空中都市アグレアス奪還作戦が開始される2週間ほど前の事、今代の白龍皇であるヴァーリ・ルシファーは三大勢力が同盟を結んだ北欧神話サイドからとある一報を受け、憎き祖父の捜索を一時仲間に任せて欧州の山間部の田舎町へと足を運んだ
正確にはその田舎町の近くにある山の中腹辺りに身を隠しながら高性能の望遠鏡を覗き込んでその町の様子を窺っているところだ
彼はレンズの向こうに映る人々から目的の人物を素早く見つけ出さんと集中して視線を奔らせてゆき、遂に一人の女性の姿を見出した
年の頃は大体40前後といったところだろうか
長い黒髪をした今の年齢でも十分に美しいと表現出来る女性だ
目的の人物をレンズ越しに見つけてヴァーリは静かに息を吐く
ヴァーリ・ルシファーは悪魔と人間のハーフだ
ヴァーリの祖父は初代ルシファーの息子であるリリンことリゼヴィムであるが父母については父親がリゼヴィムの息子の悪魔であり、母親が普通の人間だ
ヴァーリの父親がある時戯れに母親に手を出したようで、その結果生まれたのがヴァーリだった
詳しく聞いた事などないが父親は魔王の直系というには小心者のクズであった事は覚えている。なにせ幼少期から父親はヴァーリにもその母にも酷い虐待を繰り返していたのだから大恋愛の末結婚してその後に破綻したなんてストーリーすらも無さそうだ
幼心にそう確信する事が出来る程度には酷い家庭環境だったと言える
幼かったヴァーリが魔王の孫である父の虐待を受けながらもなんとか生きていたのは生来の魔力の高さと白龍皇のドラゴンの力ゆえだろう
そして何より望まぬ子を産まされたにも拘らずヴァーリのことを必死に守ろうとしてくれた母のお陰で精神の均衡を保てていたのだ
虐待そのものを止める力は母には無かったが、それでも父や祖父にばれないように薄い味付けのパスタをこっそりと振舞ってくれたりした精一杯の優しさは忘れない
ある時、リゼヴィムに仕えていた使用人の下級悪魔が伝手を辿って
使用人としても賭けだったのだろうが
それ以降、ヴァ―リは祖父を斃し母を見つける為にも力を求める事となる
父親は祖父と生まれたばかりの自分にすら怯えてるような者だったので優先順位は低かった・・・それが仮にも父親を殺す事を幼かったヴァーリが無意識に拒絶した為なのかは判らないが、少なくとも父親には憎しみよりも憐みの感情が強かったのは確かだ
無論。母にした事への落とし前は付けさせるつもりではあったのをリゼヴィムが先に殺してしまった訳だが、仕方ない事だろう
あの男はきっと生きていても終生なにかに怯え続けるだけの人生だった―――死を美化したい訳ではないが、あの男に関してはこれでも良かったと思っている
そして今、やっと見つけた母親の姿を望遠鏡越しに見たヴァーリは懐かしい気持ちと新鮮な気持ちが両方同時に飛来した。何故なら庭で物干し竿に洗濯物を干している彼女の表情は穏やかであり、また楽し気でもあったからだ
ヴァーリの記憶に在る母親の顔は何時も曇っていた。泣いているか、
そんな彼女が今、人生をきちんと笑って
ヴァーリは母親の安否の確認の為にここへ来たが一つ決めかねている事が有った
母親と出会うべきか否かだ。普通に日々を過ごしている彼女に今更一緒に暮らしたいとか言うつもりは無いが、それでも自分は生きているのだと、ただそれだけでも伝えたい気持ちはあった
今の彼女は父の事も祖父の事もそして自分の事も忘れている
彼女の消された記憶は今のヴァーリの魔力ならば思い出させる事も可能だろう。だがそんな必要は無い。例えそれを伝えた彼女が訳も分からず首を傾げたとしても思い出させるという選択肢の方が在り得ないからだ。笑っている今の彼女を見れば余計にそう思う
ただ一方的に言いたい事を言うだけの自己満足にヴァーリは
彼女の住んでいる家から二人の子供が飛び出てきて母親に抱き付いたのだ
