[木場 side]
アグレアス奇襲部隊の第二陣として僕たちグレモリー眷属と黒歌さんにレイヴェルさん。鳶雄さんとアザゼル先生が敵の本拠地にアジュカ・ベルゼブブ様の転移魔法で乗り込んだ時、そこには地獄が広がっていた
・・・まぁここも地獄(冥界)なんだけどそう言う意味じゃなくて比喩表現での地獄だ
周囲を見渡すといたる所に山積みになった黒い大きな物体が見える。その物体はトカゲに羽根が生えたような存在で・・・って回りくどく言っても仕様が無いかな。量産型の邪龍達が白目をむいて地面に横たわっている
「うっわぁ、エゲツねぇな。量産型の邪龍はもうコレ全滅じゃねぇか?」
イッセー君が周りの惨状を見て引いてる。と云うか殆ど皆がドン引きだ
量産型とは云え、邪龍は邪龍。そのタフネスは決して侮って良いものじゃないはずなんだけどこのまま放って置いても丸三日程度は気絶したままになっていそうだ。寧ろ何割かは既に死んで無い?
初手で魔王の一撃を叩き込むレベルの事をしてるから妥当ではあると思う・・・と云うかイッセー君も一応この惨状の立役者の一人なんだからね?
「じゃあ俺は予定通り裏方に回るからもう行くよ」
幾瀬鳶雄さんが神器であり相棒でもある黒い狗を連れて颯爽と立ち去る。ちゃんと見てたはずなのに何時の間にか影に溶けるように移動してしまったのは単なる身のこなしによるものだけじゃない。あの人もまた人間としては底知れない実力の持ち主だ
「俺もこのままアグレアスの中枢へ向かう。動力部を停められるかも知れん。初手が上手くいったなら第一陣の援軍の
先生も含めて彼らが裏方を担当してくれるなら、僕たちはただ標的を倒せば良い。アグレアスが途中で何処かに転移しないように阻害魔法を掛けたり、まだ動けそうな伏兵を警戒・退治したり、万一逃走された場合でも直ぐにまた発見出来るように位置情報を発信するビーコンを置いたりと上げればキリが無い。シトリー眷属も今回の相手のリゼヴィムは
「白音、黒歌。仙術でリゼヴィム達が居そうな場所は分かるかしら?」
リアス元部長が仙術使いの白音ちゃんと黒歌さんの姉妹に状況を訊く。二人は猫耳をピクピクと反応させながら集中して周辺一帯の気配を探ると同時に同じ方向に顔を向けた
「はい。向こうに見える一際大きな高層ビルを中心に特に多くの量産型邪龍の気配がします。恐らくはあそこかと」
「ん~、ゴチャゴチャして分かりにくいけどかなり強めの邪龍の気配も在るわね。白音の言うようにあそこが一番怪しいと思うにゃん」
成程。量産型邪龍だけでなく、それ以外の強力な邪龍もあのビルを守っているのか。二人が強いと言いつつもそこまで警戒していない様子からアポプスやアジ・ダハーカのような規格外レベルの邪龍ではないようだね。流石の二人もこれだけ邪龍でごった返している中でリゼヴィムの気配をピンポイントで探る事は難しかったようだが
「やはり事前の予想通りね。あの高層ビルはアグレアスの庁舎よ。アグレアス全体を監視するのに最も設備が整っているのがあそこなの―――では皆、行くわよ!」
「『了解!』」
この先に待ち受ける巨悪。前魔王ルシファーの息子であるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーを今こそ斃す時だ!
僕らが庁舎前に辿り着くとそこには鼻が曲がりそうな瘴気を放つドラゴンが居た。発する邪気は龍王クラス。アレがここの門番とみて良いだろう
黒い鱗に黄土色の腹、体長は細長く20メートル程で四肢も翼も付いている西洋タイプのドラゴンと東洋タイプのドラゴンの中間みたいな感じと云えるだろうか?
