体の大きさもかなり違うがこういうのは相手が動くのを待つのは危険である。攻撃は最大の防御なり。
そうハジメには教えていたし実際ここまで来るのに容赦の無かったハジメには分かっているのだろう、目視した瞬間にサソリモドキに向かって発砲した。
ドパンッ!
向かった弾丸は頭部に直撃した。しかしその表情は険しい。
殻が硬いのもあるだろうが、サソリモドキが未知の武器を前に微動だにしないのだ。
サソリモドキの尻尾の針がハジメに照準を合わせた。その先が一瞬肥大化したと思ったら凄まじい速度で針がうち出された。避けようとするハジメだが途中で破裂し散弾の役に広範囲を襲う。
「ちっ!」
舌打ちをしながらドンナーで撃ち落としたり豪脚で払い、風爪で叩き切る。どうにか凌ぎ、お返しをするよなドンナーを発砲。
一方、聖夜の方は、
「ハジメ、直接魔力を操作してる?」
「おう、俺もだが魔物の肉食べたらなんか出来るようになってたなぁ」
「セイヤは行かなくていいの?」
「ハジメがユエを守るために男として立ち向かってるんだ手を出すような野暮なことはしないさ」
「でも、全然攻撃効いてない…」
ユエの言う通りあのサソリモドキにはハジメの攻撃が一切効いていない。
「あぁーあれはまぁ確かに効いていないが……まぁそれくらいで諦めるような奴じゃないぞ?ハジメは」
目を向けるとハジメが何かを投げた。カッと爆ぜると中から爆発と同時に黒い泥を撒き散らした。
流石に効いたようでサソリモドキから強烈な怒りが伝わってくる。
「な?」
「すごい……」
すると、サソリモドキが今までにない絶叫が響き渡る。
「キィィィィイイイ!!」
その叫びを聞いて、ハジメは悪寒を感じたようで一瞬こちらをみる。
「はぁ…まったくこっちは大丈夫だってんのに…まぁユエが心配だったんだろうな」
「何を………!?」
周囲の地面が突如波打ち始めた。
「ハジメ!飛べ!」
「……っ!」
俺の意図を理解したのか、一瞬で空力を使い空に跳ぶ。
俺はユエを抱っこしたまま、足を大きく振り上げ真っ直ぐに振り下ろす。
瞬間、波打っていた地面は大きく揺れると、サソリモドキに向かって揺れが戻っていき……
スパンッ!!
地面から円錐状の大きな針が突き出て来て、サソリモドキの二本あったうちの一つを切り落とした。
「うむ、予想通りの攻撃方法だったな…そのまま利用すればと思ったけど貫通力は結構あったな……」
「今……セイヤ何したの……!?」
「見たままだぞ?さぁ、そろそろユエの出番だぞ………ハジメ!」
ハジメは驚いたようにこっちを見る。それに向かってユエを放り投げた。
「「!?!?!?」」
「いい反応だな!ハジメ、お前の攻撃はあいつには効かない、なら方法を考えろ!ユエ!お前はただの守られるだけの姫様か!?これくらいの壁ですらない障害は2人で乗り越えて見せろ!その間時間は稼いでやる」
「っち!無茶言ってくれるぜ…ユエ……あいつに俺の攻撃は効かない……なら魔法だ……俺はまだあまり使えない…だが、お前ならそういうの得意なんじゃないか?というかそうじゃないと聖夜がユエを放り投げた意味が思いつかない…」
「うん……でも、魔力足りない……」
「足りないなら補充すればいいか……どうすればいい?」
「ハジメ……信じて」
そう言ってユエはハジメの首筋にキスをした。
否、キスではない噛み付いたのだ。
ユエは吸血鬼の生き残りだと言っていた。ならばその吸血行為を恐怖、嫌悪しても逃げないでと言うことなのだろう。信じて。その言葉に苦笑すると、ユエの体を抱きしめて支えてやった。そして時間稼ぎをしてくれている聖夜の方に顔を向ける。
「ふはははははは!弱いなぁ!」
打ち出される針は腕を一振りするだけで弾かれ、一瞬で頭部に肉薄すると拳を打ち込む。
メキャ。と嫌な音がすると吹き飛んでいく。切り落とされた尻尾の方は毒液を飛ばしていた方だったらしい。
