「まあ、君も私たちも超能力者では無いからね。被害ゼロとは、さすがにいかなかった。」
ここは、防衛省の本部。そう、あの時、変身ドライバーを持ってきたところだ。
「確かに、その通りです。事前予知なんて出来なかった。」
たまたま、今回は僕が道具を持っていたから良かったが、使い方を分かっていない人がもっていたら、もっと大変なことになっただろう。
「我々が怪物の存在を察知したのは、被害が出てからだ。おそらく、君が怪物の元に駆けつけるまでにも、被害者が出ただろう。そこで、だ。」
マズい。この話し方をするときは、大抵面倒なことを押しつけてくる。
「君に、鬼の出現予測装置の開発及びそのパワードスーツの正式な使用人になってもらいたい。」
やっぱり。本音を言えば、かなり面倒だ。
「僕よりも屈強な人がいるでしょう?」自分で作ったモノにもかかわらず、僕はこれが怖いらしかった。
「君以上に数学も正義感も併せ持っているならそうするがね。それに、君には実績がある。」
確かにそうだが。
「正義感ってどういうことですか?」そんなモノ、全くといって良いほど覚えが無い。
「君は、三人もの命を救っているではないか。」
僕は、それ以上は反論しなかった。
「ニュース7の時間です。連続的に農家が襲われる事件について、今日で四件目となりました。警察は、同一犯の犯行とみて、操作を続けています。」
カランカランとドアが鳴った。「ただいま。」
「あ、お帰り。ねえねえ、カズ君知ってる?駅前に新しいお店がオープンしたんだってさ。」
そんなの、聞いたことが無い。「どんな店?」ライバル店になりかねんモノはぶっ潰す。
「なんかさー、それがすごいらしいよ。確か、「励まし屋」ジョーキみたいな名前だったと思う。」
励まし屋?何だそれ?マッサージ店か何かか?とにかく怪しすぎるだろ。その上、なんか店って言うよりあだ名みたいだし。余計怪しいんだけど。
「それ、何円かかるの?」店のことも、仮面ライダーのこともあるから、あんまり費用を割きたくない。まあ、単に僕が生来のドケチだって事もあるけど。
「カズ君ってさあ、ドケチだよね。」ほら言われた。
「よく言われるよ。」本当によく言われる。特にナナに。
「消費税が25%になってから、お菓子は全部駄菓子屋で買ってるし。何でなの、計算しすぎとるんじゃない?」
計算しすぎたらドケチになるとは、新しい斬新な仮説だ。今度防衛省の人に言ってみよう。
冗談はさておき。「で、何円かかんの?」
「えーっと、ちょっと待ってよ。」ナナはそういうとどこからかチラシを引っ張り出してきた。
「初回の方に限り、無料キャンペーン実施中だって。良いじゃん、いこうよ。」
初回限定とは言え、無料なのか。まあ、損しないだけ良いか。「分かった。今度の日曜は開けておく。」
ナナは笑顔になった。「さっすが、ドケチ。」
「ウルセーよ。」
ナナは、そう返す和人に悟られないよう、心の中で願った。
(どうか、これでカズ君がいつも通りに戻りますように。)
彼女もバカでは無い。何年も一緒にいる幼なじみの様子がおかしいことくらい、分かっていた。
(それと、まだ変わんないんだね、その癖。嘘をつくとき声が三分の一くらいになってるよ。だから、昔から嘘が下手なんだ。)
「有り難うございました。次の方どうぞ。」その声で、僕たちは励まし屋なるものにはいった。
「二人とも初めての方ですね。さあ、お座り下さい。」お兄さんが、そう言って椅子をすすめた。
店内は、予想とは大分違った。いかにも怪しい「ザ・魔女」みたいな感じではなく、市役所の会議室をそのまんま小さくしたみたいな、清潔な見た目だった。
「さあ、お悩みごとを言って下さい。」お兄さんが顔面に営業スマイルを貼り付けながら言った。
「あの、ここはどんなお店なんですか?何をしているんですか?」部屋の見た目如きには、惑わされなかった。
「ああ、ここは皆さんの負の感情を取り除いてやってるんです。だって、恥ずかしい、悲しい、苦しい、そういうモノがすべてきれいさっぱり無くなったら、そのあと引きずらないですむでしょう?」
確かにその通りだが、果たしてどうやるつもりなのか。
「お兄ちゃん、疑ってるね。まあ、無理も無いけどね。」
そう言うと、お兄さんは僕の手のひらに軽くとんと触れた。とたんに、疑いの心がすうっと音が聞こえそうなくらいきれいに消えた。
「あ・・・」
「どうだい、すごいだろう?さあ、悩みを言ってごらん。」
ナナは、何が起きたか分からないと言った様子だった。
「実は、最近の事なんですけど。人のために動いた結果、何だか後ろめたい気持ちが残って。」
お兄さんはにやりとした。「そうかい。それじゃあ、手を出して。」
また、すうっと消えた。どうなっているんだと考えそうな所だが、どうしても疑うことが出来ないので、反射的に「すごい」と言ってしまった。
「お褒めにあずかり光栄だよ。」
「ね、ね、和人。」ナナが横から突っついてくる。「ホントに効果あるの?」
「ああ、あるよ。」事実、胸の中で出来ていた黒いダマが無くなっていた。
「じ、じゃあ、私もお願いします!」ナナは立ち上がりそうな勢いでそう言った。
「私、仲の良い友達が急にいなくなって、心配なんです。でも、もう8年も前のことだし。」
8年前。
「運命の日のことか?」
「うん、そう。覚えてたんだ、あのこと。」
激動の日。別名運命の日。一日にして日本人口の約半数がいなくなった6月2日のこと。また、その事件そのもの。8年前にそれを誰かが病原菌だと言って、その家族は全員強制的に収容された。そこで、僕とナナは出会った。結局違うことが分かっても、謝罪だけしかしなかった。病気は体の弱い人に好んで移るけど、噂や差別は心の弱い者を好む。政府は、意気地無しなんだ。
お兄さんは「わかった。」と短く答えると、やはりとんと軽く手に触れた。
「あ。本物なんですね、お兄さん。」
「ああ、本物だよ。だから、また悩みが出来たらここにおいで。次は有料だけどね。」
どこか含んでるように聞こえたのは、気のせいだろうか?
