インフィニット・ストラトス リビルドワールド 作:しびれあくせる
油断は無かった。
全力で、全身全霊で挑んだはずだった。
いつも通り、否、いつも以上のスペックが出せている自信もあった。
だが。
バリアに叩きつけられた後、ライフルを墜とされたセシリアを助けるべくすぐに戦線へ復帰した鈴であったが、真正面から軟槍の連撃を繰り出しても軽々と回避され。
練り上げてきた技が、通じない。
全て軌道を見切られ、それどころか槍自体を零落白夜にて切り裂かれ。
ゼロ距離の乾坤圏すら、少し腕を押され焦点をずらされるだけで意味を為さず。
気付けば、光刃の一刀にて斬りつけられ、意識を刈り取られていた。
薄れゆく感覚の中、最後に見たのはISを解除された自分へと、荷電粒子砲を向ける京秋の姿。
ちくしょう、悔しい。
一夏と同じ顔の男に殺されるなら本望とか思っちゃう自分が、ホントに悔しい。
無常の弾丸が放たれると同時に、鈴の意識は閉じた。
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「何なんだ、あいつらは・・・!?」
アドルフたちが現れてから、格納庫にて待機していた綾たちの間でも戦慄が奔っていた。
ラウラがデスクを叩いて困惑する前で、綾の表情にも深い戸惑いの色が刻まれる。
父であるレオン譲りの銀髪に顔立ちのアドルフ。
そしてISを展開させた男達は、一夏と瓜二つの風貌。
このような隠し玉がお披露目されるなど、計算外にも程があった。
最も動揺を隠せないのは一夏だ。
白式改が現われ、その操者達が千冬のクローンであったというだけでもショッキングな出来事だというのに、更に自分と同じ顔の人間が、しかもISを身に纏って襲い来るなんて。
「ちくしょうっ・・・!何なんだよ、織斑計画ってよ!マドカみたいな奴がまだいるってのは知ってたけど、俺がたくさんいるなんて聞いてねぇぞ!」
コンクリートの壁を叩き、窪みを作る一夏。
箒は、わなわなと震える一夏に寄り添い、肩に触れる以外に出来る事が無い。
「あのレオンもどきは、ゲルトナーが進めていた遺伝子改造兵士計画の生き残りか何かだろう。織斑計画とて一枚岩ではないのだと思われるな、だからあのような存在がまだ残っていたのだ。いわば・・・男性の肉体をもった千冬君だ」
豪の推論はつまり、肉体的にも一夏を大きくアップグレードさせた存在であるという事実を示しており、ならば彼らは本当の意味で織斑計画の完成体と言えるのではないか。
ちらり、とアマデウスの改造完了までの時間を見やる綾。
まだ完成には20分ほどかかる。
「オレは行くぜ」
無言で頭をかきむしる綾の肩に手を置くボゥイは、待機状態のリベリオンを片手に宣言する。
それを止める者はいない、もはや戦える者は少ない。
ここが最終防衛線、敵の強さを考えればこれ以上の増援はないだろう、ならば出し惜しみをしていては本当に死人が出てしまう。
頷いた豪は、念のためにボゥイへ忠告する。
「フェルミオンブラスターの使用は避けろよ、ボゥイ。ISクリスタルが損傷している今、お前自身にどんな反動が襲うか分からん。一発でも使えば肉体が吹っ飛ぶかもしれん」
「大丈夫さ、おやっさん。そんな時のための赤い靴だろ」
「だからそれも使うなと言っとるんだ!」
「覚悟は出来てんだよ」
豪の忠告を振り切り、ボゥイはピットへ歩いていく。
「シャルロットを死なせるくれぇなら、オレが死ぬ」
ここへきて、シャルロットへの恋愛感情を素直に認めたボゥイに迷いはない。
自分のために、自分の楽しいと感じるもののためだけに生まれ変わったと思っていた。
けれどあの笑顔、あの膨れ面、あの優しさだけは・・・失いたくない。
「俺も行くぜ、これ以上黙って見ていられるかよ!」
充填率50%そこそこの白虎を手に立ち上がるのは一夏だ。
「そうだな・・・お前はそう言うと思っていた」
「正念場だ。命賭けていくぞ、と」
箒、ラウラが続く。
「博士、うちも行ってくる!」
レティシアも眠りにつく旧友たちを豪に任せ、ボゥイ達の後を追う。
やれやれと溜息をつく豪。どちらにせよ止めても止まらない奴らだという事は知っているのだ。
そして、動きたくても動けない綾、そしてISのバリアスキン残量をマドカへ譲り、ほぼゼロのまま充填中の真耶だけが残る。
「こんな時に動けないなんて・・・自分の無能さに腹が立つ」
デスクに肘をつけ、片手で頭を抱える綾。
そんな彼へとそっと手を置く真耶は、自身には理解出来ない数列と睨み合いをする綾へ優しく声をかける。
「あなたは無能なんかじゃありませんよ」
「真耶さん・・・」
「あなたがいたから、皆ここまで来れたんです。もしあなたがいなかったら、この状況に立ち向かえる程、みんな強くなれませんでした。だからそれを誇って。残り20分・・・これが、あなたとあなたの仲間が全力で駆けた証なのですから」
惑いがちに、頷く綾。
そうだ、あと20分。皆が居なければもっと時間がかかっていた。
最悪、アマデウスのまま敵と戦う事となっていたかもしれない。そうなれば僕は勝てたか?
