第一話 次期当主との、殴り合いです!
修学旅行を明日に控えた今日、俺達オカルト研究部は冥界のグレモリー領に来ていた
リアス部長の眷属が先日ロスヴァイセさんが加入した事により全枠が埋まったので現当主への顔みせの意味合いがあるそうだ
レイヴェルはまだ駒王町スタッフの仕事を元々スケジュール一杯まで詰め込んでいたので今回は冥界に来る事は見送ったが俺とイリナさんは折角なので一緒にどうかとリアス部長に誘われたこともあって同行させてもらった
黒歌には「お土産買ってきて」と言われたから帰り際に適当に買うとしよう
後、ロスヴァイセさんが悪魔になってから初めての冥界なのでグレモリー所有の列車で行くことになったがさり気にこの列車に乗るのは初めてだったな・・・途中リアス部長がグレモリー領の地図をロスヴァイセさんに見せて「何処の土地が欲しい?その土地は貴女の物よ」と言われた時には目玉が飛び出る勢いで驚いていたな
少なくとも北欧のヴァルキリー部署よりは待遇は破格と言っていいほど違うらしいけど最初に取り敢えず広大な土地を貰えるグレモリー眷属と比較したらダメだろうに
そして今はグレモリー当主のジオティクスさんと奥方のヴェネラナさんと長い高級テーブルを囲んで挨拶している所だ。俺は前に挨拶自体はした事があるので今回のメインはロスヴァイセさんと同じく初めてこの家に来るイリナさんだ
「ロスヴァイセさんは教育事業に関心がおありだとか?」
「はい。北欧の魔術を教える学校のようなものを立てて、将来的には悪魔からヴァルキリーを輩出出来ないか試していきたいと思います。他にも日本のお店をリスペクトした店舗なども設立して経済も廻していけたらと思っております」
「はっは!やる気に溢れているようで結構。グレモリーの当主としては期待が膨らむばかりだよ」
ジオティクスさんは笑っているけどロスヴァイセさんの店舗設立ってもしかして百均か?百均への熱意を語ってる所は見た事ないけど連日百均の袋を提げて帰宅してるらしいしやっぱり百均か?
「天使の私がこうして上級悪魔の家にお邪魔出来る何て光栄の限りです!コレも主とミカエル様、そして魔王様のお陰ですね!」
「天使のイリナさんにそう言って貰えるとはサーゼクスや他の魔王もやりがいが出るというものだろう―――そうだ。丁度今居住区の方にサーゼクスが戻っている」
「お兄様が?」
「ああ、それと一緒にサイラオーグも来ている。先ほどリアスたちが来ると話していたのだが、是非挨拶したいと言っていたのでな。この後顔を見せに行っておくれ」
「サイラオーグまで来ていたのですね。分かりました。後で皆でご挨拶に伺います」
それから少し雑談(ヴェネラナさんの漬物好き発言など)をしてから皆で居住区の方に歩いて行く
「サーゼクス様か・・・どんな顔して会えば良いのやら」
隣に居たイッセーが独り言ちる。その顔は苦虫とまでは行かないまでも癖の強いものを噛んだような微妙な表情だ
「確か戦隊ヒーローなサーゼクスさんと戦ったんだったか?」
俺が先日引っ越してきたレイヴェルの買い物や学校見学に行ってる時にイッセーはイッセーで訳の分からない事態に巻き込まれていたらしい
「ああ、四大魔王とグレイフィアさんって云う冥界のトップ戦力による戦隊ヒーローたちが次々試練を出してきてな。最後にサーゼクス様とも戦ったけど完全に弄ばれてたよ。それと全部終わった時、ベルゼブブ様にアドバイスと一緒に変な事も言われたな」
