【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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セクハラは犯罪ですよ。


第二十話

 最近セクハラしてますか? 少年は全くしていません。

 それと言うのも、最近の師匠はガードが固くなり、仕掛けられる罠の量も増えたからだ。しかも、罠の効果も侵入を防いで追い返す物から、獲物を逃がさない物へと変更されつつある。

 殺しはしないが五体満足では返さないと言う、強い害意が窺える罠のラインナップに、流石の少年も直接の侵入を断念せざるを得ない。だが、それで諦めてしまうような少年ではなかった。

 

「欲するならば作り出せ。使える物は何でも使え。師匠の裸を欲するならば、俺はどんな事でもやってのけて見せる!!」

 

 およそ人として最低な言葉を吐きながら、少年は決意も高らかに一つの魔具を作り出す。それは、いつぞやに師匠に使われた視覚を盗む魔具を、見よう見まねで作り出した物であった。師匠は基本的にレシピ等を本に残したりはしない。滅茶苦茶記憶力が良い上に、面倒臭がりだからである。だからこそ、家にある書物を読み漁り、それっぽい素材を集めてコツコツと作り上げたのだ。

 

 もちろん、師匠のアトリエでそのまま作業をすれば、何を作っているのかは丸解りになる。今少年が作業しているのは、例の開かずの間の跡地に作られた少年専用の小規模なアトリエだ。また物置にされる前に、機材は最低限だが自分だけの城を作る許可を勝ち取ったのである。

 

「視覚を盗む指輪……。これがあれば、鳥や獣の視覚を借りて合法的に覗きが出来るじゃないですか!」

 

 覗きに無法も合法も無い、犯罪だ。だが、生憎とここには少年の熱いリビドーを止める者は居ない。あるとすれば、少年の中の良心が天使と悪魔となってせめぎ合う程度だろう。

 なんだっていい、とにかく裸を見るチャンスだと悪魔。冷静になってよく考えなさい、あの師匠の隙を突かねば成功はしませんよと天使。それぞれが囁く。もうどうにも止まらない。

 

「問題は何処に動物を配置するかだが……。いや、決行する場所を厳選する方が先か。考えろ、考えるんだ俺!」

 

 まず第一に、風呂場は罠が多すぎて却下である。元より罠を回避するための作戦ではあるが、最初から一番警戒の強い場所で失敗でもしたら意味がない。ここは、比較的敷居の低い場所から始めて様子を見るのが上策であろう。そう、例えば普段から少年が立ち入る事を半ば黙認されている場所などだ。

 

「ウェヒヒヒヒ。決行は明日だ! 俺の知的好奇心を満たす為に、せいぜい役に立ってもらうぜ指輪ちゃんよぉ!!」

 

 少年は頭の中で即座に計画を練り、何度も脳内シュミレートして万全の策を思いついた。その為にも、他に必要な物を用意しなくては。少年は希望の明日に向かって、せわしなく走り出す。

 

 そして翌朝!!

 

 少年は何時も通りに起床して、身支度を整えまずは朝食の下ごしらえを始める。後は火を通すだけと言う所まで進めたら、一旦包丁を置いて師匠の自室へと向かった。

 師匠の部屋へたどり着くと、まずはコンコンコンと強めに扉をノック。中からの返答がないのを確認し、何時もの様にピッキングで鍵を開けて室内に侵入する。そして、何時もとは違いバーンと勢い良く部屋の窓をカーテンごと跳ね開けた。

 

「ほーら師匠、朝ですよ朝。起きる時間ですよー! もうすぐ御飯出来るんですから、さっさと着替えてください」

 

 薄暗い部屋にさっと朝日が差し込んで、ベッドで猫の様に丸くなって眠る師匠を直撃する。可愛い寝姿だが今日はこれが目的ではない。少年はこっそりと窓枠にサラリと粟に似た穀類の粒を一掴み撒いておく。これで仕込みは終了だ。

 

「じゃあ俺は出てますんで、ちゃんと起きて着替えてから来るんですよ」

 

 第一段階を終らせた少年は、そのまま表情を務めて平静にしながら師匠の部屋を後にした。

 扉をゆっくりと閉め、閉め切ると同時に音も立てずに家の外に向かってダッシュ。師匠の部屋の窓を外から確認すれば、そこには果たして餌に釣られた小鳥が窓枠に集まって止まっている。だがまだだ、まだ道具を使うべき時ではない。