「うっへぇ、臭すぎにゃん」
「酷い臭いです」
人間ベースの僕ですら腐ったような臭いがするのだ。猫又として鼻が利く二人には堪らないのだろう。僕たちは顔をしかめる程度で済んでるけど白音ちゃんと黒歌さんはよく観ると涙目だ
その姿を視認したロスヴァイセさんが苦々しい顔となる
「アレは『
同じ北欧神話出身であるロスヴァイセさんがかの邪龍の正体を見抜く
僕も名前は聞いた事のある邪龍だ。世界樹ユグドラシルの木の根を毒の牙で汚染し、常に腹を空かせている邪龍だという
今の僕たちは気付かれないように遠目に様子を窺っているんだけど、今見えてる光景からでもその一端が垣間見える。何せあのニーズヘッグは最初のイッキ君達の聖言でこの周囲にも山積みとなっている量産型邪龍を貪り食っているのだから・・・仮にも仲間だったはずだが悪食にも程があるね。そしてニーズヘッグの口から滴り落ちている涎も毒々しい色合いで地面に落ちると煙を上げている。毒の龍というのも間違いないようだ
如何先手を取ろうかと相談しようとすると量産型邪龍をおやつ代わりに貪っていたニーズヘッグが顔を上げる
「んだ~?嗅ぎ慣れねぇ新鮮な生ものの匂いがすっぞ?もう此処まで来ただか。ほら、隠れてねぇで出て来いよおおぉぉぉ!居るんだろぉぉぉ?」
僕たちの気配は黒歌さんが消してくれていたけど如何やら匂いでバレてしまったようだ。僕たちはこの臭気で既に嗅覚が麻痺し掛けてるけど、匂いの持ち主であるニーズヘッグには関係ないらしい
リアス元部長も片手を上げて指示を出し、僕たちは姿を現す―――しかし戦闘に入る前に僕たちの前に三つの人影が舞い降りた
「やぁやぁ、間に合ったみたいだね」
軽い調子で声を掛けてきたのは僕たち『D×D』のリーダーのデュリオさんだ。イッキ君とイリナさんも居る。作戦の出だしが上手くいったなら彼らも僕たちに合流する手筈だったからね。仙術使いが両チームに居ればお互いの位置を見失う事も無いしね
「さぁて、お相手はあの邪龍君か。なら一丁こう言うべきかな?―――ここは俺に任せて先に行け!ってね」
そう言って僕たちの前に出て雷や炎、水、風などを体に纏わせるデュリオさん。一人であの邪龍を受け持つつもりか!
「こちらにはこれだけ人数が居るのよ?全員で袋叩きにしても大して時間のロスは無いんじゃないかしら?」
「いいや、そうでも無いと思うんッスよね!」
リアス元部長の案にデュリオさんは各属性攻撃に加えて天使の光の槍までもニーズヘッグに叩き込む事で応えた―――爆炎が舞い、煙の奥からボロボロのニーズヘッグが現れる
「い、い、イデェよおおォォォ!いきなりさ攻撃するなんてオ゛メ゛ェ、悪リ゛ぃ奴なんだな!小っこいハト野郎があああああ!!で、でも・・・グヘヘヘヘ!ほ~ら復活だアア!!」
ニーズヘッグは全身の怪我を見る間に回復させてしまったのだ
「偽物のフェニックスの涙!何処まで我がフェニックス家を侮辱すれば気が済むのでしょうか!」
レイヴェルさんが激昂している。ニーズヘッグの足元には先程使用したフェニックスの涙の小瓶が転がっている・・・レイヴェルさんが怒るのも無理はない。偽物のフェニックスの涙の製造には純正に近いフェニックス家の人のクローンが必要だ。以前魔法使い達が襲撃してきた時にチラッと見たあの生体ポッドの中でただ涙を『採取』されている者達が居るという事なのだから
