翌日、俺達はグレモリー領に新しく造られたという特別製の訓練用のバトルフィールドに来ていた
兎に角広くて頑丈な事を優先して造られたらしく、少々シンプルな感じがするが多少ならフィールドの設定も弄れるらしい
そんな場所で今は俺とイッセーが模擬戦中だ
イッセーの新技を見る為に一度それぞれの形態のお披露目をして、疲れているイッセーを仙術で回復させてから闘いの中ではどんな感じになるのかを見る為に仮に『真・僧侶』を直撃しても最悪死にはしない俺が選ばれた・・・黒歌もそうだけど此処で彼女に押し付ける気は無いからな
前段階として通常形態の
俺の攻撃をガードしつつも自ら後ろに跳ぶ事で威力を軽減させたイッセーがついに新たに目覚めた力、『
「行くぜイッキ!ついて来られるか?『
イッセーが『真・騎士』の力で加速する瞬間に俺も一気に駆け出してライダーキック(水平バージョン)でカウンターを決めたのだ
「イッセー、その力は装甲が薄くなるからカウンターが決まると痛いだろう?そして背中に増設されたブースターを吹かして速度を得るから小回りが利かずに軌道が読みやすく、お前自身がその速度になれてないから技の出がかりを交叉法で潰すのはそこまで難しくない・・・後は設置型のトラップとかも有効かな?」
そこまで言うと蹲ってたイッセーが立ち上がって距離を詰めてきた
「だったらこれなら如何だ!『
さっきとは逆に全身の装甲をコレでもかと分厚くしたイッセーが殴りかかって来る
それをイッセーの拳の届くギリギリ一歩外になるように避けていく
「その形態は動きが鈍重になるから間合いを取り易いな。それと装甲が大きくなり過ぎる為に体の可動域が制限されるから攻撃が単調になる。後は・・・」
“ザシュッ!!”
イッセーの左腕の関節部を斬り付けて肉体に刃が届く
「ッグ!!」
「どんな鎧も関節部は如何しても脆い・・・まぁ『戦車』の影響で関節部と言えど硬いゴムを切ったような手ごたえだったけどな―――それと!」
殴りかかって来たイッセーの腕の部分に両手を添えてアクロバティックな感じに攻撃を躱してイッセーの顔面を蹴り付ける
マスクの部分が全体的にひび割れてしまい、仰け反って倒れてしまった
「唯一頭の部分は装甲の厚みが変化していないから通常の『戦車』としての恩恵しか受けられない処も、欠点とまでは言わないけど覚えておいて損は無いぞ?」
次で最後だな。俺はイッセーから距離を取ってから声を掛ける
「よ~し!イッセー!俺はこの場所から動かないから撃ってみろ!」
「言ってくれるぜ!避けるまでも無いってか?だったら喰らって見ろよ!『
イッセーがドデカい砲身を展開して足元に踏ん張りを利かせ、膨大なエネルギーをチャージして放つ直前に俺は地面を足で軽く叩いて大地の気を操り、イッセーのつま先の土をボコッと盛り上げる
体勢を崩したイッセーがチャージ砲を天に向けて放ち、反動で後頭部から地面に叩きつけられた
どこぞの大地の力を扱う家のような大規模な事は出来ずとも、これくらいなら下位の仙術使いでも問題なく出来る事だろう
「イッセー!今のはつま先だったけど本当なら踵の土を盛り上げても良かったんだぞ~!!」
そこまで言うと立ち上がろうとしていたイッセーが鎧を解いて頭を振った
「はぁ、降参だよ。俺の負けだ」
イッセーとの模擬戦を終えて皆でイッセーの新技に意見を出し合う事とした
「一つ一つの形態の長所が突き抜けてるけど、その分短所が顕著となっているのね」
「隙を補う為には仲間との連携が必須ともいえる力だね。初見なら一人でも良いかも知れないけど、一度対策をきちんと立ててしまえばそれ以降は通常の鎧で相手に大きな隙を生み出さないとね―――ただ発動させるだけでは対処されそうだ」
「あらあら、『騎士』何かは出の早い私の雷光だとカウンターが狙い易そうですわね・・・いえ、イッセー君ならダメージ覚悟で突っ込んできそうですが」
「イッキ先輩は最後のチャージ砲撃を普通に対処してるように見えましたけど、あれだけのオーラを発射する直前まで引きつけてからやり過ごす何て、かなりタイミングがシビアですぅぅぅ!!」
