別れてすぐに気が付いた。体がどっと疲れている。立てなくなって、座り込んだ。
嘘をつき続けると、心が削れるんだな。だからこそ、平気でそんなことが出来るあいつはおかしいんだ。
ギリギリだった。これ以上一緒にいたら、狂ってしまいそうだ。
自分の町に戻ってから、まっすぐにある場所に向かった。
売り地の看板と焦げた土だけが残っている。匂いはとっくの昔に流された。
ここに、一年前まで家があったなんて、想像がつくだろうか。釈放されてから、たった半年で消失したなんて。
その中に、一本の木がある。いつも寄り添って座り込んでいる。
周辺の光がうまい具合に遮られる。闇が、僕を包む。
「前に進むこと。進み続けること。」
何度でもつぶやく。狂ったように。憑かれたように。事実、僕は狂って、憑かれていた。
それに、誰もこの言葉を聞きはしない。妹の花はもういないのだ。
間違っていない。僕は正しい行動をしている。
やっと、だ。やっとあの家族と近づいた。
僕がすべてを失ったように、あいつらのすべてをぶっ壊してやる。
ポケットから、押し花のカードを取り出す。枯れたオオアマナがラミネートされていた。
僕らは、潔白だった。潔白で、純粋だった。きれいすぎて、汚い人間を知らなかったのだ。実際にいると思っていなかったのだ。
今にも壊れてしまいそうな心を、爪がめり込むくらい必死でつかむ。
僕は前に進む。進み続ける。
ここが、黒焦げの闇の中でも。
(現代にて)
新宿はパニックに陥っていた。誰もが冗談だと思い、真に受けていなかったテロを久賀浩人はやってのけたのだ。爆破予告は、もはや信じざるをえなかった。被害者の数、爆弾に残りがあるか、浩人の動機は何かなど、彼の動画は注目を集め、再生数をものすごい勢いで伸ばした。
新宿と名がつく駅すべてがふさがれ、数百万人が足止めを食らった。
爆破から約1時間だ。
ここぞとばかりに、SNSやニュース番組は不確かな情報を発信したりはやし立てたりしてもうけようという魂胆が丸見えだった。
けが人は出たようだが、今はまだ死者の報告は無い。
爆破から1時間後、和人のケータイに着信が入った。
「防衛省の杉山だ。久賀浩人を知っているというのは本当か?」
何で、こいつがそんなこと知っているんだ。
「知っていますけども、あなたは警察では無いでしょう?」
「私の知っている情報を話す。だからそちらも情報をくれ」
「電話で話せる内容なんて限界がありますよ」
「天才サンは大変だな」
これ以上は、言ってもムダだろうな、全く。
「爆破されたのは、新宿駅中央線のプラットホーム。スーツケースが爆発した。不審物を探していた駅長が被害にあった。今話せるのはこれだけだ」
「監視カメラの映像は?アップロードされたデバイスから逆探知は出来ないのか?」
「監視カメラは検査中だ。接続経路は匿名化してあるから難しいな。」
やはり直接会って話を聞くべきだったか。どうせ報道される物ばかりだ。そのくせ、図々しくも浩人の情報を言え、とせかしてくる。まったく、政府の連中はやっぱり自己中だ。
でも、言うしか無かったので、仕方なく情報を語った。
最初に会ったのは三年前の牢屋で、最後にあった記憶があるのは八ヶ月ほど前。だから少なくとも七ヶ月前からは消息が不明だと言うこと。最後に会ったのは少年犯罪被害者の会でのこと。その会には、少年犯罪に強い興味を持つ人、擁護法に疑問を抱く人などが訪れ、空中歩道を使えば子供でもいけるが、子供はあまり来ないこと。そして、少年犯罪の被害者であること。
彼は両親が忙しいため、妹、祖母、祖父の三人と一緒に暮らしていた。育児が出来ないからと、祖父母の家に引っ越させたのだ。彼の心の一番の支えは妹だったこと。祖父は五人の少年に暴行されて死亡したこと。その原因は車道での火遊びを注意したこと。そして、六ヶ月前あたりには、すでに様子がおかしかったこと。
「分かった。引き続き情報を入手したら連絡するように。」
それはこちらの台詞だ。ろくなもん教えなかったくせに。
ため息をついて、少々乱暴に電話を切った。
「まーたため息ついてる」
「悪いかよ」
「まあ、でも本当にやるせないね、浩人君の人生」
「浩人『君』はよせ」
あくまで犯人である彼に、同情してはいけない。
「しっかり調べて、助けてあげないと」
どうやら調べる前から浩人は悪くないと決めつけているようだ。
「あまり私情を挟むなよ」
「なによ、私情で裁判したくせに」
「まだやってない」
「『まだ』でしょう。わかってるんだから、いつかはやるつもりなんでしょう」
「はいはい」
「誰かいないの?容疑者は?」
「アポを取った」
「よくとれたね」
素直に感心した目つきでこちらを見た。
「向こうとしては、応じるしか無いんだよ。変に疑われないためにな」
和人は、あの会の常連から話を聞いていた。
