インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
一夏の全身に針を無数に刺したかのような緊張感が迸り続ける。
目の前にて剣を振るうのは悪鬼羅刹、暴走したリベリオン。
零落白夜が効果を果たさず、堅牢かつハイパワーを有した
しかもそれがリミッターを外して野獣の様に襲い来る、これを脅威と思わず何と思うか。
接近戦でのスピードでは白虎が勝るものの、圧倒的なパワーの前ではやや分が悪い。
それを助けるためにセシリアは本音を一夏のバックアップに回したのだ。
「そうれそれそれお祭りだーーーっ!!」
迫るリベリオンの勢いを水流操作で減速させ、振るわれる手は鉄板によるガードで威力を削ぐ。
厚さ5センチもある鉄の板を瞬時に発現させる事の出来る
爆発にてリベリオンの視界を奪いながらも本音は眉を寄せる。
「力が強過ぎて、ちょっと邪魔するだけが精一杯だよ~!」
「十分だのほほんさん!あるのと無いのじゃ全然違う!」
そんな本音へと、防戦ながらも礼を述べる一夏。
九尾ノ神獣が手助けをする事でようやく互角の立ち回りが出来ている現状、セシリアの判断は正しかったと言えよう。
姿勢低く、獰猛な猟犬が飛び掛かる様に両手を爪のように振るうリベリオン。
これで通常時のように中国拳法を絡めて攻撃されたのなら手の付けようがなかったが、本能による暴れっぷりだけならまだ何とかなる。
一夏は左のクローで防ぎ、右の吹雪で受け止め、迫る噛みつきは膝で閉じる。
動きが止まった瞬間を本音の九尾ノ神獣の能力・
爆発の威力をリベリオンへと向ける事で白虎にさしたるダメージは及ばない。
まして、零落白夜も雪羅も封じられている今、逆に白虎はバリアスキンを失いにくい状態だ。
一撃必殺の武装を使用出来ない一夏ではあるが、それでも仲間がいるから怯まない。
自分は身体で足を止めればいい、攻撃と防御はのほほんさんが担当してくれる。
そう考えながら、リベリオンのバリア残量を70%まで減少させたとき、さらなる異変が発生した。
≪ギャアアアアウッッ!!≫
攻めるのがままならないと踏んだのか、リベリオンは片手を勢いよく下から上へと振り上げると、大地を切り裂きながら衝撃波のような青白い刃が九尾ノ神獣を襲う。
保有している余剰粒子を手からの攻撃として変換したのだ。
「こっちきたー!?」
「避けてくれのほほんさん!」
目の前の本体への足止めでカットに入れない一夏がそう叫ぶまでもなく、地上にて戦闘する白虎たちの援護をしていた本音は宙へと跳んで逃げる。
一夏の意識が本音へと向けられた隙にリベリオンへ、身体を側転させるように浴びせ蹴りを白虎へ放ち、咄嗟に上方向へガードした死角より、足元を掴みにかかってきた。
側転で回転しきる前に、地面を両手で叩いて無理矢理回転方向を戻したのだ。
「なにっ・・・!?」
≪グルアアアアアアアアアアアアアッッ!!≫
どんなにスピードがあろうとも、圧倒的力に掴まれてしまっては為す術もない、白虎はリベリオンに両足を掲げる様に持ち上げられると、そのまま捻じる様に全身で回転しながら地面へと叩きつけられる。
「ぐああっ!!」
肩と頭から白土と激突した一夏が軽い脳震盪を起こそうとも、リベリオンは掴んだ手を離さずに連撃を止めない。
起き上がると今度は逆方向へ叩きつけるべく大きく手を振り上げる。
「させ・・・るかぁ!!」
一夏とてやられっぱなしではいない、両翼のウイングを開いた白虎は雪羅を発動し、マッハの早さでリベリオンを道連れに加速する。