「あとは消耗も激しいんでしょう?あえて遠近織り交ぜて翻弄して形態変化を促せば一気にスタミナの減少に繋がりそうにゃ」
「でも、当たれば大きいです」
「しかし、現状ではあまり回数が使えないのも事実。ゲームはもう近いですから、今回はサイラオーグ様に初見で中てる事を優先した戦略を立てるべきでしょうね」
皆して上昇志向が強いから辛口な意見が大半を占めてるな
「そう云えばイッセー。『トリアイナ』の発動中は白龍皇の力は使えなかったのか?」
「それがそうなんだよ・・・多分『トリアイナ』を使ってる時は赤龍帝としての力が強くなり過ぎてヴァーリの力を抑え込んじまうみたいでさ。『
「それは残念だったな。それが出来たなら新しい『騎士』の戦略の幅が広がったと思うんだけど」
「まぁ出来ないもんは仕方ないさ。自分にやれる処から可能性を広げていかないとな」
そう言いながらイッセーはピー
もしもそうだったら流石に注意されてるはずだしね
イッセーも幾ら回復出来るとは云え、修行では白龍皇の力は基本は使わないようにとアザゼル先生にも言われているからな・・・何時回復出来なくなるなんて事態に陥る可能性も無い訳じゃないから少し使って少し回復してと云った感じだ
おおよその批評は済んで、基礎トレは最初に終わらせたので各自、修行に入って行く
あと、レイヴェルにも本格的な修行をして貰わなくてはいけない
今年に入ってからこの駒王学園は滅茶苦茶テロと関わってる・・・強固なセキュリティがこの町に張ってあると云っても相手には『
「レイヴェルは何か得物とかは使わないんだよな?となるとやっぱり最大の武器は『僧侶』の特性だよな・・・レイヴェルって魔法は使えるのか?」
「魔法ですか?いいえ、魔力で大抵の事は出来てしまうのでそちらに手を伸ばした事はありませんでしたわね」
確かに生まれた時からほぼ万能な魔力が扱えたらそこで満足しちゃうかもな
「ん~、それは勿体ないにゃ。ウィザードタイプなら魔法力も高い場合が多いし、『僧侶』の駒ならそっちも一緒に強化されるからね。一度試してみるべきにゃ。魔力はイメージが大事だけど、逆に言えばイメージで補完しきれない細かい部分を魔法で補う事も出来るし、戦闘なら事前に用意しておいた術式を思い浮かべるだけでも良いから瞬間的に複雑な魔法を放つ事も出来るにゃ・・・まぁ魔力のイメージを描きながら魔法の演算をするのは最初の内は頭がこんがらかりそうになるけど、覚えれば手数は単純に2倍よ?———レイヴェルは頭の回転の速さも柔軟性もありそうだから両立できるはずにゃ♪特に結界術や封印術は腰を据えて術式を編める環境なら魔力より優秀だったりもするからね」
「成程・・・実際に魔法と魔力を両立させている黒歌さんの意見は参考になりますわね。いえ、実際にはそこに仙術と妖術も組み合わせていらっしゃるのでしょうが・・・黒歌さんが使われているのは悪魔式の魔法ですか?」
「その通りにゃん♪当時、ナベリウス家に居た時はそれ以外の術式は手に入らなかったし、やってみれば普通に相性良かったからそのまま使ってるにゃ」
あ、黒歌の魔法って悪魔式なんだ・・・確かに魔法陣には悪魔文字が描かれてたからそうなのかなとは思っていたけど聞いた事は無かったな
悪魔式という事はマーリン・アンブローズの流れを組む一番ポピュラーな術式だな
「他の神話体系の術式は兎も角、悪魔式なら冥界でも普通に資料を集められるんじゃないか?」
「はい。イッキ様の仰る通りですわ。上級悪魔とその眷属は魔法使いとの契約でそれなりに繋がりも強いですから我がフェニックス家の書斎にもそこそこの数の資料は在ったはずです・・・一度実家から取り寄せてみましょうか」
「私が教えて上げても良いけど、そういう事ならもっと適任が居るにゃん♪」
「適任・・・というとロスヴァイセさんか?」
というかこの場でキチンとした魔法の使い手って他に居ないしな・・・白音も少しは黒歌に魔法を習ってるみたいだけど魔法使いと胸を張れるほどじゃ無いだろう