勝てないだろう。なら現状の残り20分という数字はベストを尽くした結果だと思おう。
「ありがとうございます、真耶さん」
添えられた手に掌を重ね、綾は礼と共に頷いた。
自分が待っているのは、IS学園を守る最後の切り札。
これが完成さえすればどうにかなる。だから、皆。
「セラ、ラウラ、皆・・・どうか無事に、20分もたせて下さい・・・!」
時計の針は残酷に、平等に、ただ時を刻んでゆくのみである。
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生身の鈴を狙って放たれた荷電粒子砲は、ギリギリのところでカットインに入ったセシリアのビットの犠牲により隔たれ、無事と言って良いのかは難しいがエアバッグに包まれて地面へと落ちる鈴。
意外そうに口笛を吹く京秋を睨むセシリア。
その瞳には、怒りの業火が宿されている。
「貴方・・・自分が何をしたか分かってらして!?」
「何って?ただあの子を殺そうとしたんだけど?また俺何かやっちゃったかな?」
「ふざけないで!」
セシリアの叫びに応じて飛来するサジタリウス。乱れ撃つブルー・ティアーズ。
熟練を重ねたビットの動きは鋭く、先程のように弄ばれるような甘い軌道はしない。
ホワイト・テイルの全身に絡みつく様に斜め方向よりレーザーを照射し、挟み込むように上下からソードビットを加速させる。
「へぇ、さっきより・・・!」
鈴をはじめ、セシリアの事も頭から侮っていた京秋に、ほんの少し驚きが生まれる。
スラスターを吹かして縦に横にと回避しつつ、両腕の展開装甲を解放。
後方へ三連に伸びる刃と化した零落白夜が煌めき、楕円を描きながら迫るサジタリウスを抱き斬る様に振るう。
「甘くてよ!」
前方から飛翔するサジタリウスは囮、光の刃からバラバラに離れていくそれの後ろからはミサイルビットが火を吹く。
「ふ」
薄く笑いつつも放たれる爆撃を刃で落としつつ、背後からのレーザーも予測して回避する京秋。
ことごとく読みを外されて歯噛みするセシリア。
エクシードたる先読みも複雑な軌道も、京秋の目の良さと勘の良さには通じない。
初手でライフルを墜とされてしまったのも痛い。これでは攻め手に欠けてしまう。
「少しは楽しめるじゃないか、エクシード!才能にかまけた愚鈍共だと思っていたけど、君はスペシャルなようだ!」
「エクシードも知っていますのね!でも、貴方からは何も感じられませんわ!」
「それはそうさ、俺はエクシードじゃない・・・ノーマルだからね。けど、それで俺より優位に立ったつもりかい?俺は
「生まれや才能で争った事などありませんのよ!」
「君達のスタンスなんて知った事じゃないな!」
優しい声色ながらも常に見下した物言いに苛立ちを隠せないセシリア。
シャルロットと億春の戦いもそうであるが、押され気味な彼女達に危機感を感じた簪は、すぐさま本音達へと指示を飛ばす。
「本音!デュノアさんの援護へ!」
「りょっ!」
「ミーア、ダーシャ、そっちはどう!?」
「片付いたよー!」
「VTシステムは積んでなかったみたいだし!」
小一時間かけてダリルとフォルテを撃破したミーアとダーシャが簪へサムスアップする。
それを受けて親指を立て返した簪は、
「すぐマドカちゃんの援護へ向かって!忍さん、そちらは!?」
「すぐに行く」
「わかりました!各機へ、すぐ応援が来ます!何とかもたせて!」