「続いてのニュースです。今朝8時、農場が巨大な鶏に襲われたとの通報がありました。」
「まただよ。野菜高くなるから、やめてほしいんだけどな。食べ過ぎなんじゃ無いの?」
「それなら良いけどな。もっと悪い者とかだとしたら少しマズいもんな。」
この事件は、もう五件目になるそうだ。そこへ、電話がかかってきた。
「はいはい、カシムラコーヒーです。え?カズ君ですか?いますけど。」
そう言ってわたされた電話から、聞き覚えのある声がしてきた。
「防衛省の杉山だ。至急来るように。」それだけ言うと、電話が切れた。
「悪いけど、ちょっと行ってくる。」
「え?どこに?」ナナが振り向いて聞いてきた。
「忘れ物したの。じゃ!」
「あ、ちょっと!」バタンとドアが閉まる。「本当、嘘が下手なんだから。」
「例の鶏に、角が生えているとの情報が手に入った。襲われているのは、東京都内で売り上げが高いところから順番に襲われている。次は銀座の高田家の農場と思われる。夜にしか現れないので、張り込みをしてくれ。」
それが杉山の言ったことだ。「全く、良いようにこき使って。」
すると、温室のガラスが割れる音がした。「ケェ~!!」という鳴き声。そして角。
「おい、お前ら!こんな所を何で襲うんだ?」そう言うと鶏の群れの後ろから人が歩いてきた。
「負の念を集めるためさ。」そう答えた人の顔を見て、一瞬固まってしまった。
「あれ、昼に来てたお客じゃん。フーン、君がマスか。」
励まし屋のお兄さんだったのだ。ただし、角が突き出ている。
「お前、何であんな店をしてた?まさか慈善活動では無いだろう?」
は、まさか、面白いジョークだねとお兄さんは返してきた。
「鬼が何から出来ているのか知っているかい?君たち人間の、心の闇から出来ているそうだよ。」
お兄さんはそう言うと、片手をさっとあげた。鶏の鬼が生まれる。
「心の闇を集めてたのさ。金にも、たっぷりと染みついていたよ。」
それで、金を持っているところを襲っているのか。
「何で農家なんだ?」
「鶏の仕業だと、ごまかせるだろう?」
かなり、頭が良い。だが、僕ほどじゃない。
「おいおい、ずいぶん豪語するねえ。」
え?声に出していないのに。
「私は{高鬼}情鬼。感情の鬼さ。高鬼ってのは、まあ鬼にも社会はあるんだよ。部長みたいなものだ。」
「それで、感情を読み取った。そういうことだな?」
「ご名答。だから私は君の弱点を知っている。」
弱点?何のことだ?
