インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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飛行船・茶バネブシュアー事件

綾達、IS学園生徒を乗せた飛行船が高度を上げていく。

操舵席についたクロエはコンソールをてきぱきと操作すると、ゆっくりとレバーを引き下げてIS学園上空から移動を開始させた。

「ミラー・ミラー、展開」

クロエの合図と共に、不可視の煙を巻いて姿を消していく飛行船。

鏡よ鏡(ミラー・ミラー)と名付けられたその機能は、レーダーから感知されるのを完全に防ぐ程の細かなステルス反射材を撒き散らし、物理的な視覚からも船体を見えなくしてしまうという高精度なシステムである。

普通に見ているだけなら飛行船はまるで見えず、透き通って夕日が見えるほど。

衛星からの映像解析にもかかる事のない、束がこれまでIS連合から見つからなかった策の一つであるのだ。

 

飛行船が安定飛行に入り、自動操縦に切り替えたクロエは、操舵席からロビーともいえる広い空間へと足を運んだ。

船外を見渡せる解放的なつくりをしたブルーグレーの間にはソファが並べられており、興味のないものには素っ気ない束も、なんだかんだと部外者を受け入れる準備をしていたことが伺える。

その束といえば既に豪やレティシア、シャルロットと共にボゥイを研究室へと運び込んでおり、いまはIS学園の生徒しか残っていない。

「お待たせ致しました。イギリスへの到着は2日後を予定しております。皆様のお部屋を準備しておりますので、ご案内致します」

丁寧に礼をしながらフライトアテンダントのように振る舞うクロエに、若干緊張気味についていく一夏や箒たち。

この一日で戦いずくめだった彼らの表情には、さすがに疲労の色が濃く滲んでいる。

意図しているわけではないが既に眠っているセシリアと鈴をはじめ、特に一夏と箒、ラウラの消耗は激しいものがある。

 

階段をあがった先にはさながら高級ホテルの最上階のように高価なカーペットが敷き詰められ、先々に専用の個室が人数分用意されている。

とりあえず手近な部屋へセシリアと鈴を放り込んだ一夏たちは、飛行船の外観からは想像が出来ない程の広さに驚きの溜息を吐いた。

「しかし、冷静に見てみると凄いな・・・どういう仕組みなんだ?」

「ISコアの応用で、飛行船の内部をその多大な容量をもって疑似的に巨大な空間として作成しています。上階には大浴場とトレーニングルーム、最上階にはISの摸擬戦闘が可能な訓練スペースを設けております」

「なるほど・・・コアの使い方によってはそういった使い方も可能なのか」

同じ科学者として、束の発想に感心する綾。

しかし、疲れ切っているのか箒とラウラはふらふらと頭を揺らしており、限界近くである事が誰の目にも明らかとなっていた。

それを察して綾は言う。

「とりあえず部屋で休んだらどうです?何か動きがあったら起こしますよ」

「うん・・・そうさせてもらうか」

「クロエ、子守唄を歌ってくれ」

「え?せ、(せつ)で良いのでしたら・・・」

それぞれの個室へ入っていく箒、そしてラウラとクロエ。

 

残された男子二人は肩をすくめて隣合い、

「君も限界でしょう。寝てていいんですよ」

「眠気なんか吹っ飛んじまったよ。ちょっと探検しようぜ、綾」

「元気ですねぇ・・・」

言いながらも、クロエが示した上階が気にならないわけでもない綾は、一夏と共に足早となって階段を駆け上がっていく。

 

上へあがると細い通路を隔て、広々としたフィットネススペースと機械トレーニング器具が取り揃えられたトレーニングルームがガラス越しに設置されているのが見え、反対側には女子/男子とのれんが分けられた浴場への入り口があった。

そっと男子側ののれんをくぐってみると、簡素な脱衣所に似合わぬ絶景―――天空から雲と海を見下ろせるようなガラス張りの広い空間が広がっていた。

風呂も広く、入浴者を待ち焦がれているかのように湯気をたてている。

思わず感嘆の吐息を漏らす綾と一夏。

「おぉ・・・!」

「すげぇな!これは寝る前に入りたいぜ!」

考えてみれば汗でベトベトのISスーツ姿のままである事に気付くふたり。

制服を持ち込む余裕すらなかったのだから当然であるのだが、気付いたからには早くひとっ風呂浴びたいというものである。

「しかし、ちゃんと男女で分けてあるんですね。実は混浴で脱衣所だけ分かれていた、なんてオチはないでしょうね」

「おいおい、いくら束さんだってそんな・・・そんな・・・こと、無いと、信じたい」

 