簪の言う通り、後方発着ピットより味方機がこちらへ向かってくるのが見える。
そのうちの機体に、一夏が、ボゥイが、ラウラが見えた瞬間、アドルフたちの目の色が変わる。
「来たか・・・ねえさん!」
「兄貴、一夏だ!」
「ああ、そろそろ遊びは終わりにしよう」
「クッククク・・・ハァーハハハハ!!!」
瞬間、京秋と億春の動きが変わる。
まるでこれまでは準備運動であったかのように、残像を引き連れてセシリアへと迫る京秋。
シャルロットへ向け渾身の力を込め、バッティングのように大きくハンマーを振りかぶる億春。
「なっ―――」
「うわっ・・・!」
「きゃっ、あああっ!!」
直ぐにビットを防御へ取り廻そうとするも間に合わず、すれ違いざまの三連斬を受けてISを解除させられるセシリア。
ガーデン・カーテンを完全に破壊され、腕装甲を潰されながら吹き飛ばされるシャルロット。
ビットで攻撃するも、返す刀の薙刀の一投に貫かれて意識を断たれる本音。
ほんの数瞬の間にIS学園の強豪たちを墜とされる様子を見ている事しか出来なかった一夏が、ラウラが、ボゥイが叫ぶ。
「セシリアっ!のほほんさん!」
「シャルロットーーーっ!!」
「て・・・めぇらーーーっ!!!」
激昂と共にイグニッションブーストで億春へと急加速するボゥイ。
だがその前に。
「お前の相手はオレだよぉ・・・」
ゆらりと幽鬼のように生身で立ちはだかる、U号。
「な、なんだぁっ!?」
イグニッションブーストは急停止・急制動が出来ない。
ゆえに、地上すれすれでブーストしていたリベリオンは必然、U号と激突してしまう事になる・・・が。
あろう事かU号は加速中のリベリオンのボディへと飛び掛かり、そのままへばりついたのだ。
普通の人間であればその重量と加速だけで肉塊と化しかねない衝撃の筈が、U号は原型を保ったまませせら笑う。
「ハハッ!ハハハッ!会いたかったぜぇ、オレからすべてを奪った男ぉ!!」
「な、なんだ!?何を言って・・・!?」
「これから教えてやるよぉ・・・真実を知ってぶっ壊れやがれぇ!!」
U号のフードが衝撃で裏返り、マスクが吹き飛ぶ。
その顔は―――髪は茶髪であるが、ボゥイ・シューマッハそのもの・・・!
「なにっ・・・!?お、おまえ、オレ・・・!?」
「違うね!おまえが、オレの偽物なんだよっ!!」
有り得ない膂力でリベリオンの顔面を殴り飛ばしたU号は、そのボディから飛び跳ねて危なげなく着地する。
コートを脱ぎ棄て、ノースリーブセーターにシャツという学生のような恰好をした少年の姿を現わすU号。
「この顔だけは、わざわざおまえに似せて整形してきたんだがなぁ!!」
少し年若く見えるが、限りなくボゥイ・シューマッハに似たその少年は、唖然として膝をつくリベリオンへと審判を告げるように言い放つ。
「おまえ、いつから自分が
「な、に・・・!?」
狼狽するボゥイ。
いつからだって?そんなもの、産まれた頃からに決まっている。
「なら母の顔を覚えているか?父の顔は?いつから全身不随になったのかは?」
覚えている筈がない。
だって、オレは産まれた時からほとんど目が見えなかった・・・あれ?
じゃあどうして阿鈴の顔は覚えている?
人の顔が判別できないレベルの盲目ではなかったはずだ。
それに、全身不随になったのだって、事故のせいで・・・え、おかしいぞ。
どうして?なぜ?
