インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
モルドスライムの撃破数、8。
それだけの数を駆逐したという事は、亡国機業はそれだけの人間をVTシステムの餌食としたという事だ。
戦闘ナレッジがあり、攻略法が確立されているとはいえ、モルドスライムが強敵であるという事に変わりはなく、度重なる戦闘でラウラも箒も疲労の色濃く。
代わりに、亡国機業量産機であるセルリアン・ブルー隊は既に全滅、エクシード部隊はディアナを除いてVTシステムを発動させる事無く鹵獲出来ている。
戦闘のイニシアチブは、確実にIS学園側が握っている。
「もうひと踏ん張りだぞ、箒!」
「ああ、気張ろうラウラ!」
声を掛け合う箒とラウラ。
同じ四獣の操者として、同じチームを組んだ者同士として、彼女達のチームワークと結んだ絆は固い。
そしてそれは格納庫組もまた同じく。
レティシアの戦いぶりに触発されたセシリアと鈴は、ISの量子充填もそこそこに出撃しようと息を巻いていた。
「あんな素晴らしい戦いを魅せられて黙ってなどいられませんわ!」
「同感!さっきからウズウズしっぱなしよ!」
充填中の愛機を手に、興奮気味に拳を握る二人へと、シャルロットは不敵に笑って頷き返す。
「タイミング的にも、箒達と入れ替わるべきかな。一夏とボゥイは休んでて!セシリアと鈴とボク、三人が出るよ!」
エクシードではないシャルロットもまた、IS使いとしての血が騒ぐのだろう。
休息を経た三人のモチベーションは非常に高いものとなっていた。
シャルロットの言う通り、疲弊した箒やラウラ、新たな敵の増援も予期している事もあり、タイミングとしてはベターといえるだろう。
「むぅ・・・リベリオンが完全ならオレも出たのになぁ」
シャルロットの横でむくれているのはボゥイである。
一夏との決戦で暴走状態だったリベリオンを止めるため、白虎にISクリスタルを傷つけられたのが修復時間を激増させているのである。
「ボゥイ」
そんな彼の手を握って微笑むシャルロット。
照れを隠すかのように口を一文字にする彼へと、シャルロットは優しい声色で語りかける。
「いまは自分の身体を大事にして。キミに何かあったら・・・ボクはきっと、立ち直れないよ」
「お、おぅ・・・」
どぎまぎと視線を彷徨わせてうなずいたボゥイを見て、レティシアはISを解除させた旧友たちを簡易ベッドへ横たわらせながら、からかい気味に目を細め、
「おやおやぁ~?ボゥイ君ってばいつの間に彼女なんて作っちゃって~!おねえちゃんってば嬉しいやら寂しいやら~」
「誰がおねえちゃんだい!」
彼女というワードは特に否定する事も無くレティシアへ唾を飛ばすボゥイに皆が笑う。
その中で一夏は、真剣な眼差しでボゥイへ言う。
「とりあえず俺達はまだ休んでようぜ。お前には、なんで俺を相手に暴走したのかって事も聞いておきたい」
「あー、それなぁ・・・そうさねぇ」
それには頭をかいて気まずそうにするボゥイ。
赤い靴の発動を任意で行った、その理由。
一夏への嫉妬、羨望といった負の感情をトリガーとした本心を、普段ならさらっと笑い話のようにしてしまえるボゥイであったが、今は何故か、シャルロットのいる場所で口にしたくはないと考えている。
それがボゥイには自分の事ながら不思議でならなかったが、シャルロットは全てを察してセシリア達を伴いその場を去って行く。
「いってくるね、ボゥイ」
「おう、頑張れよ」
人間の汚さも、暗い闇も、それに抗おうとする心も、愛した人のものであれば全て飲み干してしまえる程の器の広さ、受け入れてしまえる程の危うさを、シャルロットという少女は持っていた。
それほどの業の深さは、確かに綾ではなく、存在そのものが不安定なボゥイにこそ必要な人間性なのかもしれない。
さておきレティシアへ向け敬礼一つ、発進ピットへと歩いて行ったセシリア、鈴、シャルロットのISのバリアスキン残量は70%。
万全とはいかないが、十二分に戦える数字である。
そして操者の気合は120%、コンディションブルー。
「行きますわよ、シャル、鈴!」
「まかせて、セシリア!」
「あたしたちの強さを見せつけてやるわっ!」
声を掛け合た三人娘は、各々が待機状態の専用機をひと撫でして、その名を呼んでいく。
「虹を纏え、レイニー・ステラ!」
「蘇れ、フェニックス・リヴァイヴ!」
「飛龍乗雲!