「成程、あのニーズヘッグが幾つ『涙』を所持しているのか判らない現状、全員で掛かるのは下策ね。しぶとさに定評のある邪龍では一瞬で絶命させるのも難しいでしょうし」
「そう言うこと。それに上に行ってもリリンには俺の神器も通じないしねぇ。光力だけで戦う事も出来るけどやっぱり戦力は半減だ。この場に残るのは俺が良いんだってね」
そうだ。リアス元部長の眷属に神器使いは僕とイッセー君とギャスパー君にアーシアさんの4人が居るけど
・・・と云うか今気づいたけどニーズヘッグの後ろに既に小瓶が二つ程転がっているのはイッキ君達の聖句に対する頭痛薬代わりに使ったんだろうね
するとデュリオさんが天候を操るその力で今度は強力な竜巻をニーズヘッグに横合いからぶつけてこの場から弾き飛ばす
「さぁ今の内に!やっぱりこういう時はキミたちが一番目立つ位置に居るべきさ」
ハハッ、確かに僕たちオカルト研究部が何だかんだで騒動の中心に居るよね。それが慣れた戦場って云うのはクリフォトとの戦いが終わったなら暫くは勘弁して欲しいや
デュリオさんが開けてくれた道をを僕たちは一度頷き合ってから走って庁舎の中に入る
「ここまで近づけば分かります。リゼヴィムと王者は屋上です」
「ええ、では行くわよ!」
庁舎の中に入った事で気配をしっかりと捉える事が出来るようになった白音ちゃんが決戦の場を示す。僕らが外から飛んで行かないのはアグレアスの庁舎は元から外からの侵入に対してかなり強固な結界を張ってあるからだ。それならば下手な事はせずに中から昇った方が確実で面倒が少ない
階段を駆け上がる僕たちだけど襲ってくる邪龍はやはり居ない。時々通路にぐったり倒れている邪龍が見えるからその理由は言わずもがなだ
敵の本拠地をこうも無力化するなんてね。イッキ君がなにかを提案する時とかは大抵酷い有様になるけど、今回は群を抜いて酷いかも知れない
でもまぁ流石にこれ以上の惨状はイッキ君でももう生み出せないのだと信じたい。そう思っているとイッキ君が突然声を上げた
「あっ!しまった!」
「如何した!なにか有ったのかイッキ!?」
そのセリフに僕たちは瞬間的に体に緊張が走りイッセー君も慌てて問い掛ける。なにか重大な見落としでも在ったのだろうか?
「最初のイッセーの『譲渡』に『透過』も付けておけば『無価値』や『
「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」
“スパーンッ!!”
白音ちゃんが何処からか取り出したハリセンでイッキ君の頭を叩いた・・・うん。ちょっと擁護出来ないかな?それとやっぱりイッキ君は敵に回したくないって想いがより一層強くなったよ
ちょっと遠い目になり掛けながらも庁舎の屋上まで半分辺りとなった時に建物の内部にアナウンスが流れ始めた
≪御機嫌よう、冥界の皆さん。ディハウザー・ベリアルです。突然の放送となりましたが私は見ての通り、平穏無事です≫
これは!王者の・・・皇帝ベリアルの放送!?
