転生特典が自爆技ばかりなんだが?   作:風馬

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団三郎狸:表と裏で商売を営む狐を騙し殺す狸妖怪(wiki参照)


第四話 おじさんの、『きんのたま』だからね!

あれから既に2週間、初日を入れて15日たった

 

八坂さんの見立てではもう脱落者が現れるとの事

 

向こうの屋敷もモニタリングしている八坂さん曰く、個人個人では既に「何やってるんだろう?俺?」と暗い目をして呟いてる人たちが出てきているみたいだ―――一人でも脱落したら後は雪崩の如く瓦解するだろうと

 

今朝それを聞いたばかりの月明かりの下、ススキ野原は踏み荒らされ、辺りには戦塵が立ち込めている

 

今の俺は正面から振り下ろされた棍棒と剣の先を顕現させた右歯噛咬(ザリチェ)で絡めとりながら地面に突き刺して武器を封じ、右側に深く傾いた勢いのまま左足で攻撃してきた奴らの顎を回し蹴りの要領で打ち抜く

 

地面に突き刺さった右歯噛咬(ザリチェ)を抜くのも面倒なのでそのまま放棄し半回転しながら右手から気弾を放ちながら態勢を整えると今度は左から横なぎの剣が迫ってきた・・・前回はぶっつけ本番の高等テクの防御を実戦しようとして失敗したが今回は左歯噛咬(タルウィ)の刃と刃の隙間に剣戟を挟み込み、そのまま思いっきり捻ってやると剣は半ばから折れた。そのまま神器を消し、握った左手のまま相手の顔面に拳を叩き込む

 

八坂さんの見立て通り最初の頃に比べると全体的に勢いが衰えてきているので捌き切れない攻撃というのも減ってきたのだがやはり全部という訳にはいかない

 

丁度今拳を叩き込んで伸び切った左腕にサーベルタイガーみたいな牙を持った奴がその二本の巨大な牙を突き立ててきた

 

“ガギィ!”

 

牙が食い込む二か所に闘気を集中させて防御する。この2週間で試す機会は山ほど在ったのでこの防御法も中々馴染んできたと思う・・・指先とか分かり易い場所への攻撃なら某落第騎士さんの真似事も可能だ

 

「悪いな。俺は猫は好きだけどお前にじゃれつかれるのは遠慮する・・・ぜ!」

 

気合と共に俺の腕のせいで閉じ切っていなかった口の中に気弾をぶち込み引き剥がす―――そのまま二本の牙を両手で掴み、風車のように振り回して辺りの敵を蹴散らした後で一番敵が固まっている場所めがけて投げつけた

 

え?そもそもの元凶だったはずの他の婚約者たちはどうしたって?それは・・・

 

 

 

 

 

☆婚約者たちの日常

 

一日目:暴徒に呑まれて一日終了

 

二日目:初手、後頭部叩き付け。以降気絶から目覚める度にヤクザキック

 

三日目:顔面からの地面叩き付け。以降ヤクザキック

 

四日目:腹パン。以下略

 

五日目:腹への膝蹴り。以下略

 

六日目:ラリアットからの顔面ストンプ。以下略

 

七日目:ジャーマンスープレックス。以下略

 

八日目:脳天かかと落とし。以下略

 

九日目:エルボー。以下略

 

十日目:サマーソルトキック。以下略

 

十一日目:昇竜拳。以下略

 

十二日目:筋肉バスター。以下略

 

十三日目:獅子連弾(NARUTO)。以下略

 

十四日目:秘伝体術奥義・千年殺し(NARUTO)。以下略

 

今日:北斗百裂拳・以下・・・

 

途中から少しストレス発散を含めてネタ技に走ってる感が否めない・・・勿論俺は北斗百裂拳なんて習得してないから適当に仙術で気を乱しまくりながら指で突きまくっただけだけど

 

それと最初に巻き込まれないようにと放り投げたのは意識が戻った時に俺が手を下す為だ

 

でないと最初の一回で終わってしまうからね―――気絶から覚めたのを感知したら一瞬で戦線離脱して蹴り(仙術付き)を入れまた皆の所に戻るといった感じだ

 

八坂さんの話によれば最初の内はまだ『此処から出せ!私を誰だと思っている!』とか元気が在ったみたいだが、最近はもう夜にまともに寝ることも無く明日が来るのを恐怖し、部屋の隅でガタガタ震えて神様(天照?)にお祈りしたり、ひたすら懺悔したりしているみたいだ

