第一話 大王家、襲撃です!?
[アザゼル side]
イッキのバカと話し合い(殴り合い)をしてから二日程経過した
俺は今、冥界の首都である『リリス』でサーゼクスと面会していた。直接話したい事も有るし、他にもこの場で待ち合わせている人物も居る
「あ~あ~、気が抜けちまうよな。俺達首脳陣が最悪を想定して悲壮な覚悟を密かに決めてたってのにイッキの策が成功したらトライヘキサを
仮に倒しきれなかったとしても大ダメージは与えられそうだから、当初の予定通りに進めても俺らが引き篭もる時間は大幅に短縮できそうってのがな・・・」
まだその三人目がこの場に来ていないうちにサーゼクスに対して愚痴を溢す。可能ならヤケ酒に付き合わせたいくらいだ
「ハハハ、
・・・うん(死ぬ)勇気は必要かな?寧ろそれ以外になにが必要なのか分からないね」
まぁコイツの場合は立場が違うからな。それでも仮に当てはめて考えたなら・・・コイツの頭が弾け飛ぶ未来が見えるぜ
「一応訊くがイッキにアレを用意する事は悪魔陣営として可能か?」
「難しいだろうね。イッキ君にだけ全てを託すなんて事は出来ないさ。代替案があるなら尚更ね」
だろうな。少しでも保険は多めに作っときたかったんだが、そこまでの成果は期待出来ないか
「実際どうなんだいアザゼル?堕天使の元トップとしてアドバイスを求められたんだろう?」
「知らねぇよ。俺の管轄とは少しズレてたからな・・・まぁ代わりにバラキエルやらベネムネやらサハリエルやらといった幹部連中を紹介しとけば後は上手くやるだろう」
「それは・・・イッキ君が求めているものとは違う気がするのだが?」
それこそ知らねぇよ。イッキに対して真面目に対応するのも馬鹿らしい・・・が、俺達
アイツ等にも遠慮するなと伝えてあるしな
クックック!アドバイスと称してこれを機にイッキの精神を魔改造してやろう
俺が口の端を吊り上げているとこの部屋に近づく気配を感じた
「―――おっと!来たようだな」
俺が部屋の入口に目を向けると少しして扉をノックする音が響いたので入室の許可を出す
「失礼します。魔王ルシファー様、アザゼル元総督様」
「よく来てくれたな。エルメンヒルデ」
そう。今入って来た人物こそが俺らの今回の待ち人―――以前駒王町にも特使という形で訪れた事のある吸血鬼のエルメンヒルデ・カルンスタインだ・・・如何でも良いが俺の事を『特別技術顧問』って呼んでくれる奴一人も居ねぇよな。そんな如何でも良い事も頭の片隅で思いながらも数か月ぶりにその姿を見る
金色の髪に血のような赤い瞳、病的な程に白い肌に貴族のドレスと見た目は前の時と変わらないが、身に纏う雰囲気は大分変った
以前のような吸血鬼以外を完全に見下す感じではなく、ふとした瞬間に消え入りそうな儚げな印象を抱かせる感じだ
まぁ吸血鬼の二大派閥であるカーミラ派もツェペシュ派もリゼヴィムの企みで上級貴族から兵士までその多くが邪龍へと身も心も改造されちまったからな。国力はガタ落ちで排他的な吸血鬼達がすぐに和平に応じたくらいだ
今は国を立て直す為に動ける奴ら総出であちこち奔走しているらしい・・・そう言やイッセーが正月に祖母の家に行った時にエルメンヒルデとアガレスの姫に出会ったと言ってたっけか
短い間に世界中飛び回って祖国の為に本気で頭を下げ続ける日々を送ってれば、価値観の一つも揺らぐだろうさ
エルメンヒルデは懐から取り出したメモリースティックをテーブルの上に置く
「元総督様の憶測通り、マリウス・ツェペシュが残した聖杯の隠しデータが見つかりましたわ」
それを見た俺は一つ頷く
やはり在ったか―――幾らマリウスの野郎が愚物とは云え、仮にも王族で研究者でもある奴なら聖杯の研究データでも最も重要なものは別に保管してあると踏んでいたのだが、読みが当たったようで何よりだ。聞けばデータを探す為に城中ひっくり返して人間関係も含めて洗い浚い調べたらしい
どうにもマリウスの野郎は聖杯の研究データをリゼヴィムが城に滞在する前に食料として血を吸う為の人間の体に術として刻み込んで国外追放という扱いにしていたらしい
俺はテーブルの上のメモリースティックを手に取る
「助かったぜ。エルメンヒルデ」
聖杯は今回の戦いにおいてのキーパーソンだ。聖杯が向こうに渡ったままだと最悪トライヘキサを倒したとしても復活した邪龍達のように再生しました、なんて事にも成り兼ねん
戦闘面でも聖杯が有る限りは邪龍や偽赤龍帝を幾らでも増産出来るからな。聖杯を奪取する為にも聖杯に関するデータは幾らでも欲しいところだ
「いえ、仕事ですので」
あらら、これまた素っ気ない返事だな
イッセーが言うには大分雰囲気が軟化したとの事だったが・・・ふむ
「いや、マジで助かったぜ。報酬には色を付けておこう。俺はこれから駒王町に戻るが、一度寄ってくか?イッセーの顔も見れるかも知れんぞ?」
