転生特典が自爆技ばかりなんだが?   作:風馬

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第五話 人の、業です!

俺が天界で邪人モードを使わない(使えない)理由を聴いたクロウ・クルワッハは興味深いといった面持ちだ

 

「面白い。全力を出せない身でありながら、この俺と対峙しようと云うのか?」

 

「別に俺一人って訳でもないし、邪人モードも最近使い始めたもので元々俺はテクニックタイプだ―――少ない力を、小賢しい技を持って戦うのが人間ってやつだろう?」

 

イッセーと同じパワーのゴリ押しタイプだと思われるのも癪だからな

 

「成程、その状態のままでも俺に届く牙が有るという訳だな?」

 

「答えを知りたかったら、拳を構えな」

 

俺の挑発にクロウ・クルワッハは凶悪な顔つきで笑みを浮かべて拳を構えた

 

そして両者睨み合って数秒後、俺はクロウ・クルワッハの眼前まで距離を詰めて未だに反応しない(・・・・・・・・)クロウ・クルワッハを全力で×(バツ)字に切り裂こうとする

 

「!! ぬっ!?」

 

そこで漸く俺の『姿』を『意識』に捉えたクロウ・クルワッハの表情に驚愕の色が灯る

 

全力で上体を逸らしつつ後退したがその胸には×字の傷が浅く刻まれた

 

「なんだ。今のは?」

 

そう言って警戒心を高めて俺のことを見るクロウ・クルワッハだが数舜の後、彼の目と鼻の先に俺の右歯噛咬(ザリチェ)の突き技が迫る

 

直前になってからの回避だけど基本性能が上だから本来躱せないようなタイミングでも首を捻って避けられてしまった

 

目玉を抉ろうとしたけど頬を切り裂くに止まったな

 

再び距離を取ろうとする俺に反撃の様子を見せるクロウ・クルワッハだけど次の瞬間シャボン玉に包まれて俺の離脱を許してしまう

 

最もシャボン玉はまた直ぐに破壊されたけどな

 

「ナイスです。デュリオさん」

 

「いや~。今はコンビなんだから当然っしょ?でも如何やったのかな?イッキ君は普通に攻撃してるように見えたし、幻術って訳でも無いんでしょ?」

 

「流石に今はノーコメントでお願いします」

 

目の前にクロウ・クルワッハが居るしな

 

デュリオさんも「御免御免。それもそうだよね」と後回しにしてくれた

 

これは主に房中術の訓練・・・訓練?の副次効果と云えるだろう

 

黒歌達・・・即ち他者のオーラを俺はそれはもう真剣に繊細に精細に感知しているので黒歌達程でなくとも他人のオーラに対する感知能力はまた上昇しているのだ

 

そんな中で敵対する相手のオーラの揺らぎと云うか波長みたいなものが鎮まる無意識の瞬間を狙って距離を詰める―――激しい攻防を繰り広げている時には無理だが先程のようにじっくりと対峙している時に訪れる相手の無意識に踏み込むのだ

 

落第騎士の世界で使われている歩法の極意の一つである『抜き足』と呼ばれる技術・・・これならばさっきのクロウ・クルワッハの『勘』もすり抜ける事が出来ると踏んだが正解だったようだな

 

「成程、面白い。元より貴様を侮ってなどいなかったが、人間というものに更に興味が湧いたぞ」

 

「いやいや。イッキ君って体術においてはビックリ箱みたいな子だからね。俺も少し前までは人間だったから言うけどイッキ君みたいなのって世界を見渡しても3人だって居るか怪しいよ?」

 

その言い方だと俺以外にもう一人くらいは居ると思ってるって事か・・・多分だけどデュランダルの前任者の事かな?

 

まぁビックリ箱と云うなら他に体術とは別に曹操も入れても良いと思うな・・・乳神召喚したしね

 

「なんにせよコレが、人間が格上(ドラゴン)を喰らう為の(小細工)ってやつだ」

 

そうして俺達は三度仕切り直して激突していくのだった

 

 

 

[三人称 side]

 

 

イッキとデュリオにクロウ・クルワッハの相手を任せてイッセー達は第四天である通称『エデンの園』に辿り着いた

 

そこでこのメンバーの中で随一の感知能力を持つ黒歌が道の先に鋭い視線を向ける

 

「皆、この先にイリナっちのお父さんの気配と八岐大蛇の気配が在るにゃ」

 

「パパが第四天(ここ)に居るの!?」

 

「如何やら第五天から降りてきたみたいね。連れてこられたのか、追われて逃げてきたのか。兎も角まだ間に合うという事よ。急ぎましょう!」

 

瑞々しく色鮮やかな草木の咲き誇る文字通りの天上の楽園を今までよりもペースを上げて走って行くと邪気を放つ禍々しく変貌した天叢雲剣を持った八重垣正臣とその隣で苦しそうに座り込んでいる紫藤トウジが居た

 

八岐大蛇の毒は既に解毒されていた為、新たに毒を送り込んだのだろう

 

「貴方を殺すならどうせならこのエデンでと思っていました。僕とクレーリアを殺した貴方に送る手向けの花としては少々豪勢過ぎるかも知れませんがね」

 

「・・・八重垣君。私で全てを終わらせてくれるかい?」

 