綱を繋がれた荷台がトラックに引かれるように、白虎の足を掴んだリベリオンは中空へと引っ張られる。
「でえええいっ!!」
勢いよく加速していた白虎はスタジアムの壁前で急減速し、そのまま蹴り上げる様にリベリオンを特殊金属で加工された壁面へとぶつける。
≪ゴォアッ!!≫
その衝撃には耐え切れなかったのか、白虎の足から手を離すリベリオン。
一夏は攻め手を緩めることなく再度雪羅を発動し、リベリオンの首を掴むと地面へと加速する。
「極まっちまえーーーーっ!!!」
ずどん、と轟音と共にもうもうと土煙をあげるスタジアム。
巨大クレーターのような窪みを作って地へ突き刺さったリベリオン、一夏は即座にその場から離脱すると、本音へと声をあげる。
「のほほんさんっ!」
「おっけーーー!!」
要請を受けて指を鳴らす本音、途端、リベリオンのいる空間が何度も何度も、巨大な爆発にて支配される。
大気中の酸素が爆裂する音が鳴り続けるがしかし、リベリオンは衝撃に耐えながらも意識を本音へと向ける。
あいつだ。
あいつがいるせいでオレは自由に殺せない。
狂気に満ちた瞳をバイザーの下で大きく光らせたリベリオンは、クレーターから勢いよく飛び出すと、大弓・イチイバルを顕現させると本音の九尾ノ神獣へと投げ放つ―――。
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一夏と本音が暴走リベリオンとの死闘を繰り広げている後ろで、綾の恋人たるセシリア・オルコットも窮地へと追い込まれつつあった。
空中にてミサイルの群れがレイニー・ステラを追尾し、道老龍が接近戦を仕掛けるべく逆方向から急加速で追いすがる。
「ブルー・ティアーズ!!」
ミサイルは左腕のガトリングレーザーで撃ち落とし、迫る道老龍はレーザービットで迎え撃つ。
警戒しなければならないのはその二つだけではない、少しでも動きを止めればこちらを狙っているフェニックス・リヴァイヴのバスター・キャノンの良い的となってしまうからだ。
シールドビットかシュヴァルツェア・ガーベラのようなバリアフィールドがあれば楽なのだけれど。
そう考えつつ無い物をねだっても仕方がない、セシリアは目下迫り来る道老龍を撃破すべくガトリングソードビット・サジタリウスを射出する。
「サジタリウス―――わたくしの敵を討ちなさい!」
速度において、雪羅のような加速を除けば白虎と並ぶ道老龍。
更に装甲も厚く、接近されたら装甲の薄いレイニー・ステラなど数秒で撃墜されてしまうだろう。
そんな道老龍を打倒すべく豪から受領したソードビットは、セシリアの脳波を受けジグザクに蛇行しながら宙を舞い、鈴から見て30度と270度の方角から弾幕を撒きつつ迫る。
「くっ―――!」
弾幕の威力は通常のマシンガンと同格程度であるが、道老龍のスピード自体が速すぎるため、カウンターで当たる衝撃はアマデウスのトルキッシュ・マーチに相当する。
いくら装甲の厚い道老龍とて、そんなものに当たり続ければあっという間にバリアを失い脱落となってしまうだろう。
更に、鈴の接近戦の邪魔とならないよう遠距離からの援護に徹するシャルロットの事は、最初から狙わない。
バスター・キャノンの射角だけは意識しつつ、あるいは道老龍のボディの影に隠れつつ、ミサイルやスナイパーライフルをやり過ごすだけにとどめる。
二対一、それも連携の取れた動きをする鈴とシャルロットを相手に、これほど的確な動きが出来るものかと鈴ですら驚愕していた。
「さっすが、ツルモリが選んだ女ってコトね・・・!やりづらいったら・・・!」
