【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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ちょっと長めになってしまいましたが、王都でのお話の続きです。
師匠の過去がちょっとだけ明らかに。


第十一話

 そのクイズは唐突に始まった。師匠は何時だって、勉学には手を抜かないのである。

 

「民草は国に対して税を払うが、国が民に対して払う対価とは何だと思う?」

「そりゃあ、庇護下なんて言葉もあるぐらいですし、安全じゃないですかね。民草は労働に勤しみ、国は警備隊を組織して国民を守るのがお仕事でしょう」

 

 少年の出した答えに師匠はうんうんと頷いて見せた。この反応は満足行く答えを返せたようだ。少年はご褒美とかあるなら是非脱ぎたてのアレが良いですな、とか考えてにっこりと良い笑顔を浮かべる。

 

「三十点だな。国の仕事は主に三つ。民草を他国や魔物から守る事、象徴として国家の威信を守る事、そして貨幣価値を守る事だ」

 

 つまりは、軍事・外交・経済を民の代わりに行い、その見返りとして税を徴収する権利を得る。正確に言えば、それらを貴族たちに代行させて、自身はその管理と方向性を決めると言うのがより正解に近いだろう。

 残念、少年はご褒美どころかお小言を頂いてしまいました。

 

「所で師匠、一つ良いですか?」

「どうかしたか? 授業に関係する事ならば何でも聞くと良い」

「関係は一応ありますね。授業をするのは全く構わないんですが、何で今この状況でやろうと思ったんですか?」

 

 唐突に始まった師匠との授業。しいて問題点があるとすれば、それは今現在居る場所が貴族の屋敷の応接室と言う事だろうか。豪奢な調度品に囲まれて、光沢のあるテーブルを皮張りのソファーが取り囲んでいる。正に貴族の威厳を見せ付けるかの様な、格式高いお部屋で何故授業が始まったのか。

 その答えを師匠に求めた少年は、チラリと並んで座る自分達の真向かいに視線を差し向ける。果たしてそこには、ソーサーを手に持ち優雅に紅茶を燻らせる人物がいた。高価で上質な生地をたっぷりと使った服を身に纏い、貫禄のある体躯で口元には立派な顎鬚まで蓄えた初老の男性だ。うーん、いぶし銀だね。

 その人物は一見余裕そうに振る舞ってはいるが、その頬に冷や汗が流れているのを少年は見逃さなかった。

 

「理由なんてないさ。ただの嫌がらせだよ」

「よし分かった、遅くなったのは余が悪かった。だからそろそろ機嫌を直してくれないだろうか。なあ、鈴蘭の錬金術師殿」

 

 フードの下でも解る程にっこりと微笑みながら、師匠は整然ととんでもない事を言ってのける。それに対して、流石に顎鬚の人物は余裕をかなぐり捨てて状況の打開を図る。いやあ、見た目通りに声まで渋いっすね。

 対する師匠はと言うと、相変わらずの不敵な可愛い笑顔。あ、これぜんぜん許してませんね。良く怒られているから、少年にはそれが空気で分かります。

 

 そもそも、なぜこんな事になったのか。それは師匠とその弟子が王都にやって来て二日目の日の事。

 王都の一角にある旅人用の宿で一泊した二人は、その宿を出て街を散策しようした矢先に黒塗りの馬車に拉致された。宿を一歩出た所で待ち構えていた黒尽くめのマント集団に囲まれ、あれよあれよと言う内に少年が馬車の中に詰め込まれてしまったのだ。

 少年が確保された時点で師匠は三人ほど黒尽くめを昏倒させていたが、馬車の中に少年と相対して座る執事服の人物を見て抵抗を止め、自分の足で馬車に乗り込んだ。ただし、両手の指輪型魔具からバリバリ雷光を迸らせて、怒っている事をしっかりとアピールしながら。

 

 それから走り出した馬車で運ばれ、辿り着いた先が如何にも高貴な人が住んでますよと言わんばかりに豪奢な御屋敷。その応接間にご案内されて、しばらく放置された。幸い定期的にメイドさんが巡回に来てお茶や菓子を差し入れてくれたが、感覚的にだが半日は待たされただろうか。無理矢理拉致しておいてこの対応はいかがなものだろうか。

