【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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ちょっと何時もと毛色の違うお話。
ほのぼのは次回まで少々お待ちください。


第十三話

 気持ち悪い。

 

 緑がかった銀髪が気持ち悪い。父親にも母親にも無い色を持って生まれた気持ち悪い子供。

 歳を経ても変わらない姿が気持ち悪い。他の子供が大きく育っているのに一人だけ幼いままの気持ち悪い子供。

 尖っていない耳が気持ち悪い。高貴な種族の血を引く癖に人間の様な耳を持つ気持ち悪い子供。

 禁忌に踏み入る考え方が気持ち悪い。教会の教えに逆らって得体のしれない薬を作る気持ち悪い子供。

 混ざり物の血が気持ち悪い。どちらの種族にも受け入れられる事の無い半端な血を持つ気持ち悪い子供。

 

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。口々に言われる否定の言葉。生まれもった姿だと言うのに、誰もかれもが彼女を拒み侮蔑する。気持ちの悪い子供だと、何年経っても言い続ける。

 

 どちらでもない混じり物。気持ちの悪い化け物。信仰に反する俗物。種の狭間に産み落とされた不純物。

 気持ち悪い貴様に居場所など在る物か。ここから立ち去れ、居なくなれ。輪唱して聞こえて来る、隣人たちの無慈悲な言葉。耳を塞いでも、脳裏に焼き付き離れない。

 

 お願い誰か、助けて欲しい。願えどそれは叶わない。彼女の家族は、もうこの世にはいないのだから。この広い異世界で独りぼっち。手を伸ばしても、誰も助けてなんてくれやしない。

 

 暗く暗く意識が沈んで行く。もう二度と、浮かび上がらない程に深く。彼女の傍にはもう、誰一人だって近寄りはしない。あの子だって、何時かはきっと――

 

「……違う!! あの子はもう!! はっ!?」

 

 そこで彼女は目を覚ました。

 

 しんと静まり返った部屋に、彼女の荒い息遣いだけが残響する。全身は汗びっしょりで、寝巻にしているシャツはべったり肌に張り付いていた。

 眠っていたはずなのに、まったく疲れが癒えた気がしない。当然だろう、跳ね起きるほどに凶悪な悪夢を見ていたのだから。息が整えばその倦怠感もいくらかは薄れてくれたが、その代り熱くなっていた体が冷え始めてぞくりと背筋が震えてしまう。

 今夜はもう、眠る気にはとてもならなかった。とりあえず着替えようと思い、ベッドからもぞもぞと這い出してクローゼットへ向かう。眠気覚ましにシャワーでも浴びようと、着替えをひっつかむとそのまま彼女は部屋を出た。

 

 流したいのは汗では無く、未だに纏い付いて来る様な嫌悪感だ。真夜中に浴びる熱い湯は、彼女の気持ちをそれなりには晴らしてくれた。あくまでもそれなりに。

 濡髪に構う余裕はなく、服だけを何時もの服装に変えるだけで気力が尽きた。

 

「……水でも飲むか」

 

 独り言を吐き出して、ふらふらとキッチンを目指して歩き出す。お茶を淹れる気にもならない。今はただ、渇きを癒せればそれでいいとしか思えなかった。

 そこでふと、彼女はアトリエの方向から魔力の流れを感じ取る。その魔力には覚えがあるが、まだ起きているなんて信じられない。今はもう、真夜中だと言うのに。

 

「あれ、師匠? こんな夜中にどうしたんで――はうわっ、湯上り!? くそっ、こんな時間にとは盲点だった! 何で俺は水音に気が付かなかったんだ、せっかくのチャンスがあああ!!」

 

 様子を見に行ったアトリエには、やはり弟子である少年の姿があった。薬の素材を挽いて粉にする薬研と呼ばれる道具を使い、ごりごりと一心不乱に何かを粉にしていたらしい。良く見ればそれは、今日の授業で教えた調薬の材料だった。

 

「こんな時間まで練習しているなんて、あまり感心しないわね。それから、誤魔化そうとしてるのは分かってるから、大声は出さなくていいわ」

「うぐ……。いや、別に誤魔化そうなんてしてないっすよ。俺、師匠の裸とか超見たいだけですから。うん見たい。すげえ見たい。セクハラだこれぇ! ごめんなさい!」

 

 それも解っている。この弟子は不可解な事に、子供の様にしか見えない彼女の肢体に興味を持っている様だ。人間の雄と言う物が、何時でも発情期であるという知識は持っている。この少年の場合はきっと、一番身近に居る彼女にそれを向けているだけなのだ。であれば、そこは育ての親としてしっかりと普通の異性に興味を持つ様、正さねばならないだろう。

 

 それはともかく、今はこの夜更かしについてだ。

 

「夜更かしは良い仕事の敵なのよ。錬金術に集中力が大事なのは、もう理解しているわね。その様子だと、上手く行かなかったんでしょう?」

「……はい。段々上手く行かなくなって、ついつい次こそは次こそはと……。いや、やれると思ったんですよ。まあ結果は散々だったんですけど……」

 

 少年の作業が散々なのは、作業台の上の惨状を見れば予想はつく。少年はがっくりとうなだれ、師匠は両手を腰に当ててフンスと胸を張る。それ見た事か、と。少年と話していたら、何だか少しだけ元気になって来たようだ。

 

「とにかく、夜更かしは止めて子供はさっさと寝なさい。片付けは私がしておいてあげるから。ねっ?」

「え、それって惨状が余計惨状に――いえ、なんでもありません。っていうか、師匠こそこんな時間に珍しいじゃないですか。錬金術師は早寝遅起きが基本だーって言ってたくせに」

 

 弟子のささやかな反抗。しかし、普段ならば生意気だと一喝して終る様なやり取りだが、今夜はそれをするのには夢見が悪すぎた。削り取られ弱くなった精神力が、説教モードだった彼女の心に少しだけ隙間を作ってしまったのだ。

 

「私は……、ちょっと寝付けなかっただけよ。怖い、夢を見たから……」

「うわ、可愛い……、じゃなかった。それなら師匠、俺ホットミルク作ってあげますよ。体が温まると良く眠れますよ、うんそれが良いそうしよう。ねっ?」

 

 師としてでは無く、彼女自身の弱さを吐露してしまった。まるで童女の様な事を言ってしまってから、その事に気が付いて恥ずかしそうにもじもじしてしまう。

 少年は思わず口から本音を漏らしつつ、唐突な提案をしてそそくさとアトリエから抜け出して行った。ここが説教を抜け出す好機だと思ったのだろう。実際、彼女の師としての仮面は剥がれてしまっていたのでその通りだ。

 

「……もう、しょうのない子だ。私は、何をしているのだろうな……」

 

 こんな体たらくでよくも、一人にしないなどとのたまった物だ。独りぼっちなのは一体どちらなのやら、解りはしないではないか。これではいけないと、弟子の姿を確認して改めて彼女は思う。今までも、がむしゃらに強くあろうとして生きて来たのだ。せめて弟子の前ではそれを貫き通さねば、自身の安い矜持が満たされない。

 

 それでも、今は誤魔化されておいてやろう。あの子が差し出してくれた手を、振り払えるほど彼女は強くなかったから。深く沈み込む自分を救い上げてくれるような、そんな気がしたあの子の手を。

 彼女はパタパタと足音を立てて、雛鳥の様に弟子の後を追いかけるのであった。

 




師匠を可愛く書けていますかね?
師匠を見て和んでいただければ幸いです。

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