[木場 side]
巨大な湖を中心に造られたバトルフィールドで僕とゼノヴィアはそれぞれの聖剣と聖魔剣を手に取り、白音ちゃんは猫又モードレベル2(大人モード)となって周囲に火車を展開し、自身も白い浄化の炎を纏う
対するサイラオーグさんも全身から濃密な白い闘気を発し、そこに立っているだけで足元にクレーターを作った―――ははは、凄いや。イッキ君という存在を知らなかったら今この場で多少なりとも気圧されていたかも知れないね
≪なんとぉぉぉ!!塔城白音選手が白い闘気に包まれたかと思えば次の瞬間にはグラマラスな女性へと変貌し、白い炎を身に纏ったぁぁぁ!!?≫
白音ちゃんは今試合で初めての変身の為、実況も先ずはそこに着目したようだ
まぁ確かに見た目の変化は著しいからね・・・イッセー君とか練習で白音ちゃんが変身する度に視線がそっちに行きがちになるし。何でも期間限定のプレミアム感があるから見逃せないんだとか
もっとも、あんまり見つめ過ぎると後でイッキ君からの制裁が入るんだけどね
≪アレは仙術と妖術を組み合わせて肉体を一時的に成長させる技だ。白音選手はまだ体が出来上がっていない為、大人の肉体を得るだけでも身体能力、そして単純に腕や足のリーチの向上に繋がる。接近戦を旨とする白音選手にとっては大きなアドバンテージとなる訳です。更に彼女が身に纏っている白い炎には浄化の力が働いている。聖なるオーラ程ではありませんが悪魔にとっては弱点となる属性と云えるでしょう≫
≪成程、並みの悪魔ならば近づいただけでも大ダメージとなってしまうのですね!ですが、対するサイラオーグ選手も白い炎に紛れて分かりにくいですが塔城白音選手と同じく闘気を身に纏っております!これはサイラオーグ選手も仙術を習得しているという事なのでしょうか?≫
解説のアザゼル先生の説明に実況のナウド・ガミジンがサイラオーグさんもまた仙術を習得しているのかと疑問を投げかけるが今度は反対側に座っていたもう一人の解説役であるディハウザー・ベリアルがそれを否定する
≪いえ、彼は仙術は一切習得していませんよ。確かに闘気は仙術の一種とは云えますが、彼の場合はその在り方が違います。彼は極限まで肉体の鍛錬を積み重ねる事によりその身に魔力とは違う力を宿したのです―――自然の気を操るのが仙術使いとするなら、さしずめ彼は闘気のみを扱う、闘気使いと云った処でしょうね≫
そうだ。サイラオーグさんは闘気しか、体術しか使えない。でもそれは彼の弱さにはまるで繋がらない事を僕たちは良く知っている!
「お前たちは覚悟を決めた戦士!ゆえに一切の油断はしない!行くぞ!」
ただでさえ力強かった闘気を更に引き上げて正面から突撃するサイラオーグさん
彼が走った後にはその踏み込み一つ一つでさえも軽く地面が砕けてしまっている!
並みの中級悪魔程度ならパンチやキックどころか技も何も無いただの体当たりですら致命傷となるだろう・・・いや、上級悪魔ですら危ういかも知れない
そんな高速で迫る小回りの利く重機のような理不尽な存在と化したサイラオーグさんだけど、僕らも当然ただで近づかせたりはしない!
ゼノヴィアはエクス・デュランダルから聖なるオーラの斬撃を放ち、僕は地面に手を着いて迫りくる彼の進路上に大量の聖魔剣を咲かせ、白音ちゃんは周囲に展開していた複数の火車を操って投げつける・・・が、単発でタメの大きい聖剣の波動は避けられ、聖魔剣はステップとどうしても邪魔な物は剣の腹の部分を殴る事で壊して進み、変幻自在に空中を飛んでくる火車も彼は軽業師のような動きで避けていく
「ッツ!前に見た時より回避動作にキレがある!」
「分かるか?木場祐斗よ。前に有間一輝がバアル領に来た時に朝から晩まで俺達は『ゆるキャラ』となって戦い続けたのだ!衣装を汚さないように相手の攻撃を捌き、避ける事に只管集中して殴り合ったのはとても良い経験となったぞ!」
「何をやってるんですか!?貴方もイッキ君も!!?」
イッキ君がバアル領に赴いたのは知ってる!ついでにサイラオーグさんと模擬戦もしてくると言っていたのも知ってる!でも、多少強くなる程度ならまだしも此処まで技量を上げるなんて!