報酬の事では特に変化は無かったがイッセーの名前を出した途端にエルメンヒルデの顔が真っ赤に染まりやがった
「なっ!?な、な、なぜそこで赤龍帝の名前が出てくるのですか!?わ、私とは関係ありませんし、私自身もそんなに暇じゃありませんのよ!?」
滅茶苦茶動揺してるな。イッセーの事だからひょっとしたらと思ったらやっぱフラグ建ててやがったが―――となるとイッセーの七人目はこの嬢ちゃんになるんかね?ルフェイは『おっぱいドラゴン』のファンとしての要素が強いし、おっかない兄も付いてるから将来関係が発展するにしてもまだ少し掛かりそうなんだよな
だがエルメンヒルデも中々顔を会わせる機会も無いとなると厳しいか?―――まっ、イッセーの事だから勝手に後2~3人程度は増えてくだろうさ・・・ヴァーリは如何なんかね?今は強く成る事で頭が一杯みたいだが誰か守りたい奴でも見つければもう一歩大きく踏み出せるようになる気はするんだがな
リゼヴィムの奴が居なくなった事で自分を見つめ直す余裕が生まれる事でも願っとくかね
[アザゼル side out]
[三人称 side]
アグレアス奪還作戦が成功してから五日程経ったある日
冥界で魔王よりも影響力が有るとされる大王バアルの治める領は喧騒に包まれていた
理由の一つは先日ディハウザー・ベリアルが冥界全土に発信したレーティングゲームの不正の数々の告発によって領民の不満が爆発してしまっているからだ。大王家もそれに加担していた事は告発の内容に含まれている為、民衆の怒りの矛先がそちらに向かうのは必然と云えた。王者の流した情報を元に、今頃冥界全土で不正組の拠点に人々が押し掛けている事だろう
今、バアルの城の廊下を数人の衛兵と共に歩いているのは大王家次期当主のサイラオーグ・バアルの
そんな彼を守る衛兵たちは50を超える堅牢な防御結界に守られた過去に一度も陥落した事の無いバアルの本家の中だというのに硬い表情で気を張っている
それと言うのも先程から城の周辺で幾度も爆音が鳴り響いているからだ―――そう、最も歴史と権威を持った大王家は今、襲撃の最中にあるのだ
襲撃者は先ほどのレーティングゲームの不正を知った領民ではない。幾ら数が居ると言っても彼らの力では防御結界を突破できないからだ。中には魔力の高い者も混じっているだろうが伊達に大王家の権力と財力は高くない。民衆の暴動を抑えられるだけの衛兵は揃っている
加えてマグダランの眷属も『女王』以外は民衆を宥める為に派遣していたので、よっぽどの事がない限りは問題ない
ではバアル本家まで攻め入っている輩は何者かと云えば如何やら仮面で顔を隠している者達のようだ・・・如何考えても実力ある領民なんてオチではない
マグダランは内心でため息をつく。今現在この城に居るバアルの者は自分一人だけだ。普段は現当主の父とその妻の母、そして自分と兄のサイラオーグの四人が住んでいる
初代を含めた歴代当主とその伴侶はそれぞれが冥界の各地で隠棲している
そんな中で現当主はトライヘキサや領民への対策を如何進めれば良いのか初代に意見を仰ぎに行っている。マグダランの父親は政治だけでなく家の行事でさえも常に初代や先代の指示を受けなければ動けない男だった・・・そのクセ他人を見下す事だけは一流だ
マグダランは襲撃者が何者かを考える。正直バアル家が他者から狙われる理由は山ほど有るのだが、このタイミングでの襲撃となるとやはり王者の告発したレーティングゲームの闇についてだろう。マグダラン自身は『王』の駒は流石に予想外だったがゲームで不正が働いているのは何となく察していた。しかし、民衆もしっかり騙せてゲームの運営も問題ないのであれば気にする必要すら無いのだと思っていたのだ
不正や汚職はバレた際のリスクを伴うが、バアル家の権力ならば大抵の事はもみ消せる・・・まさか民衆への影響度で云えば魔王にも匹敵するであろうディハウザー・ベリアルが冥界の混乱を承知で大々的に暴露するとは思わなかったが
今回の一件でバアル家とそれに与する派閥は多少発言力や権力を落としてしまうだろうが、それは仕方ないものとして早急に立て直しを進めて魔王派に弱みを握られないように立ち回るべきだろう・・・そう思ったところでマグダランの父親は子供の意見など聴く訳がないので意味の無い考察だったと、諦めたような心境で彼は首を振ってその思考を頭から追い出す
何時の間にか思考が逸れてしまった彼が廊下の角を曲がるとその先に全身を漆黒の鎧に包み込んだ者が此方に近づいて来るのが視界に入る
マグダランの護衛たちが彼を守るように立ち塞がり、各々武器を構える
しかしその鎧姿に見覚えの有ったマグダランは護衛たちを静止する
「待て・・・そちらはソーナ殿の眷属とお見受けします」
彼らの前に出てそう声を掛けるとその人物は鎧の兜を収納して軽く礼をとる
「貴方がサイラオーグの旦n・・・次期当主様の弟のマグダラン様ですね?俺はソーナ・シトリー眷属の『兵士』です。助けに参りました」
