インフィニット・ストラトス リビルドワールド   作:しびれあくせる

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相克、ラウラと綾

ラウラ・ボーデヴィッヒは孤独であった。

 

彼女は完成された兵器として運用されるために産み出された存在であり、その周囲には親も、兄弟もおらず、ただ自分を苦しめ、数値を図るだけの無感情な研究者だけが存在した。

血縁も、友情も、感情すらも不要とされ、肉体強度と戦闘技術のみを有し、余計な思考を持たぬようにと、訓練という名の調教が行われてきた。

単一の兵士による多大なる戦果を期待され、遺伝子操作によって作られた彼女は、確かに少女でありながらも複数人のベテラン兵士が束になったところで敵わない程の強さを身に着けた。

 

しかし、それもISという常識を超えた兵器の誕生によって用済みとされる。

その後は悲惨だった。

IS適合率を向上させるためのヴォーダン・オージェという眼球への外科手術の不適合によりあらゆる能力の数値を落とした彼女は、出来損ないと蔑まれ、誰に必要とされる事無く行き場所すら失った。

 

全てが憎かった。全てが敵であった。

 

おこぼれの様に与えられる少ない食事を野良犬の様に警戒しながら口にし、誰にも見つからないように警戒しながら眠りにつく。

信じられる者など、世界のどこにもいはしなかった。

 

ある日、彼女の前に一人の女性が現れた。

 

ブリュンヒルデと仇名された彼女は、頑なな彼女を闇の中から引きずり出した。

彼女は厳しかった。それでも、ラウラを人として接し、失った戦闘能力を努力によって奪い返す手伝いをしてくれた。

そうして彼女は自分が人として認められるほどの復帰を果たす事が出来た。

 

彼女には感謝している。彼女だけは信頼できると思った。

 

そんな彼女が自分の傍から離れる事となった時、ラウラはとてつもない喪失感に苛まれた。

もっと自分と一緒にいて欲しい。自分を導いて欲しい。

だからラウラはIS学園へとやってきた。

尊敬し、敬愛し、唯一信じられる、織斑 千冬という彼女がいるこの学園へ、彼女を連れ戻しに。

 

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「やはり3組は強敵でしたか・・・」

学食で肉野菜炒め定食を食べながら、綾は唸るように言った。

「やっぱり、ボクも出たほうがよかったんじゃ・・・」

その隣でシャルルが暗い表情でおずおずと言う。

「・・・ふん。あんな奴ら、アタシ一人でも十分だと思ったのよ」

一応ダメージは無いように見えるものの、精神的にはきているようで不機嫌そうな様子の鈴は、噛みつくように相席していた綾へ返答した。

 

戦いはほとんど一方的だった。

中国代表候補生である鈴が駆るISの名は甲龍(シェンロン)。

マゼンタを基調とし、分厚い装甲と巨大な二対の刃、そして、不可視の弾丸にて相手を圧殺する、パワー重視の機体。

それを補佐するのは二体の打鉄。専用機ではないにしろ、繰者のスタイルに合わせ武器の増加や各部調整が施された機体であった。

一般的な戦いなら、それこそ一対一であればそう易々と敗れるような布陣ではない。

だからこそ、相手が悪かった。

 

3組が擁するのは、実際の戦場を駆け抜けた事すらある歴戦の兵士達。

ドイツのIS部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長とその部下。

ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐率いるドイツ製専用機で構成された、黒き颶風であった。

戦闘開始直後からあっという間に味方のISを撃破された鈴は、反撃に出ようとするも彼女らの持つワンオフ・アビリティにより動きを封じられ、早々に降参する以外の選択肢を与えられなかったのである。

 

「ていうか何でアンタここにいんのよ!アンタ敵でしょ!?1組でしょ!?どっか行きなさいよ!」

「いえいえ僕はクラスがどうと言うよりはシャルル君の味方ですので。ねぇ?」

「まぁそうですわね。いかなる時もノブレスオブリージュ。後に敵対しようと、隣人には手を差し伸べるのが貴族ですもの」

綾と鈴の間に座ってアールグレイを嗜むはセシリア。

なんだかんだ言いつつも、今日は本音を箒への生贄にしてこちらへと逃げてきただけの事である。

 