『六ヶ月前に、国会議員に怒鳴りかかった』という。
あのおとなしくて優しかった浩人を知っていると、全く想像がたたない。うめくしかなかった。
見るからに高級そうな車が目の前で止まった。秘書っぽい男性に持ち物は片っ端から取られた。どうやら録音はダメらしい。
「適当に走らせます。ここで話しましょう。」会津は二人が乗ると車を走らせはじめた。窓にはカーテンが掛かっている。
「率直に尋ねます。これからの話を、あなたは記事にするつもりですか?」
会津は不意に口を開いた。
「記事にされたら困るんですか。」
「困りますとも。テロリストが強く罵倒した国会議員なんて、誰が信じるんです?」
間違いないだろうな。少なくとも、マスコミはこの手の記事が大好きだ。でないと国会議員が一個人に会おうとするはずがない。
「嘘の記事を書いたりしないで下さいよ」
「ええ。真相の究明が目的ですから、人気稼ぎではありません。」
僕が知りたいのは、テロの目的だ。
「教えて下さい。浩人は何故、あなたに怒鳴ったのです?」
「擁護法です」会津は即答した。
「正確には、加害者を野放しにする法律を作った政治家への怒りですね。彼は非行少年によって家に放火されてるんです」
「なんで浩人君の思いをくんであげないんですか?」横からナナが割っていった。
「かわいそうじゃないですか。少数意見はどうでも良いんですか?それでホントに政治家ですか?」
「やめろナナ」
「どうして止めるの。浩人君が嫌いなの?」
「ちがう。こういう場面でかわいそうとかそういった精神論は弱いんだ。一人のために他の人を犠牲にしろというのかって言われたらそれで終わりなんだから」
「・・・それでも、やっぱりかわいそうだよ。厳罰化しなきゃ」
「してきたよ、これまでに何度かは」
これまでに擁護法は細かく姿を変えてきた。
「よくご存じですね。調べたんですか?」
「少々興味があったので。今まで何度か変わったが、いずれも大きな動きは無かった。変わったのは二、三回だけ」
「なんで?」
「無意味だからだよ。非行少年が成人して再び悪事に手を染めると言うことが年々減ってきてるんだ」
「人口減少しただけじゃん」
「パーセンテージ的にも、減ってきてるの。だから大きく変えると言うことはリスクが大きい。厳罰化すると再犯が起きる可能性をあげてしまう。リスクしか無いから、無意味なんだ」
会津は頭をかいた。「これでは私の出る幕はありませんね。ただ、浩人君がかわいそうだというのは同感です。これからも、厳罰化を目指していきますよ」
そこまでで下ろしてもらい、会津と僕らは別れた。
「さて、ちょっと暴れるか」
「秋葉原にでも爆弾を置く気で?」
「何の話だ。ちょっと待ってろ」
僕はスマホのアプリを起動した。
「何してんの?」
その声に重なるように影が通り過ぎる。
地面に赤い光が映る。「何これ?」
「来るぞ。離れてろ」
上から四角の箱が振ってきた。ドシンとは言わず、ぼふんと柔らかい音で落ちてきたそれは、落ちた直後に開いて中からバイクが出てきた。バイクは横に車みたいな物をつけている。
「これで暴れるの?」
「いや、物理的には暴れねえよ。こいつで捜査するのさ。探偵ごっこの続きだよ」
「でかした、数学デカ!」なんじゃそりゃ。
「初めの容疑者は?」
横の車からナナが突っついてくる。
「かなり有力な人物だ、かなりな。」
「どういうこと?」
僕は写真を見せた。「放火の実行犯。高田陽生だ」
家の前には、すでにパトカーが出ていくところだった。しまったこされたか。
「すみません、陽生君はいます?」
「なんなんだあんた達は。子供が外を出歩いたら犯罪なんだぞ」
どうやら父親のようだ。「少年数学者として国から正式に認定されている、改正和人を知らねえたあ良いご身分で。」
父親は目を見張った。「君があの・・・」「いや、こっち」
父親は廊下を駆け戻った。「すぐに呼んでくる」
僕は肘で小突いた。「勝手に人の名前を名乗るなよ」
「あいやそれぁごぉめぇあぁそぉあぁせぇ~!」
「馬鹿にしてる?」
「いや、毛頭もーあるけど」
「ぶん殴るよ?」
「あ、来た!」誤魔化しやがったこいつ。
「何のようなんですか?」
「浩人がここに来たと聞いてね。何を話したんだい?」
おずおずと陽生は座った。「ここに来て、話があると言われて・・・公園の木の下まで連れて行かれて、話し合いをして分かれました。」
「何も怒鳴ったりしなかった?」
「はい」
嘘だな。そんなわけがない。
「ほら、息子はこう言ってる。警察も納得したんだ、帰った帰った」
「あなたは、浩人を知らない。彼は国会議員相手に怒鳴ってるんです。実行犯を目の前にして、話し合いで終わるわけが無い」
陽生は押し黙った。もうちょっと圧をかけるか。
「考えてみて下さい。ここで何も話さなかったら、余計に疑われるんですよ?」