「その通りにゃ!私は元々他人に何かを教えるのは得意じゃないし、彼女の扱う魔法は術式の質だけなら私よりも上よ?それに仮にも教育者なんだし、一口に魔法と云っても色んな術式があるから北欧の魔術がレイヴェルに合ってるのかを確かめる為にも一度教えを受けて見たら?」
「私が如何かしましたか?」
すると少し遠くに居たロスヴァイセさんが俺達の会話で自分の名前が聞こえたらしく、気になったのか近づいて話しかけてきた
「丁度良かったです、ロスヴァイセさん。前に冥界に北欧魔術の学校を建ててみたいって言ってましたけど、一度レイヴェルに魔法を教えるって感じの経験を積んでみる気はありませんか?」
「レイヴェルさんに魔法を・・・ですか?」
「はい。今私がより強くなるのに魔法を覚えるのが一つの手ではないかと意見を頂きまして・・・北欧の主神のお付きでもあったほどのロスヴァイセ様に教えを受けられればと・・・勿論、悪魔として対価も無しにとは言いませんわ!フェニックス家に保管された魔法の資料を私の自由に出来る範囲で持ち寄らせて頂きます・・・如何でしょうか?」
成程、これからロスヴァイセさんに魔法を習うのなら彼女に先に資料に目を通して貰った方が質問し易い上に彼女の利益にもなる提案って事か
後はフェニックス家の資料の価値がどの程度かによるだろうけど・・・低いという事は無いかな?
「そうですね。私も折角悪魔に転生した訳ですから悪魔式の魔法に手を伸ばしてみるのも良いかも知れませんね―――京都で戦った魔法使いも多種多様な術式を使っていましたし、対策案としても活用できそうです」
ロスヴァイセさんが了承の意を出すと今度はリアス部長と朱乃先輩がやってきた
さっきまで二人で消滅の魔力と雷光を打ち合っていたがひと段落したようだ
「ちょっと良いかしら?その話、私達も混ぜてくれない?」
「私達もウィザードタイプですからね。可能性を広げられるなら一度魔法の方も習ってみたいですわ・・・私もリアスもウィザードタイプと云ってもパワー寄りな処が在りますから、テクニック方面を魔法で補えるかも知れませんからね」
こうしてロスヴァイセさんを主軸に黒歌がサポートに入ったウィザード組の魔法学習・向上を目指した集まりが出来たのだった
だがこの数日後、ロスヴァイセさんが防御の術式を全然覚えてないという事情が露呈する事となり、ロスヴァイセさんが「うう・・・このままではいけませんね」とちゃんとバランス良く魔法を教える事が出来なければ将来魔法を教える教育者役は務まらないと反省する事になる
翌日、グレモリー眷属の皆はどうやら冥界で対戦相手のバアル眷属と一緒にテレビの取材が在るとの事で学校が終わってから冥界へ行った。そして俺はと云うと実は俺もその空き時間を使って冥界を訪れていた
「おお~!フェニックス家はグレモリー家に負けず劣らずにデカい屋敷何だな!」
「ふふん!当然ですわ!我がフェニックス家はフェニックスの涙とレーティングゲームで莫大な富と爵位以上とも云える発言力が在りますの―――我が家の事を『成り上がり』と揶揄する家も多いですが、所詮は成り上がる事すら出来ない者達の僻みでしかありませんから」
珍しくちょっと高飛車モード入ってるな・・・まぁ貴族社会だし色々と鬱憤も多いのだろう
さて、何故俺がレイヴェルとフェニックス家にやってきたのかと云えばレイヴェルの御両親に挨拶する為だったりする―――既にあちらが俺とレイヴェルの事を知っていて、その上で肯定的だと云うのなら後回しにする理由も無いからだ・・・心情的には後回しにしたい気もするが回避不可のイベントなので腹を括ろうと思う
そして屋敷の前まで辿り着くとメイドの方々が出迎えてくた・・・普通は委縮しそうだがリアス部長の家に何度かお邪魔してるから多少は耐性も付いてるな
「お帰りなさいませ、姫様」
「お嬢様、旦那様方は既にお待ちになられております」
こうして見るとレイヴェルもリアス部長とかなり近い立ち位置なのかもな・・・明確に違うのは次期当主か否かって所か?
