インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
レーザーの偏向射撃が乱れ飛ぶ。
放出可能時間いっぱいまで照射するのではなく、細かく刻むように何度も撃つ事で避けにくくする。
小さく掠る様な熱線の連射により次第にバリアを削られゆくアマデウス、対するレイニー・ステラは所持ビットの半分を自身の周囲へ隙なく展開して瞬間移動に備える。
近寄るだけが瞬間移動ではない、既に遠距離へ移動され、一瞬の隙にバスター・ランチャーに撃たれてガトリングと左腕装甲を失っている。
このダメージでレーザーライフルを撃てないということはないが、両手で構えられないのは狙撃手として致命的だ。
とはいえ、一度見せられた手は二度もセシリアには通じない。
さらに、本音の間際のサポートにより両手でライフルを構えられる程度には左腕を修復されている。
次に遠距離への移動を行ったのならば、高脳思念型エクシードたるセシリアの感応をもって即座に位置を把握し、レーザーライフルで射貫ける自信がある。
逆に綾もセシリアの手の内は早々に察していた。
ブルー・ティアーズの頃と比べるとレーザーガトリングの追加だけでなく、実弾の幕を張れる近接戦用ビット・サジタリウスの存在が更に攻め辛くしている。
相手に近づかせずに墜とす、それがセシリアの、レイニー・ステラのやり方だ。
それがどれほどに難易度の高い戦い方か、此処へ至るまでどれほどの修練が必要だったのか。
いつも近くで、それこそ夏を迎えてからは親身になって寄り添ってきた綾には、セシリアがどれほど歯を食い縛って努力を重ねてきたかを理解している。
ゆえに、彼女が何を考え、何を行うとしているのか、皮肉にも最も理解出来ているのだ。
序盤こそ偏向射撃に戸惑い、直撃を避けるのが精一杯だったアマデウスの動きが軽やかになっていく。
虚を突こうとも、実直に往こうとも、光よりも判断を早めてセシリアの射撃を回避していくアマデウス。
思い通りの回避が出来るようになってきた綾は、乾いてきた唇を舌でなぞって不敵に笑う。
「ようやく感覚が追い付いて来ましたよ・・・!」
「さすが、やりますわねリョウ!でも!」
舌なめずりには早いとばかりにセシリアはビット全機を放出、トルキッシュ・マーチのロングバレルモードの射程に踏み込まれながらも退かず思念にて指示を飛ばしていく。
「フルバースト、ですわっ!!」
右手のレーザーライフル、六機のブルー・ティアーズ・ビット、二機のミサイルビット、そして二機のサジタリウスが一斉にアマデウスを襲う。
全十機のビットをレーザーの偏向射撃を交えながら操作するのは、セシリアの脳へかなりの負荷をかける事となるが、逆にここまでの大量リソースを同時処理出来るのもセシリアならではだ。
ISとの適合率としてはエクシードらしくもない90%止まりのセシリアであるが、脳波放出においては他を寄せ付けない力を有している。
それは彼女にエクシードとしての力の使い方を教え込んだレティシアさえ超える程の力。
全方位をレーザーによる熱線で囲まれた綾はとてもではないが回避しきれないと踏み、量子化を開始させるが、その直前、セシリアは自身のビットが放ったミサイルをレーザーでわざと誘爆させ、量子化寸前の綾の視界を奪う。
果たしてアマデウスは全戦力を目の前に使い果たしたレイニー・ステラの背後へと出現し、ショットガンを放とうとする、が。
そこへ一夏の白虎がアマデウスを急襲する。
綾の視界を曇らせたのは、一夏へ隙を狙うよう援護申請していた事を悟られないためである。
「もらった!」
「なんとっ!?」
