【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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注意、この世界の宗教はこの世界特有の宗教でありこちらの宗教とは全く関係ないとは言い切れないかもしれませんがフィクションです。


第二十一話

 少年はこの世界の宗教が苦手だった。師匠からあまり良い話を聞かなかったからだ。

 

 この世界の教会の役割は冠婚葬祭を取り仕切る他に、回復魔法による幅広い医療奉仕も執り行っていた。幾つかの宗派に分かれてはいるが、概ねやっている事は共通している。そして、それぞれが抱える教義が、時として不利益を振りまくこともあるのだ。

 要するに、人間至上主義の様な物を抱えている宗教が割とあるのだと言う。せっかくのファンタジー要素を排斥するとか、頭おかしいんじゃねーかと少年は思ったものだ。それを捨てるなんてとんでもない!

 

「私ははっきり言って宗教が嫌いだ。この国の国教ですら多聞に漏れず、他よりマシとは言え亜人には抑圧的だしな。なにより、錬金術師への圧力には反吐が出る。だがまあ、この村の教会ならば問題は無いだろう。小娘の助力にぐらい、行って来てもよろしい」

「やっと許しが出たですか! 封印がとけられたです! さあさあ、そうと決まったら早速教会に行くですよ!」

 

 非常に意外な事に宗教嫌いのお師匠様が許可を出したので、少年は朝っぱらから農民少女に引っ張られて行く事になった。一体どんな膂力をしているのか、ほぼ水平になびかされながら運ばれる少年。

 

 運ばれながら、それにしてもと思案に耽る。考えるのはこれから行く教会の事だ。

 農民少女の暮らす村にある唯一の教会は、この国の国教が管理するこじんまりとしたものだ。村の規模からすればこれでも立派な部類なのだろうが、配属されているのが司祭一人と言う時点で力の入れ具合が窺える。

 そんな事情もあってか人手不足に悩まされる事が多く、村人が行事に手を貸す事も多いのだと言う。そして、今回少年が駆り出されたのもまさにそれだ。

 

 そんな事を考えている内に、木の葉の様に弄ばれていた少年は教会へとたどり着いた。ここまで爆走していた農民少女は汗一つなく、屈託のない笑顔でそのまま教会に向かって声を張り上げる。

 

「おはよーござーいまーす!! 神父様、約束通り手伝いに来たですよー!!」

「来たですよー。相変わらずスゲー体力だね、おねーちゃん」

 

 おねーちゃんですから! と、少年少女がやり取りしていると、教会の正面の扉が開かれ中から大柄な人物が現れた。大柄というか、これはもう巨体だ。少年からしてみれば殆ど小山の様な体格差の人物が、窮屈そうにカソックを着てゆっくりと歩み寄って来る。

 だが、その巨体よりもなお明確な差異に、少年はその目を奪われていた。その人物には、腕が六本あったのだ。

 

「やあやあ、ずいぶんと早くお越しいただきまして、ありがとうございます」

 

 それは野太い重く響くような声で語り掛けて来る。顔や性別は――解らない。その人物の顔には、子供が描いた様な笑顔のお面が張り付けられていたからだ。仮面は二種類あるらしく、今はまだ見えないが頭の後ろの方にももう一枚付けられている。そして、その仮面からはみ出る様にして、羊みたいな立派な巻いた角が生えている。その六本腕の内の二本は胸元で祈りを捧げる様に組まれ、また別の二本は身体の後ろで手を重ねて腰に当てられていた。残りの二本は少年達を歓迎する様に大きく左右に広げられている。

 何処かで見た事があると思ったが阿修羅だこれ、と少年は前世の記憶を思い出していた。正体不明の六本腕の巨体の角が生えてる仮面司祭。怪しいなんて言葉を通り越して、存在がもう不審者ではないか。

 

「ああ、君が今日お手伝いをしてくれると言う、錬金術師さんの所のお弟子さんだね。こんなに朝早くから来てくれてありがとう。今日はよろしくお願いします」

「あ、はい。……よろしくお願いします」

 

 でも凄く礼儀正しい。発せられる仮面越しの声は野太いけど、出来るだけ優しく話そうとしているのが伝わって来る。少年は罪悪感が込み上げてきて、心に四ポイントのダメージ。しかし、まだまだ油断する訳にはいかない。

 

「それで、今日は裏庭に花壇を作るお手伝いをするんですよね? もしかして、今度の収穫祭への準備ですか?」

「ええ、今から育てれば丁度お祭りの時期には花をつけてくれるでしょうからね。子供達の髪飾りや、お祝いの花束なんかに使ってもらいたいと思って。どうせなら良い思い出として、華々しく彩ってあげたいですから」

 

 あかん、めっちゃ良い人やん。農民少女の言葉にうんうんと頷いて見せる仮面司祭は、その時の情景を思ってか言葉の端々から喜色と優しさを滲ませている。またもや膨れ上がる罪悪感で、少年の心に八ポイントのダメージ。少年を倒した。

 

「すいませんでしたー!! 見た目で判断して警戒しちゃってすみませんでしたー!!」

「わっ、わっ、大丈夫ですから! 僕、怖がられたり怪しまれたりするの慣れてますんで、とりあえず頭を上げてください!」

「さらっと追撃するなです。まったく、何やってるんだか呆れ果てるですよ」

 

 突然土下座し始めた少年に、仮面司祭はおろおろして更に少年に罪悪感を植え付ける様な暴露を始め、農民少女はヤレヤレですっと呆れ顔で溜息を吐いた。とりあえず、第一印象は直ぐに覆る結果となったようだ。

 

 そして、時は吹っ飛び花壇が完成したという結果だけが残る!