いや、十分すぎる程に大きな違いだけどさ
そうして通された先の部屋でフェニックス家の現当主とその奥方と出会う
「初めましてだね。私がレイヴェルの父だ。キミの事はライザーとリアス嬢のレーティングゲームの時から知っているよ・・・最初はゲームの音声が聞こえなくなったのは何かしらのトラブルかとも思ったが、まさか悪魔のゲームで聖書の朗読をしているとは思わなかったな!ハッハッハ!」
「貴方、ちゃんと挨拶して下さい。折角忙しい合間を縫って挨拶に来てくれたのですから―――初めまして有間一輝さん。レイヴェルの母です。ライザーもお世話になったみたいですし、武勇のほども聞き及んでいますわ―――これなら人間界で悪い蟲が娘に付くことは無さそうで安心ですね・・・そう云えば貴方、昔から『娘を嫁にやるなら最低でも私を倒せるくらいの男でなければならん!』と言っていましたが、イッキさんと闘ってみますか?」
ちょっと奥さん!?ちゃんと挨拶してと言った傍から御当主との決闘を持ち出してどうするんですか!何?フェニックス家は基本は不死身だから割と手軽に決闘とかしてたりするんですか!?
「ふふん!イッキ様が負けるはずありませんわ!さぁイッキ様!お父様相手ですが遠慮なさらずに一刀の下に斬り伏せて、見事!その強さを知らしめてくださいな!」
レイヴェルさぁぁぁん!?何このノリ!?フェニックス家って身内同士だとこんな感じなの!?
ええい、分かったよ!リクエストが一刀だってんならそれに応えてやる!
不死身のフェニックスを確実に倒すならあれしか無い!