「何なのよ、まったく・・・アタシだって一夏がいる方に座ってたかったわよ」

「どうせ喧嘩になるからやめておいた方が良いでしょう。君のように忍耐の無い人にはあの空間は耐えられない」

「そうですわ。わたくしとリョウがどれだけ苦しめられているか・・・」

「り、綾とオルコットさんは向こうの人達と友達なんだよね?何があったの?」

首を伸ばして向かいの席に座る一夏、箒、本音を見やるシャルル。

そこには普段通りの一夏と、楽しげな箒、心なしかげっそりとしている本音が見える。

「・・・布仏さんって、あんな痩せてる感じだっけ?」

「痩せるんですよ、あの空間」

「ダイエットなさりたいならお勧めですわよ。ただし、長時間いると胃に穴が空くかもしれませんけれども」

「えぇ・・・」

詳細は不明だが、ランチ時に箒と一夏に挟まれる事は多大なストレスとなるらしい。

 

実際、この一ヶ月程は綾、セシリア、本音が日替わりで一夏と箒の間に挟まれるシフトを組んでおり、それぞれの精神的負担をローテーションしていた。

そろそろ一対一でも良いだろうと箒に言おうとも、

「い、いや、無理だ。一夏はもう、何と言うか、見れば見るほど顔が良い・・・顔が良いのだ・・・」

「顔で選んでるんですか君」

「何故理解出来ない!中身が一夏な上に顔が良いから直視出来ないと言っているのだ!」

「重症すぎて笑えません」

愛が重過ぎる幼馴染への想いが、こんなにも周囲の友人へ迷惑をかける事例が他にあったであろうか。

 

「ふ~ん、まだまだあたしが入り込む余地はあるってワケね」

C字の長椅子の上で胡坐を組んで、ふんすと鼻を鳴らす鈴。

どんだけ幼馴染に愛されてるんだあの男、と思いながらも食事を終え、綾は立ち上がってセシリアへ呼びかけた。

 

「さて、今日もやりますか」

「あら、この後試合だからやらないと思ってましたわ」

「まさか。逆にやらないと集中出来ませんよ、僕みたいな人種はね」

「ふふ、仕方の無いこと。よくってよ、付き合って差し上げますわ」

食器を片付けつつ、いつものルーティーンと言わんばかりに学食中央に置かれているピアノの元へと向かう綾とセシリア。

どこかいつもより綾の機嫌が良い様に見受けられるのは気のせいであろうか。

 

「なんだか今日はやけに音が楽し気だな、リョウのやつ」

「うん!りょーちん、気合入りまくりだね~!」

「うむ、この後強豪の3組が相手だというのに。まぁ、頼もしいではないか」

普段から付き合いのある一夏達が揃って言う程には綾の指先はノリに乗っている。

まるでこの時を、3組との戦いを待っていた、とでも言いたげなように。

 

ともあれ、本日の曲目は、ヴィヴァルディの「四季」より、「春」。

戦闘で荒れた心を癒すような音色に心を潤いを与えられる生徒達。

「・・・ふん、悪くないじゃない」

最初はぽかんとしていた鈴ですらも、大人しく聴き入ってしまうほどに、二人の音楽には力があり、人を惹きつける魔力があった。

シャルルもまた、綾とセシリアのデュエットを聴くのは初めてではなかったが、それは胸の奥でうずく衝動を抑えなければならない自分に自己嫌悪してしまう時間でもあった。

 

(うらやましいな、綾、オルコットさん)

 

寂しそうに二人を見つめるシャルルは、ずきりと痛む胸に手をやる。

(でも、ボクには二人に混ざれない。混ざる資格なんて無い。二人を、皆を騙してここにいるボクには、分かりあう事なんて許されない――)

 

さながらトランペットに憧れる少年のように、シャルルは楽し気な綾とセシリアをずっと見つめていた。

いつか、目的を果たしたその時に、彼らに本当の事を話す時が来るのだろうかと、恐れながら。

 

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昼食を終え、1組対3組。

アリーナのフィールドへと再び降り立つ一夏の白狼、セシリアのブルー・ティアーズ。

そして、本日初の戦闘となる、鶴守 綾のアマデウス。

 