「アドバイスは兎も角、変な事って何だよ?」
「ああ、アドバイスは俺はまだ『女王』の力を使いこなせてないから先ずは他の駒への昇格でそれぞれの駒の力の流れを知れって云うのだったけど、他に俺の体や
むしろ俺としては心辺りしかないけどな。多分アレだろ。ピー
そうこうしているうちに前方にサーゼクスさんとサイラオーグさん、そして楽し気にサーゼクスさんと一緒に居るミリキャスが居た。ミリキャスには一応夏休みにこの家にお邪魔した時に出会ってはいる―――とは云えすぐに帰ったことも在って軽い挨拶程度だがな
「お兄様。此方にお戻りになられていると聞きましたのでご挨拶に伺いました」
「リアス。そうか、気を遣わせてすまないね。丁度今サイラオーグと今度のレーティングゲームの事について話し合っていた所なのだよ」
サーゼクスさんがそう言うとサイラオーグさんが鋭い眼光を俺達に向けてきた
以前出会った時よりもかなりオーラが増してるな。とても力強いオーラだ・・・後ろでギャスパーが「っひぅ!」と情けない悲鳴を上げている。ビビり過ぎだ、頑張れ男の娘
「お邪魔をしている。元気そうだな、リアス、赤龍帝、有間一輝」
「ええ、貴方こそ元気そうで何よりだわ。今日はどうして此処に?」
「うむ。バアル家の特産品を持ち寄らせて頂いたのだ。弟が品種改良を施したリンゴがまた一段と美味くなってな。機会があれば是非食べてみてくれ。それと、先ほどサーゼクス様にお願いしていた所なのだがお前たちとのゲームでは個人に制限を掛けるようなルールを除外して欲しくてな」
「ッツ!それは、こちらのチームの不確定要素を全て受け入れるという事かしら?」
「ああそうだ。ヴァンパイアの時間停止も赤龍帝の破廉恥な技も全て受け入れたい。本気の相手と戦う気概も無ければバアル家の次期当主を名乗れるはずも無いからな」
サイラオーグさんの何処までも真っ直ぐな言葉を聞いてリアス部長も何だか嬉しそうだ
どんどんと戦意を昂らせる彼らの姿を見てサーゼクスさんが一つの提案をする
「丁度良い、サイラオーグ。赤龍帝と拳を交えたいと言っていたね」
「ええ、確かに以前そう申し上げましたが・・・」
「なら、軽く手合わせするのは如何だろうか?」
サーゼクスさんの提案にイッセーが驚いているな
「それは素晴らしい事です!・・・ですが、もし宜しければもう一つ、我が儘を言っても良いでしょうか?」
喜びながらも更に条件を付け加えるサイラオーグさんだけど、そういう事を言う人だったかな?
「ほう?サイラオーグがそのような事を言うのは珍しいね。言ってみたまえ」
サーゼクスさんも少し驚いたようだが気になったのか続きを促す
「はい。以前、有間一輝とも拳を交える約束をしています。彼とはレーティングゲームで戦うような事もありませんのでこの機会に是非とも戦ってみたいのですが」
サイラオーグさんの眼光が今度は俺一人を射抜く。確かに以前約束しましたね
「サーゼクスさん。俺としては問題ありませんよ」
「そうか、有難う。リアス、キミは如何だい?」
「お兄様―――いえ、魔王ルシファー様がそうおっしゃられるなら断る理由がありませんわ・・・イッセー、イケるわね?」
「は・・・はい!」
こうして急遽模擬戦が決まり、グレモリーの地下にある特設のトレーニングルームに移動する事となった。最初に戦うのはイッセーだ
