「クッソ、また遅れちまう!急がねーと!」
急ハンドルを切り、車が曲がる。その先に、人影が立っていた。
「うわあ!」叫び声を上げて、前転しそうな勢いで車が止まる。
「危ないだろ!自殺なんて考えるなよ!」
「自殺?ほう、自殺に見えるか。なかなか面白いことを言う。こんな生き生きとした自殺願望者を、知っているのか?ただ人間一人の処理に、動くエネルギーがもったいないというだけだ。。全くあいつらときたら馬鹿馬鹿しい、先に待ち伏せれば良いのだよ。そうしないから、肝心なところで負けるんだ。」
人影が、街灯に照らされて形を表す。
「お前は素晴らしい。素晴らしい人間だ。そして苦労を重ねてきた。今、楽にしてやるぞ。」
人影が手を伸ばす。
「どういう意味だ?」
「まんまじゃないか。お前を今から殺すんだよ。」
男はびっくりして後ずさりした。
「いや、いやだあ。これから、大事な商談がー」
そこまでで言葉は切れた。恐怖のあまり、あえいで何も言えなかったのだ。
「苦しいだろう?悔しいだろう?善人であり続けた結果が、人外に殺されるなどとあっては。さあ、たっぷり闇をだせ。」
あとには、無残な人の姿と車の影のみが残った。本来頭があるはずの所に、人影はサイコロをおいた。
「6。これの意味が分かったときには、すべて手遅れだろう。そうさ、闇は消えない。人間がいる限り、鬼も消えないんだよ。」
「全く回りくどい、もう少しシンプルにしたらどうです?」
もう一つの人影が言った。
「なあに、単なるゲームだよ。」
チラリと死体に目をやった。
「等しく死にゆく者達よ、呪いを恐れよ。死を恐れよ。」
「本当に、あなたほど手の込んだ作戦を考える者は、少なくとも鬼の中にはいないでしょう。」
「ボスを除けば、な。」
二人の男女の足音は、静かな夜の町にこれでもかと言うほど響いた。
「最近さあ、殺人事件が起きたんだって。」
ナナはビスケットをポリポリとかじりながら話しかけてきたので、粉が落ちるのが見えた。なんか、小動物みたいだ。
「それがどうした?」
「いやあ、計算でパパッと割り出せないかなあ、なんて。」
「情報がなさ過ぎる。殺人事件かどうかも分かりゃしないじゃないか。そう裏付ける確かな証拠はあるのかよ?」
「ホント、和人って堅物だよねえ。全く、そんなんだから顔面カチカチ山って言われるんだよ。」
「言われたことねえんだけど。何だそれ?」
「ああそうか、引きこもり予備軍だもんね。」
いや、ていうかまずカチカチ山はそのカチカチじゃないと思うんだが。
「ともかく、証拠はないんだろう?」
「あ、そう思う?そう思っちゃう~?」
いいからはよ教えろよ。
「んとね、顔のところがなくなってる代わりに、サイコロが落ちてたんだって。六の目が上にしてあったってかいてある。」
「それだけ?一件だろ?」
「んーにゃ、おんなじようなんが起きてんのよ、四件目なんだってさ。」
四件目・・・四件目か。それだけとなると鬼の可能性も高そうだが、しかしレーダーには反応がなかった。もちろん履歴にも、鬼が出たことを感知したことはかいてなかった。
「ま、そう思うならそれでいいと思うけどね。」
僕は、どうしても確かめたいことが一つあった。
「それ、どこのサイトで見れるんだ?」
僕は地下室に引きこもっていた。ああ、これじゃあまた笑われるな。四件目。サイコロがすべて違う面を上にしており、一般的な六面性であることから推測すると、被害者は六人までだろう。そうなると、あと二人。置かれた順番は、2-5-4-6-ダメだ。統一性がない。
罰印のついた紙をもう一度見る。あれ、これってもしかして?
番号をつなげると、できかけの中途半端な図形が現れる。
「星・・・」
思わず、絶句した。こんな幼稚な仕掛けだったとは。
コツン、コツン。張り込みをする僕の耳に、足音が響く。
「やあ。」僕は曲がり角から急に姿を現した。
「誰です、あなた。妙になれなれしいようですけれど。」
「そう堅いこと言うなよ、鬼さんよお。」
相手が一瞬、ピクリと眉を動かした。どうやら、カマカケは大成功のようだ。
「どうして、それを?私は呪いによって鬼と認識されないはず。ここに現れることもどうして分かったんです?」
「簡単だよ、図形に気づいたのさ。あとはどちらに行くにも通らないといけない分かれ道で待機すれば良いだけだ。」
本当に、簡単なことだ。
「やはり、賢いですね。ですが、そんな賢いあなたも、この方までは殺せないでしょう?」
鬼は、もやをまとって、その中からナナの姿で出てきた。
「変鬼。変身の鬼です。」
「少々、厄介だね。」
「マス!プロポーション!」
僕はいきなり飛びかかった。
「フン!」
何度も拳を浴びせる。
さあ、とどめだ。
「カズ、お願いやめて!」
ピタッと一瞬手が止まった。
「ハッ!」僕は蹴っ飛ばされた。
「ずいぶん甘いな。さすがに血液までは数式で出来ていなかったらしいな。」
くそったれが、もう一回だ!