「パパ!?何を言うの!?」

 

「イリナちゃん。私の命で彼の魂が救われるというのなら、安いもの何だよ」

 

それから続く彼の当時の悔恨と懺悔を聴いて八重垣は激昂する

 

「だから何だ!だからなんなんだよオオオオッ!!僕と彼女は愛せていた。種族が違っても愛せていたんだよオオオオ!!」

 

全身からドス黒い邪気を吐きだして天叢雲剣を振りかぶって紫藤トウジの首に振るうその一撃をイリナ、ゼノヴィア、祐斗の三人の剣士組が受け止めてその間に白音がトウジの体を引っ張って後衛組の方に連れて行く

 

八重垣の殺意に連動して現れた八岐大蛇の頭の追撃はイッセーや曹操、他の後衛組の魔力や魔法で防いでいく

 

「黒歌姉様、治療をお願いします!」

 

白音が地面にトウジをゆっくり降ろすと黒歌が素早く体の状況を診ていく

 

「分かってるわよ。ん~、前に治療した時よりも時間が経ってるみたいだからちょっち時間が掛かりそうにゃ」

 

「分かったわ。私達でトウジさんと黒歌を守るから彼の事はイリナ、イッセー、ゼノヴィア、祐斗、白音にお願いするわね」

 

治療という繊細な作業を万が一にも邪魔しない為に守りに重点を置いた采配だ

 

それを聞いた曹操も槍を肩でトントンと叩きながら一歩下がる

 

「なにやら私情が絡んだ相手のようだからな。俺は今回は守備に徹するとするさ」

 

「ガアアアアアアアア!!シ、シシシ、死ネエエエェェェッ!!」

 

治療を受けるトウジの姿に憎悪が触発されたのか八重垣の纏う邪気が一層力強さを増し絶叫を上げながら天叢雲剣と八岐大蛇を暴れさせる

 

「おいおい!もうあの八重垣って人殆ど正気じゃねぇぞ!」

 

『当然だ。龍王クラスの邪龍の邪気なんぞ人間が纏えば精神が蝕まれない訳がない。少なくともあの剣を如何にかしない限り正気に戻る事なぞないぞ!』

 

剣を手放しても正気に戻るかは判らないが、少なくとも剣を持ったままでは100%無理だとドライグの忠告が飛ぶ

 

「イッキはあれ以上の邪気を何時も纏ってるけど!?」

 

『あれは有間一輝の存在が理不尽なだけだ!』

 

地上最強の二天龍という理不尽の権化みたいなドライグに存在を半ば否定されたイッキは幸いこの場には居なかった

 

「クレーリアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

悲哀の籠った悲鳴の中でも恋人の名前を叫ぶ彼と対峙するイッセー達はその悲壮な想いに涙を流しながらも攻撃を加えていく

 

「アンタは悪くねぇよ!でも、でもよ!こんな事をしてももう誰も得しねぇんだよ!ただ悲しいだけなんだよな!」

 

「デュランダル。終わらせよう!」

 

「オートクレール!アナタが私の事を真に主と認めてくれるなら今こそその力を示して!あの人を倒すんじゃない。助ける為の力を!」

 

イリナとゼノヴィアの持つ且つて共に戦った戦友とも云える剣が時代超えて再びその輝きを解き放った。お互いの剣がその聖なる波動を相乗効果で高めていく

 

そして他の三人もそれに追従する形で清めの力を解放する

 

「アスカロン、聖剣の見せ場が来たぜ!」

 

イッセーが左腕の籠手からドラゴンスレイヤーの聖剣を取り出す

 

「邪気を祓うのなら任せて下さい!」

 

白音は火車に白い浄化の炎を最大火力で纏わせる

 

「これでも一応聖剣使いでもあるんでね!」

 

最後に祐斗は聖魔剣ではなく聖剣を握る。且つてゼノヴィアやイリナと初めて出会った時に創った巨大な威力重視の魔剣を聖剣で創り出す

 

今、この瞬間、この場ではそれが最適だと思ったからだ

 

『助ける』。その想いで放たれた白く輝く重なり合った一撃は八岐大蛇と八重垣を包み込んでいき、その中心で共に剣を掲げるゼノヴィア(悪魔)イリナ(天使)の姿を見て八重垣は涙を流す

 

「ああ、クレーリア。何かが違えば、僕たちもあんな風に為れたのかな?」

 

イッセー達の目に光に飲まれる彼を女性が優しく抱きしめている姿が見えたのは、きっと幻などでは無いのだろう

 

光が収まった後、倒れている八重垣は涙を流しながらエデンの空を見上げている

 

傍に落ちている天叢雲剣も一切の邪気が消失していた

 

そしてその隣には八つの頭を持つ一般的なサイズの白い蛇が居る

 

それを見た面々は目を点にしていた

 

「え・・・アレって八岐大蛇・・・だよな?なんだかとってもプリティになってるみたいだけど」

 

『・・・恐らくだが八岐大蛇は殆ど復活しかけているという曖昧且つ魂が剥き出しの状態だった処に先程の心を洗い流すというオートクレールを中心とした極大の破魔の一撃が効いたのだろう。体が小さくなっているのは不安定なまま神剣から切り離されて無理矢理体を復活させた為か?』