振るわれる零落白夜、回避の間に合わないアマデウス。
高速で横に薙がれた一撃はしかし、追い付いてきた朱雀の分身が受け止める。
「させるかぁ!!」
朱雀自身よりも残像のスピードの方が早いようで、でなければ白虎に追い付く事など出来はしまい。
箒のアシストにホッとして振り返る綾。
しかしそれはあからさまな隙。
セシリアは背後の綾へと後腰部から抜き放ったレーザーソードを、切腹するかのように横腹の傍からアマデウスのバスター・ランチャーへと突き刺した。
「くおっ・・・!こんな隠し玉を・・・!」
「ええ、隠していたというよりはわたくし自身忘れてましたわ!」
もともと接近戦を行わず、かつ出力の低さゆえに好んで使う状況が無いレイニー・ステラのレーザーソード。
もしもの時に備えてファッション的に搭載された武装がこんな形で日の目を見るなど、セシリア自身も想定していなかった事だ。
そのまま勢いよくバスター・ランチャーの砲身を切り裂き、誘爆はしなかったものの使い物にならなくしたセシリアは、前衛後衛を白虎と交代するかのように後方へとブーストしていく。
一方、まだ追いすがる白虎をショットガンで迎え撃ちながら牽制する綾。
左腕のスモールシールドで最低限の防御を行いつつ、それでも一夏は前進を続ける。
「貰うぞ、リョウ・・・!」
「やらせない!」
この領域までくると接近戦では一夏の動きの方が優れており、向けたトルキッシュ・マーチをひとつ破壊された綾が歯を食い縛っていると、朱雀の残りの残像が白虎の両手を掴んで動きを止めにかかった。
「うあっ!?こ、こんな精密な動きまで!?」
「いけぇ綾!」
「ナイス箒!」
「させませんわっ!!」
動きを止められた白虎が逆にショットガンの連射による餌食となり、大幅にバリアを減らされ装甲を砕かれていく中、セシリアが飛ばしたサジタリウスがアマデウスの背中に突き刺さる。
「ぐおっ・・・!」
「わたくしがいる事をお忘れなく!」
レーザーの狙撃で朱雀の分身を消し飛ばしてもらった白虎は、自由を取り戻した腕で今度こそアマデウスを仕留めにかかる・・・!
「届けぇーーーー!!」
横にクイックブーストするアマデウス、読み切って逃げる方向へイグニッションブーストする白虎。
万事休すと言ったタイミング、そこへ黄金の光を撒き散らしながらシュヴァルツェア・ガーベラが迫る。
「綾を守るのがわたしの仕事と言った!!」
重たい装甲を外して高出力モードとなったガーベラの速度は白虎や道老龍に匹敵する。
片手のブレードにバリアを集中させて突撃を敢行したラウラの一撃は、伸ばした白虎の腕を圧搾し、吹雪を弾き飛ばすに至る。
「ラウラ?!くそっ!!」
「今だぞ、箒っ!ぐっ・・・!」
オーバーヒートを押して駆け付けたガーベラは正常時より早くグングニールの限界稼働時間を迎え、動きを止めてしまった瞬間をセシリアのサジタリウスが狙う。
「敬意を表しますわ、ラウラ!」
「おのれ二度も・・・!」
観念したラウラ、しかし最後まで目は閉じない。
睨むように横上空から迫るサジタリウス、それをグレネードで撃ち落とすのは綾のアマデウス。
「綾っ!」
「守り合うのが僕ら兄妹と言ったでしょう・・・!」
「そうだった!」
その間にも自身の最大の武器を失った白虎へ朱雀が残像とエネルギー刃を飛ばして加速する。
「とどめだ一夏――――っ!!」
「さ、せるかぁああああっ!!」
三方向より舞う分身、正面から来る刃と朱雀、それらを同時に対処するにはどうすればいい。
まだ終わらせたくない、お前だってそうだろう白虎!
俺達はまだ、尊敬するこいつらに何も見せられていないんだ!!
