【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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今回は、師匠対弟子の避けられぬ争い。


第三十話

 その日、少年と師匠は対立した。全面戦争の勃発である。その戦争は、師匠のアトリエで巻き起こっていた。

 

「ダメダメダメダメダメダメ! 師匠をおっきくする薬とかありえないから! 師匠の可愛らしさを全否定とか許されないから! それを捨てるなんてとんでもない! 幾ら師匠の考えだからって、俺絶対に許しませんからね!」

「何を言ってるんだ馬鹿弟子! この薬を完成させれば、私の長年の夢が叶うのだぞ! これでもう黒百合のアバズレに、まったく成長しなくて服を手直ししないから服代が安くすんで羨ましいわね、とか言われずに済むんだ! いいから邪魔をするんじゃない!」

 

 がっちりと、両手と両手を繋ぎ合いぎりぎりと全力で押し合う師弟の二人。手を繋いでいると言っても浪漫の欠片も無い。やっている事は単純に、お互いの目論見への妨害なのだから。

 どうしてこうなったかと言えば、その理由は単純至極。黒百合の魔法使いに馬鹿にされた師匠が、滅茶苦茶に憤慨し今更になって体を成長させる薬の開発に着手したからだ。正に少年にとっては、この世が滅びるよりも尚恐ろしい事態である。

 

「土下座でも何でもしますから、本当にやめてくださいお願いします師匠! 僕はこんなに恐ろしい出来事を経験したくありません! ごめんなさい! ゆるしてください! やだやだやだやだ、師匠はそのままが一番良いのー!!」

「お前に成長しない苦しみが分かるか!? 酒場に行けばママのミルクでも吸ってろと言われ、街を歩けば警備兵に保護されかけ、挙句の果てには買い物してるとママのお手伝いできて偉いねとか言われるんだぞ!? 古今最高の錬金術師と言われ、国宝等級の薬を作り上げたこの私がだぞ!? 侮辱極まる惨状だ!!」

 

 弟子が床に寝転んで子供の様に駄々をこねても、師匠はまるで取り合わず一顧だにしない。それ処か、その口から溢れ出すのは、過去の苦々しい経験への怨嗟である。

 だがちょっと待ってほしい。少年は師匠の言葉に疑問を持ち、その事を直接問い質す。

 

「でも師匠、王都からの帰りの馬車の料金、子供料金にまけてもらってましたよね?」

「うっ……」

「屋台とかでも、おまけしてもらって、ありがとうおじちゃん、とか言ってましたよね?」

「うぐぅっ……!」

 

 弟子の反論は師匠にめっちゃ突き刺さった。使える物は何でも使うと言う錬金術師の教えが、今師匠自身に深々と抉り込まれているのだ。ここは勝機か、一気に畳み掛けるべく少年は更に口撃を加速させる。

 

「いいですか師匠、身体が大きくなったりしたら、服とかも全部手直ししなきゃいけなくなるんですよ。一体誰がそれらを縫うと思ってるんですか? 俺に任せたらロリロリロリータなふりふりドレスとか作りまくってやりますからね。恥ずかしくて表歩けない様にしてやりますよ! それでも良いんですか!?」

「ええい、うるさいうるさい! 私はもう決めたんだ! 絶対作ってあのアバズレと同じぐらい、すらっと高身長でボインボインに大きくなってやるんだからな!」

「ヤメテ! やだやだやだやだぁ、止めてください師匠! そんな事になったら俺本当に死んじゃいますから! 体中から血噴き出して死にますよ! 良いんですか!? 師匠を生かして、俺は死ぬぅ!!」

 

 想像もしたくない未来予想図に、少年が師匠の足にすがり付き子供の様にしがみ付く。師匠の力では振りほどく事も動く事も出来ない、これぞ少年の取れる最後の手段だ。太もも柔らかいヤッター!

 力では勝てない師匠は、弟子の頭にポコポコと拳を振り下ろすが、その程度では引っ付き虫は離れない。そっちがその気なら、と師匠は全身からどす黒い魔力を放ち弟子の頭を両手で挟む。そして、指輪型の魔具から何時もの電撃が迸った。師匠コレダーだ!

 

「だったら、これでどうだ!!」

「ギャヒィ! あばばばばばば! ヤダー! 絶対やだー! 師匠師匠師匠ーっ!!」

 

 少年はもう、泣きながらしがみ付くしかなかった。頭から流れ込む電撃にも負けず、必死になって食い下がる。放電されながら、全身をプスプスと焦がされながらも、小さい子供の様に己が師匠に縋りつく。その姿を見て、師匠は目深に被ったフードの下で、そっと目を閉じ溜息を吐いた。

 

「はぁ……、お前は良いのか? 師匠である私に箔が付けば、お前だって誇らしくなるのではないのか?」

「俺は、俺は今の師匠が良い。生まれて初めて見た師匠が、今までずっと過ごしてきた師匠が良いんですよ。俺の中の師匠は、今の姿しかない。どうか、ありのままの師匠で居てください」

 

 ロリコン的に考えて。だが、空気をよんで本音は口には出さなかった。

 少年の真剣な表情と共に放たれた言葉を聞いた師匠は、ごそごそと懐をまさぐって何やら薬の瓶を取り出す。そしてそれを、少年の頭からザパァっとぶちまけた。

 流石に薬品を浴びせ掛けられた少年はしがみ付く力を緩めてしまい、その隙に師匠は足を引っこ抜いて少年から距離を取る。追いすがろうとしたが、その次の瞬間には薬の効果が少年の体に現れていた。思わず驚いて少年の動きが止まる。

 

「わぷっ、目潰しは卑怯ですよ師匠! ……って、これは……?」

「ただの回復薬だ。お前には負けたよ。私も大暴れして頭が冷えた。薬は作らないでおいてやる」

 

 散々に電撃で苛まれた少年の肉体は、いつも以上の回復力で瞬時に癒えてしまっていた。師匠特製の回復薬は、即効性で副作用も無い一級品なのだ。

 そして師匠は、もう言うべきことも無いと踵を返し、無言でその場を立ち去って行く。向かうのは自室の様なので、言うだけ言ってこっそり薬作りを始めると言う事は無さそうだ。普段の師匠なら絶対やるだろうが、今回はその様子も無い。

 そう、少年は師匠の心変わりを誘発する事に成功した。少年は勝利したのだ!

 

 勝利に浮かれまくっていた少年は、最後まで気づく事が出来なかった。背を向けて立ち去る師匠の顔が、耳まで真っ赤だった事に。

 

 

 余談だが、後日にこの出来事を幼馴染姉妹に話したら厄介な事になった。

 

「今直ぐお師匠さんの所に行って、その薬を作ってもらうように説得するですよ!」

「急ごう姉さん! 僕達の身長を伸ばすチャンスだよ! あと、胸とかももうちょっと……」

「姉妹共、おまえらもか! お願いだからやめてくれぇ!!!!!」

 

 タイトル詐欺になるような事態は、少年の懸命な努力で回避されたのでご安心ください。




今回のお題は『今更大きくなる薬を作ろうとする師匠とそれを全身全霊で止める弟子のタイトル詐欺防衛戦』でした。
今回はお題通りに出来た筈です!

追記

弟子「師匠、自分のロリボディを都合よく利用しましたか?」
師匠「してない」
弟子「そうですか、お子様割引凄いですね」
師匠「……それほどでもない」
弟子「やはり利用していた! しかも利用していたのに、それ程でもないと言った!」

って言うネタを入れようとしましたが、テンポが悪くなるので諦めました。

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