インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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同郷、本音と簪

クラス対抗戦は各学年毎に別々のスタジアムで三試合を消化する。

 

1年の使用スタジアムは、1組がバトルロワイヤルで使用した第一アリーナ。

天候は晴れ。

第一アリーナには1学年の試合に参加しない生徒が観客席をまばらに埋め、戦いのゴングが鳴るタイミングを今か今かと待ち侘びていた。

 

第一試合は1組対4組。

フィールドの両端には、監督室と呼ばれる6畳ほど衝立小屋のようなスペースが設けられており、戦闘参加者への秘匿通信と、オープンスピーカーによるフィールド内への呼び掛けが可能となっている。

今回はそこへクラス対抗戦への参加予定となる待機クラスメイトが入室する事が許されていた。

 

「ふふ、監督も実況も行えるという事ですね。楽しいじゃあないですか」

相変わらず楽し気に、どことなくテンションも高く綾はマイクの前の椅子へと足を組んで腰かけ、コンソールを好きに弄っていた。

「よぉし、私もここから一夏へ声を届けるぞ。綾、どうやるか教えてくれ!」

「えぇ教えますとも。オープンチャンネルで一夏とイチャつかれたら、1組の名誉はどうでもいいですが僕のメンタルが削られてしまう」

鼻息荒く人差し指で初見のコンソールを突いている箒へと軽くレクチャーをする綾。

実際、綾もこの操作盤は初見ではあるのだが、一目で分かる程度には配置や操作に関する注意書きが理解しやすく、フールプルーフが為されている。

それでも何かやらかしかねないのが箒という女の子の怖いところであった。

 

なるべく分かりやすい様にと言葉を選びながら箒へ教えていく中、それぞれのクラスから3人ずつ、フィールド内へISを纏って飛び出していくのが見えた。

 

自軍方面には一夏、セシリア、本音の三人が装着した、白狼、ブルー・ティアーズ、九尾ノ魂。

相手方面には、量産型のISである打鉄およびラファール・リヴァイヴと、打鉄を大幅に、よりデザインを鋭角に改良したらしき機体が1機。

 

ブルーグレーを基調とした機体色と、腕部装甲を装備せず、二段に分けられたバーチャルキーボードを表示させたその機体を見て、綾はひゅう、と口笛を鳴らした。

「打鉄の電子戦特化型でしょうか。いいですね、これは楽しみだ」

4組のバトルロワイヤル戦を録画映像で見た際には確認できなかった機体。

そもそも4組には専用機持ちがおらず、試合内容もほとんど泥仕合の様な有様であったのだが、ただ一人、他の生徒より技術の高い者がいる事を綾は知っていた。

 

更識 簪(さらしき かんざし)。

 

日本代表候補生であり、4組のクラス代表。

セミロングの黒髪に、綾と同じく眼鏡の形をしたIS用の簡易ディスプレイデバイスを装着しており、ボディスタイルは平均的といったところか。

「機会があれば彼女とも話がしたいのですが。4組戦に出なかったの失敗したかな」

「そうするとお前ばかり出ずっぱりになるだろう」

「だから2組と3組だけ参加するようにしたんですよ。しかしやはり捨てがたい・・・」

「個人的に4組へ会いに行くという発想はなかったのか?」

「・・・おぅ。まさか箒にそんな事を指摘されるとは思いませんでした」

首を傾げる箒の言葉を受けて、眉を寄せ唇を尖らせる綾。

 

4組へ話をしに行こうと考えなかったわけではなかった。

空き時間を利用し、綾が教室内を覗き込んだ際、彼女――簪は、どこか他人を遠ざけるように一人で本を読んでいた。

バトルロワイヤルを終え、いくらか教室内の雰囲気が柔らかくなり、交友関係が築かれつつある中、クラス代表であるにもかかわらず彼女だけが、誰にも話しかけられず、逆に話しかける事も無かった。まるで、心を閉ざしているかのように。