「よもや貴公等『D×D』に助けられるとはね」
マグダランはそれに軽い皮肉を交えて答える。『D×D』は対テロの精鋭部隊だ
現魔王政権に対して政治的にマウントを取る為に裏で様々な汚職を重ねている古き悪魔たちは寧ろ『D×D』の敵と云える。無論、決定的な証拠を掴ませないように立ち回っているが、本来であれば『D×D』とは本質的に真逆なのだ
『D×D』に所属しているという点ではマグダランの兄であるサイラオーグもそうだが、彼・・・と云うより今『D×D』の中でも『
本来『滅びの魔力』はバアル家の持つ特性だが現当主もマグダランも特別強い『滅び』を持っている訳ではない。次期当主のサイラオーグに至っては『滅び』が使えないどころか通常の魔力も最低レベルという有様だ。対してグレモリー家は且つて嫁に行ったヴェネラナ・グレモリー(元バアル)、超越者で魔王を継いだサーゼクス、『
かつてライザー・フェニックスがリアス・グレモリーに対してお家事情が切羽詰まってると言ったのも大王家及び大王派の圧力から家格に見合う婚約相手を見つけ難くなるであろうと云う次世代に向けた言葉だ。フェニックス家はフェニックスの涙の財源と不死によるレーティングゲームの優位性によって多少バアル家から睨まれた程度ならば揺らがない地盤を持っていたと云うのもライザーとの婚約の背景には含まれている
その辺りの事情が分からず首を傾げる匙元士郎にそのまま護衛を頼み、彼に先導されてバアル家からの脱出を図る。マグダランの母も連日の民衆の暴動の喧騒から逃れる為にどこぞの田舎に身を隠しているのでマグダランが脱出したらバアル本家からバアル家の者が全員居なくなる訳だ。それも逃げ出す為に
力を信奉すると謳っている悪魔社会の大王家の実態は本気でパワーで攻められたらサイラオーグ以外は逃げの一手しか打てないのが現状だ
マグダランにも才能と呼べるものは有ったがそれは植物学者としての才能だ。戦闘ではなんの役にも立たない。褒めてくれたのはサイラオーグだけだ
冷え切った家族関係の中で唯一サイラオーグだけはマグダランに兄として接していたが当のマグダランの態度は素っ気ないものだった―――どころか裏ではサイラオーグの政策や興行の邪魔をするように動いていたくらいだ。それなのにサイラオーグはマグダランの妨害工作に気付いているはずなのに恨み言の一つも言わない。何年もただ虚しさが重なるというだけの結果に終わった
「もうすぐです」
匙元士郎がマグダランたちに声を掛ける。前方には城の裏口が見えていた
だがそこで先導していたサジが立ち止まり後続のマグダランたちを手で制してオーラを高める
護衛たちもそれを見て構えを取る中、向かう先の裏口の扉が弾けて同時に大きな塊が入ってくる
宙に舞っていたソレは重力に従い"ドサリ"と落ちる
ソレは灰色の髪にライトアーマーとマントの軽装をしたマグダランの『女王』であるセクトーズ・バルバトスだ。脱出先の安全確保の為に先行していた彼は仮にも元バアル家の次期当主であったマグダランの『女王』に選ばれるだけあってそれなりの戦闘能力も有している。でなければ攻め込まれる状況で単独で安全確保の任など任せられない。その彼が今は血だらけで転がっているのだ
「セクトーズ!大事無いか!?」
マグダランの声に反応してサジが鎧から触手を伸ばして倒れ伏すセクトーズを拾い上げる。彼をボロボロにした人物が近くに居る状況でマグダランを伴って前に出る訳にはいかないからだ
マグダランの前に運ばれたセクトーズは血を吐きながら主に「お逃げ下さい」と伝えてそのまま意識を落とす
全身を槍で貫かれたような怪我を負い、このままでは出血多量で死亡してしまうと考えたマグダランは自らの衣服を破いて出血箇所を縛っていく
すると裏口のある広間であるその空間に拍手の音が響いて来た
「お優しいのですな。とてもバアル家の方とは思えない」
音源を辿ると破壊された裏口に一人の人影が立っている
「・・・ビィディゼ・アバドン殿か」
そこに居たのはレーティングゲームのランキング第三位であるビィディゼ・アバドンだ。先日のディハウザー・ベリアルによるレーティングゲームの不正公表で『王』の駒の使用者として挙げられていた人物の一人でもある
マグダランはこの状況であの登場となれば仮面の襲撃者たちの正体はビィディゼ・アバドン及びその眷属なのだろうと納得する
レーティングゲームにおいて不動と云われるトップ3の『王』は魔王級の実力者とされ、その眷属の力も洗練されている・・・最も、そのビィディゼが『王』の駒の使用者という事は駒を抜き取ったら眷属最弱になるのだろうが、ビィディゼが迸る魔力を身に纏っている様を見るに駒を抜き取られてはいないようだ
「貴方は確か・・・次期当主殿の弟さんでしたかな?突然の訪問申し訳ありませんが、私は初代殿と現当主殿に急ぎの用が有るのです。どちらに居らっしゃるかお教え願えませんか?」
