{2050年 東京都心にて}
すべすべした木の台と、その上に乗せられた大量のマイク。その前には、歴史的瞬間を目にしようと、野次馬根性前回の民衆が集まってきている。
おもむろに、男が出てきた。マスコミらしきカメラのフラッシュが、数カ所でたかれる。
「それでは、」男はもったいをつけていった。
「賛成派多数につき、ここに、少年少女擁護法を、可決いたします!」
どっと湧き上がる、嵐の風音のような歓声。さらに、嵐の雨音のような拍手。そしてやっぱり、嵐の雷のようなフラッシュ。それらは、世界が終わるまで続くんじゃ無いかと思わせるくらい、いつまでもいつまでも続いて、一向にやむ気配を見せようとはしなかった。
{2075年 東京郊外 カフェ&レストラン「カシムラコーヒー」にて}
「さ、片付けた片付けた!あと10っ分で開店だよ、急げ!」
「騒いでないでお前も片付け手伝えよ、ナナ。」ナナと呼ばれた女の子は、めんどくさそうに言った。
「えー、だって料理の下ごしらえがあるんだもん。ここが経営立ち回ってるのは、誰のおかげかな?幼なじみで大親友、そして恩人でありカズ君の初恋の相手、ナナじゃ無いのかな、んー?」カズ君と呼ばれた男の子の方は、テーブルを拭きながら返した。
「恩人じゃネーし初恋もしてねーよ。そもそもここ開店できたの誰のおかげだと思ってるんだ。」
「じゃあ、幼なじみで大親友とは思ってるわけだ。」
「後半を聞けよ。」
二人とも年齢的にはまだ子供だが、社会的には立派に大人である。樫村七海、17歳。文系、活発な美(←自称)少女。通称ナナ、明るく友達も多い。そして解生和人、同じく17歳。理数系、スポーツよりも実験がすき。そのため、やや引きこもりがち。趣味はプラモデル、国から正式に認められた{少年数学者}であり、謙遜しないので自称も他称も天才少年。多少のわがままなら許してもらえる。その代わり、国に貢献することを義務づけられている。無口なため根暗だと思われており、友達は少ない。しかし、こちらから話しかけると普通にしゃべる。ため息が多いのが最近の悩み。案外ノリはいい。
「おまえがレストランやりたいって言うから、本当は違法なのに無理突き通したんだぞ、分かってんのか?」
「はいはい、感謝してますよ。カフェの方は任せきりだけどね、スイーツ将軍。」スイーツ将軍。ナナがカズをいじるために作ったあだ名だ。
「その名前で呼ぶのはやめろって、いつも言ってるだろ。」
店の中が、ざわつき始めた。「カズ、8番テーブルコーヒー二つ!頼んだよコーヒーの大王!」本当に、ナナは調子がいい。いろんな意味を込めて、大きなため息を一つした。
「お疲れ様~。」
「お疲れ様。それじゃしばらく、地下にこもるから。」国から、急ぎの用事だと、「あるモノ」の開発を任された。期間中に完成しなければ、多分僕もナナも刑務所行きだ。なあに、あと少しさ。自分にそう言い聞かせながら、それの開発を進めた。
「それ、何なの?」
「知らなくて良い。てか知らない方が良い。もしも情報が漏洩したと分かったら、称号剥奪だろうな。」25年前、日本に出来た新たな法律。それが「少年少女擁護法」だ。その内容はいろいろあるが、とにかく理不尽だと思うのが、「18歳以下の外出を一切禁止」「18歳以下は積極的に商業をするように。ただし、そのもうけは親または国が管理する」というモノで、二人とも親がいないから国が管理するところを、自分たちのもうけとして良いことにしてもらっているのだ。
「何が擁護だ。アレは僕たちを守るためのモノじゃ無い。」そっとつぶやくようにして、ようやく声を絞り出した。「縛るためのモノだ。」ナナは、その背中を心配そうに見つめていた。
「こちらが、頼まれていたモノです。そしてこちらがその資料。」そう言いながら、スーツケースと紙の束をわたす。
「そうか、これが。では、しばらく、テストしてもらえるかな?」それは疑問形ではあったが、とても質問では無かった。
「・・・はい。」大丈夫だ、変な仕掛けは一切していない。この鈍く光る機械は、ただの道具だ。そうさ、殺意なんざもっていないはずだ。どうにも、そう言い聞かせないと不安の波にもみくちゃにされてしまいそうだった。
その日。いつも通りテーブルを拭いていると、電話がかかってきた。
「防衛省からです。和人さんですか?」
「はい、そうですが。」どうしたんだ、急に電話なんかかけて。
「渋谷に、怪物が現れました。至急、{例のモノ}をもって急行して下さい。」怪物。この世に?
