転生特典が自爆技ばかりなんだが?   作:風馬

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最近家の水道からほんの少しだけど水漏れがぁぁぁ!!


第三話 やっぱり、愉悦部です!

何かよく分からない単語を八坂さんが言い放ち、逆に俺は完全に思考停止していた

 

「八坂様。流石にそれではイッキ殿に何も伝わりませぬぞ」

 

「まぁそうじゃろうな。では、順を追って説明しよう。イッキ殿は九重の婚約者じゃ、それはつまりまだ正式に婚姻を結んでいる訳では無いという事。イッキ殿が婚約者となる前から九重には幾つもの裏の妖怪の有力者の家から婚約、見合いの話が入ってきておった」

 

成程、確かにそれは理解できる話だ。八坂さんは日本三大妖怪の一角だし、関西を治めてもいる。純粋な力にしろ、権力にしろ、それらを手に入れたいが為に九重に自分の息の掛かった婚約者を宛がおうというのは感情面は別にしたら合理的とさえ言えるだろう

 

「ふん!そのような者達の事など知らぬ!私はイッキ以外と一緒になる気などないのじゃ!皆、欲望が透けて見えるしの―――酷い者じゃと母上よりも遥かに年上の者すら居ったのじゃぞ!」

 

ああ、昔の貴族とかで時々見る死にかけの爺さんと幼女の結婚とかそんな感じか・・・それは確かにイヤにもなるよな

 

「そんな中で九重の婚約者となったのはイッキ殿のみ、その上イッキ殿は人間だからダメと言い出す者も現れる始末での・・・まぁ、あやつらからしてみればイッキ殿が例え妖怪であったとしても適当な言いがかりを付けて、自分の所の婚約者候補を押し付けようとしておったのじゃろうが」

 

難癖何て付けようと思えば幾らでも付けられますからね

 

「そこまでであればそのような戯言は無視しても良かったのじゃが、婚約者候補から弾かれた一部の者たちがまずイッキ殿を追い落とそうと結託して皆を扇動し始めたのじゃ『非力な人間が九重の婚約者となろうとしている。弱い者が上に立っても良いのか!』とな」

 

「全く!イッキが弱いなどとよく言えたものじゃ!あやつらはイッキの実力を知らんのか!?」

 

九重が憤ってくれるが、八坂さんは首を横に振る

 

「事実、知らんのじゃろう。土蜘蛛との戦いは精鋭部隊が土蜘蛛の所に突入した後で解決したように見えたじゃろうし、それ以外でイッキ殿が京都に来る時は戦う機会など無かったからの。三大勢力の間で起きた戦いもわらわ達はイッキ殿から聞いて知っていても、他の者達にはまだまだ情報が届いておらん―――そもそも、このような器の小さい策を練る輩は絶対にイッキ殿が上だと口で言っても認めんじゃろう」

 

「全くもって嘆かわしい限りです!第一、八坂様の決定にそのような形で異論を挟もうなど、この儂が事が済み次第主導した者どもに可能な限り罰を与えてくれましょう!」

 

おお!天狗さんがなんかやる気だ!なら事後処理は彼に任せよう

 

「それで八坂さん。俺はどう動いたら良いのでしょう?」

 

態々呼びつけたという事はおおよその方針は既に決めてあるんだよな?

 

「うむ。イッキ殿は今通っている学園で悪魔の方々と仲が良いのであろう?ならば『悪魔の世界は実力主義』といった言葉を聞いた事はないかの?———妖怪の世界も悪魔の世界ほどではないが似たような風潮が在るのじゃ。もっとも戦う力だけでなく、例えば幸運を呼び込む座敷童など、それなりに例外が居るがの」

 

幸運チートですか・・・落第騎士のキャラにも確かそんな奴が居たっけな。死ねと念じるだけで相手の心臓が前触れなく止まっちゃったりする幸運が起こるみたいなヤバい能力だったけど

 

「そこでじゃ、一度高まった熱を治める為にもイッキ殿の力を示すのが一番分かり易い手段なのじゃよ。勿論、権力で押さえつける事も可能じゃが、この先、下手に侮られたままの状態が続けば何処かで要らぬ面倒を誘発しかねないからの」

 

「それはつまり、その婚約者候補たちを全員叩き伏せろという事ですか?」

 

何とも原始的な・・・つい最近リアス部長が似たような事をしたか

 