サイラオーグさんとしては連戦という形にはなるがそんな事を気にする人じゃないだろう
「ドライグいくぞ!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
地味に修行で変身するまでの時間が40秒から30秒に減ったイッセーが
だがサイラオーグさんは腕組みしたままでイッセーの拳を額で受け止めてしまった
辺りに硬い物同士がぶつかったような爆音が響くがサイラオーグさんは身じろぎ一つしない
そこから始まる戦いはサイラオーグさんが只管に『力』を振りまく戦いだった
赤龍帝の『力の塊』というキャッチコピーを物理で吹き飛ばす肉弾戦だ
「イッセー君の赤龍帝の鎧が拳の余波だけでボロボロになっていく。彼の攻撃は紙一重で避けるだけではダメージを受けそうだ」
「あらあら、映像で見るのと実際にこの目にするのとではやはり違いますわね。いえ、以前のレーティングゲームの映像の時期から時間も経っていますし参考程度にしかならないのでしょう」
「ええ、実際に私達が戦う時にはもう一段上の実力は最低限想定しなければいけないわね」
皆が分析と感想を溢す中、彼らの戦いは次に進む
イッセーが『戦車』に
サイラオーグさんは鼻血と僅かに口を切っているのに対してイッセーは割と普通に吐血している
クリーンヒットのイッセーに対してサイラオーグさんの攻撃はクリティカル判定だ。抗えないとまでは言わないが地力の差は明白だ
「ふむ。此処までにしておこうか」
「そんな!俺はまだまだやれます!」
終わりを口にしたサイラオーグさんにイッセーが戦えると口にするがサイラオーグさんはそんなイッセーの肩に手を置く
「勿論だ。俺もお前もまだまだ戦える。それにお前にはまだ白龍皇の力というのも在るのだろう?俺もそれを味わってみたいが元々コレは軽い手合わせだ―――これ以上戦うと楽しくなって歯止めが利かなくなりそうなんでな・・・それと先ほどの『戦車』の攻防で分かった。お前は今、何かに目覚めようとしているな?俺たちの決着はレーティングゲームの場こそが相応しいだろう。その時、お前が手にしているであろう新しい力でもって改めて殴り合おう」
サイラオーグさんはそう言ってイッセーに拳を突き出す
「っはい!」
イッセーも拳を突き出してお互いの拳をぶつけ合った
「さて、なら次は俺だな。グレイフィアさん、こっちは軽い手合わせにする理由も無いので少し派手になるかも知れません」
観戦席のミリキャスと一緒に居たグレイフィアさんに声を掛ける
「分かりました。こちらには私が結界を張っておきましょう」
「有難うございます」
折角なので細かい事を気にしないで戦えるようにしてもらう事にする
鎧を解除したイッセーが此方に来てアーシアさんの治療を受けているのを確認して俺はサイラオーグさんと審判役のサーゼクスさんの居る場所に向かった
「俺の突然の我が儘に付き合ってくれて礼を言うぞ。有間一輝」
「いえいえ、偶にはこういった何の気兼ねも無い真っ直ぐな戦いも悪く無いと思います―――もっとも、俺は人間ですからね。小賢しい真似の一つや二つは盛り込むとは思いますよ?」
「是非もない。どんな手でも存分に使うが良い。第一、事前にそんな事を告げている時点でお前の根底の人の好さが露呈しているぞ?」
そんなものですかね?
