インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
メインは箒VS鈴。決着です。
ラウラ&箒、ボゥイ&シャルロットが一時休戦して回復に努めていると、その間の宙域にて綾と鈴がほとんどゼロ距離にて格闘し合い、もつれあって飛び込んできた。
外部装甲を大きく破損しているものの、未だ健在なアマデウス。
散弾を受けてそこかしこに傷やへこみをつけた道老龍。
「くっ、このっ!なんでこんなっ、殴り合いに強いのよっ、あんたはっ!」
「中国拳法こそ最強だとっ、思ってましたか!?僕なりに、格闘技はっ!研究して、研鑚、してきたんです・・・よっ!」
流れる様な鈴の拳打を的確に弾き、放たれる蹴りを受け流し、腰にマウントしたままのトルキッシュ・マーチで散弾を放ってバリアを削りゆく。
綾は両親を喪い、ISで戦うと決めた時から、戦うための技術を磨き続けてきた少年だ。
生前に父が遺した軍隊格闘術のハンドブックを片手に体力を作り、空手道場やボクシングジムに通い、合気道を学びに隣町まで走って通っていた。
出来る事は何でもやってきた。ひたすら貪欲に、あらゆる分野を吸収していった。
その中には中国拳法だって含まれていた。
身体に叩き込み、磨いてきた技術は最終的に彼自身の研究により我流の格闘術へと変化していき、文字通りの総合格闘技として綾の中で完成した。
綾には才能が無い。
されど情熱と覚悟だけは備わっていた。
365日、身体を壊しかねない負荷をかけ続けてきた身体に、吐きそうになるのを堪えながら栄養価の高い食事を詰め込んで、そうして仕上がったのが今の綾なのだ。
才能の遅れを努力と知識と反復によって埋め、劣勢を熱意と諦めない心でカバーする。
この積み重ねこそが、近接戦闘最強と思われた道老龍の鈴にすら追いすがる勢いを見せつけているのである。
まさか近距離戦闘で遅れをとるなどと思ってもいなかった鈴であるが、短絡的に距離を離すわけにもいかない。
槍の間合いならまだしも、それ以上離れてしまうと射撃主体のアマデウスの思うつぼだ。
当然、存分に槍を振るえる距離へ離脱しようと試みる鈴。
逃すまいと腕を掴み、バーニアを吹かす綾。
鈴は知る、いまだ心のどこかで綾という男を侮っていたという事を。
ほとんど校内にアマデウスの性能が知れ渡り、実力者の中で対策・研究が住んでいても尚、IS学園内の上位にいる理由を。
「あんたとそのIS、死ぬほどベストマッチって事ね・・・!」
「最高の誉め言葉をどうも!」
接近戦は綾の管轄。
射撃戦はアマデウスの領域。
人機一体となって距離を選ばず器用に戦闘を行えるインフィニット・ストラトス、それが鶴守 綾とアマデウスなのである。
「阿鈴っ!」
そこへ、いち早く回復したボゥイが全力でブーストを吹かして駆け付ける。
アマデウスと道老龍の間に割り込ませる様にイチイバルを投げ飛ばし、目の前に集中しすぎていた綾が面食らって後方へ回避すると、入れ替わる様にラウラと箒がやってきた。
「おい、もう大丈夫なのかラウラ!?」
「問題ない!吐いたせいで腹が減ったがな!」
「そも、どうして吐く様な事態に陥るんですか!」
「向こうに言ってくれ!」
必死に道老龍を抑えている間、仲間の二人が助けに来てくれなかった事を揶揄して毒づきながらも、綾は両手に銃をとってリベリオンへと深く重いビート音を撒き散らしながら速射砲を放つ。
「今度の相手は君ですか、シューマッハ!」
「おっ、いいねぇかかって来いよ少年!シャル子!急げ!」
「ごめん!お待たせ鈴!」
「おっそいわよ!」
そして、こちらはやっとカットに入ってくれたボゥイとシャルロットへ八重歯を向ける鈴である。
眩暈から回復したシャルロットは申し訳なさそうに謝ると、近接専用の合金ブレードを両手に抜いて箒の赤雷とかち合う。
「ご指導ご鞭撻頂けるかな、箒っ!」
「いいだろう、加減はせんぞシャルロット!」
がつん、がつんと小気味良く、金属同士が打ち付け合う音が鳴り響く。
それを横目にしながらも鈴は、下方向からハンドガンで狙い撃ってくる銀髪の妖精へと意識を集中する。
「構ってやるぞ嫁二号!嬉しいだろう!」
「だから誰が嫁だっつのよ!!」
雷公鞭を抜き、シュヴァルツェア・ガーベラの両腕のブレードの届かない距離から連続で突く鈴。
だが、固めの槍の挙動は軟槍たる打神鞭に比べれば反動を利用したムーブが無い分追いやすく、防ぎやすい。
ハンドガンを撃つ手は止めず、迫る三叉戟の先端はバリアで弾く。
舌を撃つ鈴。
実際に戦闘しているところは見てきたが、これほど厄介な能力とは。
「私のために飯を作ってくれる者の事を嫁と言うのだろう?ならばおまえも嫁ではないか!一夏がファースト嫁だとしたら、鈴はセカンド嫁だな!」
「ど、どっかで聞いた言い回しすんじゃないわよっ!」
やはりずれたロジックで瞳を輝かすラウラ。またもセカンド呼ばわりされてこめかみに皺をつくる鈴。