「ねぇ皆、あそこに在るテレビを見て!」
イリナさんが何かに気付いたのかこういったビルの中に所々に設置されているテレビを指さす。そこには今まさにディハウザー・ベリアル氏が映っていたのだ。アナウンスなどの音声だけではなく生中継で恐らくは冥界・・・いや!可能な限り各勢力のチャンネルに向けて発信しているのだろう
僕たちはそれを見て立ち止まるのも一瞬に再度上を目指して走り出す。映像は見れないものの庁舎内のアナウンスからも音声は流れているのでその内容は聞こえてくる
≪今から皆さんにお伝えしなくてはならない事が有ります。それは、レーティングゲームの闇だ≫
そこから語られた王者の話は以前僕たちがアジュカさまから聞かされた内容そのものだった
レーティングゲームのトップランカーが『王』の駒で不正行為を働いていた事。ゲームを取り仕切る上役たちの『王』の駒以外にも行われる過剰なまでの圧力や反則。ここまでは以前聞いたままだったが、そこから僕たちの知らない高潔なはずの王者がリゼヴィムに協力してまで動いた理由について語られていく
≪私の従姉妹のクレーリアがある日私にこう訊いて来た『王の駒の事を知っているか?』とね。当時の私は『噂程度なら知っている』と答えたよ。実際、都市伝説の類だと思っていた≫
その後の話に耳を傾けると如何やらそのクレーリアという女性は都市伝説では終わらせずに『王』の駒の事を調べて真実に到達、またはかなりの所まで近づいたのだという。その彼女と王者は実の兄妹のように親しかったようだ
―――結果だけ云えば彼女は冥界の上役たちの手によって殺されたらしい
クレーリア・・・クレーリア・ベリアルと云えば僕たちにとってまだ聞いたばかりの名だ
リアス元部長の前に駒王町を治めていた人で当時まだ敵対していた教会所属の八重垣正臣さんと恋に落ち、三大勢力間の戦争に発展するのを危惧した教会の人達と悪魔の人達が何度も説得を試みるも失敗。結果として両陣営が一時的に目的を合致させて二人の粛清に踏み切ったという何とも苦々しい内容だった。しかし、王者の言ってる事を加味すればまた状況が変わって来る
悪魔の上役たちは初めからクレーリアさんを始末するつもりだったのだ。『王』の駒の存在に近づいた彼女を始末しようとしている処に偶々それらしい理由が転がっていただけの事
勿論、当時の三大勢力は長年の緊張状態にあったから上役たちが絡まなくても同じ結果になっていた可能性はある。だけど僕たちはイリナさんの父親のトウジさんが粛清という判断を下すまでにどれほど心を折り、またその後も苦しんで来たのかトウジさんの懺悔の言葉から識っている
それに対して上役たちは初めからクレーリアさんを説得する気など無かったのだという・・・いや、きっと他にも手を回したのだろう
細かいところまでは流石に解りようもないが、結果としてクレーリアさんというディハウザー氏を兄のように慕い、恋人と共に最後まで愛を説いた女性は冥界の上役たちの酷く利己的な理由で断罪が決定された訳だ
やっと得心がいった。あの王者がテロという行為にまで手を貸してでも真実を求めたその動機としては十分理解は出来る内容だった。しかし、だとしても王者がクリフォトに手を貸した事は覆せない事実。これ以上彼が罪を重ねない為にも絶対に止めなくては!
決意も新たに僕たちは遂に庁舎の屋上へ躍り出た
屋上ではその一角に配信用の機材に囲まれた王者、ディハウザー・ベリアル氏が居た。如何やら配信自体は既に停止しているようで機材も動いていない
そんな状況で彼はゆっくりと此方を振り返る
「さて、『D×D』の諸君。私は如何したら良かったと思う?今の事実を手に入れ、冥界に伝える為に私は余りにも罪を犯し過ぎた。レーティングゲームの王者なんて言われておきながらその聖地を穢し、ライザー・フェニックス氏との試合でもゲームプレイそのものも穢してしまった・・・・全く酷いチャンピオンだ」
振り返った彼の顔は何時もテレビで見るような爽やかで自信に満ちたスターとしての笑顔ではなく、痛々しく自嘲に満ちた儚い笑顔だった
その様子を見て僕たちが何を言う前に機材の裏から銀髪の男が現れる
「
「・・・リゼヴィム様」
その男の登場に僕たち皆が険しい顔となる。その声を聞いてるだけで、その姿を視界に収めているだけで、こうまで不快な気分になるだなんてね―――そんな中、イッキ君が一歩前へ出る
「ディハウザーさん。目的を果たした貴方がまだクリフォトに居る理由は有るんですか?出来ればリゼヴィム討伐に力を貸してくれたら有難いんですけど」
イッキくぅぅぅん!!?王者とリゼヴィムが並び立ってるこの場でどんな交渉し始めてるの!?
しかも投降を促す内容じゃなくて協力しろだなんて厚かましいにも程があるよ!