母親も二人の子供・・・男の子と女の子を優しい笑顔で迎え入れ、抱きしめながら頬と頬と擦り合わせて親愛を表現する。ヴァーリは確信した。あの子達は自分の
「結婚・・・してたんだな」
思わずポツリと口から声が零れた
且つては夫と祖父とその子供の所為で酷い目に遭っていた彼女が今、間違いなく幸せな家庭を築いている。母親とそして自分と半分血の繋がった
ヴァーリは最後にもう一度仲睦まじい家族の様子を見つめてから望遠鏡をそっと眼から外して立ち上がった
『・・・もう良いのか?』
アルビオンが静かに訊いてくる―――行かなくても良いのか?とは訊かない。訊く必要がない
「ああ」
短く返したヴァーリだがその心には一つの決意が在った
あそこに自分が欠片でも割り込む隙間なんて無い・・・だけど
「あなた達の事は俺が必ず守ろう―――なにが起ころうとも、必ず」
次の瞬間、ヴァーリの姿はその場から消えていた
▽
ヨーロッパにある某山岳地帯。そこが日本近海とは別の人間界におけるトライヘキサとの戦いの場だった―――初めは周辺国から戦闘機が発進してミサイルを撃ち込んでいたりもしたのだが、全く手ごたえが無い上にその多くが撃墜された事と人間界の一部の上層部と繋がりのある神々がコンタクトを取った事が相まって今は表側の人間の軍隊は派遣されていない
今、トライヘキサ及び量産型邪龍たちと戦っているのは三大勢力にこの地区を支配領域としている神々や魔物、吸血鬼などがメインだ。幸いと言って良いのかトライヘキサが出現している影響で空には分厚い雲が掛かっているのでデイライトウォーカー以外の吸血鬼も夜程では無いが十分動く事が出来る
それ以外に大きな一団で云えば幾つかの魔法使いの集団の姿も見受けられる
この辺りは日本で云う陰陽師みたいなものだろう。魔法使いとしてのローブに身を包んだ魔女、魔法使い達が魔法陣から様々な属性の魔法を放っている・・・最も、彼らは基本研究者というだけあってか中にはかなりクセの強い者達も混じっているようだが
その中でも紅い瞳が特徴的な魔法使いの一団が前に出て声高に叫ぶ
「肉片も残らず消え去るがいい。我が心の内より生まれる、闇の炎によって!」
「悠久なる凍土に沈み、かの地を汝の棺と化せ!世界が終焉に至るまで、去り行く歴史をその凍える瞳に焼き付けよ!」
「
「今こそ大いなる
それぞれが莫大な魔法力を放ち、黒い炎や氷、毒霧、逆転する時計を背後に出現させて最後の一節唱える
「「「「ライト・オブ・セイバアアアアアアアッツ!!」」」」
解き放たれた巨大な光の斬撃が迫りくる邪龍達の多くを薙ぎ払った
その様子を邪龍を如意棒で叩き落しながらも見ていた
「おいおい。アイツ等一体何者だよ?さっきからずっとあの調子で上級クラスの魔法を発動させ続けてるぜぃ?てか呪文と魔法の現象が噛み合ってねぇし、あの魔法使い達が居る場所だけ天界のジョーカーさまが暴れてるみたいな天変地異っぷりだしよ・・・いや、容赦がねぇ分アレよりヒデェ気がするな」
※演出魔法とライト・オブ・セイバーは別魔法
「あの方々はとある秘境に住んでいる『紅魔族』と呼ばれる方々なのですよ。一族単位で長年『格好良い魔法』の研究を続けてきたとても熱心な一族なのです」
魔法の箒に横座りしたラヴィニアが合流して彼らについてヴァーリ達に説明する
雑談をしながらでも彼女の
「いやいや、氷姫さんよ。格好いい魔法とかもそうだけど、なんでそれがあんなに強いんだよ?」
「なんでも『強くて派手なのはそれだけでも血が滾る』・・・だそうですよ?」
一族全員で凄まじいまでのバイタリティを下敷きに格好良さを追い求めた結果があの惨状なのだ
それを聴いた美猴はなんとも形容し難い表情となった
なんと言えば良いのか判らなかったのだろう
