第一話 新たな挑戦
「親善試合……ですか?」
ミニゲームをおこなった翌日の放課後。
練習開始前に急遽ミーティングをおこなう事になった俺たちは、雷門中サッカー棟のミーティング室で、テレビモニターの前に立つ円堂監督からそのような話を聞いた。
「ああ。これは少年サッカー協会に正式に申し入れがあった話だ。とある海外の強豪チームが、日本一の中学との試合を望んでいるらしい」
「日本一の中学と言ったら……」
「まあ、俺たちの事だよね」
円堂監督の言葉に、速水センパイと浜野センパイが言葉を漏らす。
確かに、今年の中学サッカー日本一を決める大会、ホーリーロードで優勝したのは俺たち雷門中だ。
まあ昨年は準優勝だったわけだから、今年に限って、と言うのが付き纏うが、それでも現王者なのには変わりない。
ーーーしかし。
「時期的にも、いきなりの話ですね。今までも海外チームからそのような申し出が無かったわけではありませんが、大体は全国大会が終わってすぐにおこなうのが通例だったはず。今年は色々とありましたが、それでももうあれから何ヶ月も経っていますよ?」
そう。それに確かここ3年ほどは、そのような申し出も無かったはずだ。
「まあ神童の言う通り、今年は聖帝選挙の影響で中学サッカー界にとっても大きな変革期ではあった。ただ、それを踏まえても、この時期に申し出をする相手の意図は俺にもわからん」
「この話……監督は受けるんですか?」
「それを決めるのは俺じゃない。勿論、時期が時期だけに少年サッカー協会の方も強制はしないらしいが、やるかやらないか、決めるのはあくまでお前達だ」
「ワシはどちらでもええが……」
「相手がどんな思惑かもわからねーからな。安易に決めるのもダメだと思うぜ」
「で、でも、断ったら日本サッカー界の印象悪くしちゃいませんかね……?」
皆が思い思いの意見を出す。
そんな中、腕を組み悩んでる様子であった神童センパイが俺の方を向き、口にする。
「……天馬、このチームのキャプテンはお前だ。お前の考え、意見に俺は従うつもりだ」
「……そうだな。俺もそうするよ」
と、神童センパイの言葉に続き、霧野センパイも同意する。
その言葉に皆同意なのか、皆の視線が俺に集まる。
俺の……考え。
確かに、色々と不審な点はある。いきなりの事だし、相手側にどんな意図があるのかはわからない。
でも、それでも俺はーーー。
「ーーー俺はこの試合、やりたいです!」
俺は円堂監督を、雷門の皆を見て、自分の思いを話す。
「確かにいきなりの事で混乱はしますけど、でも、俺は世界に自分たちのサッカーが通用するのか試したい!世界のサッカーがどんなモノなのか見てみたい!きっとそれは、体験してみないと分からないんですよ!今、世界のチームと戦えるチャンスがあるなら、どんな思惑があっても、俺は試合をしてみたいです!」
「……うん、うん!僕も世界がどんなシュートを撃つのか見てみたいし、自分がそれを止められるのか試してみたい!やろうよ、天馬!!」
俺の言葉に信助がそう同意してくれる。
そんな俺たちの様子を見て、周りも同意するかのように笑みを浮かべる。倉間センパイや狩屋はやれやれと言った感じだけど……。
「……ま、天馬くんならそう言うと思っていたよ」
「ったく、こっちが色々と考えてたのが馬鹿らしくなってくるぜ」
……ま、まあ表情は悪くないから大丈夫だよね?
「良し!じゃあ少年サッカー協会の方には試合を受けると言う事で話を進めるぞ!……但し、やるからには勝ちに行く!試合までの一週間、しっかりと調整してくぞ!」
「「「「「はいッ!!!」」」」」
よーし!そうと決まったら早速練習だ!
