インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

52 / 76
世の中コロナでえらい事になってますが皆さん頑張りましょう。
及ばずながら今日明日の二日連続更新としますので暇つぶしにどうぞ。


Desperado(上)

多少のアクシデントはあったものの、専用機限定チームバトルは第一戦目を終え、二戦目を通過して三戦目へと移る。

 

相対するはチーム【ゼクス】、綾とラウラと箒。

そしてチーム【デスペラード】、シャルロット、鈴、ボゥイ。

 

各々が自分の戦うべき相手を見定める中、シャルロットは不敵に笑って見せる。

「またキミと戦えるなんて思わなかったよ、リョウ」

「君は本当に強いひとだ、全力で来てください。それこそ、セラが嫉妬する程にね」

視線を合わせて火花を散らす二人であったがしかし、その間にずいっと割って入る影がひとつ。

「シャルロットの相手はわたしだ」

「ラウラ」

言いかけた綾を手で制すと、ラウラはシャルロットへ向けて口の端を吊り上げる。

「おまえと戦いたいのがセシリアだけだと思っていたか?」

「・・・!」

「綾のポリシーが我がクラスのモットーとなって久しいが、ぶつかり合う事で分かり合うのが流儀であればわたし程おまえと戦いたい女はいない」

待機状態の愛機である頭のガーベラをひと撫でし、真っ直ぐに見据えるラウラの視線は揺るぎなく。

「叩きつけてやろう、シャルロット。わたしが、おまえをどれ程好いているかをな」

「ふふっ、これ以上好きにさせられたら困っちゃうな」

笑い返すシャルロットに、満足そうに頷くラウラ。

 

それを見て優しく微笑んだ綾は、目を向ける相手をシャルロットの後ろへとやった。

同じく楽し気に彼女達を見守っていた、ボゥイ・シューマッハへと。

「お爺様の教育はどうでした、シューマッハ?」

「何回泣かされたか分かんねぇな。こちとら手足を動かした経験すらねぇのに身の程を超えたハイパワーな身体、だってのに厳しいったらありゃしねぇ」

「同情しますよ。僕もまぁお爺様にはスパルタで鍛えられた口でしてね」

「はは、実はちょっとだけ見てたんだぜ。お前さんが踏ん張ってるのを見て、オレも頑張んなきゃって思えた。その礼をたっぷりしてやらなきゃかんねぇ」

「礼には及びませんとも。ただ、身に着けたスキルを見せてくれればね」

「お互いにな」

 

緊張感迸るやりとりを経て、視線を外した綾は箒へと声をかける。

「箒、もういいですか?」

「ああ」

箒はただ、静かに鈴と対峙していた。

言葉を交わしてはいない。

言いたい事など普段から言い合っているし、今更すべきことを確認する必要などない。

ISでの戦績は一勝一敗。

一夏を巡った喧嘩など、数えきれないほどにこなしてきた。

ゆえに、これから執り行われる勝負の意味など、十二分に理解しあっているのだ。

目を合わせれば、全てを見通す事が出来る程に。

「勝とう、綾、ラウラ」

「当然です」

「口にするまでもない」

ゆっくりと背を向けて開始位置へと下がっていくチーム【ゼクス】。

ゼクスとは6。両手に武器を持つ者が3人、3×2の数字。

そしてZ(終わり)にしてX(未知)を示す言葉。

ここがターニングポイント、一度自分達の軌跡に決着をつけ、新たな未来へと進むべく、三人の獣達は牙を研ぐ。

 

シャルロットとボゥイが待つスタートポイントへ歩く鈴もまた、箒との決着をつけるべく全神経を集中させていた。

敗北した事で己の未熟を知った。

同じ目線、同じ価値観で負けられない恋を競い合った。

この気持ちを、今の凰 鈴音を作り上げる事が出来たのは、紛れもなく箒の存在があったから。

一夏という存在に惹かれた二対の赤き彗星、どちらが共に宇宙(そら)を駆けるべきか、今決まる。

「勝つわよ、シャル、ボゥイ」

「おう」

「任せて」

振り返る鈴。その眼差しの先には箒。

試合開始直前を告げるブザーが鳴り、それぞれが自身のISを身に纏っていく。

 