どこか業が深そうな気配を感じ取った綾は、無理に話しかけても不快にさせるだけだと考えてその場を離れた。

ああいった手合いは自分の様な小賢しいタイプより、直線的な馬鹿が心をこじ開けてやった方が良い。

そのため、綾が4組との戦いで期待しているのは、勝敗よりも一夏が簪に対してどう動くか、であった。

 

その一夏はフィールド中央で4組の面々と向かい合っていた。

訝し気な眼差しで自分を睨んでいる簪に、自己紹介しない自分が失礼に思われているのかと勘繰った一夏は、ISの右手をおずおずと差し出し、

「俺、織斑 一夏。一応、1組のクラス代表って事になってる。よろしくな」

しかし差し出された手をちらりと見た簪は、すぐにキッと一夏を睨みつけ、

「織斑 一夏・・・あなたのおかげで、私は多大な迷惑を被った」

「え!?」

意外な恨み節にたじろぐ一夏。

簪は静かな雰囲気の中に若干の怒りを込めつつ、これまで貯まった鬱憤を晴らすかのように言葉を続ける。

「あなたの白式。倉持技研がそれの解凍と再調整にかかってしまったために、私は私の専用機を受け取る事が出来なかった」

「専用機・・・?」

今身に着けているそれは違うのか、と指をさす一夏であったが、

「これは倉持技研で手つかずになってたところを受領して、私が自分で完成させたの。おかげでバトルロワイヤルには間に合わなかった。私以外にも倉持技研からの納品が遅れた生徒が多くいる」

「そ、そうだったのか。わる――」

『謝らないで下さいよ一夏。その話、君1ミリも悪くないじゃないですか』

一夏の通信回線から話を聞いていた綾が、秘匿回線を開いて一夏へと話しかける。

「り、リョウ!?」

『いいから。僕の言う通り彼女へ話してください、いいですね?』

「わ、わかった」

耳に聞こえるルームメイトの真剣な声色に頷いた一夏は、不機嫌そうに眺めてくる簪へと向き直り、真っ直ぐな瞳で口を動かし始めた。

 

『そう言われても、俺だって困っていたんだ。まさかあんな程度の悪い不良品を寄越されるとは思ってもみなかったぜ』

「そ、そういわれても、おれもこまったんだー。あんな、不良品なんて、こ、困ったもんだぜー」

「不良品・・・?白式が・・・?」

眉を顰める簪へと、一夏を通して綾は続ける。

『俺の親友たる超絶天才の鶴守 綾様がいなければ白式を改造して最高の機体である白狼にする事が出来なかった。自分の手で専用機を組み上げたのは君だけじゃないんだぜ』

「おれっ・・・!?ちょ、え、それ言うの!?必要!?絶対!?ま、マジか・・・え、えっと、俺の親友・・・たる・・・これ言葉にすると恥ずかしいんだけど・・・え、重要なのそこじゃない?いいから続けろ?わ、分かったよ・・・。お、俺の親友・・・の、リョウが白式を改造してくれたおかげで何とかなったけど、自分で専用機いじったのは、お前だけじゃないぜー!」

途切れ途切れの棒読みに違和感を覚えなくもないが、どうにも簪には一夏が自分を煽ってきているようにも感じられた。

「・・・あなたが改造したんじゃないんでしょ?それなら苦心したという点で被害の大きさは私の方が上。一緒にしないで」

『馬鹿だなお前。だから悪いのは倉持技研で俺じゃないだろ。脳みそシーチキンかこの野郎』

「ばっ・・・!」

『ほら、不自然に思われるから早く言う!』

「ばっ、馬鹿っか!悪いのは、倉持技研だろー!よく考えろー、このシーチキン!」

綾に急かされるままに覚えてる範囲を継ぎ接ぎしながら音読する一夏。

「なんですって・・・?」

『ほらいいからかかって来いよ。どうせそれも量産機のコンパチモデルだろ。この最強無敵の白狼と一夏様がズタズタに切り裂いてやるぜ!』

「い、いーからかかってこーい!量産の、コンパチー!さ、最強の白狼が、や、やっつけてやるぜー!」

『はい良く出来ました』

「ふぅ・・・結局、何がしたかったんだよリョウ?」

言われた事を復唱するのに一杯一杯で、自分が何を口走ったのか、簪がどんな表情をしているのかも把握できていない一夏。

 