 

ドライグが目の前の結果から推測できる事を語っていく

 

敵対する相手の心を洗い流すオートクレールの一撃を受けて八重垣だけでなく八岐大蛇も影響を受ける事にそう可笑しい事は無い

 

最も、完全に復活した八岐大蛇相手では無理だっただろうが

 

その八岐大蛇は「キュイッ」と可愛らしい鳴き声を出してイリナの方に這って行き足に頭を擦り付ける。如何やら懐かれたようだ

 

「え、ええ~」

 

先程まで邪気をバンバンに出して血の涙を流しながら噛み殺そうとして来ていたはずの邪龍に懐かれて流石のイリナも困り顔である

 

「ドライグ。もはやアレって改心したとかじゃなくて純真無垢に幼児退行しただけじゃね?」

 

『ま、まぁ精神は肉体の影響を受けるとも言うしな。しかし色んな条件が重なった結果だろうが伝説に謳われるドラゴンが幼児退行するなど・・・ん?何故ホッとしている俺が居るのだ?』

 

イッキが居る分、イッセーが一々おっぱいの奇跡でピンチを切り抜ける比率が若干下がってアルビオンと和解する前にギリギリ幼児退行を免れたドライグは理由の判らぬ安心感が有ったらしい

 

「ふっ、キミたちは天使や悪魔だけでなく、邪龍とすらも一緒に在れるのか」

 

倒れて天を見上げていた八重垣が首だけ動かしてイッセー達を見る

 

「俺は・・・元人間です。でも悪魔である女性を愛しています」

 

「そうか。だが今のキミはどうあれ悪魔だ。そちらの天使もキミは守れるのか?」

 

且つて八重垣と愛する女性を引き裂いたその壁について彼は問う

 

「守ります。種族がどうのというのは今はもう関係有りません。いえ、例え和平の前だったとしても、俺はきっと守る為に全てを賭けたでしょう・・・且つての貴方と同じように」

 

「だがそれではキミの力では守れない時が、如何しようも無い理不尽が降りかかる時が在るかも知れないぞ?そんな時は如何する?」

 

「その時は仲間を頼りますよ。俺一人で無理なら皆で守ります。種族の違いなんて気にせずに仲間の為に命を懸けられるのが俺達なんですから」

 

イッセーは確信を持って告げる

 

主であり、恋人であるリアスなら色々と最低限身を守れるよう手配してくれるだろう

 

親友であるイッキなら呆れつつも原因そのものを叩き潰すエゲツない手札でも用意してくれそうだ

 

大切な人を守る為ならば仲間の手を借りる―――借りられるのだ

 

「―――そうか。キミたちには、理解者が居るのだな」

 

「勿論。俺一人だけで颯爽と助けられればそれが一番ですけどね」

 

イッセーは"ニカッ"と笑いながら冗談めかして言い、それに八重垣も笑みを浮かべる

 

「ふっ、違いない。好きな女の子は出来れば自分の手で助けたいものだからな」

 

下らなくも大切な男のプライドがそこには有るのだ

 

「通じ合えたなら、俺は、俺達はきっと分かり合えます」

 

イッセーが伸ばした手を八重垣は上半身を起こしてその手を握り返す為に手を伸ばす

 

「ああ、そうなったなら、きっと・・・」

 

 

 

“ドンッ!!”

 

 

 

突如として二人を引き裂く重低音が響き渡った

 

 

 

 

 

「ぐぶふぅぅぅううう!!?」

 

・・・二人の手が結ばれる直前に白音が八重垣の顔にライダーキックをかましたのだ

 

「なにしてんの白音ちゃぁぁぁん!?」

 

イッセーの悲鳴染みたツッコミに当の白音はお構いなしに別の場所を見つめる

 

「イッセー先輩。警戒して下さい。狙撃が在りました!」

 

「そ、狙撃!?」

 

慌てて周囲を見れば近くの地面に不自然な穴が開いている

 

恐らく白音が八重垣を蹴り飛ばさなければ彼の体を貫通していたのだろう

 

当の八重垣は顔面を蹴られて鼻血がダバダバと滴り落ちているが、死ぬよりはマシなはずだ

 

「あ~あ~、なんだよ。折角美しい復讐の喜劇がこれ以上駄作にならないように合いの手を入れてやったってのに、邪魔してくれちゃってさぁ」

 

全員が耳障りと感じる声の調子でリゼヴィムが現れた

 

「リゼヴィム!」

 

イッセー達が登場したリゼヴィムに向けて警戒態勢を取る

 

「レイヴェル、パスです」

 

白音は警戒しつつも蹴り飛ばして悶絶してる八重垣を安全圏に逃がす為に後衛組の居る場所に投げつけてそこに居たレイヴェルがキャッチする

 

「アーシアさん。治療をお願いします」

 

「は、はいぃ!」

 

「おいおい!なに俺様を無視して淡々と作業進めてるんだよ!」

 

「いえ、狙われた彼を後ろに下げる事は素早くやるべき事ですし、一応貴方の事は警戒しながら投げましたよ。彼が撃ち落とされたら堪りませんし」

 

登場シーンの間にやれるだけの作業はやっておく―――実に合理的な行動である

 

