インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
ゴーレムは駆逐すればするほどに数を増す。
まるで列を成しているかの如く、最初は20機だったものがいまやその数を膨れ上がらせて50機にもなっている。
それだけ亡国機業側も本気であるという事が分かるが、しかし専用機も豊富なIS学園の生徒達が相手では些か分が悪いと見える。
刀奈の指揮の元、教師や量産型ISを操る生徒、アーキタイプでブレイカーなIS使い達が奮闘しゴーレムを駆逐し続ける。
また、モルドスライム三体を相手に全く怯まず、押し返すのが白虎、朱雀、そしてシュヴァルツェア・ガーベラの三機だ。
かつて戦闘したデータがある事もさる事ながら、以前とは機体性能も違う。
反射反応を見せてしまうビーム類の使用は避け、簪から送られるデータを元に最適な戦闘パターンを作り上げる。
特にモルドスライムとの相性が良いのは箒の朱雀だ。
「舞え、
朱雀の全身から三対の赤き残像が迸り、実体をもってモルドスライムへと迫る。
モルドスライムはアメーバのような軟質のボディを有しており、物理攻撃を仕掛けようものなら衝撃を吸収され、たちまち取り込まれ飲み込まれてしまう難敵だ。
されど物理攻撃可能な残像が相手であればどうか。
取り込もうにも身体が無いため触れる事が出来ず、ビームを利用しない朱雀の攻撃方法では反射反応も起こせない。
次第に一直線に巨大な体躯を削られゆき、コアを抉られ、取り込まれていた操者をも引っ張り出す。
零落白夜による防御に徹しなければならず、仲間が取り込まれないよう援護に勤めていた一夏はその手際に知らず笑みを浮かべた。
「すげぇぜ箒!」
『お見事です、我が主!』
「鈴音が言っていたろう、
コアへと辿り着いた残像が攻撃性の触手を交わしつつそれを引き抜くと、一夏へと投げ放ち、零落白夜が暴走状態のコアを一刀にて破壊。
まずは一体、モルドスライムが塵となって消滅した。
「わたしたちも負けてられんぞ、ガーベラ!」
『わたしとしては朱雀の頑張りをもう少し見守りたいのだけど』
「おかあさんはどっちのおかあさんなんだ!」
『冗談よ』
原初のISの中でも最も初期に製作された玄武は、いわば全てのISの姉であり母の目線をもつのだろう。
嫉妬気味に頬を膨らませるラウラをなだめつつ、出力を上げていくシュヴァルツェア・ガーベラは、ハンドガンを乱射しつつ迫る触手はバリアフィールドで捌く。
たとえモルドスライムがガーベラの全身を覆い包もうとも、バリアフィールドが保つ限りは取り込まれたりはしない、それに。
かつてこれの犠牲者であったラウラには、モルドスライムに思う所がたくさんあったのだ。
「シュヴァルツェア・レーゲン・・・かつてのわたしの愛機よ。おまえの亡霊が未だ跋扈するのであれば、わたしは亡国機業とエデンを許さん。こいつらを葬る事が、おまえへの手向けとなると信じるぞ!」
いわば仇討ちだ。
VTシステムを開発したゲルトナーが事実上の引退を果たそうと世にシステムが残っているのなら。
末期に自分へ謝罪を送る程に義理堅い性格だったレーゲンも、安らかに眠る事など出来ないだろう。
ドイツ軍に所属している間、専用機として使用していたシュヴァルツェア・レーゲンへと想いを馳せながら、ラウラはバリアフィールドの出力を上げていく。
「ゾネ=スヴェルを使う!使用時間は1秒、いけるか!?」
『わかったわ、コントロールを預けます!』
熱を帯びるバリアフィールド。
超高熱によるバリアアタックの名を
シュヴァルツェア・ガーベラとの対話が可能となったラウラの新たな武器だ。
あえて無策でモルドスライムの巨体へ飛び込んでいったラウラは、取り込もうとする動きに合わせてフィールドを加速させてコアを目指す。
「イグニッション!」
僅か1秒あれば充分、直線距離にて軟体を抉りながら突き進んだガーベラは、その行く手にあったコアへと激突、貫いて破壊した。
攻撃と防御を兼ね備えたゾネ=スヴェルは、一見無敵の能力に見えるものの活動可能時間がかなり短いという欠点を備えている。
せいぜい5秒も継続して使えば簡単にオーバーヒートしてしまうのだ。
ゆえにこれは機体性能を著しく向上させるグングニールに次いで奥の手といっても過言ではないのだが、使用時間を短く刻むようにする事で一度の戦闘で複数回の使用が可能となる事を、ラウラは数々の試合を経て知った。