しかし、気付いた時には既に遅く。

肩を震わせながら、夢現(ゆめうつつ)という名の高速振動薙刀をアクティブにした簪は、怒りを込めた瞳で一夏を睨みつけて宣告する。

「決めたわ・・・織斑 一夏。あなたの白式、私が再起不能にしてあげる・・・!」

「いぃっ!?」

負のオーラを身に纏う簪の様子に思わずひるんだ一夏。

仲間であるはずのセシリアは「いや、普通に引きますわ」と白い目を向け、本音といえば笑いが堪えられない様子でぷすぷすと口元を抑えている。

 

フォロー皆無のフィールド内に一人取り残された感のある一夏は、慌てた様子で親友たる超絶天才で最強無敵の白狼を仕上げた男へと助けを求めた。

「お、おいリョウ!どうなってんだ、何とかしてくれよ!」

『・・・・・・・・・』

「リョウ・・・?」

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』

「リョオオオオオオオオオオオ!!!」

最初から簪を一夏へぶつける算段で煽らせた綾は、不通音声を流しつつコンソールの送話音量をオフにした。

『大丈夫だぞ一夏!私がついてるからな!一生懸命応援するぞ!』

「箒!?ちょっと、リョウに代わってく――」

代打とばかりに箒が声をかけてくる中、文句を言ってやろうと綾を呼び出そうとするも、試合開始5秒前を告げるアナウンスの音に遮られてしまう。

「ほら、なにぼさっとしてますの!始まりますわよ!あなたが倒されたらわたくし達の負けという事をお忘れないように!」

「おりむー、一旦さがってー!」

「んがぐっぐ・・・!」

簪の威圧に圧されたというのもあるが、綾への怒りで歯を食いしばった一夏は、それ以上は何も言わずセシリアと本音の指示に従う。

「後で覚えてろよ、リョウ・・・!」

彼が恨み言を呟くと同時に、戦闘開始のブザーがスタジアム内に響き渡った。

 

それに合わせてバックステップを踏む一夏と、彼へ突撃しようとブーストをかける簪のIS、打鉄弐式(うちがね にしき)を阻むべく、セシリアがカウンター気味にレーザーライフルを発射する。

咄嗟に急停止して金髪のイギリス代表候補生を睨む簪。

「本当に相手しなければならない相手が誰か、理解しておりまして?」

「セシリア・オルコット・・・!」

不敵に微笑む青い機体の操者は次弾のレーザーライフルを間髪入れずに放つも、その狙いは簪ではなく、その背後のラファール・リヴァイヴを纏った生徒であった。

「うあっ・・・!」

まさか自分が狙われていたとは考えていなかった生徒は、その一撃で左翼部を損傷。

残った打鉄がセシリアを狙いアサルトライフルを乱射するも、ブルー・ティアーズは上昇しつつ回避し、その狙いを打鉄へと向けた。

「かといって、わたくしではありませんけれど!」

「おちょくっているの・・・!?」

「これはチーム戦だと言っておりますのよ!」

「そのとーりっ!」

選手交代とばかりに、本音の九尾ノ魂が空から爆弾を投下させるのに気付いた簪は、弐式を高速後退させ、爆風を避ける。

 

「本音っ・・・!」

「かんちゃんの相手はわたしだよ~!」

 