と云うか『ゆるキャラ』で戦うって何ですか!?そのたった一つのツッコミどころがあまりにも異質過ぎてもう考えるのを放棄したくなってきちゃったよ!
≪告知されている為一般人でも調べれば分かるのですが今、バアル領では新しく『ゆるキャラ』事業を展開しようとしています。そのキャラクターである『バップルくん』の格好をしたサイラオーグ選手は時折、眷属の皆さんの一斉攻撃を躱し、捌く訓練を最近になって加えました―――被り物をして視界や聴覚など感覚を鈍らせた状態で何の防御術式も盛り込んでいないただの衣装を、自身が着る『バップルくん』を守る為に彼は極限の集中力を発揮して避け続けた結果、彼の体術は一段上のステージへと昇り詰めたのです・・・最初の頃は訓練が終わった後でボロボロとなってしまった『バップルくん』を見て彼は嘆き苦しみながらも次代の新品の『バップルくん』を着こんで戦ったのです。彼の成長はバアル領を真に愛しているからこそのものと云えるでしょう≫
解説のディハウザー・ベリアルさんがその役目を見事果たしてくれたけど今度は何処にツッコめば良いのか判らなくなったよ!
「『バップルくん長男』から『バップルくん12男』よ・・・お前たちの犠牲と献身は決して無駄にはしない!」
イッキ君がバアル領に行ってから今日の試合までの短い間に既に1ダースの『バップルくん』が犠牲になったの!?
すると通信機からリアス部長の固い声が聞こえてきた
≪皆、気を付けて!今の彼は倒れていった眷属の想いだけじゃなく、『バップルくん』の想いも一緒に拳に乗せて戦う気なんだわ!今の彼は・・・鬼神よ!≫
リアス部長・・・悪魔に転生してから僕は時々貴女の感性に付いて行けなくなる時がありますよ———でも多分真剣なんだ・・・サイラオーグさんもきっと真剣なんだろう
上級悪魔の次期当主ともなれば何処かで常人には測れないものが在るのかも知れない
そんな感想を抱きつつも僕らの攻撃を躱しきったサイラオーグさんが一番近くに居たゼノヴィアの背後を盗り、殴りかかった!
「っくぅ!!」
咄嗟に体を半回転させつつも迫りくる拳と体の間にエクス・デュランダルの刀身を盾替わりに差し込んだゼノヴィアは殴られた衝撃で湖の畔近くまで吹き飛ばされた
しかし彼女は体を捻って崩れた体勢を立て直して地面に着地する
「ほう、良い反応だ。聖剣を盾とするのと同時に後ろに跳んで衝撃を軽くしたな?」
「最近は接近戦に限定した有間と何度か模擬戦したからな、その速度と威力には多少は慣れている・・・それでも、今の一撃で骨が軋むような感覚だ」
「成程、俺対策か―――これは簡単には勝負を決められそうにないな」
そうだ。僕たちはサイラオーグさんとの戦いの感覚を得るためにサイラオーグさんの戦い方を真似たイッキ君と何度か仕合ったのだ
サイラオーグさんにとっては僕たちと戦うのは初めてでも、僕たちの方はそうじゃない
勿論完璧に同じ何て事は無いけれど、このアドバンテージは大きい!
「しかし!俺に出来る事は近づいて殴る事だけだ!それ以外を知らないのでな!」
サイラオーグさんが駆けだす
次の標的は・・・僕だ!
聖魔剣を壁のように展開し自分の姿を隠した僕は素早くその場から後退する
”ガシャァァァン!!”
案の定聖魔剣で創られた壁は拳一発で破壊されてしまった
そのまま彼は僕の姿を見つけて更に距離を詰めて来る!