「そんな情けない声色を聞きたいんじゃないんですのよ!」
ようやく槍の射程内へと近づいたと思えばミサイルビットにて視界をくらまされ、背後からのソードビットに切り裂かれ、ちくちくとレーザーで削られ、気付けば道老龍のバリア残量は20%程度となっていた。
対してセシリアはまだ60%と余裕―――と言えなくもないが、このあとまだ80%以上残しているシャルロットが控えていると考えれば少な目とも言える。
狙い撃つ側のシャルロットもまた、セシリアの持つ回避パターンの多さに瞠目していた。
こちらがパターンを予測・学習しても更にそれを上回る動きを見せてくる、いったいどれほどの修練を積めばそこまでの動きを身につけられるのか。
そして、セシリアの瞳は燃え盛る様に熱さを失わず、対峙する鈴をも気迫で圧倒する。
「言ったでしょう!わたくしは貴女を倒したいの!全力の貴女を圧倒したいの!この気持ちだけは、箒さんやリョウにも負けませんわ!」
「―――だったら、返り討ちにしてやるわよ!!」
埒があかず、バリア残量的にも不利となった鈴は一旦レイニー・ステラから距離を離すと、ダブルイグニッションブーストの構えに入る。
「鈴・・・!」
賭けに出る事を察したシャルロットはミサイルを全弾発射し、さらにバイザーを下ろしてバスター・キャノンを構え直す。
道老龍がレイニー・ステラと激突する瞬間、または鈴を迎え撃つためにセシリアが動きを止める瞬間を狙い撃つべく。
ある意味道老龍を犠牲にしての戦法と言えなくもないが、しかし残りバリアの少ない道老龍を効果的に使用出来るという合理性もある。
そんな狙いであろうことはセシリアも理解していた。
前方上下左右からはミサイルが迫り、中央は道老龍、下奥からはフェニックス・リヴァイヴ。
ここまでの波状攻撃を仕掛けられれば、レイニー・ステラでなくとも絶体絶命だ。
また、こうなる事も分かっていて仕掛けた二対一である、かといって具体的な打開案はまだ浮かんでいない。
(さて、どうしましょう。こんな時リョウならアメイジング・グレイス、ラウラならバリアフィールド、箒さんなら幻影の放出、一夏さんなら雪羅で離脱となるんでしょうけれど)
セシリアのレイニー・ステラ、遡ればブルー・ティアーズは第三世代機の初期に製作された機体であるゆえに、遠隔操作ビットを|単一仕様能力≪ワンオフ・アビリティ≫として設定された機体だ。
もっと独創的な、瞬間移動や水流操作といった能力はもともと付与されておらず、そういう意味では第二世代機の延長戦にある機体とも定義できてしまう。
なればこそ、こういった窮地においての逆転の一手に貧する事が多い。
「一番最初にセカンドシフトを成し遂げたわたくし達が、今や一番古い機体に近いというのは皮肉ですわね、ステラ?」
愛機へと呼び掛けるも、四獣のように特殊な経緯を持たないレイニー・ステラは何も答えない。
クスリと笑ったセシリアは、現実逃避はここまでだと言わんばかりに動き回りながらも考えを巡らせる。
何か策はないか。
策はなくても技はないか。この状況を打破する技が。
あるいは、自分の手持ち武装の中で特異性を発揮できる何かが―――。
「・・・あ」
あった。
前回綾との戦いで活躍を見せたあの武器。
あれを使って、上手くやれば鈴を撃破までいけるかも。
悪魔的発想によりフフフとほくそ笑んだセシリアは、腰にマウントされていたレーザーソードを手に取るとその光の刃を放出させる。
「なにそれ、接近戦がしたいわけ!?」
「何のつもり、セシリア・・・!?」