このあたり、似た境遇でもラウラよりマドカの方が良い教育を受けているように感じられなくもないが気のせいであろうか。気のせいですね。
「うるぁああああっ!!」
「こんなものっ!」
勢いよく大鎌を振るうボゥイ、グレネードで返す綾。
何の警戒も無く撃ち落とされた榴弾は、派手な爆発と濃ゆい黒煙をもうもうと立ててボゥイの視界を奪う。
続けて両手からのマシンガンを乱れ撃つアマデウスであったが、煙の中から一本の棍が鎖の擦れる音を鳴らしつつ飛来し、綾の腹部へと痛烈に衝突。
「ぐぅあっ!」
油断していたところへの想定外の攻撃、二度目の腹部へのダメージにさしもの綾の筋肉繊維も悲鳴をあげ、吐血と共に大きく吹き飛ばされるアマデウス。
ボゥイは煙越しに手応えを感じると三本に外れて伸び切っていた棍を引き戻し、くるくると回転させてから腰の後ろへと構えた。
「ひゅう、こりゃ使いやすいや!」
三節棍・フルンティング。
1メートルごとに分割できる三本の鉄棍の内部を、分厚い鎖で連結し、分離・結合を可能とした棒である。
フレイルのように振り回して使う事も、関節部を伸ばして射程を伸ばすも技術次第。
更に、ボゥイの扱う棍は両先端に小型のパイルバンカーを仕込んでおり、突きの威力を恐ろしいまでに跳ね上げている。
もちろん豪が設計して持たせたものではない。
ボゥイ自身がこの場で発想し、精製した武装だ。
その割にフルンティングの構造やギミックが細かく練られているのは、夏休み中行動を共にしたシャルロットと鈴の存在が大きいのだろう。
パイルバンカーはシャルロットのフェニックス・リヴァイヴから、棒状の武装は鈴の道老龍から着想を得たものだ。
そういったナレッジを元に自分なりの武器として鎌や三節棍を作ってみたのだが、想像以上に彼のツボに嵌る何かがあったようだ。
「オレぁ大雑把でね、このパワーを活かせるような武器が欲しかったんだ!」
「戦闘中の武装作成・・・!?戦いながら進化するとでもいうのか・・・!」
空中で制止し、逆さの景色から黒煙を突っ切って向かってくるリベリオンへと驚愕の表情を浮かべる綾。
豪からボゥイの詳細については聞かされている、だがこんなにも自在に武装を作成出来るものなのか。
それとも、脳とダイレクトに繋がれているといっても過言ではない心臓のコアが、彼のイメージを正確な設計図として認識しているとでも言うのか。
(どちらにせよ、シューマッハは完全にISと同化して・・・?お爺様はそれを想定して彼をISにしたのか?それとも・・・)
疑念、不安が渦巻く綾の胸中。
豪だけではない、綾もまたクローン体である祖父の後継者を完全に信じられないというジレンマと戦っている。
信じたいけれど難しい、人間の心とはそう単純にはいかないのだ。
このままボゥイがISとの同化が進めばどうなってしまうのか、完全に解析する知識のない綾には想像がつくべくもない。
(何が起こるか分からないから無茶な行為を繰り返すなと忠告すべきか?いや・・・)
言ったところで大人しく聞く男でもない。
また、綾も一人の技術者として―――彼の行く末を見てみたいという好奇心がある。あってしまうのだ。
「人間失格なんてレベルじゃないな、僕も」
ひとりごち、自分を苦々しく嘲笑う。
そんな綾の自虐に気付いているのかいないのか、仮面をつけたボゥイの表情からは読み取れず。
「ノってきたぜ少年!まだまだ付き合って貰うからな!」
「良いですとも、全力でぶつかり合うのが僕の流儀だ。やりたいようにやってみせるといい!」
そうだとも、僕はいつだってそうしてきた。これからも変わらない。
持てる力の全てで立ち向かい、見定めるのが鶴守 綾のやり方だ。
例え戦う相手が不安感であったとしても、ならばこそ打ち砕いてみせようとも。
「へっへっへ、オレぁお前さんの事嫌いじゃねぇな、少年よぉ!」
「そういう気持ち悪い言い回しは一夏だけで間に合ってますから!」
旋風の様に棍を振って接近するボゥイ。
両手のトルキッシュ・マーチで撃ち返す綾。
世にも珍しい男性IS使い達の激闘は、はげしさだけを増していく。
その間も二刀対二刀、赤雷対フェニックス・リヴァイヴの接戦は続く。
ボゥイが魔法と称した箒の刀撃はしかし、取り上げる程特徴の無いブレードにて弾かれゆく。
最初の攻防こそ箒有利であったが、次第にシャルロットが赤雷の動きに合わせてきているのである。
「成程、綾が天才だ羨ましいだと絶賛するわけだ・・・!」
無遠慮な悪友かつパーソナルブレインたる親友の顔を想い馳せながら、箒は苦笑いする。
シャルロットは、チーム【ゼクス】と戦う前から、映像やデータからの研究を怠っていなかった。
実際にこうして箒の得意な近接戦闘を体感してみるとやはり実戦とイメージは違うものであるが、実戦とイメージの擦り合わせの早さが非常に早い。
