インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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熱き怒りの嵐を抱いて

6体目のモルドスライムが墜ちる。

それに合わせる形でセルリアン・ブルーが撃破され、新たに2体のモルドスライムと化す。

真耶と刀奈への負担が減り、ラウラと箒、防衛に回る一夏への負荷がまた増した事になる。

「くっ、こう数が多いと厳しい・・・!おい、もしかしたら増援のISもモルドスライムになるんじゃないだろうな!」

「撃墜すればの話だがな!まったく、やり口が汚すぎるぞ!」

さしもの箒もかなり集中力を浪費しているためか息が荒く、答えるラウラも吹き出す汗を止められずにいる。

そして、白虎のエネルギーもまた底を尽きかけてきた。

「くそっ!もう少しなのに・・・!」

「おりむー!わたしが代わるよー!」

と、ここまで簪の護衛に回っていた本音が前へ出て一夏へ下がるよう指示。

頷く簪と本音を交互に見た一夏はどこか無念そうに俯き、それでも箒とラウラを信じてエネルギー補給のため格納庫へ退避する事を決めた。

 

「すまないみんな・・・すぐ戻るから!」

「すまなくない!お前は頑張り過ぎだ!」

「ちょっとぐらい寝てから帰ってきてもバチは当たらんぞ嫁!」

「あんまり無理されても逆に迷惑よ一夏くん!」

「早く帰って織斑君!」

「おりむーのばーかばーか!」

「なんでそこまで言われなきゃなんないんだよ!?」

 

箒、ラウラ、刀奈、簪、本音に次々とせっつかれながらも、表情をひくつかせながら後方へ加速していく一夏と白虎。

チーム【デスペラード】の暴走リベリオンとの激闘からこっち、休むことなく戦っていた一夏への負荷はやはり大きかったのだろう、その後姿は少し疲れて気力が減少しているようにも見える。

とはいえ、簪や箒達が到着するまで一夏が粘らなければモルドスライムのナノマシンとゴーレム軍団によって初期被害が更に広がっていたのだろう。

そういう意味では戦闘序盤の殊勲賞は間違いなく簪であるが、隠れた立役者は一夏なのだ。

 

「さて、一夏の抜けた穴は本音に埋めてもらうとして・・・正念場だぞ、ラウラ!」

「やらいでか!・・・うっ!?」

 

心の内で一夏に尊敬と感謝を送りながら箒がラウラへ発破をかけた―――瞬間。

無数のレーザービットが戦場となっていたアリーナへと飛来し、箒達や簪、真耶や刀奈、どころかマドカとスコールをも巻き込んで一斉射撃を行ったではないか。

セルリアン・ブルーのビットとも、セシリアのレイニー・ステラの物とも違う、蟹鋏のような近接専用のブレードが装備された攻撃的なビット。

放射状光線(スプレッドレーザー)を撒き散らしたビットの主は、明らかな敵性反応。

 

簪が察知していた敵の増援、精鋭と思われる5機のISが到着したのである。

 

モルドスライムに気を配りながら宙を舞い、マドカに撃墜された苦い記憶と同じようなシチュエーションに唇を噛みつつ、箒はアリーナ上空へ位置する敵増援へ睨みをくれる。

「あいつらは・・・!」

「エクシードだ、間違いない!」

自身もまたエクシードであるラウラが確信をもって叫ぶ。

 

エクシード―――ISを使用する者の中で、稀に誕生する過剰適合者とでも言うべきか。

一般的にその存在は知られていないが、それを知る者達からの認識としては人間の第六感を進化させた人類であるとされている。

ISとの適合率上昇をはじめとして、脳波強化、未来予知、テレパシー、他者感応といったエスパー的能力を身に着けたエクシードは、人類の進化系として裏組織から研究材料として非道な実験に晒されていたものも多い。

そのうちの何名かが、おそらく目の前に現れたISの操者なのだろう。

 

IS学園側で確認されているエクシードは3人。

他者感応、未来予知において比類なき力を有する凰 鈴音。

IS適合率を限界突破させたラウラ・ボーデヴィッヒ・鶴守。

強力な脳波放出が可能なセシリア・オルコット。

 