頭に浮かぶのはへらへらと笑う天災。

何もかもが自分達の常識の範囲外で動き、何をしでかすか分からない天変地異である。

 

念のため中まで入り込んで周囲を見渡す綾と一夏。

大丈夫、入り口は一つしかない。

安心してのれんをくぐって外へ出る一夏は、ふと後ろからついてきた綾へと問う。

 

「お前の事だから『ラッキースケベのチャンスですよ、一夏!』とか言うだろうと思ったけどな」

「あのね、僕これでも彼女持ちですからね?そうやすやすとセラの信頼を裏切ったりしませんとも」

「え、マジでどの口が言うの?」

「うるさいな。それに、流石に束さんと鉢合わせするのは気まずいんですよ。あの方、言ってみれば僕を取り上げた助産婦みたいなものですからね」

「え、胸揉もうとしたくせに?」

「うるさいな!とにかく僕にも良識というものがあるんですよ!」

「などと言いながら本能に逆らえない鶴守君でした」

「う・る・さ・い・な!」

 

文句は言えども否定はできない綾をからかいながら一夏はさらに上の階へと進む。

上がった先には豪の秘密基地と同様強化コンクリートで固められただだっ広い空間が広がっており、見た事も無いようなISの武装やフレームが転がっている。

クロエや束はここでISの訓練を行ったのだろう、いくつかの戦闘の痕が残っているのがわかる。

また、空間の隅にはIS整備用のハンガーも設けられており、この場での改造も可能となっているようだ。

「なるほど、ISの調整には持って来いというわけですね」

「ああ、後で俺も白虎と来なきゃな」

束の目的がどのようなものかまだ説明は受けていないが、こういった環境をフルに使えるのなら使わない手はない。

納得がいったように頷くふたり。そこへ―――。

 

「ふふ~ん、気に入ってもらえたかな~?」

 

背後からポンと肩を叩く姿あり。

完全に気配を断って近づかれた綾と一夏は小さく悲鳴を上げて振り返ると、ほくほく笑顔の篠ノ之 束がそこに立っているのに気が付いた。

「たっ、束さんっ!」

「驚かせないでくださいよ・・・」

「あははは~☆まだまだ集中力が足りないねぇ~」

世話焼きおばさんのように馴れ馴れしく両手で男子の肩を叩く束。

実際、馴れ馴れしくしても問題ない立ち位置の女性である。

片やその誕生のための人工子宮を作り上げたのが束であり、片や幼少期にずいぶんとお世話になった幼馴染の姉。

これまで紆余曲折があったものの、本来ふたりとも頭が上がらない相手なのだ。

 

「りょうちゃんもいっくんも、休んでなくていーのかな?」

「僕は最後に一戦しただけですからね。一番戦ってたはずの一夏がどうして元気なのか不思議ですよ。バカに疲れは関係ないんですかね」

「俺はお前みたいに神経質じゃねぇの。てか、戦い詰めで逆に神経が高ぶって眠れねぇんだよ」

「うんうん、男の子はそのくらい元気じゃなくっちゃ☆」

 

楽し気に頷く束。

もしかしたらあまり人と関りがない生活が長かったため、他人との距離感を測りかねている可能性がある。

考えてみれば特定の相手としか会話しない人だったな、と思い返す一夏。

少し、どころかかなり陰キャの気があるのかもしれない。

 

「そういえば、シューマッハはどうです?」

ふと思い出して話題を振る綾。

それは一夏も気になっていたのか首をもたげると、束は口元へと指をやって小さく唸る。

「わたしは直接彼を手掛けたわけじゃないし、さっき少しごーちゃんが弄ってたのをみてただけだけどねー・・・」

ちらりと綾と一夏を視界に収め、束は少し間をあけた後にこう言った。

 

「人間としての部分が、少ないなって気がしたよ」

 

 

========================

 

 

