【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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このお話はちょっと設定が煮詰め切れていないのでおかしな点があるかもしれません。
気になった場合は容赦なく突っ込んで下さるとうれしいです。


第十五話

 基本的に、師匠は少年のお願いを無碍にした事はない。事がセクハラや性的な事に絡まない限りは、ある程度の融通はしてくれる度量のある人なのだ。ちなみにお願いにエロが絡むと、容赦ない制裁が加えられたのは言うまでもない。

 しかし、今回ばかりは事情が違った。

 

「駄目だ。私の薬は軽々しく渡す事は出来ない」

 

 普段は二人きりの時は優しい口調で話す師匠だが、今ばかりは口調を固くして冷たく突き放す。なんとなく予想はしていた事だが、実際に面と向かって言われればやはり面白くはない。

 

「そりゃないっすよ師匠。別に知らない奴に渡すわけじゃないんですよ?」

「あの姉妹に渡すのだろう? 珍しく、二人そろって風邪を引いたらしいな。確かに知らない顔ではないが、それでも駄目だ。あの子たちの家には、私の薬に金を出せるほど生活に余裕はないだろうからな」

 

 師匠は何もあの二人に恨みがあって拒否している訳では無い。無償で提供する事がいけないのだと、ぐずる弟子に対して丁寧に説明してくれた。錬金術師の薬は非常に高価であり、それを無償で渡す事により贔屓が生まれる事が問題なのだと。

 

「あの姉妹に渡したのなら、自分達にも薬を寄越せ。あの村の連中がそう言い出さないと言えるだろうか。私は、実際に言われた事があるぞ。タダで配れるほど有るのなら、自分達にも融通してほしいとな」

 

 ちなみに言って来たのは山賊紛いのごろつき共で、全員今頃は来世に生まれる準備でもしているのだろう。

 それはともかく、村の一人物を贔屓すれば、それは村での孤立を招く恐れすらある。村八分にされて虐められる彼女らなど、少年だって見たくも無い。そこまで言われれば、少年は薬を貰うのを諦めるしかなかった。

 

「良いか馬鹿弟子。前にも言ったが、錬金術師ならば欲する物は己の知恵と力で手に入れて見せろ。私の薬は高すぎても、お前の作る薬なら等級次第で譲るぐらいは出来るだろう」

 

 無いものは作ればいい。それが錬金術師の在り方だ。ただ突き離すだけでなく、教えを示して解決策をアドバイスしてくれるとは。流石です師匠! ハネムーンに行こう!

 

「わっかりました師匠!! やって見せます、作ります! 俺の力で、あの姉妹の風邪を治して見せますよ!」

「監修位はしてやる。素材もまあ、融通してやろう。やって見せろ、馬鹿弟子」

 

 ちなみにすっかりお仕事モードになっている師匠だが、そのフードにはこっそり縫い付けられた猫耳が付いている。少年の不法侵入――日々の努力の賜物ではあるが、師匠は基本的に出不精なので未だにバレていない。うん、ニャンコ師匠可愛い。

 バレたらバレたで、色々と美味しいと言う物だ。

 

「そうと決まれば時間はないぞ。小娘共が自力で治す前に、意地でも間に合わせて見せろ」

「どんだけ時間かかる予定なんですか。俺は師匠の弟子なんですよ? ぱーっとやっちまいますから、見ててくださいよ!」

 

 事前にフラグを立てた通り、少年の薬作りは難航した。

 薬を調合しそこに魔力を込める。それ自体は難しくも無く、成功率自体は高かった。だが、問題なのは微調整だったのだ。

 

「駄目だな、薬効が強すぎる。計量の見極めが甘いし、何より魔力の込め過ぎだ。あの小娘たちの家を破産させる気か?」

 

 力を入れすぎれば採算の合わない高額な薬を作ってしまい、師匠にダメ出しされて再び材料選びからやり直しになる。とはいえ、逆に力を抜き過ぎれば――

 

「こんな粗悪品で一体どんな病を治すと言うのだ。小さじ一杯分も粉末を減らせばこうなるのは当然だ。この馬鹿弟子が!」

 

 師匠のおっしゃる通り、風邪も治せない様な粗悪品が生まれ出てしまう始末。こればかりはもう経験と、何より魔力を込める際の集中力の問題だろう。たった一つの結果を求め、失敗作が一つ二つと積み重なっていく。

 少年の中に、焦りとも苦痛とも付かない苦い物が広がる。正直、甘く見ていた。自分ならもっと簡単に出来るんじゃないかと言う、根拠のない勝手な自信があったのは間違いない。だが、こんなにも望んだ物を作るのが難しいなんて……。

 

「…………」

 

 師匠は何も言わない。ただじっと、己の弟子が作業をこなすのを見守っている。それは成功すると信じる信頼なのか、はたまた叱責なのかは少年にはわからない。でも、その瞳の前では、諦めると言う選択肢は取れなかった。

 

 不屈の闘志を誓ったのは良いが、実際問題少年は思い悩んでいる。ドツボにはまっていると言ってもいいだろう。どうしても、合格ラインの上か下かという極端な結果しか出ない。このまま数をこなしていれば何時かは完成するかもしれないが、それでは姉妹は自力で風邪を克服してしまうだろう。

 何か、発想の転換が必要なのかもしれない。

 