対峙するは、3組の戦闘集団。

小柄で左目に眼帯をした、銀髪ロングを靡かせる背の小さな少女。

彼女こそがラウラ少佐であり、その妖精のような見た目を裏切る容赦のない戦闘スタイルが、戦闘が始まれば嫌が応にも目を引く事となる。

 

身に纏うは漆黒のIS、ドイツ第三世代機シュヴァルツェア・レーゲン。

分厚い装甲と右肩に装備された巨大なレールキャノンが目立つが、その真価は武装にはない。

その背後に控えるのが副官であるクラリッサ・ハルフォーク大尉。

ラウラと同様の眼帯を装着している長身の女性であり、装着するISはシュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機、シュヴァルツェア・ツヴァイク。

レーゲンと違い細身であり、レールキャノンも手持ち式となっているが、その分機動性と攻撃性能がレーゲンより向上している。

最後に彼女らの部下であるネーナ。

クラリッサと同様にツヴァイクを身に纏っているが、武装が両手に所持した二門のレールガンとなっている。

なお、3組側の監督席には、ネーナ同様シュヴァルツェ・ハーゼ隊員であるファルケ、マチルダ、イヨが待機しており、彼女たち4人はツヴァイクを専用機とせず、状況に応じて使いまわす運用方法を採っている。

 

「いやいや、後ろの人達明らかに年齢詐称してますよねぇ・・・」

「IS学園に入学するのに年齢はそこまで重要ではありませんわ。入学を申請して試験を突破出来て、適正があれば入学は可能ですの」

「大学か何かかな・・・?」

ぼそぼそとやり取りする1組のメンバーであったが、それが気に障ったのか否かは不明であるが、ラウラはじろりと一夏を睨み、迸る殺気を向けて問うてきた。

 

「貴様が織斑 一夏。織斑 千冬教官の弟か」

「き、教官?」

聞き返す一夏に何も知らないのかとうんざりしたように目を伏せ、ラウラは威圧するかのようにシュヴァルツェア・レーゲンの拳をぎちりと握る。

「彼女はドイツ軍にいた頃にわたしを鍛えてくださった恩人だ。あの頃の――どうしようもなく無力で、処分されるのを待つばかりであったわたしに、存在する意義を与えてくれた、唯一無二の存在・・・!」

そこまで言うと、力強く一夏を片方の眼で睨みつけ、

「そんな彼女の経歴に、モンド・グロッソ2連覇という偉業を前に決勝を放棄させた貴様の存在が、どうしようもなく不快だ」

「モン・・・?」

「過去、2度だけ行われたIS世界大会の事ですわ。織斑 千冬はそれの第一回大会で優勝を飾りましたが、第二回大会にて決勝戦を棄権したのです」

「・・・!」

 

セシリアの注釈を聞いて、ようやく思い至る一夏。

かつて中学生の際、一夏は何者かに誘拐され暴行を受けた事があった。

テロリストのような風貌の連中に身体を縛り付けられ、血反吐を吐くまでリンチを受け、死を覚悟する程に消耗した彼を救ったのは、他でもない、ドイツ軍から一夏の拉致現場の情報を受領し、ISを身に纏って駆け付けた千冬であったのだ。

一夏はそこで初めてISというものを目にしたわけであるが、受けた傷のせいもありかなりおぼろげな記憶となっている。

 

「そうだ、教官は決勝を放棄し、貴様のために折角の二連覇という栄誉を受領しそこなった!その後、我がドイツ軍への報酬として、一年間、我々にISの教官を行って頂いたのだ」

「そうか・・・いきなりドイツに行くって言ってたのはそれだったのか・・・」

呆然と呟く一夏と、何も知らない彼に憤るラウラ。

彼女の部下たちは何も言わずに不動のまま、ラウラの言葉に耳を傾けている。

 

