転生するのは2回目でした!?   作:T・紫

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今回は若干長めです。


トラップで悪いことばかりでは無いみたい?

 いきなりですが、問題!今俺、神韋聖夜は何処にきているでしょうか?

 

聖夜を探せ。5、4、3、2、1。

 

「ここでーす!ここ!ここ!正解は、ハイリヒ王国オルクス大迷宮、その隊列の人混みにいました〜!……はぁ1人で何やってんだ俺」

 

「次来たよ〜」

 

「ほいよ」

 

飛んで来た魔物を、ハジメの作った落とし穴に叩き込む。

 

そこを容赦無く上から突き刺すハジメ。

 

「手慣れてきたな」

 

「何回もやればね〜でも、わざわざ弱らせてから飛ばしてくれるから寄生プレーヤー感が半端ないよ」

 

ハジメは、そうは言っているが、周りの騎士団員達は俺とハジメのコンビを見て普通に感心していた。俺の身体能力は言わずもがな、錬成して作った穴に落として身動きを取れないようにしてから確実にとどめを刺すという戦法にどうやら納得した様に頷いていた。

 

小休止に入り、ラブコメしているハジメと白崎を横目に見ながら、1人考えていた。

 

 うぅーん、楽!ハジメに作ってもらったルービックキューブを出すまでも無いし、こんなもので終わるなら、別に付いてくる必要もあまり無かったな……いや、雫やハジメを守ると言った手前そういうわけにも行かないか。

 

そんな事を思いながらふと雫を見る。どうやらあっちもこちらを見ていたみたいで、目が合う。そしてお互いに微笑む。

 

 可愛い。あ、白崎になんか言われてる。あわあわしている雫も可愛い。

 

一行は二十階層を探索する。

 

迷宮の各階層はだいたい数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通らしい。

現在、四十七階層までは確実で堅実なマッピングがなされているので迷うことはないしトラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。そこまで行けば今回の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔法の様な便利なものは現代には存在しない。禁忌の獄を使えば多分できるが、そんな薮蛇は今はやめておこう。

 

一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

すると、突然先頭を行く天之河達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。天之河達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を脳筋もとい坂上が拳で弾き返す。天之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができないらしい。

 

坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないが単純にうるさい。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる、らしいがまぁ俺には効かんな。

 

まんまと食らってしまった天之河達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達後衛組に向かって投げつけた。見事、プロ顔負けの砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が白崎達へと迫る。

 

白崎達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。しかし、発動しようとした瞬間、白崎達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。白崎と本邦初公開、中村恵里と谷口鈴の2人コンビも「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

するとハジメが、

 

「行って!」

 

「オッケーついでだし、カ◯イ外伝のアレ見せてやるよ」

 

隊列的に、天之河達前衛組その後ろに白崎達後衛組そしてその後ろに騎士団員と俺、ハジメがいるのでそれを飛び越えるように、足に力を入れて跳ぶ。クレーターが出来るが有事のこの際仕方ない。

 

一瞬でロックマウントまで近づき、腹部に蹴りを入れて勢いを殺し、ロックマウントの背後に空中で回り込みロックマウントが上にくるように抱え込む。そのまま何も無い地面へと一緒に勢いをつけて落下する。

 

ドゴォォォーーーン!!!

 

舞う土煙。それに隠れるようにして一瞬にしてハジメの元へと戻ってきた。

 

「今のっていづな落としだよね!凄い!初めて見たよ」

 

「まぁまぁ落ち着け」

 

呆然としていた、メルド団長と天之河達前衛組、どうやら雫とメルド団長は俺がやったと気付いたらしく2人して俺にウインクを、送ってくる。

 

 雫は可愛いが、いい年した大人がそれは……

 

直ぐに立て直し、メルド団長が声をたてる。

 

「こらこら、戦闘中になにやってる!」

 

白崎達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

 

そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが(なんちゃって)勇者天之河光輝である。誰も期待してない。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで白崎達へ振り返った天之河。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する天之河。白崎達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

 その時、ふと白崎が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。あ、雫も気になるんだね。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディゴライトが内包された水晶のようである。白崎や雫を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

そういえばインディゴライトは10月の誕生石だったな、雫の誕生日も10月だし少し貰って行って加工してあげるか。

 

「素敵……」

 

白崎が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、俺と雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのはハクションカルテットのハ担当。檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てるはメルド団長。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

聞こえないフリをして鉱石に近寄る檜山。それを追いかけるメルド団長。

 

「団長!トラップです!」

 

「ッ!?」

 

美味しい話には裏がある。それを体現するかのように、檜山が鉱石に触れた瞬間に部屋全体に広がるように発動する、魔法陣。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長が声を張り上げるがもう遅い。

 

みんな慌てる中俺も慌てていた。

 

 なんとしてでもあの鉱石は貰っておこう!