振るわれたブレードを迎え撃つ刀をもう片方のブレードで受け止め、もう一本の刀は肩アーマーで受け止めて当てに来る。
かといって攻めに奔る赤雷の攻撃は素早いヒット&アウェイにより銃撃と接近を繰り返して撹乱する。
柳のように流し、穿つ篠ノ之の奥義の数々を、あっという間に見切り、対応し、吸収していくのだ。
「本当に強いな、シャルロット・・・!お前と戦っていると、ISでの戦いというものを嫌でも思い知る!」
「その心は!?」
「己の剣技と赤雷の砲撃だけでは足りないと痛感させられるという事だ!」
事実、装甲の厚いフェニックス・リヴァイヴには肩部カノン砲の威力は通じず、上記の通り剣技も今や通りにくい。
且つ、箒にとって福音戦の時に見せた神速の居合いは、自由自在に放てる高みには未だ遠い。
基礎機体性能も、出力も上位の機体を相手に、技術でも大きな差がつけられないとなれば、箒からしたら絶望的な戦力差に感じられていた。
今はまだシャルロットにも、フェニックス・リヴァイヴにも届かない。
それでも、今勝つべく挑むとすれば、残った箒の武器は数少なく・・・そして、何よりも強力。
「綾!ラウラ!手伝ってくれ!」
「珍しいですね箒!君からそんな要請が来るとは思いませんでしたが!」
「当たり前だ、私個人で足りない部分はチームワークで埋めるしかあるまい!」
「執念深く貪欲に勝ちにこだわる、それはわたし達も同じだぞ、っと!」
リベリオンからイグニッションブーストで瞬時に距離を離した綾は、追ってくるボゥイへと反転しながらバスター・ランチャーを放ち、その反動は殺さずに更に後方へと飛ぶ。
「うおおっ!?」
棍と左腕を焼きつかせながらもどうにか生き延びるリベリオン。
彼がIS人間でなければ死に至ったかもしれない容赦のない砲撃だ。
「やるねぇ少年・・・!いや、オレがやらなすぎるのかねぇ・・・!」
悔しそうに装甲を溶かした腕を抑えるボゥイ。
この学園の専用機持ちには、リベリオンのパワーに頼った戦術と奇想天外なボゥイの発想だけでは太刀打ちしきれない事を感じ取ったのだ。
リベリオンが量子を収束して腕を修復している間、雷公鞭のビームソードモードをバリアで防いでいたラウラは道老龍へと宝玉を放つと一気にバックブーストして箒の元へと向かう。
「すまんなセカンド嫁。ちょっと友人に呼ばれたがすぐ戻ってくるぞ」
「旦那目線やめろっつーの!」
即座に回避し、爆発的な速度でシュヴァルツェア・ガーベラへと追い付いていく道老龍であったが、その背後からかわした筈の宝玉がバックパックへと接着され、ぎょっとした顔をする鈴。
あんな速度の遅い宝玉、たとえいくらか脳波で操作できるとはいえ道老龍に追い付けるはずがない。ならば。
「宝玉自体を、機体の磁力で引き戻したってワケ・・・!?」
「察しが良いな、鈴!」
片手を向けて念じる事で、宝玉は電磁ネットで道老龍を絡めとると反発する全開の磁力でシュヴァルツェア・ガーベラから遥か遠くへと吹き飛ばしていく。
「んぎゃーーーーっ!!おーーーぼーーーえーーーてーーーろーーーっっ!!!」
「いつまでもわたしの心で生き続けろ、愛しい嫁よ」
わたわたともがきながら反響する捨て台詞を吐く鈴へと、左腕を肘で折り曲げ指を二本立てた敬礼で見送ったラウラはくるりとターンして箒を追い詰めゆくシャルロットへとビームキャノンを放つ。
「!?ラウラっ・・・!」
赤雷へと振り上げたブレードを止めてサイドブースト・クイックターンで回避するフェニックス・リヴァイヴ、追撃のマシンガンで狙い撃つアマデウス。
「リョウっ!」
「チャンスですよ、まずシャロから討ちます!」
「承知した!」
「任せろ!」
挟み込むように接近戦を仕掛けに行く赤雷とシュヴァルツェア・ガーベラ。
一対一であればイニシアチブを握れたシャルロットのフェニックス・リヴァイヴも、三対一―――上方から威力の高いアマデウスの射撃を受けながらの戦闘では分が悪い。
「だったら・・・!」
シャルロットはバイザーを下げ、またもバスター・キャノンを出現させる。
「・・・!?この状況でバスター・キャノンだと!?」
「惑わされるな箒!そいつは囮だ!」
反射的に手を止める箒であったが、気にせず接近戦を続けるラウラの叱咤により我へと還り二刀を再び振り直す。
そう、ラウラの言う通りバスター・キャノンは囮。
本命はしかし、ラウラにすら知られていない隠し玉―――。
「これでっ!」
砲身を切り裂かれて使い物にならなくなったバスター・キャノンの下側、チーム【ゼクス】の死角から一本のスプレー缶のような何かを手に取ったシャルロットは地面方向へとブースト。
巨大な砲塔をパージしたシャルロットは、相手三人の視線がこちらへ向けられている事を確認するとスイッチを入れ、缶を放り投げた。
刹那、暴力的なまでの閃光と耳障りな騒音が綾達の網膜と鼓膜を焼き付ける。
「くぁっ!?」
「フラッシュバン?!やってくれるシャルロット・・・!」