依然として黙ったまま。仕方ない、あまり好きでは無いが嘘で突破するか。
「いいですか。今自白してしまえば、罪状は軽くなります。法律にも書いてあります、『個人の利益を顧みず、社会貢献に尽くした者は可能な範囲で擁護される』と」
もちろん、全部嘘っぱちだ。でも相当効いたようだ、1度うなだれると背筋を伸ばして話し始めた。
「あいつに公園に連れて行かれた後、脅されたんです」
陽生の話は、要約するとこうだ。包丁を持った浩人が、『自分からすべてを奪ったお前のすべてを奪ってやる』と脅迫した。陽生は、あの放火事件には黒幕がいたんだと必死に弁解した。それは誰かと聞かれたとき、彼は上田弘海と答えたそうだ。
僕は目を見張った。その名前を知っているのだ。忘れるわけが無い、あの凶悪犯を。
「先輩は僕に言ってきました。『ある人からもらったタバコだ、ライターでこいつに火をつけろ。あの家の裏にガソリンの入れ物があるから、キャップを緩めて導火線代わりを作れ。そしてたばこを放るんだ。なに、擁護法が守ってくれるよ。ここに酒がある、酔った勢いでやってしまったといえ。そうすればお前の罪は軽くてすむ』と。でも、その後で知ったんです。そんなに甘くなかったって。細かい決まりを知らなくて、僕は怖い言葉をたくさん聞きました。少年院を出てから、後悔ばっかりが残ってるんです。あんなことのために、あんな人のために」
病んだ人のように、両手で顔を覆い、ギラつく目だけを覗かせてうつむいている。そうだ僕は悪くない、先輩が悪いんだ、と何度も繰り返す。
「最期に二つ聞きたい。その先輩は、それ以前に誰かを殺していなかったか?」
「はい、そういえばそんな話を聞きました。新宿の駅前で、当時12歳の人を殺したって」
「名前は?」
「野田トウコっていってました、確か」
やっぱりか。
「もう一つは、先輩の居場所を知らないかい?」
「それは分かりません。事件依頼、音信不通で」
またブツブツとつぶやきはじめる。
「ごめんよ、最後って言ったけど、もう一つだけ聞かせてくれ。もし法律をきちんと理解してたら、君は放火したかい?」
「そんなの決まってる。やるわけ無い。」
怒鳴ろうとするナナを片手で制す。それでも、お前はやったじゃないか。被害者は出た、命は戻らない、時だって戻らない。お前はそれを理解しているのか?多分、ナナも同じ事を考えたのだ。
少し意地悪な考えが浮かんだ。とどめを刺してやろう。
「浩人は、裁判を起こすと言っていたよ。僕も手伝う約束をした。金の用意をしておくことだ」
陽生の顔から、精気が消える。ざまをみてればいいんだよ。
「ありがとうございました。お邪魔しました」
あっけにとられた父ととりつかれた息子を残し、僕たちは外に出た。
しばらくしてから、父親の怒鳴り声が聞こえた。
「お前なんかに金を使うか!慰謝料も学費も生活費も全部自分で払ってみせろ!」
あの親子には言わなかったが、慰謝料を払わない加害者は非常に多い。時効まで逃げ切るのだ。
いやになってくる。人に罪をなすりつける上田も。無知のくせして軽い気持ちで人を殺した陽生も。金を払おうとしない、被害者への慰謝料すら出さないと言った父親も。
「人間は、これだから嫌いだ。犬畜生なんて言うけれど、犬の方がよっぽど平和で賢いじゃ無いか」
「カズも人間でしょ?」
「ああ、だから僕は僕が嫌いだ」
{同時刻、ある場所にて}
男が水晶をのぞき込んでいる。「どうやら君の計画は計算外が起きたようだね」
「良いですよ、これはこれで。どうせ人間社会を引っかき回すことが目的なんだから」
「そういう意味では、期待以上かもね」
水晶の上の和人に微笑みかける人影。
「どうだい、憂さ晴らしは満足かい?」
「いえ、まだ終わってませんよ。しかしそれにしてもニンゲンは便利ですね、金と口車だけありゃ乗ってくれる」
人影は廊下に足音を響かせながら去って行く。
「さて、そろそろだね」
残された人影は、水晶の映像を変えた。その中に大きく映される、『GOD』の文字。
「もう一人の仮面ライダーが、完成する頃だ」
太陽すらも瞬間冷凍してしまいそうな笑みを浮かべて、人影は水晶の映像を消した。
いかがでした?感想・アドバイスお待ちしております。(出来れば推薦)なお、ちょっと魔王を倒してくるわ(略して魔っちょ)も併せてお願いします。
次回予告「浩人の過去、そして決意ー和人はどう動くのか?次回仮面ライダーmath「浩人の過去は(X)に」お楽しみに!
オマケ 和人からの挑戦状
ある男が言いました。「ここに錠剤と水の入ったコップが二つずつある。片方は無害、もう片方は有害。どっちか選ばしてあげるよ」男は毎回生き残りました。さて何故でしょう?答えは下
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答え 水に毒が入っていたから