(ええ、ええ、マスターがそう願うのなら
一夏の叫びに呼応した白虎は背部ウイングを二分割させ、その間から白く発行するエネルギーブースターの光を放出させる。
白銀の粒子を放つ姿はさながら羽ばたく白鷺の如く。
かつて戦闘した【
「なっ―――」
箒が反応するよりも早く、ラウラに吹き飛ばされた吹雪が地に突き刺さるよりも速く、一直線に駆け抜ける最速のインフィニット・ストラトス。
通り過ぎた後には朱雀の装甲は砕かれ、箒の意識を刈り取っていく。
アクティブクロークを回すのが間に合わない程の速度に驚きつつも、その光の翼の正体を知った箒は、薄れゆく感覚の中どうにか言葉へと変換させる。
「ウイングユニットから放出させる・・・零落白夜・・・!?」
そう、零落白夜という能力はいわば、白狼―――白式、遡れば暮桜が有していた
白虎の能力ではない。
それはただ、武装と共に引き継がれただけのものだ。
本来の白虎としての力は四肢にて敵を切り裂き、翼で焼き払う超高速戦闘を常とするもの。
ただでさえ消耗の激しい能力を加速にまで応用する単一仕様能力、こんなハイリスクな力を開発し搭載する者など一人しかいない。
鶴守 豪。
このリスクの高い能力を可能な限りコンパクトに仕上げたのが、篠ノ之 束の製作した雪片―――零落白夜なのである。
つまりはこれこそが本来の白虎の単一仕様能力―――その名は【
触れし全てを零と化す、無限の速度をもった白銀の剣である。
「うあっ――――!!!」
勢いあまり、停止する事が出来ずに地面へと激突する白虎。
その気になれば亜光速まで達する事の出来たマッハの翼は、知らずに使用した一夏には荷の重すぎる装備だったのかもしれない。
もうもうと立ち込める土煙のなか、ゆらりと立ち上がってくる白虎は、追い越した朱雀が落ちてくるのを目にすると慌てて受け止め、地表へと降ろした。
「箒っ!」
こめかみから流れる血を拭うことなく箒の身を案じる一夏。
いくらISのバリアスキンとて殺しきれなかった衝撃の名残である。
「・・・また、負けたか。悔しいものだ」
意識を取り戻しながら朱雀を待機状態へとシフトさせた箒は、肩を揺する白虎の手に掌を重ねた。
そんな彼女へ大きく首を振る一夏。
「馬鹿言うな、こんなの勝ったなんて言えるかよ!俺はまだ白虎を使いこなしていなければ、こんな能力があったなんて知りもしなかった!こんなビックリ箱の中身をひっくり返しただけの結果、ノーカンに決まってるだろ!」
「はは、そう言うな一夏。勝負は時の運というだろう。びっくり箱の中身で言うなら私とて朱雀の能力は先程知ったのだ、無効試合にはならないさ」
言いつつ、白虎から離した自らの手を握りしめ、空へ掲げながら箒は言う。
「だけど、よく分かった。まだまだ私は強くなれる。お前達や、鈴音、シャルロット、ボゥイや更識、それに朱雀がいる限り、私は孤独な戦いをしなくても済む。仲間という帰る場所がある限り、私は決して折れはしない」
箒は、一夏に抱えられ待機室入口通路へと運ばれながら、朱雀との対面を思い出す。
最初から、赤雷の頃からずっと守り続けてくれた彼女の事を。
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気付けば箒は道場の中にいた。
今は無き、懐かしい景色。
古めかしい木造の建築物の中、朝露の気配、うっすらと窓から入る陽の光。
ここは幼い頃、家族と隔離される前に住んでいた家に隣接していた、父が経営する篠ノ之道場の内観そのものであった。
「なんて、懐かしい・・・」
塗装の禿げた床、何度も踏みしめてへこんだ痕、達筆な筆で掛け軸に書かれた文字は【一意専心】。
何もかもがあの頃のまま再現された空間、されどもうこの景色は二度と見られない事を箒は知っている。
既に篠ノ之道場は自宅と共に取り壊され、今は住宅地の小売りに出され、見も知らぬ誰かが住んでいる筈だ。
一体、どういう理由で自分がここにいるのか、はたまたこれは夢ではないかと考える箒の後ろから、何者かの気配が忍び寄る。
「っ、誰だ!?」
振り返るとそこには、和風の道場にはあまりにも場違い極まりない姿が佇んでいた。
鋼鉄のヘルムはマスクがされておらず端正な顔立ちが見て取れ、美しい男性と言われても納得がいくほどの中世的な容姿。
膝裏まで届きそうな長い金髪、インテリアとしても映えそうな、良く磨かれた銀の甲冑、胸部には戦の女神をあしらった模様、スカートの様に撒かれた魔除けの腰布。
早い話が西洋風の女性騎士が、仏頂面したまま箒の目の前に凛と立っていたのだ。