顕現するは雨色の流星、不死鳥の再誕、ロード・エンシェント・ドラゴン。
IS学園内トップクラスのマイスター達が並んで飛び立つ様は彗星の如く。
亡国機業との戦いは、まだまだ長くなりそうだ。
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既に、マドカとスコールの戦闘時間は一時間にも及んでいた。
マドカのフェイト・ザ・ブラックナイトがこれほどに長く戦闘していられるのは疑似的なツインドライブの恩恵があってのものであるが、スコールの場合は単純な場数慣れ、経験の差によって消費エネルギーを最低限に抑えながら戦っているという所がある。
ましてや指揮官という立場上、簡単に撃墜されるわけにはいかない―――かといって、亡国機業ほぼ全ての戦力を投入している以上、失敗も許されない。
水の一族の増援がたった一機のISにしてやられたというのは誤算であるが、まだまだ手は残されている。
ISの有用性は、なにも戦闘力だけではない。
必要な時だけ戦力を手軽に取り出せるという利便性、隠密性にあるのだ。
準備していたのが囮の斥候要員だけではないに決まっている、攻城戦とはそういうものだ。
「さて、名残惜しいけれど、そろそろ終わりにしましょうか、M」
大剣を折られて尚、そのような事を言うスコールにふんと鼻を鳴らすマドカ。
こちらも武装はランスを溶かされ、蛇腹剣は二本とも千切れ、もうボロボロのホムラとビームセイバーしか残されていないが、そこまで言われる程追い詰められている状況ではない。
「そのセリフは勝つ者が言うセリフだ、スコール」
「勝てる確信があるということよ、M。裏の世界に浸透していない貴女にはわからないかしら」
ダメージの深さで言うなら既にスコールのゴールデン・ドーンも同様、バリアスキンはレッドゾーンへと達している。
それでも尚、余裕の態度を崩さないスコールは、何を思ったのか―――ISを解除した。
スタジアムの外壁へと降り立ち、ロングスカートを風にたなびかせるスコール。
疑念と驚きで表情を崩すマドカ。
「・・・何のつもりだ」
「簡単な事よ」
ほくそ笑んだスコールは、豊満な胸元よりもう一組のピアスを取り出す。
それは、これまで使用していたゴールデン・ドーンと同系のものではないのか―――。
「!!スコール!」
「燃え上がりなさい、ゴールデン・ドーン!!」
マドカがホムラを走らせるよりも早く、ISの名を呼び出すスコール。
瞬間、黄金の光に包まれて再生するゴールデン・ドーン―――スコールが用意していた専用機は、二機あったのだ。
「くっ―――」
装着前を狙う事が出来なかったと悔やむよりも早く、駆けるホムラへと火球をカウンター気味に撃ち込むゴールデン・ドーン。
避けきれず直撃コースに入ったホムラは、さながらマドカを庇うように大きく両脚をあげて胸いっぱいに豪火球を受け止める。
嘶きと共に量子と化しつつもマドカを跳ね飛ばすとホムラは、後を託すような目線を向けた後に待機状態のイヤリングと化して消え去り、マドカの右耳へと装着された。
「ホムラ・・・っ!」
空中でどうにか体勢を立て直すマドカ。
スコールの老獪な戦略、反則的なリザレクションを行われて形勢を逆転されたマドカは、悔し気に歯軋りしながら眼下のスコールを睨む。
炎の化身たるゴールデン・ドーンを身に纏いながら涼し気に微笑むスコールは改造人間、そのスタミナもただの人間の延長であるマドカとは桁が違うというものだ。
「なんならもう一度言い直しましょうか?名残惜しいけれど、そろそろ終わりにしましょう」
綺麗に自身の言葉をリピートしたスコールがマドカへと飛翔する。