レイニー・ステラのレーザーソード、それは使用者であるセシリアが忘却の彼方へ放り出してしまうほどに使用頻度の低い武装。
ブルー・ティアーズ制作の際に、レーザー兵器のテストとして装備された武装であるが、遠距離戦を主体とするブルー・ティアーズには噛み合わず、その上手元でレーザーを固定させるという技術とコストの高さの割には威力が低く、使いどころがない装備。
いわばファッション的に装着されているだけの武装であるのだ。
どう逆立ちしようとも道老龍と互角以上に戦える装備ではない。
この期に及んでそんな武器で戦おうなど、接近戦のスペシャリストである鈴には許しがたい舐めた真似である。
「このあたしに、接近戦で勝とうなんて―――」
「もちろん、思ってませんわっ!!」
鈴が怒気を孕んだ言葉を言い切るよりも早く、セシリアはレーザーソードを
「!?」
驚きにたじろぐ鈴。
そしてセシリアはシャルロットの射線から逃れつつも背部のレーザービットで放り出したレーザーソードを・・・撃ち抜いた。
するとたちまち、レーザーソードにて固定されていた光の刃は行き場を失って四方へと飛び散り、大きな発光とレーザーの雨霰をそこら一帯へと花火のように撒き散らす。
「なっ―――」
「レーザー・コンフューズ!?」
「その通りですわっ!!」
レーザーコンフューズ。
IS量子で固定されたレーザーソードの刃を本体ごと撃ち抜く事により、行き場を失ったレーザーの発光と、熱の嵐を発生させるというあまり知られていない運用方法である。
これがビームであればビームコンフューズと呼ばれる現象となり、固まった熱粒子の刃を撒き散らせるという広範囲殲滅攻撃となるが、レーザーでも応用は可能だ。
フラッシュバンの様な発光と狙いを失ったレーザーの群れは鈴の網膜を焼き、接近していたミサイルを根こそぎ破壊していく。
目の痛みに動きが散漫となる鈴。
「くっ・・・!」
バイザーを下ろしていたシャルロットの目は無事であったが、その光によって一時的にターゲットを失ってしまい、その隙に振り返ったセシリアは道老龍へとターゲッティング。
すれ違いざまにサジタリウスで両腕を突き刺して封じ、レーザーライフルを直撃させ、これでもかとビットで光線を撃ち込み、残りのバリアを全て消費させ撃墜フラッグを立てさせるに至ったのである。
「マジか・・・!こんな、やり方で・・・!」
落ちゆく鈴、見下ろすセシリア。
「強敵でしたわ、鈴音。一瞬の油断が敗北につながるような、実力差の無い戦い。だけど、貴女にあってわたくしにあったもの、それは―――」
「愛、とか言わないでよ?」
「言わせなさいな!?」
先読みされていきりたつセシリア。
そんな彼女へと困り顔ではにかんだ鈴は、手を伸ばして後を託す。
「・・・ボゥイとシャルを、おねがい」
「ええ、承りましたわ」
落ちゆく道老龍を横目に、ライフルは油断なくフェニックス・リヴァイヴへ構えるセシリアは、大きく息を吐き出しながら睨んでくるシャルロットへと声をかける。
「さて、決着ですわ」
「こんな形は不本意だよ」
「負けた時の言い訳は結構ですわ」
「・・・なんでだろう、今、キミの事がすごく憎い」
がしゃり、がしゃりと脚部装甲やシールド、ミサイルポッド、ガーデン・カーテンをパージしていくシャルロット。
速度では敵わないレイニー・ステラに追い付くために機体を軽くしているのだ。
本来なら防御力を頼みに持久戦に持ち込むべきなのだが、時間がない今はこれが最善手と判断したのだろう。
そして。
左腕の大型パイルバンカー、デュランダルを構え、美しい眉間に皺を寄せるシャルロットはかつてない程人間らしく、凛々しい。