「な、な、な・・・っ?!」
「このような形での遭逢を失礼。私は鶴守豪が設計し四獣が一、名を朱雀と申します」
兜を外し、ぺこりと膝を折り腰を折り頭を下げ、丁寧な挨拶を行う朱雀に箒は。
「あ、その、これはどうも、篠ノ之 箒でございます・・・」
唐突過ぎる状況と噛み合わない相手の容姿に圧されたのか、らしくもないカチカチな返礼をした。
すると朱雀と名乗った甲冑の女性は、ごく自然な動作で箒の手を取りそっと口付けをする。
思わず頬を染めて仰け反った箒へと、朱雀は晴雲秋月といった風の淀みない眼差しで見据えてくる。
「ようやくこうしてご拝謁が叶いました、我が主。ずっとお会いしたく存じあげておりました」
「そ、そうですか・・・いや、そう、なのか」
どこかぎくしゃくと応対する箒。
強気な態度や戦闘中の技の鋭さ、そして綾などへの接し方からは想像がつきにくいが、箒はなかなかにコミュニケーション能力が低い。
それは一夏と二人きりでの食事が出来ないところからも察しがつく部分ではあるのだが、ただ目の前に集中していれば良い剣や、最悪嫌われても気にならない綾や、今はそうでもないが鈴音といった他人には特に気を配る必要がないものの、初対面の相手や目上の相手には否応なく考えすぎてしまうのだ。
「どうか緊張なさらぬよう。私にとって貴方は主なのです。私の事はどうか、主の携える剣の一振りとお考え頂ければと」
「う、いやしかし、そういうわけには・・・」
たじろぐ箒であるが、ここでようやく察する。
この場所が、この世に残っている筈の無い空間が、目の前の朱雀と名乗る女性により形作られたという事を。
そして、目の前の女性は少しずつ気配を感じていた自身の愛機、赤雷―――朱雀の仮の姿であるという事を。
ならばこの風景は、束から情報を得て朱雀が再現したのだろうか。
「・・・朱雀と名乗ったな。ならば貴様は、赤雷なのか?」
「はい。我が本体はISコアなれば、私の呼びようは赤雷でも朱雀でも、主の思う通りに」
「そうか。赤雷を朱雀にセカンドシフトさせてしまえば、赤雷は消えてしまうと考えていたのだが、杞憂だったようだ」
その事実にはほっと胸を撫でおろす箒である。
箒にとって数々の思い入れがあった赤雷である、いくら取り巻く戦闘力の環境についていけなくなってきていたとはいえ、手放したくはないと考えていたからだ。
自分の事を思いやる箒に感極まったのか、朱雀はわなわなと震えながら立ち上がり、またもその手を取って頬を染める。
「おお主よ・・・!そのようなお言葉、私には勿体のうございます!ああ、思い起こせば青龍や白虎との戦いから始まり、幾度もの戰を主と駆けてきました。それでも私が主の剣として存在する事を名誉と思えたのはあの銀の福音を断ち切ったあの時!主よりこれからもよろしくとお言葉を頂けた事、我が魂にかけて忘れませぬ!」
「お、おう。勿体ないのかもっと言えばいいのかどっちだ」
熱く語る朱雀の様子に冷や汗一つ、目を細める箒である。
赤雷の人格はもっと武士然とした、落ち着いたものであると勝手に思っていたのは箒だが、自分と対極にある見た目と性格のギャップにまだまだ慣れないのだ。
しかし朱雀は途端冷静に首を振ると、きっと箒の瞳を見据えて言う。
「ですが、主はまだ私を使いこなせてはいない。無礼を承知で申し上げますが、主はそれが癖なのか、己が力のみで戦いに臨む癖がございます」
「・・・うん、私も自覚はしている」
その言葉を否定は出来ない。
因縁の鈴との戦いに際しても、箒は赤雷のセカンドシフトの申請を蹴ってまで自分の力だけで挑んだのだ。
けれど、彼女が―――赤雷が、朱雀が具申したいのはその事ではない。
「我が主よ、かの紅椿のマスターとご自身の力で戦いたかったという思いは理解致します。私とて騎士の端くれ、あの日は宿命の戰場に余計な気を回してしまったと悔いたものです」
「そこまでか。というか騎士て」
「しかし、かの架神 マドカとの一戦はどうでしょう。確かに全方位からの射撃は強力、そして我が身には不利な相手ではございました。ですが―――」
「ああ、分かっている。赤雷の装甲を信頼し、防戦の中一つずつビットを潰していけば、時間はかかるだろうが勝機はあったかもしれん」
そう、あの時は簪達の身を案じるがあまり、勝負を急いでしまった箒の落ち度もあった。
もっと赤雷を信じてやることが出来ればと後悔もした。
忍が現れなければ、本音含めて三人あの場で死んでいたのだから。