強敵とすら思っていない聖夜に対して苦笑いしか浮かばない。しかも今見間違いじゃなければ頭部にヒビが入っていた気がする。
いやヒビ割れ程度で済んでいると思えばいいのか。
「……ごちそうさま」
「お、終わったか……いけるか?」
「うん」
「よし、いじめてるとこ悪いな聖夜!」
追撃しようとサソリモドキに近づいている聖夜に向かって声を張り上げる。
「いじめちゃうわ!!……じゃあそっちにとばすぞ」
サソリモドキの尻尾を掴むと、ハジメ達に向かって
土煙をあげながら飛ばされたサソリモドキはハジメとユエの前で止まると、
「蒼天」
瞬間、サソリモドキの頭上に直径6メートル程の青白い炎の球体が出来上がる。
直撃した訳ではないのに余程熱いらしい悲鳴を上げながら離脱しようもがく。
だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。
「グゥギィヤァァァアアア!?」
サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。セイヤとハジメは腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法を唯々呆然と眺めた。
やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。跡には、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむサソリモドキの姿があった。
「……メラガイアーとどっちが強いかな…」
トサリと音がして、ハジメが驚異的な光景から視線を引き剥がし、そちらを見やると、ユエが肩で息をしながら座り込んでいる姿があった。どうやら魔力が枯渇したようだ。
「ユエ、無事か?」
「ん……最上級……疲れる」
「はは、やるじゃないか。助かったよ。後は俺がやるから休んでいてくれ。聖夜ユエを頼む」
「ん、頑張って……」
「お任せを!」
ハジメは、手をプラプラと振りながら縮地で一気に間合いを詰めた。サソリモドキは未だ健在だ。外殻の表面を融解させながら、怒りを隠しもせずに咆哮を上げ、接近してきたハジメに散弾針を撃ち込もうとする。
ハジメは素早くポーチから閃光手榴弾を取り出し頭上高くに放り投げる。次いで、ドンナーを抜き、飛んできた散弾針が分裂する前に撃ち抜いた。そして、電磁加速させていない弾丸で落ちてきた閃光手榴弾を撃ち抜き破裂させる。
流石に慣れたのか、サソリモドキは鬱陶しそうにしているものの動揺はしておらず、光に塗りつぶされた空間でハジメの気配を探しているようだった。
しかし、いくら探してもハジメの気配はなかった。サソリモドキがハジメの気配をロストし戸惑っている間に、ハジメはサソリモドキの背中に着地する。
「キシュア!?」
声を上げて驚愕するサソリモドキ。それはそうだろう、探していた気配が己の感知の網をすり抜け、突如背中に現れたのだから。
ハジメは、気配遮断により閃光と共に気配を断ち、サソリモドキの背に着地したのだ。
赤熱化したサソリモドキの外殻がハジメの肌を焼く。しかし、そんなことは気にもせず、表面が溶けて薄くなった外殻に銃口を押し当て連続して引き金を引いた。本来の耐久力を聖夜の殴打とユエの魔法によって失ったサソリモドキの外殻は、レールガンのゼロ距離射撃の連撃を受けて、遂にその絶対的な盾の突破を許した。
サソリモドキは自分が傷つく可能性も無視して尻尾でハジメを叩き落とそうとするが、それより早くハジメが動いた。
「これでも喰らっとけ」
ポーチから取り出した手榴弾をドンナーで開けた肉の穴に腕ごと深々と突き刺し、体内に置き土産とばかりに埋め込んでおく。ハジメの腕が焼き爛れるがお構いなしだ。
そして、サソリモドキに攻撃される前に縮地で退避した。サソリモドキが、背後に離れたハジメに再度攻撃しようと向き直る。
しかし、そこまでだった。
ゴバッ!!
