ユエと出会いサソリモドキとの死闘?を生き抜いた日。
光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。但し訪れているのは光輝達勇者パーティーと、ハクションカルテット、それに永山重吾という大柄の柔道部の男子生徒が率いる男女5人パーティーだけだった。
セイヤとハジメの死が多くの生徒達の心の傷になってしまったのである。教会側は参加しないと言うのをよしとはしなかったが、愛子先生の猛抗議によって、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーとハクションカルテット、永山重吾のパーティーのみで戦闘訓練を継続することになった。
現在六十五層。しかし光輝達は立ち往生していた。あの悪夢を思い出してしまったのである。
彼らの前にはあの時と同じような吊り橋がかけられており、断崖絶壁が広がっていたのである。
特に、香織と雫は崖下の闇をジッとみつめたまま動かなかった。
2人とも人物は違えど人のことを思っているのは同じこと。
「香織……」
雫のその言葉にはほんの少しの心配と決意のようなものを含んでいた。
「うん、大丈夫だよ雫ちゃん!一緒に頑張ろうね!」
「そうね……戻ってきたら一発引っ叩いてやらないと……」
「それは神韋君が可哀想……私もハジメ君が戻ってきたらちゃんと想いを伝えないと……」
力強い返事に、頼もしさを感じる雫。
2人にとって聖夜とハジメが生きているのは確定事項なのである。そのあとのことを考える2人。
だが、そんな空気を読まないのが勇者クオリティー。
会話が聞こえていなかったのか、眼下を見つめる香織と雫の姿がハジメと聖夜が死んでしまったことに対して嘆いてる様に感じたのだろう。クラスメイトの死に、優しい香織と雫は今も苦しんでいるんだと結論づけた。聖夜と雫のやり取りの事はもう既に忘れていた。
「香織、雫……君達の優しい所は好きだ。でもクラスメイトの死に、何時迄も囚われてちゃいけない!前へ進むんだ!きっと南雲も神韋もそれを望んでいる」
「……はぁ……」
雫にとってこのやりとりはもう何度目か。
「香織、雫、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織と雫を悲しませたりしないと約束するよ」
「いつもの暴走ね……香織……」
「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。……えっと光輝くんも言いたい事は分かったから大丈夫だよ」
「そうか、分かってくれたか!」
おそらくどころか十中八九、今の2人の気持ちを話しても光輝には伝わらない。それどころか理解しようとしないだろう。光輝にとって聖夜もハジメも死んだ人なのである。
ちなみに、完全に口説いているようにしか思えないセリフだが、本人は至って真面目に下心なく語っている。光輝の言動に慣れてしまっている雫と香織は普通にスルーしているが、他の女子生徒なら甘いマスクや雰囲気と相まって一発で落ちているだろう。
普通、イケメンで性格もよく文武両道とくれば、その幼馴染の女の子は惚れていそうなものだが、雫は小さい頃から実家の道場で大人の門下生と接していたこと、厳格な父親の影響、天性の洞察力で光輝の欠点とも言うべき正義感に気がついていたこと、何より、聖夜という存在がある限り一切そんな感情はわかない。いや、いなくても湧かないのだろうが。
香織は生来の恋愛鈍感スキルと雫から色々聞かされているので、光輝の言動にときめく事ができない。いい人だと思っているし、幼馴染として大切にも思っているが恋愛感情には結びつかなかった。
「香織ちゃん、雫ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」
「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンとシズシズの味方だからね!」
「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」
「恵里、鈴、ありがとね」
そんな女子4人の姿を、正確には香りを後方から暗い瞳で見つめるものがいた。
檜山大介である。彼はもう既に香織が手に入ると思っていた。
「おい、大介?どうかしたのか?」
「い、いや、何でもない。もう六十層を越えたんだと思うと嬉しくてな」
「あ〜確かにな。あと五層で歴代最高だもんな〜」
「俺ら、相当強くなってるよな。全く、居残り組は根性が無さすぎだほ」
「まぁ、そう言うなって。俺らみたいな方が特別なんだからよ」
一行は特に問題なく、遂に歴代最高である、六十五層に到達した。
「気を引き締めろ!ここからはマップが不完全だ。なにが起こるかわからんからな!」
メルド団長の声に表情を引き締め、未知の領域にあしをふみこんだ。
しばらくすると大きな広間に出た。
そしてあの時の同じ魔法陣が浮かび上がる。とても見覚えのあるものである。
「ま、まさか…アイツなのか!?」
光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。
「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」
龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。
「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」
いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。
「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」
「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」
龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。
そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き……
「グゥガァアアア!!!」
咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。
全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す女の子が二人。
片方は香織である。香織は誰にも聞こえないくらいの、しかし、確かな意志の力を宿らせた声音で宣言した。
「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私は彼のもとへ行く」
もう片方は、雫である。聖夜が奈落の底に行くことになった直接の原因では無いもののハジメが落ちた事による間接的な原因だが、それは今となってはどうでも良いこと。どちらにせよ、憎い相手なのである。
「聖夜に逢わせて……」
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ベヒモスの断末魔が広間に響き渡り、やがてその姿を散らして消えていった。
そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った。
「か、勝ったのか?」
「勝ったんだろ……」
「勝っちまったよ……」
「マジか?」
「マジで?」
「そうだ!俺達の勝ちだ!」
聖剣を掲げながら勝利の勝鬨をあげる光輝。
その声にようやく勝利を実感したのか、一斉に歓声がわきあがった。
男子連中は肩を叩きあい、女子達は互いに抱き合って喜びを表している。
そんな中、ボーとベヒモスのいた場所を眺めている香織に雫が声を掛けた。
「香織?どうしたの?」
「えっ、ああ、雫ちゃん。……ううん、何でもないの。ただ、ここまてま来たんだなってちょっと思っただけ」
「そうね。私達は確実に強くなってるわ」
「うん……雫ちゃん、もっと先へ行けばハジメ君にも……」
「逢えるわ、絶対に……むしろ地上に出ちゃってたりしたりして……」
「えへへ、そうだね」
そんな二人の所へ光輝達も集まってきた。
「二人共、無事か? 香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」
爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫を労う光輝。
「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、大丈夫よね」
「うん、平気だよ、光輝くん。皆の役に立ててよかったよ」
同じく微笑をもって返す二人。しかし、次ぐ光輝の言葉に少し心に影が差した。
「これで、南雲も神韋も浮かばれるな。自分達を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」
「「……」」
光輝は感慨にふけった表情で雫と香織の表情には気がついていない。どうやら、光輝の中でハジメと聖夜が奈落に落ちたのははベヒモスのみが原因である。ということになっているらしい。確かに間違いではない。直接の原因はベヒモスの固有魔法による衝撃で橋が崩落したことだ。しかし、より正確には、撤退中のハジメに魔法が撃ち込まれてしまったことだ。それにそれを助けるために後を追った聖夜に関しても一緒くたにされているようである。
今では、暗黙の了解としてその時の話はしないようになっているが、事実は変わらない。だが、光輝はその事実を忘れてしまったのか意識していないのかベヒモスさえ倒せばハジメと聖夜は浮かばれると思っているようだ。基本、人の善意を無条件で信じる光輝にとって、過失というものはいつまでも責めるものではないのだろう。まして、故意に為されたなどとは夢にも思わないだろう。
しかし、香織は気にしないようにしていても忘れることはできない。その誰かを知らないから耐えられているだけで、知れば必ず責め立ててしまうのは確実だ。だからこそ、なかったことにしている光輝の言葉に少しショックを受けてしまった。
雫は雫で溜息を吐く。思わず文句を言いたくなったが、光輝に悪気がないのはいつものことだ。むしろ精一杯、ハジメのことも香織のこともついでに聖夜のことも思っての発言である。ある意味、だからこそタチが悪いのだが。それに、周りには喜びに沸くクラスメイトがいる。このタイミングで、あの時の話をするほど雫は空気が読めない女ではなかった。昂りそうになる感情を抑えようと聖夜にはめてもらった指輪を静かに撫でる。
若干、微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた。
「カッオリ~ン!」
「ふわっ!?」
「えへへ、カオリン超愛してるよ~! カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」
「も、もう、鈴ちゃんったら。ってどこ触ってるの!」
「げへへ、ここがええのんか? ここがええんやっへぶぅ!?」
鈴の言葉に照れていると、鈴が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。それに雫が手刀で対応。些か激しいツッコミが鈴の脳天に炸裂した。
「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ……香織は南雲君のよ?」
「雫ちゃん!?」
「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンでピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」
「鈴ちゃん!? 一体何する気なの!?」
雫と鈴の香織を挟んでのジャレ合いに、香織が忙しそうにツッコミを入れる。いつしか微妙な空気は払拭されていた。
これより先は完全に未知の領域。光輝達は過去の悪夢を振り払い先へと進むのだった。
ここまで呼んでいただきありがとうございます!
すいませんベヒモスとの戦闘は原作と全く同じなのでカットさせていただきました!
次回は直ぐに投稿します!