 

まぁ元々300を超える人数でたった一人の人間を相手にリンチしようとしていた彼らにくれてやる慈悲など無いから別に良いのだが―――少しは九重ファンの根性を見習ったら良いのに

 

「! おっと!」

 

どうやらまた彼らが目覚めたようだ。気絶されたままでも困るから攻撃の最後に仙術で軽い気付けを施してるから疲れ果てた体でもずっと眠ったままではいられないからな

 

婚約者候補たちの元に人垣を飛び越えて向かうと、途中で彼らの一人が空中に閃光弾のようなモノを打ち上げた―――こんなアクションは初めてだな・・・まぁ何かやる前に気絶させてたのかも知れんが

 

たどり着くとどうやら先ほどの閃光弾を打ち上げたのはあの老狸らしい

 

八坂さんには徹底的に心を折れと言われてるし、今回は趣向を変えて話を聞いてみるかな

 

幸いここ最近ずっとヤクザキックをかましているからか、皆さんも俺が制裁を加える時は静観してくれるし、少しくらいなら話せるだろう

 

「た・・・頼む・・・もう許してくれ!か・・・金なら幾らでも払う!だからせめて儂だけでも解放しておくれ」

 

開口一番買収してきたよコイツ・・・しかも『儂だけ』ときたか―――やっぱり潰そう

 

「ほう?許してと言ったがそれは何に対してだ?しっかりとお前の口から聞きたいな?」

 

「わ・・・儂が皆を扇動してお主を蹴落とそうとした事じゃ・・・」

 

それに対して俺はコイツの頭を軽く叩く、するとスグに気分悪く吐きそうになった。今のは仙術で相手の平衡感覚を揺らしたのだ。きっと今遊園地のコーヒーカップを全力でぶん回した後のような感覚に襲われているだろう

 

「それだけか?」

 

コイツは俺だけでなく九重や八坂さんにも迷惑を掛けているしな・・・それ以外にも色々やってそうな感じだし、適当に追い詰めてみますか

 

「う゛ェ・・・儂は婚約者の座から降りる・・・今回怪我した皆の治療費も儂の所からだそう」

 

腹に親指を突き入れる。今度は酷い腹痛で臓腑が捩れる感覚をプレゼントだ。ついでに睡眠と覚醒の両方の効果を付与する・・・いわゆる自白剤と同じ感じだ。これで饒舌になればいいが

 

「あ゛ぐぅぅ!や・・・八坂殿にも謝罪とお詫びの品を送る!」

 

九重への謝罪が入ってないな・・・

 

軽い気弾を造りコイツの男の尊厳にぶち当てて疑似金的を叩き込む

 

「さっさと全部口にしないと次は潰すぞ?」

 

何処がとは言わないがきっと彼は今一番の痛みを受けている場所を連想したのだろう

 

青い顔を更に青くして喚き始める―――痛み・恐怖・疲労・酔い・眠気・覚醒(興奮)。様々な要素が組み合わさった結果、九重への謝罪ではなく全く別の言葉が綴られた

 

 

 

 

 

「八坂の夫を毒殺した事もじゃ!!」

 

 

 

 

「・・・は?」

 

周囲の者達も静観していた為か先ほどの叫びはよく響いたみたいで驚愕の気配が伝わってくる

 

だが既に目の焦点の合ってない此奴は絶句した俺達の反応に目もくれず更に捲し立てた

 

「儂は富を得た!商人としての権力も得た!ならば後は力と権力者としての権力だけじゃ!・・・力については諦める他なかったが権力ならばあの小娘を傀儡にすれば良いじゃろう?だがその為には下手にあの小娘以外の子供を作られたら困るのじゃよ!じゃから儂がのし上がる為に殺してやったんじゃ!小娘がある程度京都の霊脈を制御できる技量を身に付けたらあの女狐も殺すつもりじゃったわ!」

 

そんな事を言えば確実に死刑だろうに、もはや自分が何を言ってるのかも分かってないのだろう。一瞬このまま殺してしまおうかと思った所で八坂さんから音声通信が入った

 

≪イッキ殿・・・出来るだけ詳しく状況を知りたいのじゃ≫

 

底冷えするような押し殺した声を聞き、少し冷静さが戻って来る

 

「分かりました・・・それで?毒殺と言ったが具体的にはどんな方法だ?」

 