「分かりました。」僕は全力でかけだした。
「ちょっと、どこ行くの?」ナナが聞いてきた。
「渋谷。すぐ戻るから。カフェは閉めといて!」そこまで早口で言うと、乱暴にドアを閉めて走り出した。
「フフ、フ。良いねぇ。うまそうな人間だ。脂がのってる女も、柔らかい子供も良いけど、やっぱダイエットには男だよな。」ブツブツと、サラリーマン風の男がつぶやく。突然、額から一本角がはえ、三ツ目になり、両の手のひらには口とも目ともつかない何かが出てきた。
「喰ってやるぅ、フフ。」近くにいた人々が、逃げ始めた。すると男の指が突然伸びて、蜘蛛の足みたいに広がった。
「逃がさないよう、小鳥はケージに入れてから食べるんだ。」そう言うと、あいている左手を伸ばして、コンクリートのビルを壊した。母親のような人が、「ひい!」と身近い悲鳴を上げた。
「タンパク質もお、大事だけども、カルシウムも、大事なんだあ。」そう言うと手のひらでコンクリートを食べ始めた。
「あんまり堅いのはあ、好きじゃ無いんだよねえ。だから、ちょうど良かった。そこの男に巻き込まれて、マヌケな親子が鳥かごに迷い込んだようだからねえ。安心しなよ。キミタチは口直しだ。最後に喰ってやるよお。」
そこに、ちょうど和人が駆けつけた。
「おい、怪物。なんなんだお前?」
「怪物なんて、ひどいなあ。僕は、おにぃ。伸びる鬼と書いて、「伸鬼」だよお?」
「そうか。」やはり、人間では無いか。当たり前か。
「お前は、名乗らないノお?」ああ、そうだったな。
「僕は人間。人の子だ。そして、天才数学者、今日からは仮面ライダーマスだ。」伸鬼が、ゆらりとゆれた。どうやら笑っているらしかった。
「自分で言うかなあ、そう言うの。あのね、カズで攻撃は出来ないんだよ?」カズ、か。
「それが、出来ちまうんだよな。」
鈍く光るそれを、腰につける。すると自動的にベルトが伸びて、固定された。レバーを起こす。「クエスチョン!」あたりに声が響く。ベルトの声だ。「Y!X!」三つある四角の、両端が埋まる。レバーを上からたたく。真ん中の四角の中が回って、文字が出てくる。レバーの曲がった部分を引き上げてまっすぐにする。「イコォール!」音楽が流れてくる。「変身!」左手で横向きに殴って、レバーをもう一度倒す。「アンサード!」声が、耳の奥でワンワンとこだました。「マス!プロポーション!」見た目が、変化した。まるで、そう、パワードスーツでも着てるみたいだ。そう、それが、国からの依頼だった。国の物になるはずの発明品、パワードスーツ。それを、自分が今使っている。なんとも奇妙な感じがした。
「見た目と、強さは関係ないよねえ。」伸鬼の右中指が凶悪に伸びてきた。
「先手必勝ってえ、知ってる?」どうやらつかもうとしているようだ。捕まえたあとで、ボコボコにするつもりなのだろう。僕はそれをジャンプしてよけた。
「あらら、とぶねえ。見掛け倒しではなさそお。」そういうと、手のひらの口を大きく開けた。その中には、目玉のような物がついている。黒目は無く、金色の中に黒い線が一本入っているだけだ。猫みたいな目だ、と思った。そして、周りの白目。それが、充血して真っ赤になっていた。
「鬼砲ぉ」そう伸鬼はつぶやいた。
ドゴォ!巨大なビーム砲のようなモノが、手のひらから放たれた。ビルの残骸が、蒸発している。かろうじてよけた和人は、それを見て真っ青になった。
「マジかよ。何でもありか鬼ってのは。」
伸鬼の腕が、ウネウネと複雑に波打っていた。いくらでも好きな方向に曲げれるようだった。
「そうか、」和人は思わずつぶやいた。「関節が無いんだ。」それはもう、腕と言うより肩から突き出た鞭だった。いろいろ危険な特典付きの。
「冷静をぉよそおっていられるのもお、今のうちい。次は外さないよお?」右手の目も、左手の目も、真っ赤に充血していた。マズい!和人は、ベルトのボタンを押した。
「ウエポン!グラフ」体の周りを回るx軸とy軸が直角に交わったそれを、左手でとった。それの軸を引っ張る。中心の四角が回転する。「コアチェンジ」+が現れた。
「プラス!シールド!」グラフが変形した。
「死ねえ!」鬼砲が飛んできた。
「フフ。死ね、死ねえ、死んじゃええ!」巨大な爆発が起こる。その中から、和人が出てきた。
「その盾え、じゃまあ!」指が伸びて、盾を奪い去ろうと躍起になって踊っている。
「コアチェンジ」和人はつぶやくと、四角を二つ回した。今度は✖が現れる。
「マルティプリケーション!ダガー!」グラフが、卍の反対型になった。次々と、指を切り裂く。ぼとりぼとりと落ちては、黒い煙を上げながら、静かに消えていった。
「おのれえ!おのれおのれおのれえ!怖いのはあ、お前だけだあ!痛いのはあ、お前だけだあ!お前が邪魔をしなければ、餌にありつけたというのにい!」男と親子は、とっくに逃げ去っていた。
「オマエのせいだあ!肉を食わせろお!」本体の顔の口から、つばが飛んできた。それをよけると、モノにぶつかった瞬間爆発していた。(よけたら被害が広がる!)