「主よ、私はそれを責めているのではありません。その後の主は私をご自分にてチューニングを行うようになって頂けた。私にとってこの上ない喜びであると共に、主にも思う所があったのでしょう。しかし・・・」
ほんの少し、視線を彷徨わせた後に朱雀はやがて、箒の顔を視界へと納める。
「私は、心配なのです。また主が私を置いて遠くで戦ってしまうのではないかと。私は主を守るために存在するのに、それを果たす事すら許されないのかと。私如きが差し出がましい事を申し上げてしまい心苦しくはあるのですが、どうか、ご理解頂きたい」
困ったような、頼み込むような朱雀の様子に箒は気付く。
なんだ、彼女は私とよく似ているのだな、と。
見た目や騎士というワードから自分と真逆だと思い込んでいたが、本質という部分で朱雀と箒はよく似ている。
一夏や仲間の皆に置いていかれたくないがために身を引き裂きながら戦う自分と、こうして箒に一人で戦われる事に怯える朱雀、どう違うというのか。
武士道と騎士道、同じ地を行く道なら交わらない事も無く。
黒髪と金髪、どちらにしても行きつく先は白髪だ。
人間とIS、心があるのなら生命の是非など問うべきではないだろう。
何も違わない。
彼女は一つの人格をもって、ここにいるのだ。
「朱雀。そう呼ばせてもらおうか」
「は、何なりと」
自分より背の高い朱雀が傅くのに苦笑いする箒は、かといってそうしたいという彼女の意志をやめろと言う事も無く。
その肩へ手を置いて、腰を折って視線を合わせて言った。
「朱雀よ、私はまだまだ未熟者だ。戦いにおける覚悟も、剣の腕も、人との距離の取り方も何もかもが半端者だ。一人では決して届かない頂があるという事もつい先日知ったばかりの粗忽者だ。これから先、勝利する事もあれば敗北する事の方が多くあるだろう、それでも・・・」
そう、それでも。
一夏と同様、箒も思う。
それでも足掻き、歯を食い縛れ。
「それでも、勝利も敗北も、これからはお前と共に味わおう。勝利の喜びは分かち合い、敗北の無念は共に晴らそう。こんな私だが、共に戦ってくれるだろうか・・・我が騎士よ」
「・・・ああ、あああっ・・・!」
喜びに打ち震える朱雀は、肩に置かれた箒の手に己の手を重ね、何度も大きく頷いた。
「騎士として、これ以上の喜びはありますまい・・・!我が身体、我が機構、我が刀剣は主のために!ならばこそ、私は私の全霊を賭けて貴方を守りましょう!」
「うん、期待している」
少しばかり浮世離れしているものの、箒は思う。
こういう奴で良い。
こういう、少しずれた相棒が私にはよく似合っている。
決して悪い意味ではなく、心からそう思う。
何故ならば、自分を取り巻くすべての者は変わり者なのだ。
そういう連中に囲まれてこそ、篠ノ之 箒は前へ進めるというものだ。
「主よ、戰に赴く前に我が力をお教えします。即座に使いこなすのは難しいやもしれませぬが、いずれ必ずや、主の強力な力となり得ましょう」
「ああ、分かった。教えてくれ朱雀。私達は、お互いに教え合う事がたくさんありそうだ」
「勿論です!私で良ければ、これから先、いつでもご相談に乗らせて頂きます!」
こうして、箒は朱雀から朱雀の単一仕様能力を学び、実戦にて使用したというわけである。
自分は一人じゃないのは鈴音が教えてくれた。
そして、朱雀は自分を想い、傍にいてくれる者がいるという事を教えてくれた。
この邂逅は無駄じゃない。
更なる先へ進むための重要なステップだ。
若き武士道、命無き騎士道。
彼女達は、まだ成長の過程にて足掻き続けている。
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待機室へつながるゲートでシャルロットと鈴に肩を借りつつ、戦線へ戻っていく一夏を見送りながら箒は思う。
自分も朱雀もまだ成長過程だが、一夏と白虎もまた成長の最中にある。
お互いを高め合った結果があの白き翼なのだとしたら、自分は一夏の力を一つ引き出してやる事が出来たのだろうと思う。
「・・・少しは一夏の役に立てただけ良しとするか」
「満足するには早いわよ。まだまだこんなの、山の麓もいいとこなんだから」
鈴に釘刺されてそうだな、と頷く箒。
そんな二人を微笑まし気に見たシャルロットは、すぐにその視線を戦闘空域へと戻す。
残りはアマデウス、シュヴァルツェア・ガーベラ、レイニー・ステラ、そして白虎。
アマデウスもガーベラも、白虎も虫の息と言って良いバリア残量であるが、唯一レイニー・ステラは半分ほどバリアスキンが残っている。
このままチーム【クリア・マインド】が押し勝つのか。