「二人とも、準備は良いかな?」
「「はい!」」
「では・・・始めたまえ!」
開始の合図と同時にサイラオーグさんが真っ直ぐ突っ込んで来た
繰り出されるのは愚直なまでの右ストレート―――それを俺は額で受け止めた
先程のイッセーとサイラオーグさんの戦いの構図を逆転させた感じだ。勿論俺がこんな舐プみたいな真似をしたのには理由がある
なにせ戦いはまだ
「サイラオーグさん。先ほど準備は良いと言ってましたが本当に
俺が問いかけると彼は驚いた表情になった後、すぐに心底嬉しそうな顔に変わり距離を取った
「そうだったな。兵藤一誠と違い、次にお前と闘えるのは何時になるのか分からんのだったな。ならば!遠慮なくこの枷を外させて貰おう!」
宣言と共にサイラオーグさんの手足に魔法陣が浮かび上がり、それが霧散すると彼の闘気が更に高まった。今の彼なら先程の『戦車』・・・いや、例え『女王』で強化されたイッセーでも負けるだろう。それくらいオーラが跳ね上がった
「行くぞっ!!」
先程の一撃とは比較にならない速度で迫る彼の拳を彼と交錯する一瞬に跳び上がり、サイラオーグさんの頭に手を置いて前方宙返りを決めながら躱し、体が一回転するタイミングで背中を思いっきり蹴り飛ばす
元々俺に対して突貫していた勢いの上に進行方向に蹴り飛ばされたサイラオーグさんはかなり遠くまで吹っ飛んだな
硬気功で防御力の上がった俺だけど近接戦における俺の戦闘スタイルはイッセーやサイラオーグさんのように殴り合うものじゃない。相手の攻撃を捌いてカウンターを入れるのが基本戦法だ
変える必要はないし、変えようとも思わない
「ハハハハハハハ!見事だ!此処まで盛大にやられたのは久しぶりだぞ!」
土煙の中からさっきよりも闘気を高まらせたサイラオーグさんが現れた。戦意が闘気に影響を及ぼしているようだな・・・足元とか立ってるだけでバキバキ鳴ってるし
それから始まる殴り合い―――何度かカウンターを入れたけどダメージは通ってても倒れる感じがしない。ずっと張り付かれると脳のリミッター解除に負担が掛かるからこそ相手を吹き飛ばす攻撃が多いのだが吹き飛ばした端からクロスレンジに持ち込んでくるからさっきからリミッターがONとOFFを行き来しまくってる。これはこれでキツイな!
仙術使いの俺は近接戦では強いとされているけど、サイラオーグさんには気を乱すタイプの攻撃は効きづらいんだよな!闘気と言うのは元々は自身の生命エネルギーを爆発させる仙術の一種だからサイラオーグさんレベルで闘気を纏ってるとその勢いに押されて仙術で干渉しにくいのだ
まぁ俺も黒歌の仙術への抵抗力は強いからな・・・それと同じ事を筋トレの果てに習得したサイラオーグさんは頭可笑しいと思う
だから俺も途中から仙術で気を乱すのは止めて闘気の出力の方に力を割り振ってトレーニングルームを縦横無尽に走り回って拳や蹴りでクレーターを作っている所だ
そんな中、一瞬サイラオーグさんが視線だけでサーゼクスさんの方を見てから殴るのではなく取っ組み合う形で近づいて来た。そして小声で話しかけて来る
「(有間一輝。伝えたい事がある)」
傍目には掴み合って力押しし合っているように見える体勢だ・・・サーゼクスさんの耳にも届かないように自然と距離が離れたからこそ、この形で声を掛けて来たのだろう
「(何でしょう?)」
「(母上が目を覚まされた)」
そうして告げられたのは中々に衝撃的な内容だった。そっか、スッポンの生き血は不治の病すら癒すんですね
「(あの薬の検証自体は思いのほか早く終わってな。先日、母上が目を覚まされたのだ。だが、俺は今まで恩人たるお前に礼の一つ言っていない。本当に済まなかった)」
サイラオーグさんが謝るがそもそも彼が忘れていたとは思えない・・・かと言って理由があろうと言い訳するタイプの人でも無いからな
サイラオーグさんが俺に連絡を取らなかった・・・いや、取れなかった理由って何だ?