「さぁ奏でよう、アマデウス!」「咲き誇れ、シュヴァルツェア・ガーベラ!」「行くぞ、赤雷!」

「蘇れ、フェニックス・リヴァイヴ!」「ゲットセット!リベリオン!」「飛龍乗雲!道老龍!」

 

蒼き砲撃主、黒銅の絆魂、深紅の二刀。

燈の武装庫、三色の鬼人、紅紫の魔槍。

 

準備を整え、満員の観客が大いに湧いた瞬間、試合開始のブザーが鳴り響く。

同時に、試合前からチャージを終えていたアマデウスのバスター・ランチャーが二門とも火を吹き、動き始めのチーム【デスペラード】を狙い撃つ。

「あんにゃろ、いきなり・・・!」

「みんな、飛んで!」

綾の不意打ちに近い先制攻撃は、泡を食ったように飛び立つ三人がいた開始地点を焼き尽くし、あまりの熱量に白土が弾け飛ぶ。

さらに綾は、その砲口を追いかける様に上へと向けていく。

「バスター・ランチャーの放出可能時間を舐めるな・・・!」

真下から極太の粒子熱線が迫り、肝を冷やしながらもシャルロットはバスター・キャノンを展開しつつ指示を飛ばす。

 

「鈴!先行してリョウを叩いて!野放しにすると全滅するよ!」

「っしゃあ!」

「ボゥイ、鈴に続いて!鈴を抑えに来る箒とラウラを足止めするんだ!」

「あいよっ!」

全速力で前方へと駆ける道老龍、その後ろをスリップストリームで追うリベリオン。

逃がすまいと片側のバスター・ランチャーを鈴たちへ向ける綾だったが、当たる間際で横から放たれたバスター・キャノンが一瞬だけ熱線の行く手を遮り、その隙に通り過ぎる鈴とボゥイ。

もう片側のランチャーは片側のガーデン・カーテンを犠牲にしつつ何とか回避するシャルロット。

「やるな、シャロ・・・!高濃度粒子砲の穴を突いてくるとはね!」

「バスター・ランチャー対策なんて、キミと会った時からずっと練ってたよ!」

 

ここで一旦、レーザー兵器とビーム兵器の違いについて説明する。

どちらも光学兵器、高出力の光を照射する事で対象を溶解させる武器であるが、その違いは粒子を含んでいるか否かによる。

レーザーは粒子を含んでおらず、純粋に熱のみを当てて攻撃する兵器だ。

セシリアのスナイパーレーザーライフルなどは高熱を遠距離の対象へ届ける必要があるため、より強力な熱量を発する必要があり、一度の発射の後のクールタイムに時間がかかってしまうものの、通常の遠中距離に使用するレーザーガンならばそこそこチャージタイムは短く済む。

その分、対象の装甲やバリアを焼く為にある程度照射を続けねばならず、そのため威力にムラが出てしまうのだ。

対してビーム兵器は、照射する光の中に粒子を含む事で、対象を灼きつつも粒子によって質量を加えられているため物理的な衝撃をも与える事が出来る。

更に熱線によって高温となった粒子はレーザー単体よりもダイレクトに熱を与える事が出来るため、威力にムラが出ないという利点がある。

これだけ見るとビームがレーザーの上位互換に見えるかもしれないが、全く違う。

粒子を込める必要性からビームはチャージタイムが長く、かつ粒子と化学反応を起こしながら進むためレーザーよりも速度で劣る。

また、ビームは空気のある地球上では粒子の霧散率が高くなるため、バスターウェポンのように超弩級の出力と、放射能および霧散防止のレーザー式バリアコーティングが無ければ長距離への射撃には向かない。

前置きが長くなったが、バスター兵器同士の衝突はバリアとバリアが干渉してしまうため、先程シャルロットがやってのけた『射出されたバスター・ランチャーの熱線にバスター・キャノンの砲撃を当てる』事で、粒子の流れを一時的に相殺して止める事が出来てしまう。

 

つまりは使い勝手のレーザー、威力のビームという棲み分けが出来るという事である。

 

閑話休題、返す刀でアマデウスをロックオン、バスター・キャノンをもう一発放出するシャルロットのフェニックス・リヴァイヴ。

動きを止めていたアマデウスはあわや直撃と思われたが、そうはさせないのが愛妹のラウラだ。

「やらせんっ!」

庇いに入ったシュヴァルツェア・ガーベラの5段重ねのバリアの壁によって粒子の塊は防がれ、霧散していくのを見たシャルロットは、続けてミサイルを乱れ撃ちながら武装をビームライフルへとスイッチしていく。

