【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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意外とキャラのモチーフ先がばれますね。
評価も賛否が分かれているようで何より。
是非悪い所も指摘していただけるとありがたいです。


第十八話

 全ての準備は整った。お互いに装備も見直し、師匠を見届け人とした公正な決闘。二人の強大なる師匠を持つ弟子達だけの尋常なタイマンである。突如現れた高慢ちきな金髪巨乳魔法使いになんて絶対負けない! プライドをかけた壮絶な対決が今始まる。

 

 と、思いましたが!

 

「納得いきませんわ!! 絶対に、納得いきませんわ! 卑怯ですわよ! 卑怯! 卑怯者!」

 

 既に弟子同士の決着はついて、今は師匠の家のリビングで敗北者の金髪が喚き散らしていた。きちんと椅子に腰かけたまま、テーブルにバンバンと両手を叩きつけて猛抗議している。あまりの衝撃で、魔法使いが先程飲み干した薬の小瓶がぱたりと倒れ、そのまま対面に向かって転がって行ってしまった。

 

「だからあれ程、事前にルールを確認しただろう。そして、互いの持てる全てを使い、尋常の勝負をすると決まった。あくまでも、その上での結果だろうに」

「だからって、開始早々に状態異常のポーションを投げつけて来るだなんて! こんなの魔法使いの決闘ではありませんわ!」

 

 目の前に転がって来た小瓶を受け止めて、指先で弄びながら少年の師匠が不敵に笑っている。その小瓶の中身は沈黙の状態異常を回復する薬品だった。そう、彼女は決闘の開始早々で、沈黙の状態異常を掛けられ無力化されてしまったのだ。

 それに対して、魔法使いの娘は無効試合だと宣っていた。先程まで声を出したくても出せなかったので、相当にうっぷんが溜まっているようで物凄い剣幕である。

 

「魔法使いの癖に沈黙に対応しておかないとは、事前の準備が杜撰だったな。この程度の事は基本だと思うのだが、まさか魔物以外が状態異常を扱って来るとは思っていなかったのか?」

「そ、それは……」

 

 師匠の煽りつつも言い含める様な問いかけに、魔法使いの娘は二の句が継げなくなった。そう、基本を疎かにしたのは確かに自分なのだ。それだけ自分の実力に自信を持ち、尚且つ少年を侮っていた事に他ならない。慢心と言う奴だ。

 

「で、でも、こんなの私の思い描いていた決闘では……」

「例えどんな方法であろうと、一度ついてしまった決着は覆りはしない。この世界は結果が全てだ。泣き喚いたとしても、魔物や敵が仕切り直させてくれるとは限らんぞ」

 

 慢心した結果、それで敗北していればそれはただの凡愚。何を言おうと、所詮は負け犬の遠吠えなのだ。

 彼女の中では、魔法や魔具を射ち合って華々しく決着をつける積もりであったのだろう。その上で勝って見せて、自身の師匠に認めてもらおうと思ったに違いない。少年だってそうだ。師匠にカッコいい所を見せて、喜んでもらいたかったさ。

 それが、こんな地味な決着になるとは夢にも思わなかった。どうせなら、真正面から勝ちたかったと強く思う。勢いでご褒美とか貰えたかもしれなかったと言うのに、実に口惜しい。

 でも、魔法を使えなくなって弱気になった魔法使いの娘を見た時、正直物凄く嗜虐心というかほの暗い喜びがありました。これが愉悦か。まあ、少年的に彼女は好みではないんですけどね。

 

「事前に出来る備えは、策謀だろうがなんだろうが全てする。用意できるものは全て用意し、使える物は全て使う。それが錬金術師の戦い方だ。これでまた一つ、自分に無い物を学べたな」

 

 事前の備えの一つには、あの時の握手も含まれていた。師匠の指にはまる鑑定の指輪を使い、彼女の装備に状態異常耐性の物が無いのを自然に確認したのだ。言うなれば、勝負はあの時に既についていたと言っても過言ではない。少年が使える全ての物には、師匠の助力すら含まれているのだから。

 

「さてと、ではそろそろ事の真相を、ご本人の口から説明してもらうとするか」

 

 ぐぅの根も出ない程に魔法使いの娘をやり込めた師匠は、おもむろに立ち上がって部屋の隅から何やら小箱の様な物を引っ張り出して来る。金属でできたそれには蓋が付いており、開けると中には映写機の様な物が入っていた。蓋を開けると仕掛けで底上げされて、映写機部分が競り上がって来る様になっている。

 師匠はその映写機をテーブルに乗せて、パチパチと幾つかのツマミやスイッチを操作した。

 

「これは昔に私が作った遠距離通信用の魔具でな、暫く使っていなかったが……ああ、動いた。そら、弟子を陥れた悪い魔法使いのご登場だぞ」

 

 映写機から光が投射され、そしてその光は中空に一人の人物像を浮かび上げる。それは艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、淑やかに微笑む淑女であった。服装はセーターにフレアスカートと言った実に大人しめの服装で、荒事は無縁の品の良い若妻と言った雰囲気を纏っている。そして、その胸はセーターに包まれながらもしっかりと存在を主張していた。……チッ。師匠が聞こえるように舌打ちする。

 どうしてこんな人物が通信相手として呼び出されたのか、少年にはとんと理解が及ばなかった。

 