口調こそ丁寧だがやっている事は真逆だ。残骸となった扉を踏み付けて入って来るビィディゼにマグダランも当然、まともに返答する気など無い
「生憎ですが、我がバアル家には玄関の開け方も知らないような者を初代や当主に会わせて良いという教えは無いのですよ・・・とは云え、折角かの有名なビィディゼ殿にお越しいただいたのです。私で宜しければご用向きを御聞きいたしますが?」
少しでも相手の目的を探り、援軍が来るまでの時間稼ぎの為に会話に入る。目の前に居るのは偽りだろうと魔王級の実力者なのだ。ハッキリ言ってマグダランと衛兵は戦力にならない上にサジもその力は高めに見積もっても最上級の中堅クラス・・・最も半年前までただの人間だった事を加味すれば十分破格なのだが魔王クラスを相手取るには力不足だ
「なに、簡単な事です。ご存じでしょうが先日ディハウザーが世間に色々暴露しましてね―――レーティングゲームの闇、その首謀者として初代殿と現当主殿の
「駒の使用者である貴方がですか?」
「ええ、私は古き悪魔たちに家族や友人を人質に取られて泣く泣く『王』の駒を使って彼らの下で働かされてきた『被害者』ですからね。今の冥界の混乱に乗じて魔王派の一部の方が彼らを『保護』してくれたので私は最後の責務としてこうして諸悪の根源である初代殿と現当主殿を討ちに参ったのです。この件が終われば記者会見で私はこれまでの責任を取ってゲームからの引退を表明するでしょう」
「・・・成程。そういう筋書きで既に魔王派の一部と結託しているのですね」
なんとも安直でお涙頂戴の話だろうか
目の前に居る男のイヤらしくニヤついた顔が全てを台無しにしているが、きっとカメラを前にしたらすぐに悲壮な表情を浮かべて大粒の涙を流すのだろう
一方的に糾弾される現在から世論を二分するところまで持っていき、勇退する
一定の名誉は守られる訳だ
「彼らとて一枚岩ではないという事です。それにバアル家が現魔王よりも尊いとされているのは引退したとは名ばかりの初代殿の影響が強い。バアル家の権威が失墜すれば政権は一気に魔王派に傾くでしょう。貴方は兎も角、そちらのソーナ・シトリー殿の眷属はそちらの方が都合が良いのではないですかな?それに次期当主のサイラオーグ殿も大王派の
話を振られたサジは受け入れられないと首を横に振る
「ダメですよ。そんなのはダメなんですって!そんな風に力と嘘で誤魔化しても何処かで別の憎しみと不満が溜まるだけじゃないっスか!」
「全員が納得する解などはないよ。だが、一部の被害を抑える事は出来る。私が涙ながらに民衆に訴えかけ、上に立つ者として責任を全うすれば彼らの溜飲は下がる。貴族の失墜が民の娯楽となり得るのは人間界でも同じだろう?」
「そんなのは犯罪を容認する理由にはなりませんって!!」
サジの真っ直ぐな言葉に今度はディビゼが呆れたように首を横に振る
「キミは戦略家たるソーナ・シトリー嬢の眷属なのだろう?もう少し君自身も賢くなりたまえよ」
「俺達はレーティングゲームを正しい形にして上を目指す・・・誰もが
それを聴いたビィディゼは顎に手をやって思案顔になる
「ふむ。確かに戦略頼りでもそこそこの戦績は出せるだろうが、トップを獲るのは諦めた方が良い。ライバルの少ない小さなタイトルが精々かな―――ランキングもトップ5以内には入れないだろうね」
「・・・何故そう言い切れるのですか?」
自分の主のスタイルをさも当然のように低く評価されてサジの声が一段重くなる
「私達が身をもって体験してきたからだよ。戦略は確かに重要だが、それ以上に重要なのは圧倒的な力を持ったプレイヤーだ。例えトップランカー同士の戦いでも魔王級が一人居るだけで相手の戦略の大半を踏み潰せる・・・キミたちが戦略重視で研鑽しているならばリュディガー・ローゼンクロイツ辺りを手本としているのではないかね?少なくとも意識はしているはずだ―――その上で訊こう。彼はランキング何位だ?」
「それは・・・」
咄嗟の答えに詰まるサジにビィディゼは畳み掛けるように事実を告げる
「そう、『
世間では常勝するのは無理でも王者たるディハウザー・ベリアルに土を付けられるとしたら彼が一番可能性が高いのではないかという意見も有るが、当然そんなポジティブな事を言うつもりはビィディゼ・アバドンには無い
「結局、トップに立てるのは何時の時代も1人か2人は居る突き抜けた才能か力の持ち主だけだ―――サーゼクス様然り、アジュカ様然り、ディハウザー然り。だからこそ、それに追いすがろうとするならば足りない『力』を別に補う必要が在った」
「貴方にとってそれが、『王』の駒という訳ですか?」
自らの『女王』のセクトーズの手当を衛兵と一緒に大方終えたマグダランが問う
「その通りだ。私は『王』の駒を手に出来る立場が有った。財力が有った。適性が有った・・・貴族だからこそ許された特権だ。それも今回の件で終わるが、まぁ愉しませて貰ったよ。ある程度ほとぼりが冷めたら次の娯楽を探さなくてはいけないがね」
