インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
綾がISの改造案を作り始めたといえ、専用機限定チームバトルが終了したわけではない。
まだ彼らには、つけねばならない決着が残されている。
既にほとんどの試合が消化され、本日は最終日・最終戦。
三度目のメインイベントたる戦いが行われようとしていた。
チーム【クリア・マインド】対チーム【デスペラード】。
セシリア率いる一夏・本音のチームと、シャルロット率いるボゥイ・鈴のチームである。
目玉となる戦いはセシリア対シャルロット、一夏対鈴であろうが、集団戦ともなると本音を無視する事は出来ず、ボゥイという台風の目を見過ごすわけにもいかない。
どちらに勝敗が転ぶか分からない一戦、これだけは見逃せないと綾と簪も作業しながらモニターの一つに中継映像を繋げて観戦している。
「どっちが勝つと思う?」
「さて・・・どうなりますかね」
正直なところ、綾にも勝敗の行方は分からない。
それほど拮抗した実力、負けられない大一番。
何よりも、戦場に立つ全員の目の色が違う。
「勝ちに来ましたわよ、シャルロット」
「負けても泣かないでね、セシリア」
額がくっつくほどの距離で睨み合うセシリアとシャルロット。
「俺が超えたい壁は箒だけじゃないんだぜ、鈴!」
「当たり前よ!あたしの方が困難な壁だって思い知らせてやるわ!」
拳を付け合い、強気に微笑む一夏と鈴。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
特に因縁のないボゥイと本音は、目をぱちくりとさせてから顔を見合わせると、小声でささやき合う。
「・・・オレらも何かやっとく?」
「うんうん。このままじゃちょっと疎外感あるかも~」
果たしてばっと距離を取ったボゥイと本音は、なにやら厨二臭い動きでゆらゆらと手を動かす。
「クックック・・・ついに現れたな勇者よ。この魔王リベリオンが貴様の腸を食らい尽くし、世に暗黒の時代を迎えてくれようぞ・・・!」
「フッ・・・嘲るな魔王よ。この暗黒騎士ナインスレイブが闇に包まれし力をもって貴様を浄化してくれよう。闇の炎に抱かれて消えよ!」
「「「何が始まったの!?」」」
あまりに脈絡のない掛け合いにびびるセシリア、シャルロット、鈴。
もちろん一夏は羨ましそうにそんな二人に見入ってわくわくと腕をわきわきさせる。
「な、なんだよなんだよ!ズルいぞボゥイ!俺だってそのやり取りしてぇよ!」
「一夏ぁ!?」
まさか自分そっちのけでボゥイ達に食いつかれると思ってもいなかった鈴が悲鳴に似た声をあげるも、本音は片目を手で隠しながら一夏へ呼び掛ける。
「来たな我が朋友、白銀のナイト白虎よ!我ら決して交わらざるブラック&ホワイトにてかの魔王を打ち砕こうではないか!」
「!!」
それを聞いてニタっと笑った一夏は、両手を交差させてゆっくりとカッコ良いポーズを取る。
「フフ―――我が力が必要と言うか、暗黒騎士ナインスレイブよ!我が剣は天を切り裂き白夜にて世界を染めし王者の絹糸。いかな魔王とて、この理から外れる事叶わぬと知れ!」
「ほざいたな愚かな人間どもよ!我が邪悪なる衣はいかなる刃も通さぬ!勝てぬと知りながら挑むその滑稽な様を後の世へと語り継いでやろう、我が力の象徴としてなぁ!」
ヒートアップする中二病大会。
もはや何を言っているのか分からない状態となったグラウンド上で、これでもかと恥ずかしいやり取りを続けるボゥイと本音と一夏である。