「確かにそうじゃが、それだけでは無い。言うたじゃろ?そやつらが皆を扇動したと―――正直に言って扇動した者たちは皆小物じゃ。良識と見識を持っておる者たちは娘がイッキ殿を慕っておる事もイッキ殿の実力が高い事も分かっておるから無駄に婚約話を持ってきたりしなかったからの。じゃから例えイッキ殿と婚約者候補の戦いを扇動された者たちに見せても、そこには根性無しの姿が映るだけじゃ」

 

おおう!かなり辛辣ですね八坂さん。実は結構怒ってます?・・・当然か。自分のひざ元でそんな訳の分からない騒ぎを起こされたらな・・・

 

「じゃから希望者は全員参加とする事にした!・・・案ずるな。工作員として手練れが入り込まぬようその場にいた者たちのみの参加で既に別の場所で待機して貰っておる。イッキ殿にはこの者達を全員倒してもらいたい」

 

下手にお家同士のパワーバランスとか約束事とかをどうにかしろと言われるよりは気は楽だけど、本当に力こそ正義!な解決方法だな!

 

「ま・・・まぁそれで良いなら引き受けますが」

 

圧倒的な力量差が出やすい悪魔や妖怪という種族だからこそって感じだ

 

しかし、それだけなら『九重ファンクラブの暴走!』なんて表現をするにはちょっと足りない感じがするんだけど―――今の話だけだと中心になってるのは欲に目がくらんだ婚約者候補たちみたいだしな・・・?

 

「引き受けてくれるか、それは有り難い。だが一度勝つだけでは駄目じゃ。あやつらはしつこいからの、可能ならこの機会にその心をへし折っておきたい。つまりは何日か時間を用意するのでその間に可能な限り叩き潰して欲しいのじゃ」

 

そこまでしないといけませんか、八坂さん。後顧の憂いを無くす気満々ですね・・・具体的に言えば相手の精神を物理でへし折るんですね

 

「基本的にわらわの許可した者しか出入りできぬ特別性の舞台(空間)を用意し、そこで戦ってもらう事になる。一時間後にイッキ殿を向かわせると向こうに通達しても良いかの?その間に候補の者達の資料を渡しておくからの」

 

・・・顔を覚えて念入りに甚振れという事ですね

 

「分かりました。お任せください」

 

口元を引きつらせながらも返答すると此方が意図をくみ取ったのが分かったのか、八坂さんは妖しい笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

あれから天狗さんに予め用意されていた候補者たちの資料を貰い、あの部屋を後にして今は客間で資料を読んでいる・・・とはいえ簡単なプロフィールのようなモノだし、扇動なんて馬鹿な真似を実行したのは5人だけだったみたいなので、しっかりと内容を覚える必要も無いのだが

 

「うへぇ!九重の言っていた遥かに年上ってコイツか!?もう見た目完全に爺さんのよぼよぼ狸じゃねぇか!」

 

何がとは言わないが犯罪だろう・・・一応他の候補者たちは皆成人前後で固めてあるのにな

 

「そうじゃろう!いくら何でもふざけ過ぎじゃ!そ奴は京都の表と裏の両方の商いで富を得ておる奴での、金の力で婚約の話を母上の所までねじ込んできたようじゃな」

 

九重が俺の向かいの席で不機嫌さを隠しもしないで文句を口にしている

 

マネーイズパワーシステムですか・・・大人げないな

 

そう考えていると九重が立ち上がり俺の後ろから首回りに抱きついて来た

 

「まぁそこはイッキが勝つから心配はしておらんのじゃ!私も習い事が在るからずっとという訳にはいかんが後でイッキの応援に行かせてもらうからの!」

 

屈託のない笑顔で言われたら引き下がれんな。気合を入れていくとしよう

 

それから時間に為るまでは九重とまだ通信では話していなかった会談の話を話題にして(神の不在とかは話せなかったが)時間を潰していると天狗さんがやって来た

 

「イッキ殿、そろそろお時間です———姫様もお稽古の時間ですぞ」

 

「分かりました。直ぐに向かいます」

 

「むぅ、分かったのじゃ」

 

九重は不満そうだが普通この年で稽古、勉強の類が一から十まで好きな子なんて居ないよな

 

少しだけ乱暴に九重の頭をワシャワシャと撫でて「行ってくる」と告げると、彼女も少し機嫌を直してくれたのか「うむ!」と元気の良い返事をくれた

 