 これが師匠が怒っている理由の大部分だった。

 

 そんな空気の中で、ドスドスと足音を響かせて入って来たのが件の顎鬚の貴族の方だった。喜色満面で扉を開けて入って来た顎鬚さんは、最初こそ久方ぶりの再会を喜ぶ言葉を投げかけて来ていたのだが、まさか師匠がこんなに怒っているとは思わなかった様で直ぐに室内の空気を察して言葉を無くしてしまう。小っちゃい師匠に恐縮して大の大人が更に小さく縮こまると言うのは、それはそれで中々の見物であった。

 

「ふふっ、問答無用で下屋敷に招待してくれた上に半日も待たせてくれた友人に怒りをぶつけるなんて、私はそんなに狭量な人物に見えるのか? 心外だな、ああとても心外だ」

「あー、確かに城を抜け出すのに時間を掛けたが……。解るだろう鈴蘭の、余が外出するには手間がかかるのだ。すまん、わるかった、許せ。なっ? なっ?」

 

 うわぁ、師匠ったら何だか凄い偉い人ととっても仲良しだぞぉ。思わず嫉妬しそうな位の距離感だが、師匠のご友人は一体何者なのやら。余とか言ってるんだけど、どれだけ上の身分の方なんだろうか。

 いい加減、どういう事なのか師匠に説明を求めたい少年である。とりあえず、ジーッと見つめて訴えてみた。

 

「ん? ああ、すまないな。つい昔馴染みの前ではしゃいでしまったよ。察しているだろうが、これは私の友人の一人だ。手紙を寄越して来たので、わざわざ会いに来てやった本人でもある」

「おう、お前さんが噂の弟子か。密偵から聞いておるぞ、物凄いエロガキだとな。がっはっはっはっはっ!!」

 

 いきなりエロガキ呼ばわりして呵々大笑。顎鬚さんは豪快はつらつに笑って、ばしばしと少年の背中を叩いて来る。正直痛い。

 しかし、ナチュラルに密偵とか言ったな、どんだけ権力持ってるんだこのおっさん。などと言う考えはおくびにも出さずに、少年は師匠の恥とならぬようにきっちりと挨拶を返しておいた。

 

「どうも初めまして、師匠の弟子として錬金術を学んでいる者です。どうぞお見知りおきを」

「よいよい、そう固くなるでない。こやつの弟子ならば、余の身内の様な物だ。なあ鈴蘭の?」

 

 身内ってなんだ理由によっては殺すぞ。少年の内に、ほの暗い殺意の波動が宿る。このロリ僕の!! もう嫉妬で気が狂いそうでございます。表には勤めて出さないようにするけれども。

 

「……気持ちの悪い事を言うな。私の身内はこの子だけだ。それに、王族がみだりに身内を増やすんじゃない」

「昔の冒険仲間を、身内と呼んで何が悪い。それに、面倒な王位など弟に押し付けたからな。余は今も昔も自由気ままよ。ぜったい恋愛結婚して見せるからな」

 

 え、王族? 王位? 弟? なんかとんでもないワードが並んでませんか。誰か説明してくれよ! とりあえずまた、師匠の顔を窺ってしまう。今のマジっすか?

 弟子の困惑した視線を受け止めて、師匠はハァと深く溜息を吐いてから疑問に答えてくれた。

 

「これの身分は王兄だ。この国の現国王の兄だよ。そして、私に協力して国宝級の薬を作らせた張本人さ」

 

 おうけい、よく分かった。つまり、この国で二番目に偉い人だな。その人に師匠はぽんぽんと暴言みたいな言葉を投げかけている、と。うんうん、全部理解したわ。

 

「師匠何してくれちゃってんのおおおおお!? 不敬罪だよ不敬罪、首チョンパされちゃいますよ!!」

「がっはっはっ! こやつの口の悪さは今更よ。素材集めの冒険をしておった頃は、毎日朝から晩まで口喧嘩したものだ。なつかしいのう、あの頃に戻ったようだわい」

 

 えー……、それでいいんですかね王族さん。ともあれ、二人の距離の近さの理由は理解できた。昔馴染みであり、冒険を共にした仲間であれば気心ぐらいは知れている物だろう。まあ、それでもジェラシーは感じちゃうんですけどね。