他にもミーア・デイヴィスや架神 マドカといった、可能性はあるものの確証には至らない者も存在するが、こちらはまだ正式にエクシードであるという裏付けが取れていないため保留である。

 

さて、そんな超常的な力をもった亡国機業のエクシード部隊が操るISは全機、アンノウン。

分厚い装甲に太い手足という重量級のボディに、孔雀の羽のように装着された背中のファングビットは8基。

前身のいたるところにビーム発射口を有したダークグレーの機体群。

戦闘にいる隊長機らしきISのみ、両肩を赤くカラーリングしてある。

ジェットヘルメット状のバイザーからは操者の表情は読み取れないが、明確な敵意と悪意を持ち合わせてこちらを睨んでいる事だけは、ラウラの感覚が伝えていた。

 

「ヘビータイプのパワーISか・・・!厄介だな・・・!」

これまでIS生身問わず数々の戦闘を経験してきたラウラだからこそ分かる危機感というべきか。

ただでさえ厄介なビット使いが、機動力を犠牲に強力な防御力と攻撃力を兼ね備えている事の攻略難度を。

言ってみれば戦車からドローンが対歩兵機銃を装備して発進してくるようなもの。

または航空戦艦に対して駆逐艦単機で正面から戦闘を挑むようなものだ。

 

自分ごとマドカへ攻撃を加えた事は特に咎めず、スコールはくすりと笑みを浮かべて少々の被弾をした黒騎士へと改めて向き直る。

「そろそろ形成逆転かしら?言っておくけどこちらのゴーレムも強化してあるのよ、ISでも即座に撃破とはいかないでしょうね」

「そうか、それで先程からこっちに増援が来ないわけだ・・・」

激闘の証とでもいうべき傷がお互いのISに刻まれている中、マドカはそれでも焦りを見せずに肩でゆっくりと息を吐く。

忍からの教えの一つに、何があっても決して焦るなというものがある。

焦りは隙を生み、至高を鈍らせる。

自分自身の弱さとの戦いであると置き換えれば、焦りに負ける事は無い。

愚直にそれを守るマドカの精神は、実年齢に比例しない程のたおやかさをもっていた。

 

千切れた蛇腹剣を放り捨て、ビームセイバーを抜き放つマドカ。

既にヘルメットは火球を受け燃え溶け、脱ぎ捨てられている。

簪や、忍を見て成長を続けてきた彼女の姿は幼いながらも美しく、オリジナルである千冬すら彷彿とさせる凛々しさがあった。

まさに学園を守る黒き騎士。

亡国機業から離れてから1、2ヵ月だけの間に、これほどまでに強く成長出来るものなのかと、スコールですら目を見張る程である。

「・・・強くなったわね、M。もう亡国機業へ戻って来なさいと言っても無駄かしら?」

スコールのゴールデン・ドーンも片側の炎鞭が千切れ、大剣にはひびが入っている。

かつてのMであればいくら強くともここまでスコールに太刀打ちなど出来なかっただろう。

IS学園にてしばらく戦闘訓練など行っていなかったマドカが、これほどまでの性能を発揮する―――これはまさに、想いの力というものを体現していると言えなくはない。

 

(わたし)の居場所は、ここだ」

 

足の横腹で愛馬たるホムラを蹴る。

嘶きと共に、再度の激突を果たすべく黒馬が駆ける。

ゴールデン・ドーンの火球、エクシード部隊からの援護射撃、セルリアン・ブルー隊のレーザーを掻い潜り、義父さながら黒き颶風となって加速するフェイト・ザ・ブラックナイト。

 

それを追い越すように、二本のミサイルがマドカを通り過ぎ、空中の量産部隊へと迫る。

 

「なに!?」

「旧式のミサイルだと!?」

 