少し考えると答えは出た
「(薬の出所、黙っててくれたんですね)」
「(・・・当然の事だ)」
サイラオーグさんの母親の病は悪魔の世界の不治の病。それを治療できる薬の出所は当然お医者さんたちに詰め寄られた事だろう
そんな中で謎の薬で母親が回復した後ですぐに今まで殆ど交流の無かったはずの俺とサイラオーグさんが連絡を取り合おうとすればどうぞ疑って下さいと言ってるようなものだ
秘密裡に連絡を取ろうにもバアル家の他の家臣は言っては何だがサイラオーグさんにとって敵に近いし、三大勢力の和平の象徴である駒王町の俺と連絡を取ろうとすれば必ず記録に残るだろう
俺の家に純粋な熱意を持ったお医者さんと薬の生み出す利益に目のくらんだ貴族たちが押しかけて来る光景が目に浮かぶようである
あ~、考えるとかなりこの件で気を遣わせてしまったな。逆に申し訳ないくらいだ
「(ではこの後、サーゼクスさんとリアスさんには話を通しましょうか)」
「(良いのか?)」
「(情報規制もやり過ぎが原因で身動き取れなくなったら意味ないですからね・・・さて、ではそろそろ再開しましょうか―――)此処からは『人間』の戦いを魅せて上げましょう!」
「ああ!存分にお前の『人間』を見せてくれ!」
組み合った状態から俺は相手の体勢を崩しにかかる―――本来、十二分に警戒している相手を崩すと云うのはかなり難しい。しかし、密着状態というのは相手にダイレクトに力を伝えられる状態とも云える・・・一瞬でも相手の意識を崩す事が出来れば技を掛けられるのだ
「南無阿弥陀仏!!」
「ッグ!」
俺の突然の仏教用語にほんの僅かだが彼の体が弛緩したので、その隙をすかさず突いて背負い投げで地面に叩きつける
そうして追撃として足に膨大な闘気を集中させて
「まだまだいきますよ!」
サイラオーグさんが吹き飛んだ方向に走り寄りながら異空間から前に作ってもらったアザゼル印のアイテムを取り出す・・・構造自体は単純だからすぐに作ってくれました!
出てきたのはバングル的なスピーカーだ。戦闘でも邪魔にならず且つ頑丈最優先で作ってもらったそれに付いているボタンを押すとそこから只管に『南無阿弥陀仏』が繰り返し再生される
勿論さっきの俺がサイラオーグさんにやったのは俺の【神性】でブーストが掛かってたが何時ぞやのライザー戦でやったように肉声を直接届けた訳でもないただの『南無阿弥陀仏』では頭がズキズキ痛む程度の事だろう・・・でも、ウザいでしょ?
普通の悪魔なら魔力で耳栓すれば聞こえなくなるだろうがそれはつまり戦闘において聴覚を封じる行為に他ならないし、魔力の扱いが下手であろうサイラオーグさんは耳栓の魔力なんて例え作ろうとしても作れるはずが無い
壊れたスピーカーのように延々と垂れ流される悪魔に対する固定ダメージはどれだけ気力を張っても消耗が加速する事間違いなしだ!100メートルは先の人の会話すらも聞き取れる耳の良さが在れば戦闘音の中でも聞き取ってしまうだろう
此処から先は一気に決めるべく筋肉も脳もリミッター解除してこっちから攻勢に出る
サイラオーグさんが突き出してきた右こぶしの手首の辺りを左手で掴み一気に引っ張る事で踏み込む勢いと合わせて彼の部厚い胸板が急接近してくるのでその真ん中に右腕を折りたたんで繰り出す肘打ちを仕掛ける
確か
「ゴフッ!!」
胸のど真ん中を撃ち抜かれたサイラオーグさんが肺の中の空気を吐き出す
更にそこから掴んだ左腕を基点として振り回して遠心力を持って投げ飛ばした
さて、投げ技や吹き飛ばし技を多用する俺だけど、当然吹き飛ばされた先が硬い程加速度的に威力を増す―――マットの上で柔道するのと分厚い鉄板の上で柔道をするのでどっちか危険なのかなんて言うまでもないだろう
しかし、悲しいかな。裏の世界の膂力を手にすると大抵の壁や地面は柔らかい部類に入ってしまう所があるのだ・・・それを踏まえた上でこの場でもっとも硬く、叩きつけられる場所と言ったら何処なのか?
答えは『グレイフィアさんの張った結界』だ!
それこそ彼女なら必要とあらば一瞬で結界をより強固なものに変えてくれるだろう・・・一応万が一結界が破れても誰も居ない場所には投げたけどな
観客を守るための安全装置くらいは戦術に組み込まないとね!