ホムラという機動力を失ったフェイト・ザ・ブラックナイトは、身軽であれど驚異的なスピードを持っているわけではない―――ゴールデン・ドーン自体の性能が高いため、ホムラがあってようやく五分に持ち込んでいた部分がある。
復活した炎の鞭が猛威を振るい、マドカの首を、手足を狙って宙を駆ける。
その音速の鞭の先端が黒騎士に触れるその直前。
高速でマドカの前に立ち、鞭を自身の左腕に絡ませて防いだISがあった。
「貴様・・・」
不機嫌そうに眉へ皺をよせるスコール。
現れたのは四凶が一、黒き全身装甲のインフィニット・ストラトス。
マドカの義父にして漆黒の雷帝。
スコールと同じく改造人間たる架神 忍が身に纏う、ジョーカーという螺旋の剣である。
「しのぶ!」
「よく保たせた」
最も愛する義父の登場に表情を輝かせるマドカ。
左腕のエレメンタルドリルにて炎の鞭を千切った忍は、黄金の女帝たるスコールへその螺旋剣を向けて言う。
「そろそろ終わりにしたいんだったな、ババア。だったらおれが
「・・・不敬で不届きで不愉快ね、エデンの裏切り者が」
苛立ちを隠そうともせずに吐き出すスコールからは目を離さず、忍はマドカへと忠告する。
「簪が増援を検知した事は聞いているか」
「うん、白式が15機!」
「おそらく操者はおまえと同類のガキ共だろう。任せていいか」
「わかった!そっちは
忍もマドカも勘づいてはいた。
白式が―――本来なら織斑 一夏が使うはずだったISが量産されて敵として現れるなら、それを操る者も織斑計画にて誕生した遺伝子改良チルドレンである可能性があると。
だとすれば、その少女達を相手にすべきはマドカが適役だ。
自分と同じ境遇の子供たちを、一人でも多く救いたい。
それが架神親子の共通の願いであるのだから。
「マドカさんっ!」
スコールの相手を忍に任せ、一旦後退したマドカと真耶が合流する。
真耶もまた、IS学園の教師としてマドカと何度となく接してきた大人の一人だ。
互いに好感をもった二人は友人として接しており、だからこそ初手は二人で行動したのだ。
「まや、ホムラをお願い」
セルリアン・ブルー隊を相手にかなり消耗した真耶が一緒に格納庫へ向かおうと示唆するも、マドカは片側のイヤリングを渡して退かぬ決意を見せる。
「でも、マドカさんもこんなに傷ついてるのに・・・!」
受け取りつつも心配そうに言う真耶であるが、マドカは首を振って答える。
「傷ついてるのは、
きっと、戦いしか知らずに自分を傷つけ続けている織斑計画の姉妹たち。
彼女達を止められるのは自分しかいないと、そう思っているから。
だから、退かない。退けない。
運命から目を背けない。
それこそが、マドカが黒騎士に
「・・・そうですか。なら、せめて」
マドカの後ろへ回り、SOMGの残エネルギーを移植する真耶。
かつて本音と簪が一夏を相手に同じことをしたように、IS同士でのエネルギーのやり取り自体は低速ながら可能であるのだ。
「大丈夫、私達もフォローするわ!」
充填中のマドカの肩を叩くのは刀奈。
彼女のスカーレイディ・Rはまだエネルギー残量的には余裕で、ABCマントの下に予備プロペラントを積んでいる事もあり長期戦闘には適しているのだ。
「あなたが戦うのは止めないわ。けど、私たちが手伝っちゃダメって道理もないでしょ?」
「かんざしの姉・・・!」
「刀奈よ。私の名前はか・た・な」
「うん、ありがとうかんざしの姉!」
「あ、好感度が足りないのね。理解理解」
かくりと肩を落としつつも、めげずに苦笑いで流す刀奈。
更識というバックを失い、プライドをも失った彼女は、その代替としてこうした柔軟な精神を身に着けているのだ。
マドカへのエネルギーチャージが完了すると同時に敵増援が視認できるレベルまで接近し、後方からはセシリア、鈴、シャルロットが戦線へ復帰する。
「お待たせしましたわっ!」
「無事ね、箒!ラウラ!」