 フードを被った仕事モードの筈なのに、何だか嬉しそうに見える師匠。それを見て少年は、胸の奥がうずうずするのを止められないでいた。まるで、自分の知らない師匠を見せつけられている様な気がしたから。

 

 その後、師匠とその弟子は顎鬚の王兄さんに食事の席に招待された。よく考えてみれば、半日程を菓子とお茶で過ごしていたのだから空腹だ。少年は即座に快諾し、師匠も弟子の手前否とは言わなかった。

 豪奢なダイニングでの少々格式ばったお食事ではあったが、幸いマナー云々は口煩くは言われなかった。食器を外側から使って行く辺りは、元の世界のフレンチのマナーに似ている様だ。味に関しては大変美味しく、少年も大満足でございます。流石王族、良いもん食ってんな。

 

 腹が満たされた後は、一行は広々としたリビングに通されて食後の休息を取っていた。ソファーの柔らかさと満腹感にやられて少年がうつらうつらとしていると、師匠がそんな少年をそっと自身に引き寄せて寝かしつける。程良い高さと柔らかさの膝枕で、少年の意識は一瞬にして狩り取られてしまった。無理無理、これに逆らうとかありえませんわ。

 

 それを見ていた王兄殿は酒杯を傾けながら、弟子の頭を撫でる師匠に歓談を持ちかける。話題にしたのは、先程の食事の際の少年についてだ。

 

「ふむ、余としては手掴みで食い散らかすのも好みだが、存外お前さんの弟子は作法を知っておるようだな。やはり愛弟子には相応の教育を施しているのか」

「いいや、私は何もしてはいないよ。先程の作法は私も知らない物さ」

「なに? ではあれは独学で? それならばそれで、良き才ではないか。お前さんが弟子を取ったと知った時は驚いたが、良い拾い物をしたものだな。がっはっはっはっ!」

 

 呵々と笑う王兄殿の様子に、ややうんざりとした様子で師匠は溜息を吐く。この余程王族らしくない粗野な男は、若い頃からこんな調子で師匠のペースを乱してくれていた。それが気に入らなくて、だからいつも喧嘩になってしまうのだ。

 そう、この男に乞われて薬を作っていた頃から、どちらの本質も何も変わらない。

 

「あの薬は、お前の役に立ったか……?」

「おう、お前さんのお陰でアイツの病もすっかり癒えたわい。弟の奴がはよう祝言を上げろと煩くてかなわん。国王ならば先に妃を娶れば良い物を、何を遠慮しておるのだか」

「そう、か……。ふふっ、本当に言った通り、貴族の癖に恋愛結婚を果たすのだな。贅沢な奴だ」

 

 やや険の取れた声色で、何処か安心した様に師匠がフードを深く被り直す。彼女としては、これで肩の荷が下りたという気分だったのだ。遠い過去に置いて来た、忘れ物が一つ片付いた様な。強い酒でも煽りたい気分だ。

 そうなれば、次に思い浮かぶのは、幸せそうに膝で眠る馬鹿弟子の事になる。グヘヘヘとだらしなく口元を緩めて眠る、赤子から育てて来た自身の身内。

 知らず、心の内に沸いた言葉が唇から滑り出す。

 

「当たり前の事を知らず、かと言うのに教えていない事を知っている。本当に、この子はどこから来たんだろうな……」

「うん? 何か言ったか? お前さんの声は昔から、か細くていかん。もっと肉を食えと言っておるだろうに」

「強い酒が飲みたいと言ったのだ。私にも一杯寄越せ、この放蕩貴族が。そもそもお前は昔から――」

 

 誤魔化すついでに語気が荒くなり、在りし日の様に喧々轟々としたやり合いが始まる。ずっと姿が変わらない者と、老いを滲ませ始めた者。それでもその関係は、何時までも変わらないという証の様に。

 その夜はついつい、深酒をし過ぎてしまう師匠であった。

 




一体全体何が起こったのか、お気に入りも評価も突然たくさんいただけてびっくりしております。
もう嬉しいやら驚いたやら嬉しいやらで、読んでいただける皆様には感謝の極み。
これからも頑張らせていただきますね。
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