「皆、その場に留まらないで!何とか離脱を!」
距離もあって視界が塞がれただけで済んだ綾、偶然刀が影となって瞼を閉じる事が出来た箒だったが、直接光と音を受けてしまったラウラは反射的に全身を縮こまらせてしまう。
フラッシュバン―――正式名称としてはスタングレネード、閃光弾である。
マグネシウムを主とした原料を燃やす事で発生する強烈な光と高デシペルの爆発音により、周囲にいる者の方向感覚や視界を奪う、非致死性の爆弾である。
これにより視覚・聴覚を奪い去り、酷い時には脳の防護機能により人体を縮こまらせ、反射的に身体の自由を奪い取ってしまうのである。
「まずいっ・・・!」
ふらふらと下がる箒をよそに、全身を動かせないラウラは全方位へとバリア出力を全開にする。
ラウラを抱えて離脱出来れば最良であったが、現在の箒の状態では無理というもの。
しかし、バイザーによる網膜保護と耳への静粛性によりスタンの影響が無いシャルロットも、ここで使うべきバスター・キャノンを失っている。
ラウラを討ち取る絶好の機会、だがまだシャルロットにも手が残っている。
彼女にもまた存在するのだ、仲間という最高の力が。
「いけぇボゥイーーーーーーッ!!!」
「フェルミオンッ!!ブラスターーーーーーーーーーーーッッ!!!!」
凄まじい威力と射程距離・効果範囲を持つ緑色の粒子砲が戦域へと唸りをあげて迸る。
離れた位置にいたアマデウスすら回避せざるを得ないリベリオンの波動砲のフルパワーが、離脱しきれなかったシュヴァルツェア・ガーベラへと直撃し、トン単位の激流に似た粒子の奔流が重ねがけされたバリアフィールドをみるみるうちに壊していく。
「くああああっ!!こ、これほどとは・・・!!」
次第に感覚を取り戻してきた指先を震わせながら、負けじとバリアのスクラップ&ビルドを繰り返すラウラ。
「ラウラっ!!」
泡を食った綾は狙撃用バイザーを起動、動きを止めて粒子の放出を続けるリベリオンへ向けてバスター・ランチャーを放つ。
視界を少し奪われているとはいえ、アマデウスの精密性は回避運動を行わない標的へ直撃させる事など造作も無く、斜め上からフェルミオンブラスターの放出口たるISクリスタルを痛烈に灼きつけてバリアを奪い、大きな爆発へとつなげていく。
「うおっ・・・があああああああっ!!!」
大きく吹き飛ばされて勢いよく地面へと落下し、背中から地面へ激突したリベリオンはバリア残量をゼロにして敗退となった。
同時にもう一機。
「やって、くれますね・・・シューマッハ・・・!」
視界を奪われていた隙に投げ放たれたボゥイの大弓・イチイバルと、大鎌・アダマスが弧を描いてアマデウスのバーニアとバスター・ランチャーへと突き刺さり、こちらも誘爆と共に綾を戦闘不能へと追い込んだのである。
「ぐおおおおおっ!」
「綾っ!」
くるくると回転しながら落下しつつも、白土と自分の間にエアバックを挟んで致命傷を避ける綾。
フェルミオンブラスターの餌食からどうにか逃れる事が出来たラウラもまた、バリアフィールドを突破され、本体のバリアスキンが少し残った程度の虫の息。
そこへ、箒によるカットインよりも素早く、ラウラへ向けフェニックス・リヴァイヴがパイルバンカーを構えてイグニッションブーストを敢行する―――。
「しまった、ラウラ!」
「いっけぇええええええ!!」
力を使い果たしたラウラに避ける力は無く、残りのバリアスキンが破壊力の塊たる杭打機によって奪い去られ、脱落のブザーと共に落下するラウラ。
「・・・ふ、わたしを倒すのはやはりおまえか、シャルロット」
「ラウラ・・・!」
「良い戦いだった。後でまた話そう」
「うん、後で・・・!」
息を切らせながら頷き合うシャルロットとラウラ。
「―――後でと言わず、今往くがいい」
イグニッションブーストと共に、油断しきっていたフェニックス・リヴァイヴの背中にあるバーニア接続部を居合いの一閃と共に切り裂く箒の赤雷。
気付いた時にはもう遅く、加速及び姿勢制御のための機能を奪われたシャルロットが違和感に振り返ると、空裂から放たれたエネルギー刃に直撃され、もともと減らされていたバリアの残量をすべて失ってラウラの後を追う。
「ほ・・・箒、いつの間に・・・!」
「すまんなシャルロット。お前を真正面から討ち取りたいのは山々だが・・・」
俯瞰しながら脱落したシャルロットを眺め、一刀を空振りさせてから納刀しつつ箒は言う。
「流石に、仲間を討たれては私とて怒る」
「・・・うん、それでいいと思う」
仕方なさげに頷いたシャルロットは惜しむように手を伸ばしつつ、最後に残ったチームメイトへと言葉を遺す。
「―――あとはお願い、鈴」
チーム【ゼクス】、チーム【デスペラード】、お互いに残り1名。
最期まで戦場に立つのは因縁の相手。
シュヴァルツェア・ガーベラの磁力から解放された鈴の道老龍が駆けつける頃には既に遅く、チームメイトも敵の数も無くなっていて。