「後はボク達にまかせて!」
残りのモルドスライムは3体、ここから先、量産型らしき白式を撃破すればそれもVTシステムによってこの異形と化すのだろう。
さすがにうんざりしつつあった箒とラウラの表情にもほっと安堵の光が灯る。
二人ともすでに全身がモルドスライムの破片でベトベトとなっており、ここまでの激戦の名残を色濃く残していた。
「助かったぞ、流石にモルドスライム10体以上との戦闘はキツかった!」
「ああ、少し休みたいと思っていたところだ・・・」
ラウラはもとより、終わりの見えないモルドスライム戦に集中力を擦り減らしていたのは他でもない箒だ。
スコアは箒が6、ラウラが4。
この活躍ぶりは軽く表彰されても罰が当たらないレベルである。
ふらついて倒れそうな箒を抱えたラウラは、鈴とハイタッチして後方へと下がりつつ、
「本音、お前も下がれ!これを逃がしたらもう下がる機会はないぞ!」
「だいじょーぶ!かんちゃんが下がれないなら、わたしだって頑張んなきゃ!」
そう、ここまでの戦いで最も健闘しているのは他でもない簪である。
アンチVTシステムの使用のため退避できず、その場でモルドスライムのコアおよび操者の探知、敵増援の捜索、戦闘要員のステータス把握と、指揮官として常に集中し続けているのだ。
「私はこういうの慣れてるから本音は退避しても大丈夫だけど・・・」
「だーめ!そういう事言ってすぐ無理しちゃうの、知ってるんだから!」
「はいはい。頼りになるなる」
くすりと笑って本音の残留を受け容れる簪は、それでもどこか嬉しそうである。
気心知れた友人が傍にいる、それだけで気持ちの持ち方というのは変わるものなのだ。
真耶、箒、ラウラが格納庫へ向け退避を始めると、15機の敵は散開しながら剣を抜く。
色合いや形状は白狼になる前の白式そのものであるが、紅椿との連携機能をオミットされているためかそれぞれ遠距離武装やシールドを装備しており、より汎用性高い機体となっている。
そして、最大の特徴である零落白夜も再現済みだ。
この機体の量産に束が関わっていないのであれば、倉持技研が協力しているのかそれともハッキングでもされたのか。
「乗っ取られた・・・って可能性もあるのよね」
刀奈が呟く。
解せないのは零落白夜、これは倉持技研ではなく束が後付けで搭載した単一仕様能力であるため、倉持技研をどうこうしようと再現できるはずが無いのだ。
謎はまだある。
現状確認出来ているだけでも30機以上のISを敵が用意しており、公的にどこにも登録されていない機体がこれほどあるという事実。
敵はどこかに大掛かりな工場と鉱山を所有している。
でなければこれだけの数のISとゴーレムを準備できるはずがない。
「考えるのは後ですわ!来ますわよ!」
セシリアの発破と共にマシンガンを乱射してくる敵白式。
正確な狙いを各機それぞれが回避。
こうして間近で視認すると、細部の違いはあるもののやはり白式そのものである事がわかる。
「
「セシリアにしては真っ当なネーミングだね!」
「余計なお世話ですわ!」
「だったらあの白式もどきを仮にそう呼称しましょう!接近戦をする場合は零落白夜に気を付けて!触れたらアウトよ!オルコットちゃんとデュノアちゃんはモルドスライムの対処に専念、私とマドカちゃん、凰ちゃんでホワイト・カスタムを迎撃するわ!簪ちゃんと本音は近くに来た機体だけ迎撃して!各機、散開!」
「「「「「「了解っ!!」」」」」」
刀奈の号令でバラバラに動く各機体。
それを見た白式改の操者達はにやりと笑い、我先に獲物を狩らんと一斉に動き出す。
連携の取れた動きではないが、一機一機が隙の無い動きをしており、まとまりが無いのが逆に狙いづらい。
「白式の上位互換のデータなら揃ってるのよ・・・っと!」