「では何もない広い場所を案内して貰って良いですか?【一刀羅刹】なら空間ごと断ち切れると思うので、御当主も漏れなく真っ二つに出来ると思います・・・ちょっと再生出来るか怪しいですが、そこはご了承頂ければと・・・」
そこまで言うと流石に次元ごと二つに裂かれるのは遠慮したいのか遮るように言葉を被せて来た
「いやいやいやいや!闘うまでも無い!私も上級悪魔の中では強い方だと自負しているがキミには敵わないだろうから真っ二つは止めてくれ!・・・う゛ぅん!知ってると思うがグレモリーの当主とはそれなりに交流があってね。キミと娘の人間界での交流も問題なさそうと云うのは聞いているし、レイヴェル自身も以前、色々と話してくれたからね―――問題は無いだろう。ただ、気になる処が在るとすれば結婚式は何時頃になるのかな?」
「け・・・結婚式ですか・・・それは普通に大学卒業後でも・・・いや、そうか!」
そこまで言ってから問題点に気づく
「ええ、外聞上、イッキさんの正妻という立場には九尾のお姫様が付く事になります。ですがまだ彼女は11歳なのですよね?大学卒業と云うのをそのまま当てはめると11年は先の話になってしまいますわ・・・ですが、日本の女性は16歳で結婚は出来るのですよね?一度その辺りの事を相談してみて下さいな。娘の晴れ姿は早く目にしたいものですから」
昔そんな小説だかドラマだかなかったっけ?『奥様は高〇生』的なタイトルのヤツが
流石にそこはせめて九重が高校卒業くらいは待ってもらった方が良い気がする・・・それなら大学卒業後2年程度の空白だし不自然じゃないはずだ
・・・なお、後日に落ち着いてから八坂さんに相談した時に九重も含めて16歳の結婚でも良いと妙に乗り気だったので説得に苦労する破目になった。八坂さんとか「高校生となったばかりの新妻と迎える初夜・・・どうじゃ?興奮せんかの?」とか囁くのマジで止めて下さい
それから挨拶もそこそこに学園祭の準備も進めなければならないので少しだけフェニックス領を観光してから帰宅すると先に戻って来てたイッセーが押しかけてきて泣きつかれた
「イッキィィィ!!俺、明日の朝刊が恐くて読みたくねぇよ~!!」
如何やら記者会見はそうとうに盛り上がったみたいだ
「分かった。お前が読みたくないなら俺が読んでお前の前で音読してやるよ!」
「違げぇよ!何の解決にもなってねぇじゃねぇか!俺が今欲しいのはタイムマシン的な何か何だよ!ああ~、部長にもとんだ恥を掻かせちまったぜ!」
そう言って暫く頭を抱えていたイッセーだったが気まずくなったのか別の話題を振って来た
「そういやイッキは明日はサイラオーグさんの所に行くんだったか?」
「まぁな。バアル領特産のリンゴをお土産に貰って来てやるよ・・・一応言っとくけどスパイ行為はしないぞ?むしろ殴り合いに行くからサイラオーグさんが強化されるかも知れないけどな!」
「此処でスパイをやれ何て図太い神経は持ってねぇよ。それに軽い手合わせ程度でギャーギャーと云う程器が小さくもないつもりだ・・・リンゴは楽しみにしとくけどな」
おう!楽しみにしとけ!
次の日、朝食を終えて(冥界の新聞を見たら『おっぱいドラゴン、スイッチ姫のスイッチをぶちゅううううっと吸う!?』という酷い見出しをみたが)少し経った頃に家の地下の転移魔法陣が設置された部屋に居た
そうして少しすると魔法陣からサイラオーグさんとクイーシャさんが現れた
「来たぞ、有間一輝。準備は整ってるか?」
「はい、大丈夫です」
これと言って大荷物も無いし、異空間にもそれなりの装備は入ってるからな
そこでサイラオーグさんの視線がこの場に居た黒歌、白音、レイヴェルに向けられる
三人とも見送りに来てくれた形だ・・・そう云えばサイラオーグさんはこの中で黒歌とだけは面識が無かったんだっけか?白音とレイヴェルとは最低でもおっぱいドラゴンのステージでは顔を合わせてるし、もしかしたらそれ以前に普通に出会っていても可笑しくない布陣だよな