「ヤベェ、今一瞬イッキがこの場に居るかのような感覚を味わったぜ」

 

「あははは、まぁ強敵相手で且つ実戦なんだから良いんじゃないかな?」

 

「あ!ならなら私もこの子を預けるからちょっと待っててね」

 

イリナが足元に居た白く染まった八岐大蛇(ミニマムサイズ)を抱き上げるとアーシアに手渡す

 

「アーシアさん。この子をお願いね♪名前はえっと・・・『八白(やしろ)』。八白にするわ!神様を祀るお社にも掛けてるの♪」

 

「分かりました。八白ちゃん、危ないから私と一緒に下がってて下さいね」

 

「キュイッ♪」

 

アーシアの腕の中で元気よく返事をしてイリナに頭(の内の一つ)を撫でられる八岐大蛇・・・完全にペット枠と化した日本の誇る伝説の元邪龍

 

それを見たゼノヴィアは自分にだけペットに懐かれるような事が無いのに妙な焦りを感じていた

 

「ック!まさかアーシアに続いてイリナまでドラゴンに懐かれるとは。この程度の人望(?)で私は駒王学園の生徒会長の支持が本当に得られるのか?」

 

デュランダルを構えながら次期生徒会選挙に想いを馳せるゼノヴィアにイッセーが遂にキレた

 

「シリアスさせろオオオオッ!!」

 

白音の容赦ゼロの救出劇からイリナ達のほのぼの空間にイッセーのツッコミが炸裂した・・・もう我慢の限界だったのだ

 

「ねぇ今の状況判ってる!?目の前にラスボス的な存在が居るんだよ!?不意打ちで殺されそうにもなってたんだよ!?白音ちゃんの行動は衝撃的だったけどまだ理に適ってるから良いとしてもイリナとアーシアとゼノヴィアは能天気過ぎだろうが!!」

 

女性は三人寄れば姦しいとも言うがその三人が天然属性だと最早手に負えないのである

 

確かに相手は強大だがこの場に味方が大勢揃っている事と前回も前々回もイッキに出鼻を挫かれているので実際対峙しても心に少々のゆとりを持てているのだ

 

「ん~、『D×D』の皆さんがそんなに俺様の事を舐めてくれるなんて、これはキツ~イお仕置きが必要かな?」

 

そのセリフにマジメに真面に対峙してたイッセーが空気を入れ替える為に噛み付く

 

「やい、テメェ!さっきは何で八重垣さんを狙った?仮にも今は味方同士だったはずだろう!」

 

「ん~。だってあれだけ復讐に燃えてた男が最後に改心しちゃってハッピーエンドなんて詰まらな過ぎるじゃん?彼はバアル家と教会の間で起きた事件の語り部と霊剣と邪龍の融合品の試験運用の実験体という使命は果たし終えてたから俺様としては用済みだったしさ。遊び終えた玩具は最後にキチンと廃棄処分(おかたづけ)しないとね」

 

「―――そうかよ。リゼヴィム・・・やっぱりお前は此処で滅んだ方が良いみたいだな!」

 

相手は超越者という強敵。しかしこの場でリゼヴィムを倒す事さえ出来ればクリフォトをほぼ瓦解させる事が出来る

 

アポプスやアジ・ダハーカのようなリゼヴィム以上の強者こそ居るが邪龍がクリフォトの残党を纏め上げる可能性は低いと見て良いだろう

 

イッセーは左腕の籠手からアスカロンを取り外して神器の力を身体強化のみに割り振って突貫する。リゼヴィムだけが持つ特殊能力である『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』を警戒しての行動だ

 

だがリゼヴィムはその聖剣の一撃を普通に腕を盾にして防いでしまう

 

「ダメダメ。オーラを纏わせて無い聖剣なんてヒノキの棒よりましって程度だよ。それに幾ら力の塊と称された赤龍帝の膂力と言っても使いこなせてなきゃ俺様には届かねぇな―――まっ、ちょっとはジンジンとしたし、ちゃんとお返ししないとね★」

 

ふざけた口調で攻撃直後で硬直しているイッセーの腹にリゼヴィムは空いてる方の拳でパンチを繰り出す。そのパンチは赤龍帝の鎧に触れた瞬間に鎧を消失させ、その奥に在ったイッセーの生身の肉体に直接突き刺さると彼を遥か後方に吹き飛ばした

 

「グッハァ!?ゲホッ!・・・クソ、触れた箇所だけじゃなくて鎧の全部が消えるのかよ」

 

アーシアの遠距離回復の光に包まれたイッセーが再び鎧を纏いながら愚痴を溢す

 

全身の武装が解除されるというのが何度も続けば消耗がそれだけ加速するからだ

 

次にイッセーと入れ替わるように祐斗とゼノヴィアとイリナの剣士組が斬り掛かった

 

「だっだら神器で無ければ良いのだろう!」

 

「だからと言って神器も忘れて貰ったら困るけどね!」

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルをイリナがオートクレールを祐斗がグラムを握り残りの魔剣は龍騎士たちに振らせて一斉攻撃を仕掛ける

 

「わぁお!伝説の魔剣・聖剣のオンパレードだねぇ。神器に魔剣を握らせるのは面白い発想だけどそれでも俺様とは相性が悪すぎだよん♪」

 