それからまた八坂さんの元に行き、妖術で特設フィールドに転送してもらった

 

 

 

 

 

 

たどり着いた先に広がっていたのは一面のススキ野原だった

 

少し強めの黄金の月明かりに照らされた風景は正直ずっと眺めていたい位だ・・・おおよそだが300は超えていそうな数の妖怪がこっちをギラギラした目で見つめていなければだけど―――マジでこれを全部相手にするの?思えば候補者以外の相手の数は聴いてなかったな

 

でもこれ相手を殺したら勿論ダメだよね?正直この数相手に手加減して制圧するとか凄く面倒なんだが流石に殺しは無しだろう

 

そんな風にげんなりとしていると資料で見た5人が一団の前に立った

 

「ふん!人間風情がこのような事で俺の時間を使わせるなど!」

 

「然り、まだこの後この5人の中で俺様が一番伴侶として相応しい男だと証明しなければならないのだ。とっととくたばって貰おうか」

 

「全く、脆弱な人間が妖怪に敵うはず無いというのに、八坂殿は何をお考えなのか」

 

「もしやすると我らのような真に妖怪の未来を想い、行動する者を篩にかける策やもしれぬな」

 

「この老骨が出るまでも無いの。井の中の蛙の争いはお主らで勝手にやっとくれ」

 

う~む。いっそ清々しいまでの見下しっぷり。何だか旧魔王派の連中に近いモノを感じるな

 

俺も無言で殴りかかるのも芸が無いので前口上として適当に挑発しようとしたのだが、その前に後ろに控えていた妖怪たちが騒ぎ出した

 

「なにぃ!?『伴侶』とはどういう意味だ貴様らぁぁぁ!!」

 

「そうだ!九重ちゃんは皆の九重ちゃんなんだよ!お前らこの婚約を阻止するとしか言ってなかったじゃねぇか!!抜け駆けしようとは不逞な奴らだ!」

 

「九重ちゃんのふっくら頬っぺたは俺たちが愛でるんだよぉぉぉ!!」

 

「ふさふさ尻尾の感触を想像するだけでご飯10杯の価値が在るんだ!それを独り占めしようとは、テメェら全員ぶっ殺すぞ!!」

 

「九・重!」

 

「く・の・う!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

加速度的に不満の声と九重コールが膨れ上がり、そのまま物理的に雪崩の如く妖怪たちが押し寄せてきた

 

「「「「「!!?・・・・・・・・・・・!!」」」」」

 

“ぷちっ”

 

候補者たちは何かを喚いていたようだが一瞬で人波に消えていった

 

あっるれぇぇぇ?あいつら味方同士じゃなかったの?・・・というかこれは『候補者たちを叩き潰す』という依頼を果たせたって言えるの?むしろ勝手につぶれたんだけど・・・成程、暴走とはこういう意味か。扇動していたはずの奴らが完全に(物理的に)呑まれていったな

 

叩き潰すのは・・・期限は何日か取ってあるという話だし次の機会で良いか―――終わってしまった者達よりも今は向かってきている者達に意識を切り替える

 

奴らが手にしている武器は木刀の類だったり、刃挽きされた剣だったり、槍の代わりに棍棒だったりと一応殺傷能力は抑えたものになっているが、だからって殺す気で攻撃を加えたら普通は死ぬからね?君たち

 

それに中には武器など持たずに生まれ持った鋭い爪とか巨大な牙が武器の奴も居るし、八坂さん危機管理がちょっと杜撰じゃないですか!?

 

取り敢えず大量の気弾をばら撒き数を減らそうとするが後から後から気絶した仲間を踏み台にして距離を詰めて来る!それに向こうも向こうで炎やら風やらの遠距離技を放ってくるので大半が空中で誤爆してしまうのだ

 

そうなると最後は肉弾戦だが相手は大体中級クラスの力だ。下手に高い闘気を纏って殴ればマジで爆散しかねない・・・かと言って闘気の出力を弱めればこっちが普通にダメージを受けるし、コレなんて縛りプレイ?