「伸鬼はね、人間の形をしていたろう?」
え?まさか、あのときー
「そう、その予想であってるよ。善良な人間は人間を殺せない。人型もね。」
心臓が、ものすごい音を立てる。肺を鷹に握られているみたいで、息が詰まりそうだ。
「それでも・・・助けると決めたんだ。」僕はベルトを着けた。
「クエスチョン!Y!X!イコォール!」
静かな夜を、切り裂くように音が響く。
「マス!プロポーション!」
「行け」情鬼が言うと、鶏が襲いかかってきた。なんなんだこいつらは。
「低鬼。底辺の鬼さ。高鬼になると、部下を与えられるんだ。だけど、自分で作れるからいらないと言ったのさ。」
それで、今までためていた闇を鬼に変えているのか。
「伸鬼は中鬼だったから部下がいなかったけど、私は数の暴力なら、負けないよ?」
鶏が突進してくる。
「ディビジョン!ランチャー!」
僕は次々と鶏を撃ち抜いた。
「マルティプリケーション!ダガー!」
「くらえ!」僕は全力で投げつけた。
「フン」情鬼は鬼を出して攻撃を防いだ。仲間を盾に、という奴だ。
「今度はこっちから仕掛けさせてもらう!」情鬼の足下から出てきた黒いうねる物が、こちらに伸びてきた。
「プラス!シールド!」
僕はその刺そうとしてくる何かをそらした。
「闇だよ。」そういうと、人差し指をくいっと曲げた。
後ろから、闇の爪が飛んできて、肩をかすめる。
「ぐあっ!」あまりの痛みにゴロゴロと転がって、やがて止まった。
「惜しい、もう少し下か。」情鬼は黒い爪の軍団をこちらに飛ばしてきた。
ああ、視界がぼやける。かすっただけでこれだ。肉体的なダメージより、当たった瞬間いろんな人の「闇」が僕の中に入り込んできた。その闇は、呼吸を止めようとするかのように、肺の中に満ちていった。
「次は、心臓だ。」情鬼は、楽しんでいた。
これはあくまで遊びなんだ。間違っても戦いじゃあ無い。なら、そこの隙を突けばー
「ムダだよ、全部聞こえてるよ?鬼をなめないことだね。」
畜生、どうやったら勝てるんだよこんな怪物に。
「羊鬼!」ミサイルの弾を、羊の鬼で防いだ。
「安心しなよ、ただ殺すなんて芸の無いことはしないよ?もしかしたら、死ぬより苦しいかもね。」
闇の玉が浮き上がる。
「今まで吸い取ってきた中でも、上質な闇だ。」
そういうと、情鬼は投げる構えをした。
「空っぽの器に、闇をいれれば、何になるのか?」
情鬼はそれを投げつけてきた。
「答えは、鬼。」
闇が、心臓を通る。あらゆる感情が、記憶が、入ってくる。
「鬼の仮面ライダー。良いねえ。」
この闇を追い払えば、鬼にならずにすむ。でも、到底無理だ、そんなこと。苦しくて、出来やしない。
「今までで最高の鬼になりそうだよ。さあ、誕生の時だ!」
闇が、つきまとう。僕を、飲み込もうとする。見えない怪物は、まるで世界のすべてをなめてしまおうとしているようだった。
(合理的に考えろ!こんな物打ち払えるわけが無い。なら、どうしたら良い?)
答えは、決まっている。
「うああ~!!」
僕は、逆に闇を飲み込んだ。
「な、何だと!?正気かお前は?」
呼吸が、苦しい。でも、人間のままだ。
「正気だから、お前をぶっ飛ばす。」
情鬼は、たじろいだ。
(何だと?この私が、おびえているだと?)
情鬼は、自分に驚いた。
(こいつの気迫・・・それに狂気。常人の域を飛び出している。)
「私は、それでも私は。」情鬼が、手を握りしめた。
「お前を殺す!」
両手から、闇の爪がはえる。和人に飛びかかる情鬼。
(ああ、憎い。憎くてたまらない。)
和人の影が、揺れた。そして、いつの間にか背後に回り、情鬼を蹴っ飛ばした。
「お前の闇は、そんな物か?」
情鬼は、歯を食いしばった。
「私は、お前なんかの付け焼き刃の闇とは違う!私の闇に、かなうはずが無い!」
「それを、やられ台詞って言うんだよ!」
僕は思いっきり殴りに言った。情鬼が、その拳をいなす。
「触れたぞ」
そう言って、情鬼は闇を僕から吸い取った。
「これで、お前の思考が分かる。」
「でも、何を考えているか分からないだろう?」
情鬼は、目を見張った。
「言葉が・・・すべて、数式に・・・」
ハア、と息を吐いた。
「お前と戦っていると気分が悪い。終わりにしてやる。」
僕はそう言って、ボタンに手を伸ばした。
「ファイナルアンサー!」
僕はダガーを構えた。
十字の中心に、狙いをすます。
「コレクト!」
右足を踏んで地面深くに埋めて、思いっきり投げた。赤い竜巻を作りながら、情鬼めがけて飛んでいく。
「鶏鬼!」
情鬼が低鬼を呼び出したが、吸い込まれて消えた。
情鬼の悲鳴が、体が、風に吸い込まれて、遙か上空で爆発した。
人影が水晶を覗いている。
「ほう、あれを倒すか。なかなかやるな。なら、今度はアイツをぶつけてみるかな。おい、これをわたしておけ。」
そう言って、隣にいた執事風の男に指示を出した。ただし、角が生えている。
男は黙ってうなずくと、その古めかしい箱を運んでいった。
「さぁて、かまっていこうじゃないか。」
人影がにたりと笑う。
「あのクソガキに。」
水晶には、和人が映っていた。
いかがでした?感想、アドバイス、お待ちしております。(出来れば推薦)