専用機限定チームバトルは、そういう意味では敵に隙を与える無駄な催しではなく、専用機持ち達の練度を向上させる機会でもあったといえよう。
閑話休題、ラウラがようやくモルドスライムを一体撃破し、取り込まれていた操者を助け出している間、もう一体も危なげなく撃破する箒。
だが、順調に戦う彼らの前で、信じられない事が起こる。
マドカや真耶に倒され、ISを解除された操者達が次々にコアをモルドスライムへと変貌させていくのだ。
「これは・・・!」
「まずいな、おそらく奴らのISは全機にVTシステムが搭載されているぞ!」
「ふざけやがって・・・!!」
驚きに眉を寄せる箒、叫ぶラウラ、怒りを燃やす一夏。
亡国機業のやり方もそうだが、自身の命すらいとわないIS使い達も常軌を逸している。
「死ね、死ね死ね死ね・・・!」
「私の命一つで世界が壊れるなら本望よッ!」
口々に絶望を吐き捨てる亡国機業のIS使い。
彼女達は洗脳されてここに来ているわけではない。
おのおのが世界に、自分自身に見切りをつけて戦争の継続によるカタストロフィを願ってISを身に纏っているのだ。
「あいつら、なんで・・・!」
「落ち着け一夏!ムキになってはだめだ!」
突出しそうな一夏をいさめ、箒はまたも現れたモルドスライムを撃破すべくバーニアを吹かす。
「山田先生!敵ISを倒すのはこちらでタイミングを計るまで待ってください!このままだとモルドスライムが無際限に増える!」
「む、難しい注文ですね・・・!」
箒からの要請に冷や汗を垂らす真耶。
多対一ながらも優勢な彼女であるが、流石に最新型であるISが相手ではジリ貧となる。
まして真耶のSOMGが使用している武装はサブマシンガン、実弾である。
これでも弾切れしない様に立ち回っているが、それだって限りがあるのだ。
攻撃をすれば息が切れて敵がモルドスライムへと化し、防御に徹すれば押し切られて撃墜される、そんな絶妙微妙な戦線が真耶の位置。
他の機体はIS学園各地へ散ったゴーレムの駆除に奔走しており、一夏たちはモルドスライムの対処に手一杯。スコールの相手をするマドカは言うに及ばずだ。
ダーシャとミーアの黄金コンビもまた、敵側であったダリル=レイン・ミューゼルとフォルテの相手で手一杯。
ならば。
「姉さん!山田先生の援護を!」
「分かってるわ!簪ちゃんも油断しないで!」
ここで、簪の護衛に専念していた刀奈が動く。
彼女であれば真耶の援護をしつつ、同時にスコールの牽制も可能であろう。
しかし―――。
その時、アナスタシア・ブライドのセンサーに複数のISを検知。
「・・・!待って、姉さん!敵機と思われる反応増大!あと10分ほどで増援が来るわ!」
「このタイミング・・・!何機!?」
「5機!」
「たった5機・・・精鋭の可能性が高いわね・・・!」
接近スピードから考えてもセルリアン・ブルーではない事は明らか。
ならばそれらが到着する前に少しでも敵機を減らしておかなければ後々不利となろう。
刀奈はその情報を全軍へ通達すると、当初の予定通り真耶のサポートへと赴き、箒達へと声をかけた。
「聞いたわね!敵増援への対処難易度はあなたたちがモルドスライムをどれだけ早く処理出来るかが鍵よ!奮起して!」
「ふ、なかなか無茶を言う・・・!」
口元を歪めながら箒が毒づく。
朱雀がモルドスライムに対して有効な装備を有しているとはいえ、複数に取り囲まれれば対処が難しい事に変わりはない。
刀奈の言いたい事は、つまりはそんな強敵を撃破する速度を上げろと、対処する数を増やせという事なのだ。
もし銀の福音と対決した際の居合いがいつでも、しかも残像で行う事が可能であればこんな粘着質の化け物など物の数ではないのだが、不可能を憂いても仕方がない。
「朱雀!天照の出力を上げるぞ!」
『可能です!やりましょう、我が主!』
全身から迸る赤き影はその威力を増し爛々と輝く。
ワイヤーフレームじみた朱雀の陽炎は高周波による斬撃を飛ばし、レーザーを放出して道を拓いていく。
「遅れるなよラウラ!・・・ラウラ!?」
一騎当千の活躍をみせる箒。しかし。
ラウラは敵機接近から感じ始めた頭痛に顔をしかめ、動きを止めてしまっていた。
「なんだ、この感覚・・・!敵意、悪意、なんて威迫・・・!」