 

内心愚痴を吐きながら突き込まれた棍棒を軽く右に避けて懐に入り、衝撃で吹っ飛んでいくように相手の気を乱しつつ掌底を放つ―――兎に角近寄らせない事を前提にして乱戦に入っていった

 

そしてかなり長い時間戦っているとフィールド全体にドラの音が聞こえ、その後すぐにフィールドに雨が降り始めたと思ったらいきなり転移した

 

転移した先に在ったのは趣はあるがそこまで大きい訳でもない感じの一軒家だ

 

「ハァ!・・・ハァ!・・・ここは?」

 

荒い息を整えながらも疑問に思っていると九重がその家から出てきて、俺の手を掴んだ

 

「イッキ!待って居ったぞ。さぁ先ずはシャワーが在るから軽く汗を流すとよいのじゃ、着替えもあるしの。その後昼餉にしよう!」

 

「いや九重。その前に此処は何処?急に跳ばされたんだけど・・・」

 

「ああ、此処はお主がさっきまで居た空間と隣り合って作られた休息用の空間じゃ。指定された時間になったらイッキとその他をそれぞれ別の休息場所に転移するよう設定されておるのじゃ!」

 

成程、最後のドラの音は時を知らせるチャイムであの雨は狐の嫁入りによる強制転移か

 

それから案内された風呂場で汗や土埃などを流し、用意されていた服に着替えて良い匂いを頼りにそちらに向かうと、ちゃぶ台の上に食事が用意されていた

 

2人分の食事があり、既に座っていた九重の向かい側に俺も座る

 

「昼の休息の時間は90分だそうじゃ。そこに時計が見えるじゃろう?」

 

確かに、今は短針が12を長針が4を指してるな。残りは70分か・・・

 

「じゃが、先ずは頂くとしよう。折角のご飯が冷めてしまっては勿体ないのじゃ」

 

「それもそうだな、なら「頂きます!」」

 

 

 

 

ご飯は美味しかった。何でも幾つか簡単なモノは九重が作ったらしいから驚きだ

 

「九重は料理も出来たんだな。何と言うか九重はお姫様だから、そういった方面は疎いのかと思ってたよ。認識を改めないとな」

 

「むぅ、それは偏見なのじゃ。私は将来守られるばかりでなく、時として前に立つ必要もあるからの。一通り生活に必要な技術は身に付けておくべきなのじゃよ」

 

そっか、裏の世界では才能の有無というのは決して馬鹿に出来ないからな。それこそ将来『九尾』クラスでなければ対処出来ない事案が発生しないとも限らないのか

 

「それはそうとイッキよ。此方に転移してきた時に思っていた以上に消耗しておったみたいじゃが、そんなに手ごわい相手が居ったのかの?」

 

「そうだな。今回の件の候補者たちは俺が何かする前にやられたから集まった奴らが相手だったんだけど、気を乱しても遠くに吹っ飛ばしても骨が折れるぐらいに打撃を加えても直ぐにまた起き上がって乱戦に加わってくるから全然終わりが無くてさ」

 

アレは妖怪じゃない。アンデッドとかリビングデッドとかゾンビとかその辺りだろう。あの執念だか怨念だかは一体何処から来るんだ?

 

全方位から絶えず攻撃がやって来るから捌き切れないモノは闘気を高めて防御する事で対処していたんだけど、そうなるとオーラの消耗が激しくてスタミナがガンガンと削れていったからな

 

「それはまた大変じゃったの。どれ、まだ四半刻程時間は残っておるし、少しでも体力の回復に努めるべきじゃろう―――本来は食べて直ぐに寝るのはあまり褒められた事ではないが、少し横になってはどうじゃ?」

 

「それもそうだな。悪いけど少し横になるか・・・」

 

そう言ってそのまま畳に仰向けに体を預ける。すると九重が俺の頭のすぐ横に座ってきた

 

そのまま俺の頭を持ち上げて自分の膝の上に乗せる

 

「九重?膝枕なんて何処で覚えてきたんだ?」

 

「馬鹿にするでない!むしろ膝枕を知らぬ方が珍しいじゃろう!・・・その、母上が男はこうすると喜ぶと此処に来る前に言っておったのでな」

 

ああ、八坂さんの入れ知恵ですか・・・絶対に内心ニヤニヤしながら助言したな

 

九重も自分でやっておきながら恥ずかしそうだし、確かにこの顔を見たらニヤついてしまいそうだ

 

何と言うかこう、保護欲的なモノを掻き立てられる感じだ

 

「ありがとな、九重」

 

逆さまに見える九重の頭を"ポンポン"と叩いて礼を告げ、そのまま少しの間他愛のない会話を続けて時間が過ぎていくのを待った

 

遠くでドラの音が聞こえて刻限となり、俺はまたススキ野原に転移して行った

 

 

 

 

 

 

「ぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

殺せ

 

「殺せ!」

 

殺せ!!