そう意気込みつつ、ミーティング室を出ようとした時、神童センパイが何かに気付いたようで円堂監督に問いかける。
「そういえば監督。その相手チームは何処の国のチームなんですか?」
「ああ、相手はーーー
ーーーイタリアだ」
ーSide out.松風天馬
◇◇◇
「………そうか、やはり受ける事にしたか」
「ああ。アイツら、すっげーやる気になってるぜ」
少年サッカー協会 会長室。
雷門がイタリアチームとの親善試合を受けると決めた日の夜。円堂守はここ、少年サッカー協会 会長室まで足を運び、かつてのチームメイトであり少年サッカー協会 現会長の豪炎寺修也に、直接試合を受ける旨を伝えた。
「世界の強豪チームと戦える機会も、近年あまりないからな。俺たちの世代だって、FFIが無ければそんな機会はなかったし、日本は他の国からしたら弱小国として見られてただろうしな」
「……近年、そういう申し出が無かったのも、やはり管理サッカーが良い意味でも悪い意味でも、日本全体のサッカーレベルを平均的に保っていたからだろうな。あのような管理下では、日本全体のレベルは保てても、爆発的な成長は見込めないというのは、天馬達を見てよく分かった」
勿論、サッカーが社会的地位までをも定めてしまう現状だったからこその管理サッカーだったのだが、それは個々の選手の才能までも抑えてしまう事に繋がる。
恐らく、その影響を直に受けていたのが、雷門中の神童拓人であろう。
少なくとも一年の頃の彼のままであれば、剣城京介の化身による共鳴があっても、化身使いに覚醒はしなかったはずだ。
そのきっかけを作ったのがーーー。
「ーーー松風天馬。今の私なら、彼が雷門に来て本当に良かったと思っている」
「……まあ、アイツがサッカーを始めるきっかけになったのはお前だ。今思えば、アイツが雷門に来るのも、
円堂の言葉に豪炎寺はフッ、と笑みを浮かべる。
「雷門が起こした
「………もしかしたら
そう言って豪炎寺が出したのは一枚の紙。
デスク上に出された紙を自身の手で取り、その内容を理解する。
「これは……今度のイタリアチームの選手名簿か?」
「ああ、そうだ。今日送られてきてな……監督名を見てみろ」
「監督……?ッッ!まさか、アイツが……!?」
そこには、円堂守、豪炎寺修也両名がよく知る人物の名が記載されていた。
◇◇◇
ーSide.松風天馬
ーーー 一週間後、試合当日。
『さあ!本日ここホーリーロードスタジアムでは、イタリア屈指の少年サッカー強豪チームであるチーム【ブレイブニール】と、日本が誇る名門校【雷門中】との親善試合が、間もなくおこなわれます!』
ワァァァァッと、実況者の声に続き、ホーリーロードスタジアムに集まった観客の歓声が響き渡る。
既に俺たち雷門イレブンは、スタジアムの自陣ベンチに出ており、ウォーミングアップをしながらイタリアチーム【ブレイブニール】の入場を待っている。
「しかし急に決まった試合だというのに、こんなに観客が集まるとは……」
「近年稀に見る海外チームとの試合ですからね。日本の少年サッカーの人気もあって、注目は高いんじゃないでしょうか」
10年前。第一回と称して開催された世界大会、フットボールフロンティアインターナショナルで円堂監督たち日本代表が優勝した事で、日本における少年サッカーの人気、注目度は高くなっている。
しかし、その10年前の世界大会の裏で起きた事件の影響で、数年毎に開催されるはずだったFFIも、ここ10年開催されることはなかった。
それにより日本の少年サッカーでは年に数度の海外チームとの試合でしか世界を相手に戦う機会がなく、それもここ数年の管理サッカーの影響からかパッタリと途絶えていたらしい。
とはいえ、まさかこんなにも集まるとは……。
「よーし、皆一旦集合だ!」
円堂監督から集合するよう言われ、各自アップしていた俺たちはベンチ前に集まる。
「いいか。相手のチーム【ブレイブニール】は個々のレベルがかなり高い。個々の完成度からいえば、おそらくお前たちよりもずっと格上だろう」
しかし、と円堂監督は続ける。
「お前たちはいつどんな時でも、チームで色んな修羅場を乗り越えてきたはずだ。ホーリーロード、未来での戦い、それら全部の経験使って思いっきりぶつかってこい!そして、思いっきり楽しんでこい!」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
円堂監督の言葉で、俺たちの気持ちは一段と引き締まる。
今回は親善試合という事もあり、円堂監督はあまり指示は出さないらしい。あくまで自分たちの力で、世界という相手を肌で感じてきて欲しいようだ。
「よぉぉおしッ、みんな!サッカーやろぉぉぜぇぇえ!!!」
「「「「「おおお!!!!!」」」」」
◇◇◇
*雷門中
FW 剣城 倉間
MF 浜野 神童 錦
天馬
DF 車田 霧野 天城 狩屋
GK 三国
控え 西園 影山 速水 青山 一乃
という訳で、FFI前に一戦、イタリアチームとの試合を挟みます。
(あまり詳しくないけど、親善試合でいいよね?)
次回以降から登場するイタリアチームの選手は、取り敢えず主要人物として2名ほど(センスのかけらもない)名前を出す予定です。全員がそのままイタリア代表になる訳ではないので(という建前で)
あまり長々とやるつもりはないので、2、3話もやれれば十分かな?くらいです。
それではまた次回に。