ISのバリアをもってすれば大した影響はないものの、思わず回避しレーザー射撃を止めるセルリアン・ブルー。

突然の頭痛に苛まれるエクシード部隊もまた、ファングビットを戻してしまう。

「この感覚っ・・・!各機、警戒!」

隊長機の号令と共に、感応の元を視認すると―――迫るのは、一機の戦闘機。

アメリカ空軍のATFにて開発された航空機・YF-23である。

NASAにて保管されていたそれを秘密裏に回収し、独自の技術をもって改造し、この場へ乗って現れたのは―――鶴守 豪。

そして、後部コクピットに座っているのは、彼の助手にして強力なエクシードであり、セシリアやラウラを導いた若き女性―――。

 

「レティシアか!」

「レティ師匠ですわ!」

 

セシリアとラウラのエクシードとしての感覚が告げる。

彼女こそが、亡国機業・ひいてはエデンに研究用に拉致され強化された過去をもつエクシード。

かつてはあの織斑千冬を追い詰める程の力量をもったIS使い。

レティシア・S・ジェンキンス。

「おまたせーっ!!」

彼女はシートベルトを外し、開いたコクピットバイザーから放り出されるように飛び出すと、空圧防御用のゴーグルを外しながらロケットペンダント型の待機ISへと―――告げる。

「羽ばたけ!ニルヴァーナ!!」

刹那、朱色の閃光と共に彼女の全身は武骨な赤きフルスキンのISへと変わる。

10基の大型バーニアビット、【ネヴァーマインド】。

拡散砲・集点砲・圧縮刃の三形態のビームを使い分け、装甲の厚さからシールドとしても使用が可能。

重量はあるがバーニアの出力の高さ故に機動力も高く、パワーも一級品だ。

他は脚部には近接専用の細長いブレードが装備されている、武装としてはそれだけのシンプルな機体だ。

 

レティシアは言う、ニルヴァーナの最大の武器はロックンロールな自分のハートであると。

心臓というドラムを叩き、血管というベースに血というギターのメロディをのせ、腹の底から生を叫ぶ(シャウト)

生き様ともいえる(おんがく)を手に、レティシアはここへ降臨したのである。

 

宙がえりをし、豪の乗った戦闘機がIS学園の着陸場へ向かうのを目で追ったレティシアは、エクシード軍団へとその視線を向けて言う。

「その子達・・・うちと一緒に捕まってた子達だね?」

問いには隊長機が答える。

「そうか、貴様はレティシア・S・ジェンキンスか。いかにもこいつらは貴様と共に研究素材として使っていたエクシード共だ。今はもう・・・我々の言いなりだがな」

手を掲げる隊長機に従って視線を後ろの四機へ向けると、バイザー越しにレティシアにとって見知った顔が、虚ろな視線と漂う殺気のみが感じ取れる事に気付く。

 

ある者は瞳孔が開きはなしとなり。

ある者は涎を止める事が出来なくなっている様子だ。

 

「貴様が脱走した後、二度とそのような真似をしでかす輩が現れない様、徹底的に拷問と投薬、長期にわたる催眠にて人格を奪ったのさ。こいつらはもう、生体兵器と成り果てた」

 

ぶつぶつと何かを呟きながら銃を向ける者。

顔中に縫い傷がみられる者。

彼女達がどんな目にあってきたのか・・・きっと想像を絶するのだろう。

 

隊長機はレティシアの神経を逆撫でするかのように続ける。

「我ら亡国機業、水の一族は常に新たな境地を求める。このような人格操作もまた、戦争によって生み出された技術の一端さ」

「・・・アリシア。クーデルカ。バトゥラ。ジュリエッタ」

かつて励まし合った日々を思い返し、彼女達の名を呼ぶレティシア。

きっともう、どんなに手を尽くしても元に戻す事が出来ないのだろう友。

やりきれない想いに止めをさすように、敵は言う。

 

「レティシア・S・ジェンキンス。貴様が逃げ出したりしなければこいつらがこのような目に遭う事などなかった。全ては貴様の責任だ。貴様がこいつらをこのようにしたのだ」

 