そんなくぐもった爆発音が辺りに響くと同時にサソリモドキがビクンと震える。動きの止まったサソリモドキとハジメが向き合い、辺りを静寂が包む。
やがて、サソリモドキがゆっくりと傾き、そのままズズンッと地響きを立てながら倒れ込んだ。
ハジメは、ピクリとも動かないサソリモドキに近づき、その口内にドンナーを突き入れると念のため二、三発撃ち込んでからようやく納得したように「よし」と頷いた。止めは確実に!これは、聖夜とハジメによる最近できたポリシーである。
振り返ると、無表情ながら、どことなく嬉しそうな眼差しで女の子座りしながらハジメを見つめているユエと、納得したようなしたり顔でたたずむ聖夜がいた。迷宮攻略がいつ終わるのか分からないが、どうやら頼もしい相棒が増えたようである。
パンドラの箱には厄災と一握りの希望が入っていたという。どうやらこの部屋に入る前に出したその例えは、中々どうして的を射ていたらしい。そんなことを思いながら、ハジメはゆっくりとユエと聖夜のもとへ歩き出した。
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サソリモドキとサイクロプスと素材やら肉やらをハジメの拠点に戻る。
さっさと下に行こうと準備をしながら、現在お互いの事を話していた。
「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」
「……マナー違反」
「そうだぞハジメ。だからデリカシー無いって言われるんだ」
「それ言われた事ないが」
「……ハジメ、デリカシー無い……」
「ほらな」
「お前らのそのコンビネーションなんなの?さっき会ったばかりだよな?」
「なんか俺には妹いないけどさ、いたらこんな感じなんだろうなあって思って」
「………ん、お兄ちゃん……」
「はぁ………それで肝心な話だが、ユエはここがどの辺りか分かるから他に地上への脱出の道とか」
「……わからない……でも……この迷宮は反逆者の1人が作ったと言われてる」
「「反逆者?」」
書き慣れない上に、なんとも不穏な響きに顔を見合わせる聖夜とハジメ。
「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」
この世界に神がいるのは分かっている。この世界に呼べる存在自体数少ないであろう……しかし反逆者か……もしかすると、この世界の神とやらはロクでもない奴だったりするのか……あのイシュタルとか胡散臭い爺さんが国王よりも上の存在だとしたら神はかなりこの世界に対して干渉を行なっているんだろう……なら、わざわざ俺たちを呼ばずに自分ですればいいだけ……にも関わらず俺達にやらせようとしてるのは、何のためだ?干渉するのに制限があるならまだ納得できる……だか最悪の場合……
「聖夜!」「お兄ちゃん!」
「…ん?あぁどうした?」
「さっきから反応しないから耳が遠くなったのかと…」
「セイヤ……老化?」
「ちゃうわ!ちょっと考え事だよ……で、どうするんだ?」
「取り敢えず、地上を目指してこのまま下におりるぞ。いつかは最下層に行けるはずだしそこなら地上へつなぐ道とかあるかもしれないしな」
地上に行くために下に行くとはこれいかに……まぁしょうがない……
「……お兄ちゃん……」
「ん?どうしたユエ?」
「その呼び方はもう固定なのか.……ユエは食事の代わりに血を吸うのでもいいらしい……俺のも美味しかったらしいが聖夜のも吸ってみたいと」
「成る程……好きなだけ吸っていいぞ!お兄ちゃんだから!」
「……いただきます……」
聖夜の首筋に噛みつくとちゅうちゅうと吸い始めた。
ちなみにハジメのは何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような感じの濃厚な深い味わいらしい。
「………これは……!……美味!……ハジメがスープならお兄ちゃんは沢山のフルーツの詰まったデザート……」
「……虫歯にならないように歯磨きはしろよ?」
「ツッコム所はそこじゃ無いだろ……」
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おまけ
香織「……チッ」
雫「……新しい家族の気配!?というかどうしたの香織!?」
香織「え?どうしたの雫ちゃん?」
雫「なんか今、聖夜に妹が出来たような……香織は?」
香織「私もハジメ君センサーは大概だと思ってるけど、雫ちゃんの神韋君に対する勘はすごいよね……」
ここまで呼んでいただきありがとうございました!