はたまたチーム【ゼクス】が逆転するのか。
目が離せない混戦の中にいる親友たちへと、シャルロットはただ一言だけ呟くのだった。
「がんばれ。がんばれ、みんな」
一夏が一時的に戦列を離れた隙を逃す綾とラウラではない。
ビットを撒いて退こうとするセシリアに対し、綾はアメイジング・グレイスで背後に回り、ラウラは正面からハンドガンでビットを狙いトリガーを引く。
既にグングニール稼働可能時間を過ぎたガーベラは、装甲を失い大幅にパワーと防御力をダウンしている状態だ。
とはいえ、肝心のバリアジェネレータは残っているため、満身創痍ながらも油断ならない相手でもある。
「もうすっかりラウラの手の内は把握してしまいましたわっ!」
「お互いにな!」
ビットを攻撃しながらレイニー・ステラの攻撃を回避するラウラ、ビットをハンドガンから回避させながら攻撃するセシリアは一進一退を続けている。
互いの実力が拮抗しているという事もあるが、夏休み中ずっとコンビネーションを磨きつつレティシアとの訓練を行ってきた二人である、既に風呂敷の中身など確認するまでもないとばかりに次の手が読める。
更に言えば、セシリアには背後から撃ってくる綾の気配すら丸わかりなのである。
「くっ・・・こうも後ろからの攻撃が当たらないとは・・・!」
「あなたが居る時だけ背中に目がつくんですのよ!」
「便利な身体ですね!」
マシンガンが描く軌跡はレイニー・ステラに掠りもせず、虚しく宙を舞って落ちゆくばかり。
アマデウスの精密性を以てしても命中しないという目の前の現実に、流石の綾も自信を失いそうになってしまう。
セシリアはエクシードであるが、他者感応においては鈴に一歩劣る。
しかし、感応する対象が綾である限りはそうではない。
頭の中まで読めるという事は無いが、綾がどこでどんな動作をしているのかというところまでは見ずとも伝わってくるのだ。
愛情、そして理解度の深さ故。
一方で、ラウラはエクシードとしての感知能力や脳波放出に関してはあまり強いとは言えない。
そのため目の前のセシリアの挙動を読もうにも、感じ取ることが難しいのである。
(だが、そんな事はエクシードではない人間も同じ事だ)
ラウラは思う。
何故、どうして自分達がエクシードとして覚醒したのかは知らない。
そんな便利なものは、最もISを愛する
しかし事実として自分に備わった、されど大きな力とは言い難い。
この力があったから成し遂げられたと思えるような事は一つもない、だが。
「わたしにエクシードとしての素養があるから、おまえとこうして戦える・・・!」
セシリアはラウラにとってもまた、超えたいと願う相手だ。
ゲルトナーの配下だった自分を完膚なきまでに叩きのめした雨色の流星。
あの時の自分とは違う、それを示すのなら今しかないと。
この力を得た意味を見出すのなら、目の前のこの女に勝つ以外にないと。
鮮やかに回転機動を行う事で回避しづらいレーザーを撒き散らすブルー・ティアーズ・ビットをやり過ごしながら、ラウラは賭けに出る。
一夏が戻ってきてからでは敗北は必至だ、ならば勝負に出るのはここしかない。
「綾っ!!」
「ええ、正念場ですよ!!」
「!?来ますのね!?」
ラウラの呼び声に、綾はアマデウスを量子化させて消えゆき、セシリアは油断なくビットの半分を呼び戻す。
綾の気配は追えている、ラウラは目の前から真っ直ぐ来る、一夏が来るまであと数秒。
「一夏さんっ!!」
「了解だっ!!」
光の翼を広げる白虎、ガーベラへレーザーライフルを向けるレイニー・ステラ。
そしてアマデウスの出現箇所は―――。
「急いで一夏さん!!リョウは―――!!」
ラウラを狙って加速を開始した白虎、回避機動で手一杯のレイニー・ステラ、迫り来るガーベラ。
白虎の下方向に出現し、その足を掴むアマデウス。
「お前っ?!」
「この位置なら背中の零落白夜も届くまい・・・!」
刹那、急停止出来るはずもないタイミングでの登場。
アマデウスを引き連れて圧倒的な加速を行う白虎。
振り落とされそうになりながらバスター・ランチャーのエネルギーをチャージする綾。
レイニー・ステラへ接近しようとバーニアを吹かすガーベラの残りバリアは、反撃のレーザーを受けレッドゾーンに至る。
とどめとばかりにラウラへ白虎の雪羅が迫る―――瞬間。
まるで跳ね飛ばされるかのように、レイニー・ステラやビット、白虎からも勢いよく遠ざかるガーベラ。
「なっ―――」
手を伸ばした筈が届かない感覚に陥る一夏。
この動きは電磁宝玉の反射によるものではないのか。だが何故?