彼の拳や蹴りを紙一重で躱すけど衝撃波を纏ったその攻撃は僕にダメージを与えて来る・・・防御の薄い僕はもっと大きく避けなければならないけど今の僕ではこれが限界だ
僕の繰り出す反撃も彼の分厚い闘気に阻まれて体まで届かない
だがそこでサイラオーグさんが突如として大きめに攻撃を外したのでその隙に再度距離をとって一息つく事に成功した
今のは?一瞬僕の視界に僕自身が写り込んだような気さえしたけど
「大丈夫ですか、祐斗先輩?」
白音ちゃん!そうか、恐らく幻術で僕の位置情報を僅かにずらしたんだね
余り大きく幻覚を作ればすぐにバレてしまうかも知れないから僕と幻術の僕が重なり合うくらいの相手の目測を狂わせるだけの幻術という訳だ
「あれだけ高速で動き回られると私では付いて行くのがやっとだな」
近づいて来たゼノヴィアがそう云うけれども彼を相手に足を止めたら次の瞬間には沈められてしまうよ・・・とは云え、僕の聖魔剣では彼に決定打を与えられない。僕たちの中で一番の攻撃力を秘めているのはゼノヴィアだから、彼女の見せ場を作らないとね
「ゼノヴィア、僕と白音ちゃんで時間を稼ぐ。最高の一撃を用意してくれるかい?」
「ああ、なりふり構わない凶悪な一撃をプレゼントしてやろう!」
はは、ゼノヴィアにはもっとテクニックを磨いてほしいと何度か言ってたけど、今この時だけはパワーのみを伸ばした彼女の一撃が頼もしいや
「じゃあ行こうか、白音ちゃん!」
「はい!」
白音ちゃんが手を横に広げると同時に白い霧が発生する
視界を極端に遮る程じゃないけれどこの霧の効果は別にある
「ぬ!デュランダル使いの気配と姿がそこかしこに在るな」
そう、この霧でゼノヴィアの気配を遊園地にあるミラーハウスのように乱反射させて本体の場所を判らなくさせているのだ
気配や姿を消す方法だとゼノヴィアがエクス・デュランダルに聖なるオーラをチャージしていくといずれ隠しきれなくなってしまうからね
さて、僕も時間稼ぎの為に出し惜しみは無しでいこう
僕は手にしていた聖魔剣を放棄して新しく手元に一本の剣を生み出して構える
「
周囲に等身大サイズの巨大な剣が複数出現し、それは形を変えて龍のフォルムをした兜を被った甲冑騎士団へと変わる。これにはサイラオーグさんも驚いてくれたようだ
「新たな
「その通りです。コレは僕の持つもう一つの神器、『
僕は元来『
≪本来、『
アザゼル先生の解説が聞こえるけど何時もと違う口調で素直に褒められると変な感じがするね
「成程、長所を伸ばしつつも新しい可能性も模索している訳だ・・・良い『騎士』だ。リアス、お前が羨ましく思える程の『騎士』だよ。グレモリー眷属は努力する天才の集まりと云った処か?全く末恐ろしい限りだ」
「それでは行かせて貰います!」
僕自身も聖剣を手に取りながら騎士団を従えて走りだす
白音ちゃんの幻術が解けるのは問題だから今回は僕が前に出る!・・・というか、妹のようにも思っている後輩の後ろに居るのは男としてプライドが許せないかな?
サイラオーグさんは迫りくる甲冑騎士を次々とその拳で破壊して白音ちゃんの火車も弾き飛ばしていくけど僕も壊れた端から再び騎士団を補充して斬り掛かる
「速さも在る。剣筋も良い。だが技術は反映出来ていないようだな。俺の拳を避けないで戦うには、硬さが足りてない!」
横なぎに大きく振るわれた蹴りで一気に複数の騎士たちが壊されてしまった
「さらにもう一つ!聖魔剣ほどの攻撃力を秘めていないようでは俺の体には届かんぞ!」
サイラオーグさんの周りに再出現させた騎士団が一斉に彼に斬り掛かるが今度はその攻撃を無視して本体の僕の方に突っ込んで来てしまった!
確かに聖魔剣より単純な質では劣るけど避ける処か防ぐことすら放棄するなんて!?