 

「殺せ!!!」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

午前中ボコボコにしたはずなのに何だか皆さんさらに殺る気に満ちてるんだけど・・・何で?

 

雄たけびを上げながら再び向かってくる百鬼夜行の皆さん―――最前列に候補者たちの姿が一瞬見えた気がするけど直ぐにまた人波に消えていった

 

恐らく彼らだけは最前列に転移するように転移の設定がなされているんだろうけど、そのせいで今はまた潰れたカエルのように為っているのだろう・・・もはや口上も何も無しに存在を喰われてしまっているな

 

それから再びの乱戦。相手の攻撃を時に躱し、時に一瞬だけ顕現させた神器で払い、時に弾いて一人一人倒していくのだがこいつ等『痛みなんか知るか!』と言わんばかりに襲ってくる。中には午前の戦いで腕の骨が折れたのか添え木と包帯で固定してある腕を全力で叩き付けてくる奴もいた

 

そんな状況に内心恐々としながらも一日目の戦闘が終了した

 

再び転移で例の屋敷の前に着くとまた九重が出迎えてくれた

 

「お疲れ様なのじゃイッキ。もう湯は沸かしてあるからまずはサッパリして来るとよい。その間に夕餉の支度を済ませておくからの」

 

それは有り難い。何だか状況だけ見れば帰宅後に『お風呂にする?ご飯にする?』みたいな例のやり取りっぽく見えなくもないが、この汚い格好で飯という選択肢は無いだろう・・・三つ目の選択肢?知らないなぁそんな奴

 

その後夕飯を食べ終えて二人でお茶を飲みながらまったりしていると八坂さんがやって来た

 

「八坂さん、お仕事お疲れ様です。夕飯はもうお済みに?」

 

「うむ。先ほど済ませた所じゃ。それで今日はどうだったかの?」

 

「一言で言えば疲れましたね。何であの人たち倒れても倒れても立ち上がってくるんでしょうか?———それとあの婚約者候補たちですが転移する時にせめて両陣営の真ん中位に出すことは出来ませんか?今日一日かけて一度も倒せなかったんですが・・・」

 

戦ってる途中に何度か気絶から復活してるのが見えたけど暴徒と化した彼らの流れ弾でまたすぐ気絶を繰り返していたからな

 

「そうじゃの、最初の内はわらわも様子を見ておったが、アレでは主旨がズレてしまうからの」

 

もう十分ズレてる気もしますけどね

 

「こちらで調整しておきましょう。候補者たち以外は止めたくなったら止めて良いとしておるのじゃが、果たしてあの様子でどれだけ脱落者が出るかは分からぬな」

 

何処か面白がるように告げる八坂さん。それにしても脱落者ねぇ?・・・居るのか?あいつら瞳に狂気が浮かんでたんだが

 

「戦いについては修行と考えて見てはどうじゃ?イッキ殿は特定の相手との模擬戦ばかりで多様な相手と戦う経験は少ないじゃろう?疲労があると言うならそれを何らかの形で補える方法を考え、試す事もできよう」

 

確かにそうだな。あの乱戦を繰り返せばスタミナは多少は付くかも知れないけど根本的な解決とは言いづらいし、もっと効率のいい方法が在るならそれに越したことはない

 

「そうじゃイッキ!黒歌殿はどうなのじゃ?イッキと同じ仙術使いの彼女が扱う術でヒントになりそうなのはないのかの?」

 

九重が提案してくれるが俺は首を横に振る

 

「仮に黒歌だったら仙術じゃなくて妖術の毒霧で痺れ毒とかを振りまいて終わりだろうからな。仙術も空間を操る術の応用で重力操作の地形効果を付与できるみたいだけど俺はそこまで会得してないし―――俺が黒歌より上だと自信をもって言えるのは闘気の練り上げや自己回復とかの身体操作くらいだから」

 

俺って仙術使いと言う割に結構物理面に寄ってるんだよな―――空間も認識阻害の結界を張ったりとかは出来るようになったけどそれ以外はまだまだ修行中だ

 