「え、なんですのこの居たたまれない気持ち・・・!?一刻も早く終わらせて試合を始めるべきでなくて!?」
「ぼ、ボゥイ!本音、一夏ぁ!やめよ!?もうやめて、ね!?」
必死に止めに入るシャルロット。しかし動き出した歯車はもう止まらない。
正直書いてるのも辛い。あまりに筆舌にしがたい黒歴史メーカーたち――――。
~少々お待ちください~
そんなわけでつかつかと歩いてグラウンド中央へやってきた千冬の拳骨により中二病大会は鎮圧され、ついに試合開始直前を告げるアラートが鳴り響く。
「き、気を取り直して・・・行きますわよシャル!虹を纏え、レイニー・ステラ!!」
「ま、負けないぞっ!蘇れ、フェニックス・リヴァイヴ!!」
「もう台無しじゃないっ!飛龍乗雲、道老龍!!」
すっかり気を削がれたセシリア達が各々のISを呼び出す中、頭にどでかいタンコブを作った一夏達もまた、涙目になりながら自機を喚び出した。
「・・・かがやけー、びゃっこー」
「ようえんもゆれー、ないんすれいぶー」
「げっせー、りべーりおん」
「やる気出しなさいよ!!!」
このIS学園的に慣れ親しんだやりとりには各国のお偉い様達も呆れた眼差しを向けていたのでした。
流れはどうあれ、ISを装着した戦士たちは試合開始のブザーが鳴ればすぐさま戦闘態勢に入り、腑抜けていた表情を引き締めていく。
猪突猛進、背後の本音とセシリアを信頼している一夏は勢いよくブーストを吹かして吹雪を構え、狙いの先にいる鈴が雷公鞭を構えて待ち受ける。
「行くぜ、鈴っ!」
「かかってきなさい!」
ファーストインパクト、二機のスピードスターの武器が重なろうとした瞬間、横腹からリベリオンが痛烈に、白虎へ肩口から勢いよく体かました。
「ぐああっ!?」
物理衝撃と重さに大きく吹き飛ばされる一夏。横槍を入れたボゥイは仮面の下で不遜に笑いながら唖然とする鈴を振り返りながら言う。
「メインディッシュはまだ取っておきなって!オレだってイチ助とは戦いてぇんだぜ!」
「もーボゥイ!人の恋路を邪魔すると馬に蹴られて死ぬわよ!?」
「はは、一目はばからず恋なんて言える様になったんかい?いい傾向さね!」
マウントポジションを取るかのように白虎へ伸し掛かるリベリオン。
地面へと叩きつけられた一夏は至近距離のボゥイを忌々しげに睨む。
「くっ・・・!ボゥイが不意打ちなんてな・・・!」
「お前さんの真っ直ぐな所は嫌いじゃないが、もう少し器用じゃないと大事なものを失うぜ!」
「余計なお世話だありがとよ!」
白虎に馬乗りとなったリベリオンは逆手に持った短剣・ダインスレイフを突き立てようとする、が。
一夏は吹雪でそれを押し上げる様に受け止めると、上半身を捻じりながら左腕のクローをリベリオンの顔面へ殴りつけ、更に脚部のブレードを展開させる。
「おぉらッ!!」
「ぐおっ・・・!」
振り上げられた脚の一撃がリベリオンの後頭部へ傷を刻み、さしものボゥイも脳を揺らされて上半身を揺らめかせた。
そのまま大きくブリッジするように勢いをつけて、一夏はリベリオンを弾き飛ばして体勢を立て直し、すぐさまブーストして追撃を行う。
「パワーでだってお前にはもう負けないぜ、ボゥイ!」
「らしいねぇ!こいつぁフルパワーで相手しなきゃならんかね!」
「そうでなきゃ意味がねぇ!来い!」
自身もブーストを吹かして白虎を迎え、四つ手で組み合うボゥイと一夏。
ツインドライブ搭載機のリベリオンのパワーは言わずもがな、白虎と織斑計画にて生まれ持った怪力のコンボで同等の力を発揮する一夏の戦いはどこまでも泥臭く男臭く、女子同士の戦闘では見る事が出来ない荒々しさがある。