「そうか、塔城白音の姉が有間一輝の恋人且つ、そうとうな実力者だと聞いていたが、この距離で注視しなければ分からんほどの静かで洗練されたオーラだ・・・おっと、紹介が遅れたな。俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ。こっちは俺の『女王』のクイーシャ、宜しくな」
サイラオーグさんの真っ直ぐで誠実な雰囲気に中てられて黒歌もマジメな挨拶を・・・
「黒歌よ。今日はイッキの事を貸し出してあげるにゃん♪ただし、延長は受け付けないにゃ」
するはずもなくレンタル品として扱われた
「ハッハッハ!もしも延滞したら追加料金が凄い事になりそうだな―――何、心配するな。今回俺が招くのは俺と母上が住んでいたバアル領でも田舎の方だ・・・本邸の方は少々頭の固い連中が多いが、だからこそ態々田舎まで出向いてくるような連中ではないからな」
あ~、確かに言われてみれば愚物で小物っぽいバアル家の現当主とは鉢合わせたくないわ
『なぜ我が偉大なるバアル家にこのような下等生物が居るのだ?摘まみだして処分しろ!』
とか言われそうだしな
バアル家の先代とか含めた当主は小物っぽい感じだったはずだし、初代バアルは清濁を理解した上で色々やってるっぽかったけど・・・いや、もしかしてバアル家当主が無能なのって初代が引退後も実権を握る為だったりしないよな?邪推の域を出ないけど何か在り得そうかも
ともあれそろそろ出発しようか
「良し!それじゃあ行ってくる!」
「うん、行ってらっしゃいにゃん♪でもその前に・・・」
・・・黒歌さん?その広げた両手は何なんですか?(すっ呆け)
「ほらほら、どうしたのかにゃ~?修学旅行の時は私達全員にハグしてくれたのににゃ~?あの時はイッキの両親も見ていて恥ずかしそうにしてたけど、あちらの次期当主様はイッキに恋人が複数いる事くらい承知でしょう?それか別れ際の駅のホームみたいにキスしてくれても良いのよ♪」
この悪猫が!少しでも弄れるネタが在ると容赦なくツッコんでくるな!
「イッキ様!?あの後そんな事が在ったのですか!?」
「聞いてないです。そういう事なら私達にも権利はありますよね?」
ちょっとお二人とも!?見事に黒歌に乗せられてますよ!そしてサイラオーグさんも笑って見てないで助けて下さいよ!
「はっはっはっはっは!有間一輝も恋人には弱いのだな。覚えておこう。何、昨日の記者会見では赤龍帝がリアスの乳を吸う何てコメントを残してるのに比べたら恥ずかしがる事もあるまい?」
あなた達がこの場に居ると云うのが一番恥ずかしい要因何ですけど!?
結局その場はハグ+額にキスでお茶を濁してクイーシャさんの転移でその場を後にした
転移の直前に「ただいまのキスは唇でお願いにゃ~♪」とか聞こえた気がするのは気のせいだと(気のせいじゃないと)信じたい・・・結局そういう触れ合いは男として嬉しいのだ
冥界に付いた後、何度か転移を経由して田舎に建てられたこじんまりとした屋敷に辿り着いた
まぁ比較対象がグレモリー家やフェニックス家の本邸なだけで十分にデカいのだけどな
そしてサイラオーグさん達と一緒に玄関から中に入ると一人のちょっと太った感じの執事の方が出迎えてくれた
「お帰りなさいませサイラオーグ様。そして、ようこそお越しくださいました有間一輝様。サイラオーグ様がご友人を家に招くなど初めての事、今回は気合を入れて御持て成しさせて頂きます!」
「程々にな―――クイーシャは暫く眷属を取り纏めておいてくれ。後で顔を出そう」
何か妙に気合を入れている執事の方をサイラオーグさんが軽く窘め、クイーシャさんに軽く指示を出してから早速ミスラさんの部屋に赴いて中に入ると黒髪で落ち着いた雰囲気の女性のミスラさんが居た
「先日ぶりですね、一輝さん。何も無い所ですが寛いでいって下さい」
「はい!それと、ご回復なされたようで何よりです」
「一輝さんが提供してくれた例の秘薬のお陰ですよ・・・貴方には感謝してもし足りません。眠りの病の初期症状が出た時、サイラオーグならば私が居なくとも夢を諦めたりしないと思っていましたが、それをこの目で見る事が叶わないだろうと云うのが心残りでした。ですが今は再び息子が夢に向かって邁進する姿を見る事も応援する事も出来る。これほど嬉しい事もありません」