「キミの判断は正しいのかもしれない。けど、それで納得出来る程ボクは大人じゃない。一発、これをぶち込んでやらなきゃ気が済まない!」
行き場のない怒りを目の前の親友へと向け、シャルロットが吼える。
セシリアもまた、今まで見た事の無いシャルロットの慟哭に、優しすぎる彼女が見せる本気の怒りに呼応する。
「もはや言葉は不要ですわ。わたくしへの罵倒を考えるなら、そのリソースを戦いに賭けて下さいな」
「そのつもりだよ」
レイニー・ステラが動き出す。
フェニックス・リヴァイヴが追う。
円を描くように、衛星が星の周りを巡る様に。
小回りの利くレイニー・ステラと、直線加速に優れるフェニックス・リヴァイヴ。
綾を中心とした恋の戦いはいつしか親友同士の一騎打ちの約束と化し、そして訪れた戦いの機会においては、ボゥイという一人の男を巡る。
ボゥイや一夏を助けたいセシリア。
ボゥイを愛するがゆえに駆け付けたいシャルロット。
この激突の果ては、どこへ向かうのか。
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「・・・警備からの連絡が途絶えた」
観戦席にて携帯端末を操作していた千冬が呟く。
頷く山田先生、鼻を鳴らす忍、緊張気味に唇に線を引くマドカ。
亡国機業―――エデンの尖兵がやってきたのだろう。
「シューマッハがおかしくなったタイミングで来るとは思ってたぜ。どこから忍び込んだ?」
「裏門だな。そこから本棟に入り込む気だろう」
敵の動きを予測するなら、初手で潜入部隊を送り込み、陽動のIS部隊を派手に暴れさせる中で本隊がどこからかやってくるという三段構えになる筈だ。
「ならそっちはおれと織斑で当たる。山田、マドカ、この後来るIS部隊を蹴散らしてくれ」
主力でない潜入部隊ならISも数少なく、生身で戦力を温存できる忍と、ISを身に纏えずとも十二分な戦力となる千冬が妥当である。
立ち上がって首を鳴らす忍に頷くマドカと山田先生。
4人はそれぞれ席を立って走り出す。
忍と千冬は裏門へ。
マドカと山田先生はなるべく見晴らしの良い高い場所―――スタジアムの上へ。
アリーナ内でのボゥイの異変が気にならなくもないが、今はそれを気にしていても仕方がない。
千冬ももう、一夏を心配などしていない。
あいつなら、自分の弟なら乗り越えてみせる、ボゥイを救えるはずだと信じているから。
もはや保護の必要のない程に、あいつは強くなってくれたのだから。
「気張れよ・・・一夏」
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獣は傷を追うごとに手強くなっていく。
リベリオンは攻撃を加えるごとに俊敏さ―――クイックネスを増し、距離を稼ぐような速度はまだしも、近接戦闘での細かな動きは白狼にも匹敵する。
更に本音の九尾ノ神獣がせり立てる鉄板などあって無いかの如く、発泡スチロールでも壊すような気安さで粉砕していく。
「なら、これでどうかにゃ!?」
パチンと指を鳴らし、今度はエアバッグを出現させる事でリベリオンの勢いを削ぐ本音。
硬さが駄目なら柔軟性というわけだ。
≪キョオアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!≫
大人しくしているリベリオンではない。
動きにくいと知るや手にした大弓、大鎌、三節棍を次々と遠距離上空の本音へとブーメランのように投げつけていく。