『センサーに高音電波の感応はないわ!まさか、エクシードの・・・!?』
格納庫にて休憩中のセシリア、鈴もまた、正体不明の頭痛を感じていたのだから。
「な、なによこのプレッシャー・・・!?」
「感じる・・・敵にエクシードがいますわ!」
頭を抱えて耐える鈴、跳ね起きて綾の元へ駆けるセシリア。
恋人の言に表情を引き締めた綾は、超常的な相手の到来、おそらくはセシリアに勝るとも劣る事の無い脳波の持ち主の登場を危惧し、待機していた量産型IS・打鉄を使い出撃しようとする―――が。
『待て、綾!』
それを止めたのは通信を繋いでいた豪。
「お爺様?」
『お前が打鉄で出たところでゴーレムの相手くらいしか出来ん!ここは耐えろ!』
「しかし・・・!」
正鵠を射る物言いに立ち止まり、歯痒い思いに焦れる綾。
確かに綾のIS操作技術は長年の努力により他を圧倒する程の実力である。
だが、敵の戦力を正確に分析すればするほど、出力が、パワーが、ISとしての地力が打鉄では足りない。
どんなに工夫を凝らしても、逆に言えば綾ほどの実力をもってしても、セルリアン・ブルーと互角に持ち込むのが関の山であろう。
悔しそうに拳を握る綾の手を取り、首を振るセシリア。
彼女にもそれはわかっているのだ。
まして、エクシードである彼女が行ってはいけないと示す程に、相手の能力は危険であると判断できる。
そうなれば綾が出たところで足手まといになってしまうやもしれない。
『心配するな、こちらからも増援を送っている!』
しかし、豪は希望をも口にする。
にやりと笑う豪は、気付けばヘルメットに酸素ボンベを被り何かを運転しているかのような格好となっている事に気付く綾。
「・・・あの、どうしてそのような恰好を?」
『いま移動中じゃい。この大一番、おれも馳せ参じなければ嘘じゃろう』
「隠れていないで大丈夫ですの!?」
モニターに映る豪のバックにはなにかしらの細かな計器類が施されており、それが単純な車などを運転しているわけではない事がわかる。
空気を切り裂く音から、
『この事態に乗じておれの研究所が襲われる可能性もあった。綾のためとはいえ、長らくIS学園と通信を繋ぎ過ぎていたからな。今となってはIS学園に匿ってもらった方が安全じゃい』
「だからといって・・・」
『おれだけじゃない、おそらく束も来るだろう。今回の戦いはそれだけの価値がある。今後の世界情勢を揺るがす程のな』
神妙な物言いの豪にごくりと唾を飲み込むのは綾やセシリア、鈴だけでなく、シャルロットもまた硬い表情で振り返る。
『まぁ後は、こいつが馳せ参じたがっていたというのもあるのだがな』
「・・・そうですのね、あの方も視えてらしたのね」
察するセシリア。
なるほど、セシリアやラウラの師匠ともいえるあのエクシードであれば今回の事を感知出来ていたとしても不思議ではない。
感応、適合力、脳波それぞれが一定水準以上のあの女性であれば。
『敵の増援には間に合わせてみせるさ。通信終わり』
ぷつり、と光を失うモニター画面。
静寂が満ち始める中、ふたたび椅子へと腰かける綾。
セシリアはそんな綾の肩へと手を置き、微笑と共に頷く。
「今は動くべき時ではありませんわ。わたくしたちの出番はまだ先ですのよ」
「ええ、ええ。そうですね、セラ」
掌を重ねて頷き返す綾を横目に、鈴はシャルロットからエクシードについて説明を受ける。
彼女がエクシードだとはっきり認識していたのは小一時間前までセシリア以外におらず、鈴自身もそんな存在について何も知らなかったのだ。
シャルロットの簡単に噛み砕いた説明にうーむと唸った鈴は、
「なるほどね。道理で甲龍が道老龍になってからおかしいと思ってたわ」
「いま思えば、ボク達を助けにこれたのもエクシードの未来予知だったんだね・・・」
「じゃあまぁいいや。これからそのへんも伸ばしていきましょ」
あっけらかんと、ともすれば興味の欠片も無さそうに言ってのける鈴は、手近にあった林檎に手を伸ばすとシャリ、と丸ごと口にした。
それが禁断の果実さながらの能力である事は理解しつつも、基本的には受け入れている様子だ。
と、そこへ―――。
「んぐ・・・腹減った・・・」
林檎の咀嚼音に気付いたのか、シャルロットが付きっきりで診ていたリベリオンが、背中とIS量子タンクに繋がったケーブルを外してゆっくりと上体を起こしていく。
ぱあっと花開くように表情を輝かせるシャルロット。