「儂の所の酒に毒を混ぜて贈っただけじゃよ」

 

そんな方法で?八坂さんの夫が死んだというなら色々と調査はされたはずだし、そんな見え見えの手法ではスグに足がついてしまうはずだ

 

訝しんでいると何が面白いのか気持ち悪い笑みを浮かべて詳しく話し出す

 

「何百年も昔な、運のよい事に猛毒を持つ(ちん)という妖怪の赤子を手に入れたのじゃ。鴆の羽は水に溶ける無味無臭の毒、暗殺にはこの上無く適した毒であった。しかし、例え無味無臭でも儂が送り付けた酒という証拠が残る以上、酒の出所ををいくら擬装しても何時かはバレてしまう。だがある時気づいたのじゃよ、毒はあくまでも妖力の発露、赤子や幼子の間は半日も経てば毒の力を失ってしまうのじゃと・・・だが、それだけでは相手が死ぬ前に毒が消えてしまうと思うじゃろ?じゃが、相手が妖怪ならばその者の妖力を糧に弱い毒が体内に残留し続けるのじゃ―――結果、病気のように徐々に衰弱死してゆくのじゃよ!」

 

成程、証拠の酒は調べる頃には無毒化し、本人の妖力を糧にするという事は多分血を抜いて検査とかしても調べる頃にはやはり無毒化するという寸法か・・・だけどコイツ今気になる事を言ったな。『何百年』だと?

 

「つまり八坂さんの旦那さんの毒殺に使ったのはその妖怪の子供って事か?」

 

流石に何百年も子供時代が続く妖怪って事はないよな?

 

「子供?クックック!そんな勿体ない使い方をするものか!大人の鴆の毒は真の暗殺には向かんからの、屋敷の地下牢に繋いで無理やり子供を産ませ、用済みとなった大人の方は処分しておったからの、もう今のあ奴が何代目の鴆なのか儂も把握しておらんわ!・・・あまりやり過ぎても問題になるからの、数十年に一度、ほんの数人死んでもらう程度の事じゃよ」

 

「そうやって関西屈指の大商人にのし上がったのか?」

 

「ヒッヒッヒ!その通り、どうじゃ?この儂、団三郎狸の下に来ればあんな小娘でなくもっと良い女も金も融通してやるぞ?それで今回の件は水に流そうではないか」

 

どうやら喋ってる間に薬(痛み)が切れてきたみたいだな―――今まで候補者たちは抵抗するでもなく、はた目にも心が折れていたから戦場から離したうえで後遺症の残るような攻撃はしなかったけど、此奴相手なら解禁で良いだろう

 

この団三郎とかいう狸の胸の辺りに掌底をたたき込む

 

「うべぇぇぇ!!・・・げぇほ!ゴホ!」

 

体内に通した衝撃を元に片肺を潰した。本来仙術でここまで物理的なダメージは与えられないがそれは相手が同レベルならの話だ―――潰れた肺の影響で文字通り血反吐を吐いているコイツの背中に手を当てて潰れた肺を強引に修復する。無理やり繋ぎ止めたような感じだからもうただの治癒ではアーシアさんでも治せないだろう

 

ついでにもう片方の肺も同様に処理していく

 

血反吐を吐き、体が空気を求めるのに肺が空気を受け入れられないのはさぞかしキツイ状態だろうな。少し待つと”ヒュー、ヒュー”とか細い息遣いが聞こえてきたので髪を掴んで無理やり顔を上げさせる

 

ちゃんと恐怖を思い出してくれたみたいだな―――後聞き出すべき事と言えば・・・

 

「あんたの商店は何処まであんたの直属なんだ?裏に関わってる奴らの記録とか弱みとか纏めた資料が在るんだろう?」

 

大商人というからには何も知らない末端の店とかも多いだろうしな

 

「そ・・・それは・・・」

 

この期に及んでまだ口ごもるので取り敢えず地面についていた手の小指を折る

 

「ぎゃああああ!!し・・・資料なら此処に在る!何時も肌身離さず持ち歩いている!」

 

そういって異空間から妖術で一枚の葉っぱを取り出し地面に置くと”ポン!”と小気味いい音と共に葉っぱが資料の山に代わる―――成程、これなら術に長けたやつが盗み出そうとしてもどれが目当てのモノなのか分からないのだろう。多分コイツの持つ異空間には沢山の葉っぱが入ってるんだろうな

 

「八坂さん」

 

≪うむ≫

 