黒い翼を一対だけ生やしたリゼヴィムがその翼を水平に高速で祐斗の龍騎士に僅かに掠らせると龍騎士は霞のように消え去り四本の魔剣が地に落ちる

 

相手の急所を狙ったりする必要もなく、ただ触れれば良いだけならばリゼヴィムにとって児戯にも等しいのだ

 

そして残る本人たちの振るう魔剣や聖剣も体術で軽くいなしてそれぞれを魔力で吹き飛ばした

 

剣士組が距離が離れたのを見たリアス達が一斉に攻撃を叩き込むがそれもリゼヴィムはシールドを張って防ぎきってしまう

 

「これでも魔王の息子で悪魔の中でも超越者っていう三指に入る実力が有るんでね。神器以外の攻撃も生半可じゃ届かないよん☆」

 

そう言って濃密な魔力が籠った魔力弾をまだ回復中だった剣士組に放つ

 

「させるかよ!」

 

直前にイッセーが『戦車』の特性で最大限に防御力を高めた状態で間に入るがその凶悪な魔力に鎧はあえなく破壊されて怯んだ瞬間に接近したリゼヴィムが蹴りを放つ

 

「ほい♪ルシファーキック★」

 

相変わらずふざけた調子で放たれた蹴りはイッセーの鎧に触れると再びその鎧を消し去り衝撃波が突き抜けるようなバカげた威力でイッセーに血反吐を吐き出させた

 

痛みに耐えながら何とか鎧を着直したイッセーにリゼヴィムは小馬鹿にしたように声を掛ける

 

「なぁ。サーゼクス君の眷属がなんで神器保有者が居ないのか判る?色々と理由は有るんだけど中でも一番の理由は俺と対峙した時に役に立たねぇからなんだわ。特に赤龍帝君は神器が無ければ何にも出来ないクソ雑魚アクマ君だもんね♪自分の雑魚っぷり、痛感してくれたかな?」

 

リゼヴィムが軽く手を払って鎧のマスクに触れ、またしても素顔を晒したイッセーに至近距離で魔力弾を生成する

 

「冥土の土産に良い事聞けたね☆なら後は死ぬだけっしょ♪」

 

そうして放たれた魔力弾はイッセーの顔面を吹き飛ばすかに思えた。しかし直前にイッセーの顔の前に現れた黒い渦に吸い込まれてリゼヴィムの眼前にも発生したその渦から飛び出した自分の魔力弾に吹き飛ばされた

 

「グッハァァァ!!?」

 

「は?」

 

九死に一生を得た事より今、目の前で起こった事がなんなのか理解が追い付いてないイッセーが間抜けな声を漏らす

 

「さて、大体解ったよ―――折角相手は聖書に記されし大悪魔リリン。ここからは俺が少しお相手させて貰おうかな」

 

槍で肩をトントンと叩きながら最強の神器の使い手が参戦したのだ

 

「曹操・・・お前今なにをしたんだ?」

 

「なに、単純な話さ。俺の神器の禁手(バランス・ブレイカー)の七宝の能力の一つ『珠宝(マニラタナ)』。襲い掛かる攻撃を他者へと受け流す力が有る」

 

よく見れば曹操は既に禁手化(バランス・ブレイク)しており周囲には七つの宝玉が浮いている。そうして淡々と能力の説明をしてくれた曹操だがイッセーが聞きたい事はそこでは無いのだ

 

そしてそれはリゼヴィムも同じだった

 

「そうじゃねぇ!どうやって俺様の『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』をすり抜けやがった!?」

 

激昂するリゼヴィムに曹操は小馬鹿にしたように鼻で嗤って解説してやる

 

「なんだ?自分の能力なのにまさかその程度の認識だったのか?成程、力は有っても小者だとは聞いていたがこれ程だとはな。その能力は貴様が直接触れなければ発動しないのだろう?『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』は貴様の魔力弾にその効力を乗せる事は出来ない・・・現に先程剣士組を狙って攻撃した時に間に入った赤龍帝の鎧は破壊されていた(・・・・・・・)。そして最後に止めを刺す前に態々鎧に触れて解除してから魔力弾を放とうとしただろう?推測するには十分過ぎる材料だよ」

 

返された魔力弾がリゼヴィムにダメージを与えたのは珠宝(マニラタナ)の能力がただ受け流すだけ(・・)の力だったからだろう

 

同じカウンター系の神器の技でも威力を倍にして返す森羅椿姫の追憶の鏡(ミラー・アリス)だったならば返す事は出来ても無効化で打ち消されていたはずだ

 

圧倒的な力を持ち、過去の大戦の途中で姿を消して無気力に生きていたリゼヴィムが真剣に己の能力と向き合う機会など無かったのだ

 

「さて、今リゼヴィムと真面にやり合えそうなのは俺とそちらの猫又の姉だけだが、いきなり連携を取って戦うのも難しいし何より一人で臨みたいのだが、構わないかな?」

 

「私は別に構わないにゃ。面倒な相手を引き受けてくれるならそれでね。もしも死んだら火車の炎で火葬くらいならしてあげるわよ」

 

「では、精々火で炙られないようにしよう」

 

他の者を下がらせて自分一人で闘うと云った曹操にリゼヴィムは盛大に笑い声を上げる

 