「ハッ!所詮は矮小な人間だな。強大な力を前にすれば最後は我ら異形の存在に媚びる事しか出来ないのだから」
いえ、その矮小な彼は先日も最強邪龍と真正面から殴り合ってましたよ?―――そう言えばリゼヴィムとイッキ君が直接戦闘をした時って無かったよね。戦ってるところを見たのもアウロス学園の時に映像越しに不意打ち喰らわせてるシーンだけだったし、天界で直接相対した時はイッキ君は邪人モードになってなかったし、過小評価になるのは仕方ない・・・のかな?
「しかし・・・ここまで冥界を混乱させた私が今更そのような事をして何になる?」
「そうですね。冥界の為に為ります―――貴方が冥界を混乱させた事に負い目を感じているなら今すぐ隣のリゼヴィムに魔力弾をぶち込みましょう。それが冥界、ひいては世界の為に為ります」
歯に衣着せぬ言い方!イッキ君ちょっと面倒くさくなってない?・・・ライザーさんの大事な試合を壊された事はやっぱり少し根に持ってたのかな?
「・・・それともこう言いましょうか?貴方がこれ以上迷ってリゼヴィムに協力してしまうと貴方の眷属やベリアル家の立場がどんどん悪くなりますよ?ご家族については72柱の存続の観点から殺される事は無いでしょうが、貴方の眷属は漏れなく縛り首です」
今度は脅して来たああああ!!これを脅しと言って良いのかは疑問だけど、負の側面から説得し始めたよ!王者の良心につけ込む気満々だ
「馬鹿な!眷属たちには既に外れて貰った!最後まで私の我が儘に付き合う必要はないと!それに彼らには私は詳細などは話していなかった・・・所々で彼らに普段とは違う指示こそ出したが、彼らが私が真実を識る為に犯罪に手を染めていたと告げたのは最後も最後だ」
そうか。王者は眷属が罪に問われにくいように可能な限り自分の手で事を進めて来てたんだね
「ディハウザーさん。腐った貴族たちにとって
それは・・・確かにそうかも知れない。かつて黒歌さんが『はぐれ』となった時も白音ちゃんは『家族だから』という理由で処刑されそうになっていたと聞く
魔王様がディハウザー氏の罪の対応に苦慮すればするだけ眷属の方々の処刑または『偶然の事故死』の可能性が高まりそうだ
「あんな甘言に惑わされるなよベリアル卿。必要なら貴殿の眷属も家族も保護してやろう」
そんなリゼヴィムの提案をイッキ君は鼻で嗤う
「保護という名の人質ですね。そう言えば知ってましたかディハウザーさん?そこのリゼヴィムは貴方の従姉妹のクレーリアさんの恋人である八重垣さんを聖杯で復活させて邪龍を宿した剣を持たせて精神汚染を引き起こさせて兵に仕立てた上に用済みになったら彼を殺そうとしたんですよ?きっと保護した方々も色んな洗脳や改造を施してディハウザーさんを操る為に活用するに決まってます・・・そうですね。体の中に爆弾組み込んだり特定の薬を定期的に摂取したりしなくては徐々に体が崩壊するようにするとかでしょうね」
イッキ君のセリフの最後に『俺ならそれ位はします』って幻聴が聴こえた気がするよ
「ええい!さっきから屁理屈ばっかり並べやがって!おい王者くん。まさか今まで色々情報提供してやった恩を仇で返すような真似はしねぇよな?」
「ハッ、散々他人を煽りまくってきたお前が最後に情に訴え掛けるようになっちゃお終いだな」
イッキ君とリゼヴィムが同時にディハウザー氏に右腕を差し出す
「「さぁ、お前の居場所は此方だ。この手を取れ、ディハウザー・ベリアル!!」」
見事にセリフがハモったよ!魔王の息子と邪人オール・エヴィルが傷心の王者を取り合ってるよ!
「・・・・・なぁ木場。俺達は何を見せられてるんだ?」
「勧誘合戦じゃないかな?」
「にゃははは、まぁイッキの狙いは分かるんだけどね。王者がこっちに付いてくれるならそれで良しだし、失敗しても会話で時間稼ぎすれば裏方組の仕事も捗るだろうしね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少しの間沈黙していたディハウザー氏は右手を僕たちの方へ向け、手のひらの先に濃縮された魔力弾を創り出した―――ダメなのか!もう王者自身が引き返せないと諦めてしまっているのか!