そんな力と力の激突に沸き立つ観客席。
また、発生しているのはパワー対決だけではない。
道老龍を囲ったビットの群れ、偏向射撃にて乱れ撃つレーザーライフル。
セシリアのレイニー・ステラが美しい金髪を振りながら接近戦用の道老龍を遠距離から圧倒しつつあった。
「行きますわよ鈴さん!わたくしは貴女とも戦ってみたかったの!」
「それはこっちのセリフ!旦那同様、あたしを楽しませてちょうだい!」
「やらいでか、ですわっ!」
射程の外から放たれるレーザーの嵐、正面上空より伸びる偏向射撃。
雷公鞭で熱線を遮断しつつ、低空にてビットを距離を離そうと加速する道老龍。
だが、そこまではセシリアの計算の内だ。
「行って!サジタリウス!」
ガトリング搭載式ソードビット・サジタリウスが二基、道老龍の行く手を塞ぐように弾幕を張りながら急速で接近する。
「マジか・・・!」
これには鈴も歯軋りをする。
もともとサジタリウスはセシリアが鈴と戦うための一手として豪から受領した武装である。
背後からはビット、前面からの攻撃にソードビットがそれぞれ担当出来れば、最も遠距離から撃つ自身のレーザー射撃の命中率がぐんと上がる。
更に弾幕を張れるサジタリウスは、威力は小さくとも確実に鈴のバリアスキンを削りゆく。
そして何より、サジタリウスのスピードは他のビットよりも素早いのだ。
下手に槍で迎撃しようとすれば回避され、攻撃の隙をレーザーに狙い撃たれるのは明白。
完全接近戦仕様の道老龍は射撃兵装が対人を想定した龍咆・乾坤圏しかない、ゆえにこの状況は詰みに近い程の危機でもあるのだ。
だが、鈴とて自覚は無いとはいえエクシード。
それも他者感応にて最高クラスの力を持つ少女だ。
セシリアの思考や脳波を敏感に感じ取ってビットの動きを読み、かわし、軌道する道老龍の凄まじいスピードとクイックモーションに、ようやく鈴の隠された力に気付く者が現れ始める。
「ラウラ、まさか鈴音は・・・」
「エクシード、かもしれん。確証はないが・・・セシリアならもっと明確に感じ取れるかもだが、わたしにはこれが限界だ」
格納庫のモニターで鈴の動きを見ていた綾とラウラがやり取りする通り、セシリアはラウラより感応にて強い力がある。
ほんの僅かだが、鈴の鼓動とプレッシャーじみた存在感を感じ取り、そして戸惑いよりも高揚感を覚える。
「そう、貴女もそうでしたのね、鈴!ならば一層、燃えますわっ!!」
機体は青、水の色、されど心は烈火のごとく。
セシリア・オルコットはまたも現れた同胞の存在に熱い気持ちを隠しもせず、油断なく距離を稼ぎながらもビットの動きを細かく調整していく。
ビットの稼働可能時間は限られている、そのため半分は鈴を狙い、残りはエネルギー充填に回す運用方法を採っているが、だからといって鈴がかわしやすくなっているというわけではない。
それは強過ぎるセシリアの脳波放出をセーブするためでもあり、ビットをレイニー・ステラの射線に入らせないためでもある、合理的な運用なのだ。
いつまで経っても反撃のチャンスを掴めない鈴、ならばどうすべきか、考える。
脳裏に閃くのは簪の姿。
あの日、あの娘が放った最高の一撃。
「イチバチだけど、やってみるか・・・!」
鈴はビームソードモードにした三叉戟・雷公鞭を手にしてウイングを小さく畳みながら地表へ向かって速度をつけて落下する。
「どぅおりゃーーーーーーーーーっっ!!!」
サブスラスターで全身を回転させ、その姿さながらドリルのように地中へと突き進んでいく―――!