 

 正午に一度休憩を取り、食後すぐに作業を進めたおかげで夕方には大分早い頃に花壇は完成した。今は労働で疲れた体を癒す為に、三人は午後のティータイムと洒落込んでいる。わざわざ引っ張り出して来た真っ白で大きなシーツを、シートの代わりにした上で少年を囲む様にして三人横並び。各々がソーサーを手に手に、ズズズーっと煮出した紅茶をのんびり啜る。

 

「ん、これ砂糖じゃなくてハチミツか。師匠と飲むやつより風味が良いな」

「あ、お解りになりますか? 僕の前の赴任地ではこのお茶が流行っていたんで、せっかくだから作ってみたんです。ハチミツは村の方から、先日御裾分けしていただきました」

 

 少年と仮面司祭は共同作業のお陰か、ずいぶんと馴染んで会話が弾んでいた。元々面識のあった農民少女の方は最初から友好的に接しており、話を聞く限りでは他の村人にも慕われている様だ。

 それもその筈で、見た目が怖いだけで司祭の性格は非常に温厚。花々を慈しみ、子供達の為にとせっせと焼き菓子を村人に振る舞うなど、普段の生活態度もまた慈愛に満ちていた。

 

「正直、下手な人間よりもずっと人間らしい……。それが悪魔族だからって、たった一人で地の果てに赴任させられるとか、やっぱり教会は好きになれそうにないな」

「あくまでも司祭ですからね。教会の上層部が決めた事でしたら、僕は喜んで拝命いたしますよ。それに、こうして司祭職を与えてもくれていますから、そんなに悪く言わないで上げてください」

 

 なんだこいつ天使か? いいえ、悪魔です。そこまで言われてしまったのならば、少年としてはこれ以上追及は出来ない。納得してこの地に赴いているのなら、それをわざわざ指摘しても彼を困らせてしまうだけだろうから。それがたとえ、師匠の居る村に赴任するのを嫌った他の聖職者達に、半ば無理やり押し付けられた事柄だとしてもだ。

 

「確かに私達の職は、その仕事の一部を錬金術師と被らせてしまっています。その事を理由に、錬金術師を毛嫌いしている人達が居るのも事実です。ですけど、私はどうせなら皆で仲良くしたいんですよ。私の腕が沢山あるのは、大勢の人達と手を繋げるから、なんて……そう思いたいんです」

 

 なんかこの悪魔、凄く聖職者っぽいこと言ってる。あ、聖職者だったわ。なぜだろう、少年は急に目頭が熱くなった。これならば確かに、師匠がこの教会ならばと許可を出すはずだ。この人は絶対に、師匠の味方になってくれる人だろう。悪魔だけど。

 

「それだったら自分の顔にも、少しは自信を持てばいいですのに。私はそんなに嫌いじゃないですよ? 確かに、夜道で急に見たらビックリするかも知れないですけど」

「え、素顔見たことあんの? 俺も見たい。超見たい!」

「ええっ!? そんな、見ても面白くなんて無いですよ。むしろ、怖がらせてしまったら悪いですし……」

 

 農民少女が発した言葉によって、少年の中にむくむくと知的好奇心が沸き上がって来る。こうなるともう少年は一直線で、困惑する仮面司祭に見せてくれと迫った。それはもう外見通りの子供の様に纏わり付いて。途中で興味が乗った農民少女も参加して、二人で巨漢の仮面司祭の手を取って交互に引っ張ったりもした。

 お子様二人のねーねー攻撃に、最初は及び腰だった仮面司祭もついには根負けした様だ。

 

「わかっ、解りました。解りましたから。そんなに引っ張ったら危ないですよ。もう……、怖くなったら直ぐに言ってくださいね?」

「やったぜ!! ありがとうございます」

「やったです!! ありがとうですよ!」

 

 そんなこんながあってから、恐る恐る外された簡素な仮面。その下の素顔は瞳が赤かったり牙が生えていたりして確かに強面だったが、おどおどと眉を下げて縋る様な眼で見て来る表情をしていて怖さなどはだいぶん和らいでいた。少なくとも、少年と少女がそれを見て、思わず笑顔になってしまう程度には。でっかい体の強面さんは、小動物みたいな態度で可愛らしい人でした。

 

 それから三人は、また近いうちに集まって花の世話を手伝う事を約束し合った。そしてそれは、次第に少年の生活に組み込まれて行く事となる。必然的に農民少女との絡みも増えるが、まあそれは副次的な物だろう。

 異世界に来て初めて、少年に悪魔の――亜人の友達が出来ました。悪魔でも友情はあるんだ!

 




司祭は元モンク僧ですが、性格が優し過ぎて司祭になった転向組です。
悪魔○騎士とかじゃないよ。本当だよ。

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