「ハハハハハ!曹操君、キミ、自分が何を言ってるのか判ってる?確かにさっきは不覚をとったけど要は魔力弾を使わなければそれでキミの攻撃は完封出来るんだよ。如何に最強の神滅具(ロンギヌス)だとしても直接的な効果は俺様に及ばないのは実証済みだ。途中に何かを挟んだ間接的な攻撃だとしても元が神器から齎された力なら無効化出来るしね!それとも素手で挑んで来るのかい?」

 

「まさか、確かにこの槍では手傷を負わせることは出来ないだろう」

 

曹操はそう返すと最強の聖槍を手放した

 

そして徐に近くの地面に刺さっていた天叢雲剣をその手に掴む

 

「日本という国の誇る最高峰の霊剣。先程の『D×D』のメンバーの浄化の力で神剣としての姿を取り戻している。槍でないのは残念だが、贅沢は言わないでおくか」

 

「曹操、お前剣まで扱えるのかよ!?」

 

刀をヒュンヒュンと取り回し、重さを確かめるような曹操にイッセーが驚いたように問いかけるが曹操は刀の峰の部分で肩をトントンと叩きながら答える

 

「いいや、剣を握ってみた事くらいは有るが知っての通り俺は槍使いだ。だが毎度仲間のジークフリートと鍛錬していれば大体の術理くらいは掴めるさ―――木場祐斗に敗北してからジークフリートの奴は何かに取り憑かれたかのように堕とされた冥府で朝から晩まで鍛錬に明け暮れているからね。いい練習相手になってるよ・・・ところで木場祐斗。ジークフリートが『ミルキー怖い。筋肉怖い。可愛い妹なんて幻想だ』とずっと呟いているのだが、何か知らないかい?」

 

ジークフリートは『ミルキー漢女恐怖症』を発症し、再びあの悪夢と出会う事が有っても物理で振り払えるように必死に己を鍛えているらしい

 

「イエ、ナニモシリマセン」

 

木場祐斗はあの時の出来事の記憶にそっと蓋をした

 

「にしても曹操お前・・・幾ら何でも剣の扱いを見て覚えたなんて無茶苦茶な・・・」

 

「なに、どれ程のものかは悪魔退治でお見せしよう」

 

曹操はそう言うと七宝を周囲に展開させたまま神速の踏み込みでリゼヴィムに迫る

 

「あははは♪まさか黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の使い手が剣で勝負を挑んで来るなんてね!こんなお爺ちゃんになってからでも初めての経験だよ☆」

 

「斬る。突く。撃つ。破砕する―――人の生み出す武器はそれぞれの状況に合わせた用途で扱うのが基本だ。敵の弱点を突く事を信条としている俺がなぜ態々無効化されると判っている武器で攻撃しなければならない?それにそんなセリフは先程アスカロンで斬り付けた赤龍帝に初めに言ってやるべき言葉だろう」

 

曹操の言う事に間違いは無いのかも知れないがそもそも基本能力の一つに『譲渡』の力を持つ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)と比べるのは酷というものだろう―――本来彼の持つ槍はあらゆる状況を覆すだけの性能を秘めたこの世界で最強の武具なのだから、それを『使えないなら仕方ない』で済ませる曹操が可笑しいのだ

 

しかし、如何に曹操が人間では最強クラスの力を持つとしても超越者たるリゼヴィムには基本性能で劣ってしまう

 

曹操が幾ら素早く仕掛けようともパワーでもスピードでも上回るリゼヴィムは神剣の攻撃を受け流す事も避ける事も難しくは無い

 

「さっきの奴らよりはマシだけどまだまだだよん♪その周りに浮いてる玉の力で下手に魔力弾を撃てないと言っても所詮それだけでしょ?」

 

「なに、ただの肩慣らしだよ」

 

リゼヴィムの挑発を軽く受け流した曹操は七宝の転移・浮遊・分身の能力を使ってリゼヴィムの反撃を寸で避けて全方位から攻撃を仕掛けて行く

 

当たる直前で転移で避けられ、本体に当たったと思えば分身と本体を転移で入れ替えた囮だったりと兎に角翻弄していく

 

「ッチ、聖槍がなければ小細工しか能の無い人間が!」

 

「その通り、小細工こそが人間の究極の技だと思っているよ・・・とはいえこのままでは埒が明かないな。生半可な奇襲は通用しなさそうだ」

 

曹操は飛び上がってリゼヴィムから少し離れた地面に着地する。一息つくそのタイミングでリゼヴィムは曹操に問いかけた

 

「なぁ曹操ちゃん。キミも且つて世界に牙を剥いた身なら俺様達に協力しない?異世界にはそれこそキミの見た事もないような人外が沢山居るぜ?『D×D』の奴らがうちの聖十字架を奪って行ったけど聖槍の持ち主であるキミの力が有ればトライヘキサの復活も目前に迫るんだけどな。天帝に付けられたであろう首輪もちゃんと取ってやるぜ・・どうよ?」

 

リゼヴィムの提案を聴いた曹操は構えを解いて刀で肩をトントンと叩きながら返答する

 

「残念ながら異世界に現を抜かす前に俺は自分探しに没頭したいものでね―――それに」

 

