【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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今回は久々にお題では無いオリジナルのお話です。
お題は大体クリアしたはずなので、残すネタもあと少しですね。


第三十五話

 その日は日差しが暖かな午後だった。空も高くなって肌寒さを感じる毎日であったのに、珍しく陽気が活発でぽかぽかと体も心も浮かれてしまうような天気だったのだ。

 

 そんな日でも少年のする事はあまり変わっていない。朝に起き出して師匠を起こし、朝食を摂ってから炊事洗濯に勤しむ。それが終われば今度はまた昼食の用意をして、食べ終わって洗い物を澄ませば漸く自由な時間となる。

 普段であれば、午後には幼馴染の姉妹や黒百合の弟子などが来訪するのだが、この日はまた珍しい事に一人の来客もなかった。

 

 なんとなくアトリエに籠っている気にもなれないので、庭にある花壇の片隅で日向ぼっこをする事に。植木鉢から手を伸ばして来る植物少女を片手で構いながら、花壇から顔を覗かせるようになったマンドラゴラ達と一緒にぼーっと青空を眺める。

 なんと言う穏やかな一日だろう。普段の激動の日々が、嘘のように静かである。ああ、平和と言うのはこう言う物なんだなぁと、少年は悟った様な心境で日差しの温かさに目を細めていた。悟りの錬金術師、爆誕。

 

「あー……、このまま寝たら起きた時には、こいつに全身穢されてそうだなー……」

 

 片手であやしている植物少女は、先程から少年の手に顔を擦り付けて猫の様に甘えている。だが、こんな成りでも魔物は魔物。少年の高い魔力をもっともっとと求めて、触手でまた拘束されてしまうかもしれないので油断は出来ない。穴と言う穴に突っ込まれるのは、せめて師匠の後にして欲しいと思う少年である。

 だから、やられる前にやるの精神で手の平に魔力を込め、少年は植物少女の首筋や顎を丁寧に撫でて満足させることにした。頭も天辺から緑の髪の先まで指で梳いて手入れをしてやる。植物少女はもう気持ちよさそうに瞳を潤ませ、ゴロゴロと喉を鳴らす様な勢いでうっとりしていた。

 なお絵面的にはアレですが、ペットとのほのぼのとした触れ合いなので合法です。

 

「そう言えば、師匠は今日は何をしてるのかな……」

 

 ぼんやりしながら撫でくり回して、ふと思い浮かべたのは師匠の事であった。そして、一度思い浮かべてしまうと気になる事がやめられない。

 ちなみに、植物少女は上気した顔でくったりしている。魔力をたっぷり注ぎ込まれて、確かな満足ご満悦の様だ。

 

「とりあえず、探してみますかね。んじゃなー」

 

 少年は唐突に立ち上がり、手を振りながら家の中に戻る事にする。植物少女は名残惜し気な目をしていたが、畑の中のマンドラゴラ達は皆で手を振り返してくれていた。邪悪な顔のピク○ンかな。

 なおマンドラゴラ達は、後に薬の材料になる予定です。諸行無常。

 

「さーて、師匠は何処かなー。この時間だと、師匠の方のアトリエかなー」

 

 独り言を零しながら室内に入った少年は、とりあえずと言う事でアトリエへと向かう。その途中でリビングや台所なども覗いてみたが、やはり師匠の姿は見付けられなかった。アトリエに居なければ後は自室に居る位だろう。出不精な師匠なら、この陽気でわざわざ外出しようなんて露ほども思わないだろうから。

 

「ノックしてもしもーし。師匠居ますかー? 居ないなら語尾にニャンを付けてくださーい」

 

 コンコンと申し訳程度にノックをして、扉をゆっくりと空けて室内に頭を差し込む。果たしてそこには、探し求めた師匠の姿が居た。残念、語尾にニャンは付かないようです。

 

「って、寝てはるわ。おはよーございまーす……、ししょー……寝てますかー……?(小声)」

 