「ラウラ!」

「綾の敵はわたしの敵だ!たとえおまえでもな!」

「もちろん、キミの事ならボクが誰より知ってる!」

「嬉しいぞ!」

ミサイルの雨と正確なビーム射撃をバリアフィールドで弾きつつ、大きく旋回しながらハンドマグナムでシャルロットを攻め立てるラウラ。

マイクロミサイルのような小粒では視界が悪くなるだけで決め手には遠いと判断し、片方の手にバズーカを抱え、周囲を巡るラウラへと撃ち返すシャルロット。

「タッグトーナメントの時の借りを返すよ、ラウラ!」

「敗北のクーリングオフは受け付けんぞ、シャルロット!」

時にブレードで斬りつけ合い、時に離れて撃ち合う黒と燈。

その瞳は絶え間なく動き、隙を探り合い、フェイクにすら使われる。

だがお互いの表情は、相手のため、相手を思うがゆえ強く、激しく、感情を浮かべ合うのだ。

 

「シャロの相手は任せますよ、ラウラ!」

指を振り、高速で近づいてくる鈴の道老龍へと向き直り、両手にトルキッシュ・マーチを構える綾。

目が合うとお互いにニヤリと笑顔を浮かべ合う。

「タッグ戦の時の様な無様は興醒めですよ!」

「お生憎!あの時のあたしと同じにしないでよね!」

マシンガンで迎え撃つ綾、三叉戟・雷公鞭を回転させながら弾く鈴。

ジグザグに回避しながら接近すると考えていた綾は面食らうものの、すぐに切り替えてグレネードを射出。

威力もそうであるが派手に黒煙を巻き上げるこれを撃ち落とすのは危険だ、そう本能的に判断した鈴は身体の向きを時計回りにターンしてギリギリ弾丸を回避、片手で雷公鞭を構えつつ、逆の手から乾坤圏による目に見えぬ空圧を放ちつつも加速する。

射角も弾丸も見えないそれを半ば勘で回避しつつ、ショットガンを準備しながら綾は冷や汗を拭う暇も無く感嘆の吐息をついた。

「本当に別人のようだ・・・!何が君を変えたんです!?」

引き付けてショットガンを放つよりも、雷公鞭の先端にエネルギーブレードがそそり立つ方が早く。

散弾を飲み込みながら巨大な光剣が振り下ろされる。

「決まってんでしょ!」

横に薙ぐようなクイックブーストで強烈な一撃をどうにか回避するアマデウス。

振り向きざまにショットガンを放つも、雷公鞭を盾に突撃してきた鈴の乾坤圏のゼロ距離打撃が、綾の腹部へと突き刺さる。

「お、ぐぅっ・・・!」

 

「あたしを変えるのは!成長させてくれるのはいつだって!愛と!勇気と!希望よっ!!」

 

「何キャラですか・・・!」

日頃から鍛えぬいてきた腹筋によりどうにか意識を繋ぎ留めつつツッコむ綾は、お返しとばかりにワンインチからのグレネードを放つ―――が。

まるでイナバウアーさながらに仰け反る事で躱してみせる鈴に、苦笑いするしかなかった。

「嘘だろう・・・!」

「いや今のはギリだっつーの!」

流石に肝を冷やしたのか宙返りしながら体勢を立て直した鈴の顔には冷たい汗がどっと吹き出していた。

荒く息を吐く鈴、その隙を綾は見逃さない。

「当てられないのなら!」

右手からグレネード、左手からショットガンで榴弾の誘爆を誘う綾。

途端に爆炎と黒煙が吹き上がり、鈴の行く手を散弾で阻みながら互いの視界を黒く染めていく。

「ああもう、うっとーしい!」

 

視界は奪った。

バスター・ランチャーのチャージを行いつつマシンガンで乱れ打ち牽制、これで至近距離からの長時間放射ならどんなに道老龍が速くとも捉えられない事は無い。

「間に合うか・・・!」

充填率を上げながらランダムにブーストし、撃ち続けながら鈴の気配を追う綾。

センサーの反応と綾の勘が鈴の位置を把握して片側のバスター・ランチャーを向けるがしかし、その瞬間に砲身へ深々と突き刺さる軟槍・打神鞭。

「なんとぉっ!?」

判断早くバスター・ランチャーをパージする綾、コンマ数秒を空けずに巨大な爆発を起こすアイネ・クライネ・ナハト・ムジーク。

まだ予備がある道老龍の軟槍と一撃必殺の武装たるワンオフのバスター・ランチャーの交換では、アドバンテージ的に損が過ぎる。

 

