからは織斑計画の生き残りでも出してやろうか。イキが良いのが溢れておるわ」

「我は織斑千冬を斬る。邪魔立ては許さぬ」

次々と退室していく長老達。

その眉間に怒りを灯しながらも、スコールが続く。

「決行は最終日です。どうかタイミングを逃さぬよう」

「ふん・・・!」

荒々しく鼻を鳴らし、注意してくるアドルフを突き飛ばして扉を閉めるスコール。

取り残されたアドルフは、やはり意にも介さず埃を払うと絵画へ向けて申し出た。

 

「私もこの作戦に参加して宜しいでしょうか、我が主」

 

すると、【大賢者】の声は重い口調はどこへやら、飄々とした砕けた喋りで答えた。

『なんだいアドルフくん。やはり鶴守 綾と戦いたいのかな?』

それは暗い部屋にてアドルフからの報告を受けていた、紳士の声ではないだろうか。

「はい。彼は私がこの手で始末したく」

『いいねいいね、君がやる気を出すと私も嬉しくなるよ。ならうちの織斑と、架神博士のところのU号も連れていくといい。彼らも特定の相手を殺したくて仕方ないだろうさ』

「承知致しました。寛大な措置に感謝を」

『うんうん、頑張ってねー』

 

重い内容を軽めのやり取りで済ました【大賢者】の声はそれきり打ち消え、三日月のように口元をひん曲げたアドルフはオールバックの髪をくしゃりと乱した。

「―――ククッ」

狂的に笑ったアドルフは、赤い瞳を怪しく輝かせて歓喜に震える声で呟いた。

 

「やっと、やっとだよ。ようやく殺しに行けるんだね・・・にいさん」

【挿絵表示】

 

ラウラに似た銀髪。

綾に似た顔立ち。

腹の底から湧き出る殺意を漲らせながら、アドルフ・ボーデヴィッヒという執事風の男は凄惨な笑顔を浮かべるのだ。

 

========================

 

天候は晴れ、秋の空気もそこそこに。

IS学園第三スタジアムの観客席は、生徒全員及びIS関係の来賓客にて大盛況となっていた。

 

初日の組み合わせが発表され、それぞれの対戦相手に向けて神経を集中させていく専用機持ちの生徒達。

特に、更識 簪の気合の入りっぷりは特筆すべきものである。

なぜなら―――。

 

『IS学園専用機限定チームバトル第一戦目!生徒会長・更識 楯無率いるチーム【エグゼクティブ・ウォーリア】対、その妹更識 簪のチーム【アルストロメリア】!』

 

初戦から因縁のカード。

フィールドにて対峙する簪と楯無。

 

楯無のチームメイトは3年のアメリカ代表候補生、ダリル・ケイシーと2年のギリシャ代表候補生、フォルテ・サファイア。

三人は専用機であるミステリアス・レイディ、ヘル・ハウンド、コールド・ブラッドを身に纏い、余裕の体勢で待ち構える。

「更識を敵に回した事・・・今更悔やんだって遅いわよ、簪ちゃん」

 

簪の打鉄弐式を軸に、中衛に立つミーアのユルルングル、前衛に出るダーシャのチャンドラハース。

「刀奈・・・もうあなたを恐れない。ミーア、ダーシャ、力を貸して・・・!」

「任せて、簪ちゃんっ!」

「アタシらの強さを見せてやろうじゃん!」

観戦席からは忍とマドカが。

待機席からは綾たち1年A組の仲間達が見守る中。

 

更識姉妹の全てを賭けた大一番の火蓋が、戦闘開始の合図と共に切って落とされた。

 

========================

 

更識家は既に老害の棲み処と化していた。

高度成長期を過ぎ去った日本という国にはもはや暗殺やテロを起こす価値が無く、西暦1800年後期から首脳を加護してきた更識家の価値は、既にどん底まで下がり切っていた。

国籍を自由に変更できるという特権も使い道が無く。

磨いた裏の技も活かす場所が無く。

そんな中にあって、第十六代目更識 楯無―――簪や刀奈の父である更識 魁人(さらしき かいと)は己が家計の再興に向け情熱を燃やしていた。

幾度となく国家へ掛け合い、社会の闇を暴き、反社会勢力を叩いて回った。

だがしかし、そんな彼の活動は全てが空回りとなって終わる。

もはや更識の存在を忘れた国には胡散臭い目で見られ、マスコミや記者に阻害され、下手に火をつけられた暴力団関係者による無益な事件が繰り返されるだけであった。

初代から蓄えられていた溢れんばかりの財産も底を尽きかけていた。

 