「むぅ、ままならんの」

 

「時間は在るみたいだし、ゆっくり考えていくさ」

 

「さて、わらわはそろそろお暇しますが九重はどうする?流石に参加者のイッキ殿だけを本邸に招く訳にもいかんのじゃが・・・」

 

「それならば私はイッキと此処に居るのじゃ!今回の件は少なからず私という存在が招いた事態とも言えるしの。イッキの世話は私がするのじゃ!」

 

「いや九重、別に世話なんて―――」

 

「よくぞ言うた!その独占欲、それでこそわらわの娘じゃ!男は噛り付いてでも離すでないぞ!」

 

もうやだこの親子・・・黒歌もそうだったけど、行動がもう捕食者のそれだもん

 

それから八坂さんは「後はお若い二人での~♪」とそそくさと帰って行った

 

とは言え、そもそもイヅナの通信でよく話しているし目新しい話題と言っても今日の乱闘騒ぎくらいしかなかったので適当に備え付けてあったテレビを見ながら二人で笑いあったりしていると九重が今度は胡坐をかいていた俺の上に腰かけてきた

 

「おお!此処も中々座り心地が良いのう♪」

 

う~む。九重のこういう行動をみているとやっぱりまだ子供って感じがするな。ドキドキすると言うよりは、ほのぼのするって感じだ・・・後、九重の6本のふさふさの尻尾が凄いな

 

全力でモフりたい!!

 

でも、黒歌や九重のような獣系の妖怪にとって尻尾を触るのってどういう認識になるんだ?お尻を撫でまわすのと同義とかだったら不味いしな・・・

 

「・・・・ッキ!イッキよ!どうしたのじゃ?心ここに在らずと言った感じじゃったが」

 

おっといけない!つい深く考えてしまっていたようだ

 

とはいえそこまで気にする必要はないのかな?今も九重が俺の胡坐の上に座ってる関係で割と全面的に尻尾の感触は堪能できてるし・・・黒歌はツルツルとふかふかの割合は7:3くらいだったけど九重はふかふかにステータス全振りしてる感じだ―――小猫ちゃんはどんな割合なんだろうか?

 

それからまたテレビを見つつ九重のふかふか(×6)を堪能して癒されたり、トランプや将棋などで遊んだり、九重の妖術を披露してもらったりして過ごした

 

「じゃあ九重、また明日な。お休み」

 

「うむ!お休みなのじゃ♪」

 

昼間の乱闘とは打って変わって夏休みらしいのんびりとした時間を過ごし、俺と九重はそれぞれの寝室に入り眠りについた

 

次の日の朝・・・と言ってもこの空間は基本夜なので時計を見ての判断だが目を覚ますと同じ布団に九重が居た―――それも何かジト目でこっちを見ていらっしゃる

 

何か不機嫌じゃない?

 

「おはようなのじゃイッキ・・・それで、そろそろ私の尻尾を放してくれぬか?」

 

言われて気付いたが、どうやら九重の尻尾に纏めて抱きついていたみたいだ

 

「あ!・・・ゴメン!でも何で俺の布団に居るの?後なんでそんなに不機嫌そうなんだ?」

 

慌てて放すと共に不機嫌そうな理由を問うと逆に恥ずかしそうにしながらも答えてくれた

 

「その・・・夜に偶々目が覚めての。一度殿方と一緒に寝るというのを体験してみたくての。それでコッソリ忍び込んだのじゃ―――ただ、今日は早めに起きて朝食をイッキに振舞おうと思っておったのじゃが、こうして尻尾を掴まれてしまっては抜け出す事もできんでの」

 

九重は「折角張り切って作ろうと思っておったのに・・・」とどうやら不機嫌というよりは拗ねてしまっているようだ

 

この九重の女子力(女子の腕力に非ず)の高さは凄いな・・・そう言えばずっと一緒に居た黒歌はどう何だろうな?今まではずっと隠遁生活だったからそういうのを発揮する機会は無かったし、流石に修行中の山の中でのサバイバル飯とかはノーカウントだろう

 

それはそれとして・・・

 

「良し!ならお詫びに今日の朝食は一緒に作るか?二人でやれば遅れを取り戻せるだろう?」

 

「むぅ、しかし今日もまた頑張るイッキを朝から働かせるなど・・・」

 