それを聞き、仮面の下で一筋の涙を流したレティシアは、拡張領域を開く。

武器を展開させると考えた隊長機であったがしかし、何もない空間から姿を現わしたのは―――一本のエレキギターであった。

80年代のギブソン・レスポール スタンダードだ。

困惑気味の表情を浮かべる敵隊長機をよそに、レティシアは腰のコネクタへケーブルを繋げ、鋼の指を器用に動かして弦を弾く。

コネクタ横のスピーカーから流れる曲目はX JAPANの【Forever Love】だ。

非業の死を遂げたメンバー(HIDE)へ捧げる鎮魂歌として演奏したという名曲を、可憐な声で歌い上げるレティシア。

突如として戦場にて流れ始めたレクイエムに誰もが手を止めて空を仰ぐ。

「!?・・・なんだ・・・?!」

「レティシア・・・!泣いて、いるのか?」

「せ、戦場でなんて呑気な・・・!」

「違う・・・これは、慟哭だ・・・!」

 

箒やラウラ、スコール、マドカ、各々が戸惑いながら言葉を紡ぎ、敵隊長機は焦れたように叫ぶ。

「貴様・・・気でも狂ったか!?」

レティシアのニルヴァーナへ銃撃が、ビット攻撃が網の目のように繰り広げられる。

それでもギターの演奏を、歌う口を止める事無く続けつつ、攻撃は優雅に軽やかに回避していくニルヴァーナ。

バーニアビットを展開させ、直撃しそうな攻撃はそれで防御し、隙あらば反撃のビーム射撃を行わせるレティシア。

その狙いは正確で的確、次々と敵機のファングビットを狙い撃ち、撃破していく様はまさに一騎当千。

喉よ枯れよと全力で愛を歌い、自分へ銃を向ける友の抜け殻へと呼び掛ける彼女の姿を、誰が馬鹿に出来ようか。誰が嘲る事が出来ようか。

 

いつしか、感情を失ったはずのエクシード使い達の瞳から涙が流れていく。

レティシアの叫びが、音楽が。

「届いている・・・!想いが・・・!」

驚きに口を開いたままとなるラウラ。

エクシードとしての可能性にあるテレパシーや脳波放出を、このような形で表現するなど。

綾と同じ、分かり合うための戦いを、こんな風に行うレティシアを。

憧憬の念で見る以外に、同じエクシードであるラウラには出来なかった。

 

ひとしきり歌い終わるころには洗脳された仲間達のビットは殆どが撃ち落とされた後であった。

「なんだと・・・!」

「勘違いしてるみたいだから、ひとつ教えてあげる」

悔し気に歯噛みする隊長機へ、ギターを肩に抱えたレティシアは力強い声で言い放つ。

 

「この子たちがこんな風になったのは、うちが逃げたからじゃない。お前達が勝手にこんな目に遭わせたんだ!!それをうちに責任転嫁して自分達の罪から目を背けようなんて笑止千万だよ!!」

「ふざけた事を・・・だから何だというんだ!」

「うちはお前達を許さない!!お前達を殺してでも・・・これ以上の犠牲は出させない!!」

 

再度ギターを構え、かき鳴らすのはオリジナルのヘヴィメタル。

目にも止まらない16ビートが示すのは怒髪天の表現か。

レティシアだってここへ来る前から分かっていた、こんな事になっているのではないかと最悪の場合を想定して、覚悟してここに来た。

だからこそ揺れはしない。それが唯一人、逃げ延びた自分の責任だ。

最後まで幸せを掴む事が出来なければ、満足の出来る生を謳歌出来なければ、それこそ目の前の少女達へ顔向けが出来ないではないか。

 

それとこれとは別に。

彼女達へ行った非道を自分のせいなどとのたまう敵が許せない!!