 

光が視界を満たす前に鉱石を手に取り、禁忌の獄の中へ放り込む!もはや倉庫である。

その瞬間光が部屋全体を満たした。

 

 

転移した先は一つの橋の上で横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。聖夜達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷鳴の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、対するは迷宮のトラップ。この程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

目の前にはベヒモス後ろにはトラウムソルジャーというスケルトン部隊。まさに前門の虎後門の狼だな。

 

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河。

 

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

そうはさせじと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

半ドーム状の障壁が展開される。

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーの足元が突然隆起した。

 

「ナイスだハジメ」

 

バランスを崩したトラウムソルジャーを横から殴り飛ばした。更に、地面の隆起は数体のトラウムソルジャーを巻き込んで橋の端へと向かって波打つように移動していき、遂に奈落へと落とすことに成功した。

 

魔力回復薬を飲みながら倒れたままの女子生徒のもとへ駆け寄るハジメ。錬成用の魔法陣が組み込まれた手袋越しに女子生徒の手を引っ張り立ち上がらせる。それを側から見る聖夜。

 

呆然としながら為されるがままの彼女に、ハジメが笑顔で声をかけた。

 

「早く前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員強いんだから!」

 

自信満々で背中をバシッと叩くハジメをマジマジと見る女子生徒は、次の瞬間には「うん! ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。

 

「おいおいハジメさんよこんなピンチの時にラブコメたぁ、随分と余裕ぶっこいてるのね〜」

 

「余裕なんかないよ……てかラブコメはやめてラブコメはなんか寒気がする。というか、聖夜そこ随分と余裕だね」

 

白崎がこちらを睨んでるからな。

 

「まぁ実際このくらいは余裕だしな。あのベヒモスとか言う犬っコロもたいして強くなさそうだし」

 

「そんなことが言えるのは聖夜だけだよ…」

 

会話をしながら辺りを見渡す聖夜とハジメ。

 

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

 

「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」

 

「どうすんだ?ハジメ」

 

「とりあえず天之河くんを呼んでくる、聖夜はそこまでの道を開けて欲しいんだ!」

 

「任せな」

 

おもむろに、足元に転がっている瓦礫を拾い上げる。

 

「そんな石でどうすんの?」

 

「まぁみてろ。……ぶっ飛べや骨供!」

 

拾った瓦礫をトラウムソルジャーに投げつけた。第三宇宙速度で!

 

ドンゴォォォォン!!

 

第三宇宙速度で飛んで行った瓦礫はトラウムソルジャーに直撃の瞬間大きな音を立ててクレーターを作り出した。

 

「行け!ハジメ!こっちは任せな」

 

「色々と言いたい事はあるけどありがとう!」

 

ハジメは走り出した。天之河達のいるベヒモスの方へ向かって。

 

 

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

 

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

ドンゴォォ

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 雫は状況がわかっているようで天之河を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

 

ドンゴォオ

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる天之河。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

 

ドンゴォォォォ

 

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ雫に心配そうな香織。

 

 その時、一人の男子が光輝の前に飛び込んできた。

 

「天之河くん!」

 

「なっ、南ドンゴォォォォ

 

「南雲くん!?」

 

 驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

 

ドッカーン!

 

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした天之河の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する天之河。いいぞもっとやれ。

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

 天之河の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

 

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。そして骸骨に向けて石を投擲し続け、高笑いを上げる聖夜。

 

「えーと……い、今は聖夜があぁやって石を投げて牽制してくれているけど」

 

「あれ、普通に神韋が一方的に圧殺してないか……」

 

「さっきからドンドン音がしてたの聖夜の仕業なのね……」

 

「「「す、すごい……」」」

 

「そ、それより!一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

「ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいませーー」

 

「下がれぇーー!」

 

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。その瞬間後方からベヒモスに向けて瓦礫が投擲された!