八坂さんの名前を呼ぶと早速資料が転送されていった

 

ついでだ。このまま全部終わらせてしまおう

 

話を聞かれないように一度こいつを気絶させ、念のために遮音結界で包んでから再び八坂さんに思いついた作戦を伝える―――その際にイヅナを通して八坂さんに別途連絡を取り、八坂さんの音声をフィールド全体に聞こえるようにしてもらう

 

≪そうか、それで一網打尽にしてしまおうというのじゃな?じゃが、この資料の解析もあるし、作戦も詳細を詰めねばならんから一日待ってくれぬか≫

 

「分かりました。ネズミ一匹逃がさないようにしましょう」

 

≪しかし、そうなると人数を搔き集めねばならんの。だが大きな動きをしたら幾ら素早く動いても気取られるかも知れん。どうしたモノじゃろうか・・・≫

 

すると俺と八坂さんの会話を偶々(・ ・)この場で聞いていた九重ファンの皆さんが「八坂様!どうか俺達を使って下さい!」と都合よく 有り難くも名乗り出てくれた

 

「八坂様の旦那様を暗殺とか許せねぇ!」

 

「つまりは九重ちゃんも悲しませたって事だろ?二重の意味で最悪だ!」

 

「京都に巣くう害獣をぶっ殺してやる!」

 

これで兵隊はそれなりに確保できたな―――とはいえ皆が怪我人なのを何とかしなければ

 

「八坂さん。俺はこれから彼らの治療をしますので、彼らの配置など細かい事はお願いしても良いですか?」

 

それなりに京都に来ていると言っても流石に地の利があるとは言えないからな

 

その辺りは関西を統べる御大将に任せる方が良いだろう

 

八坂さんの了承を得てから狸を含めた候補者たちは屋敷の檻に隔離してもらい皆に向き直る

 

「聞いての通りだ!恐らく明日はデカい出入り(ケンカ)になる!だがお前らはボロボロだ!よって今から全員の傷を可能な限り早く俺が治す!」

 

ボロボロにしたのは俺だって?そんな昔の話は忘れたな!

 

こいつ等全員最初はゾンビの類だったのに今では皆包帯に包まれてない所を探す方が難しいからな―――一体いつの間にミイラにジョブチェンジしたんだか・・・

 

「敵は九重と八坂さんを悲しませた奴らだ!———まさか万全の状態で挑まなくてもイイなんて奴は居ないな!?」

 

ノリと勢いで全員に発破を掛ける・・・まぁ既に頭(狸爺)は潰れてるんだけど

 

『ウォォォォォォォォ!!』

 

「九重にいいとこ魅せたいか!」

 

『ウォォォォォォォォォォ!!』

 

「今なら八坂さんも付いて来るぞ!」

 

『ウォォォォォォォォォォォォ!!』

 

「だったら俺に付いてこい!」

 

『ウォォォォォォォォォォォォォ!!』

 

「九重との婚約を認めるか!?」

 

『ウォォォォォォォォォォォォォォ!!?』

 

「この戦いが終わったら九重と八坂さんの親子に直接礼を言って貰えるように提案してやる!もしかしたら握手会にもなるかも知れないぞ!(望みが叶うとは言ってない)」

 

『ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!?』

 

集った妖怪たちは皆両手を天に掲げて叫び、獣型の妖怪の遠吠えがススキ野原に響き渡った―――握手会は兎も角、直にお礼を告げる機会は作って貰おう・・・そうでないとこの熱は治まらないかもしれない

 

それから300を超える人数で輪になって手を繋いでいき全員の気を操り自然治癒力を限界まで高めていく。これだけの人数の気を同時に操るとなると大変だがイヅナに4~5人おきくらいに憑依してもらって中継器(ハブ)生命力(オーラ)のバッテリー替わりになってもらった

 

そのまま2時間ほどで昼となり皆には沢山ご飯を食べて身を清めてサッパリした上で英気を養ってこいと告げて屋敷に転移した

 

 

 

 

 

 

転移した先では何時ものように九重が屋敷の前で待っていてくれていたのだがその表情は暗いものだった

 

「・・・イッキ。話は聞いたのじゃ」

 

九重が言うには稽古の休み時間にイヅナが急に飛び出していったので後を追いかけると八坂さんの話声が聞こえてそこから知ったらしい・・・迂闊だったな。イヅナは初めは八坂さんに渡したけど、今では基本的に九重と一緒に居るんだから急に飛び出して行ったら普通追いかけるよな