「そう。それで良いのだベリアル卿。我らは悪魔だ。貴殿に懸念が有ろうとそんなものはトライヘキサと邪龍共の力を持ってすれば各勢力が相手だろうと打ち砕ける。先ずは我らの邪魔をする目の前の『D×D』を共に葬り去るとしよう!」
リゼヴィムが高らかに宣言すると同時にディハウザー氏が魔力弾を手首のスナップを利かせて斜め後ろに居たリゼヴィムに撃ち放った
「ッグァ!げほっ!なにしやがる王者アアア!」
咄嗟にガードしたみたいだけど完璧じゃなかったのか額から一筋の血が流れているリゼヴィムが憤怒の形相で問いただす
「―――申し訳ございませんリゼヴィム王子。私はこれ以上家族や眷属、領民まで失う訳にはいかないのです」
「だからそれくらいなら別に好きに匿えば良いって!・・・」
「いえ、本拠地たるアグレアスに攻め込まれて兵たる量産型邪龍も全滅しているこの状況・・・既に
うん。確かに本丸まで攻め込まれて部下も居ない裸の王様状態の彼が勝ち馬とは思えないよね
そんな感想を抱いていると空の向こうから白い閃光が高速で突っ込んで来て庁舎周りの結界を強引に破壊し、僕達の居る屋上に降り立った
「これは・・・今如何いう状況なんだ?」
降り立った白龍皇たるヴァーリ・ルシファーが困惑するのも無理はない。味方同士であったはずのリゼヴィムと王者が敵対しているんだから
「ヴァーリか・・・・あ~、アレだ。イッキの説得(?)の末、王者が味方になってくれたんだ。リゼヴィムの人徳の無さが成せる業だよ」
イッセー君が彼に簡潔に状況を伝えている。それを聴いたヴァーリもあきれ顔だ
「そうか・・・アーサー達には余計な邪魔が入らないように且つ奴がここから逃げられんようにこのビルの周囲を固めて貰っている。だが、リゼヴィムの前に此処まで戦力が揃っているとは思ってなかったぞ。奴とは
あはは、確かにもしも数千か万にも届いていそうなあの邪龍達の妨害を受けていたらこの場に辿り着けたのは数人だけだったろうね
実際には精々デュリオさんがニーズヘッグに相手に持久戦してるくらいだからね・・・今も離れた場所に雷やら竜巻やら火炎旋風やらが見えるからもう少し掛かりそうかな?
こうして僕たちは余りにも充実した戦力の下、遂にリゼヴィムとの決戦が始まろうとしていた!!