 

ドンゴォォォオォオォォォ!

 

舞い上がる埃。

 

聖夜が瓦礫をぶつけてくれたおかげで、比較的被害は少なかったようだ。

 

低い唸り声を上げ、瓦礫の投擲主を探すように射殺さんばかりの視線をキョロキョロとむけている。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

「ボケッとするな! 逃げろ!」

 

ベヒモスが突進を始める。そして、天之河達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

が、ここに登場。

 

「おまえらよく耐えた」

 

「「聖夜!!」」

 

雫とハジメの声が重なる。それを後ろに聞きながら落下途中のベヒモスに向けて跳躍し、そのまま拳を振りかぶる。

 

「はっ!しゃらくせぇ!!」

 

ズドン!

 

短い破砕音が響いたと思ったら、ベヒモスが元の場所まで吹き飛ばされた。

 

唖然としてる、雫達の元へ降り立つと。

 

「な、だから言ったろハジメ、あの犬っコロもたいして強くないって」

 

「「「それが出来るの聖夜(おまえさん)だけだから!!」」

 

「で、どうしますメルド団長さん、あの額と角の割れた犬完全に苦しそうにしながらも俺の方睨んでますけど」

 

確かに聖夜がいればこの状況を突破するのは容易い。だがそれを彼1人に任せるなど……と人としての悩みで苦悩するメルド団長。

 

そんな団長に、ハジメがとある提案をする。それは、この場の全員が安全に助かるかもしれない方法。本来ならハジメ1人でも出来るのだが、聖夜がいるおかげで成功率は100%とと言っても過言ではない。

 

メルドは逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。割れたの兜が赤熱化を開始する。時間がない。

 

「……お前さん達やれるんだな?」

 

「やります」

 

「任せな」

 

再び突進してくる、ベヒモス。それに対して足を振り上げる聖夜。

 

「さぁ、オネンネの時間だ犬っコロ!」

 

突進に合わせるようにしてその顔面へとかかと落としを放つ。

 

再び大きな音を立て橋に頭ごと、体も少し埋まっている、ベヒモスに向けてハジメが近寄り、

 

「錬成!」

 

「さぁ行け、おまえら、ここは俺とハジメに任せろ」

 

「直ぐに助ける!任せたぞお前さん達!」

 

メルド団長がみんなを引き連れトラウムソルジャーを蹴散らしにむかう。

 

「さ、ここから簡単なお仕事だぞハジメ、気張れよ」

 

「聖夜こそ、ベヒモスの相手任せたよ」

 

橋から顔を抜け出した瞬間三度足を振り下ろし、元の場所へと戻し、そこにハジメがこれまた三度錬成をかける。

 

錬成をかけ続けなくて良い分魔力の消費は圧倒的に少ない。

 

「なんか弱いものいじめみたくなってるよ……」

 

「なんだハジメ、1人で相手出来るのか」

 

「滅相もございませんいつも感謝しております故どうか……」

 

「必死すぎだろ」

 

 

 

トラウムソルジャーの方もどうにかなったようだ。

 

天之河の一撃で窮地を脱したみたいで、階段前を確保しようと各々が力を奮っている。

 

そして、遂に包囲網を突破した!

 

「皆、待って!南雲くんと神韋くんを助けなきゃ!彼らが2人であの怪物を抑えているの!」

 

白崎の言葉になにを言っているんだと言う顔をするクラスメイト。そこへ、雫が追い討ちをかける。

 

「あなたたちもさっきまでトラウムソルジャーの相手を聖夜1人に任せていたでしょ?」

 

そう言われ、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには談笑している聖夜とハジメの姿があった。

 

「なんだよあれ、何してんだ?」

 

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

 

「ていうかあの2人談笑してるぞ!」

 

「キャァ!出て来たよ!!」

 

「あ、神韋がかかと落としして同じ場所に戻って…」

 

「南雲がまた蓋をして」

 

「談笑に戻った」

 

クラスメイトと、騎士団員は揃って、この糞忙しい時に何してんだあいつらは!!と思った。

 