綾どころか夏休み中に近くにいたシャルロットやボゥイすら知り得ない事であるが、鈴は非常に高い感応力を有したエクシードだ。

例え目に見えなくとも、仮にその瞳が潰されたとしても、肌に触れる空気と第六感が相手の居場所を知らせてくれる。

愛する人ゆえに綾の気配を追う事の出来たセシリアとは違い、鈴ほどの力があれば、センサーに頼らずとも知りたい相手の位置を探る事など造作も無いのである。

 

衝撃に吹き飛ばされバリアを半分まで減らされた綾は、忌々しげに煙の向こうで会心の一打を放った鈴へと毒づいた。

「どんな勘をしている、野生動物め・・・!」

「動物?あたしは龍、神獣よ!」

「ならば僕は神に愛された男(アマデウス)ですとも!」

まだまだ闘志を消さずに道老龍へと銃口を向ける綾。

不利な状況であろうと、彼が諦める事など絶対にない。

乱射されるマシンガンを凄まじい速度で躱しながらも、鈴は心の中で綾へ尊敬の念を向ける。

「神に愛されたくらいで調子に乗らないでよね。あたしはあんたにだって感謝してるんだから」

 

道老龍を設計・ミキシングしてくれた事。

それが箒と並び立ち、連携し、シャルロット達の危機に駆け付ける切っ掛けともなった。

彼女自身気付いていないが、鈴がエクシードとして覚醒したのは道老龍を得てイメージ通りの戦い方が出来るようになった瞬間でもあったのだ。

何よりも、大好きな一夏をこんなにも大きく成長させてくれたのは、他ならぬ綾の存在があってこそ。

少なくとも鈴はそう感じていた。

その事がどうしようもなく嬉しくて、羨ましい。

 

「まだまだ、あんたにぶつけてやりたい気持ちはこんなもんじゃないわよ、ツルモリ!」

「こちらの台詞ですとも、鈴音ッ!」

綾が他人を呼び捨てや愛称で呼ぶ、それは紛れもない信頼の証。

自分達の中心、精神的支柱、心のリーダーたる彼にようやく認められた事を感じた鈴は、知らず知らずのうちに頬を紅潮させ笑顔を作るのだった。

 

 

暴風を撒き散らしながらリベリオンの大弓、イチイバルが宙を駆ける。

縦横無尽にブーメランの如き円状の軌道を描きながらリベリオンの手に戻ったイチイバルを受け止めたボゥイは、大きく息を吐きながら目の前の敵を睨んだ。

 

篠ノ之 箒、二刀のIS・赤雷。

 

接近戦を仕掛けようと、虚を突こうと動じず、柳の枝か稲穂のようにしなやかに捌きつつ、反撃を行うその妙技に、ボゥイは苛立ちよりも先に憧憬の炎が心に宿るのを感じていた。

「すげぇなお前さん!何やっても通じねぇとか惚れ惚れしちまうぜ!」

「何を呑気な・・・!」

対する箒は、この数分の戦闘の中で鮮やかに猛攻をかわしつつも、粘ついた嫌な汗がどっと溢れているのである。

 

戦闘の流れとしては、クラス対抗戦にて鈴と戦っていた時とほぼ同じ、接近戦で剛力を振るう甲龍を赤雷が受け流す、その焼き直しのようであった。

だが、今回明らかに違うのは・・・リベリオンのパワーが、甲龍のそれを遥かに凌駕しているという事だ。

さもありなん、ボゥイのISはツインコアドライブ搭載型も同然。

つまりは二機分のISのパワーを持っているのと同じなのである。

通常なら操縦している人間の身体が砕けかねないオーバーパワーであるが、そもそもリベリオンを操るボゥイ自身がISなのだ、ボディ強度は推して知るべき。

巨大な図体を持つアラクネ・ケントリアを押し上げる程の腕力と出力を持ったリベリオンが、細身の短剣たるダインスレイフであれど両手で振るえば、その威力は甲龍とは比にならない重さを持つ。