目の前に現れたのが見知った顔である事を認識した簪は、即座に背中から荷電粒子砲をマウントして発射した。

「よっと!」

それを瞬時にワンオフ・アビリティ、水流操作で受け流す本音。

何重にも重ねた水壁は、荷電粒子の電力を巻き取り、粒子を霧散させてしまう。

そのまま水壁を展開しつつ、バックパックの有線ビットを伸ばして簪へと向ける本音。

来るのが分かっていたかのように手にした薙刀を回転させて切り払いつつ、ビームの発射される角度や方向を見抜きながら回避する簪。

「あなたのやり口はお見通し・・・!」

「さっすがぁ!」

褒めながらも両手のみくじ筒から爆弾を次々と投射し、弐式の逃げ場を奪う九尾ノ魂。

ならば、と簪は薙刀を量子化して収納し、仮想キーボードを叩いて自分を狙うビットをマルチロックオン、肩部装甲に格納されていた大量のミサイルを一斉に発射した。

「きたきたー!」

ミサイルが出たと判断するが早いか、本音は即座に有線ビットをバックパックへと戻し、そのまま弾数を失ったみくじ筒をアンマウントしてバックブーストした。

目の前の水流をミサイルの爆風で吹き飛ばしつつ、簪はミサイルのターゲットをリアルタイムに修正しつつ本音の九尾ノ魂を追う。

 

更識 簪と布仏 本音は幼馴染の間柄である。

銘家である更識家に代々仕える家系である布仏家の人間である本音は、幼い頃から簪の傍で遊び相手として、時にメイドとして寄り添ってきた。

現在、名実ともに更識家は簪の姉が取り仕切っているのであるが、その姉というのが文武IS共に非常にハイスペックであったがために、簪は常に比較され、父から理不尽な暴力を受け、まともな評価を受ける事が出来なかった。

優秀過ぎる姉より下と見做され、助けを求める器用さも持てず、どんどん塞ぎ込みがちになっていった簪を、本音はずっと支え続けてきた。

 

そんな本音が最近、少し変わった事に簪は気付いていた。

何故、具体的にどのように、それは分からないが。

本音がその変化の理由を、自分へと伝えたがっている。それだけは分かっていた。

 

(陰キャで悪かったわね・・・!)

 

分かっていてもネガティブに受け取ってしまう簪は、基本的に思考が内側へと向いているのである。

 

「ち」

そして折角の小細工が破算となってしまった綾は、目を細めて舌打ちをしていた。

これでは一夏を通して悪口を言っただけの結果となってしまう。

しかし考え直せば、悪く思われるのは一夏だけであり、どうやら簪は本音と浅からず関係がある様子。

ならば本音に簪を紹介してもらえば良いだけで、別に一夏に心を開いて頂く必要ないなと結論した綾は、一夏への送話音量をオンにして声をかけた。

 

『一夏、何やってるんです。早く戦いなさい』

「はあぁ!?」

セシリアが簪以外の生徒二人を相手取って、あまつさえ圧倒している状況で、ほとんど何もやる事が無い一夏へ、綾は半ば無責任に言い放ち、先程の恨みを忘れたわけではない一夏は悲鳴に似た声をあげた。

「お前っ、本当勝手だな!というかさっきのは何だったんだよ!」

『ああ、あれですか。あれはですね・・・』

既に記憶から破棄しつつあった、一夏をスピーカーに簪を煽った件。

一瞬の逡巡の後、綾はにこりと笑って、

 

『まぁ、うまく謝っといてください』

「おまえーーーーーーっっ!!!」

 

特に意味がありませんでしたとも訳せるその回答に思わず叫ぶ一夏。

『そも、君をクラス代表として全試合に出させようとしてるのだって、他と比べて圧倒的な経験不足を埋めるための措置なんですから。能動的に戦わないでどうするんですか』

「くそっ!正論っぽい事を言えば俺が納得すると思うなよ!?」

『大丈夫だ一夏!為せば成る!』

「箒のそれはもうちょっと根拠をつけてくれよ!」

応援になっていない応援にずっこけそうになる一夏であったが、そこへセシリアから通信が割り込まれる。

『こちらオルコット、敵量産機を撃破しましたわ。残りクラス代表、全員で打ち取る形でよろしくて?』

既に簪以外の生徒を倒して、遠距離から打鉄弐式へとライフルの照準を合わせるセシリア。

『ほらクラス代表。決めてください。君がリーダーなんですから』

『ビシッと決めるんだ、一夏!』

「ああもう分かったよ!決めりゃいいんだろ!」

外野からわやわや言われて頭に血を登らせた一夏は、セシリアと本音に総攻撃を指示しようとしたのだが。

 