「うぐぐぐぐ、単純に作るだけじゃダメだ。頭を使え。発想を、発想を繰り広げろ俺っ!」

 

 そこでふと、少年の視界に積み重なった失敗作たちが目に入った。師匠に渡して鑑定してもらってから、その師匠の手で一つずつ作業台の傍らに並べられている。廃棄するでもなく邪魔にならない場所に置くでも無く、何故わざわざそんな所に置いておくのだろう。

 師匠ならば無駄な事はしない筈だ。とくに錬金術の作業に関しては妥協が無い。その意図に思いをはせ、更に自分の両極端な失敗作を見た時、少年の中で一つの考えが浮かび上がった。

 

「師匠! 希釈をしてみます!」

「ほう……、希釈か……。構わない、やってみろ」

 

 少年はこの時気が付かなかった。師匠の瞳が動揺で揺れた事に。フードを被っていたこともあるし、何よりも新しい発想を試したくてそれ処では無かったのもある。

 師匠の瞳はこう言っていた。『やはり知っていたか』と。

 

 大見得切って宣言はしたが、少年に希釈についての知識がある訳では無い。せいぜい麺つゆやジュースを、二倍三倍に水で薄めた程度だ。だが、このアイデアは自信があった。師匠に認められるかどうかなんだ、やってみる価値ありますぜ!

 

 使用するのは一番濃度が薄く魔力も込められなかった粗悪品と、その真逆に価値を高め過ぎてしまった高品質品。この二つを混ぜ合わせてちょうど中間の濃度を出せば、後は魔力を使っての微調整だけで遥かに簡単に錬金が出来る……、筈! やってやれファンタジー、当たって砕けてとりあえず挑戦だ!

 

「そして完成品がこちらとなります」

「お前は、何を言っているんだ。……うん、濃度も魔力量も良し。品質も及第点、見事に通常等級の薬品になっている。これならば、町規模の商店でも購入可能な程度の金額に抑えられるだろう。合格だな」

 

 師匠が簡易鑑定の出来る指輪型の魔具で、少年の作り上げた薬を合格品だと判断してくれた。やっと許しが出たか! 狙って『特徴の無いのが特徴』みたいな効果を出すのは大変でございました。

 ならば後は、この薬を姉妹に飲ませるだけである。村外れにあるとは言え、全力で走ればあっと言う間に着く距離だ。少年は完成したばかりの水薬を引っ掴んで、どたどたと大慌てでアトリエから飛び出して行った。

 

「行ってきます師匠ー!! 夕飯までには戻りますからぁー!!」

「ああ、行って来い。ちゃんとお前なりの対価を考えておくんだぞ」

 

 そうして一人残った師匠は、弟子が使った後の道具達を手に取り一人呟く。道具を放置して行ったのは後で説教するが、それよりも気になるのは弟子の言葉だ。少年に錬金術を教え始めてまだ半年も経っていない。だと言うのに、あの子は知っている事が多すぎるのだ。まるで、生まれる前から知識があるかの様に。

 

「あの子を拾って数年か……。数年前あの子を拾った私は、こんな事で頭を悩まされるとは思っていなかっただろうな」

 

 最初はただ、薬の効果を試す実験台に使えるかと思って拾った。成長してからは、頑丈に育った体を魔具の性能調査に利用もする。おおよそ、利己的な目的の為に使って来たのだ。

 だが、気紛れで教えた錬金術は、少年の隠された何かを引きずり出している。

 

「錬金術を習って数か月で私は何が出来た。師に言われるままに、ひたすら同じ事を繰り返すだけだったではないか」

 

 だからこそ、あの少年は面白い。育て甲斐がある。錬金術師の師匠として、これほどに喜ばしい事があるだろうか。いや、無い(反語)。

 あの子を同じ高みまで引き上げたら、一体どんな光景を自分に見せてくれるのだろうか。師匠はそれが楽しみであり、そして同時に恐ろしくも感じるのであった。

 

 ちなみにその後、弟子は確かに夕食の時間までには帰って来た。が。

 

「あの薬を飲んでひと眠りしたら、すっかり元気になったです! だからこそ、その礼はたっぷり受け取らせないと気が済まないんですよ! だから大人しく嫁に迎え入れるです!!」

「ふっ、あんなに効き目がある薬なら、きっと物凄く高価なんだろうね。これはもう、体で返すしか方法はないよね。お金とかうちはぜんぜんないもんね。しょうがないよね、ふふっ……」

「あっ、師匠たすけて! こいつ等、『お礼はお前達に出来る事で良いよ』って言ったら、『じゃあ二人一緒に嫁になる』とか言い出して聞かないんですよ!!」

 

 なんかコブが二つくっ付いて来た。それを見た師匠、両手からバリバリっと魔具の雷を発生させます。何て言うかもう、理不尽な苛立ちがクライマックスでございますよ。シリアスなんて、どっかに置き忘れた。むしろ初めから無かったんだ!

 

「よし、お前ら全員こっちに来て正座しろ」

 

 文字通り、雷が落ちましたとさ。めでたしめでたし。ちゃんちゃん。

 




お気に入り登録や評価もようやく落ち着きましたかね。
しみじみ細々とやって行きたいと思います。
そして感想沢山で、やる気が出ますね。ありがとうございます。

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