 

音楽に呼応するかのように乱れ飛ぶバーニアビット、取り囲まれる隊長機。

「名前くらいは聞いてあげるよ、名無しの墓石じゃ可哀想だからね!!」

「おのれっ・・・!この水の一族が一席、ディアナ・バゼットフェザーを愚弄するか!」

期せずして名を名乗る敵隊長機、ディアナ・バゼットフェザー。

亡国機業が水の一族の長、ピクトル・バゼットフェザーの姪にしてファントム・タスクのエクシード部隊長。

立場的にはレイン・ミューゼルと同等であるが、プライドが高く、斥候任務になど就いているレインを完全に見下している権力主義者である。

その差別的な考え方は、自身がエクシードとして覚醒して以降加速するようになったという。

纏うISは亡国機業がエクシード用に開発した機体、【デスブリンガー】。

ダークグレー&パープルカラーに円状の巨大なバックパック、それを取り囲むように設置されたファングビットの発着台。

大型のビームマシンガンとシールドを有しており、分厚い装甲を有した肩部や脚部、胸部アーマーには偏向レーザーの発射口がいくつも施されており、他のISよりも一回り大きな印象を与えている。

高出力かつ高防御力で敵機を圧倒する機体であり、部隊全員が同じ機体を使用しているが、ディアナの機体のみ肩部を赤くカラーリングされていて、隊長機であるという事がよくわかるデザインとなっている。

 

たとえレティシアの機体が全身装甲(フルスキン)であろうとも、対峙すれば呑まれそうなほどの巨躯と威圧感が襲い来るが、数の差も大きさの差もものともせずにレティシアは真正面から立ち向かう。

かつての友からのビームマシンガンの嵐をバーニアビット二基で防ぎつつ、ファングビットのブレードを圧縮刃ですれ違いざまに斬り墜とす。

拡散砲が煌めくとディアナは後方へ回避するものの、避けた先で集点砲が待ち構えてバリアスキンをじわじわと削り取る。

近接戦闘にきたデスブリンガー二機のうち一機のシールドを土台に脚部カッターで蹴り飛ばし、踏み台に跳んだ先のもう一機をソバット気味に蹴りつける。

蹴って動き、蹴って動き、蹴って動き。

ひたすらに動く(ムーヴ)動く(ムーヴ)動く(ムーヴ)

さながら赤き流れ星、技術だけなら忍に勝るとも劣らない身のこなしは、モニター越しに観戦しているセシリアや綾、鈴とシャルロットさえ舌を巻くほどのものであった。

 

「さすが師匠ですわ!リョウ、あんなISにあるまじき体捌き、見た事ありまして!?」

「初見なうえに二度と同じ真似が出来る人は現れないでしょうね。ギターを弾きながらこんな動きなんて・・・信じられない」

「我流よね、これ!?いったんどんな訓練してきたっていうの!?」

「これが・・・織斑千冬に匹敵したという、レティシアさんの実力・・・!」

 

モニターに食いつくようにしている格納庫組の後ろで、ボゥイはどこか自慢げに腕を組んで歯をむき出して笑う。

「レティは強いぜぇ、何を隠そうオレに体術を仕込んだのはレティだからな。オレぁ一度も勝った事がねぇくらいさ」

「ボゥイですら・・・!?」

驚きで口が開いたままになるシャルロットと鈴。

ISという肉体をもっている彼ですら手玉に取るという事実、それは強い筈であると。

 

レティシアはもともとアメリカ産まれの少女であったのだが、親の仕事の都合で中国への転勤についてきたという経緯をもつ。

そこで言語の勉強をしながら中国拳法を学んでおり、その才能もあってめきめきと実力を伸ばし、10歳の頃にはプロの男性格闘家ですら彼女に指一本触れる事が出来なかった程であった。

その後、アメリカへ帰還したレティシアはバンド活動中にISアメリカにスカウトされ、アメリカ国家代表としてモンド・グロッソへ出場したのである。

力の千冬、技のレティシア。

ふたりの対戦カードは観戦チケットが飛ぶように売れ、賭けも常にイーブンを維持する程の人気を誇っていたのだ。

 

それほどの時の人である事を知りもしない、立場に酔って学びもしなかったディアナには付け入る隙も無く、5対1という状況でも次第に押し切っていくレティシア。

「こんな・・・馬鹿な・・・!この私が!」

テコンドーのようにしなる足、鞭のように荒ぶる脚線美。

加えて繊細で大胆なビットの動かし方に、ディアナのデスブリンガーはバリア残量レッドゾーンに陥っていく。

負けた事が無い、自分より強いエクシードなどいる筈がない。

そんな自尊心を粉々に砕くレティシアの実力。

馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な。

奴は、ギターなんて弾いているんだぞ。

あれが手持ちの武器ならもっと強いはずなのに、手を抜かれているというのに。

 