例え偽りでもレーティングゲームの第三位にまで昇りつめた彼がさっさとゲームを用済みと未練もなく棄て去る様を見てサジは表現し難い憤りを感じる。自分たちの大切なモノを目の前でぞんざいに投げ棄てられているように感じたからだ
「―――ッなんでですか!なんでそんなアッサリと手放せるんですか!貴方にとってレーティングゲームはその程度でしか無かったって言うんですか!」
「私とて惜しい気持ちは有るさ。だが、敢えて『何故』と答えるなら、そうだな・・・ディハウザーに勝てなかったからだろうね」
どれだけ接戦を演じようとも自分も他のランカーたちも誰一人として王者には勝てなかった―――『決してトップに立てないゲーム』それがビィディゼ・アバドンのレーティングゲームへの感想だ
「しかしゲームを引退する代わりに最後に私は華々しい戦果を飾る事が出来る。悪逆非道のバアルを討ち取った悪魔―――歴史に私の名が刻まれるだろう。多少ごたついた幕引きではあったが、概ねプラスと云えるだろうね」
「バカ野郎オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
どこまでも身勝手なビィディゼの様子にサジの怒りが頂点に達して全身に呪いの黒炎を滾らせる
鎧から何本もの帯のような触手をビィディゼに向かって伸ばすがサジとビィディゼの中間辺りに幾つも空いた『
サジも初手が上手く決まるとは微塵も思っていなかったようで既に次の一手を準備している。彼の右腕にヴリトラの黒炎が集中する
ヴリトラの呪いの炎は一度喰らえば例え神クラスであろうと解呪に手間取る代物だ・・・有間一輝と模擬戦した時は邪人モードの彼に普通の炎と同じように払われたりしていたのだが、アレは相性が悪かっただけである。有間一輝に呪いとか効く訳ないので残るは普通の炎だけである
そうして放たれた巨大な炎は同じく巨大な『
「やっぱ力押しじゃ陽動にもならないか。ならっ!」
気持ちを切り替えたサジは一気に駆け出して距離を詰めつつ触手や黒炎を不規則な軌道で放つ
手数を増やして自分の攻撃が一つでも当たれば良いと云う考えだ。今のサジの役割はマグダランの安全確保。無論、勝てれば言う事は無いが執念の具現化とも云える触手を一本でもビィディゼに巻き付かせる事が出来れば彼らを別の場所から逃がす事も出来る
例え彼らを背に庇う形で逃がしたとしてもビィディゼの『
しかし相手は冥界屈指のテクニックタイプと称された悪魔。サジの攻撃の悉くが『
気配が現れたり消えたりを高速で繰り返す魔力弾の動きはただでさえ掴みにくいのにビィディゼは追加でどんどん魔力弾を放っていき、サジの隙が出来たところに的確に打ち込む
凶悪な威力の魔力弾はサジの龍王の鎧を砕く
サジも破壊された箇所を即座に修復するがその隙に別の箇所が破壊されてしまう。当然、鎧が破壊される程の衝撃は生身にも決して少なくないダメージを与えて見る間にサジの全身が血だらけとなっていく
同じテクニックタイプでこうも違う。単純なパワーではサジが劣っているとは云え、大差と呼べるほどの違いは無いはずなのに一方的なリンチにしかなっていない
一言で言うならこれが年季の差というものだ。極シンプルな能力なら兎も角、無数の触手や様々な能力の付与された炎を操る能力を己の手足のように操るにはサジが
そうして遂にサジが血反吐を吐きながら片膝を付く。鎧のお陰で辛うじで致命傷は負ってないものの、逆に言えばそれだけだ
「クソッ!・・・今にして思えば最初に出会った時に有間に仙術習っときゃ良かったかもな。なんて言ったところで半年ちょっとじゃまだ瞑想段階か・・・なら、気張るしかねぇよな!」
震える膝を黙らせて何とか立ち上がるがビィディゼはサジに諦めるように現実を突きつける
「残念だが気力で戦況を覆せるのは同じレベルの相手で且つその相手が油断している時に限る。キミが立ち上がる事に意味など無い」
ビィディゼが止めを刺そうと手元に先程までよりも強力な魔力弾を形成した時、ビィディゼの背後から莫大な闘気が迫って来た。その闘気の持ち主はビィディゼに向かって拳を突き出すが当のビィディゼは軽やかにその攻撃を躱して距離を取る
空振りに終わったその拳の余波がサジやマグダランたちの横を通り過ぎていき、バアルの城を一部破壊した
「よく立ち上がった。匙元士郎よ」
「旦那!」
現れたのは獅子を模した黄金の鎧を着こんだ『滅び』を持たないバアル家の次期当主、サイラオーグ・バアルだった
「これはこれは、若手の『王』では最強と称されるサイラオーグ殿ではありませんか」
「・・・ビィディゼ殿。今ならまだ引き返せます。どうか誇り高き第三位の名を穢さぬよう」
「ふふふ、まるで私に勝てるかのような物言いですね。少し増長が過ぎるのではありませんか?