虚を突かれた僕は半歩反応が遅れてしまい、その隙に聖剣を握っていた持ち手の部分を彼の左手で掴まれてしまった
不味い!
「離れて下さい!」
白音ちゃんの火車が複数、サイラオーグさんの顔面に突き刺さり、仰け反らせつつも火車を押し付けて浄化の炎による継続ダメージを与えるが彼は鼻血を出し、顔を焼かれながらもギラついた瞳を僕に向けてきた
「噴!」
“メシィッ!!”
気合の入った掛け声と共に残った右腕で僕の両腕にチョップを繰り出し、両腕の骨が折れてしまった!さらにそこから右足の蹴りが放たれて僕の左足も同じく粉砕される
しまった!剣士で『騎士』の僕が腕と足を破壊されるなんて完全に長所を潰された形だ!
そのまま彼は顔面を焼く火車を取り払い、距離をとった
彼の顔は鼻血以外に頬や鼻の上に火傷を負っているけどそこまで深いダメージじゃない
やはり闘気に包まれた彼の防御力は生半可では無いのだろう
右足以外の手足から脳を焼くような激痛が走るが通信機からゼノヴィアの声が届いた
≪すまない、私は何時も遅刻してばかりだな。だが、準備は整ったぞ!≫
その言葉と共に周囲のゼノヴィア達の構える聖剣が天を衝く柱と云える程の莫大な聖なるオーラを迸らせる。今だ!
「咲き誇れ!聖魔剣よ!」
サイラオーグさんの周囲、空中を含めた全方位に切っ先を彼に向けた聖魔剣を展開し、更に白音ちゃんの火車が地面に円を描くように旋回して浄化の炎による結界を創り出す
サイラオーグさんならこの二重障壁も突破するだろう
だが一瞬、ゼノヴィアが聖剣を振り下ろす隙さえ稼げれば良い!
「喰らえェェェェェェェ!!」
エクス・デュランダルの波動が白音ちゃんの張った霧も吹き飛ばしたのでゼノヴィアの本体が浮かび上がるがもはや問題じゃない
そんな中、サイラオーグさんは自分に倒れて来る光の柱を見据え、深く息を吐き右腕を引き絞る
彼の右腕に闘気が集中していく―――迎え撃つ気か!
そうして振り下ろされた剣戟と振り上げられた拳がぶつかる
大剣の一撃を生身の拳が正面から迎撃するという普通であれば正気を疑う光景だ
「「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
二人の気合の入った叫び声が空間に木霊する
たった一刀、それだけなのにゼノヴィアは既に大量の汗を流していた
本当に文字通りに形振り構わないで全オーラを籠めたのだろう
“バリィィィィィン!!”
ガラスが割れるような音が響いて聖剣のオーラで形作られた巨大な刀身が砕け散った
そして弾かれた衝撃はエクス・デュランダルに及び、ゼノヴィアの体勢が大きく仰け反るように崩される―――サイラオーグさんはその一瞬の隙に間合いを詰めて腹から抉り込んで持ち上げるように左手のアッパーをみまい、宙に浮いたゼノヴィアを連続の蹴りで仕留めた
その際にエクス・デュランダルも投げ出されてしまったようで近くの地面に突き刺さる
倒れてリザインの光に包まれた彼女を見れば分かる。完全に意識を絶ち切られてしまったようだ―――クソ!ゼノヴィアがあれだけの力を込めた一撃でも彼には届かなかったのか!?
「・・・見事な一撃だった。これで俺は決戦に向けてフェニックスの涙を使用しなければならん―――万全な状態で戦いに挑みたいからな」
悔しがってた僕の耳にそんな言葉が聞こえてきた
よく見れば聖剣の一撃を迎撃した彼の右こぶしが手首の辺りまで両断されている
今は筋肉を絞めるように握り拳を作る事で出血を抑えているようだが"ボタボタ"と血が垂れているみたいだ・・・彼の闘気によって聖なるオーラの追加ダメージは無いみたいだけど、これで彼の右手は使い物にならなくなっただろう
ゼノヴィア!キミの一撃は確かに彼に届いたよ!