セシリアも一夏も宝玉をセットされてなどいない筈なのに―――否。
「リョウですのね!?」
「ご名答・・・!」
アマデウスを討つべくして零落白夜を振り、その手をガーベラに潰されたあの瞬間。
ラウラは死角へと宝玉を忍ばせてアマデウスの懐へ装着し、綾はそれごと量子化を行っていたのだ。
果たして強烈な電磁力は同様の磁力を放つガーベラ自身を後方へと吹き飛ばし、その間にもアマデウスの最後の一撃へとつなげていく―――!
「おおおおおおおっ!!」
急停止した白虎に振り払われながらもトルキッシュ・マーチの速射弾を白虎へ向け乱れ撃ち、バスター・ランチャーのチャージを行う綾。
狙いはレイニー・ステラ、続けて白虎だ。
「ケリをつけようぜ、リョウッ!!」
「一万と二千年早い・・・!」
脚部ブレードを右手に持ち替え、左腕のスモールシールドを盾に突撃する白虎。
ここまでくればバリア残量など気にせずとも、刺し違えればそれで良い。
覚悟と共に迫る一夏へとグレネード、マシンガン、ショットガンと順に弾を使い果たす綾。
もう片手ではセシリアを狙ってバスター・ランチャーを放出する―――。
「貰いましたわッ!!」
「どうかなっ!!」
発射される陽電粒子の波、反転回避して発射されるレーザーライフル。
白虎はブレードを外した脚部とシールドを犠牲にボロボロとなりながらもアマデウスへ接近し右手の剣を振り下ろす。
セシリアのレーザーがアマデウスのバリアスキンを削っていく。
アメイジング・グレイスは強力な能力だが、再発動までに約2分のチャージタイムを必要とするゆえ、使用不可。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあっっ!!!」
絶叫。
綾が咆哮と共に、一夏の剣撃にカウンターの拳を振るう。
同時に、バスターランチャーがセシリアのビットを根こそぎ破壊していく。
斬りつけられたアマデウス、そして顔面で拳を受けた白虎が、バリア残量を失う。
「リョウ・・・!」
「やり、ましたわ・・・!」
「一夏・・・セラ・・・!!」
悔し気に、もつれ合って落ちていく綾。
やり遂げた表情で気を失い行く一夏。
思わず、万感の想いと共に涙を浮かべるセシリア。
そして。
突如、レイニー・ステラの背部スラスターが爆発と共に吹き飛んだ。
シュヴァルツェア・ガーベラが放った指向性超電磁砲・ルシファーズハンマーがバックパックを貫いたのである。
「ラウ、ラ・・・!」
「誇れ、綾を倒したおまえたちの勝ちだ!」
背後から狙い撃たれた事に気付き、最後の最後で気を抜いてしまった事に気付くセシリア。
そんな彼女へと、ようやくセシリアからの一勝をもぎ取ったラウラが力強く宣言する。
「だが、試合の勝利だけは貰っていく・・・!」
アマデウスの最後のアメイジング・グレイスは一夏の虚を突くためだけでなく、セシリアの視線がラウラから外し、かつガーベラから狙いやすい位置へ誘導するための転移であった。
最後のバスター・ランチャーもまた、セシリアの隙を誘うため。
どうしても自分の手で綾を討ちたいというセシリアの想いを逆手に取った、捨て身の作戦である。
装甲の薄さもあってルシファーズハンマーの直撃に耐える事が出来なかったレイニー・ステラもまた、バリア残量を失い脱落となる。
コンマ一秒の間を置いてエネルギー切れを起こして落ちゆくガーベラ。