リベリオンの剛力により既に量産刀を三本折られている箒は、仕方なしとばかりに赤雷の奥の手である二刀、雨月と空裂を抜き放つ。

 

集団戦やコンビネーション戦ならともかく、一対一の戦闘において箒はこれを使いたがらない。

忌むべき姉が作成した刀だから、ではない。

そのようなセンチメンタルを持つ季節は過ぎた。

ゆえに、彼女がこれを抜くという事は、自身の技術のみで相手に勝つ事が出来ないという敗北を認めた事になるからである。

とはいえ。

 

「まあ・・・それもまた悪くないよな、赤雷」

 

夏の間、自身の手でメンテナンスを行ってきた自身のISへと語りかける箒。

大半の細かな作業をずっと綾に任せきりだった愛機、自分の家族をバラバラにした忌むべき機械。

なのに、実際に動かして、構造を知り技術の高さを学ぶ事で、ISというものがどれほど凄まじい技術の結晶であるかを思い知った。

戦場に立つときは自分一人だと思っていた。

これまで戦ってきたのは己の力だけだと感じていた。

なんて愚か。赤雷はずっと自分を守り、共に技を振るってくれていたというのに。

 

ISへの理解を増すごとに、箒は感じ取っていた。

赤雷という機体に、そのコアに確かな魂の様な意識の鼓動がある事を。

温かく、強く、自分を包んでくれている事を。

そんな赤雷を作った姉が、ただただ軽蔑していただけの姉が、どれほど雲の上の存在であったかを。

今なら分かる、きっと姉の視界は灰色にくすんで見えていたのだろう。

 

幼くしてこれほどのものを製作する技術を身につける程の才能があったのに、父母から厄介者扱いされていた彼女は、きっとどうしようもなく孤独であったはずだ。

簪と刀奈を見ていて更にその想いは強まった。自分もまた、姉と擦れ違い続けていたのだから。

私もまた、姉を差別していた一人だったのだ。

一度として理解する努力をしなかった。

剣道道場の長女として生まれながら真面目に剣を振らず、かといって家事を手伝うわけでもない姉。

父の怒りを正しいと思った。母の呆れた様子に共感した。

だから自分はしっかりしようと考えた。

姉の様な不真面目ではなく、父の期待に応え、母の喜ぶ顔が見たいと、そう思っていた。

両親の言葉や態度に従って姉と接していた。

それがどんなに愚かしく、矮小な行いかも知らずに。

 

本当に姉と心が離れたのはいつだっただろう。

ろくに練習もしてこなかった姉が、一方的に剣で父を打ち負かした時だったか。

それとも全国模試で一位を取った姉ではなく、学校の小テストで90点を取った自分を母が褒めてきた時だったか。

 

そんな自分だから、姉が鶴守 豪の技術を盗んでISを世に広めたと聞いた時は、それ見た事か恥知らずな姉め、と心の中で毒づいたものだ。

もしかしたら、姉には家族にも豪にも話せない理由があったのではないかと、考える事も無く。

 

こんな愚かな私にも、力を貸してくれたのは赤雷だ。

私は一人で戦ってきたのではない、自分の力だけで高みに達したのではない。

いつだってこの機体と、勝利も敗北も味わってきたのだ。

ならば自分は、ずっと姉に守られ続けて戦ってきた事になるではないか。

それこそが、赤雷を自分に授けた姉の真意だったのかもしれない―――。

 

「分かり合うために戦う。この学園に来て綾から学び、一夏やみんなと共有してきたこの志・・・今度は、姉さんと分かり合うために貫くべきか」

 

そうだ、自分はまだ束と正面からぶつかり合った事など無い。

いつも遠巻きから嘲るような目を向けていただけだ。

こんな篠ノ之 箒はもう卒業しよう。

でなければ。

 

「でなければ、胸を張って一夏や綾の隣を歩けんではないか・・・!」

 

人間という生き物が皆一枚岩ではない事はこれまでの経験で深く思い知った。

どこまで受け入れられるのか、どんな事を自分は許せないのか。

見極めこそが、自分という器を定めるというのであれば。

ああ、共に見定めよう赤雷。

私達は、弱いままではいられないのだから。

 