「まぁ、うん。そうだ。あいつらがたった2人で足止めどころか赤子の手を捻るように相手してくれているから撤退出来たわけだしな。うん。」

 

「メルド団長、現実逃避したい気持ちはわかりますが早く指示を」

 

「おぉ、そうだったな!前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの子犬を足止めしろ!」

 

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。無理もないだろう。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

 

 

時を同じくして、聖夜とハジメサイド。

 

「ぉ、どうやら階段前を確保したみたいだぞ」

 

「りょーかい!次の拘束で離脱するよ!」

 

そしてその時、もう何度目か分からないくらい。聖夜の足跡出来てるんじゃないかと思えるくらいに落とされたかかと落とし。そして蓋をするハジメ。ベヒモスも殆ど涙目に見えた。

 

「行くよっ!」

 

聖夜とハジメは一斉に駆け出す。

直後、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。未だに抜け出せていないベヒモスに向かって。

 

 もうやめたげてよぉ。

 

お前が言うな。と言われそうである。

 

後ろ向きで走りながらようやっと顔を出したベヒモスを確認すると、前を向き再び走り………

 

「ハジメっ!?!?」

 

いきなりハジメが来た道を引き返すように吹き飛ばされた。足を止め、魔法を放っている連中を見る。すると、してやったりと言う顔をする檜山を見つける。

 

「檜山っ……貴様……」

 

いつの間に始まっていた橋の崩壊。どうやら目の前にはハジメが来たことに歓喜した様子のベヒモス。

 

「くそっ……」

 

ベヒモスに向けて足元にあった瓦礫を投擲する。前よりも力を込めて。

 

そのまま崩落した橋の底へと落ちていくベヒモス。そして……

 

「ハジメェェ!!」

 

今にも落ちそうなハジメに急いでかけより手を伸ばそうと…………

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

間に合わなかった。

 

呆然とする聖夜。そこに向かってくる雫やメルド団長、そして半狂乱になった白崎。そして唖然としているクラスメイト。

 

「聖夜!南雲くんは」

 

「間に合わなかった」

 

「え………?」

 

「間に合わなかった!俺の手が届かなかったばかりに!」

 

地面を激しく叩く。

 

 全部あいつのせいだ。檜山大介のせいでハジメは落ちたのだ。

 

あいつを問い詰めようと立ち上がった瞬間。

 

「それでも!聖夜が無事で良かった……」

 

雫に抱きしめられた。

 

「な、んで?」

 

「クラスメイトが落ちたっていう事実は揺らがないし、とても悲しい。香織だって報われない」

 

「だったらなんで!落ちるなら俺が落ちれば良かった!ハジメじゃなくて生き残れるであろう俺が!」

 

 

 

「そんなの決まってるじゃない。

 

 

 

聖夜、私ねあなたの事が好きなの。それこそ小学生の頃からずっと。

 

 

 

だからね、落ちるのがあなたじゃなくて良かったって心の底から思っているのよ?」

 

「し、ずく」

 

「何?」

 

「暫く、暫くこうしてて良いか?」

 

「ええ、勿論。大好きなあなたのためよ?落ち着くまでこうしてなさい」

 

 

 

 

「おいおい雫、神韋が好きって……」

 

「ごめんなさい、香織…でも、もう少しまって絶対に南雲くんも助かると思うから……」

 

「……え?雫ちゃん?」

 

「何を言ってるんだ雫!南雲はもう死んだだぞ!それより神韋が……「光輝は少し黙ってて!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…………有り難う、少し楽になったよ雫」

「ええ、どう致しまして、それで、聖夜どうするのかしら?」

 

「決めた、取り敢えず俺もここから降りてハジメを助けにいく」

 

「どうして?南雲くんは落ちちゃったんだよ?この高さ絶対に助からないよ……」

 

「安心してくれ白崎。ハジメには咄嗟にだが落下衝撃に対する吸収魔法をかけておいた取り敢えず落下死はないから直ぐに合流する。」

 

「でも…」

 

「なぁ、白崎お前はライトノベルとか見てたよな?」

 

「う、うん」

 

「こういう展開の時あからさまな最弱キャラが絶望的な状況になった時どうなってた?」

 

「……あ」

 

「気付いたな、大方ハジメは戻ってこれる。それこそ見違えるほどに強くなってな。だから安心してくれ」

 