操者の力量はまだ未知数ながらも刀奈は焦らずにワイヤー仕込みのソードチャクラムを両手で操って、大振りで交錯させるように数機をまとめて狙う。
当然、上下それぞれに回避する白式改の群れに対して、読み通りとばかりに蒼流旋から速射弾を撒き散らしつつバックブースト。
追ってくる機体のうち一機がイグニッションブーストと共に零落白夜を振りかぶる―――が、背後からの突然の衝撃に困惑の表情を浮かべる事となる。
手元へ引き戻されたチャクラム二基が、背部ウイングへと直撃し切り裂いたのだ。
「なんだと・・・!」
「動きは悪くないけど、実戦慣れはまだまだと見えるわ!」
失速した白式改をランスで突き、脚部のビームサーベルで蹴り上げる刀奈。
もともと多くはないバリア残量を零落白夜で削っている白式改は、それだけで稼働状態がレッドゾーンへと達してしまう。
ここで刀奈は気付く。
敵の顔立ちが千冬―――ひいては、マドカと瓜二つであるという事に。
「やっぱりそういう事なのね・・・!」
詳しい話を聞いていたわけではないが、かつて更識を率いた身である刀奈にも察する事は出来ていた。
織斑 千冬から始まる一夏、マドカという血統。
それが裏の組織による遺伝子操作により生まれ出たものであると。
誰だっておかしいとは思うはずである、織斑 千冬は―――強過ぎたと。
ドーピングも無しに過去幾多の栄光を手に、無尽蔵なパワーと最高峰の技術力を有した人間が本当に存在するのかと、疑念に思ってはいたのである。
それが大量に産まれていたとなれば、国際問題なんてレベルではない。
むしろ。
こういった存在が、織斑 千冬という存在がこの世に大々的に公表されておきながら、誰もその事を詳細に調べなかったという時点で色々と理解出来るというものだ。
(IS国際連合のトップが指示した可能性が高いということ・・・!そして、目の前のこの子達がIS学園へ侵攻してきたという事は、敵もまた然り・・・!)
豪や束を介さずともそこまで察する事が出来る刀奈は、やはり本来は有能な人材なのだろう。
否、父に抑えつけられていた才能がここで開花したというべきか。
刀奈は思考を切り上げるとブレードチャクラムのワイヤーでバリア残量が少なくなった白式改をがんじがらめにすると、零落白夜を発する雪片弐式をビームライフルで破壊した。
これで撃墜する事無く、つまりはVTシステムを発動させる事は出来ない。
「さぁて、裏取りはまた後で織斑姉弟を問い詰める事にしましょうか」
切り替え早く、次の白式改へと視線を向ける刀奈。
彼女の本領発揮はまだまだ、これからである。
「現れたな、M!この裏切り者が・・・!」
「貴様と同じ【織斑】である我々が制裁してくれる!」
二機の白式改がマドカを襲う。
アリーナの上空高く、2対1の状況でマドカはどうにか想いを伝えようと、見知った相手へと言の葉を乗せる。
「やめて!ナユタ!エレン!あなたたちは自分が何に加担しているのか分かってない!」
織斑計画のアルファベットナンバー、N、そしてE。
それぞれ織斑 ナユタ、織斑 エレンと名乗る、マドカと同じ顔を持った少女達である。
迫る零落白夜とビームセイバーで競り合いつつ、いなしつつ、叫ぶマドカの声は彼女達へは届かない。
「分かっていないのは貴様だ、マドカ!我々の使命を忘れて千冬ねえさまへ取り入って!」
「織斑 一夏を殺す事が我々の命題だろう!忘れたのか!」
「ちがう!いちかも、ねえさまも殺す必要なんてない!産まれた時点で、
今のマドカには、忍がやったような理解のさせ方は出来ない。
あれは慢心していたマドカに、実力差という現実が突き刺さっただけの話だ。
だから声を荒げて想いを伝えるしかない、そして。
(かんざしみたいに、戦うことで分かり合う・・・!りょうがそうしてきたみたいに・・・!)