その隙にも白虎が斬りつけているが、いまだに致命的なダメージには程遠い。
「のほほんさん!!」
「だいじょぶ!避けるよ~!」
唸りをあげる刃の群れを地へ降り立つ事で回避し、戻ってくる武器の数々も軌跡を読んでやり過ごす。
だが。
≪ウウウ・・・オオオオオオオオオオオオオオッッ!!!≫
ゴリラのドラミングのように腕を振り回して白虎を弾き飛ばしたリベリオンは、必殺の武装たるフェルミオンブラスターの射出口を開き、粒子エネルギーを増幅させていく。
「まずい!あれだ!!」
「おりむー!離れて!」
≪ヴォオオ・・・ッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!≫
収束された翠色の光線が奔る。
その軌道は一夏を通り過ぎて本音へと、いくら避けようと光線はその後を追い続ける。
「やばっ・・・!狙いはわたしか・・・っ!」
普段の間延びした口調を忘れる程の危機感。
今のリベリオンは九尾ノ神獣のバリアが尽きISが解除されようと、あの殺人的な熱量の放射を止めてくれるとは思えない。
つまり、直撃は死に直結する。
「なろォっ!!」
すぐさま立ち直った一夏は零落白夜を発動、粒子放出中のISクリスタルへとその光刃を突き立てる。
途端、凄まじい熱量が撒き散らされ、大きくその形を歪ませていくリベリオンのクリスタル。
「効いてる・・・!?」
弱点見たり、と素直に喜ぶ事は出来ないが、少なくともリベリオンは苦しむような仕草を見せるとフェルミオンブラスターの放出を中断、胸部装甲を閉じて俯き、一夏を睨むように顔だけを上げる。
人間に例えるなら、疲労困憊ながらも闘志を失わずにいるような感じだ。
白虎が叫ぶ。
『零落白夜を通して伝わったわ!このIS、苦しんでる!あのクリスタルを壊せば止まるかもしれないの!』
「よし・・・!こじ開けるか、もう一発撃たせるかって事だな!」
がしり、とダメージに軋む機体を稼働させ、吹雪を中段に構える白虎。
そうなると、カウンターのダメージ覚悟で雪羅で突っ込むのがベストか。何故なら。
(こいつがもう一発アレを撃つとしたら、間違いなくのほほんさんを狙う時だ・・・!)
仲間を犠牲にする可能性は取れない。
それが綾なら信頼して預けたかもしれないが、本音が相手では託すには信頼感が足りない。
ならば自分が背負うべきだ、でも一人ではやらない。
一夏には作戦立案能力が足りないが、自分が何をすべきか、何が出来るのかは分かっている。
≪ギョオオオオオオオオオオオオオオッッ!!≫
「うおおおおおおっ!!」
叫びと共に地を蹴るリベリオン。迎え撃つ白虎。
振るわれる爪撃の乱舞を両手両足で捌き、肩口で体をかまし攻め返す。
受けるダメージをものともせず、装甲を急速に修復しながら狂爪を振るうリベリオンと、傷つきながらも前に出る白虎の距離は至近から全く離れない。
「いけいけぇっ!!」
このレベルになるともはや阻害が意味を為さない中、本音はリベリオンの背中や頭部を狙って爆発を放ち続ける。
致命的なダメージとはいえなくとも、それで幾分かの動きを鈍らせる事は可能なはずだ。
その協力の甲斐あってか、少しずつリベリオンの反応速度が鈍る。
ボゥイ自身の脳が揺らされるような事がなくとも、内部的な自立回路に小さなゆらぎが生じ始めたのだ。
「好機だ!白虎!!」
『ええ、ええ!踊りましょうマスター!!』
すかさず両翼を広げる白虎、開いた光翼の名は雪羅。
目にも止まらないマッハの翼は白虎という最速の機体を一直線にリベリオンの中心へと一夏を導いていく―――!