そこまで口にしたところで曹操が再び転移し、リゼヴィムの背後に現れそのまま斬り付ける

 

先程までは後出しでも曹操の攻撃を避けられたはずのリゼヴィムは今回はほんの一瞬反応が遅れてしまい、振り下ろされた刃が僅かに頬を裂いた

 

「っぎゃ!?痛ってぇぇ!なんだ?転移の速度を上げたのか?」

 

斬られた頬が神剣の影響で僅かに煙を上げて傷口を抑えるリゼヴィムが怒りの目を向ける

 

如何に高速の転移と云えどもタイムラグは存在する。リゼヴィムにとって曹操の転移は例え背後に廻られようとも十分に対処出来る速度であったはずだった

 

「いや、転移の速度は変わってないさ。先程自分で言っただろう。俺は小細工だけは達者なんでね。今のも弱い人間の編み出した小技の一つに過ぎないさ」

 

曹操はリゼヴィムの瞬きの瞬間(・・・・・)を狙って動いたのだ

 

イッキのように相手の無意識に潜り込むような技に比べたら虚を突きにくいがクロウ・クルワッハよりも弱いリゼヴィム相手ならその0.1秒の隙はテクニックを極めんとする曹操には十分狙えるものだった

 

「俺達は弱っちい人間なんでね。絶対的な怪物(でんせつ)を打ち倒す為にたった一本の鋭い(わざ)を磨くのさ」

 

奇しくもこの天界で強者(ドラゴン)強者(アクマ)弱者(にんげん)の小細工に翻弄されたのだ

 

「すっげぇ・・・」

 

「うん。彼と云いイッキ君と云い僕たちの周りに居る人間はテクニックタイプの究極系ばかりだね。同じテクニックタイプとして嫉妬しちゃいそうだよ・・・まだまだ鍛錬が足りないな」

 

イッセーが素直に感心し、祐斗が似たタイプとしてその領域に至っていない事にある種の悔しさを感じていると皆の耳に柔らかい声が聞こえてきた

 

「ふふふ、人間の中には時折伝説をも下す者と云うのは現れるものなのですよ」

 

「ミカエル様!」

 

「遅れてしまいましたね。『システム』の在る第七天にセラフのメンバーで結界を施しました。これでもし我々が死んだとしても誰も『システム』に干渉する事は出来ません」

 

黄金の12枚の翼を広げてにこやかな表情のままオーラを迸らせつつ『システム』の安全を告げる

 

「さてリリン。直接顔を合わせるのは先の大戦以来ですね。まさか天界まで昇って来るとは思いませんでしたよ。天国を土足で踏み荒らした以上、キツイ仕置きを受けて頂きましょう」

 

ミカエルが天に手を翳すとコカビエルが全力で創り出したのと同程度の巨大さを誇る光の槍が何十本と現れた。ジョーカーのように天界の危機ともなれば天使長も天界のバックアップを受けて能力が大幅に上方修正されるのだろう

 

「おっと、これはいけないな」

 

曹操もそれを見てリゼヴィムから距離を置く

 

「私達も続くわよ!」

 

リアス達も戦況の変化に合わせて各々が遠距離攻撃の用意をし、ミカエルが掌を振り下ろしたのを合図にリゼヴィムに集中砲撃が襲い掛かった

 

「ハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

爆炎の中からリゼヴィムの笑い声が響き、黒い竜巻が爆炎を吹き飛ばす

 

黒い竜巻の正体はリゼヴィムの背から広がる12枚の悪魔の翼だ

 

しかし無傷とはいかなかったようで翼の半分程度はボロボロになっている

 

「おおお、痛てぇ。真面に痛みを覚えるのなんて何百年ぶりだ?思わずテンション上がっちゃったよ。あ~、こりゃ参ったね。チーム『D×D』、三大勢力と和平を結んだ奴らの精鋭部隊を相手にするのに今までちょっとふざけ過ぎてたのかも知んないなぁ」

 

リゼヴィムは懐からフェニックスの涙を取り出すと自分に振りかけて傷を治すとまるでヴァーリのような鋭い眼光に変わりイッセー達を見据える

 

「遊びは終わりにしよう―――私はルシファーの息子として貴殿らを我が宿敵と認めよう」

 

「へ!今更マジメぶった処で寒いだけだぜ?何が狙いで天国までやって来たのか知らねぇが此処でキッチリ倒してやるよ!丁度今お前に通用しそうな新技を覚えたんでね!」

 

如何やらイッセーは新たな力に目覚めたようだ

 

「いや、目的は達したのでな。今日は帰るとしよう」

 

―――如何やらイッセーが新たな力を出す機会は失われるようだ

 

出鼻を挫かれたイッセーは必死に食って掛かる

 

戦闘狂(バトル・ジャンキー)では無いが、今の彼は激しく戦いたい気分だったのだ

 

「ぅおおい!ふざけんなよ!お前此処に来てから俺らと戦ってただけじゃねぇか。それでどんな目的を達成させられるってんだよ!?」

 

イッセーの何処か焦りを含んだ叫びにリゼヴィムは懐から二つの果実を取り出す事で応える

 

その実を見たミカエルの表情が驚愕に彩られる

 

「まさかそれは!?」

 

