【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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壁じゃないぞ。
壁じゃないからね!


第十六話

 少年は今、師匠の腕の中に居た。

 淑やかな両手に頭を包まれ、胸いっぱいに師匠の香りが吸い込まれる。ただ密着しているだけなのに、頭がチリチリとして来て首の後ろが痺れる様だ。自分の心臓の音が大きすぎて、まるで頭の中でガンガン響いている様に聞こえてしまう。目と鼻の先に師匠の心臓があり、服越しでもその脈動が聞こえてきそうな気さえした。

 正直、堪りません。これはあれか、試されているのか。悶々とする少年であった。

 

 どうしてこうなったのか、それはほんの少しだけ遡る。

 

「今日の授業は、錬金術の特性について教える。錬金術が得意な事と苦手な事を知れば、更に見識が広まり出来上がる作品にも影響するからな」

 

 今日も今日とて師匠との愛の授業。フードを被って仕事モードのお師匠様は、今日も今日とて猫耳には気が付いていない。その愛らしい姿には、思わず少年もニッコリだ。

 

「やけに嬉しそうだな。確かにいつもニコニコして授業を聞いてはいるが、ここ最近は特に嬉しそうにしていないか?」

「はい、いいえ師匠! 自分は何時も通りであります! 今日も愛らしい師匠の姿を見られて、嬉しいだけであります!」

 

 訝しむ師匠に対して、少年はやはり満面の笑顔。内面の喜びが思わず、返事を軍隊式にしてしまう程である。怪しむが、その原因がさっぱりわからない師匠は、気を取り直して授業の続きを行う事にした。

 

「ふむ、まあ良い。では、錬金術の特性についてだが、まず錬金術に出来る事をおさらいしよう」

 

 錬金術とは、二つないし複数の物質を掛け合わせ、望みの成果へと作り替える技術である。そしてそれを執り行うのは、魔力を物質に繊細に行き渡らせ調整する技能を求められる。要するに、センスが必要になると言う事だ。

 幸いにして、少年は必要な魔力量や集中力、それらを支える体力には恵まれていた。集中力にだけはムラがあるが、一部の事柄に対しては非常に高いのでまあ及第点だろう。

 つまりは、錬金術師の数はそう多くない。一級を名乗れるような者になれば、なおさらその総数は少なくなるのだ。

 

「錬金術は力のある術師が一つ一つの物品を作り上げると言う特性上、大量生産には向いてはいない。集中して心血を注ぐなら、安い量産品よりも効果の高い一点物を作った方が効率が良い」

 

 もちろん例外はある。大釜で大量に作って小分けするだけでも良い水薬は、作るだけならば簡単だ。それを入れる為の容器を別個に生産するか、購入して用意する必要があるのでやはり非効率だが。商会に所属する錬金術師はその様な使われ方をすることもあるらしいが、殆どの錬金術師はアクが強く束縛を嫌う傾向があるのでそれもまた稀である。

 

「この特性は、錬金術師が目指すべき道、真理への探求が関係していると言えるだろう」

 

 錬金術師は数あれど、目指すべき道はただ一つ。道を目指す為の方法は錬金術によって様々ではあるが、何時しか到達しようとする真理はたった一つしかない。

 

「これは魔法使いどもとはまったく逆の性質でもあるが、まあそれは蛇足だな」

 

 魔法使いとはそのものずばり、魔法を使う者達の総称である。魔法と言うたった一つの手段を使い、それを多岐にわたる様々な可能性へと昇華させて行く。魔力と言う同じエネルギーを使う間柄ではあるが、その手段と目的が真逆の性質を持っている。お互いに相いれない存在と言う物だ。

 ちなみに、基本的に魔法使いと錬金術師は仲が悪い。ドワーフとエルフ並みに。

 

 さて、ここまで長々とお堅い文章を読んでくださってありがとうございます。本題に入りましょう。

 

 ここまで流暢に解説をしていた師匠であるが、ふと弟子の視線が奇妙な所に向いている事に気が付いた。この弟子は普段から人の顔を良く見て授業を聞く傾向があるが、それが今日に限っては顔では無くその少し上を見ている。試しに一歩だけ横に移動してみれば、弟子の視線はそれをついーっと追いかけた。やはり頭の上を見ている。

 頭の上に何かあるのだろうか、手を翳してみても空ばかり掴む。特に何かある様子はないのだが。

 

「あ……、やば……」

 

 馬鹿弟子が声を上げた。赤子の頃からの付き合いで、師匠の中でピキーンと勘づく物がある。絶対に何か、弟子にとって見つかると都合の悪い物があるに違いない。となれば、原因を特定して制裁を加えなければならないだろう。

 師匠として。なにより、悪戯を見つけてしまった育て親として。

 

 一番簡単な解決方法は鏡か何かで自分の姿を客観的に見る事だが、師匠個人の意向でこの家に姿見は無い。であれば、自分の姿を客観的に見られる様にしてしまえば良い。魔具を使って。

 

「馬鹿弟子、視覚を借りるぞ」

「わーい、問答無用だぁ。いや師匠、その魔具は結構頭に負担があるから――アヒンッ!!」

 

 師匠が少年の頭に掌を差し向けると、指にはめられた指輪型魔具の一つがバチンと紫電を走らせる。すると、師匠の視界が切り替わり、白いフードの人物が見えて来きた。そう、この魔具は生物の視界をジャックして、自分でも見られるようにする為の物なのだ。