「貴様は教官にとっての癌だ。恥さらし以外の何者でもない。私は、貴様が憎い!」

「待って下さい、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

ショックに動転して言葉を失った一夏に代わって、飄々とした綾がシュヴァルツェ・ハーゼの威圧感をものともせずに割って入る。

ヒートアップしていたラウラは、その視線を綾へと向けて絞るように声をひり出した。

「・・・何だ貴様は。死にたくなければ黙っていろ」

「よく考えてくださいな。千冬先生に恩があって尊敬しているが故に君がこの学園に来た事は想像に容易い。しかしその話は矛盾だらけでどうしようもない」

一夏の白狼の肩へと手を置き、綾は軽薄な笑顔でラウラへ視線を向ける。

「何が言いたい」

「まず一夏が誘拐されたお蔭で君は千冬先生に出会えたのでしょう。ならば感謝こそすれ恨む理由にならないと思いますが?」

「だから何だ」

「また、誘拐された一夏より誘拐するような連中を憎み、討つのが君達軍人の仕事でしょうに。逆恨みどころか一周回って何の関係も無いところに照準を合わせてますよ、君」

「もう黙っていろ。殺すぞ」

「あと一つ。千冬先生は、たかがモンド・グロッソ二連覇よりもかけがえのない弟の方が大事だったというだけの話でしょう。それに何の関係も無い君が憎い憎いと口を挟むのは筋が通らない」

 

「黙れと言ったァ!」

 

一喝。

スタジアム内の、観客席すら静まらせる程の殺意はそれでも、鶴守 綾の笑顔を打ち消せはしない。

「千冬先生が自分より大事にしている一夏が羨ましいんですか?」

見透かすような、それでいて哀れなものを見るような綾の言葉が逆鱗へと触れる。

音が響くほどに歯を食いしばったラウラは、ちょうどカウントダウンを始めたアラート音にほんの少しだけ冷静さを取り戻し、

 

「いいだろう、貴様からそのISを引き千切った上で、生身で拷問をしてやろう。我々シュヴァルツェ・ハーゼを愚弄した罪を後悔させてくれる」

「愚弄、ですか。そう取られてしまっても仕方がない。それでも」

首を振ってから、静かに戦闘態勢を取った綾は、ラウラの全身を視界に収めながら言う。

 

「僕は、君に会って、話して、分かり合うためにここに来ました」

「ふざけるなッ!!」

 

綾がラウラの矛先を自分へ向けたお陰で少し立ち直った一夏は、どこか様子のおかしい綾に違和感を感じながらも、戦闘開始のブザーを聞いて後退した。

即座に空中へと舞うセシリアは銃口をラウラへと向けて発射するが、シュヴァルツェア・レーゲンは掠める程度の被弾をものともせず綾へ前進する。

その背後に控えていたツヴァイク二機も同様にブーストをふかしてそれぞれ綾を狙う。

「ラウラ隊長を侮辱した愚か者・・・!」

「生きてここから帰れると思うな!」

 

両手首から発生するプラズマ手刀を構えて真っ直ぐに突撃してくるラウラのレーゲンを、待ち構えるかのように両手を前に差し出すアマデウス。

まず左の手刀を突き出してきたレーゲンの腕を右腕で抱え、続けて振り下ろされた右の手刀を左腕で絡めとる。

「なに・・・!?」

「舌噛みますよ・・・!」

そのまま力任せにレーゲンを持ち上げたアマデウスは、思い切り大地を蹴り上げて背後へと反り投げ、ほぼ無防備となっていたラウラの脳天から地面へと叩き落した。

いわゆる、かんぬきスープレックスである。

「ぐあぁっ!」

「隊長っ!」

ずどん、と派手な音と共にクレーターを生み出したレーゲンのボディをそのまま固め、近寄ってきたツヴァイク二機へと、腰にアンマウントしたままのトルキッシュ・マーチで速射砲を撃って牽制するアマデウス。

想定外のマシンガンの破壊力にひるむ部下たちを文字通り尻目に、ラウラは落下の衝撃からどうにか気を取り戻して叫ぶ。

「く、くそっ!離せ、貴様っ!」

「何が憎いんです。何に怒るのです。僕か、それとも君の世界か」

「喋るなッ!!」

 

一体、どこの世界にISでレスリング技を仕掛ける馬鹿がいるというのか。

両腕の関節を極められたまま、逆さの状態でじたばたと足を泳がせるラウラ。

「一夏、セラ!」

冗談のような好機にたじろぐも、頷きあった一夏とセシリアはそれぞれ雪片弐型とスターライトMk-IIIで攻撃準備に移る。

 