大王家次期当主殿?」
まるで戦意を解かないビィディゼの様子にサイラオーグは一瞬瞑目してから拳を構える
「では、テロリスト対策チーム『D×D』の役割を果たさせて頂きます」
「若手悪魔最強が相手か。面白いですね!」
「戦う前に一つ。先程匙元士郎が立ち上がる事に意味が無いとだけ聞こえたのですが、それは違う。彼が立ち上がってくれればこそ、俺は全力で貴方と闘える」
立ち上がった彼が居るからこそ、弟を守る為に全力で『敵だけ』を見据える事が出来るのだという信頼の言葉にサジの目頭が思わず熱くなる
サジがバックステップでマグダランの近くに寄り、触手を周囲に展開して防御態勢を整えたところでサイラオーグ・バアルとビィディゼ・アバドンの闘いの火蓋が切って落とされた
先手を取ったのはサイラオーグだ。魔力に乏しく、肉体を鍛え上げただけでここまで昇りつめた彼には『近づいて殴る』以外の選択肢は無いと言ってもいい。仮に大岩などを投擲したとしても投擲物に魔力や闘気を纏わせられない以上は一定レベル以下の相手にしか通じない
ただただ迅く深く踏み込んで体術を繰り出すしかないのだ
愚直に突き出されたその拳は回避したはずのビィディゼの頬に一筋の傷を付ける。なんの変哲も無いパンチが当たった理由は単純。迅いからである―――あまりにも単純明快な回答だ
ビィディゼは瞬時に先程サジ相手に使ったのと同じようにサイラオーグの周囲に無数の『
そこから先程サジに放ったのと同じように全方位からタイミングをずらした魔力弾の嵐を浴びせるが、サイラオーグはその弾幕を複雑なステップでも踏むかのようにして体を捻り、拳で迎撃して避けていく―――先日、バップル君24男(総計2ダース)が殉職した辺りでもう彼は眷属の総攻撃をも捌けるまでに成長したのだ・・・サイラオーグは心の中でバップル君を悼み男泣きした
それを見ていたビィディゼが一旦攻撃の手を止め、それを訝しんだサイラオーグに称賛を送る
「想像以上の体捌きですね。しかし惜しい。貴公には結局それしか無い―――如何でしょう?貴公も『王』の駒を使ってみては?」
「・・・如何いう意味ですかな?」
「そのままの意味ですよ。貴公も己の才能の無さに苦慮した身だ―――駒が強化するモノは『魔力』。今の貴公でも『王』の駒は扱える。私が大王の首をあげた暁には私から古き悪魔たちに頼み駒を一つ融通して貰いましょう。私は劣勢となった大王派の幹部に魔王派と渡りを付けて恩が売れる。貴公はその力で真の大王となる。民衆からの信頼の厚い貴公ならば新しく、そして強い大王家を始められるでしょう!」
「いやそれ無理でしょ」
両腕を広げて「さあ!」と言わんばかりのビィディゼにサジが思わずツッコミを入れてしまう
サイラオーグとビィディゼの視線が自分に向いたところでポロっと溢した感想を聞かれてしまったのだと思わず口元に手をやるがフルフェイスの兜を付けている時点で意味は無い
「・・・あ、あ~っと、サイラオーグの旦那が魔力が苦手なのは既に周知の事実ですし、世間で『王』の駒に対する反感が高まってる中で急に旦那が『魔力に目覚めた』なんて言ったら100%民衆が離れていきますよね?」
「確かに、政治的に・・・と云うより常識的に考えて彼が『王』の駒を使用するなど愚の骨頂ですね。大王の首を取ろうとする程だ。やはりビィディゼ殿は正気でないと見受けられる」
二人の冷静なツッコミにビィディゼの顔が見る間に赤く染まっていく
「ハーッハッハッハッハッハ!成程、元より俺と、俺を慕って付いてきてくれた者達と共に積み上げてきた拳を否定して偽りの才能など欲しくは無かったが、俺より遥かに頭の回る弟にまで理屈で語られては、より一層その案は否定するしかありませんな」
幼い時以降、次期当主となってから家族として接する時は何時も生返事だけの弟の予想外の援護射撃がサイラオーグのツボに入ったらしい
普段のマグダランなら特に何も言わないところだが襲撃されているこの状況下では表に出さずとも動揺から多少何時もと違う言動も出てしまうという事だ
「なにが可笑しい!!」
頭脳面で痛撃を受けたビィディゼはサイラオーグたちの口を塞ぐ為に大量の『
「残念ですよ、次期当主殿。そろそろ終わりと致しましょう」
その言葉を合図にサイラオーグに向かって無数の魔力弾が雨あられと降り注ぐ。レグルスの鎧を纏ったサイラオーグと云えどもその中心に居れば見るも無残な肉塊へと変貌しただろう
「悪いが、態々喰らってやる気は無い」
・・・そう。『居れば』の話だ。包囲網を如何やってか抜けたサイラオーグが目にも止まらぬ速度でビィディゼの眼前に踏み込んだ。ビィディゼが攻撃を放つ直前にサイラオーグとレグルスは同時に唱えていたのだ―――「「