「きゃあ!」
ぐ、う・・・
「チョロい!」また、吹っ飛ばされる。この野郎、調子に乗りやがって。
「でりゃあ!」
「ひっ!」
ぐ・・・いや、殴る!
「遅い!」
「うあああ!」結局また蹴っ飛ばされた。
「ずいぶん思い入れているじゃないか、初恋か?」
「そんな良い関係じゃないさ。現実ってのは、ロマンチックにはいかない物なんだってじいちゃんに教わらなかったか?」
「私に祖父はいない!」
「そりゃ失礼!」
僕は殴りにかかった。
「きゃあ!」
「あいにくと同じネタは2度と通用しない!」
今度こそ、本当の悲鳴を上げた。
「もう一発いれてやる。」僕自身がされたように、僕は変鬼を蹴っ飛ばした。
「さあ、その腹にしこたまぶち込んでやる。」
僕はひたすら殴った。殴り続けた。そうしないと理性が持たなかったのだ。
「ぐ」とか「う」とか時々うめいては、反撃しようとしてきたが、すべてむなしく終わった。
これでとどめ。そう思ったときだ。拳が止まった。殴れなかった。
蹴っ飛ばされて、仰向けに転がる。「最後の最後まで、甘い奴だ!」
そういう変鬼の拳も、なかなか降りなかった。
「どうした?」
突然変鬼は泣き出した。
「無理だよ。こんなに悲しい思い出、苦しい思い出、楽しい思い出、見せつけられたら・・・カズ君。」
正直、驚いた。記憶までコピーしてしまったようだ。
「なら、和解できないか?共存は出来ないのか?」
僕も、ナナの姿をしたモノを殺したくはない。
「そうですね。そうすれば、私もあなたも、平和に生きられますものね。」
ああ、良かった。これですべてが終わる。誰もしなないー最高じゃないか。
「とでも言うと思ったか?」
へ?
「私は鬼だ!兵器なんだ!たとえこの身が滅びても、一人でも多くの人間を殺す!それが使命で、生き様だ!」
「ーそうか。」
僕は、少しずつ歩み寄った。
「さあ、死ねっ!死んでしまえ!でなければ殺せ!」
「ファイナルアンサー!」
「これが僕の、「ファイナルアンサー」だ。」
「コレクト!」
一瞬、火花が散った。変身を解除する。
「はは、無様だな、我ながら。あなたは立ちはだかった敵を倒しただけ。なのに、何故、何故ー泣くのです?」
「いや・・・何でもない。」
「こんな自分に同情してくれるなんて。あなたみたいな人間が増えれば、もしかしたら、本当にー」
そこまで言って爆発した。歯が、ギリリと音を立てた。
「共存。」
「カズ、また殺人事件だって。」
「へ?」
どういうことだ?変鬼は倒したぞ?
「それとさー、面白そうなのがもう一件だけあるよ。」
そういてナナはスマホをこちらに差し出した。
画面には、若い少年が写っている。あれ、この顔はもしかしてー
「皆さん、こんにちは。これから新宿駅を爆破します。確かな物証は示せませんが、代わりに、今から僕の個人情報をお伝えします。久賀浩人、16歳。学校は町立高山高校、血液型はー」
画面の少年は、淡々と読み進めていく。語尾を少し強める癖、この顔、年齢、名前。間違いない、すべて一致している。そんな、でもどうして?
「見ていますか、日本の「善良」なる国民の皆さん。あなたたちは僕の味方だと思っていました。でも違った、結局政府の犬だったんですね。がっかりです。」
この台詞は聞き覚えがある。やはり、そうなのか。
「カズ覚えてる?」
「ああ、{運命の日}のあと、同じ牢に入れられた少年だ。」
動画は、驚いているこちら側を無視するように進んでいく。
「もう一度言います。これは、脅しではありません。冗談でもありません。三日後、新宿駅を爆破します。無理だというなら無視すれば良い。たいしたことないと思うなら罵れば良い。遊びだと思うのなら確かめれば良い。全て、出来なくなりますけどね。終わってから、後悔する。それでも知りませんよ?」
どういうことだ。あの優しくておとなしかった浩人が、爆破予告だと?いじめで強要でもされたのか?
「ー全部、吹き飛んでしまえ」
意味深な言葉を残して、動画が終わる。
「どう思う?」
「さすがに、ないな。」
僕は例によって、地下室に引きこもっていた。爆破予告、殺人事件(事故かも知れないけど)、考えないといけないことはかなりあったが、その二つによってきれいさっぱり、それこそ全部吹き飛んだ。たった二つが、重すぎたのだ。ものすごいエネルギーをもってみぞおちあたりを殴りに来る。
「ああ、これだからやっぱり、現代という奴は嫌いなんだ。」
独り言を吐くことで、感情をおさめようとした。
「気持ち悪くて、吐きそうだ。」
いかがでした?感想・アドバイスお待ちしております。(出来れば推薦)また、僕がかいた「ちょっと魔王を倒してくるわ」(略して魔っちょ)も併せてお願いします。それと、今回から次回予告をいれていきたいと思います。
「突然の犯行声明、少年の過去には何があったのか。その謎に、少しずつ和人が迫る!次回、仮面ライダーmath、「爆破予告の(X)者」お楽しみに!