「させ、るかぁっ!!」

しかしラウラは背中に装備されたワイヤーブレードを射出して綾の首へと巻き付けようとし、それを察知した綾は技を外し、アマデウスを上空へとブーストさせる。

 

「君の怒りの理由は分からない。だから戦いましょう。僕も、僕の持てる全て――僕の信頼する仲間と、このアマデウスで君にぶつかります。それで分かり合える事もある」

 

「き、貴様ァ・・・!」

立ち上がり、更に怒りを増したかのように頭上のアマデウスを睨むラウラは、ここに至って生じた疑問を綾へとぶつけた。

「貴様のその振る舞い、言動・・・まさかと思うが、我々に何らかの因縁でもあるのか!」

問われた綾はゆっくりと眼鏡の縁を押し上げ、トルキッシュ・マーチを抜き、その銃口と悲痛な眼差しをラウラへと向けた。

「合縁奇縁としか言いようがありませんが」

そのままグレネードを装填し、射出しながら落ち着いた口調で言う。

「しかしその理由を君に言ったところでどうなるものでもない。ただ、僕が一方的にラウラ・ボーデヴィッヒ個人を気にかけているという、それだけの事」

それをワイヤーブレードで撃破しつつ、回避運動を開始するラウラ。

「貴様・・・何を言っている!」

「知りたいのなら僕に勝ってみせなさい」

 

マシンガンを乱射しつつ、綾へレールカノンを向けるツヴァイクへもう片方のトルキッシュ・マーチからも速射砲を発射。

レールカノンの砲身を狙われ、照準がずれたツヴァイクの砲弾は、アマデウスを逸れて明後日の方向へと飛び去って行った。

「リョウ、凄いですわ・・・!あの3組の強豪達を、たった一人で圧倒している・・・!」

「けど、様子がおかしい!リョウ!何があったんだ・・・!」

声をかけつつラウラへ向け剣を構え、ブースト加速する一夏。

「セシリア、援護を頼む!」

「り、了解ですの!」

雪片弐型から零落白夜を解放したロング・ビームサーベルモードへ移行させ、低空から速度をつけて突きに入る一夏の白狼と、それを遠距離から支援砲撃するブルー・ティアーズ。

 

「このっ、邪魔をするな!」

しかし一旦回避運動をやめたラウラは即座に一夏へと左の手を向け、そこから謎の磁場じみた波動を発生させると、それまで急速度で迫っていた一夏の身体がピタリと動きを止めてしまう。

「な、何だ、これっ!?動けない!」

「AIC、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー!対象の動きを止めてしまうシュヴァルツェア・レーゲンの特殊能力ですわ!」

説明しつつレーザーライフルでラウラを狙い撃つセシリア。

 

AICは慣性停止結界とも呼ばれ、任意の対象へ手を向ける事で物理的な運動性を完全に奪い去る能力。

バトルロワイヤルの映像、そして2組と3組の生戦闘を見ていた綾やセシリアは、この能力の事を知り、対策を考えていた。

ほとんど無敵と思われるこの能力の弱点として、とてつもない集中力を要するために自身の動きも停止させる必要がある事、実体のないビームやレーザーといった光学兵器を止める事が出来ないといった点が挙げられる。

そのため防御に回る事や、操作に集中力を要するワイヤーブレードが使用できないという事になってしまうのだ。

 

「おのれ、ちょこまかと・・・!」

「隊長、突出しすぎです!一度後退を!」

「うるさい!分かっている!」

直撃を避けながら再度回避運動に入り、綾とセシリアによる空中からの射撃を避けつつ、ラウラはAICを解除してツヴァイクとの合流を図る。

「させるとでも!」

今度は両手のマシンガンをラウラへ向け連射しつつ、落下するようにレーゲンを追うアマデウス。

 