「ったくよぉ。俺っち達も結構世界中の色んな不思議を見て回った気がすっけどまだまだこの世界にゃ愉快なモンが多そうじゃねぇか?なあ、ヴァーリ?」
「・・・・・イイ」
「・・・はい?」
美猴は仕方なしとばかりに隣に居るヴァーリに苦笑いしながら同意を得ようとするがヴァーリの小さな呟きが耳に届いてしまった
「カッコイイじゃないか!紅魔族!あんな集団が居るとはな―――ああ、この戦いが終わったなら次の目的地は紅魔族の住んでいるという秘境に決まりだ!」
いきなり精神年齢が下がったかのようなヴァーリの様子に美猴は目を白黒させる。愉快なものが多そうと言った手前紅魔族の住む地に観光に行くのも頭には在ったがまさかヴァーリがこんな反応をするとは思いもよらなかったようだ
「おいおいおいおいヴァーリお前正気か!?あんな痛々しい奴らの事を格好いいだなんて」
そこまで言い掛けたところで氷姫のラヴィニアは嬉しそうに手を合わせる
「やっぱり♪ヴァーくんならきっとそう言うと思ったのですよ。一度紅魔の里にお邪魔した時もヴァーくんが且つて書いた格好いいセリフ集の『心の書』や魔力や魔法の独自理論を書いた『術の書』、必殺技を描いた『技の書』が在りましたが、まるであの本たちの中に入り込んだかのようでしたから、何時かヴァーくんに紹介したいと思っていたのです♪」
なんだその
一瞬理解が追い付かなかった美猴だが彼よりも先にヴァーリが正気に戻る
ヴァーリにとってその三つの書物は
「ラ、ラヴィニア。勘違いするなよ?俺はもうあの時の俺とは違うんだ。彼らの里に行くと云うのもあの強力な魔法の術式自体は更なる強さを得るのに有用だと思ったからだ」
「はいなのです♪あっ、そういえばヴァーくんの『術の書』には魔法や魔力を発動させる時のポージングの挿絵も在ったのです。紅魔族の方々も格好いいポージングの研究もされているそうなので是非一度意見を擦り合わせてみると良いのですよ♪」
どの世界でも共通だが、天然系キャラは始末に負えない
ヴァーリの隣の美猴は既に腹筋が壊死する寸前までいっていた
ヴァーリは今この場で美猴の頭を記憶ごと吹き飛ばすべきかどうか真剣に検討した
考えた末の行動として隣の猿の背中を蹴り飛ばし、邪龍がより固まっているところにまで案内した
「どうわあああああああっ!?ヴァーリテメェいきなり何しやがる!!?」
「なにをもなにもサボっているようだったのでな。さっさと邪龍を片付けて来い」
如意棒を必死に振り回している猿にヴァーリはシレッと返す。笑う方が悪いのだ
そうして暫く戦っていると戦況に一つの変化が訪れた。戦場の天空が神々しい光に満ちたと思えば量産型邪龍の中の偽物の赤龍帝軍団が突然動きを停めたのだ。その上少しすると何処かから音楽が流れてきてダンスを踊り出す始末
「これは・・・なにが起こっている?」
「如何やら曹操の『
同じ戦場に居たアザゼルが耳元に魔法陣を展開させながら状況を説明してくれる。話によれば七か所の戦場全てで同じ事が起こってるらしい。流石は神の奇跡。無駄に壮大である
ヴァーリとしてはいまいち理解が及ばなかったがダンスを踊り切った偽赤龍帝軍団が成仏(精霊への昇華)した事で負担が減ったのは喜ばしい事実だ
白龍皇のライバルである赤龍帝の偽物軍団と戦うのは二天龍のライバル同士という在り方を穢されている気がして地味にストレスが溜まっていたのだ
そこへ黒い刃で偽グレンデルの硬い体をバラバラに切り刻んでいた幾瀬鳶雄が告げる
「ヴァーリ、戦局が動いた。今のでトライヘキサの封印部隊もそう遠くない内に準備が整うだろう。キミはアジ・ダハーカの下へ行くといい。決着を付けたかったんだろう?」
確かに量産型の中で一番厄介な力を持っているのが偽物の赤龍帝軍団だった。それが居なくなった今、各地の強者たちがトライヘキサまでの道をこじ開けようと動くことは目に見えている。そうとなればこのヨーロッパの戦場で最も危険な存在に取って代わるのはアジ・ダハーカだと言える
