【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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王都編その四くらい。
師匠の出番はほぼありません。


第三十七話

 今日の少年はすこぶる不機嫌であった。それは何故かと言えば、すぐ隣に黒百合の魔法使いの弟子が居るせいだろう。せっかくの王都の観光だと言うのに、どうしてこんなのと二人きりなのか。少年の表情には、そんな不満がありありと浮かび上がっていた。

 

「すまないが、私はこのBA……この女とじっくり話し合いをする必要が出来た。お前はその間、彼女に王都を案内してもらって来ると良い」

 

 そんな言葉と共に、師匠は黒百合の魔法使いのお屋敷に残った。今頃は久々の直接対決で、壮絶な舌戦を繰り広げているに違いない。師匠にとって、その戦いは何よりも譲れない宿命なのだろうから。そこまでは良い。

 だが、その街を案内すると言うのが、金髪巨乳の黒百合の弟子と言うのはいかがなものだろうか。

 

 確かに、今回少年と師匠が短時間で楽に王都に来られたのは、黒百合の弟子が普段使っている転送の魔具を使わせてもらったのが大きな要因だろう。そして、その流れで自然に魔法使いの娘にも、師匠が観光を持ちかけたのも分かる。でも、二人きりにさせられるなんて聞いてませんよシッショー!! 招待した張本人がゲストをほっぽり出すなんて、こんなの普通じゃ考えられない!

 幾ら内心で嘆いたところで、少年の苦悩を察してくれる人は此処には居なかった。

 

 はてさて、嘆いてばかりでは状況は変わらない。今はこの現状を打破するべく、情報の再確認をしておくべきであろう。

 今現在二人が歩いているのは王都の北部にある富裕層の多く住む地域、いわゆる貴族街と呼ばれる区画であった。街並み一つとっても、以前に観光した人でごった返すメインストリートとは空気が違う。小型の馬車が時折通る以外には、人影もまばらな静かな時間が流れている。

 周囲に立ち並ぶ建物も芸術性の高い建築様式で統一されており、まるで北欧の古都を思わせる名所旧跡な景色であった。目的も無く散策するだけでも、価値のある街並みと言って間違いはないだろう。

 こんな趣のある場所を、師匠と共に巡れないのがひたすらに悔やまれる。

 

「不本意なのが自分だけとは、ゆめゆめ思わないでいただきたいですわね。まったく、どうして私が貴方なんかと一緒に……」

 

 今の状況を憂いているのは少年だけではない。不満げな言葉と表情で訴えかけてくるのは、当然魔法使いの娘であった。

 彼女は今、普段の様な痴女ギリギリアウトな衣裳では無く、仕立ての良い白地に赤のラインで飾られた学校指定の制服を身に着けていた。胸元はリボンタイで飾って優美さがあり、膝までのスカート丈と清楚さも忘れてはいない。今日は何時ものティアラの代わりに青いカチューシャを付けていて、なるほどこの姿ならばしっかりとしたお嬢様にしか見えないだろう。

 

「はー? 不本意な事は不本意なんですぅー。何を言われようと、師匠が隣に居ないならやる気が出て来ないってだけなんですわ。はー、やってられませんわまったくぅ」

「くぬぅっ! 相も変わらずこまっしゃくれた事ばかりを……っ! せっかくこの私が街を案内して差し上げていると言うのに、少しは素直に感謝して年相応に可愛げの一つでも見せたらいかがですの!?」

 

 少年のふてぶてしい態度に対して、瞬間的に沸騰した魔法使いの娘が噛み付いてく何時もの構図。しかして、今居る場所は荘厳な街並みの静寂な街である。直ぐに我に返って、気恥ずかしさを誤魔化す為にコホンと咳を一つ。

 そんな魔法使いの娘の失態を、プゲラっと嘲笑う少年。街中で騒ぐ訳にはいかないので、キィーッと歯噛みする魔法使いの娘。

 

「そんなに……、そんなに私の事が嫌いなら無理して付き合わなくても結構ですのに……」

 