「それくらいで疲れたりしないさ。それに誰かと一緒の作業ってのはそれだけでも中々楽しいものだからな、手伝わせてくれよ」

 

この先ずっと九重にご飯やその他を色々準備してもらってたら不味いだろうしな―――主に世間体的な意味で

 

 

 

 

所変わって台所にて

 

「秘儀!空中野菜切り!!」

 

ちょっと今ハッチャケてます

 

「おお!凄いのじゃ!あんな出鱈目な切り方で綺麗に切れておる!」

 

少し離れた所で見て貰っていた九重が拍手しながら褒めてくれる―――包丁を気で強化した上で俺の身体操作技術をフル活用すればこの程度の芸は出来るようだ

 

九重に「イッキは料理は出来るのかの?」と聞かれたので少しパフォーマンスを踏まえて野菜切りを披露していた―――九重にはどうやら合格点を貰えたみたいだ。もっとも、二人で料理をするならパフォーマンスは危ないのでやらないけどな

 

そんなこんなで二人で仲良く朝食を作っていった

 

 

 

 

 

 

「「ご馳走様でした(なのじゃ)」」

 

「普通に料理したはずなのに、何だか何時も以上に美味しく感じたのじゃ!」

 

朝食を食べ終え、九重はキャンプで作るカレーは無駄に美味しい理論的なものに感動している

 

まぁ彼女の立場的に家臣と一緒に作る事はあっても友達と作るといったような経験は多分無いはずだから新鮮なのだろう・・・途中「母上に教えてもらってのう。こ・・・こうやると男は喜ぶのじゃろう?」と煮っころがしをいわゆる『ア~ン』されたのは恥ずかしかったが・・・九重の行動の陰に八坂さんが一々フレームインしてくるな

 

「それは良かった。なら、今度も一緒に作るか?」

 

「う~む。それも良いが一度一から十まで私の作った料理もイッキに食べてもらいたいのう」

 

"むむむむ!"と悩む九重の姿を微笑ましく思いながら「なら、時々手伝うよ」と提案すれば「それは良い考えじゃ!」と肯定してくれた

 

少しすると八坂さんがやって来て挨拶を交わし、本題に入る

 

どうにも一般参加者に棄権者はゼロ人らしい・・・何が彼らを駆り立てるんだろう?

 

疑問に思いながらも時間に為るまで九重とまったり過ごし、また転移して行った

 

 

 

 

 

 

昨日と少し変わって両陣営の中間あたりに既に見た目も気力もボロボロの婚約者候補たちが居た

 

俺はそれを確認した瞬間彼らに向かって走り出す―――もたもたしていたらまた昨日の二の舞だ

 

俺から見て右側二人の顔面を鷲掴みにして後頭部から地面に叩きつける

 

どうやら情けなくももう気絶してしまったようだ・・・掴んだ二人をフィールドの端の方に放り投げ、残る三人も同様に処理していく―――後は戦う場所にさえ気を配れば巻き込まれる事も無いだろう

 

それからまたあの不死の軍団と戦っていくが四方八方からの攻撃をその内捌き切れなくなって、後ろから左の脇腹に向けて誰かが刃を横なぎに振るうのを気配で感じる・・・昨日までの俺ならその瞬間に闘気を高く練り上げる事で防御していたが今日は違う!

 

一応既に対応策は考えてきたのだ

 

闘気を高めるのではなく攻撃が当たる箇所に周囲の気を一点に集める事で防御する

 

落第騎士の黒鉄一輝が世界最強の剣士の攻撃を魔力放出で防いだのと同じ理屈だ―――これなら練り上げる闘気の総量を変化させずに防御する事だって可能だ!

 

”バギィッ!!”

 

「う゛ぼぇぇぇ!!?」

 

防御個所の狙いを外した俺は闘気が薄くなった場所に一撃を叩き込まれ大ダメージを受けた!

 

俺の馬鹿野郎!何で最初にあの黒鉄一輝(バケモノ)と同じように『相手の刃筋』に合わせたピンポイント防御を実戦しようとしてるんだよ!?普通そこは某ハンター漫画の【凝】の防御とか、試すにしても腕とか分かり易い場所で試すべきだろうが!