「だめ、待って~!かんちゃんとは、わたしにやらせて~!!」

 

その会話を聞いていた本音が、割り込んでらしくもなく声をあげた。

驚きに口を動かすのをやめたのは一夏だけでなく、近くで戦闘を行っていた簪も同様であった。

「の、のほほんさん?」

「おりむー、ごめんねー!でもワガママ言わせてー!まだわたし、かんちゃんに大事な事伝えられてないのー!」

ミサイルを振り返る事もせずにほとんど直感で、バックパックから射出されるビームで撃ち落としつつ、本音は間延びしつつも真剣に、精いっぱいの声を張って一夏へと懇願した。

「・・・・・・」

それを聞いた一夏は、本音へと何かを言おうとしたが、それより先に綾が簪がキーボードを叩く指の速度を速めた事に気付く方が早かった。

 

『!?一夏、更識さんの射程から退避!セラ、一夏のフォローを!早く!』

綾が素早く指示を飛ばす。

「リョウ?」

『何もう勝ったみたいな顔してるんです!相手は日本代表候補ですよ!油断して大将首を取られたいんですか!気を抜いては駄目だ!』

綾のその叱咤にハッとなったセシリアは、ブルー・ティアーズの最大速度で一夏の目の前を目指して飛翔する。

『こういう雰囲気の時こそ、相手に付け入る隙を与える!僕が映像で見た更識 簪さんは、そういうタイミングを狙うのが得意なんですよ!』

綾のアドバイスが早いか、簪がセシリアの挙動に気付いて舌を打つのが早いか、高速でタイピングした簪は、打鉄弐式に搭載された全ミサイルのターゲットをほとんど棒立ちとなっていた白狼へと向け、全弾を発射。

 

その数、実に48発。

 

山嵐(やまあらし)と名付けられた独立稼働型ミサイル発射システムが、数の暴力で無防備な一夏を襲う。

「くっ!!」

咄嗟に回避行動に移りながら腰のチャフクラッカーを放り投げる一夏。

それが破裂すると、途端に金属の破片が射撃用センサーを狂わせる・・・が。

「そんなもの、関係ない・・・!」

簪は即座にロックオンモードをセンサーオートマティックからカメラビジュアルへ変更。

映像から解析される白狼の姿を改めてロックオンし、ミサイルの追尾を再開させる。

「やってくれますわね!流石日本代表候補といったところかしら!」

ミサイルの起動が変わらない事に動揺する一夏を狙うそれらを撃ち落とすべく、セシリアは自身のレーザーライフルのターゲットサイトをマニュアル操作に切り替え、一発、また一発と撃ち落としていく。

誘爆により複数のミサイル弾が爆発霧散するものの、未だ半数以上のミサイルが健在。

「くっ、まどろっこしいこと!」

ここにきてレーザーライフル、スターライトMk-IIIの連射力の無さ、照射時間の短さに歯噛みするセシリア。

 

「何をしている、セシリア!ビットで落とさないか!」

「出来ないんですよ、あれはある意味未完成品だ、ロックオンをセンサーに頼り切っている!」

「じゃ、じゃあ、一夏のチャフは逆効果だったというのか!?」

 

セシリアのブルー・ティアーズは、イギリス開発局による実験兵器運用を前提とした機体であるが故に、強力と思われる兵装の中にいくつかの不具合も有す諸刃の剣でもある。

切り札であるブルー・ティアーズ・ビットも同様で、使用時にOSを圧迫して他の武装を使えなくなる欠陥も有しており、更に使用者の操作キャパシティ軽減のため、その射撃時の狙いのつけ方を高性能センサーの自動ロックオンに頼り切る設計となっていた。

 