そんな彼の前に今度は白音ちゃんが立つ
「まだやるか」
「当然です。貴方にフェニックスの涙を使わせる・・・私達は最低限の役割を果たしたと云えます。でも、まだ削れます。フェニックスの涙は怪我も魔力も体力も瞬時に回復させますが唯一、失った血液だけは勝手が違います。生命活動が維持できる程度の血液が体に在ればそれ以上は必要ないと判断されるのか回復しませんから・・・これから先、一滴でも多く血を流して貰います!」
「成程、俺の体力、その上限を奪う気だな?ならば俺も速攻で決めさせて貰おう!」
単純なスピードではサイラオーグさんに分がある為、白音ちゃんはその場に留まって格闘術で応戦する―――彼が激しく動けば動くだけ右手の出血も増大するという魂胆だろう
「もうあの白い炎は纏わないのか?」
「折角ゼノヴィア先輩が付けてくれた傷を焼いて塞がれたりしたくはありませんから!」
クロスレンジで殴り合う二人。パワー、スピード、体格、全てサイラオーグさんが上回っているが右腕を満足に使えない分まだ白音ちゃんは決定打を貰っていない
それでも掠めた攻撃だけでも大ダメージを受けるのは良く知っている
僕より防御力のある白音ちゃんだけどクロスレンジで戦うとなれば被弾も多く、何時彼のパンチやキックが急所に突き刺さるか分からない
その戦いを見ている一方で僕は一体何をしている?
イッセー君が考えてくれた男子訓戒を僕も胸に刻んだんじゃなかったのか?
ギャスパー君はあれだけの覚悟を見せた
白音ちゃんはたった一人でサイラオーグさんと正面から闘って今も服で隠れていない場所に青黒い痣が見える・・・きっと服の下も似たような事になっているのだろう
後輩二人が一番頑張って先輩の僕がこのまま寝ているだけだなんて在り得ないだろう!?
幸いリザインはしていないんだ。両腕が使えないからなんだ!左足が壊れているからなんだ!右足が健在なら僕はまだ戦えるはずだ!
無様に地面を這いつくばりながらも何とか右足を軸に背筋と勢いに身を任せて跪くような形で上体を起こす事には成功した
でも如何する?『
『
右足しか使えない僕の、今出せる最高の一撃!それを繰り出さないといけないんだ!
決意を新たに、僕にはある可能性が目に入ったのだった
[木場 side out]
塔城白音とサイラオーグ・バアルの打ち合いも佳境が近づいている
全身に痛々しい痣を作った彼女の動きは徐々に、しかし確実に精彩を欠いていってるからだ
悪魔に対する最大の武器である浄化の炎は噴き出る闘気で効果が薄く、また相手の最大の怪我である右手の傷を塞いでしまう恐れがある為に使えない
通常の闘気のみで戦った方が良いと判断したが、流石に攻撃力では一段劣る
「楽しいな!まさか兵藤一誠以外にもこの俺と正面から此処まで打ち合える者がまだグレモリー眷属に居たとは思わなかったぞ!だが、時間を掛ければお前たちの思う壺だ―――此処で勝負を決めさせて貰うぞ!」
“ズンッ!!”
「かはっ!?」
彼女の腹部にサイラオーグの
「壊れた腕で・・・殴るなんて・・・」
苦痛に歪む白音だが殴ったサイラオーグもまた苦悶の表情を浮かべているがそれでも彼は口の端を吊り上げる
「後でフェニックスの涙を使う事も考慮に入れれば多少の無茶も利くという訳だ」
予想しない一撃というのは通常より遥かにダメージを負う
血を吐き出し、リザインの光に包まれる白音だが彼女もまた口元に笑みを浮かばせて腹に突き刺さったその腕を逃がさないように全身で捕まえる
「今です!祐斗先輩!!」
「何!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
彼女からは見えていたのだ
腕も足も破壊された彼が立ち上がり、最後の一撃に備えている処を!