ただ、お互いが最も戦いたかった相手だけが、この広く大きなスタジアムに取り残されていた。
「箒」
「鈴音」
名前を呼び合い、軟槍を構え、刀を抜く。
その瞬間。
箒の赤雷が、淡い光に包まれ始めたではないか。
うっすらとした赤に染められていく赤雷のボディを無表情に見つめる箒、特に違和感も無く受け入れる鈴。
この現象を、IS学園に在籍する全ての者が知っていた。
「セカンドシフト、ですわ・・・!」
二次移行・セカンドシフト。
一学期のトーナメントにてセシリアのブルー・ティアーズが成し遂げた、インフィニット・ストラトスのアップグレード現象。
ISには、正確にはISコアには疑似的な人格が存在するとは研究者の中で通説として扱われており、操者との相性や繋がりによってそれが強く発現し、より己のマイスターの力となるべく最適なボディや武装を自ら設計して顕現させ、進化させる。
そこまでの高みへと至る者は少ないものの、既にIS学園1年生にしてセカンドシフトへ辿り着いた者が二人―――セシリア・オルコットと、織斑 一夏が前例として存在する。
二人は自らが追い詰められた際に負けられないという思いに呼応して、ISがセカンドシフトを行ったが、赤雷のコアはその前から自らを高めようという意思を見せている。
それは自分の主人が相対する者が因縁の相手であるからなのか。
自分より格上のISへ立ち向かうための牙を求めたのか。
鈴は何も語らない。
やるならやれ、それであたしは負けはしない。
自信に溢れ、箒と戦うために、勝つために槍を持つ彼女の瞳がそう語っている。
言われずともその気持ちを目と目だけで察していた箒はしかし、ぐっと胸を抑えると戒める様に言った。
「余計な手出しをするな、赤雷」
ぴくり、と鈴が口をへの字に曲げる。
その言葉に唖然とする綾、ラウラ。
信じられないとばかりに、待機室のモニターを食い入るように眺めていた一夏すらも、立ち上がる。
なぜだ箒。
セカンドシフトは言葉を持たないISからの協力であり信頼の証だ。
夏休み中、いや、あの福音と戦ってからずっと赤雷を理解するための努力を続けて来たじゃないか。
どうしてこのタイミングで、ISからの想いを放棄するんだ。
一夏の疑問に応える様に、箒は自らの機体へと向け厳しく言の葉を紡いでいく。
「これが他の連中との戦いなら、負けられない戦いなら、命を賭けた決戦であればお前の力も借りよう。だが・・・今だけは、目の前にいるあの女へ挑みたい私の願いを優先してくれないか」
次第に光は勢いを失っていく。
箒は、最後の最後に残った宿敵・凰 鈴音との戦いに際してだけは、自らの執念を貫こうとしている。
ISマイスターとしての篠ノ之 箒ではなく。
剣士としての篠ノ之 箒でもなく。
ただ一人の名無しの女として、恥も外聞も無く挑みたい。
全てをかなぐり捨てて挑むのに、新装備など必要ないだろう。
自分の手にはたった二本、刀が握られていればそれで良いのだから。
やがて光は絶え、自然とカノン砲ごと肩部装甲をパージして落とす赤雷。
きっと彼女は呆れているのだろう、ようやくISとの繋がりを意識して大切に思い始めた主人が、やはり手に負えない頑固者の意地っ張りである事に。
この土壇場で赤雷の力添え抜きで、自分だけの力で戦おうとする操者に。
だからこそ、装備のほとんどを放棄してしまったのだ。好きにしろ、と。
そう解釈した箒は、苦笑いを浮かべながらもそうして欲しかった自分の願いを聞き届けてくれた相方へと感謝の念を抱いた。
「・・・ありがとう、赤雷。まだ私はお前と戦いたいのだ」
もしセカンドシフトするのなら、つまりはここまで戦ってきた赤雷がいなくなってしまうという事。
あの勝利も、喜びも、痛みも、悔しさも、共に感じ取ってきた彼女が、消えてしまう気がして。
いつか別れはやってくる、それは分かっている。
ならばこそ、その瞬間が予め分かっているのだから、最後まで華々しく戦わせてやりたい。
そんな想いも、箒の中にあったのだ。
だから鈴音との決着は、赤雷のままつけたい。
一夏の白狼のように痕跡すら残さず朱雀へ変わるのならば、ここにいる全ての者へ刻み込んでやろうではないか。
篠ノ之 箒に赤雷在りしという、存在証明を。
二刀を構えた箒は改めて、鈴へと向かい合う。
「待たせた。さあ、始めるか」
対する鈴は、つまらなさそうに言う。
「あっきれた。大人しくセカンドシフトしてた方があたしに勝てる可能性も上がったのにさ」
「我ながら愚かしいと思う。だが、赤雷のままお前に勝ちたいのは私の悲願だ。赤雷とおまえに挑みたいのは私の我儘だ。すまんな」
「謝るくらいなら最初からすんなっつーの。このままあんたにISの性能差で勝ってもスッキリしないから、一個だけハンデをあげるわ」
鈴は槍を肩に担ぐと、眉を顰める箒へといつもの調子で、まるで悪役を演じるかのように提案してやる。