フェイト・ザ・ブラックナイトおよびホムラの最終調整を手伝ったのは綾だ。
その際に聞いた、彼の信念―――戦うことで、ぶつかり合う事で生まれる理解があるという事を。
簪と刀奈のぶつかり合いや、彼らの試合を観て学んだ。分かった。
そうする事でしか分かり合えない、守る事と戦う事のジレンマも。
『何とどう戦うのかは君次第ですよ、マドカ。くれぐれも・・・よく考えなさい』
戦う事は嫌いだ。自分も傷つきたくないし、誰かが傷つくのもいやだ。
けれど傷つく事を恐れちゃいけない。
戦いが怖い事から逃げちゃいけない。
その想いが、願いが、架神 マドカという少女を覚醒させていく。
「傷つけるための戦いは、命を奪う戦いはしちゃいけないんだ!」
「何を言うかと思えば!」
「貴様だって、我々を殺すために剣を振っているではないか!」
「違う!
突き出される零落白夜をクイックターンで回避し、返す刀でその持ち手を破壊。
その隙をついて下方向から襲い来る光の刃をバック宙でもするかのようにかわす。
躱しざまに投げつけたビームセイバーはやはり雪片弐型の持ち手を突き刺し、二機がともが一撃必殺の武装を取り墜とす事となる。
「馬鹿な!」
「我々の知っているMは、ここまで強くは無かった筈だ・・・!」
投げつけたセイバーを空中でキャッチしたマドカは、残ったマシンガンおよびアサルトライフルの速射からジグザグに回避機動しながらも、言い放つ。
「戦う事は罪だ!けど、戦わなきゃならない時は必ずある!なら
あまりの気迫に圧されるナユタとエレン。
このメンタルへとダイレクトに響く言葉も胆力も、エクシードの力の現れだとしたら。
千冬ですら到達出来ていない、遺伝子改良の肉体に超越精神を持つ、本当の新人類に近づいているのは、マドカなのではないか。
「ば、馬鹿馬鹿しい!戦いを恐れる様な失敗作が何を囀る!!」
自分を奮い立たせてマドカへブーストするエレン。
構えるマドカの両手には、いつの間にか回収した雪片弐型が二本―――。
「き、貴様っ!!」
「
吼えたマドカの二閃が、白式改のコアを切り裂く。
白式のデータがあるという事は、コアの在り処もわかるという事。
こうすれば撃墜後もVTシステムが発動する事は無い。
ただし、解除後の操者の命は、空中で放り出されてしまえば保証できるものではない。
「あ・・・負け、た?これが、死?」
「死なせない!エレンっ!!」
上空600Mの高さにてISを解除され、絶対防御を失って落ちゆくエレンの身体をマドカが支える。
死の予感に肌を粟立たせていたエレンが、その様子を見守るしかなかったナユタが、呆けた目でマドカを見つめる。
「な、なぜ・・・助ける?」
「
「マド・・・カ・・・」
敗北を受け容れたのか力なくマドカに身を預けるエレン。
ほっと一息つき、今度はナユタを見つめるマドカ。
「・・・あなたもまだ、
「・・・・・・その前に・・・マドカ。貴様がどうしてそこまで強くなれたのか・・・教えて欲しい」
「うん。あとでちゃんとお話ししよう」
忍とスコールが戦闘しているのとは逆のアリーナ天蓋へ降り立ったナユタは、ISを解除し敵意の無い事を示すと、残った白式改へと飛び立つマドカを見送り、呟いた。
「
「わからない。けど、マドカは・・・」
ぺたんと座り込んだエレンは、ナユタを振り返りながら、マドカの姿を思い返して言う。
「マドカは、殺し合いを愉しむ
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四人の男達はアリーナへと続く道を歩いていた。
一人は銀髪赤目の男、アドルフ・ボーデヴィッヒ。
エデン幹部の秘書として立ち回る男で、常に慇懃な態度を崩さない。