「セラ!一夏!」

「任せろ!」

「もう、お二人とも扱いが荒いこと!」

背部からブルー・ティアーズ・ビットを射出して綾の背後を追うように配置するセシリア。

それに対し、振り返りつつ後退し、右肩のレールキャノンで応戦するラウラ。

巨大な砲弾を紙一重で回避しつつアマデウスは、撃ち続けながらも両膝の単分子カッターをアクティブにした。

「今のシュヴァルツェ・ハーゼの実力はこの程度ですか。それとも、出し惜しみをしているのですか?」

「貴様に、何がわかる!」

「分かりたいから、こうして戦っているのでしょう」

 

接近するアマデウス、その後ろにはブルー・ティアーズ・ビット、更にその背後には白狼が続く。

ツヴァイクも援護に駆け付けようとするが、AICの有効範囲には遠く、レールキャノンを撃つにはラウラが射線に入ってしまう。

ここでレーゲンがAICを発動させたとしても、ビットのレーザーは光学兵器のため動作を停止させる事が出来ず、また、アマデウスやビット自体の動きを止めれば、一撃必殺たる白狼の零落白夜が狙ってくる。

接近戦に持ち込んでも勝ち目は高くない。ならばどうすべきか。

 

「――総員、空中機動準備!地上戦では不利だ!」

「「了解!」」

ラウラは部下へ指示しつつバーニアをふかして上昇し、同様に上へと飛び立つツヴァイクは中空に浮いた事によりアマデウスと白狼への射線が空いた事に気付き、レールキャノンを発射してレーゲンを追う足を止めにかかる。

 

「邪魔です!!」

 

それを予期していたかの如く、素早く背部のバスター・ランチャー、アイネ・クライネ・ナハト・ムジークを二本ともマウントし、狙いをつけるまでもなく発射。こちらへ向かう砲弾ごと灼熱の剣にて引き裂いた。

「「うわあああああーーっ!!」」

発射口から伸びる暴力的な陽光子の熱量にレールキャノン砲弾は蒸発し、その向こうにいたツヴァイク二機をあっというまに撃破。バリア残量消失を示すアラートと共に落下し、ISを解除していく部下を後ろ目に見て、ラウラは唖然呆然とする。

 

「馬鹿な!」

まだ成人に達していない年若い女性とはいえ、実際の戦闘経験すらあるクラリッサ達をこんなにも簡単に倒してしまった綾へ畏怖すら覚えるラウラ。

たかだか学生共の集まりに、自分達ドイツ軍兵が負ける事など無いと考えていた。

実際、同じクラスの生徒達は相手にならない程の雑魚ばかりであった。

教官は、織斑 千冬は、こんなレベルの低い場所で腐らせるような人材ではない、それを証明するためにやってきたというのに。

また、同じ部隊で戦いたくて、連れ戻しに来たのに。

それを、こんなにあっさりと、妨害してくる、妨害できる貴様は、一体何なのだ。

 

「何者なんだ、おまえは・・・!?」

「君を知る者です、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

バスター・ランチャーを格納しつつウイングポッドのバーニアをふかして飛翔し、ラウラを追うアマデウス。

「一夏!」

「おう!」

右手で弾幕、左手で散弾を放って迫るアマデウスへ、反射的にAICを発動させてアマデウスの動きを停止させ、右肩のレールキャノンで狙いを定めるラウラ。

「おまえ、おまえだけは、倒さないと――!」

恐怖に震えつつある慟哭にまるで表情を崩さない綾。むしろ、憐みすら感じさせる眼差しの彼の右側の背後から、勢いをつけた白狼が零落白夜という牙を向いて襲い掛かる。

「貴様も、邪魔を!」

左手のプラズマ手刀で迎え撃とうとしたラウラであったが、その腕は一筋の光線によって撃ち抜かれ、吹き飛ばされてしまう。

セシリアの狙撃である。

 

「でぃやあああああああっ!!」

眼を剥くラウラへと、咆哮と共に振り下ろされた白狼の牙が華奢な身体と巨大な装甲を一閃する。

「がっ、あ・・・!」

スタンの衝撃に耐えられず、そのまま意識を失うラウラ。

最後のあがきとばかりにAICが解除されたと共にレールキャノンが発射されたが、綾はそれを半歩分肩を引いただけで回避した。

 

鼻先を通り過ぎて地面へと着弾する轟音と、シュヴァルツェア・レーゲンが墜ちる音、試合終了のブザー音が入り混じる中、聞こえてきた客席からの歓声も綾の耳にはどこか薄ら寒く感じられ、その表情は悲しみの色を湛えていた。