「なっ―――!!」
驚きに口元をひくつかせるセシリア、その発想は無かったとばかりに手を叩く箒、やっと気づいたかと鼻を鳴らす忍。
土の主成分―――シリカは熱で溶けるのである。
ビームソードで熱を加え、三叉戟部分でかき混ぜる事で通り道を作り、グラウンドの下へと潜り込んでいく道老龍。
地中での呼吸なら心配せずともISゆえ酸素ボンベが標準装備されているため問題も無く、そしてセシリアからは鈴の位置を正確に読み取ることが出来ない。
「やってくれますわね・・・!こんな形でビットをやり過ごすなんて・・・!」
悔し気にビットを格納し、即座に対処できるよう二機のレーザービットを射出、常にサジタリウス一機を傍に置き供えるセシリアは、エクシードの感応能力で鈴の位置を探るべく地面へと意識を集中させていく・・・その時。
「セラちー、ぼっとしないでっ!!」
「!!」
本音の声にはっとして振り返ると、直撃寸前のバズーカ弾が迫ってきている事に気付いてレーザービット一機を盾に離脱するセシリア。
想定外の動きで姿を消した鈴に気を取られ過ぎた事を省みるセシリアは、隙だらけの背中を撃ってきた最大のライバルへと疑問とも怒りともとれない声を荒げた。
「こんな決着がお望みでしたの、シャルロット!」
「もし今ので決着がついたなら、戦う価値ナシだよセシリア!」
「えぇえぇ、悪ぅございました・・・わっ!!」
斜め下、フェニックス・リヴァイヴへ向け偏向射撃・・・それも、ギザギザに稲妻を描く様にレーザーライフルを放つセシリアは、続けて本音へと指示を飛ばす。
「シャルロットと鈴を同時に討ちますわ!援護よろしくて!?」
「おーらい!」
回避しようと左手側へ移動しようとしたシャルロットはしかし、突如として現れた大き目な鉄の盾により阻まれ、なし崩しにレーザーの直撃を受ける事となる。
「うあああっ!?」
数々の武装・防御機構を有したフェニックス・リヴァイヴとて、それを準備する前の隙のある状態では露出部分を守る事叶わず。
高出力のレーザーにてバリアスキンを削られ、また、この妨害能力を有した本音の罠設置能力【
ここまで本音の
ISとしての地力、ツインコア搭載の有無、それは大きく性能に関係する。
しかし、セシリアのサポートに回った時の脅威は想定を遥かに凌駕している。
時間が経てば経つほどナノマシンの散布領域は増え、今やバスターキャノンを展開させようものなら爆破能力で発射前に破壊される可能性が高い。
また、地中にいる鈴もシャルロットが作った隙を見て地中からセシリアを狙う算段をつけていたものの、本音がいる以上は容易く出てくることすら出来ない。
飛び出た瞬間に爆破や鉄壁で阻まれ、その隙を逆に突かれセシリアに撃たれてはかなわない。
そのうえ、下手に本音を倒そうものならチーム【ゼクス】との戦闘時のようにセシリアと一夏の回復をされてしまう。
ことチーム戦において、これ以上ない汎用性を九尾ノ神獣は有しているのだ。
刀奈に次いで大きな戦績をあげていなかった本音もまた、機体のアップデートによって非常に強力な相手へと変化した、それに大きく共感を覚える鈴。
「そうよね、本音。あたし達がここまで強くなれたのは・・・仲間の、ツルモリのおかげなのよね」
彼がいなければ道老龍を得られなかった鈴、彼がいなければ九尾ノ魂を強化するプランを完成させられなかった本音。
まして、彼がいなければ一夏も、セシリアも、シャルロットもラウラも、変わる事も強くなることも難しかった筈だ。
「りょーちんを好きになって良かった。今のわたしは、かんちゃんや皆のためにこんなに戦える」
強気に微笑む本音は心からそう思う。
恋愛という意味ではその想いが叶う事が無かったが、彼との触れ合いは間違いなく彼女を大きく成長させた。
機体の強さよりもメンタルの強さこそが今の本音の切り札と言える。
だがそれは、相対するシャルロットも、味方するセシリアも同じ事。
「不利でも相手が強くても絶対諦めない!リョウからそれを教わった、救われたボク自信をちゃんと誇ってあげたい!」
「リョウがいて、わたくしがいて初めて強くあれる!たとえ離れていてもこの心の繋がりがどこまでも進化を続ける!決して折れはしませんわ!!」