「ボゥ、イ・・・?」
ISを解除されて倒れ伏しながらも、折れた腕を抑えて上体を起こすシャルロット。
自分の痛みよりも、今は様子のおかしいボゥイ達が気になって仕方がないのだ。
「おまえは、周 宇泽なんかじゃない。エデンの遺伝子研究で、擦り切れるまでコピーを繰り返した織斑 千冬の残りカス。織斑計画9999体目の劣化コピーがお前なんだよ!!」
「な・・・」
「なん、だって!?」
「うそ・・・ボゥイが・・・!?」
U号のその言葉に、ラウラが、一夏が、シャルロットが、誰もが言葉を失う。
震え、顔を抑え、ボゥイは首を振る。
「う、嘘だ・・・!オレは、ただ、身体を動かせないだけの、人間で・・・!」
「遺伝子複製を繰り返した副作用で、異様な不死性を得て誕生したおまえはエデンから幾多の実験材料として扱われた!その結果、おまえは全身不随となりあらゆる感覚と記憶と顔を失い、廃棄されたのさ!周 宇泽という、何の関係もない人間と入れ替わってなぁ!!」
「そ・・・そんな話があってたまるかぁ!!」
ボゥイはかつて周 宇泽と名乗っていた頃、判別できない程に潰れた顔を包帯で覆って生活していた。
どうして、いつから山奥で暮らしていたのか。
その理由はおぼろげな記憶をなんとか繋ぎ合わせて自分の中で整合性をつけていたにすぎない。
だから。
改めて自分自身の過去を問われると、噛み合わない記憶と事実が彼の前に立ち塞がってしまう。
「なら何故あの山奥の事件で生き残れた!?亡国機業のカスに四肢を斬り墜とされ、炎に喉を焼かれ、それでも生きていられたのは何故だ!おまえが、そういう風に産まれたからに他ならないだろうがぁ!!」
「黙れぇ!!なんだおまえ!どうしてそんな事を言う!?オレに何の恨みがあるってんだ!」
真実に怯える表情を仮面で隠しながら、ボゥイは問う。
目の前の男は、何故こんなにも自分を苦しめるのか。
その正体は何なのか。
U号は、苛立って足で地を踏みつけながら待機状態のISを―――クリスタルを手に叫ぶ。
「まだ分からないのかよぉ!オレが!オレこそが
開いた口が塞がらないとはこの事。
彼は、U号は、
あまりに衝撃的な事実にたじろぎ、動けないボゥイ。
馬鹿な。嘘だ。ありえない。
こいつの言う事が本当なら―――オレは、一体・・・誰なんだ。
「何者でもない癖に、オレから家族を、人生を、全てを奪ったゲス野郎!!そのマスクを剥いで、絶望した顔を見せろよ名無し!!」
勝ち誇ったかのように、本懐を遂げる瞬間を待ち侘びるかのように、宇泽は自分の首筋へアンプル剤を投入するとISを起動する。
「呪え!!アモン!!!」
喚び出すは悪魔の名。
禍々しいデザイン、黒を基調として赤を配置した邪悪を連想させるカラーリング。
幾重にも突起した蝙蝠の翼を思わせる大剣。骨の様な六本のスタピライザー。
凶悪な悪魔の如き牙を見せつけたエデンのインフィニット・ストラトスが、戦意を失いつつあるボゥイへ、リベリオンへと襲い掛かる。
「「ボゥイ君っ!」」
動かないリベリオンの援護へと向かう刀奈とレティシア―――。
同様に、一夏と箒もまた、二機の織斑から攻撃を仕掛けられていた。
連携して波状攻撃を仕掛けてくる京秋と億春を、幻影と四肢の刃で受け流す箒と一夏。
織斑同士の舌戦が始まる。
「お前ら・・・!狙いは俺だろう!なぜ他のみんなを狙う!?」
「お前のそういう顔がみたいからさ、兄弟!!」
「そもそも俺達の狙いは織斑千冬も含まれてんだ!邪魔する奴らは最初から皆殺しの予定だぜ!!」
「ふ・・・ざけんなぁーーーー!!」
零落白夜同士が干渉し合い、白い粒子が戦場を白く染める。
その中で、二対一にはさせまいと箒の朱雀が億春の動きを止めんと多角攻撃を行う。
「チッ、邪魔だぜ女ぁ!!」
「その顔で邪魔と言うか!傷つくわ!!」
幻影にハンマーの動きを止められ、ビームサーベルから伸びる零落白夜は対粒子コーティングが施された太刀である大蛇と鍔迫り合いに遭い、思うように動けない億春は焦れ込みながら叫ぶ。
言い返す箒は皮肉をきかせて言い返すが、目の前の男が一夏とはまるで違う存在である事は戦い方を見ればわかっている。
顔立ちが似ているだけで、中身は粗暴で悪辣だ。
人の命を何とも思っていない、こんな奴は一夏であるものか。
そう思う箒へと、一夏と切り結びながら京秋は言う。
「そうか、君は篠ノ之 束の妹だな!可哀想に、君も束も、篠ノ之 柳韻の娘であった事を呪う日があったんじゃないのかな!」
「なんだと!?どうしてそこで父さんが出てくる?!」
自分は何を言われても動じる事が無いと思っていた箒であったが、突然の京秋の言葉に心が揺れる。
父さんの娘であったことを呪う?何故だ?