 

========================

 

「馬鹿な・・・こんな事、ある筈がない」

目を覚ましたラウラは魂を抜かれたかのように呆然と呟く。

解除されたISは腿のバンドへと変化しており、先に撃破された副官たちによって介抱されていた。

 

「リョウ、一体どうしたってんだよ?」

明らかに様子のおかしい綾へ、心配そうに声をかける一夏。

肩を揺すられた綾は無表情のまま眼鏡のブリッジを指で押し上げ、

「すみません。僕とした事が、頭に血を登らせてしまった」

「いや、謝る事はないけど・・・お前、あの子と何か関係があるのか?」

一夏は心から綾の事を案じている様子で、それは綾も分かっているのであるが、あまりにも問題がデリケートかつ、易々と他人に話せない事でもあるが故に、口を濁す以外の事ができなかった。

 

「・・・申し訳ありませんが、詳細は話せません」

「なんでだよ!俺達、友達じゃないのかよ!」

「それでも話せない事はあるでしょう・・・まぁ、先程のアシストは信用に足るものでしたが」

 

それだけ言うと、仰向けに倒れたままのラウラへと歩み寄っていく綾。

引き留めようとした一夏であったが、箒から通信が入り、

『一夏、気持ちは分かるが、どうやら触れない方が良いかもしれない。・・・本当に友人であるならば、触れられたくない一線には無理に触れてはならないと思う』

「箒・・・」

普段は勢いと思い込みで他者を振り回す事が多い箒であるが、綾に思うところのある彼女は彼を庇うかのように一夏を諭した。

それは、初めて会った際に姉の事を深く追及する事を失礼とし、話題を切り上げてくれた彼へのアンサーだったのかもしれない。

「りょーちん、どうしたんだろう・・・」

監督席内で不安げに呟く本音の肩を叩きつつ、箒はフィールド内を見やる。

あれだけ3組との戦いを楽しみにしていたように見えた綾が、今はとても小さく見える。

落ち込んでいる、というよりはどこか、残念そうな。

 

(ラウラ・ボーデヴィッヒ。綾は彼女に、何かを期待していたのか・・・?)

おぼろげにそう考える箒であったが、その真相を知る日はそう遠くはない。

また、ラウラ自身も。

 

傍までやってきた綾を忌々しげに、されど力なく睨みつけ、上体を起こすラウラ。

「・・・勝って満足か。それとも、お互いの健闘を称えたいとでも言うつもりか?」

噛みつく様なラウラの反応であったが、見上げる綾の顔が辛そうな、可哀想なものを見る目で見下ろしてきている事に気付き、言葉を荒げた。

 

「何だその目は。おまえは、わたしに何が言いたい!何がしたいというんだ!」

「・・・戦って、分かりました。君は・・・ずっとそうやって、利用されて、誰かを拒否して、恐れて、気を張って生きてきたのですね」

「知ったような口をきくな!」

 

しゃがみ込んで視線を合わせてきた綾へ思わず殴りつけるラウラ。

それを避ける事もなく頬で受けた綾は、その小さくも、傷だらけの手を取って、優しく撫でるように握る。

「なっ、は、離せっ!」

 

「・・・どんな娘だろうと気にしていました。バトルロワイヤルの映像からは、確かに統率の取れた戦いをし、シュヴァルツェ・ハーゼという部隊の強さを見せつけているようで、僕は、今日、君に逢う事を心から楽しみにしていたんです」

「な、何を・・・何を、言っている・・・」

力を込めようともその手を離そうとしない綾、ラウラはその瞳を何故か真っ直ぐ見る事が出来ない。

「一夏を罵倒する君を見て、正直、僕の考えていたラウラ・ボーデヴィッヒとはあまりに乖離があったから驚きました。でも、君は必死だっただけなんですね。君を唯一、小さな世界から救ってくれたであろう千冬先生のために、自分に出来る事を探していただけの、不器用で、純粋で、傷つきやすい、優しい娘だったんだ」

「やめろ!わたしは、わたしは・・・!」

 