空裂から斬撃がエネルギーブレードと化して射出され、ゆるやかに回避するリベリオン。

動きを先読みして雨月のレーザー刺突で狙い撃つ箒。

照射される熱線による装甲の温度上昇を回転しながら和らげたボゥイは、仮面の下で不敵に笑いながら箒へとブーストを吹かす。

「いいねぇ、なんだかノってきたんじゃねぇかい、しのののののの!」

「馬鹿者!『の』が多いわ!」

お返しとばかりに投げ放たれたダインスレイフを弾き、迎え撃つ赤雷。

 

技の箒、力のボゥイ。

 

力任せに振るわれるイチイバルを二刀の連打で軌道修正し、隙を見せたリベリオンの装甲を幾度も斬りつけていく。

「ぬがっ!」

顔をしかめボゥイが今度は横薙ぎに大弓を振るうも、今度は合気道のように二刀で挟まれ投げ飛ばされるように体勢を崩す。

いいようにあしらわれながらも、声をあげて笑うボゥイ。

華麗にいなしているようで、一撃でも受ければ大ダメージに繋がる程の力に緊張感を増す箒。

 

「あっはっはっは!すげぇぞしののっのの!魔法みてぇだな!」

「だから変な呼び方をするな!私は篠ノ之 箒だ!」

「『の』が多すぎて覚えられねぇって!」

「ならいっそ箒と呼べ!」

「おーけぃ、のーき!」

「ほ、う、き、だ!!」

脳筋とも聞こえそうな発音に眉を寄せながら箒は思う。

どうしてこう、本音といい鈴といい自分を妙ちくりんな呼び方をしたがるのか。

 

中距離からの空裂での飛ぶ斬撃がリベリオンを大きく吹き飛ばす。

ダメージを堪えながらも持ち直したボゥイは、腕を大きく振ってイチイバルを格納する。

「ほんだばのーき、ちょいとオレの練習に付き合って貰おうかい!」

「のーき言うな!・・・練習だと?」

「オレぁお前さんみたいに一つを極められねぇ人間だ、色々目移りしちまうし、これと決める時間も持てなかったんでねぇ」

 

両手をパンと合わせ、何かをイメージし念を込めていくリベリオン。

その手から、量子にて精製されていく、巨大な鎖・・・柄・・・そして、2メートルはありそうな曲線の大鎌。

さながら三色の死神が命を刈り取らんと武器を掲げているかのようだ。

 

驚きに構え直す箒は、おそるおそると予想を口にした。

「もしや貴様・・・その武器、いまここで作り出したのか?」

「おう。シャル子のブルマ作った時にこういう事も出来るんじゃねぇかって思ってな。さっすがおやっさん、何でも出来るってのはいいもんだ!」

くるくると器用に巨大な鎌を回転させ、両手で構えるボゥイ。

 

「さぁ行くぜのーき!オレにどんな武器がしっくりくるか、満足するまで遊んで貰うぜ!」

 

「なんて奴だ・・・ようやく弓と小剣に慣れたというのに・・・」

ひくりと眉に皺をつくった箒だが、しかし負けじと双刀を握り直し、

「飽きさせん奴だ、ボゥイ!」

「折角生きてんだ、楽しまなくちゃあよ!」

「一理ある!」

 

槍としても刃としても鎖鎌としても使用できる大鎌・アダマスを大きく振りかぶって加速するリベリオン。

またも初めて相手する武器に集中して迎える赤雷。

鈴と戦うまでのウォームアップと考えていたが、そんな考えは迂闊にも程があった。

専用機持ちは、その中でも特に自分と同じ1年A組の全員は、油断や慢心で勝てる相手など誰一人として存在しないのだ。

 

改めてそれを思い知った箒は、大鎌という武器の攻め立て方に当然、苦戦する。

槍のように前から突き出されては、かわした筈の攻撃が背後から刃となって戻ってくる。

一定のリズムで返ってくるイチイバルの方がまだマシだ、致命的な一撃は横、上下、背後から絶え間なく襲い来る。

更に獲物が大きいというのが厄介だ、槍の様に前方へ構えられるだけで接近するルートが限られてしまう。

「おらあああああっ!!」

更に、柄の先についた鎖を振り回して、巨大な大鎌を力任せに叩きつけるボゥイ。

器用にして豪快な攻撃に焦りつつも距離を置いて斬撃と砲撃で迎え撃つ箒。

つい数年前まで指一本動かした事が無いなどと思えないほどの器用さである。

何か一つを極める暇が無かったなどどの口が言うのか、彼は死ぬほどの思いでここまでの手先の器用さを極め続けてきたのだ。

 