「かといって一夏のチャフがミスだったとは言い難い。誰だって白狼を使用していればあれに頼るでしょう。ここは更識さんの技量と下準備が想定を超えた、といった方が良い」

「しかし、このままでは!」

「そう、ああいった兵器が白狼にとって最も厄介だ。切り払えば爆発によるダメージを免れないし、零落白夜で剣戟の有効範囲を広げたとしても、今度は自身のバリアを消費してしまうので結果はほぼ変わらない。かといって防御手段に乏しい白狼では・・・」

加えて言えば、初動でフィールドの端寄りへ移動してしまった事も痛い。

折角機動力を向上させたというのに、逃げ場が少ないためスピードで振り切るのが難しい。

こうなると零落白夜での切り払いが最も有効であるようにも感じられるが、いかんせん数が多く、これが二波、三波と続くと流石に分が悪い。

 

『もはや一刻の猶予もありません、セラは一夏のフォローに専念!一夏はひたすら逃げて、まずいと思ったら零落白夜を使用して、ミサイルの直撃だけは避けるように!チャフの効果範囲外への離脱を目指して下さい!』

「かしこまりましてよ!」

「わ、わかった!」

セシリアに頼り切りになる事に苦い思いをしながら、一夏はとにかく回避に神経を集中させる。

 

『本音さん、聞いていましたね!貴女が更識 簪をいかに早く撃破できるかが勝敗を決める!やれると信じてますよ!』

「りょーちん・・・うん!」

 

最後に自分に託してくれた綾。

それがむずかゆくも重く、けれど嬉しく感じた本音は、覚悟と共に簪へと向き直り、バックパックの有線ビットを全て起動してキーボード操作に集中していた弐式へと強襲する。

それを見ても尚冷静さを失わない簪は、準備が完了次第、ISの全身に仕込まれたミサイルを発射しつつ、勝手知ったる本音からの攻撃を回避し続ける。

「無駄よ本音。あなたの手の内はわかってる。あなたが私を捉える前に、私は織斑 一夏を倒すわ」

「それはどうっかな~!」

強気に返事しつつ、有線ビットを一本つかんでゴムのように揺らし、ビームの軌道を滅茶苦茶に変える本音。

「なっ・・・!」

「ほらほら!これはかんちゃんに見せた事ないでしょ~!」

次々と有線ビットを揺らし、その起動を変えて読み辛くし、かつ新たに発射されるミサイルは確実に撃破していく。

計算外の本音の挙動に焦る簪は、次第に回避へのリソースを増やし、ミサイルへの指示が疎かになる。

 

「!一夏さん、上ですわ!」

「了解っ!」

そこへ隙間が出来たのを、上空から狙撃していたセシリアは見逃さなかった。

上から横からと弾幕のように迫るミサイルであったが、セシリアの指示でIS一機分のスペースを上方向に確認した一夏は、綾と箒との特訓で身につけた瞬時加速(イグニッション・ブースト)でそこへ突貫。

ミサイルの雨の中をかいくぐる急速な直線加速はなかなかの恐怖を伴ったが、セシリアの援護もあり無事に脱出する事が出来た。

「行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

方向転換を行うミサイルの群れ。

しかし、既に一夏がチャフの有効範囲から脱している今なら、もはや処理するのに問題はない。

すかさずセシリアはブルー・ティアーズ・レーザービットを4基射出し、あっという間に波立つミサイルを多角的砲撃にて殲滅していく。

 

それと同時に本音は有線ビットにて簪の両手を絡めとり、引き寄せながら簪本体とミサイルの発射口にビットの先端を突き付け、額から流れ出る汗を拭おうともせずに、声をかけた。

「・・・どうするー?まだやるー?」

その降伏勧告は、打鉄弐式の組み立てに本音も携わっていたがゆえに破壊したくないという親心か、それとも親友のISを破壊して次の試合に支障を与えたくないという甘さか。

「・・・参った。わたしの負け」

息を切らせながらも、力なくうなだれる様に簪は目を閉じ、それを合図に試合終了のアラームが鳴り響いた。

1年1組の完全勝利である。

 