 

「ゴメン。嫌な話を聞かせたよな」

 

「いいや、私は京都を治める母上の娘。いずれにせよ知らされていたじゃろう・・・もっとも、事が済んだ後だったかも知れぬがな―――それに、薄情かも知れぬが私は物心が付く前には父上は居なかったからの。今は悲しみよりも母上を嘆かせた事への怒りの方が強いかも知れん。とはいえ、既にあの者は捕まっておるがの」

 

確かに、既に主犯は潰して残るは掃討戦だけだからな・・・

 

「九重は今回どうするんだ?」

 

「私は屋敷で指揮を執る母上と一緒に居る予定じゃ。先も言ったが既にあの者は捕まっておる。態々大将の母上が出向くまでも無いからの」

 

全員で攻め込んで本拠地の屋敷をもぬけの殻にする訳にもいかないしな・・・

 

「イッキは戦いに参加するのじゃろう?」

 

「偶然とはいえあの狸爺の悪事を暴いたのは俺だしね。それに、今回の一件で俺と九重の婚約が対外的にも認められる事になれば九重のお父さんは俺にとっても義父になるからね、決して他人事じゃないさ」

 

・・・あ。改めて口にしたらなんかムカついて来た・・・もっとイタぶるべきだったか

 

内心ムカムカしていると目の前の九重が何処かソワソワした感じで顔を赤らめていた

 

「う・・・うむ。しかしアレじゃな。イッキが私との婚約に関してそうハッキリと口にするのは珍しいの」

 

「黒歌にも『ハッキリとした態度を取れ』って言われたからな。今更だが九重は俺で良いのか?」

 

そう言ったら今度は逆にジト目で見られた

 

「本当に今更じゃの。何時も言っておるじゃろう?私はイッキが良いと!」

 

それを告げた九重はとびっきりの笑顔だった

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、私に何か手伝える事はないかのう?母上の傍で待機とは実質何もしないようなものじゃからな。無論、出しゃばりたいという訳では無いが・・・」

 

「なら、美味しいお昼と他愛のない会話を頼むよ」

 

「そんな事で良いのかの?」

 

いつも通りを注文したら首を傾げているな

 

「あの狸爺の話を聞いてやっぱり気分が良いとは言えないからな。そういった『普通』ってのが一番心が落ち着くもんなんだよ―――九重はどうだ?正直明日は消化試合だ。それでもずっと嫌な気持ちを引きずったまま過ごしたいか?」

 

「それは嫌じゃ!あんな者の為に何時までもくよくよしてられんしの。では何時ものように先にシャワーを浴びるがよい。その間にお昼を用意しておくからの!」

 

流石にいきなり割り切って切り替えろとは言えないがそれでも多少なりとも吹っ切れたのかパタパタと小走りで休息用の屋敷の中に入っていった

 

それからまた皆でススキ野原で円となって仙術での回復を図り、夜(時間が)になる頃には全員の傷を大まかながらも回復させることが出来た

 

皆のオーラを回復に使ったのでかなり疲労困憊といった感じだが一晩寝たら体力も回復するだろう

 

例の狸爺に関しては八坂さんが信頼のおける部下の人たちと資料の解析に全力を費やし、他にも色々と細かい所を無理やりに吐かされたようでもはやボロ雑巾となっているらしい

 

その上で俺が考えた事だが『お前の部下を売り渡せばこれ以上傷付けないで関西からの追放で済ませてやる事も考えてやるぞ?』と囁いたら悪事に関わる直属の配下たちに緊急招集の回状をせっせと廻してくれたようだ———もっとも、死刑は確定事項だが・・・

 

『九重との婚約が上手くいったので今後を話し合いたい』と言った内容だが今まで散々あくどい手段を取ってきたことを知っている配下たちは特に疑問に思うことなく招集に応じる返事を寄越してきた・・・クソッたれな精神に対して部下の信頼が厚い狸である

 

翌朝、多くの妖たちにとっては仕事終わりの夕方ともいえる時刻に狸爺の屋敷に配下の者達が集まったと監視していた者から連絡が在った。商人の集まりなので流石に全員集合とはならなかったが大多数は集まってくれたのでこの場に来なかった幹部の下には八坂さんの部下が別動隊として向かう手はずだ

 

京都の地脈・霊脈を制御する八坂さんの力があれば遠隔で転移封じの強力な結界を展開する事位朝飯前らしい―――九重ファンの皆さんと一緒に狸の本拠地の屋敷に転移して同時に強力な結界が張られた

 

如何に強力な結界と言ってももしかしたら術に長けた用心棒とかが居るかもしれないのでやるべき事は一つ、迅速に制圧する事!