むぅ・・・どうにもあの薬(?)は自分で作った訳でも無ければ手に入れたのも偶然だからお礼を言われるのはむず痒いところが在るな
ともあれそれを言っても仕方ないのでお礼を受け取っているとその薬の話になった
「例の薬ですが、あれからシトリー家が何とかオリジナルの再現を果たそうとしているようですが今の所目途は立ってないみたいですね。ただ、幾らか性能の落ちる状態でなら復元出来たようです・・・もっともそれでも冥界屈指の医療技術を持つシトリー家の薬品の分野が1世紀分は進歩したそうですが」
1世紀!?100年先の未来にシトリー家進んじゃいましたか!?う~む。これはマジで将来難病に掛かったらシトリーの病院一択になるな・・・まぁ健康が第一だけどさ
流石は万病を癒す異世界のスッポンの生き血は格が違った
後に聞いた話ではシトリー家の現当主であるソーナ会長の父親が一年後に眠りの病を発症したらしいが初期の段階であれば十分スッポンの生き血(劣化版)で回復したそうである
その後、ミスラさんが趣味で手入れしている花壇など屋敷を軽く案内して貰っていると(グレモリー家とかは案内してたら三日は掛かる)とある部屋の窓から中に妙なモノが見えた
「あの・・・サイラオーグさん・・・あのリンゴのキャラクターは何なんですか?」
俺の視線の先には幾つか微妙に表情の作りの違うリンゴの被り物たちが在った
普通の笑顔のモノやニヒルな笑顔のモノ、果てはポケッとした気の抜けた表情のモノまである
「ああ、アレは『バップルくん』だな。最近冥界では人間界の文化を取り入れ始めているのは知っているだろう?グレモリー領の『おっぱいドラゴン』もヒーローショーを基にしている。我がバアル領も流行に乗り遅れないように人間界の『ゆるキャラ』をいうものを取り入れる事にしたのだ。アレらはその試作品という訳だ」
試作品・・・だから色々な表情が在るんですね
「ふむ・・・実はあの『バップルくん』だが俺がスーツアクターを名乗り出ようとしていたのだが母上に止められてしまってな―――『ゆるキャラ』は先日のヒーローショーよりも子供たちとの触れ合いが多いので俺にはまだ早いと言われてしまったのだ」
そういって項垂れるサイラオーグさんだけど俺としては『ミスラさんナイス!』としか思えなかった。正直この人が『ゆるキャラ』を演じるのが想像できない
先日のヒーローショーのライオン・キングの役は脚本家がサイラオーグさんが殆ど素のままでも演じる事が出来るようにしたキャラクターだったから良かったけど『ゆるキャラ』はダメだろう!
だがそこでサイラオーグさんは閃いたとばかりに顔を上げてきた
「そうだ!有間一輝よ、元々『ゆるキャラ』は人間界の出し物だ。人間であるお前と一緒なら俺も俺の『ゆるキャラ力』を高められるかも知れん!どうか俺に『ゆるキャラ』を教授してくれないか?俺は子供たちに夢を与えられる大人になりたいのだ!!」
何言ってんのこの人ぉぉぉ!?俺『ゆるキャラ』何てやった事ないよ!?日本人なら皆SAMURAIの精神を持っているように人間なら皆『ゆるキャラ』くらい出来るとかって勘違いしてない!?
慌ててミスラさんの方を向くがミスラさんは「サイラオーグが生まれてから人間界には関わる余裕もありませんでしたが、随分と文化が様変わりしたのですね」とか真剣な表情で仰ってるけど違いますからね!?20年も経たない程度じゃそこまで激変しませんから!!
「サイラオーグ。私も一度貴方の現時点での『ゆるキャラ力』を把握しておきたいです。手加減の修行も併せて一度、一輝さんの意見も聞かせて貰って構いませんか?」
ミスラさぁぁぁん!?俺は貴女は常識人枠のツッコミ寄りのポジションだと思っていましたよ!蓋を開けてみればボケですか!天然枠何ですか!?
「は・・・はい・・・」
二人の穢れの無い澄んだ瞳に耐え切れず、俺は生返事(悪魔の契約)をしてしまったのだった
イッキ「必殺!土ボコッ!!」
某悪役令嬢「盗られた!?」