「……雫ちゃんが言ってた事ってこういう事?」

 

「聖夜なら助けに行くと思ってたし……でも、ああ言った手前、私は言って欲しく無い」

 

「すまないな雫。俺はどうしても行かなきゃ行けない」

 

「どうしても?それに聖夜からの返事も……んぐっ!?!?」

 

クラスメイトの息を飲む声が聞こえる。

 

 

 

まぁ当たり前だろう、何せ今、雫とキスしたのだから。

 

 

 

数秒か、そうして離れると2人の唇から掛かるように銀色の糸がつぅっと落ちる。

 

「ぷはぁ!せ、聖夜今のって…」

 

「雫。好きだ。愛してる。実は小学校の時初めて見た時から一目惚れだった。出来る事ならずっとそばに居たい。だけど俺にはハジメを見捨てるなんてことは出来ない。だから……」

 

「……だから?」

 

禁忌の獄を展開し、中から先ほどのインディゴライト改め、グランツ鉱石を取り出す。

 

「それ……」

 

「見ててくれ」

 

いつの間にか覚えてた『錬成』で形を変えていく。

 

指輪の形に。

 

「綺麗……」

 

 

 純度100%の指輪だ、誕生石だし丁度いい。

 

 

完成すると、雫の左手をとる。

 

 

 

「雫、俺と結婚を前提に付き合ってくれ」

 

「!!!………はい……」

 

 

 

とった左手の薬指に指輪をはめる。

目の前で作ったからサイズは丁度良いはずだ。

 

目の前で涙を零す雫に微笑むと、雫から顔を近づけ、

 

「んむっ!」

 

キスされた。

 

突然の事だったが、すんなり受け止め、

 

「!!?」

 

にゅるっと、口内に雫の舌が侵入して来たのが分かった。

対抗心を燃やしたわけでは無いが、それに応えるように聖夜もまた、雫の舌を自分のそれで絡めとった。

 

「ん、んんっ、…ぅ……ふぁ」

 

「んむっ……ちゅっ、ん、」

 

深い深ーいディープキスである。

 

「……ふっ…ん、、」

 

鼻先から抜けるような僅かに甘いそれでいて乱れた雫の呼気が耳に入る。

 

触れ合う唇の角度を変えるために僅かに離しては、また触れ合わせ、その度に微かな水温がたつ。口腔内を舌が行き来するたびに体に痺れるような、それでいて心地のいい、感情が体の芯まで響いていく。

 

どのくらいそうしていたか、どちらとも無く離れ、見つめ合う。

 

「雫、愛してる。向こうの世界に戻ったら俺たち、結婚「ちょっと!あからさまな死亡フラグ立てるのやめてよ!」

 

「「………………ぷっ!アハハハハハ!」」

 

 

目に涙を浮かべながらお互いに笑い合う。

 

 

「雫。もう一度言うが、愛してる、白崎の元にちゃんとハジメを送り届けると言う任務があるからな、それまでは毛頭死ぬつもりもない、ハジメにも言われた事だが、どうやら俺はこの世界で一番強いみたいだからな」

 

「私もよ、愛しているわ聖夜。絶対に戻って来て、もし死んだりしちゃってたら私もその後追うから」

 

「早とちりだけはするなよ?」

 

「うん」

 

「じゃあ行ってくる」

 

「いってらっしゃい」

 

最後に触れる程度のキスをして、聖夜は奈落の底へとその身を投じた。

 

 

 

物悲しそうにそれでいて、嬉しそうな雫の後ろ姿に、クラスメイトや騎士団、メルド団長は気まずそうな顔をしていた。天之河は苦虫を噛み潰したような顔をしていて、白崎は、目をキラキラさせていた。自分もいつか南雲くんとあんな風になれたら良いなと夢想していたのである。ちなみに谷口も目をキラキラさせていて、中村は苦笑い、脳筋坂上は、若干顔を赤らめ1人不思議そうな顔をしていた。

 

あぁ、このカオスな状況。心折れることは無さそうだが、振り返った瞬間からの雫の運命やこれいかに……。




ここまで読んでいただきありがとうございました!
とうとう結ばれました2人想像していた通りかもしれませんが、私のお粗末な文章力と展開力ではこれが限界ですえ……。ふぅ満足満足。
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