 

「ハッハァァァ!今のは効いたみたいだな!それが俺たち全員の心の痛みの発露だぁぁ!」

 

「畳みかけろぉぉぉ!!」

 

痛みで動きが止まった俺を狂気を目に宿した奴らが見逃すはずも無く、更に攻撃が苛烈になっていく。もはやフレンドリーファイアなんてお構いなしだ

 

「お前ら本当に何なんだよ!?確かに俺は九重の婚約者だけど、ここまでお前らに恨みを向けられる覚えはないぞ!?」

 

普通ボコボコにされた上で一夜明ければ冷静になる奴が現れても良いと思うんだけど!?

 

怒りの感情を持続させるのは難しいとか心理学者さんたちも仰ってなかったっけ!?

 

「ふざけるな!分からないとは言わせねぇぞ!昨日は我らが九重ちゃんに膝枕!さらには足の上に乗せながらあのふわふわ尻尾を堪能してただろうが!」

 

「今朝だって恋人同士みたいに一緒に朝食作ったり!あまつさえ『ア~ン♡』とか!あ゛・・・あ゛・・・あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

ちょっと待て!何故それを知っている!?それとお前、最後まで言い切る前に発狂すんな!

 

鈍くなった動きを闘気を高めて防御に専念すると共に、脇腹の回復を図っていると八坂さんから音声のみの通信が入った

 

≪ふむ。思ったよりも早くバレてしもうたのう≫

 

その一言で大体察する事が出来た―――やっぱり貴方か!

 

「八坂さん!?端的に聞きますけどあの屋敷ってカメラ回ってます!?」

 

≪うむ。だが安心するのじゃ。流石に生中継はしておらん。わらわ自身が編集したモノをあ奴らの屋敷に映しているだけじゃからの≫

 

「いや『だけ』って!そもそも何故そんな事を!?」

 

目の前のバーサーカー共の怒りの源泉はそこか!?

 

そりゃあ、むさ苦しい男どもが自分たちをボコボコにした男が美少女に『ア~ン♡』されてる映像を叩きつけられたらブチ切れるのも分かるけど!

 

≪そやつらも娘が好きで暴走しておると言うのならいずれ気づかねばならぬのじゃよ・・・九重(アイドル)は何時しか卒業(けっこん)するものなのじゃと!真に九重(アイドル)の幸せを願うならば涙を呑んで送り出さなければならぬとな!!≫

 

「それとあいつらを煽り立てるのにどんな関係が在るんですか!?」

 

拳を振りぬいた衝撃波で前方の敵を宙に舞わせながらも問い返す

 

≪今はまだ怒りが勝っているようじゃが、続けていれば心身ともに疲弊していく。そんな中で娘の幸せそうな笑顔を見せられ続ければ何のために戦っているのか分からなくなるじゃろう?———自分たちの目指す娘の幸せなど、とっくの昔に手に入れたモノであると理解した時、同時に自分たちのやってる事が娘の笑顔を奪う行為であると他ならないと気づくのじゃ。その時、そやつらは悲嘆にくれて心が折れる。そうなればもう逆らわぬじゃろうし、上手くやればそやつらの狂信を忠心に変えて手駒にできるという訳じゃ!≫

 

通信の向こうで八坂さんの笑い声が聞こえる

 

え・・・何それエゲツないんですけど・・・

 

≪そうそう、九重にはカメラの件は伝えないで欲しいの。出来るだけ自然体の映像を届けた方が良いしの・・・なに、娘には膝枕を始めとした色々な甘々展開を吹き込んでおいたから後は九重の勇気しだいでイイ絵が撮れるじゃろう≫

 

この人、幸せという名の毒で相手の心を穢す気だ!

 

今まではひっそりと八坂さんの事を愉悦部とか思ってたけど、正直九重や俺を揶揄う程度だし冗談のつもりだったのに今はハッキリと某外道マーボー神父を幻視したぞ!?

 

≪そういう訳じゃから、後は頼んだぞ?婿殿(・ ・)

 

そこで通信は切れた・・・きっとお釈迦様の掌の上ってこんな感じなのかな?目の前に居る今も俺を叩き潰そうとしている狂信者どもが途端に哀れに見えてきたんだけど・・・

 

まぁ納得・・・出来てるかは自信が持てないけど理解はした

 

もうあまり相手の事情は考えずに、こいつ等には修行のカカシ替わりになってもらおう

 

そう思い、今度は【凝】の防御を意識した修行の為にも俺の方から突撃していった




九重くらいの少女との甘々展開が通常の恋愛パートより数段難しい!!

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