私に剣を教え、導いたあの父を、なぜ邪険に思う必要がある?
「なんだ、何も知らないんだな!さぞ幸せだったろう、偽りの父の姿しか知らずに生きてこれたのは!」
「だから・・・何を言ってる!?」
箒は億春を振り払うと、京秋へと斬ってかかる。
容易く残像からの多重攻撃を受けてかわす京秋、その表情から余裕は消えない。
京秋は語る。
「君の父、篠ノ之
それを聞いた途端、頭が真っ白になる箒。
困惑を隠せないのは一夏も同じ。箒の幼馴染たる彼もまた、篠ノ之 柳韻の道場に通っていた一人だ。
強く、大きく、超えたいとおもったあの大きな背中が、偽りの物だったとしたら?
信じられないという思いはあるものの、動揺により剣が鈍る箒と一夏。
そしてその隙を見逃す京秋と億春ではない。
「篠ノ之 柳韻はIS普及後に男尊女卑の世にすべく指揮を執り始めた男だ!
「だ、黙れっ!黙れぇっ!!」
「柳韻は言ったよ、女に思考を与える必要は無いとね!男女に均等の権利を与えるべしと言いながら女性ならではの権利を行使し男を傀儡として使い、いとも簡単に冤罪をでっちあげる女など、世界の平和には不要と唱えたのも、彼だ!!」
「黙れと言っている・・・っ!!」
「箒!前に出過ぎだ!!」
億春と打ち合いながら呼び掛ける一夏の制止も聞かず、矢鱈目鱈に刀を振り回す箒。
そんな芯の通っていない剣など掠りもするはずなく。
嘲笑いながら、上機嫌に京秋は新たな真実を告げる。
「その様子じゃ、君の母が今どうしているのかも知らないのかな!こんな近くにいるのに教えてあげないなんて、千冬姉も残酷だなぁ!」
「母さん!?千冬さん!?何が・・・何が言いたい!?」
どうにか零落白夜をアクティブクロークで防ぎつつ、箒は更に混乱した頭で叫ぶ。
父の事だけで頭がパンクしそうなところへ、今度は母だと。
自分は、姉がISを開発したがために家族と引き離されたのではなかったのか。
「ヴァルキリー・トレース・システム・・・本来のVTシステムを知っているかな?あれは本来、エデンの作り上げたシステムなんだよ。強過ぎる千冬姉を倒すために、人ひとりの命を犠牲にして、千冬姉と互角に戦うためのシステムだ!」
VTシステム。
ニコライ・ゲルトナーが隠れ蓑にしたヴィールス・トランス・システムではなく、織斑千冬の動きを操者へフィードバックさせるという、禁断のシステム。
その動きと性能を織斑千冬に近づける事で破格のパワーと技術を得られるという画期的なシステムだが、操者へ与える負担が重く、人命に関わるためIS連盟にて公式に禁止されたものだ。
それ自体は綾や千冬から話を聞いて知っている箒と一夏。
だが、それが箒の母と何の関係があるのか―――。
「君の父はね、妻である君の母にVTシステムを使い、傀儡として千冬姉を襲わせたのさ!なぜIS学園の地下で暮桜が凍結されているか考えた事はなかったのかい!?君の母を止められないと踏んだ千冬姉がやむなく、暮桜を君の母親ごと凍結したのさ!!今も君の母は、この学園の地下で仮死状態のまま眠っているんだよ!!」
「――――――」
ぐらり、と揺れる箒。
瞳には生気を失い、いまにも気を失いそうなほどのショックを受けてしまっている。
一夏は思い出す、白虎の中で邂逅した千冬の写し身たる存在を。
『IS学園の生徒の中には、戦闘中の事故で死んだ者や、今も意識を戻さない者だっている。箒の母だって―――』
確かに彼女はそう言った。