「地上戦と空中戦、どっちが得意?」
ざわつく観客席、驚きに顔を見合わせる1年A組の専用機持ち達。
最初から鈴は箒と対等な立ち位置で戦いたいと願っていた。
だからこそ、ハンデも何もなく、はじめからこの提案をするつもりであったのだ。
にやりと笑った箒は構えを解く。
「地上戦だ」
「じゃあそうしましょ」
すぅっとまっ平な白土へと高度を下げていく赤雷と道老龍。
綾とおんぶされたラウラ、肩を支え合いながら通路口まで辿り着いたボゥイとシャルロットが直接見入る中、ゆっくりと地に降り立った二機のISは、バックパックに接続されていたウイングやバーニアを全て外し、互いにISとしての装備は腕部と脚部、近接戦闘武器のみとなった。
これで決着に文句はつけられない。
あの時ああだったら、こうだったらと後付けの言い訳など出来やしない。
仕切り直しとばかりに10メートル程の間をあけて対峙し、各々の武装を構える箒と鈴。
ISの性能など関係なく、それぞれが得意とする武器のみを有した彼女たちの間に言葉は無い。
目の前の女に全てをぶつけたい。
そして超えていきたい。
たったそれだけの祈りを届かせるため、赤雷が、道老龍が、地を蹴って走り出す。
相手を自分の射的距離へと納めるために。
「波ぁあああああああっ!!」
先手は槍の道老龍。
撓る事で、無限に攻撃の角度を変える変幻自在の槍撃。
息吹と共に繰り出される連続攻撃を、圧倒的な二刀の速度を以て弾き、防いでいく箒。
かつて手も足も出せなかった槍の軌跡を見切り、流し、じっくりと刀の届く距離へと進みゆく。
やはり鈴は驚きもしない。
箒が打神鞭の対策を練り、想定し、修練を積んでいただろう事は想像に難くないからだ。
それを差し引いても既にゾーンへと突入している鈴が余計な思考をする事などないのだが。
対する箒もゾーンへと踏み込んでおり、下から、左右から、上から死角から襲い来る槍の先端を見切って切っ先を当てる事で捌いていく。
音速の域に達する軟槍の動きを、二刀のみで防ぐ箒の奥義に、千冬や忍といった実力者すらも舌を巻く。
「箒・・・鈴・・・!」
下の名前で呼ぶ千冬の目線は、教師ではなく彼女達の幼馴染たる姉の視線だ。
若くして修練と才能、高め合うライバルの存在が彼女達をここまで引き上げた。
千冬には持ちえなかった環境、本来あるべき人間の成長の姿。
これが千冬の得られなかった景色だ。追い求め、束が担ってくれなかった役割だ。
ああ、そうかと千冬は気付く。
自分は束に、自分を使うのでなく、導くのでなく、競い合う相手として居て欲しかったのだと。
観客席まで響く鉄同士のかち合う連続音に、マドカは心臓が高鳴るのを感じていた。
「目で追えるか?」
同じくグラウンドの二人から目を離さない忍の問いに、首を振るマドカ。
「しのぶの言っていた事が分かった気がする。あの二人からは、相手を殺したいとか、追い詰めて支配したいとか、そういう気配を感じない」
「そうだ、まさにあいつらは今、互いの心の剣を掲げて戦っている。言葉にならない想いをぶつけ合い、超越せんと修練の全てを見せつけ合う戦い。殺し合うだけが、命を奪い合うだけが戦いじゃねえ、ただ命をかけてぶつかり合うだけの、理解し合うための戦いがあれだ」
「負けないために、勝つために・・・」
熱くなる胸を抑えて見入るマドカ。
いつか、自分にもそう思える相手が出来るのだろうか。
忍もまた、箒と鈴の一騎打ちを羨望の眼差しで眺め続ける。
尊敬する、大好きだった兄にああして何度挑んだ事だろう。
何度、その都度負け続けて来ただろう。
兄貴はきっと、おれとの戦いでは何も得られなかった筈だ。
成長できたのは自分だけだった。
だから・・・ああして高め合う事が出来る彼女達が、とても羨ましく見えるのだ。
いつしか太刀の届く範囲へと歩を進めた箒は、迫る槍の合間を縫って攻勢へと転じる。
即座に攻撃の手を止めて背中から硬槍・雷公鞭を地に突き刺す鈴。
がきん、という派手な音と共に進撃を止められる刀。
一瞬だけ間があく。睨み合う箒と鈴。
鈴が打神鞭を投げ捨てる。箒のもう片方の刀が空を断つ。
両手で構えられた雷公鞭が二刀の連撃を素早く止め続ける。
時に受け止め、時に回転し、時に短く持った三叉にて絡め捕り。
対策を練り、仮想敵を想定して技を磨いてきたのは箒だけではない。
この瞬間のために、幾重も幾重も反復してきた防御法だ。
攻めに重きを置く鈴であるが、箒に勝つにはそれだけでは足りないと感じたのだろう。
見事なまでに箒の振るう一撃一撃を、力強く防ぎ、刃に傷を作り細かな欠けを生み出していく。
それでも前へと出る箒。
負けじと歩を進める鈴。
一騎打ちが開始されてどれほどの時が経過しただろうか。
今度は次第に、鈴の無手の距離へと近づいていく。
そうなると箒の勝つ術はない―――素人目には、そう映るだろう。