 

「いくぞお前ら!俺の後ろに付いて来い!」

 

『ウオォォォォォォォォォォ!!』

 

百鬼夜行を引き連れて正門を盛大に殴り壊して中に入り片っ端から仕留めていった。一応用心棒的な奴らもいたが精々が上級悪魔クラスだったので特に問題なく殴り飛ばす

 

それ以外は基本的に非戦闘員ばかりだったので九重ファンの皆さんも次々と制圧していった

 

大方の相手を気絶させ捕縛して一か所に纏めている中、俺はと言うと地下牢の前に居た―――牢屋の中では九重と同じくらいか少し年下の翼を持った妖怪の男の子が鎖で繋がれていた

 

もっとも、牢屋と言ってもちゃんとしたベッドも在るし、鎖もかなり長いから牢屋の中での自由はそれなりに確保されてそうだ・・・成程、こうして大切に且つ逃げ出さないように飼われて(・ ・ ・ ・)いたと・・・実際見ると胸糞悪いな!

 

ともあれその子を保護して屋敷内の気を探り、一応九重ファンの皆さんに屋敷中を外側から剥がすように破壊してもらって確かめた後、八坂さんに制圧完了の報告を入れた

 

どうやら他の場所も無事に制圧出来たらしい・・・とはいえ仮にも大商人を潰したので事後処理が非常に面倒らしいが、流石にそっちは手伝えそうにない

 

保護した子については暫くは監視の意味も含めて八坂さんの所で預かるそうだ

 

この子の毒で夫が死んだ事についてもそれをこの子のせいにして恨むほど筋違いではないから心配するなと云われた・・・後々聞いた話だと言葉は喋れるものの読み書きの類は出来ないらしく、年の近い九重が面倒をよく見た為(毒対策は万全に)弟が出来たようだと喜んでいたらしい

 

その日は八坂さんも忙しくて時間が取れなかったようで話も出来なかったが次の日に何時もの部屋に同じメンバーで呼び出された

 

「よく来てくれたのう。昨日は功労者のイッキ殿に対して労いの言葉も掛けられなくて申し訳なかったのじゃ」

 

「いいえ、むしろ事後処理をまるで手伝えない自分の方こそ申し訳ないです」

 

「フフ。ではお互い様という事にしておくかの」

 

日本人名物の一つ、『お互いに延々と謝り倒す』という事にはならなかったようだ

 

「さて、実はまだまだ立て込んでおるでの。早速本題に入らせてもらうのじゃ。イッキ殿を京都に呼ぶ時に依頼がしたいと言うたじゃろ?当然、報酬もある・・・というよりもこの報酬をイッキ殿に渡す口実でもあったのじゃ」

 

「口実・・・ですか?」

 

つまりはどんな言い訳を用意してでも俺に渡すつもりであったと?

 

「うむ。先ずは見てもらった方が良いじゃろう」

 

そう言って八坂さんは自分の胸元に手を突っ込んで一つの巾着を取り出したけど、そこから出す意味ありますか!?着物なら普通に袖口とかから出せば良いじゃないですか!?

 

渡された巾着を手に取る・・・温かいのは無視しよう

 

「ほれ、中身を取り出してみるといい」

 

そう促され巾着を逆さにして振ると黄金色に輝く玉が出てきた。大きさはビー玉くらいだ・・・黄金なら確かに価値はあるのかも知れないけどビー玉程度の大きさではたかが知れてるよな?コレが絶対に渡したかった報酬?

 

「それはの、わらわが昔まだ京都を治めておらなかった頃に大陸からの旅の商人を偶然助けた時にお礼として貰ったモノでな。金丹と呼ばれる不老長寿の秘薬じゃ!」

 

「ええええ!!そんな貴重なものをお礼に貰ったんですか!?」

 

豪胆過ぎない?その商人とやら!!