元より鍛え上げた肉体で最高峰の速度を出せていたサイラオーグが『騎士』の特性を使えば弾幕の壁の魔力弾を自分が通れるだけの数を弾いてその穴から脱出する事も可能だったのだ
そうしてビィディゼの虚を突いて接近し、拳を放つ
「「
インパクトの瞬間に駒の特性を変更し、ビィディゼの胸板を衝撃波を伴いながら撃ち抜いた
パンチの衝撃で城の壁をぶち破り外に落ちたビィディゼが瓦礫を押しのけ、口元を血で汚しながら立ち上がる。肋骨の2~3本は折れた感触がサイラオーグの拳には伝わって来ていた
腹や顔面を殴りたかったところだがそういった急所はディビゼが咄嗟に『
「ゴホッ・・・そうか、貴公の鎧は
「今有るもので使えるものは全て使う・・・俺の友にそんな人間が居るのです」
「例の有間一輝とか言う人間か。成程、実に弱者らしい臆病さだな」
ビィディゼが瞳に蔑むような色を灯しながら嘲笑するがサイラオーグは小さく笑うだけだった
何故ならその言葉は有間一輝の侮蔑足り得ないからだ
「クッ、いや失礼をした。有間一輝は弱者とも臆病とも言われても「その通り」と素で返しそうだと思ってな―――ビィディゼ殿。あの男がなにより恐ろしいのは、あれだけの力を持ちながらも本気で自分の事を『弱い』と確信しているところなのですよ」
有間一輝は原作でトライヘキサとの戦い辺りまでの流れしか識らないが、原作にまだ続きが在るのは知っている。インフレ激しいこの世界では魔王クラスの力で漸く逃げ惑って生き残れる
当然、サイラオーグ含めて誰もそんな具体的な事は知らないが、有間一輝が強さにおいて未だに
有間一輝は
「ビィディゼ殿、まだ続けますかな?」
「勝ち誇るのは早いですよ。確かにいきなり上がった速度には少々驚きましたが、来ると分かっていれば対処も出来る。例え貴公が『女王』となったとしても体術だけで落とせる程、第三位の名はダテでは無いのですよ」
「そう仰るならばお見せしましょう―――行くぞ!レグルス!」
『ハッ!』
「「
そこからは遠くから見ているサジの目でも捉える事すら難しい高速戦闘が開始される
無数に現れる『
目まぐるしく動き回る彼らはさながら小さな台風のようだ
あの中に不用意に割って入れば最上級悪魔クラスであろうともミンチになるだろう
旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブやクルゼレイ・アスモデウス、カテレア・レヴィアタンのようなオーフィスの蛇で突然得た魔王クラスの魔力をグミ撃ちするだけの輩とは違い、鍛え上げられた魔王クラス同士のぶつかり合いだ
だが幾ら体術に分があろうともこのままでは相性の差で先にサイラオーグが地に倒れ伏すのは時間の問題だ。だからこそビィディゼの隙を突く更なる一手をサイラオーグは切る
ビィディゼ・アバドンはサイラオーグには体術しかないと油断している。『女王』には魔力を底上げする『僧侶』の効果も含まれているが『サイラオーグは魔力を使えない』という認識は簡単に拭い去れるものでは無いのだから
「射抜け!レグルス!!」
『ハッ!!』
二人の意思が重なり合い、ここに魔力の耀きがサイラオーグを勝利へ導く
サイラオーグの胸元に在るレグルスの獅子の眼からレーザーのように指向性を持った強烈な光がビィディゼの目を焼く―――勿論サイラオーグの魔力で直接的なダメージを与える事は出来ないが、ただ只管に眩しいだけなら何とかなったのだ。少し仕様は異なるがイッセーならドラグ・ソボールの『太陽拳』を思い浮かべただろう
「だ、旦那ぁぁぁ!?なんでソレをチョイスしたんっスかぁぁあああ!!?」
叫びながらもサジは確信する。絶対にアレはサイラオーグとレグルスだけの考えじゃない。あの二人に変な事を吹き込んだ犯人が居ると
マグダランはそっと目を逸らした。サイラオーグは時折奇行(バップル君の殴り合い等)に走るが、接点を抑えていた彼にとっては初めて目にする光景だったのだ
そんな中、強烈な閃光(眼光)で脳までクラっとしたビィディゼにサイラオーグの『
拳の一発一発が相手の魂まで揺さぶると言われた獅子王の拳がガトリングガンのようにビィディゼの全身に打ち込まれ、最後に彼の拳がビィディゼの顔面を殴り飛ばした
「わ・・・私が・・・何故?・・・私は・・・魔王クラスと・・・言われて・・・」
朦朧とする意識の中でビィディゼは最後まで己の敗北を信じられないままに倒れたのだった
「だ、旦那・・・その、なんで目からビームなんですか?」
戦闘が終わったことでサジがサイラオーグに近づいて如何しても気になってしまった事を訊ねる。放置すると気になって寝つきが悪くなりそうだと思ったのだ
「む?―――そうだな。俺とレグルスが魔力を用いた技について案を出している時に偶然シーグヴァイラがやって来てな。「動物の顔が胸に在る
