【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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今回はほのぼの。


第十二話

 師匠の家には通称『開かずの間』と言われる、厳重に封印された部屋が存在している。そこは師匠ですらも立ち入る事を諦め、その記憶から抹消したと言ういわくつきの場所だ。

 その部屋に今、少年が挑もうとしている!

 

「ねぇ……、本当にこの部屋の掃除をするの? この部屋には重要な物とかは全く無いし、私開けるのはお勧めしないなぁなんて思うのだけど……」

「ダメです。良いですか師匠、これは必要な事なんですよ。掃除してない部屋を放置してると、中で思わぬ生物とかが生まれたりするんです。だから今日はこの部屋を徹底的に掃除して分別して、あわよくば師匠の秘密を曝け出させるんですよヒャッホー!!」

「いやいや、そんなのはその部屋には無いから。ああもう、どうしてこうなったの……」

 

 それはきっと、開かずの間なんて響きがイケナイのでしょう。

 元々師匠は家事と言う物が苦手である。料理をすれば独創的なアレンジで真っ黒に変色させ、掃除をすれば整頓する前よりも乱雑にモノが散らかる始末。以前は一週間に一度のペースで雇われたホームヘルパーさんが家事を代行してくれていたが、今はその役割は少年が担っており師匠のズボラさは更に進んでいる。人とはここまで堕落する物なのだろうか。

 そんな師匠が開けるのを戸惑う程の部屋だと言うのだ、中がどんな魔境になっているのか想像もつかない。未だ人の手に収まる内に、この開かずの部屋を攻略しようと言うのが少年の建前である。本音は先程自分で語った通りだ。

 

「それに、この部屋の鍵なんて、それこそ何処に仕舞ったか忘れてしまったわ。だから、この部屋の存在は忘れ――」

「はい、開きました。魔具が発達しているせいか、錠前は原始的なのが多いんですよね。このぐらいの鍵なら、まあ俺の技術でもこんなもんですわ」

 

 師匠が何か言っていたが、その間に少年はピッキングを済ませて部屋の扉に手を掛けた。相変わらず教えても居ない事を淡々とこなす弟子に絶句する師匠であったが、その弟子は特に気にする様子も無くさっさと扉を開けてしまう。

 果たしてその中は、一言で言えば腐海であった。

 

「汚ッ!?」

「うわぁ……」

 

 要らないと思った物や必要のなくなった物をとにかく詰め込んで、そこに一時的に入れておくつもりだった忘れ物とかをブレンドする。後は何年もじっくり熟成させ、埃やら何やらが積み重なった結果がこれ。かび臭い、薬品臭い、なんか臭い、はんか臭い。肺が腐りそうな悪臭と、やる気を根こそぎ奪い取る様な物品の物量が目の前に広がっていた。

 少年はとりあえず、腐海から肺を守る為に扉をそっと閉じ。それから、ギギギギっと音を立てながら、傍らで硬直しているお師匠様に顔を向けた。

 

「…………覚悟は良いか。俺は、出来ている」

「…………うん。これは、覚悟を決めるしかないみたいね」

 

 覚悟が決まれば後の行動は速かった。二人そろって身に纏うローブのフードを目深に被り、呼吸器を守る為に口元を布で覆ってマスクにする。掌を守る為に分厚い皮の手袋も付けて、靴も室内履きの物からしっかりと踏みしめられる野外用の物へと変えた。

 全身これフル装備。これより我ら修羅道に入る。

 

 二人はまず、開かずの間から玄関までの最短ルートの床に、大きな布を敷き詰め通路を保護した。更には家中の窓を開け放って臭気への対策を講じ、いざという時の為にアトリエから毒物の中和剤や殺虫剤を引っ張り出して来る。

 そこまで準備してから、師弟二人の腐海への挑戦が始まった。

 

「うおおおおおおっ!! 死なば諸共ぉぉぉぉぉ!!!」

「うっ、感触が……。でも、負けるもんかぁ!」

 

 まず二人は室内の物をとにかく、全て屋外に運び出す事に決めていた。大きくて重い物は少年が運び、比較的小さい物は師匠が運ぶ。少年が必死になって運搬を繰り返す間に、余裕のある師匠は汚染された物品に薬品をぶっかけ強制的に消毒する作業も並行する。分担した役割をこなす内に、白かった床の保護材は瞬く間に黒く薄汚れて行った。

 

「そろそろ筋力増強のポーションが切れる頃合いね。運搬の途中で切れない様に、今の内に次の分を飲んでおきなさい」

「流石師匠、バフ管理もお手の物ですね。うん、不味い!!」

 

 師匠は薬品に関して特に造詣が深い。味はともかく、その効能と効果時間への理解度は他の追随を許さないのだ。味はともかく。味だけは本当にともかくとして。

 一口飲むだけで直ぐに効果が表れ、全て飲み干せば全身に活力がみなぎり筋肉がギチギチと軋む音がする。

 

「力がみなぎるぅ……。溢れるぅ!!」

「アナタの場合は心配はいらないでしょうけど、他の人に投薬する場合は連続投与は避けるのよ。肉体への負荷が強いし、何よりも中毒症状が出る場合もあるから」

 

 大掃除をしている筈なのにきちんとお勉強も忘れない。流石です師匠、でも掃除は途中で止めませんからね。そんな訳で、ドーピングを挟みつつ、二人は徹底的な清掃を続けるのであった。