「コアチェンジ」グラフの四角を、もう一つまわした。
「ディビジョン!ランチャー!」次は÷になった。グラフが変形する。「うるぅぁああ!!」ツバをミサイルが迎撃した。
「な、何だそれは!?」どうやら、すっかりこの武器におびえてしまったようだ。
「パトリオットミサイルって奴?」そう言いながら、今度は本体に向けてミサイルを飛ばした。
「そうはいくかあ!」長い腕がミサイルを横からつかんで投げ返してきた。それをよけると、その先に伸鬼の手のひらがあった。大きく裂け、赤々とした口が見える。目は、笑っていた。
「食らええ!」僕はその目に、グラフの先端を突き立てた。
「ぐあああ!」伸鬼が叫ぶ。そして、その状態からゼロ距離でミサイルを撃った。
その声は、声も叫びも通り越して、耳障りな咆哮となって消えた。
「これで、右手の鬼砲は使えんだろ。」
「くそう、くそう!」伸鬼が呼吸を荒くした。
「負けてたまるかあ、鬼があ。人間の数如きにい!」伸鬼が、体全体を膨張させた。ミサイルを、その腹に撃つ。すると腹が引っ込んで、代わりに背中がグイーンと伸びた。「効かないよう!」ミサイルを、トランポリンのようにはね返した。
伸びる体か。厄介だな。
「コアチェンジ」四角を2回まわす。
「プラス!シールド!」僕はその盾を体の前に掲げて、突進した。
「うおお!」グイーンと伸びる。
「ムダだよお?」上から伸鬼の声が聞こえた。どんどん伸びていく体に対して、少しづつだがカクジツに速度も落ちてきている。それでも。
「ムダなことはしない主義だ。」そのままどんどん伸びていく伸鬼。
「はは、は、ははは!気でも狂ったか!所詮天才も、人間だというわけかあ?」
「ウルセーよ。」そうして、伸鬼ののびが、やがて止まった。「っがはあ!」血を吐いた。鬼の血だ。鬼の血も、どうやら赤いようだ。バチンと体が縮まって、伸鬼が飛んできた。
「ど、どういう、事、だ?」伸鬼の後ろには、崩れた壁。
「後ろに遮るモノがあれば、伸びられないだろう?」
「・・・クソ、クソォオオォオォォオ!」腕を目一杯に伸ばした。それを体に巻き付けて、戻す勢いでぐるぐる回り始めた。
「全部、全部破壊してやるう!鬼の力をなめるなよお!」その言葉通り、鬼の力はすさまじかった。ビルを、家を、それ以外を、粉々に砕き始めた。
「さすがに、マズいな。怒りで我を忘れてしまっている。」ぐるぐると回る伸鬼は、もはや狂気にすら見えた。
「みんな、みーんな、壊れちまえ!僕を馬鹿にした奴も、僕を侮っていた奴も、僕を見なかった奴も、傷つけてきた奴も、みんな、みーんないなくなれ!」
「ハア。」グラフが、一つ回転した。
「コアチェンジ」
「マイナス!ソード!」グラフが変形する。日本に分かれて刀になる。
「はっ!」切り裂くようにして、大量に攻撃した。すると、反対側から斬擊が飛んできて、伸鬼は腹を突き出す格好になった。
和人は、ベルトのボタンを押した。
「ファイナルアンサー!」スコープみたいな十字が出てきて、伸鬼をロックオンした。さらに右上がりのY=Xの線が足され、そしてそれが伸鬼のど真ん中に原点が来るようにしながら横向きに回転移動した。
「ハアア」足に力をためる。
「コレクト!」飛び上がり、線の上に乗る。そして伸鬼めがけて蹴りを放った。「ぐあああ!」火花が散る。
「覚えとけ。数式で解けない解なんざねえんだよ。鬼だろーが何だろーが、まとめて解いてやる。」伸鬼が、爆発した。
「政府は、この怪物が自分のことを{鬼}と称していたことを発表しました。学者達は・・・」
「それ、何のニュース?」和人はナナに話しかけた。
「昨日の怪物について。仮面ライダーマスだってさ、カッコイー。数学だよ数学、ねえ、カズ君とどっちが上?」ナナは、どうやら何も知らないようだ。
「互角かな。」うっそー、とナナが言った。
「いっつもは自分の方が上って言うくせに。変なもんくった?」
「天才が?」
「じゃあ、毒にやられたんだ?」
「こんなとこにそうそう毒なんざネーよ。」
「じゃあ、熱があるとか?おでこくっつけたろか?」
「やめろ。頭がおかしくなった前提で話すな。」突然、ナナが笑い出した。つられて、僕も笑った。久しぶりに、盛大に笑った。
ごめんよ、ナナ。嘘をつくのはつらいけど、迷惑をかけるのはもっとつらいから。全部終わったらはなすから。きっと、きっと話すから。だから、それまで、待っていてくれ。
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