 

「俺の視界を盗みやがったなぁ!?」

「やかましい、動くと視界がぶれるから大人しく……、ッ!?」

 

 はたして、師匠が少年の瞳を使って見た自分の姿は、猫耳フードを被った少女であった。自分が見たくも無い忌々しい姿を包み隠す白いローブの、そのフードの上にひょこんと飛び出す二つお耳。

 

「ふふふ、ついに見つけてしまいましたね……。そう、苦心して師匠のローブに縫い付けた猫耳に! ばれない様にと細心の注意を払い、フードを脱いだ時は内側に引っ込むと言う完璧な偽装! まさしくこれは、俺の創り出した最高傑作にほかなりません!! 原理はどうなっているのかって? 魔力の力だよ!」

「…………言いたい事はそれだけか……?」

 

 いつぞやの王都で見せた様な、両手の指輪からの大放電状態の師匠。フードの奥からでも解る程の冷徹な視線に、全身から沸き上がる殺意の波動と目で見えるほどの魔力の迸り。ほう、師匠マジギレですか。おいおい、死んだわ少年。

 

「最後に一言だけ言わせてください! 猫耳フードの師匠は最高に可愛いィィ、あばぁぁああああああああっ!!!」

 

 少年の長いお仕置き歴で、最大級の電撃がぶっ放された。つま先から頭頂部にかけて、舐め尽す様に電流で蹂躙される。そして体中から白煙を上げながら、ガクッと膝から崩れ落ちて白目を剥く。少年の意識は今頃、転生の神様に挨拶しているだろう。また来たよ神様。少年、まだ早いよ。

 

 何時もなら数秒から数分で再生する少年だが、今回ばかりは流石にダメージが深刻の様だ。意識も戻る事の無いまま、そのままぐらりと前に向けて体が倒れて行く。

 このままではあわや顔面強打と言った所で、咄嗟に師匠が手を出し少年の頭を受け止めた。師匠本人も、自分の行動が信じられないと言った表情を浮かべている。やはり心根では、少年に対して冷酷に成り切れなかったのだろう。

 

「うっ、わっ!?」

 

 しかし、大人の猫を抱えてもプルプルしそうな腕力の師匠では、少年を支えきれずにもつれあって一緒に転倒。そのまま少年の頭を抱く様にして、二人で床に横倒しになってしまった。

 

「くっ……、ふぅ……。やってくれたな馬鹿弟子……。おい、いい加減に復活している筈だろう。何時まで伸びているつもりだ?」

 

 半ば少年に押し倒される形になった師匠が、恨みがましい目で後ろ頭にポコポコ両手の握り拳を打ち付ける。普段ならご褒美であり羨ましい光景だが、そんな状況でも少年は無反応。むしろ体から力を抜いて、未だに神様の所から意識が戻らない様相だ。きっとお茶でも出されているのだろう。出涸らしはやめてね。濃いーの好きなのよ。

 

「おい、どうした? お、おい……、そう言う冗談は好きじゃないぞ? ……っ!」

 

 一瞬だけ動揺した師匠だが、直ぐに冷静さを取り戻してローブの下の衣服のポケットを漁る。そうして取り出したガラスの小瓶の蓋を開け、少年の鼻先に突きつけて軽く揺する。気付け薬だ。少年の意識が神の領域から急速に引き戻された。また来るよ神様。元気でね少年。おそらく、もう出番はない。

 

「あぐ……、うっ……」

「ああ……、良かった……」

 

 少年は意識が戻って来たのか、目は閉じたままだがうめき声を上げて体を揺らし始めた。それを見てホッと息を吐き、思わず少年の頭を胸に抱きしめる。すりすりと頬を擦りつけながら、むぎゅーっと顔を壁――もとい胸に押し付けるのだ。

 ここまでが、冒頭までにあった状況である。

 

 意識が覚醒した少年は、何が何だかわからない内に師匠の胸が目の前にあって大混乱。嬉しいやら恥ずかしいやらで、思考は停止しせっかくの据え膳ですが動けません。ヘタレだって? ああ、その通りさ!

 

「……師匠? あの、この状態はちょっと、三歳児には刺激が強いかなーって思うんですけど。ねぇ、聞いてますか? ししょー? しっしょー?」

 

 師匠からの返事は無い。返事の代わりに更に強く頭が抱き寄せられて、少年は更に期待と興奮の世界へと引きずり込まれる。かと思えば、なにやら首筋にぽたぽたと雫が垂れてきて、少年は更なる混乱のるつぼへと叩き落とされるのだ。

 

「一体何が!? 師匠!? 師匠さん!? 何が起こってるのホワーイ!?」

「うるさい、こっちむくなばかぁ!! 大人しくしてなさい! ひっく……、心配かけるんじゃないわよ……」

 

 聞こえてきた嗚咽の声に、少年は素直に動きを止める。どうやら今回の悪戯は、結果的に師匠を大変悲しませてしまったらしい。これは猛省せねばならないだろう。その為には、一時の感情に惑わされて理性を失ってはならない。だからこれは、別にヘタレている訳では無いのだ。……無いのだ!

 

「そうか……、猫耳は駄目か……」

 

 ならば次は兎耳にしよう。少年は師匠に抱きすくめられながら、次の動物耳シリーズの構想を練って現実逃避するのであった。

 




だったら電撃とか撃つなよ。
そう思っても、受け止めなければならない時があるのでございます。

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