・・・ここまで来るとちょっと気が引けるなぁ。そう思いながらも僕は剣を構えるのだった
[木場 side out]
[アザゼル side]
イッセー達と別れて俺は真っ直ぐにアグレアスの中枢へと向かっていた
アグレアス内部の地図は元々研究していたアジュカに頼めば普通に入手出来たので迷う事は無い。流石に中枢へ近づく為の通路には幾重ものトラップが張り巡らされていたがこちとら天界に居た頃からの技術屋だ。一つ一つ確実にトラップを解除して前へ進む
しかしアグレアスの中枢までもう分かれ道も無いという場所まで辿り着いた時、俺の前に小さな黒い影が佇んでいた。オーフィスの半身であるリリスだ
オーフィスとの外見上の違いはオーフィスが髪をストレートにしているのに対してリリスはポニーテールにしているところ位だろう。まぁある意味で双子だから当然なのだが何ともやり難いぜ
リリスの後ろにはアグレアスの動力部の巨大な扉が見える
この空間自体も戦闘を行うには十分な広さが有るだろうが、真面にやり合っても俺では手も足も出ないから力づくで突破するという手段は取れない
「なぁ、リリス。俺はその後ろの扉の向こうに用が有るんだが通しちゃくれないか?」
取り敢えず語り掛けてみるがリリスが可愛らしく首を傾げる
「ここ、とおる?」
「ああ、ダメか?」
「むり、リゼヴィム。ここ、まもれとリリスにいった」
だろうな。だが逆に言えばここまでアグレアスが攻め込まれている状況でもリリスを優先して此処に配置するだけの理由がこの先に在るって事だ。こちらも簡単には退けん
さて如何したものかと思案に移ると奇襲作戦が始まる前にイッキが皆に配った物が在る事を思い出した。イッキ曰く、対リリス用のアイテムという事でなんでも『我が家に代々伝わる錬金術を用いてオーフィス監修の下、作成した逸品』だと言う
それを聴いた時は驚いたさ。イッキの家の事はコカビエルの顛末を知った後で血筋も含めて調べたはずだった。錬金術師の末裔なんて情報は掠りもしなかったがイッキの奴も可能な限り情報は伏せてこそここぞという時に役に立つと言っていたし、俺も組織の元長としてそれは理解出来る事だったから文句も言えん
俺は異空間に仕舞ってあったソレを取り出す。見た目は上品な漆黒の箱で仙術で封をしてあるみたいだがこれは軽くオーラを流し込めば開くようになっているみたいだ
リリスも俺が何かを取り出したのを興味深そうに見つめているようだが構わず箱を開ける
どんなアイテムが入っているのかは分からんがイッキ曰く、見れば使い方は理解出来るらしい
この土壇場でイッキが明かした錬金術で造られた物となれば研究者として少しワクワクした気分にもなっている自分が居る。そうして俺はその中身を見た
先ず目に飛び込んで来たのは箱と同じような漆黒だ。此方の方が光の反射率が高いのか所々輝いても見える。近未来的建造物などに見られる曲線を描くようなボディーのソレに木製の杭が一本突き刺さっている。次に目に入ったのはその漆黒の本体に無数に散りばめられた色鮮やかな宝石の数々。本体と相まってまるで満天の星空ような煌びやかな仕上がりとなっている
最後に俺の五感が訴えかけて来るのはやはりこの芳醇な香りだろう。甘い匂いの中に僅かに酸味の匂いも混じって俺の口内の唾液の分泌量が僅かに上昇するのを感じる
「―――って!チョコバナナじゃねぇかあああああああああ!!」
なに?イッキの奴馬鹿なの!?死ぬの!?この局面でなんてもん渡してんだよ!
それと家に代々伝わる錬金術って料理の事かよ!確かに錬金術は台所が起源なんて説も有ったが、そりゃあどの家だって代々継承してるわ!
思わず箱ごと床に叩き付けたい衝動に駆られたが俺の第六感が強烈なまでの視線を捉えた
“ジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ”
・・・見られてる。リリスの視線が穴が開くレベルで俺の手元のチョコバナナに釘付けになっている。てか既に口元から唾液が垂れかけているくらいだ
そう言えばオーフィスも果物の中では特にバナナが好物だ。アーシアがクロウ・クルワッハにバナナを渡して奴も持ち帰ったと聞くし、確か吸血鬼のツェペシュ町でイッキと黒歌がリリスに出会ってバナナを食わせて天界では去り際にイッキがプレゼントと称してリリスにチョコレートを渡していたと云う―――リリスが強く興味を惹くであろうチョコとバナナを掛け合わせてリリスと趣向が似ているであろうオーフィスが最高に『美味しい』と感じるチョコバナナを作成したと!?
俺はそのチョコバナナを取り出してリリスに魅せ付ける
「―――ッ!!」
もう完全に目を見開ているな。手がチョコバナナを受け取ろうと無意識に空中で揺らめいている
「ほら、如何だ?欲しいか?通してくれるならやる。ダメならやらん。どうだ?」
こうして俺はチョコバナナを武器に最強の龍神と交渉に入るのだった
[アザゼル side out]
バレンタインなのでチョコレートネタを盛り込んでみましたww