”ドバァァァァァン!!”
馬鹿みたいな衝突音が聞こえてサイラオーグさんの全身に逃げ場のない衝撃が走る
ちょっと観客の力も利用しただけの純粋なる
だがまだ終わりではない!彼がそこから離脱する前に猛然と拳と蹴りのラッシュを浴びせる
腹を殴れば内臓が潰されるような感覚が走り、顔面を殴ればそのまま後頭部が結界に激突し、脳まで揺さぶられるだろう―――しかし、明らかに俺よりダメージを受けて血を吐いているのにも関わらず彼は笑って殴り返してきた
「楽しいなあ!有間一輝!今まで格上とは幾らでも戦ってきたが、それは基本魔力によるものだった。此処まで体術で圧倒されたのは初めての経験だぞ!」
ボロボロになっていくのに殴り返して来る拳の重みがドンドン増している感じだ。これだけの連続攻撃だと一々ピンポイント防御をすれば何処かで失敗するので全身に闘気を行き渡らせているのだがそうなると殴られた部分が痣が出来てるな
もしも硬気功を習得していなかったら骨も折れてただろう・・・まぁその時はもっと戦い方を変えたとも思うけどな
だが遂にサイラオーグさんが自ら殴り飛ばされる形で結界を背にした場所から離脱した
流石にあのままでは不利と思ったのだろう
口の中が切れたのかタパタパと血が滴り落ちている上に片目も腫れ上がっている
サイラオーグさんの視界が鈍っているのを好機として俺は仙術の分身をその場に残して彼の目を誤魔化し、その隙に腫れ上がって視界が利かない方向に瞬時に回り込んで全力の回し蹴りを側頭部に向かって撃ち放つ!
サイラオーグさんは視覚外からの攻撃に反応出来ていない!
「そこまで!」
攻撃が当たる直前でサーゼクスさんから試合終了の合図が掛かった
「サイラオーグ。最後のイッキ君の攻撃に対して完全に反応出来ていなかったね?残念ながら今回はキミの負けだよ・・・さて、イッキ君。素晴らしい戦いだったが、一先ずそのスピーカーを止めてもらっていいかな?」
「あ!はい!」
まだ流れていた『南無阿弥陀仏』を止めると観戦席に居た皆も近寄って来た。その中でも先頭に居たアーシアさんが走り寄ってきてサイラオーグさんに癒しの光を当てる
「アーシア・アルジェントか、済まないな。恩に着る」
「いえ、怪我を治すのが私の使命ですから!イッキさんもすぐに治しますね」
「うん。有難う」
アーシアさんは本当に直ぐに治療を終えて、俺の傷も数秒で治してくれた―――やっぱりアーシアさんは回復力はチートクラスだよな
「負けてしまったか。負けるのは久しぶりなのだが、やはり悔しいものだな。もっと鍛錬を積まなければ!結局有間一輝の切り札を切らせる事も出来なかったからな」
「いえいえ!俺の切り札って殆ど使ったら相打ちでぶっ倒れるようなものばかりですから!」
使った時点で半分負けみたいなものですからね!