更識 魁人に、更識家を盛り返す程の才能は無かったのだ。

 

為す事全てが裏目に出る彼には仕事も無く、酒に溺れた。

妾に産ませた子供は二人とも女。

代々男が代を継いできた更識家には不要だと魁人は逆上した。

しばらく虐待同然の扱いが姉妹に施されていたある日、インフィニット・ストラトスという存在が公開される。

魁人は掌を返した。これが時代の流れかと大いに喜んだ。

能力の高い刀奈を優遇し、鍛え上げ、ゆくゆくはIS使いとして、十七代目更識 楯無として、史上初の女性楯無としてプッシュしていこうと考えた。

逆に簪は才能が見えないから冷遇し、刀奈の踏み台として扱わせた。

意図して刀奈を褒め伸ばし、簪を突き放していたのだ。

 

果たして魁人の目論見通り、刀奈は実力を発揮してISロシア国家代表まで登りつめた。

 

すぐさま刀奈へ楯無の名を継承させると、少なからず本来の更識としての仕事が舞い込んでくるようになった。

ISを使った世界的犯罪が少しずつ増えてきたからである。

ふたたび財を得た魁人は喜んで楯無を褒めちぎった。

楯無――刀奈もまた、暴力を振るう父よりも持ち上げてくれる父の方が良かったから大人しく従った・・・ただ、傀儡として扱われている事に気付かずに。

その間も簪は魁人のストレス発散の道具の様に扱われながらも力を蓄え続けてきた。

メイドである本音と協力し合い、刀奈に対抗するかのように自身の力でISを組み上げ。

 

気付けば、簪は立派に刀奈を超える成績をあげつつあった。

 

世界中に、日本国内にも優秀なIS使いが増えた事によって再度仕事を失いつつあった更識家に、魁人にとってそれは朗報だった。

またも掌を返して簪の手柄を更識家の、自分のものにしようと目論んで刀奈を切り捨てようとした魁人であったが。

「あ、私更識の家に何の未練もないので結構です。ここにいれなくても卒業まではIS学園で過ごしますし、卒業したらIS日本にスカウトされてるので何とか生きてけます」

まさかの言葉に、魁人は激怒した。

更識の歴史を何だと思っている、そんな娘に育てた覚えはない、一族を裏切るつもりか。

殴りかかった魁人の拳は簡単に避けられ、密かに鍛えてあった簪の合気道によって転ばされる。

酒に浸り、更識として相応しくない脂肪まみれの肉体と化した魁人では、もはや目まぐるしい進化を続ける簪には太刀打ち出来なくなっていたのだ。

「私は更識の歴史を軽蔑していますし、あなたに育てられた覚えも無ければ最初から更識の一族として数えられていませんでした。こんな家に縛られ続ける人生なんて御免です」

見下ろしながら放たれた簪の決別の言葉。

本音を伴って家を出る簪を止められるものなどおらず、魁人はまた浴びる様に酒を飲んで刀奈を罵倒した。

 

そして今、簪は更識を終わらせると言い、刀奈へ挑戦状を叩きつけた。

 

それを受けたという刀奈に焦りを覚える魁人。

この俺がいながら、更識が終わってしまうというのか。

意味を為さない自尊心に震える彼は、居てもたってもおれずに娘たちの戦いを観戦しに馳せ参じた。

大丈夫だ、まだ簪の実力は刀奈に及ばない。

こうなれば無様に敗北した簪を連れ帰って殴りつけねば気が済まない。

更識の為と謳いながら自分の事しか見えない老害と成り果てた魁人は、不安そうな眼差しで己の駒たる刀奈の戦いに集中する。

 




亡国機業とはなんだったのか。

アドルフ君の正体思いついた時は「我ながらえげつねぇな」と思いました。

そして戦闘力に差がありすぎる打鉄弐式で簪はどう戦うのか。
ネタバレになりますがセカンドシフトはしません。
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