「なぜ、遊びながら戦う奴に、この私が負けなければならないいいいいいいっ!!」

「うちはギタリストだ!戦いで手なんか使わない!」

 

ディアナにとって戦いに手抜きと考えていたレティシアの戦闘スタイルは、実際には逆である。

これが、ギターを弾きながらの戦いが、レティシアにとっての全力。

6本の弦をかき鳴らす事で、自身の集中力を高めているのである。

かつて伝説のロックンローラー、エドワード・ヴァン・ヘイレンは言った。

 

【音楽なんてものは、ある人にはクズ、ある人にはゴールド。それでいいのさ。】

 

だからレティシアは自分のロックンロールをディアナに理解してもらおうとは思わない。

彼女は自分が弾きたいから弾く。それでいいのだと。

大切なのは、自分自身が何を大切にしているかだ。

 

ニルヴァーナの前蹴りがディアナの胸部装甲を貫く。

それを起点に、サマーソルト気味に全身を振り上げ、三日月の軌跡を経てデスブリンガーを引き裂いてバリアをゼロにする。

「う、そだ。私が、こんなクズに・・・!」

「ステージに上がったら自分が一番上手いと思え。ステージから降りたら自分が一番下手だと思え」

落ちゆくディアナへと親指を下に向けて吐き捨てるレティシア。

それは偉大なギタリストであるエリック・クラプトンの言葉。

戦いにおいて、ロックにおいてレティシアが持ち続けている芯となる言葉。

 

「お前に足りないのは、そういう謙虚さだという事を胸に抱いて逝け」

 

地面につく前に、その身をVTシステムに蝕まれ飲み込まれていくディアナ。

途端、青ざめていくその表情。

「い、いやだ。いやだいやだいやだ!!だ、誰か助けて!助けて!助けてええええええ!!」

「そう叫んだうちの友達をこんな風にしたのは誰?」

「ぎゃ、あああっ!嫌だ!お願い!やめてえええええええええ!!!」

エレキギターのネックをスライドさせて演奏を終えるレティシアの眼下で、またもモルドスライムが誕生していく。

それを見送った彼女は、武装を全て破壊され、指示する者を失って棒立ち状態で浮遊するかつての友を一人一人引き寄せ、抱きしめて涙した。

 

「ごめんねぇ。遅くなっちゃって、ごめんねぇ・・・」

 

返事はない。

けれど、想いは伝わっている筈だと信じたい。

 

そんなレティシアへ水を差すかのように降り注ぐセルリアン・ブルー隊からのレーザー。

「ここは任せて、その人達を退避させて下さい!」

ニルヴァーナ達を庇いながら叫ぶ真耶の指示に頷き、敵IS4機を鹵獲して格納庫へと向かうレティシアは、去り際に礼を述べた。

「ありがと!後でお礼に一曲、弾かせてね!」

「楽しみにしてるわ!」

同様に援護を行う刀奈のウインクに仮面の下で笑顔を浮かべてバーニアを吹かすレティシア。

 

まずは増援第一陣をクリアした―――そう思った矢先に。

「・・・!みんな、また増援よ!今度は15機・・・こ、これは・・・!?」

簪が新たな敵機を検知してオープンチャンネルで注意喚起をする。

その数、ISが15。

だが問題は、検知した敵性反応が・・・IS学園に登録のある機体と一致するという事。

「そんな・・・この機体が、量産されていたというの・・・!?」

「どうしたの簪ちゃん!敵の機体がどうしたの?!」

様子のおかしい簪に、油断なく問いかける刀奈。

唾をごくりと飲み込んだ簪は、検索結果に間違いがない事を確認すると、震える喉を鳴らしながら全員へ報告した。

 

「向かってくる敵機は・・・白式。零落白夜を装備した機体が、15機来るわ」

 




げったー!

思ったよりレティシアがカッコよくなってて草なんだけども。
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