「それでもだ。そこまで追い込めなかったのは俺の弱さゆえ。帰ったらさっそく修行しなくてはな―――俺の気が収まらん!」
そんな風にサイラオーグさんが滅茶苦茶気合を入れている中で少しだけサーゼクスさんとリアス部長を交えて4人で話したい事が在ると伝えて皆には待っていてもらい少し離れた場所に移動する
そこでサイラオーグさんの母親を目覚めさせた出所不明の薬の事をやはり入手先は明かせない事も含めて説明する事になった
この二人なら話しても良いだろうからね
「そうだったの。ミスラおばさまが目覚められたと聞いた時は思わず飛んでいったものだけど、まさかイッキが関わっていた何てね。私からもお礼を言わせて頂戴」
「ああそうだね。イッキ君、私からも感謝の言葉を送らせておくれ。有難う。ミスラさんには私も何度もお世話になった事があってね。魔王の私が行くと色々と問題が在るのが面倒ではあるのだが、実はせめて手紙だけでもとサイラオーグに渡した所でもあったのだよ」
「はい、必ず母上にお渡しします!」
「事情は分かった。リアス、キミならばサイラオーグと遣り取りをしても下手に勘繰られる事もない・・・これから暫しの間、彼とサイラオーグの間を取り持ってくれるかい?二人が普通に出会っても可笑しくないように此方で演出しよう・・・そうだ!サイラオーグ、もし良かったら今度『おっぱいドラゴン』に友情出演してみないかい?普段は変装したスタッフが演じているのだが、今度是非本人たちでステージに出て欲しいとオファーが来ていたのだよ」
何とサイラオーグさんが一足先に『おっぱいドラゴン』デビューですか!?
「成程、そこで有間一輝と表向きの友誼を深めろという訳ですね?それに、冥界の子供たちに笑顔を届けるおっぱいドラゴンには以前から興味がありました。是非とも出演させていただきたい」
サイラオーグさんは楽しそうに笑みを浮かべているけど体から可視化した闘気を迸らせなくとも良いですよ!?どんだけ本気なんですか!?
「母上も一度お前に直接会いたいと言っていた。近い将来、バアル領を案内しよう。それではサーゼクス様、俺はこの辺りで失礼します。ではな有間一輝!―――そしてリアス、レーティングゲームは楽しみにしている」
「ええ、私もよサイラオーグ。お互いゲームでは全力を賭しましょう」
そうしてサイラオーグさんは帰って行き、俺達も人間界へと戻って行った
・・・後日リアス部長経由で彼からの手紙と一緒にバアルの特産品やら出来るだけ嵩張らない宝飾品やらが届いた。手紙に書かれている内容曰く、『お前は余り財に頓着するタイプではないだろうが持っておいて損は無い。もしも希望が在れば返信してくれ』との事だった
まぁ俺も長い生になる訳だからお金が要らない何て事は無いし、異世界のスッポンの生き血とトントンの価値だとしても今回送られた程度のものにはなるみたいだ・・・ヤベェ、俺小瓶一つで豪邸が建つレベルの物を懐(異空間)に仕舞ってたのか
因みにバアルのリンゴはとっても美味しかったです
そっちの方が感動する辺り貴族と庶民の差が出るな
翌日、修学旅行当日の朝、黒歌も白音もレイヴェルも中々放してくれなかったので出掛けに3人を一人一人"ギュッ"とハグした
親も居たからキスは無理だったけど朝から顔から火が出るかと思ったよ
東京駅の新幹線ホームに着いた時に見送りにはリアス部長と黒歌が居た
他の皆は授業が在るし、レイヴェルは予定が詰まってるからな―――一応昨日九重にイヅナで連絡を取った時は何も問題は起きてないとの事だったけど英雄派が如何動くか・・・つーか来るな!
そんな事を思っているとリアス部長が悪魔の皆に悪魔でもダメージを受けずに神社・仏閣を回れる特別フリーパス券を渡していき、最後に少し離れた所でイッセーにキスをしている所が見えた
「あらあら、お熱い事にゃん♪」
「アレでまだ付き合ってないってのは傍から見たら冗談にしか映らないよな」
「ふふん!そうね♪こんな風にね♪」
そう言って黒歌は俺の顔を掴んで強めのキスをしてきた!
「にゃはは♪行ってらっしゃい♪」
「ああ、行ってきます」
そうして俺とイッセーは新幹線に乗り込んだ
「・・・顔がニヤけてるぞイッセー」
「・・・そのセリフ、鏡を見てから言えよイッキ」
「「・・・・・・・・ック!!」」
折角の修学旅行だからな。楽しめる所は楽しんでいかないとな!
投稿するとまず最初にマイリス数がめっちゃ下がるのに文才の無さを感じる