飛行船の一室―――そこは篠ノ之 束の研究室。

ごちゃごちゃと乱雑に積まれた機材や本、散らかりはてたデスク。

その中央に座する診察台のようなベッドに、ボゥイ・シューマッハは静かに眠りについていた。

その全身には赤や青といった心電図を図るためのケーブルが繋げられており、モニターに視覚化された数値が雨粒のように流れていく。

自身も気を失いそうなレベルで疲弊しているにもかかわらず、診断結果を間近で待つシャルロット、額に汗を浮かべながらコンソールを叩き続ける豪、ボゥイへの触診を続けるレティシア。

既に時間は1時間を経過していた。

まず別室のMRIを通し、レントゲンを撮り、体内のIS量子の流れを測る。

肉体の維持をインフィニット・ストラトスという外皮によって行っているボゥイに普通の診察は意味を為さない。

そのうえ、豪も束も医者ではなく科学者だ。

足りない知識を医学書やインターネットから引き出しながら彼の生命を保たせるための術を探しながら試行錯誤しているのだ。

 

しばらくして、豪は大きくため息を吐くと、祈る様な瞳をボゥイへと捧げていたシャルロットへ聞こえる様に声をかけた。

「無茶しおってからに。一応、現状は生命活動に問題ないようだが一部人体機能に支障が出ておる」

「・・・!」

表情を凍らせるシャルロット。

まるで夫への死の宣告を医者から言い渡される家内のようだ。

「シャルちゃん、ボゥイくんの様子におかしいところは無かった?ほんの些細な事でもいい、何か不自然な点とか」

足置きの台の上に立つ背の低い豪を手伝うレティシアがシャルロットへ問いかける。

そう聞かれてシャルロットは必死に思考を巡らせた。

おかしいところ―――能天気でおバカなボゥイは悪く言えばおかしいところだらけなのだが、きっとそういう意味ではない。

逆におかしくないところを考え、更には一度目覚めてからの会話を一言一句思い返す。

 

「・・・いつもボゥイは、ボクをシャル子ってあだ名で呼ぶんです。でも、あの時・・・まるでそれを忘れたみたいに『なにその名前』って・・・」

「ふむ・・・」

「あと、そのあとリンゴを食べたんです。そうしたら『まずい』って・・・鈴もボクも食べて、ふつうにおいしいリンゴだったのに・・・」

「・・・ちょいと待っておれ」

 

吸盤の付いたケーブルをボゥイの舌へ、額へとつけていくレティシア。

その様子を見ているシャルロットも馬鹿ではない、豪とレティシアが何を調べようとしているのか既に察していた。

そして、その不安が的中しないようにとも願う―――。

 

ややあって、キーボードを叩きながらモニターとにらめっこをしていた豪は首を振って言う。

「・・・舌の神経回路の電力がかなり弱まっている。これでは味を感じられんだろう・・・」

「そんな・・・!」

「辛うじて喋る事は出来ているようだが、時間の問題かもしれん」

愕然として肩を落とすシャルロット。

あの陽気な笑い声が、二度と聞けなくなるかもしれない。

たとえ生きていたとしても、それはどれほどまでに苦しい事だろう。

豪は台から飛び降り、シャルロットへ歩み寄るとタブレット端末に保存されたMRI写真をスクロールして見せながら言う。

「これが今のボゥイの脳の状態だ。医者である架神の子倅がいればもっと詳しい話が聞けたろうが、ほとんど素人のおれでもわかる。ここに黒い点がいくつか見えるのがわかるか?大脳皮質と海馬に破損がみられておる―――おれがボゥイをISにする前からダメージはあったがあの時の比ではない」

「最初から・・・ううん、火事で死にかけたと言ってた時から・・・?」

「そうだ。だから記憶の保持や取り出しといった機能をISコアに補助させていたのだが・・・それが今や力を失いつつある。戦闘中にISクリスタルを傷つけてしまったためだろう」

 

ISクリスタル―――リベリオンを身に纏ったボゥイの胸部中央に座する巨大な塊。

これはいわばISコアが戦闘形態として具現化した結晶のようなものであり、他のISと違って開閉式の装甲にて守られている。

リベリオンの圧倒的なパワーを発揮―――否、溢れてオーバーロードしかねない程の出力のそれを冷却させるための措置であり、虎の子の武装であるフェルミオンブラスターとは圧縮された余剰エネルギーを放出させるための機能でもあるのだ。