体を半回転させたサイラオーグ・バアルの目に飛び込んで来たのは一直線に飛来するエクス・デュランダルとそのすぐ後ろを追従して剣の柄の部分を蹴り込もうとしている木場祐斗の姿だった
見れば少し後ろで例の騎士甲冑が何かを投げたような体勢で居る事からあの甲冑が聖剣を投げ、木場祐斗はオーラを右足に溜めた、たった一歩の踏み込みで跳んで来たのだろう
そうしてエクス・デュランダルの切っ先が彼の脇腹に刺さると同時に木場祐斗の蹴りが柄にぶつかる・・・僅かなズレも許されないタイミングを要する一撃だ
エクス・デュランダルの使用権は一時的にだが木場祐斗にも持ち主のゼノヴィアが許可を出している―――ゼノヴィア程の攻撃力は出せない彼だが不意の一撃にダメージを受けやすいのは先ほどサイラオーグが実証したばかりだ
左の脇腹から正面の腹に掛けて深く切り裂き、勢いに任せて彼らの傍を通り過ぎる時、木場祐斗は確かに聞いた
「格好良かったですよ。祐斗先輩」
既に殆ど光に消えかけていた後輩の言葉を聞いて彼は先輩として最低限の面目は立ったかなと思いつつも受け身すら取れずに盛大に地面を転げまわった
今ので折れていた腕も足も変な方向に投げ出されている
そんな彼に右手だけでなく腹からも血を流したサイラオーグが無事な左手で傷口を抑えつつ近づいていく。濁々と腹からも血を滴らせるサイラオーグの様子をうつ伏せのまま頬を汚しながら顔をそちらに向けて確認した彼は満足そうに口角を上げて次期大王に告げる
「僕たちの役目はこれで十分だ。後は我が主と親友が貴方を屠る」
「見事としか言いようが無い。お前たちと戦えた事に感謝する」
サイラオーグは全霊の敬意を持って足元の木場祐斗を踏みつぶしてリザインさせた
[イッセー side]
選手用に用意されている席で俺と部長とアーシアはリザインの光の中に消えていく木場を最後まで目を離さずに見つめていた
「祐斗、白音、ゼノヴィア。良く戦ったわ」
部長は三人の雄姿を目にしながら気丈に前を向いている
だけど、すぐ近くに居る俺とアーシアには分かった
部長の瞳が何かを堪えるように揺れている処を―――眷属を誇らしく想うと同時に可能ならば今すぐにでも病室に駆けつけたいのだろう
だけど、そんな選択は在り得ない。だから今は只管前を、勝利を見つめる事でしかリタイアしていった皆の想いには応えられないのだ
少し前のギャスパーの戦いぶりに最初は凄惨さから目を背けてしまった部長だけど今度は最初から最後まで強い瞳のままだった
サイラオーグさんも言っていたように、部長は皆の想いを糧に『王』として成長したんだ
だけど俺は握り締めた掌や噛んだ唇の端からも血が滲むのを止められなかった
それでもゲームは続く
次に部長とサイラオーグさんが出したダイスの目の合計は9だった
エンドゲームまでの流れはもう読み切れている
相手は『兵士』ではなく『女王』が出て来るだろうというのが部長や木場の見立てだった
いや、仮に『兵士』が出てきたとしても流れは変わらない
次の試合にアーシアが出場して戦わずにリザイン
その後、サイラオーグさんと俺の決戦だ
作戦会議の為の相手の陣地が見えなくなる結界に包まれると部長が話しかけてきた
「イッセー、貴方今とても怖い顔してるわよ」
そんな部長のセリフにアーシアも続けて声を掛けてきた
「イッセーさん。イッキさんのアドバイスを忘れてませんよね?」
ああ、二人に心配掛けちゃうくらいには顔に出てしまっていたのか
「大丈夫、ちゃんと覚えてるよ」
俺が本当に全ての感情をぶつけるべきなのはサイラオーグさんただ一人!