セシリアへ接近すべくバーニアを吹かしバズーカを構えるシャルロット、ビットを放出しライフルを撃って迎え撃つセシリア、仕掛けたトラップの数々を発動させる本音、その隙に地中より飛び出る鈴。
その様子を見ていた簪は、どこか白けた目で隣に座る綾へと冷ややかに言う。
「随分と手広く女の子に手を出してるんだね、鶴守くん」
「ごかっ・・・誤解ですからね!僕が惚れているのはセラだけですから!」
「あと山田先生だな。基本、綾はおっぱいが大きければむががが」
「おっとラウラ何ですかまたアイスでも食べたいんですか?!」
小型冷蔵庫から取り出したハーゲンダッツのストロベリー味を容器ごとラウラの口へと突っ込む綾。
海の一件以来、綾に食べさせてもらったハーゲンダッツが大いにお気に入りのラウラである。
どの味も好きだと語るラウラであるが、特にストロベリーが大好きな様子で、週に三回はスーパーに出向いて買って食べているのだ。
「ばっ、ばかものっ!プラスチック容器など食えるかっ!ちゃんとスプーンをもががが」
「はーいおいちいでちゅねー。あんまり余計な事言って簪さんに悪印象作らないでくだちゃいねー」
「・・・や、大丈夫。からかっただけだから」
恋愛的な意味や気を引きたいからという意味ではなく、綾はISについての詳しい話を自分と同じレベルで話せる貴重な人材を手放したくないのである。
今もこうしてアマデウスの強化プラン・最終調整に付き合ってくれている、付き合う事が出来る程に簪は優秀なのである。
その上、簪は忍にご執心のため自分に色目を使う事が無い、男女関係なく対等に会話が出来るというのが非常に大きい。
綾がリーダーとするなら、簪を副官として重用するのに何の不思議もないのであった。
簪も初対面では陽キャの匂いがする綾に警戒心を抱いていたが、流石に数カ月を共に過ごし、共に戦ってきた以上、綾という人間を理解してきていた。
彼は女たらしにも陽キャにも見えるが、結局のところ自分と同じISオタクだ。
その知識と発想力でクラスの皆をまとめ上げられているというのも頷ける。
そもそも、本音程の女が好きになった男なのだ、最初から警戒する必要など無かった。
忍ほど魅力的な、ヒーローじみたキャラクターではない―――等身大の人間の少年だが、信頼を寄せるに足る人物だと、今は思う。
「そ、それより簪さん、武装の調整はいかがでしょう、完了しましたか?」
「とっくに。この装備なら誰が相手でも敵なしだね。頼りになるなる」
「褒め過ぎですよ。僕自身が大した事ないんだ、これでようやく一夏やセラと対等になれる」
既に作業を終え、モニターを食い入るように見ていた簪が賛辞するも、謙遜しながら改造したコアの最終調整に勤しむ綾。
敵はきっと今日の試合が終わったらやってくる、それは忍から散々示唆されていた事だ。
IS世界連盟からの支援は何も来なかった。確認しても遅延しているの一点張りだ。
エデンからの妨害が為されている事は火を見るよりも明らかであるが、ここまで露骨な動きをされると隠す気が無いのではと勘繰ってしまいそうだ。
その上、敵はこちらの戦闘データもこの大会で取得してしまっている。
戦術的にも不利と言わざるをえないが、だからといってIS学園側が手をこまねいていたわけではない。
簪や千冬、そして協力者である豪、アルベールや中国企業の力添えもあり、迎え撃つ準備は整っている、しかし。
「実戦データの無い改良型アマデウス・・・果たして間に合うか・・・?」
敵にイニシアティブを取れるデータの無い機体の存在は、防衛側としての戦力として大きい。
だから今日までに間に合わせるつもりだった。
いや、先日から今日まででコアの改修と新装備作成のほとんどが完了しているという進捗率は圧倒的に早いと言わざるを得ない。
それでも綾は、これが祖父や束ならばもっと早く完了させていたと考えてしまう。比べてしまう。
過去を超えていくのが人間だとしても、綾にとって先人たちは偉大過ぎるのだ。
武装は仲間達の協力もあって後は出力するだけ。
だが、肝心のコア改造についてがいまひとつ、予想出力が安定しない。
(やはり、僕には無理なのか・・・?)