再三語る事になるが、箒も、鈴も、この戦いのために様々な可能性を考慮してきた。
槍が、刀が不利になる距離だから、ゼロ距離になったから、そんな理由で負けるわけにはいかない。
だからこそ箒は、二刀で攻撃しつつも、拡張領域から左腰へと小さめの脇差を出現させていた。
無距離でも取り廻せる、ギリギリ居合いを放てる、絶妙な刀身の武装だ。
またも、互いの動きが止まる。隙を探り合う。
箒と鈴を遮る距離はもはや30センチほどしかない。
鈴の手から雷公鞭が落ちる。
箒が両手から刀を離す。
乾坤圏の空圧を纏った拳が箒の顔面へ吸い込まれ、果たして鈴の左拳はヘッドギアにて受け止められるものの空圧が箒の三半規管を奪い、カウンターとして箒が放った居合いの肘が鈴の鳩尾へと突き刺さり、間髪入れず箒は右足を下げる事で居合いを抜く空間を作り出した。
神速で抜かれた刃は道老龍の右腕の乾坤圏を切り裂き、機能を停止させる。
ふらつく頭を強引に機能させてまたも踏み込む箒、むせ返りながらも無理矢理息を吸って鎖骨へと掌底を放つ鈴。
二度目の居合いはバリア貫通し、本体である鈴の首筋から赤い花が咲く。
乱されぬ呼吸を伴った僻拳は箒の内部を貫いて吐血させる。
あまりに凄惨。
あまりに泥臭い。
これが、IS学園のエリートたる者達の戦いなのかと、目を伏せる者すらいる。
けれど、決して目を離さない者の方が圧倒的に多い。
この意地の張り合いを目に焼き付けんと瞬きを忘れる者の、なんと数多な事か。
殴り、斬り、それを延々と永遠に続ける二人の女。
既に彼女達の頭の中には想い人の事など無く。
もはや目の前の相手しか視界に入ってはいなかった。
(なあ、鈴音)
箒は心の中で語りかける。
(私は篠ノ之 束の妹だからという理由で、国から隔離された女だ。辛うじて通えた中学校でも、割れ物に触れる様な扱いをされたり、姉のせいで職を失ったという男性の娘から執拗な嫌がらせを受け続けてきた。孤独だった。助けを求める相手などいなかった。辛いことがある度に、剣を振るう事で耐えてきた虚しい女だ。いつか一夏と再会する事を救いとしていただけの、さもしい女だった)
鈴もまた、想いを拳に乗せる。
(あのね、箒。あたし、本当に考えなしで、何かを知ろうともしてこなかった、どうしようもない馬鹿な女なの。あたしのお父さんはすごく強い人だった。優しくて尊敬できる、大きなあの背中が大好きだった。そのお父さんの娘である事が誇りで自慢だったし、だから誰にでも強気で、ノリと勢いさえあれば全部上手くいくって、そう思ってたの。あの日、お父さんが・・・家族に暴力を振るい始めるまでは)
激突した乾坤圏は切り裂かれ、刃は折れて曲がりゆく。
(父さんとも母さんとも会えなくなった私は、もう泣く事も忘れてひたすらに剣術を極め続けた。姉を恨み、ISを恨む、そうする事でしか自分を保つ事が出来なかった。何もかもが嫌いだった。最も嫌いなのは、鏡に映る醜い心を宿した自分自身だった!)
(お父さんに裏切られたと思った。だから強くなって、あの卑劣な裏切り者を追い出してやろうと思った。ひたすらに、ひたすらに道場に通って武術を学んだわ・・・末期癌になって、離婚判決で10:0で負ける事で全財産を放棄して、あたしやお母さんの幸せを願っていたなんて、もう二度とお父さんと会えなくなるなんて、考えもしなかった!)
それでも、柄だけとなった刀と拳から先を失った手は何度もぶつかり合う。
(一夏と再会しても、私は自分が嫌いで、信じられなかった。誰も彼も、私を篠ノ之 束の妹というフィルター越しに見てくる。いつか一夏もそんな目で私を見てくるのではないかと恐れていた。だが・・・)
(両親の離婚で中国へ帰ったあたしは、受験前に風の知らせでお父さんが逝った事を知ったわ。一生分泣いたわ、泣き腫らした。お母さんはお父さんの気持ちを知ってた、知らなかったのはあたしだけだった!きっと気持ちの逃げ場を求めていたあたしは、一夏を求めてIS学園へ来たの。そして・・・)
ボロボロのISと、操者。
互いのバリアなど既に尽きていた。
同時敗北、引き分けとして判定されて尚、ISは解除される事なく二人は戦う手を止めなかった。
(なあ鈴音。お前は私を知らなかったな。ただ一夏を好いている私を気に入らないと突っかかって来たな。ああ勿論、お前の事など嫌いだった。私にとって最後に残った一夏を奪わんとする貴様など、敵という概念そのものだった。けれど、お前だけは、篠ノ之 束を通して私を見る事はなかっただろう。本当は、少しだけ、とても、嬉しかったんだぞ)
(ねえ箒。やけになって、一夏しか見えなくなっていたあたしの前にあんたは立ちはだかった。ムカついたわよ、あんたなんか大っ嫌いだった!これ以上あたしを不幸にするのかって怒りすら湧いたわ!でもね、あんたほどあたしと向き合ってくれた奴は他にいなかった。ずっと正面から立ち向かってくれた事、頭に血を登らせていたあたしを打ち負かしてくれた事、感謝してんのよ)