「やれやれ、危なっかしいですねぇ」

「見たか綾!一夏のあのイグニッションブーストを!幼馴染として鼻が高いぞ!」

「君の場合、鼻が高いというよりは頭の中花畑といった感じですがね」

腕を組んで一息つく綾をがくがくと揺さぶって喜びの感情を表現する箒。

もはや慣れたといった風になすがままにされる中、フィールド上のIS繰者達は地面へと降り立ってISを解除した。

 

「やられたわ、本音。あなたがこんなに強くなってるなんて思わなかった」

「えへへー、ぶいぶい」

簪と握手しながら残った手でピースサインを作る本音。

そして手を離した後に、本音は嬉しそうに簪へ報告する。

「あのね、かんちゃん。かんちゃんは、ヒーローが来てくれるのに憧れてたよね?」

「ちょっ・・・!」

慌てた様子で本音の口をふさぐ簪。

クールで他人を寄せ付けない雰囲気を纏う彼女であるが、その内緒の趣味はアニメ鑑賞。

その中でも勧善懲悪ものを好んで観る彼女は、いつか自分を救いに来るヒーローが現れる事を夢見ていた。

「な、何で今その話を・・・!?」

「わたしは、みつけたよ」

「・・・え?」

今まで観た事の無い、はにかむような本音の笑顔にどきりとする簪。

 

「かんちゃんの言った通りだった。この世界には、本当にヒーローがいたんだね!」

「本音、何を言って・・・」

「きっと、かんちゃんもすぐに出会えるよ!」

てて、とクラスメイト達の元へ駆け出し、本音はぽかんとする簪を振り返って手を振った。

「この世は愛にあふれてるって教えてくれるヒーロー!かんちゃんを、退屈から救ってくれるヒーローも、ちゃんといるって信じてる!」

 

のほほんと掴みどころの無い言葉ではあるが、長い付き合いである簪には本音が何を伝えたかったのか、なんとなく察する事が出来ていた。

 

本音は、変わった。変えてしまうような影響力のある人が現れたのだ。

自分が憧れていた、願っていたヒーローというものに、本音は出会ったのだろう。

羨ましいと思った。妬ましいとも。

でもきっと、本音が見つけたヒーローは、自分にとってもヒーローたりえる人ではないのだろうともうっすらと思う。

 

「・・・いいな」

 

ぼんやりと、本音の後姿を眺めながら呟く簪。

彼女の言う通り、簪の元へ、自分だけの英雄は現れてくれるのだろうか。

ほんの小さな期待と大きな寂しさに俯いて自軍のピットへ歩き出した簪であったが、そこへ共に1組と対峙したクラスメイト二人が声をかけてきた。

「なに・・・?」

機体が破損するまで戦わずに白旗をあげた事を咎めに来たのだろうか。

他人事のようにネガティブ思考を巡らせる簪であったが、予想に反して申し訳なさそうな顔をしたクラスメイト達は、簪の手を握って謝りだした。

 

「更識さん、ごめんなさい!」

「へっ・・・?」

思わず素っ頓狂な声をあげた簪に構わず、彼女達は続ける。

「私達がもっと生き残れてたら、勝ててたかもしれないのに・・・!」

「正直、アタシ達、アンタの事信じられてなかった。何も話してくれないし、アタシ達の事見下してるのかもって」

「それは・・・そんな事は・・・」

「でも、あなたは私達の分まで必死に戦ってくれた!たった一人なのに、相手のクラス代表をあと少しまで追い詰めて・・・!」

「だから、次はアタシ達も、アンタの足を引っ張らないように戦いたい!だから・・・」

ぎゅ、と握られる手に力が込められる。

 

「だから、アタシ達の事もちゃんと頼って。声をかけてくれたり、指示してくれたらちゃんと従うから!」

「私達、あなたの事を信じて一緒に戦うから!お願い!」

 