焦る綾。
新しい領域へと踏み込む事は恐れも不安も桁違いのプレッシャーだ。
それは豪も、束すらも成しえなかった発想。綾ならではの強化プラン。
だから自分以外に出来る者はいない。
彼の両肩にかかる重圧は、簪やラウラが考えているより重いものなのだ。
「大丈夫、鶴守くん?」
顔色の悪い綾へ声をかける簪。ゆっくりと頷く綾。
「ええ・・・手が空いたのでしたら、今出来ているデータ分のデバッグをお願いして宜しいでしょうか」
「わ、私にできるかな・・・」
さすがにたじろぐ簪だ。
無理もない、バグ抽出作業もなにも、簪には理解が及ばない領域の作業を綾はたった一人で挑んでいるのだから。
このコアが完成しなければせっかくの新武装も出力不足で新アマデウスに積めない。
失敗は許されない。
コアが完成しなければ今までの努力が全て水の泡だ。
「どうする・・・どうすれば安定する・・・考えろ、考えろ・・・!」
焦る心に苛まれながら綾は自分を追い詰める。
どうする。
どうする。
どうすれば。
そんな彼の頭の上へと、一本の鉄より硬い塊が勢いよくごちんと落ちた。
「ごっ!?」
あまりの硬さ、そして冷たさに綾が顔を上げると、あずきバーで殴りつけてきた主―――ラウラが、食べ終えたハーゲンダッツの容器を投げ捨てながら肩をすくめていた。
「頭を冷やせ。そんな煮詰まった状態で作業が捗るか」
「だっ・・・からって、あずきバーで殴る事はないでしょう!?それ釘を打てるくらい硬いんですよ!?」
「それは凄いな、おまえの頭に釘ならぬ天啓を落としてしまったようだ」
「何も上手くない!」
荒れる綾をものともせず、カカカカッとハムスターかリスのようにあずきバーへ何度も前歯を立てるラウラである。
ようやく一片を噛み砕いたラウラは、口の中でそれを転がしつつ冷たさによる頭痛を愉しむ。
「そも、急に出来るものでもない事は最初から分かっていただろうに。おまえひとり戦場に出れずともわたしがいるから安心しろ。亡国機業もエデンもまとめて蹴散らしてくれよう」
「あのね・・・今回の戦いはそんな簡単には・・・」
「やかましい」
諫める様に言う綾を黙らせるようにあずきバーを向けたラウラは、ふんすと鼻を鳴らすと言ってのけた。
「もっとわたしたちを信じろ。アマデウスの武装を作るだけがわたしたちの助力ではないのだぞ。おまえの準備が出来るまでの時間稼ぎがわたしたちに出来ないとでも?」
ラウラの力強い言葉にたじろぐ綾。頷く簪。
「任せて、鶴守くん。戦いが始まったら私がちゃんと指揮を執る。誰も死なせたりしない」
「簪さん・・・」
簪のアナスタシア・ブライドは戦闘もこなせるが本領は指揮や電子戦闘にある。
本来ならば綾や刀奈よりも後方での運用に長ける彼女こそがリーダーに相応しいのだ。
「焦らないで、自分のペースでいい。大丈夫、私達は待ってるから。あなたの好きな人もきっとそう。簡単に終わったりなんてしないわ」
モニターを指差した簪の手を追う綾の視線の先には、鈴やシャルロットと撃ち合うセシリアの姿。
ああ、そうだ。
僕は、最後まで諦めない、足掻き続ける事を最初に彼女へ伝えたんだった。