止めに入る教師達を抑える綾とボゥイ、ラウラ。
どうにか説明しようとするシャルロット。
ざわつく観客席などものともせず、もう動かす事も出来ない程に疲弊した両腕をだらんと垂らした箒と鈴は、互いへ体重を預け合って、最後の力を振り絞って頭突き合う。
(お前がいてくれたから、私はここまで来れた。お前がいてくれたから、私はISや姉さんとも向き合ってみようと決められた。どれだけ私が、お前に救われたかわかるか、鈴音)
(あんたがいなければ、あたしは誰かの気持ちを考える事なんてなかった。シャルや皆と、痛みを分かち合おうなんて思いつきもしなかった。全部、あんたがあたしと同じ目線で、同じ立場で、全力で向かってきてくれたおかげなのよ、箒)
ずるずると、膝まづいて機能を停止していく二機のIS。
一瞬だけ、赤雷の姿が赤い閃光を伴って双翼のISのシルエットを浮かび上がらせたように見えたが、すぐさま装甲を量子化させてしまったために詳細は分からない。
ただ確かに言える事は、いつしかボロボロと滂沱の涙を零した二人が震える肩を掴み合って、頭を押し付け合いながら声を枯らしている、その事実だけであった。
「鈴音っ・・・鈴音・・・!ありがとう・・・!私は、私に、こんなに全力で向き合ってくれるお前がいてくれて、本当に、本当に、嬉しくて、こんなに・・・!」
「あたしだって・・・あたしだってねぇ!あんたがいなきゃずっとつまんない凰 鈴音だったのよ!あたしを鈴音って呼んで、全部曝け出して向かってくれたあんたが・・・あんたが・・・!」
ボゥイが、シャルロットが、綾とラウラが、それらを追い越して一夏が、セシリアが、本音が、簪すらも、すすり泣く箒と鈴の元へと駆け寄っていく。
「これからも、私と戦ってくれないか、鈴音。私はずっと、大好きなお前と、強くなっていきたい!」
「あたしの台詞なのよ!あんたがいれば、あたしはもっと高く飛べる!大好きな、あんたと一緒に!」
涙と鼻水でぐずぐずな顔を合わせて笑い合うと、箒と鈴は膝をついたまま抱き合った。
自然と降り注いでいく拍手。
大きな一枚のタオルケットを箒と鈴へかけやった一夏は、その上から大切な幼馴染の二人を手で包み込んだ。
「一夏・・・!」
「いち、かぁ・・・!」
「凄ぇよ、ふたりとも。俺、うまく言えないけど・・・ふたりが俺の幼馴染で良かった。こんなに、自慢できる女の子たちが一緒にいてくれて、本当に、ずっとずっと誇れるよ。俺、箒より強くなりたい。鈴より強くなりたい。いつも俺の、目標でいてくれると嬉しい」
一夏もまた、言葉を紡ぐうちに大粒の涙を零していく。
彼に置いていかれない様に戦ってきた二人は、いつの間にかそんな一夏を追い越す程の成長を見せていたのだろう。
この少年少女たちは、いくつもの激闘を経て・・・ようやく一つになる事が出来たのである。
泣きながら三人で抱き合う一夏、箒、鈴を眺めたボゥイはふっと笑い、足を止めると軽く鼻をかき、その歩みを来た道へと翻った。
「ボゥイ?」
振り返るシャルロットに手を振ったボゥイは、すこし切なそうな背中を見せて去って行く。
「オレの分まで泣いといてくれ、シャル子。この身体じゃ素直に喜んでやれねぇのよ」
「・・・!!」
ボゥイ・シューマッハはその身体の98%をISと化した男。
生殖能力を持たなければ、涙を流す事すら出来ない人間ならざる者。
食事をとり、味を知る事が出来ても、最低限生きた脳と心臓へ栄養が行き渡れば良いだけで、残りはISコアの燃料として燃え尽きて排泄すらされない。
なればこそ、ボゥイは恋愛事に興味を持たない。持てない。
いつまで生きられるか分からず、いつまで生きねばならないのかも分からない彼は、心を情熱に燃やす事が出来ても本質は孤独である事を理解してしまっているのだ。
幸いにして、自分の大恩ある少女である鈴には自分の存在は必要ないように見える。
オレの手助けが無くとも、阿鈴には頼れる仲間がいる。
織村 一夏という愛情の向け先がある。
嬉しくもあり寂しくもある思いを胸に、ボゥイは去って行く。
そんな彼を見送ったシャルロットは、少し不満気に、胸が締め付けられる想いと共に呟いた。
「・・・うそつき。身体の事は関係ないって言ったくせに」
その後はつつがなく進んだ一日目の専用機限定チームバトル。
次なる組み合わせはいかなるものか。
第七話・終
明確な勝ち負けはつけられないなーと思ってのこの決着です。
箒と鈴の幼馴染ズは、ライバルとしてガチなぶつかり合いをしてほしい。
そんな想いからこういった形式の戦闘となりました。
そしてやっぱり、何だかんだISとなった自分を気にしていたボゥイ君。
シャルロットは彼の救いとなれるのか、それとも刀奈がその立ち位置となるのか。
まぁ強く当たって後は流れで・・・。
そして七話が長すぎるので一旦切ります。あくまで区切りとしてね。