初めて見ず知らずの他人が、自分に対して向けてくるという事態に戸惑いを隠せない簪。

どうすれば、どう言っていいか分からない簪は、知らず知らず熱くなる顔と早まる心臓の音に内心もだえつつも、震える声をどうにか絞り出した。

 

「あ、あとで・・・その・・・連携プログラムとか、組んでみる・・・ね」

「わぁっ・・・!」

「ありがとう、カンザシ!」

 

涙目になりながらしがみついてくるクラスメイト達。

「う、うん・・・」

自身のキャパシティを超えそうな程に体温を上げる簪は、ヒーローには出会えなかったがこの試合を経てかけがえの無い友人を得る事が出来たのかもしれない。

一夏達を出迎えにフィールドへ足をつけた綾は、手を引かれていく簪を見送りつつ皮肉そうに笑った。

 

「なるほど。誰かの心を開きたいとか、救いを与えたいとか。そんなもの、おこがましい考えだったというわけですかね」

 

一人ごちる綾。

一夏のような真っ直ぐな男ならと考えていたが、助け舟を出すべきが男でなければならないという理由はどこにもなかった。

むしろ、彼女に必要だったのは共に手を取り合える同性であったのだろう。

 

ふっと微笑んだ綾は、こちらへと向かってくるセシリア、本音、一夏(と引っ付いている箒)にそれぞれねぎらいの言葉を送る。

「お疲れ様、セラ。本日のMVPですね」

「ふふ、ありがとう、リョウ」

軽くハイタッチをして、微笑みと共に通り過ぎるセシリア。

「流石ですね、本音さん。貴女ならやってくれると思っていましたよ」

「にへへー。りょーちんが信じてくれたから頑張っちゃったー」

ふにゃふにゃと笑いながらタッチをして、セシリアの後へ続く本音。

そして。

「やぁお疲れ様、一夏。いかがでしたか、首尾は?」

「でぇやああああああああっ!!」

 

両手を広げて迎えようとした綾は、額にくっきりと血管を浮かばせた一夏の飛び蹴りを顔面で受け止めて吹き飛んだ。

「へぶぅっ!!?」

ずざざざ、と砂埃をあげ、全身で白色の土を抉った綾は、それでも無事であった眼鏡のブリッジを指で押し上げながら立ち上がり、なおも歩み寄ってくる一夏へと向かい、取っ組み合いを始めた。

 

「なにさらすんですかこの馬鹿!折角この僕が出迎えてやっているというのに!」

「うるさいよお前!よくも妙な悪口言わせてくれたなこの野郎!」

「気付かない方が悪いんですよ、気付かない方が!僕はね、こうやって世の中の悪意に晒させて耐性や思考を身につかせてやってるんですよ、なぜ感謝出来ないんですか!」

「誰がそんなもん頼んだんだよ!俺はお前のオモチャか何かじゃないんだぞ、ふざけた事言うならまずそのロン毛丸めてから言えってんだ!」

「ああっ!人の美意識にケチつけるんですかこの野郎!これでも美容院でカットしてもらいつつ丁寧にこの形を維持してるんですよ!そも、人の髪型をどうこう言いたいなら君だって坊主頭にしてから言ったらどうなんです、この中途半端!坊ちゃん刈り!」

「何だとこのドスケベ眼鏡!」

「文句あるんですか脳筋ED!」

 

ボカボカと埃をあげながら殴りあう男子二人。さながら昭和のアニメのオチである。

「お、落ち着け一夏!綾!お前達はどうしてそんなに仲が良いんだ!うらやましいぞ!」

「りょーちん!おりむー!やめてやめてー!」

「まったく・・・我がクラスの恥晒しも良いところですわ」

こうしてまたしても腐女子達へ餌を提供する一夏と綾。

その後千冬につまみ出されるようにフィールドを後にした彼らは、次の2組対3組の試合を観客席から眺め、衝撃の結末を目にする事になる。

 

2組が、敗北した。

 




ISアニメ二期観てないので簪のキャラが雑。
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