正直今この瞬間も頭がどうにかなりそうな位に怒りの感情が渦巻いているけど折角親友に貰ったアドバイスを忘れたりしない
それに二人に声を掛けられた事で幾らか理性が戻ってきている感覚がする
まだ、この場で怒りに任せて『トリアイナ』を使う訳にはいかないんだ
回避性能が上がったというサイラオーグさんなら危険と判断した『トリアイナ』の攻撃を紙一重で避ける可能性が引き上がっているからな
そうして二人に見守られながらも時間となり、転移台の上に立っていた俺はバトルフィールドに転移していった
転移先はコロシアムのような場所だった・・・人気が無い為寂しくも感じるな
俺の対戦相手はやはりと云うべきなのか『女王』のクイーシャさんだ
「妙に落ち着いていますね。女の私が相手ならもっと分かり易く喜ぶかと思ったのですが」
「勿論!美人の相手は歓迎しますよ!」
これは本心だ。喜んでいる自分は確かに居る
でも、今の俺はパンパンに空気の詰まった爆発寸前の風船のような状態
女性を殴りたいだなんて普段の俺なら在り得ない思考が浮かんでいる今の俺は速攻で勝負を決めにいかないと何時頭が真っ白になってしまうか分からない
遊びは無しに一瞬で決めさせて貰いますよ
≪それでは第七試合、開始して下さい!≫
開始の合図が鳴るがクイーシャさんは10秒程ある俺の変身までの時間を手を出さずに待つつもりのようだ
「
「ええ!では行きますよ!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
ドライグの鎧を着た俺は背中のブースターを盛大に吹かして正面から突撃する
対するクイーシャさんは前面に巨大な
ただ突っ込んでいくだけでは俺の体ごと何処か別の場所に転移させられて壁や地面にぶつけられる事だろう・・・それでも構わずに俺は近づき、右腕を目の前の
『Divide!!』
白く変化した俺の右腕が触れた瞬間、目の前の
「なっ!?」
自分を守る物理攻撃に対しては絶対的な盾とも云える
≪サイラオーグ・バアル選手の『女王』、リタイアです≫
審判がこの試合の終わりを告げる
でもまだ俺は怒りの感情が収まっていない・・・やはりサイラオーグさんと決着を付けない限りは、彼を全力で殴り飛ばさない限りは無理なのだろう
選手用の席に戻った俺は会場の反対側に居るサイラオーグさんを睨みつける
まだだ、まだ次のアーシアの試合がある
もう正直先は見えてるんだから四の五の言わずにサイラオーグさんと戦いたい
戦って皆の分も含めて殴り倒したいんだ!
「何て目を向けてくれる。敵意に満ち満ちているではないか―――もう1秒たりとも待てないと顔に書いてあるぞ・・・審査委員会に問いたい!もう良いだろう!?この男をルールで戦わせないなどと云うのは余りにも愚かだ!俺は次の試合、残ったメンバーでの団体戦を希望する!」
サイラオーグさんから驚きの提案がなされ、会場が騒めく
≪確かに今後の展開は簡単に読めてしまう。連続して出られないルール上、次の試合はバアルチームの『兵士』とグレモリーチームの『僧侶』の闘い・・・ただし、この闘いは試合の結果になんの影響も生み出さない為片方が試合開始と同時にリザインして終了。その後赤龍帝とサイラオーグ選手の事実上の決勝戦となりますね≫
≪確かにそれは余りにも詰まらない。決勝の直前にリザイン戦を挟むなんて事をするくらいならどうせなら残ったメンバーの総力戦!この戦いのテンションを維持して見られるなら俺もその方が良いと思うぞ≫
「私もそれで構いませんわ!」
部長もカメラに向かって合意の意思を発する
少しすると実況の人の下に連絡が入ったようだ
≪え~、ただいま連絡が有りました。審査委員会はサイラオーグ・バアル選手の提案を認めるとの事です!つまり!次の試合は両チームの総力を持って戦う決勝戦となります!!≫
「「「「「「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」」」」」」
この決定に観客のボルテージも最高潮に達したようだ
「そういう訳だ。死んでも恨むなとは言わないが、死ぬ覚悟だけは決めて来い」
「殺す気でやらせて貰います!そうでないと倒れていった仲間に顔向けできないんで!」
短くも長く感じられたこの試合、ついに終わりの時がやってくる
「部長、勝ちましょう!」
「ええ、それ以外あり得ないわ!」
バトルフィールドに転移するまでの僅かな時間、俺は全力で戦意を高まらせた
最初は真面目一辺倒で書こうとしたら木場ならツッコミ!ならば周りはボケしかない!との義務感に襲われて最初はボケまくりましたww
次回の決着はメンバーが一緒なのであまり変わらないかも知れませんが見どころは用意してるつもりです!