「あらまあ、こうして通信が来ると言う事は、予定通り私の弟子は負けてしまったようね。流石は鈴蘭の。期待通りに悪辣さを発揮してくれた様で嬉しいわ。その子は下手に実力があるだけに、長くなってしまった鼻っ柱を一度折った方が良いと思ったのよ」

「何があらまあだ、白々しい。こうして即座に通信に応じたと言う事は、元から待機していたんだろう? 性格の悪さは健在のようだな、黒百合の。まったく、面の皮がまた一段と厚くなったな」

 

 なんと、この一見して若妻と言った風体の淑女が、師匠のライバルと言われる黒百合の魔法使いその人であるそうな。聞いた話では、性格が悪いと言う事であったが本当だろうか。なんと言うか、師匠が語っていた人物像とはかけ離れている気がする少年であった。

 

「騙されるなよ。こいつは今でこそ貞淑に擬態する術を持ったが、昔はあっちの小娘と同じ格好をして練り歩いていたんだからな。それにその若々しさ、一体いくら薬につぎ込んだんだ? 私の見立てだと、エリキシルの他にも色々と手を出していそうだな」

「貴女も変わらない様で安心したわ。ええ、最後に会ってから寸分も姿が変わっていないなんて、女として生まれたならなんとも羨ましい事。まあ、その小さい成りだと色々と不都合もあるでしょうけれど……。あらやだわたくしったら、おほほほほ」

 

 これぞ火花散る女の戦いとでも言うのだろうか。機械越しの会話だと言うの、互いの視線がぶつかり合って雷光を発している様に見えてしまう。どちらも魅力的な笑顔なのに、とんでもないどす黒さを放っている。少年ですが、部屋の中の空気が最悪です。

 思わず、弟子二人はこそこそと寄り集まって内緒話を始めてしまう始末だ。

 

「なんか師匠が、俺が見た事ないぐらい邪悪に笑ってるんだけど。昔の知り合いでライバル関係って、そんなに仲が悪いのか?」

「私もそんなに詳しくはないのですわ。両親や周囲の者にまた聞きで話を聞いていたぐらいですの。あんなに毒を吐くお婆様初めて見ましたわ……」

 

 ちょっと待てお婆様って言ったか。あの若妻にしか見えない人が、熟女通り越してご老体だと言ったかこの巨乳。少年は心の中で戦慄した。ファンタジー怖い。女って怖い。

 弟子二人が集まって震えているのを脇に捨て、二人の師匠はどんどんとヒートアップして行った。

 

「はっ、種族的に年を取りにくくて悪かったな! 老人の若作りよりは何倍もマシだろうさ! そんな事より、自分の弟子の矯正に人の弟子を使おうとは、どういう了見なんだとわざわざ連絡してやったんだ。何か言う事があるんじゃないか!?」

「心外ねぇ。貴女がどういう心境の変化か弟子を取ったと風の噂に聞いて、心配して様子を見に行かせただけじゃない。ついでに、世界の広さと錬金術師の陰険さを学ばせるには、貴女ほどの適任者はいないと思っただけよ。おーっほほほ!」

「何が風の噂だ。私が弟子を取ったからって、対抗して孫娘を弟子に取ったのは知ってるんだぞ。アレに前にあった時に聞いたからな! 相変わらず無駄に対抗意識ばっかり燃やしおって、陰険なのはどっちだうっとおしい!」

「うっさいわね! こほん……、私は貴女と違って馬鹿みたいに暇な時間がある訳じゃないの。次世代を育てるのだって大事な事だと、きちんと考えての行動なのよ。行き当たりばったりのあんたと一緒にして欲しくないわ。それから、また王兄様に迷惑をかけたんじゃないでしょうね。いい加減年相応に、化石みたいに落ち着きを持ったらどうかしら。おーっほっほっほっほ!!」

 

 師匠がどうして、あの通信機を使わなくなったのかが良く分かる。この二人の罵り合いは全く終わらないのだ。お互いに全く引かない性格で、しかもどちらも相手を罵るのが楽しくて仕方ないと来ている。きっと、この二人はどちらかが――いや、両方が疲れ果てるまでこのやり取りを止めないのだろう。

 つまりは、これに付き合うのは限りなく不毛だと言う事だ。

 

「へー、普段は王都で魔法の訓練しながら貴族学校に通ってるのか。俺は何時も、師匠につきっきりで個人授業してもらってるだけだな。貴族学校なんてあるんだな、なんとなく面白そうだ」

「まあ、そうなのですか? 正直それは羨ましいですわ。私もお婆様――師の元でじっくりと修練を積みたいですのに。学校なんて、貴族同士の無用なしがらみがうっとおしくて堪りませんの。あまりいい所ではありませんのよ?」

 

 師匠たちの無益な争いに巻き込まれた哀れな弟子二人は、いつの間にかちょっとだけ仲良くなって茶飲み話に花を咲かせていましたとさ。そのうちまた対戦して、腕を磨き合おうと言う約束もしました。やったね、友達が増えるよ! あくまでも、友達。

 ちなみに、師匠同士の口喧嘩はそれから日が暮れるまでエキサイトし続けました。




師匠のまた別の一面はいかがでしたか?
これもまた師匠。何時もの師匠もまた師匠なのです。

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