彼を先頭として続く二人の男はそれぞれ黒髪で互いに似た顔立ち、まるで双子の兄弟であるかのようだ。
服装は白いジャケットスーツ、中に見えるシャツの色が青と赤である事と、多少の髪の長さの違いくらいしか相違点が無い。
「さて・・・ようやく奴らとのご対面だな、アドルフ君?」
「それは貴方達にとってもでしょう。いや・・・織斑一族の悲願と言ってもいいかな」
「織斑は俺達だけでいい。織斑 一夏も、織斑 千冬も、あのゴミの様なシリーズ共も最終的には皆殺しだ」
織斑、と呼ばれた青シャツの男は呼応しつつ吐き捨てる様に言ってのける。
シリーズというのはマドカをはじめとした、千冬のバックアップとして作られた遺伝子改良少女たちの事だろうか。
「で、お前はどうなんだアドルフ。お前の目的たるあの兄妹を何故殺す。その殺意の源はどこにある」
ヒートアップする青い織斑をなだめ、赤い織斑がアドルフへ尋ねると、彼は日本刀の刃のように瞳を細めて振り返る。
「私の理解などしないで頂きたい。貴方達が知るべきは私があの二人を殺すまで、余計な手出しをしないという事だけだ」
「ハッ・・・まるで恋する乙女だな。靴箱にラブレターでも入れるところから始めた方がいいんじゃないか?」
「学校など通った事もない男がよく言う」
アドルフの態度が気に障った風もなく、二人の織斑は肩をすくめ合ってまた後に続く。
「いいから早く。早く行こうじゃあないかぁ」
最後尾をついてきていた男がぼそりと言う。
だぼついたコートから伸びる深めのフードと黒いマスクのせいで表情が読み取れないが、それでも成人には達していない若さだという事が分かる。
特筆すべきは、瞳の奥に潜む狂気の色合いが、アドルフや織斑達より深い絶望色が見て取れるのだ。
「ああ、お前もいたなU号。お前はどうだ、あの男に何を思う?」
「復讐さぁ」
U号と呼ばれた男は、喉を鳴らして笑いながら律儀に答える。
「あいつはオレの全てを奪った。何もかもを滅茶苦茶にした。そのツケを払って貰わなきゃなぁ」
「いいねいいね、そういう回答が欲しかった」
赤い織斑はU号の肩を馴れ馴れしく叩き、首をごきりと鳴らしてにやつく。
「俺の目的もまぁ似たようなものだ。いわば嫉妬だな。だって悔しいじゃないか?あいつだけ千冬姉の寵愛を受けてすくすく真っ直ぐ育ったんだぜ?羨ましくて憎たらしいさ」
「そうさぁ。そして望んでももう取り戻せない。ならば」
「壊すしかない」
「殺すしかない」
「「ははははははは!!」」
意気投合して笑い合う赤い織斑とU号。
人間の狂気を凝縮して煮込んだようなやり取りに、さながら流れてもいない血の匂いがしているかのようだ。
「楽しそうだな、兄貴」
調子が狂ったのか苦笑いをする青の織斑。
「無駄話はそこまでです。もう着きますよ」
かつて綾や仲間達が何度も通ってきたゲートの出口が見える。
その先にはモルドスライムと戦うセシリアやシャルロット、時折舞うミサイルやレーザーが周囲の空気を焼いているのがわかる。
「ははは!戦場だ!殺し合いだ!テンション上がるなァ!」
「さっさとあいつらを引きずり出そう。何人殺せば出てくるかな?」
「クッ、クククッ、さぁ、オレの事を知ってどうおもうかなぁ?」
「来たよ、にいさん、ねえさん。すぐに殺してあげるよ―――」
まるで遅れてやってきた主賓であるかのように、グラウンドへ足を踏み入れる男達。
その表情に緊張は無く、むしろ戦いの気配を敏感に感じ取り高揚する。
絶望の宴が、いま始まろうとしていた。
えんっ!じゃすっ!ふぁいっ!ざーみーん!
マドカに作者補正というバフがモリモリかかっていくぅ・・・。
そしてなんか来たぁ・・・。
がんばれがんばれ。