神々も多く居るこの戦場の強者の殆どを招集してアジ・ダハーカと戦えば恐らく普通に勝てるだろうが、それをやれば今度は量産型邪龍を止める事が出来なくなる。『誰か』が代表としてかの邪龍を打倒す事が出来ればベストなのだ
「こいつ等だけなら兎も角、かの邪龍が暴れれば此処だけではなく
その一言でヴァーリは彼があの事を知っているのだと理解した
ヴァーリがリアス・グレモリー達に日本で戦った方が気合が入ると言ったのと同様にヴァーリもこのヨーロッパ近郊でこそ絶対に敗けられない理由があったのだ
「そうなのです。ここは私やトビーやヴァーくんのお友達に任せるのです」
ニッコリ笑いながら邪龍の群れを凍らせていってるラヴィニアの言葉にチームの仲間も同調する
「カッカッカ!そういうこった。さっさとあの邪龍をぶっ倒してこいっての」
「リーダーらしい所を見せて下さい。かの騎士王の末裔である私とコールブランドが今世において選んだのは赤き龍ではなく白き龍なのですから、間違いだったなんて思わせないで下さいよ?」
「私、今世の二天龍はどっちも好きですよ!ライバル対決、何時か見せて下さい!」
フェンリルとゴグマゴグもロケットパンチや牙や爪でヴァーリにアジ・ダハーカの気配のする方向への道を創り出す
「―――ッフ、戦いが終わったなら戦勝祝いにキューカンバーカクテルでも奢ってやろう」
※キュウリを搾ったキュウリ汁にお酒を混ぜて野菜スティック(キュウリオンリー)を数本差し込んだ一品
「それは遠慮しておこう」
仲間達の言葉に胸に熱いものがこみ上げて来ていたヴァーリの心が一瞬で冷めた
断られた河童のサラマンダー・富田は「そうか」と短く切って再び戦いに赴いて行ったその背中が微妙に哀愁が漂っている気がしたが、ヴァーリに慈悲は無い
「さて、ヴァーリにだけ苦労を強いる訳にはいかないな。そろそろ俺も本気でやらせて貰おう・・・いいな、刃?」
幾瀬鳶雄が足元の狗に語り掛けると刃は一度だけその尾を振って応える
そして鳶雄の周囲に在る影が黒い霧が闇が集まり出し、彼自身からも闇が噴き出し始める
≪―――人と
何処までも広がる闇は地平線の先まで覆い尽くさんばかりに全てを闇で覆っていく
≪―――
闇が身体に纏わりついてその姿を異形のものへと変貌させてゆく
≪―――遠き深淵に届く名は、極夜と白夜を
刃も足元に広がる闇に沈み込む
≪―――汝、我らが漆黒の魔刃で滅せよ≫
狼男というよりは二足歩行の狗と云える姿となった鳶雄が闇の中から浮かび上がり、足元に広がる闇からも大量の狗が出現する
≪―――
呪文の最後の一節を唱えると同時に狗たちが一斉に遠吠えを上げ、鳶雄は闇の中からせり出した死神が持っているような漆黒の大鎌をその手に取る
そしてこの場に広がったあらゆる闇から歪な刃が生えていき、ただそれだけで近くに居た邪龍達は斬り裂かれていった
「行くぞ、刃」
主たる鳶雄の命令に無数の狗達が一斉に戦場に生えた刃を口に咥えて引っこ抜き、それを武器として邪龍の軍団に襲い掛かる
鳶雄自身もその大鎌を一振りするだけでグレンデルの鱗もラードゥンの結界も纏めて真っ二つにしていった
『
そんな彼は
『
それこそが彼が後天的に亜種として目覚めさせた
「さぁ行くのですよヴァーくん。此処はもう直ぐ氷と刃の世界に変わってしまうのです」
自分の為にお膳立てしてくれている彼らに有難うの一言を言おうとしても喉の辺りで引っ掛かってしまう自分にもどかしさを感じつつヴァーリはアジ・ダハーカの気配のする場所へ翼を広げる
直後、彼女の言葉通りの世界がヴァーリの背後に築き上げられた
可笑しい・・・原作通りに話が進むと思ってたのにギャグへと変わっていく
サブタイは正確には黒(歴史)と、紅(魔族)です!ですねw