 少年が発見した師匠は、椅子の背もたれに寄りかかりながら、すうすうと気持ちよさそうに夢の中。窓から差し込んで来る日差しを浴びて、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。フードをしたままなので、それが木陰になって程良く温められたためだろう。何よりも、昨夜も就寝が遅かったようなので、寝不足が一番の理由か。寝る子は育つと言うが、少年にとってはこれほどおぞましい言葉も他にはあるまい。

 

「まさに眠り姫だ……、なんちゃって。師匠は寝ていても可愛いですねぇ……」

 

 少年は扉をそっと閉めると、足音を極力抑えながら師匠の傍へと近寄る。そして、ほぼ無意識に手を伸ばして、師匠のフードからこぼれ出ている横髪を掬い上げた。もっとよく顔が見たいと思っての行動だったが、少年自身も自分の行動にびっくりだ。まさか、いざという時にヘタレる自分に、こんな事をする度胸があるだなんて。

 

 何時も朝に起こす時に触れようとすれば、少年は何かしらの罠によって吹っ飛ばされていただろう。だが、今は陽気に誘われて唐突に訪れたうたた寝だ。罠の類は何もない。こんなに無防備な姿の師匠は、少年の短い今世でも珍しいだろう。

 何よりも、警戒心の強い師匠がこんなに近づいても目を覚まさないその事実が、とてつもなく少年の胸を高鳴らせた。

 

「…………。何してんだろうね、俺は。風呂にまで突撃したのに、逃げ出したくせにさ……」

 

 掬い上げた師匠の長く艶やかな髪を、少年はそっと唇に寄せる。髪への口づけは思慕だったか。まさに、その通りの意味で少年は胸中を焦がしていた。相手が眠っていないとこんな事も出来ない。その事に、自分で自分に腹が立つ。

 だからこそ、師匠にはあの時手を出してほしかった。何時もの様に、拳でも電撃でも良いから叩きつけて欲しかったのだ。それが一番、安心できる自分達の関係だと思っていたから。

 

「師匠が悪いんですよ。俺に隙を見せるから。俺に、罰を与えないから……」

 

 少年は眠る師匠の顔を覗き込む様にして、自身の顔を師匠のそれに近づける。そして――

 カクンと師匠の頭が片側に落ちて、その体が椅子からずり落ちそうになった。慌てて少年が肩を掴んで体を支え、その細さと柔らかさにフオオオオってなる。そしてそこで、ぱちっと師匠の瞳が開かれた。お目覚めである。

 

 目と目が合う師弟。少年の額から顎までを、つぅっと緊張の冷や汗が流れ落ちる。暫しの無言の時が流れたが、その沈黙を破って師匠の両手がそっと弟子の両頬を包む様に触れた。まるで、先程までの続きを乞うかのように。

 

「師匠……、これはそのアレですよ、師匠が椅子から落ちそうになったから、その――アヒィッ! シビレルゥ!!」

 

 無論、少年の体には何時もの様に電撃が流された。図らずも望みが叶ってしまった少年は、プスプスと煙を上げながら床に崩れ落ちて行く。だが、その顔は非常に満足気であった。

 

「…………。部屋で寝る……」

 

 少年を馴染みの如く撃退した師匠は、それだけ言ってすたすたとアトリエを出て行ってしまう。その顔色は赤くもなっておらず、ただ只管に眠たげなもので、やはり師匠は完全に寝入っていたのだろうと少年は判断し、そのまま安らかな眠りについた。

 はい、気絶です。

 

 だが師匠は、扉を締め切るまでの間に、何時もはしない横髪を指にくるくると巻き付けるような仕草を繰り返していた。師匠が指先で弄んでいたのは、ちょうど少年が口づけた場所である。

 それが意図的な物か無意識なのかは、師匠しか知らない事であった。

 




横髪。もみさげ。師匠の髪型は一本三つ編みですが、細かい設定とかはしていないのでわりかしフリーダムです。
フードをしてる時は、多分フードの脇から海老の尻尾がはみ出している感じかな。首に巻くとマフラーの代わりになりそうですね。

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