「ボゥイ!気が付いたんだね!」
「おお?何でオレ、リベリオンのままなんだ?」
全身装甲IS状態であったリベリオン―――ボゥイ・シューマッハは、みるみるうちに光に包まれると人間の形態へと姿を戻していく。
明るめの黒髪、とぼけた表情。
その姿は暴走状態ではない、まぎれもないボゥイそのものであった。
「やっと起きましたか、シューマッハ」
「まったく、どれだけシャルが心配していたか理解しているのかしら」
綾とセシリアも、なんだかんだと安堵の声をあげる。
IS用の鋼鉄製格納ベッドに腰を降ろした状態のボゥイは、んーと伸びをすると呆けたようにあたりを見渡すが、感極まって飛び込んで首へ手を回してきたシャルロットに驚きつつも抱き返した。
「うおっっ!?」
「もうっ!もうっ!心配したんだよ、ボゥイ!」
「お、おう?なんだ、何があったんだ?よく覚えてねぇんだが、どうなったんだジャバウォック?」
「わかりにくいよ!ボクの名前はシャルロット!!」
台無しである。
頬を染めて涙を浮かべて喜んでいたシャルロットもこれには激おこなのであるが、ボゥイはハッとした表情になると表情に陰を落として彼女の頭を撫でた。
「あ、いや・・・だんだん思い出してきた。そうか・・・赤い靴使ったのか、オレ」
「ボゥイ、赤い靴の事知ってたの?」
顔を離し、それでもボゥイの肩からは手を離さないシャルロットが問うと、頷いて返す。
「おやっさんが今の身体になる前にな、説明は受けてた。一度はどこかで赤い靴使っとけって言われちゃいたが、はは。心配かけたなイャンクック」
「どんだけ遠ざかるのさ!いつもみたいにシャル子でいいよ、もう」
ついに鳥型モンスターと化した呼び方にも、シャルロットは慣れたのか肩をすくめてそう言うと、ボゥイは怪訝そうな顔をする。
「シャル子・・・って、なにその変な名前」
「キミがつけたんでしょ!!!」
シャルロットがボゥイの頭をはたくとスパン!と景気の良い音が鳴る。
んん?と首を捻るボゥイ。
いつも通りのやり取りであるが、どこか違和感を感じたのは鈴だけであった。
「あ、阿鈴リンゴ食ってんじゃん!オレにもくれよ!」
「阿鈴って呼ぶな、バカボゥイ」
続けて感じられる違和感の積み重ねがあるものの、とりあえずは鈴は果物籠に入っていた林檎をボゥイへと放り投げてやる。
それを片手でキャッチし、勢いよくかじりつくボゥイであったが、2、3回咀嚼していくうちに、んんん?とまた首を捻りだすボゥイ。
様子のおかしい彼の顔を覗き込むシャルロットは、少し心配そうに聞いてみる。
「どうかした?どこか痛むの?」
「・・・まずい」
えづきながらもどうにか飲み込むボゥイに、不思議そうな表情を浮かべる鈴。
「まずい~?これ青森産のちょっと高いリンゴよ?普通に美味しいっつの」
「えぇ?ちょっと食ってみ、シャルロット」
「え、ちょっ、あむ」
食べかけの林檎を押し付けられ、赤くなりながらもおずおずとそれを口に含み、一口かじるシャルロットは、やはり首を捻って言う。
「・・・おいしいね」
「あれぇ?」
納得いかないような表情のボゥイだが、状況的にいつまでも茶番に付き合っているわけにはいかない綾にせっつかれてしまう。
「いつまでも遊んでるんじゃないですよ、シューマッハ。お爺様がこちらへ向かってるのもありますし、今の自分自身のコンディション確認くらいしておいてくださいな」
「ん?おぉ悪い」
言われて立ち上がって林檎をシャルロットへ預け、リベリオンのコアを手にIS量子タンクのケーブルに繋ぎ直すボゥイは、損傷の酷さに愕然とする。
「なんじゃこりゃ!?フェルミオンブラスターが使えなくなってる!」
「仕方ないよ、一夏だって必死だったし・・・ああしなきゃ止まらなかったんだよ」
「・・・そうかい、オレぁあいつに負けたんだなぁ」
シャルロットの言葉にしんみりとした顔つきになるボゥイ。
最後の手段を使って尚、あの少年は自分を乗り越えたのかと頼もしくも悔しくも感じる。
ともあれ。
ボゥイが目覚めた事で待機メンバーは綾、セシリア、鈴、シャルロットと5人。
アマデウスの改造完了まで、あと1時間半。
俺は!俺は!一体何のために戦っているんだーっ!!
はい。さて次は何を失うんですかねぇ・・・(遠い目)。
おじいちゃんとおねいちゃんも合流フラグ立てたし、マドカとスコールもケリつけないとなー。