 

戦慄していると八坂さんが当時の商人とのやり取りを語ってくれた

 

 

 

 

 

 

 

―――おおよそ千年前

 

 

 

 

「アイヤー。助かったアルよお嬢さん。まさか崖から落ちて動けなくなるとはネ」

 

「何、偶々通りがかっただけじゃ。それにしてもその訛り、お主大陸の出か?」

 

「その通りネ!見聞を広める為に海を渡ってみたアルが言葉を覚えるのにも苦労したヨ!お嬢さんには何かお礼をしたいけど今手元に在るのはコレくらいネ」

 

「それは・・・金か?」

 

「私の家に昔からある家宝ネ!と言っても商売してるとこの程度の金は普通に手にできるし、コレをあげるヨ!」

 

「良いのか?家宝なのじゃろう?」

 

「ご先祖が何を思ってコレを大切にしまっていたのかも分からないアルし、命の恩人に渡す理由としては十分アル!それに実はこの『きんのたま』はもう一つ有るネ!何せ『きんのたま』だからネ!二つあるのは当然ヨ、なんと言ってもオジサンの『きんのたま』だからネ!!」

 

 

 

 

 

 

―――現代

 

 

「とまぁ、そういう経緯でその『きんのたま』を貰ったのじゃ―――初めの内はあの商人と同じようにただの純金かと思っておったのじゃが、獣の妖怪であるわらわが僅かに感じ取れる程度じゃが薬の匂いがしてのう。色々と伝手を辿って調べた結果、中国の最高峰の霊薬の一つ、金丹であると分かったのじゃよ」

 

うん・・・回想に在った微妙なセクハラ発言は置いておくとしてその商人は本当の価値を知らなかったんだな。まぁもう一つ持ってたらしいし別に良いか・・・

 

「それと、その金丹は実はそこまで貴重ではないのじゃよ」

 

「何故ですか?コレを手に入れる為に争いが巻き起こっても可笑しくないと思いますけど・・・」

 

「それがそうでもない。無論普通の人間にとっては貴重じゃが、わらわ達妖怪は元々寿命が長いから妖怪の世界では大した価値を持たんのじゃ。加えて魔王のベルゼブブ殿が作り出したあの悪魔の駒(イーヴィルピース)のお陰でこの薬の価値は大暴落したからの」

 

ああ・・・確かに悪魔の駒(イーヴィルピース)は王を除いて15人分は悪魔に出来るからな

 

転生する皆が人間という訳でもないが昔に比べたら不老長寿は手が届きやすい位置に在るのか

 

そりゃ価値も下がるわ

 

「コレって普通に飲み込めば良いんですか?」

 

「うむ。だが良いのか?それを絶対に使えとはわらわには言えん。寿命だけとはいえ、人間から逸脱するのじゃぞ?無論、九重の為にもそうしてくれれば有り難いが・・・」

 

「大丈夫です。どの道仙術を極めていけば似たような事は出来るみたいですし、そちらに修行の時間を掛ける必要がなくなるのは此方としても有り難いですからね―――それに九重も黒歌も、それに多分小猫ちゃんも・・・皆人間じゃないですから長い寿命に忌避感もありませんし」

 

先に俺だけ早くに死んだら申し訳ないからね・・・それに悪魔の出生率は極端に低いからそれこそ俺が早くに死んだら子供すら出来ないとか普通に在りうるからな

 

そうして自分でも驚くほどに気兼ねなく、その『きんのたま』もとい金丹を飲み込んだ

 

「!ッツゥゥゥゥ!!」

 

「そりゃその大きさの丸薬を水も無く飲み込めば痛いじゃろ・・・ほれ、水じゃ」

 

八坂さんに差し出された水を慌てて飲み干す・・・うん。今のは俺が馬鹿だったわ

 

そうして聞くところによると悪魔にも匹敵する寿命を得られた俺は盆が終わるまではそのまま京都でお世話になった・・・一度九重の父親の墓参りにも同行させてもらったが

 

「イッキ殿、また何時でも京都にいらして下さいね」

 

「はい。お世話になりました。九重もまたな」

 

「うむ!また今度なのじゃ!」

 

そうして俺は二人に見送られて家に転移していった




まだ夏なので次回は海にでも行ってこの章は終わりにするつもりです・・・というか番外編に近いですね

最初は婚約者たちはそのままフェードアウトするはずでしたが嬲ってる間に『九重のヘイトを稼ぐ為に出した狸が居たよな。良し!キャラを掘り下げて超老害キャラにしよう!』となりました・・・私はあまり先々の展開を匂わせる発言はしない方が良いのかも知れませんね

ただ、『きんのたま』については九重が婚約者になった後辺りから考えてはいましたw
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