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乱れ飛ぶビットが2基、3基と墜とされていく。
激しさを増す戦線の中、レーザービットの動きの癖を読み切ったシャルロットの狙撃が光る。
シャルロットの射撃精度は戦うごとに進化を続け、いまやセシリアに追い付こうとしていた。
驚くべき吸収速度、戦う相手の癖や動きを完璧に覚え、トレースでき、自分のものとしてインプットできる天才的能力がシャルロットの強みだ。
もし仮にフェニックス・リヴァイヴにビット兵器を搭載すれば、シャルロットは即座に上級者並みに使いこなしてみせるだろう。
既にレイニー・ステラのバリアスキンは20%まで低下し、善戦してきたもののフェニックス・リヴァイヴのバリアを50%までしか削れていない。
それでも尚、セシリアは諦めを知らなかった。
勝ち目はある、そう信じているから。
まだまだシャルロットに伝えたい想いも、受け取りたい気持ちも満ち足りてはいない。
「もっと、もっと寄越しなさいシャル!あなたの想いはこんなものではないでしょう!」
「馬鹿にしないで―――こんなの、まだ半分でも足りないんだから!」
もっと早く弾を出せとばかりに両手のマシンガンが火を吹き熱を帯びる。
レーザーガトリングとサジタリウスの実弾ガトリングが弾幕を返す。
二人は顔中を汗でだらだらにしながらも、宙を切る速度で雨粒のようにそれを振り切っていく。
額から目に汗が染みようと、鼻頭から口へと垂れ流れようとお構いなしに。
視界が、感覚が、目の前の相手しか認識していないかのように。
「思えばあなたには勝った覚えがありませんわ!ISで戦った事は無かったけれど、炊事洗濯掃除にISの整備、どれをとってもわたくしより上で悔しかったんですのよ!」
「お生憎様!ボクはお嬢様生まれお嬢様育ちのキミより汗と涙を流して自分を培ってきたんだ!ISの操縦だけしてればいいキミとは住む世界が違ったのさ!」
「言ってくれますわね!幼いわたくしが両親を喪ってからどれほどの重責に耐えながらオルコット家を率いて来たか、あなたに分かりまして!?まだ肉親の生きているあなたに!」
「ボクだって、母さんの看病に必死になってた!その後に引き取られた先のデュノア家では辛くて泣いていた!苦しい思いをしてきたというならボクの方が上だ!」
舌戦。
刀奈たちへ「戦闘中に喋り過ぎ」と言っていたシャルロットが、普段落ち着きのあるセシリアが、これほどまでに感情を吐露する事がこれまでにあっただろうか。
「それは責任感の無さの裏返しでなくて!?産まれた時から重責を背負わされてきたわたくしには立ち向かう以外に選択肢などなかったの!そこから逃げ出したいとも思いませんでしたわ!だって、オルコット家が大切だと心から思っていましたもの!」
「急に自分の父親が出てきて冷遇されて、それでデュノア家を大切になんて思えるもんか!キミにはキミを大切にしてくれる人がたくさんいたかもしれないけど、あの時のボクにはそう思える人なんていなかった!キミにボクの気持ちなんてわかるものか!」
「っ・・・!自販機のジュース代、2回立て替えましてよ!!」
「ボクは15回お昼ご飯作って分けてあげてるからね!!」
「いちいち数えてんじゃねぇですわよっ!!」
「どの口が言うのさっ!!!」
レーザーライフルとビームライフルの交差が周囲の空気を熱していく。
近づかせまいと神経を擦り減らすセシリア。
近づくために弾薬を失っていくシャルロット。
愛する両親を喪い、二度と逢う事の出来なくなった少女。
片親を喪い、愛してくれない両親の元で苦しんだ少女。
抱えた苦しみを、誰にも見せなかった苦悩を、お互いだけに吐き出す事の出来る感情を。
好きな人にも、分かり合えた父親にも、垣間見せなかった悲しみを。
彼女達は今、最も近しいお互いにこそ見せ合い喉を嗄らしゆく。
「だいたいリョウは趣味が悪いんだ、こんなですわですわした娘を選ぶなんて!ボクにしておけばご飯や身の回りのお世話もISの相手だってしてあげられたのに!あんなロン毛、フラれてせいせいしたよバーカバーカ!」