残りわずかとなったラウラのあずきバーを奪い取って咀嚼する綾。
少しでも頭を冷やそうと考えたのだ。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
当然、悲鳴をあげるラウラ。
ぽこすかと駄々をこねるように叩いてくるラウラをものともせず、綾は思想する。
仲間。繋がりの大切さ。
強化したコアの出力はあまりにも大きく、最大出力はツインコアにも匹敵する。
それを一つのコアとエネルギー増幅装置でやりくりするには機体の容量が足りない。
余ったエネルギーはともすれば、コア単体でメルトダウンに至る危険性すらある。
ならばどうするか。それでずっと悩んでいた。
絶えず放出させるわけにはいかず、溜め込む事も出来ない。
これを上手くリザーブし続けるには―――。
「―――――なんだ、単純じゃないか」
またも手を動かし始める綾。
今度は悩みながら、手探りではなく、明確な目標をもって動く。
「!なにか掴んだのね?」
「ええ、
「「は!?」」
その不可能ともいえる発想に目を点にする簪とラウラ。
綾はにやりと笑うと、眼鏡を反射する光で輝かせながら言う。
「コア自体を作るわけじゃありません、言ってみれば疑似コアシステムです。コアと機体で受け入れられない量のエネルギーの受け皿を疑似的に作り、そこへ常に余剰パワーをリザーブする。ISを展開出来るようなコアでは一個作るのにもっと日数が必要ですが、中身のない入れ物を作るだけなら数時間で出来る」
「つまり・・・外付けハードディスクを構築するようなもの?」
「そうです。言ってみればISコア自体が量子化したデータやエネルギーを格納するデータバンクのようなもの。IS顕現や待機状態へのシフトに回すのではなく、純粋にエネルギー
「何を言ってるのかさっぱりわからんが、要するに間に合うのだな?」
綾の頭をつつくラウラへ振り向く綾は、当たり前のようにニヒルに笑いつつ答える。
「間に合わせますとも、僕を誰だと思っているんで?」
「ふ、先程まで情けない顔をしていた奴が良く言う。おまえが誰かだと?決まっている。わたしの大好きなたったひとりの兄だ」
恥ずかしがる事もなく言い切り、掲げられた手を叩いたラウラは、IS量子タンクにて消費したエネルギーを充填していたガーベラの様子を見に格納庫の奥へと歩いていく。
既に本日分のチーム【ゼクス】とチーム【アルストロメリア】の試合は終わっている。
彼らにとって戦績の数など興味の欠片も無い事だが、それでもこの後にまだ戦いが控えている筈となれば、このように準備を怠る事など無いのだ。
「ここまでありがとうございました、簪さん。こっちはもう大丈夫ですので、直接試合を見に行ってはどうです?架神先生もマドカさんも待っていますよ」
「うん、頑張って」
綾の言葉に頷き、最後に景気づけに肩を叩いて格納庫を去る簪。
秒間20文字にも達しそうなスピードでキーボードを打つ綾は、それでもモニターに映る恋人から目を離さずに呟く。
「セラ、頑張ろう。僕も君も、まだ負ける時じゃない」
この主人公いつも妹のアイス食ってんな。