「そう、これこそが『生命の実』と『知恵の実』だ」

 

その告白に他のメンバーも思わずその実を凝視した

 

「どうして!その実はもう生っていないはず!」

 

「その通りだ。しかし『保存』されていたとすれば話は別じゃないかな?」

 

イリナの叫びにリゼヴィムは高慢さを滲ませる笑みで答える

 

「我が母はリリス。且つてこのエデンの園に住んでいたアダムの最初の妻だ。その母は人間だった頃、この二つの実を神の目を盗んでとある場所に隠したのだよ。私は幼少の頃、母からその話をよく聞かされていた。そして調べてみたところ、これを見つけたという訳だ・・・最も、既に実は干からびてその力を失ってしまっていたがね」

 

干からびたと言うがリゼヴィムがその手に持つ二つの実は瑞々しい輝きを放っている

 

それを見たミカエルはその理由を推察する

 

「その干からびた実を聖杯の力で復活させたという訳ですか・・・ですが、一体天界の何処に在ったというのです?最初から干からびていたならいざ知らず、我々は昔からその実の気配を感じた事は一度も有りませんでした」

 

「天界では無い。煉獄だ。冥府に繋がる隠れ道にな―――天界へ攻め込んだのは実を手に入れたついでに過ぎん。最初から目的は達していたのだよ。煉獄への入り方も当然、母から聞いたものだ」

 

天界を襲ったのがただのついでだと聞かされた皆は不快感満載の顔だ

 

そんなイッセー達の表情を愉しみながら片手で二つの果実を器用に弄んでいると一陣の風が過ぎた

 

リゼヴィムが弄んでいた実の片方・・・知恵の実が無くなっている

 

そしてイッセー達の近くにはさっきまで居なかったイッキが居たのだった

 

「ふぅ・・・不意を突ければと思ったけどまさかそんな重要なアイテムを態々だしてご説明してくれるとはね。これはもう掏るしかないっしょ」

 

全身に血をある程度滲ませたイッキがそう言いながら徐に立ち上がりリゼヴィムに振り向いて手に持つその実を見せつける

 

「イッキ!実を盗んだってマジかよ!?クロウ・クルワッハは如何したんだ!」

 

「ああ、あの邪龍さんなら『本気を出せないお前と決着を付けるのは勿体ない』って途中で勝負を切り上げていったよ・・・まぁそれを見込んで盛大に『弱体化してる』なんてセリフ回しまでしたんだけどな

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いや、別に?」

 

強者との闘争にこそ心を震わせるドラゴンなら適当な処で戦闘を切り上げてくれると思ったからこそあの場に残ったイッキだった

 

そして遅れて行けば何らかの形でリゼヴィムの虚を突けると思ったのだ

 

不意打ち・漁夫の利上等である

 

最も、リゼヴィムに直接【一刀羅刹】で危害を加えようとすれば直前の殺意や害意でリゼヴィムにも気付かれて避けられたかも知れないし、今もリゼヴィムの影に潜んでいるはずのリリスが間に入った事だろう

 

それならばリゼヴィムが堂々と見せびらかすであろう二つの果実を狙ったという訳である・・・イッキはそろそろどこぞの勇者のように『職業・盗賊』を名乗っても良いのかも知れない

 

後はデュリオには少し待ってもらって気配を消して忍び寄り、リゼヴィムが果実を取り出してから『抜き足』と【一刀羅刹】の併用で実を掠め取ったのだ

 

なお、【一刀羅刹】のダメージは例の如くフェニックスの涙で回復済みである

 

アザゼルからも『お前は折角格上殺しの技を持ってんだから活用出来るように常に一本はフェニックスの涙を持っとけ』と言われていた

 

レイヴェル・フェニックスの婚約者であり『D×D』の一員であるイッキならばその程度の融通は普通に利くのだ

 

「貴様・・・有間一輝か。こうして直接顔を合わせるのは初めてだな。先ずは私から知恵の実を奪った事は評価しよう。他の奴らが全力で私を攻撃しようとしている中で私のことを眼中から消して真っ直ぐに実を狙ったのは業腹だがな。私一人であったなら奪われた実を取り戻すのは少々骨が折れる処だったが、此方に誰が居るのか忘れているようだ―――リリス」

 

最後に静かにその名を呼ぶとリゼヴィムの影からオーフィスの分身体であるリリスが現れた

 

真正面からの戦闘ではイッキたち全員でもリリス一人に負ける公算が高い。そこにリゼヴィムが加われば不可能とさえ云えるだろう

 

「リリスは確かに私を守る様にしか命じていない。その命令の隙間を狙ったならこの場で新たな命を授けるまで」

 

リゼヴィムがその指を有間一輝に突き付けてリリスに命ずる

 

「さあリリス!あの人間が手に持つ実を奪い返しt“グジャアアアッ!!”・・・へぁ?」

 

イッキ以外の全員の思考が真っ白に染まりその視線が一点に集中する

 

有間一輝の掌に在った実は無残にも握りつぶされていたからだ

 

「「いや何してくれてんのお前えええ!!?」」

 

奇しくもイッセーとリゼヴィムの声が重なりエデンの空に木霊していった

 

 

[三人称 side out]




相手が強すぎて奪われる?なら廃棄っしょ!

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