「えーえー!あなたこそ事あるごとにピーピーと無理だやめよう諦めようと泣き言ばかり、女の風上にもおけない弱メンタルでしょう!あのロン毛はあなたの手には余りますわよ、良かったですわねフラれて!代わりにバカ毛の尻でも撫でてれば良いのですわ!」
「キミはメンタルが強いというより頭おかしいんだよ、もさもさヘアバンド!猪じゃあるまいしドッタンバッタン前進ばっかりで、少しは後ろを振り返る知能をみせたらどうなのさ!これだから不味い飯世界ナンバーワンのイギリスは!」
「もさっ・・・!?ま、またわたくしのファッションセンスを貶めましたわね!?ヤブイヌみたいに後ろ向きに走るあなたに言われたくありませんわよ、この淫乱!知ってるんですのよ、あなたの部屋のタンスの下から二番目の右奥に、大量のフランスから持ち込んだ無修正のスケベ本が隠されて―――」
「ぎゃあああああああああああああああああっ!!!!!な、なんてこと暴露するのさ!?そんな事言うならキミだってえっぐい●●●や××××が旅行トランクの中に―――」
「い゛ゃあああああああああああああああああっ!!!!!こっ、これだからフランス産のドスケベは手に負えないのだわっ!汚物は消毒ですわーーーーーーっ!!!」
「汚物って言う方が汚物なんだよこの汚物ーーーーーーーーーーっ!!!」
まぁ、えげつない展開である。
悲痛な人生のマウント合戦だったのが、いつの間にやら互いを罵り合うという醜い争いへと変貌。
互いが互いの地雷を踏み抜き、知能指数を下げ、果てには武器を投げ捨てて殴り合いへと転じる。
最終的に殴り合っているという部分だけみれば箒と鈴の一騎打ちに似ているが何故だろう、まるでカタルシスを感じられないのは。
激突し、平手を打ち合い、もみ合って回転するレイニー・ステラとフェニックス・リヴァイヴ。
もはやバリアの残量も無いに等しい中、ブーストの押し合いをしながら怒声を浴びせ合う。
こうなると出力の高いフェニックス・リヴァイヴの方が有利であるのだが、頭に血が登り切っていたセシリアもシャルロットも、その瞬間まで自分達のいる位置にまるで気付いていなかった。
そう、リベリオンの背中とレイニー・ステラ&フェニックス・リヴァイヴが激突するまで。
≪グァウッ!!?≫
「ちょっ、いつの間に!?」
「ボ、ボゥイっ!」
「っ!今だ白虎―――!!」
『翼よ、雪羅の名の元に!!』
接触音に振り返るリベリオン、セシリアにシャルロット。
それを隙と見た一夏が叫び、白虎が応える。
音速となった鉄の塊がリベリオンの胸部へ轟音と共にぶつかり、渾身の力で装甲を握りつぶしながら胸部クリスタルを露にする。
「いけぇぇぇぇぇええええええええええええーーーーっ!!!」
リベリオンが気付くころにはもう遅い。
一夏が突き刺した零落白夜によって激しい火花を撒き散らしたクリスタルはやがて爆散、シャルロットとセシリアごと吹き飛ばす大きな爆炎へと変わる。
「「きゃああああああああああああああああっっ!!!」」
それでレイニー・ステラはバリアスキンを失い脱落、フェニックス・リヴァイヴはバリア残量10%となり、リベリオンは―――ゆっくりと膝から崩れ落ち、機能を停止してボゥイ・シューマッハへと戻っていった。
「こ、こんな決着、あり・・・!?」
地を滑り終えたシャルロットがぐぐぐ、と力を込めて上体を起こしていくと、その頭上から500kgはありそうな金ダライが落下。
「ぎゃんっ!?」
ごわんごわんと音を立てて地面に落ちた金ダライ。
目を回すシャルロットはバリアスキンを失い、それが本音によるトドメの一撃であると知る。
チーム【クリア・マインド】の完全勝利であった。
そして。
歓声があがるよりも先に、スタジアム外から放たれた銃弾の雨がグラウンドへ降り注ぐ。
ざわつく場内、緊張感を緩めない一夏と本音。
白土に空いた穴と、そこから噴き出る白煙。
目を凝らさずともスタジアムの天蓋の上に見える人影、そして宙に浮くISらしき影と、無数のゴーレムたち。
「さあ、終わりの始まりよ」
炎の魔女の如き女、スコール・ミューゼル。
彼女は片手を振り上げ、自軍の傀儡たちへと戦闘開始の号令を告げた――――。
第八話・終
はい、これでしばらく次回更新は未定です。
次から最終章、話ためてから帰ってきます。
乞うご期待(誰が期待してるんだって話だけど)。
最終章―――【