あれがそういう意味であるのなら、全てが繋がる。繋がってしまう。
千冬は、箒の母の事を知っていながら、ずっと黙っていたのだ。
箒を傷つけまいと―――。
そして京秋は言う。箒へと手を差し伸べて。
「一緒に母親を救い出さないか、篠ノ之 箒。俺が、君と共にお母さんを助け出してあげるよ」
「あ・・・あ・・・!」
衝撃の事実の数々に耐え切れず、思考を停止してしまう箒。
甘い誘惑におずおずと手を伸ばしかけた箒であったが、彼女が京秋の手を取る事は無かった。
すんでのところで、白虎のワイヤークローがホワイト・テイルの腕に絡みつき、引き寄せたからだ。
「汚い手で箒に触るんじゃねぇよ!このクソ野郎っ!!」
「なんだ、この娘はお前のお気に入りか一夏!だったら取り込むんじゃなくて念入りに殺した方がお前に効くかなぁ!?」
「やらせるわけ、ねぇだろっ!!」
力任せにワイヤーを引き、手繰り寄せたホワイト・テイルと零落白夜同士でかち合う一夏。
確かに京秋の話は真実なのだろう、説得力もある。
だが、真実を肴に他者の心を踏み躙るやり方は、一夏にとって決して許せるものではない。
「織斑 京秋!!織斑 億春!!お前らは俺がぶっ倒す!!」
「やってみろよ試作品が!!」
「そこで殺すと言えないのがお前の弱さだよ!!」
怒りに燃える一夏、そして狂気によって躍る京秋と億春。
箒や千冬、一夏自身を巡った織斑の確執は加速度を増していく。
そして。
ラウラは。
「やぁねえさん・・・やっと会えた。会いたかったよ、とてもね」
「名前を教えてくれ、弟よ」
「動じないんだね。ふふふ、ねえさんらしいな。僕の名はアドルフ・ボーデヴィッヒ。ゲルトナー最後の作品にして、ねえさんをも超える最高傑作だよ」
いつもの慇懃無礼な態度はどこへやら、ISを身に着けたラウラを前にしても緊張感を見せず・・・どころか、親愛をもって接するアドルフ。
「いつもはエデンの使い走りとして主に仕えているんだけど、今日はどうしてもねえさんとにいさんに会いたくてやって来たんだ」
スコールや京秋たちを相手には決して見せない表情を見せるアドルフは、早速とばかりにアンプルを首へと突き刺すと、中の溶液を注いでいく。
「これはエデンの科学者が作り上げた劇薬でね。打つことでISに操者を女性と誤認させる事が出来るそうなんだ。ちょっと制限時間が短いけど、ねえさんと遊ぶには充分だよね」
「・・・分からんな、アドルフ。おまえはわたしや綾に何を求めている?なぜ戦おうとする?」
「いやだなぁ・・・ねえさん。ねえさん達はいつも言っているだろう?戦って分かり合うのが信条だってね」
打ち終わったアンプル容器を投げ捨てつつ、アドルフは
「だったら、僕もねえさんと戦わなきゃ。戦って戦って、殺してあげなきゃ。僕がどれだけ、ねえさんを愛しているか・・・分かってもらうためにね」
「そう来たか。思ったより分かりやすくて好感が持てるぞ、弟よ」
くいくい、と手招きするラウラ。
歯を見せつけて嗤うアドルフは、愛する
「嗤え、ゲーティア」
きーっとふたーりのー!であーいもー!とおーいひーのきせーきだったからー!
ボゥイ君、アイデンティティも失いましたね。
僕ぁ『生まれた時から全身不随だった』なんて書いてないっすからね!
『ずっと顔に包帯してた』とも書いてないけど。書かなかっただけ(ドヤァ)。
一夏サイドはどちらかといえば箒いじめが加速。負けるな一夏。
ある意味一番ヤバいスタンスがアドルフだったり。愛憎表裏一体。