ロボットが敵になる日がやって来そうと云うのがあながち的外れでないのが一層質が悪い
まさかバアルの王子とアガレスの姫が二人揃ってロボットアニメを(ガチで真面目に)
そうして次にサイラオーグはサジの隣に居たマグダランに声を掛ける
「大事無いか?マグダランよ」
サイラオーグのその声音に、その視線に、その態度に自分のことを心から心配していた事がマグダランには見て取れた。だからこそ解らない
「何故ですか?何故貴方は貴方を嫌い、幾度も貴方の政治を邪魔してきた私などをそんな風に心配出来るのですか!?」
ディビゼとの戦闘でサイラオーグはボロボロだ。先程の匙元士郎と同じくらいのダメージを負っている。そんな状況にあっても尚、敵対する自分を心配するサイラオーグの心境が理解出来なかったのだ。寧ろ戦闘に巻き込まれてマグダランが死んだ方がサイラオーグにとっては都合が良いとさえ言えた。その上で何故?・・・と
そんなマグダランの問いかけにサイラオーグは弟の目を真っ直ぐに見ながら静かに答える
「―――俺はお前から次期当主の座を奪った。それも俺の力を皆に認めさせ、夢を叶えるという俺自身の我が儘の為にだ。だから俺はお前の怒りや憎しみの矛先が俺個人にのみ向かうならば、全て受け止めようと決めていたのだ」
それを聴いたマグダランはそれだけでは納得できないと首を横に振る。その説明ではまだ足りない
「違う!そうじゃない!その決意は確かに立派と呼べるものなんだろう!高潔と呼べるものなんだろう!だがそれは私を心配する理由にならない。私が貴方にしたように無関心でいれば良かったはずだ。初めの内なら兎も角、私にその気が無いと識れた時点で離れれば良かったはずだ!それなのに何故、貴方は未だに私に大切な者にするような目を向けて来るのだ!?」
「『弟』だからだ」
「―――ッ!」
何処までも真っ直ぐで、何処までも単純明快な答えだった
心配するのは『家族』だから―――冷え切った家庭環境で育ったサイラオーグの瞳は暖かな光で満ちていた
「・・・貴方は馬鹿ですね」
「ああ」
「不器用ですね」
「そうだな」
「愚か者ですね」
「否定はせん」
「政治の世界では苦労しますよ?」
「全くだ」
そこでマグダランは深くため息を吐いた
「ならばこれからは政治に関しては相談くらいは受け付けますよ―――『兄上』」
昔、まだサイラオーグが廃嫡される前の時にのみ呼んでいたその敬称がマグダランが示す和解の印だった
「ああ!これからも宜しく頼むぞ、我が弟よ!!」
「兄上が次期当主となった時にバアルのリンゴの品種改良の予算を割いてくれるなら、もう少し頑張って差し上げますよ」
「ハッハッハッ!それくらいならば安いものだ。共にバアル家を盛り立てていこうではないか!」
「う゛う゛ぅ!良かったですね、サイラオーグの旦那ぁ・・・」
麗しい兄弟の絆にサジは鎧のマスクを収納して涙を袖で拭っている
するとそこに額に二本の角を生やした桜色のウェーブの掛かった髪をした二十代後半くらいの容姿の妖艶な女性が現れた
「ビィディゼの馬鹿がバアル家に攻め込んだって聴いて止めに来たんだけど、如何やらもう終わってしまってるようね。コイツの眷属も私の眷属がシトリー眷属に加勢して鎮圧したところだし、一先ず終了ってところかしら?」
現れたのはレーティングゲームのランキング二位。ロイガン・ベルフェゴールだ。彼女もまたディハウザー・ベリアルに『王』の駒の使用者として告発された者の一人である
「私も所謂『不正組』さ。でも私はこの力も地位も後悔してないよ―――私はただ華々しくも楽しくゲームで遊びたかった。それだけさ・・・だからと言って
ゲームに『楽しさ』を求めた彼女はゲームで引き起こされる混乱は受け入れ難かったのだ
「獅子王くんに龍王くん。アンタたちはレーティングゲームは好きかい?」
倒れ伏したビィディゼに拘束術式を多重に掛けながらロイガンが問う
「私はレーティングゲームが好きさ。でも済まないね。一位から三位まで馬鹿ばっかりでさ・・・なんて一纏めに言ったらディハウザーのファンに「一緒にするな!」と怒られちまうかな?
―――これからのアンタ等の創るゲームを楽しみにさせて貰うよ」
ロイガンはビィディゼを引き摺って戦闘が終わった事で裏口の近くにまで来ていた衛兵に引き渡す
その後、別次元と称されるトップスリーの一角であるロイガンは最後の仕事とばかりに積極的に暴れる上位ランカーたちを黙らせて周り、最後にアジュカ・ベルゼブブへ『王』の駒の返上と謝罪会見によって民衆の暴動もある程度抑制したのだった
サニーサイドアップはどっちかと云えば魔法陣グルグルですねww
さぁてトライヘキサ復活までの間の話を如何するべきか(何も考えて無い)
明日の自分に丸投げですねww