基本的に損耗したリベリオンの装甲は時間経過と共に自己再生されるように出来ているが、ISクリスタルだけはそうはいかない。

なぜならそれはコア自身であり、いわばIS―――ボゥイの本体のようなものだ。

患者がいて、設備が揃っていても、医者が重傷では処置のしようがない。

だからクリスタルの損傷は、ボゥイの仮初めの肉体を人体として保障が出来なくなっているのだ。

 

その一環としてまず記憶の欠乏。

いまはまだ少し記憶が飛ぶだけで済んでいるが、これがさらに重症化しないはずもない。

また、味覚の喪失。

豪も言った通り、今後会話が出来なくなる可能性もある。

表面化していない機能欠乏もまたあるかもしれない―――そう。

今のボゥイは存在としてかなり不安定な状態にあるのだ。

 

「どうにか・・・どうにかならないんですか!?」

「ボゥイの生命活動はいまやISコアによって成り立っている。コアの修理をしようとすれば一度電源を落とす必要がある・・・そうすれば、ギリギリのところで生きているボゥイ本体への生命維持が断たれる事となってしまう。つまり・・・」

「どちらにしても・・・ボゥイは死んでしまう・・・」

 

ゆっくりと頷く豪。

椅子から崩れ落ち、床へと手を付けるシャルロット。

こんな酷い話があるものか。

あの周 宇泽の言う通りなのだとしたら―――ボゥイは劣化した織斑 千冬の遺伝子から生み出された実験体で。

数々の拷問まがいの実験で五感を失い、見ず知らずの人間と入れ替わりに廃棄されて。

長い間虚無の中を彷徨い、その果てで四肢を失い、身体を焼かれ。

ようやく制限付きながらも自由に動かせる身体と環境が手に入ったのに、それすら徐々に失っていくことになるなんて―――。

この世に神がいるのだとしたら、なんて残酷なのだろう。

いったい、彼が前世でどのような罪を犯したというのだろう。

それは、これほどまでにつらい罰をうけなければならないものだったのだろうか―――。

 

ぽたり、ぽたりと青い瞳から涙を落とすシャルロット。

こんなのってないよ。

ずっとボゥイは辛い想いを続けてきたのに、最後までこんな目に遭わなくちゃならないなんて。

自分ならどうにでもしていい、けどどうか彼だけは。

せめて少しでもいいから、幸せになってほしいのに―――。

 

「・・・まぁ、あんま気にすんなよシャル子」

 

聞きなれた声にはっと顔を上げるシャルロットと豪。

見上げた先では、ボゥイが目を覚ましながら上体を起こし、全身に付けられていたケーブル類を外していくのが見えた。

診察台から身軽に降り立つと、気楽に伸びをするボゥイ。

すかさずシャルロットは涙を拭って駆け寄っていく。

「ボゥイ!立って大丈夫なの?」

「おう、心配かけたなシャル子・・・シャル子でいいんだよな?変な名前だけどこんな呼び方で本当にいいのかい」

「だから、キミが考えたあだ名なんだってば!」

「悪い。思い出すようには善処するさね」

笑ってシャルロットの頬を撫でやるボゥイ。

 

この様子では豪の話を全て聞いていたのだろう、それでも彼はこうして笑う。

心配をかけたくないという彼の優しさというのもあるが、己に降りかかるトラブルや災難に負けたくないという彼のプライドだ。

最低最悪だった過去を乗り越え、その過去を否定されて尚、彼は立ち上がって前を向く。

路地裏でしたたかに産まれ生きていく猫のように。

しなやかに、のびやかに、生きたいように生きる。

それがボゥイ・シューマッハという少年なのだ。

 

ボゥイは目を細めて息を吸い込むと、二回に分けて吐き出す。

「飯食っても味がしねぇってのはかなり・・・いや致命的にキツいが、まだ楽しめる事は世界に残されているさ。まだ触る感覚は残ってるし、目も見える、声も聞こえる。周 宇泽の・・・違うか。名無しのあの頃に比べりゃまだマシさね」

「ボゥイ・・・」

「だからそんな顔すんなってシャル子、おやっさん。オレはこれでも今が一番楽しいんだからよ」

すまなそうな顔をする豪の頭をぐりぐりと撫でやるボゥイは、鼻の頭をかくときょろきょろとあたりを見回して、

「ところでここはどこだい」

そう聞いた。

 