「貴様!隊長にそれ以上――」

「五月蠅い」

激昂する副官のクラリッサをひと睨みで黙らせる綾。

その眼は、歴戦の彼女ですら呑まれる程の業を宿しているようにも思えた。

 

静かになった事を確認した綾は、またも慈愛を込めた瞳でラウラの眼帯を見やり、

「その眼は、何かの実験の影響でしょうか。君に比べれば、確かに僕は平和で幸せな人生を歩んで来れたのでしょう。・・・こんな事を、今更言う資格はありません。ですが、どうか、どうか分かって欲しい」

彼が何を言っているのか理解が追い付かず、ただ戸惑いながら聞くがままとなっているラウラの手を震える両手で握ると、綾はゆっくりと閉じた瞼から一滴の涙を零した。

 

「ずっと、一人にしてごめんなさい。君を、守ってあげられなくてごめんなさい。許せないと言うのであれば、いずれ、全てが終わった後に罰も受けましょう。君が死ねというならそれでも良い。・・・もし・・・もしも、許されるのであれば」

瞳を開き、抵抗しないラウラを抱き寄せ、綾は嘘偽りなく伝える。

「君を、僕に守らせて下さい。君を、最初から愛させて下さい。どうか、もう自分を傷つけるような真似をしないで下さい」

 

「おまえ・・・なぜ、そんな事を言う?なぜ、わたしのために泣く?まったく、理解ができない。なぜだ・・・!」

「そうでしょう。そうでしょうとも。君と僕は簡単な関係ではない。君が知らなかったとしても無理はない。僕を見て、気付くことだって何もないでしょう」

寂しげに、悲しげに体を離した綾は、涙を拭い、今度は誰にも聞こえない様ラウラの耳元で囁いた。

 

「・・・僕の父の名を調べて下さい。それで、いくらかの予想はつくはずです」

「父・・・?」

「また逢いましょう、愛おしいラウラ。何かあれば、いつでも声をかけて欲しい」

 

それだけ言い残して立ち上がり、振り返る事なく去る綾。

硬直していたクラリッサは我に返ると、ラウラの肩を揺さぶった。

「隊長!大丈夫ですか!?な、なんですかあの男は!突然少女漫画のような告白をして!も、もしや隊長の前世の恋人!?それとも幼馴染の少年とか!?」

「・・・そんなものじゃない。そんなものじゃ・・・」

呆けたように返事をしつつ抱きしめられた肩を撫でたラウラは、感じた事のない何かに混乱しつつ、その感覚をどうにかして言葉で表そうとした。

 

「でも、あいつ、温かかった」

 

「隊長・・・?」

クラリッサはラウラの表情を見て、静かに驚いていた。

ラウラは、自分でも気付かずに、その眼帯に隠された左目から涙を零していた。

 

「あいつは、あたたかかったんだ」

 

 

一夏と共に、綾の様子を伺っていたセシリアは、ある事を考える。

(ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・ドイツ軍IS特殊部隊所属・・・軍・・・?)

そのワードにどこか引っ掛かりを感じ、思考を巡らせるセシリア。

(どこかで、リョウにまつわるそんな話を、聞いたような・・・)

それは、かつてバトルロワイアルにて綾に敗北した後に、誰かから聞いた話ではなかったか。

 

(そこの店長さんは綾くんの亡くなったお母様のご学友だったらしくて、色々お話を聞かせて頂きました。ピアニストになって世界ツアーを行う中で、ボディガードを務めていた軍隊上がりの男性と恋に落ちて結婚されたとか――)

 

はっ、と気付く。

(軍隊上がりの、男性・・・!)

まさか、しかしあり得ないとは言い切れない。

鶴守 綾と、ラウラ・ボーデヴィッヒは、もしや父親を同じくするのでは。

確証はないものの、可能性に気付いたセシリアはしかし、綾へ直接確かめる事がためらわれて、結局は聞く事が出来なかった。

 

真実がどうあれ、彼がラウラを気にかけている事は間違いなく。

無言で自分達を通り過ぎる彼の背中をただ見守る以外に出来なかった自分に、セシリアは歯噛みするばかりであった。

 




書いてる途中で綾が俺の意図してない事を言い出したので大方書き直した。
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