「武人ではないが修練の鬼か、恐ろしい男だボゥイ・シューマッハ!」

「おっ、なんだいのーき?オレに惚れちまったかい?」

「これで馬鹿でなければ尊敬できるのになぁ!!」

力は豪鬼、発想は絹、動きは羅刹、されども中身はバカという型破りなボゥイに心から残念な想いを溜息混じりの叫びへ変える箒である。

しかし、気取らないボゥイだからこそ、気安く接する事が出来るというのもまた事実なのである。

 

 

後退しながら戦闘を続ける箒、追うボゥイ。

やがてラウラとシャルロットの戦闘空域へと近づいていく。

「むっ・・・!」

突かず離れずの距離でシャルロットの【砂漠の逃げ水】を磁力操作でいなしていたラウラは、横手に箒の姿を確認すると左手から宝玉を射出。

「!これ以上好きにさせないよ!」

ボゥイに宝玉を取りつけ、既に自身の左足に接された宝玉を反応させて一纏めにしようと考えているのだろう、ラウラの狙いを読んだシャルロットはすぐさまスナイパーライフルで宝玉を狙い撃つ。

「ふんっ!」

しかし、時速40km程度で前進していた宝玉は、唐突にその挙動を変えて弾丸を回避し一気に加速する。

「!?動きが変わった!?」

「わたしがどれだけあの女にしごかれたと思っている・・・!」

うんざりするような夏の一か月を思い返しつつ、ラウラは意識の一端を宝玉へ向けて隙の出来ていたリベリオンの背中へと設置させる。

 

ラウラはエクシードとして覚醒している。

具体的にいつ目覚めたのかといえば、実のところシュヴァルツェア・レーゲンがモルドスライムへと変化し、体力的に極限まで追い込まれた瞬間であったのだが。

薄れ、遠くなっていく意識の中で、ラウラはレーゲンの声を聞いた気がしていた。

ただ一言、「すまない」と。

ぼんやりと病室のベッドでそれを思い出したラウラは、自分こそポンコツ呼ばわりして悪かったな、と呟いたものである。

 

そんなラウラは夏休み中、豪の助手たる先輩エクシードのレティシア・S・ジェンキンスによりその力をより有効的に使える様特訓を施されていた。

電磁宝玉はバーニアや慣性ではなく、自身の脳波と電磁力により浮遊し、移動を行う。

これを上手に動かすには多大な苦労があった。ラウラはセシリアやレティシアよりも脳波放出において力が弱めであったのだ。

 

だが、簡単に諦めるラウラではない。

諦める事など、鶴守家の一員となった瞬間より、己の辞書から破り捨てている。

 

ついには最後の一日でレティシアへ宝玉を設置させるに至った彼女のエクシードとしての本領は、ISとの高い適合率にこそある。

ISとの適合率のランクは高くてAから低くてDの間にて定められる。

これはISコアの力の引き出し加減や、動作のレスポンスの早さのパーセンテージで決定されるものだ。

豪の研究所でラウラが適合率を測定した際、弾き出された数値は限界値である100%を超えており、実質的な測定不能、ランクSと言って差し支えないレベルであった。

綾やセシリア、シャルロットですらランクA、90%台というだというのに、これを軽く凌駕するラウラの資質は凄まじいの一言に尽きる。

もはやラウラはシュヴァルツェア・ガーベラと一心同体、むしろ自分の手足よりも自在に動かせると言って過言ではないのである。

 

豪曰く。

「でなければグングニールをあそこまで使いこなせんよ。あれもアメイジング・グレイスと同じく人間の手に余る能力だ、少しのレスポンス遅延とイメージのズレがあるだけで、自分自身の動作速度で骨は砕け、筋肉は千切れちまうだろう。それをあんな自在に操れるなど、ISを駆るという一点に於いてラウラは織斑 千冬を超えておる」

 

さすがおれの孫、と締めた豪の言葉通り、ラウラはISを創生した鶴守家の血縁として申し分のない才能を発揮しているのである。

「いけいっ!」

ラウラが念じると、ボゥイとシャルロットにへばりついた宝玉が勢いよく引き付け合う。

力自慢のファング・クエイクが動きを完全に封じ込められる程の強烈な磁力に、さしものツインコアドライブ搭載機であるフェニックス・リヴァイヴとリベリオンも機体を軋ませてしまう。