決着は、ほんの僅かな差。
1秒にも満たない時間差で、チーム【ゼクス】の勝利が決まったのである。
背後から吹き飛ばされたセシリアは綾や一夏ともんどりうって重なる様に落下し、諸共にエアバッグに包まれながら背中より着地した。
衝撃で意識を取り戻した一夏がぜぇぜぇと荒く息を吐き、最後にラウラが力なく落ちてくるのが見える。
戦闘終了のブザーとチーム【ゼクス】の勝利アナウンスが流れる中、一夏は悔し涙を隠すように顔を覆いながらも、零れ出る笑いを堪えられずに呟いた。
「・・・ちくしょう。こんな決着ってあるかよ」
ダブルKOを覚悟して綾を追い詰め、果たして念願の綾を撃破する事が出来た。
試合結果としては不完全燃焼を感じる一夏であったが、同時にこれほどまで高揚する戦いもまた、味わった事の無い経験であった。
また、倒れた綾に覆いかぶさるように伏したセシリアも、ほろりと涙を零しながらも表情には笑顔が浮かんでいた。
「ふふっ、本当に悔しいですわ。悔しいのに、楽しい気持ち。どうしてこんな気持ちになるのかしらね」
汗で濡れた金髪を撫でてやりながら綾は答える。
「その答えは、一緒に考えましょう」
「ご自分で答えを見つけて下さい、とは言わないんですのね」
「言う資格がない。だって、僕だって悔しいんだ。一対一じゃ、セラにも、一夏にも勝てなかった」
声を枯らせながら、目じりに涙を浮かべながら綾は言う。
心から思う、今回の勝利は自分があっての勝利ではない。
箒が、ラウラがいなければ勝てなかった。
「僕は強欲だ、完全勝利じゃなきゃ気が済まない。また戦おう、セラ、一夏。次は一対一がいい」
「おう、いつでも来い」
「ええ、受けて立ちますわ。いつも何度でも」
拳を打ち合う綾と一夏。
また、綾の言葉に頷いたセシリアは、戦いに向かうアスリートの顔から恋する乙女の顔に戻ると慈しむように恋人へとキスをした。
それを横目で見ながらラウラはぼやく。
「何を見せつけているんだか」
勝利の一手を打った充足感に満ちつつ、大の字に寝転びながら、待機状態となったガーベラへと何とはなしに問う。
「レオンと
(うぅ、ん。ノーコメント・・・)
「あんな風だったんだな」
(ノーコメントっ!)
照れくさそうにラウラの追及を逃れようと声を荒げるガーベラに、自然と笑みを浮かべるラウラ。
どうやらガーベラの疑似人格とはこうして会話も出来る様で、ならばあの抱擁が夢ではなかったと信じられて、嬉しいのだ。
やがてシャルロット達のチーム【デスペラード】や簪達のチーム【アルストロメリア】が駆けつけ、過去最大級の歓声がおりる中、肩を貸された少年少女達がグラウンドを去って行く。
疲労困憊といった綾と一夏は横目で視線を合わせると、静かに腕同士を当てる。
「次は勝つ」
「次も勝つ」
「この野郎」
「ふふ」
「ははは」
多くを語り合う必要など無かった。
反省や評価はまた後程全員でやれば良い。
いまはただ、互いの健闘を―――最後まで自分を出し切った充足感を共有出来ればそれでいい。
勝利の喜びも、敗北の悔しさも。
自分一人の弱さも、頼れる仲間の強さも。
綾と一夏、二人の間では―――言葉よりもぶつかり合った絆で繋がって、分かり合えているのだから。
な、長かった・・・!
リアルくぅ~疲れましたwだよクソァ。
後は一夏組対ボゥイ組か・・・これが終わればひと段落だ・・・。