 

========================

 

 

「何かあったらちゃんと呼んでね」

疲れ切ったシャルロットを適当な空き部屋まで連れて行ったボゥイがシャルロットからそう念を押されつつ扉を閉めると、ちょうどやってきた綾、一夏、束の三人が鉢合わせする。

「ボゥイ!」

「大丈夫なんですか、シューマッハ」

「おう、ピンピンしてるぜ」

駆け寄ってきた二人の肩をポンポンと叩くボゥイ。

実はもう彼らの顔は覚えていても名前を思い出せていないのは黙っている。

そんなボゥイはひょいと首を伸ばし、こちらを興味深そうにじっと見ている束へと視線を向けた。

「あのでけぇおっぱいの姉ちゃんは誰だい?」

「あ、そうか。ボゥイは初対面なんだっけ」

一夏はポンと掌に拳を置く。

確かに束は世界的に―――それが善悪どちらの意味も含め―――有名人であるとしても、ずっと外の世界を知る事もなく、豪やレティシアが与えた知識しか持たないボゥイが束の名前以外を知る機会など今までなく。

束は束でボゥイをモニターしていた以外の知識としては知らず、されど豪の技術の粋を集めて蘇生させられた人間とインフィニット・ストラトスの融合体であるボゥイに興味があり。

二人は手を差し出し合って握手をすると、互いに名乗り合う。

「初めましてだね~、ボゥイ・シューマッハくん。わたしは世界最高最強の天才天災科学者、篠ノ之 束さんだよ~☆」

「おう、オレぁ漆黒の脳細胞ボゥイ・シューマッハ・ウォーズマンだコーホー」

「何ですかそのキャラ」

ある意味失礼極まりない自己紹介であるが束は気にせず、

 

「なるほどなるほどぉ、じゃあ君の事はデンジャラスなボゥイ君だからD・BOYくんって呼ぶね~☆」

「やめてください束さんシャレにならない」

「んじゃあオレもおたくの事を茶バネさんって呼ぶぜ」

「嘘だろお前!?よりによって何でゴキブリっぽい呼び方を!?」

 

歩く核弾頭のような束と喋るクラスター爆弾のようなボゥイ。

そんな彼らがまるで挑発し合うような会話をする―――傍から聞いている綾と一夏からすればたまったものではない。

しかし何が気に入ったのか束もボゥイも楽し気に笑い合い、

 

「あはははは!しぶとさなら負けないよ~、ゴキゴキ~☆」

「そいつぁ羨ましいねぇ、だったらオレはデンジャラスな殺虫剤だぜブシュアー!ブシュアー!」

「「あ、あわわわわ・・・」」

 

一体目の前で何が繰り広げられているのか。

頭の上のウサギ耳型デバイスを触覚に見立ててカサカサ動く束を、両手を口の横に添えて霧を吹くような声をあげて追いかけるボゥイ。

綾と一夏はただ恐ろしさに震えるしかない。

バカと天才は紙一重というが、噛み合うとこれほどまでにカオスと化してしまうのか。

 

気が済むまで廊下の一角をわさわさと駆け回った束とボゥイは、しばらくすると満足したのか一息ついて直立し、腰に手を当てて頷き合う。

「茶ぁしばくよボーイ」

「おうバネさん」

我に返って短いやり取りをした後に給湯室へと歩いていく束とボゥイ。

その足取りは軽く、さながら若い衆を引き連れる女傑のよう。

取り残された一夏と綾はただただ口を開いたままその後ろ姿を見つめるほかなく。

約一分ほど脳の整理を行った二人は視線を合わせると、

「・・・俺らも茶、飲むか」

「うん・・・うん」

そろそろと歩き出し、曲がり角へと消えていった束たちを追って歩き始めるのであった。

束とボゥイの初対面で何が起きたか、綾も一夏も生涯語る事はないだろう。

だが、二人の心には深く刻まれる事となった、原因不明の謎の珍事件。

 

彼らはこの日の出来事を、『飛行船・茶バネブシュアー事件』と呼ぶのであった。

 

だから何だという話だけれども。

 




シリアスなのかギャグなのかはっきりしろ。

ずっと戦闘が続いてたからこういう話久しぶり。。。
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