「うおおおっ!?」

唐突に後方へと弾き飛ばされるように吸い寄せられるリベリオン。

同じく引き付けられるシャルロットはしかし、ラウラと戦うに際して何の準備もしてこなかったわけではない。

「このおおっ!!」

苦し紛れにバスター・キャノンをラウラへ向け発射するフェニックス・リヴァイヴ。

余裕をもって回避するシュヴァルツェア・ガーベラであるが、しかし足元に妙な違和感を感じて視線を向けると、バスター・キャノンを構えたフェニックス・リヴァイヴの下腕部からワイヤーが伸び、先端のアンカーフックが脚部装甲に突き刺さっているではないか。

シャルロットが電磁宝玉をつけられた場合を想定して装備した小型ブースター付きのワイヤーアンカーである。

「バスター・キャノンを目くらましに・・・!」

「バリアで弾かれたらたまんないからね!」

にやりと笑うシャルロットによって、自身の磁力で引っ張られていくラウラとシュヴァルツェア・ガーベラ。

これで少なくとも、電磁力で吹き飛ばされる時はラウラを道連れに出来るという寸法だ。

決定的な勝敗の要因にはならずとも、そういった相手をかき乱す要素を積み重ねる事こそが勝利への第一歩となる。

 

「ボゥイ!」

「おうよシャル子!」

どうにか背中ではなく正面からフェニックス・リヴァイヴと向き合ったボゥイは、飛来してきたその足を掴んでジャイアントスイングよろしく回転しながら振り回していく。

もちろんラウラを道連れに、より遠心力を加えつつだ。

「め、滅茶苦茶かお前達っ・・・!」

腕のブレードでワイヤーを切ろうにも遠心力が強過ぎて手が足元まで届かない。

バーニアを吹かして押し上げてくるアンカーにより、ダイレクトにシュヴァルツェア・ガーベラへと力を伝えて回転させ、動きを封じているのだ。

「ラウラ!」

すぐさま箒がカットに入ろうとする、が。

「くらえーーーーっ!!」

リベリオンに横回転させられながらビームライフルを照射するシャルロット。

遊園地の夜を奔るレーザービームよろしく、高熱の粒子砲が360度をむやみやたらに駆け巡っていく。

「くっ・・・!容易に近づけんか!」

ワイヤーに接近する事を許さんとばかりに放出されるビームに行く手を阻まれる箒、段々と目を回していくラウラ。

「フィギュアスケートの選手じゃないんだぞ・・・!こ、これ、止まったら吐くやつだ・・・!」

青ざめながら、背部ビームキャノンでどうにかワイヤーを狙い撃って焼き切ったラウラは、そのまま放り出されて遠くへと弾き飛ばされていく。

 

「今助ける・・・!」

そのまま見送る箒ではない。イグニッションブーストにより追い付き、シュヴァルツェア・ガーベラを受け止める赤雷。

くりんくりんと首と目を回すラウラの肩を支え、必死に呼び掛ける箒。

「おいっ!大丈夫か、ラウラ!?」

「う、うむ・・・らいじょうぶら・・・おろろろろ」

「うわあああ吐くな、吐くなー!」

白目を剥いてげろげろと吐瀉物を地面へ向け垂らしていくラウラ。

風に吹かれてきらきらと輝くそれは汚物とは思えない光を放っている。

赤雷の足にひっかかりそうなのをわたわたと避けながら、箒はへろへろになったラウラに肩を貸してその場を離れていった。

 

追撃しようにも出来ないのはボゥイとシャルロットも同じだ。

ラウラの磁力操作から解放されたものの、二人とも目を回してゆっくりと高度を下げて吐き気を堪えつつ互いの健闘を称え合う。

「おえぇっ、ぎ、ぎぼぢわるっ・・・」

「う、うまくいったけどボゥイ、回し過ぎ・・・うえぇっ・・・」

失敬、そこまで称え合ってはいなかった。

 




後半へつづく。(キートン山田風に)

あと粒子砲の設定は適当です。
実際の化学法則とは齟齬がありますのであしからず。

うちの世界ではビームとレーザーの違いはこんな感じってだけよ!
僕自身よくビームとレーザー書き間違えるしね!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。