 

 当然部屋の窓に鳥が集まってくれば、師匠は訝しんで追い払おうとするだろう。案の定、部屋の中からしっしっと追い払う手が見えて、窓がパタンと閉められてしまった。

 だが、一度餌がある事を認識した動物と言うのは諦めが悪い物だ。窓が閉まっていようがまた直ぐに窓枠に降り立って、残った餌をついばみ始める者が数羽いる。

 

「勝った!(小声)」

 

 少年は勝利を確信し、窓枠に残る小鳥の一羽に向けて魔具の紫電を迸らせた。小鳥は紫電に撃たれたショックで全身を硬直させて、しかしその円らな瞳はなんと言う行幸か丁度室内の方を向く。やったぜ神様愛してる!

 程なくして、少年の視界が切り替わり、師匠の部屋の様子が少年の脳裏に投影され始めた。

 

「おお……、おおお……(小声)」

 

 流石はズボラな師匠、窓は閉めたがカーテンまでは閉めなかった様で室内は丸見えだった。小鳥の視界の中で、師匠は衣装タンスを開けて普段着をぽいぽいとベッドの上に放って行く。

 

「おおぅ……。おっ、おっ、おっ……おおおお……っ!(小声)」

 

 そして、師匠の手が寝間着代わりのシャツに伸びてそれを少しずつたくし上げ始めた。次第に腿が、腰が、お腹があらわになって――そこで、ぷつんと映像が切れた。

 

「はっ!? えっ? あれ? 故障か?」

 

 せっかく良い所だったのに邪魔された少年は、慌てて窓枠の小鳥と自分の指にはまる指輪を何度も交互に見詰める。そして、慌てる少年の耳に聞き慣れた涼やかな声が聞こえて来た。

 

「おやおや、どこの間者が覗き見しているのかと思ったら、なるほど私の指輪型魔具を複製したのか。だが、もう少し放出する魔力は抑えるべきだったな。使った瞬間に感じ取れるほど杜撰な作りで助かったよ」

 

 師匠だ。師匠が窓を開けて、聞こえよがしに声をかけているのだ。それを聞いた途端、少年はまだ自分が犯人ではないとばれていないと確信した。どういう原理かは知らないが、師匠はこちらの視界を逆に奪い返して指輪の所在を探ったのだ。つまり顔は見られてはいない。ならば今は、ここを全力で離れて逃げるべきだろう。

 思い悩むよりも早く、本能的に少年はその場から走り出した。

 

「まあ当然逃げるだろうが、……無駄だ!」

 

 逃げ出そうとした少年の体を、感じ慣れた電撃がズバンと直撃して走り抜ける。少年には知る由もない事だが、師匠は小鳥から自分に魔具の効果を移しつつ、更に少年の視界を奪い返すと言う方法で反撃に出たのだ。そしてこの電撃は、その魔力の流れを誘導線として使い放たれた。目と目で通じ合う。少年の頭は正に電子レンジに入れられたダイナマイトだ。

 

「馬鹿弟子……、お前の仕業だったのか……」

 

 普段着に着替えて白いローブのフードを被った師匠が、黒焦げになった少年の隣に立って呆れ気味に呟く。少年は電撃に撃たれたショックで全身が痺れ、走り出した姿勢のまま硬直し動けなくなっていた。いと哀れなり。

 

 こうして、少年の盛大に無駄な計画は、大参事と言う結果だけを残し終了。せっかく作った指輪は没収されてしまう。流石に師匠の持ち物を外に出すには、少年では責任能力が足りないと判断されたのだ。せめて師匠と同じぐらい強くなければ、少年には許可は出ないだろう。

 

 その日少年は、魔具を無断で複製した事を六時間ほどぶっ続けで説教された。だが、一人で難しい魔具を作り出した事を、最後の最後で誉められもする。なんとも複雑な一日となってしまったのだった。

 今日の教訓はただ一つ。心せよ。あなたが深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。

 




絶対に弟子君の真似はしない様にしてください。
命の保障はありませんよ。

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