 

 ポーションの効果もあって、昼前には中に入っていた塵と廃棄物の中間の様な物は全て屋外に引っ張り出された。力こそパワー。ようやく締め切りだった窓を開けられ、室内の変色した床板は久々に日を浴びる事が出来た。そして分かった事だが、やはり薬品染みやこびり付いたカビや汚れが酷すぎる。天井までもう、触りたくないような状況がびっしりだ。

 ならば、次はこの室内を徹底的にやってやろうではないか。

 

 霧吹き型の道具を使い、師匠特製の洗剤を吹き付けモップを使ってガシガシと少年が汚れを落として行く。師匠はその間に、外に出した棚などの家具類を薬品で除染してゆく。ここでもまた分業である。

 だって、師匠だと高い所に手が届かないからね。仕方ないね。小っちゃいもんね!

 

 ドーピングのお陰もあって、室内清掃は昼過ぎには終了した。汚染処理された家具類は使えそうな物とゴミとで分別し、薬品を落とす為に散水用の魔具で水をぶっ掛けて丸洗いに。その後は暫し、天日干しにして乾燥させる。塵の方は後日、焼却してから地面に埋める事になるだろう。汚物は消毒だ。

 

 時は既に昼を過ぎ、お腹の虫も騒ぐのを諦めてぐったりした頃合いだ。要するに、二人は休憩がてら遅い昼食を取る事にした。埃塗れの防具類を一度はずして、手早く食べられるサンドイッチをパパッと作って頂きます。

 ごちそうさまのその後は、テーブルに突っ伏して暫しの寛ぎタイムである。

 

「ああああああ……、身体痛ーい……」

「薬が切れたから、筋肉が悲鳴を上げているのね。アナタでもそうなのだから、普通の人なら丸一日は動けなくなるでしょう。副作用はしっかりと自分の体で把握しておきなさい」

 

 休憩に入って暫し、少年は師匠の対面でビクンビクンと苦悶に悶える。酷使された筋肉が再生される痛み、つまりは筋肉痛が少年の全身を苛んでいた。傷口が解りやすい切り傷や打撲などとは違い、疲労やこう言う痛みは流石に癒えるまでには時間が掛かってしまうのだ。

 そんな様子の少年を見て、師匠は再び装備を整えてムンっと胸を張った。胸? うん、壁じゃなくて胸だ。胸だと思う。

 

「その調子だと、重い物を持ち運ぶのは辛いでしょう。今度は私が頑張るから、アナタは少し休憩していなさいな」

「え、絶対無理ですよ師匠。何て言うか、オチが見えてるって言うか。ゼロに何をかけてもゼロなんですよ?」

「失礼しちゃうわね。これでも私は一人暮らしの時は、自分の事は自分でやっていたんだから。まあ、見て居なさい!」

 

 実際にやってみた。

 師匠、果敢にも自分と同じぐらいの高さの棚に挑戦する。まずは意気込んで棚を持ちあげようと力を籠め、おーっとここで息切れ。まさかの息切れです。持ち上げる前に力尽きてしまったー。持ち上げる以前の問題です師匠。悔しそうな顔もまた愛らしい!

 続いて師匠が目を付けたのは、細々とした雑貨の入った木箱ですね。これを師匠は、おおっといきなり持ち上げたぁ。誇らしげです、誇らしげな顔をしております師匠。可愛い! しかし、これは危ないですよ。ずいぶんとよろけています。バランスを取り戻したい師匠。顔を真っ赤にして踏ん張りますが、あーっと転びそうだ! 堪える! 師匠堪えるが苦しそうだ! 苦しい苦しい、ああバランスを完全に崩したー!!

 

「はい、お疲れ様でした」

「くはっ! はぁっ! はぁっ! ぜはぁぁぁぁぁ……」

 

 脳内でサスケェ風に実況していた少年が、見かねて師匠からひょいっと荷物を取り上げる。荷物を奪われた師匠はそのまま地面に四つん這いになって荒い息を吐き、息を整え終えるとあからさまにむぅぅぅっと唸り始めた。そんなに睨んだって可愛いことには変わりないですよ師匠。

 

「……弟子のくせに生意気。こうなったら私も筋力アップのポーションを……」

「すいません、土下座するんでそれだけは勘弁してください」

 

 ムキムキになった師匠とか見たら、多分少年の体中から血涙出るわ。殺す気か!

 結局、重い物の運搬は筋肉痛が治った少年が、再びドーピングしてやる事になりました。これはまさしく愛だ。愛する者を守る為の、致し方ない犠牲という奴なのである。心が痛いよりは体が痛い方が絶対に良いと、この時の少年は割と必死になっていた。

 

 今回の教訓はただ一つ。もう二度と、掃除を怠って開かずの間など作ってはいけない。面倒臭がりな師匠も、師匠に力仕事をさせたくない少年も、二人同時にそう強く強く思う。

 そんな訳で、師匠の家に空き部屋が一つ出来ました。

 




お気に入りが200を超え、幾つもの評価を頂いております。
日刊ランキングもオリジナルで第二位に入る事が出来ました。
これもひとえに、読んでくださっている皆さんのおかげ。
この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございます。

でも、ちょっと突然すぎて怖いと思ってしまう小心者でございます。
もっと頑張らなくちゃ。頑張ります。

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