 悔しいやら疲れるやらでいつしか眦には涙が浮かび、殆ど泣く寸前の表情で魔法使いの娘は悪態をついてしまう。尊敬する恩師と一緒に来られなかったのが残念なのは分かるが、だからと言ってそんなにも不機嫌にならなくてもいいではないか。せっかく普段とは違う格好もしていると言うのに、この少年は何処まで自分が気に入らないと言うのだろう。魔法使いの娘は理由の分からない寂寥感に苛まれてしまっていた。

 

「ああ? なに言ってんだオメー。誰もお前の事を嫌いだなんて一言も言ってないだろうが。俺は純粋に、師匠が居ない事が不満なだけなんだっつーの。勘違いして泣きそうになってんじゃねぇよ、せっかく可愛い制服着て着飾ってんだからよぉ」

 

 それに対しての少年の反応は、実に淡白な物であった。まったくいつもと変わらない態度で、魔法使いの娘の顔を真正面から見ながらぶっきらぼうに言い放つ。そう、少年は魔法使いの娘と話す時は、絶対に顔以外を見ようとはしないのだ。

 

 魔法使いの娘――黒百合の魔法使いの孫であり弟子である所の彼女は、自身の胸が他の同年代よりも豊かな事を自覚していた。だからこそ、世の男性がその年齢に問わず自身の胸に視線を向ける事を、否応無しに意識させられて生きてきたのだ。まるで、自分の価値はそこにしか無いかのように。それが彼女には、堪らなく度し難い物に思えていた。

 

 そんな自身のコンプレックスの塊を、少年は頑ななまでに眼中に入れようとはしない。話す時も戦う時も、馬鹿にする時すらも、真正面から彼女自身にぶつかって来る。それは、彼女にとって、初めて自分を見てもらえた様な救いに感じられたのだった。

 

「なっ、なっ、何を……。恥ずかしい事をこんな公衆の面前で……」

「はっきり言って俺は、お前みたいな女は好きだぞ。妙に正義感ぶって正面からぶつかって来るし、何回やり込められても喰らい付いて来る根性もあるしな。勝負してるとこっちもいろいろ得る物があるし、何よりお嬢様だからって甘えたりしない所も良い。ああ、ライバルとしては最高だよ、お前」

 

 少年の口撃は止まらない。それは少年の胸の内の、素直な吐露に他ならなかった。そう、好きの反対は嫌いではなく無関心。少年にとっては、ごく一部を除けば魔法使いの娘は互いに高め合える存在なのだ。巨乳以外は!

 そんな気持ちを言葉で伝えられた魔法使いの娘は、もう首筋から耳の先まで真っ赤っか。その無駄に大きな胸の奥では、乙女なハートがドッキドキで張り裂けそうです。チョロすぎやしませんかこの子。

 

「にゃ、にゃにを言って……。そんな、そんな事言われても困りますわ……。それに私たちは歳だって離れて……」

「あん? 歳とかは別に関係ないだろ。こう言うのは、相手をどう思っているかが大事なんだよ。気持ちの問題だ、気持ちの」

 

 少年の追撃で魔法使いの娘の頭からは湯気が出そうだ。そして、少年は今の発言を全くの素で言っている。心の底から、友人としては気に入っている事を真摯に伝えているのだ。金髪の子可哀想。

 何が悪いかと言えば、少年がロリコンで貧乳派なのがすべて悪い。あと巨乳。少年的にはB以上はギルティライン。ここは譲れません。

 

「つーか、そろそろ行こうぜ。何時までも天下の往来で、ぐだぐだ言い合ってても不毛だしな。しょーがねーから、今日はおめーに付き合ってやらぁ。確か美術館に連れて行ってくれるんだろう? この世界の芸術とかめっちゃ興味あるから、抉り込むような解説付きでよろしく頼むわ」

 

 勝手な事を言いつつも、エスコートのつもりか手を差し出して来る少年。色々言い合ってスッキリしたのか、その顔にはニッカリと挑戦的な笑みが浮かんでいた。そこだけは、確かに年相応な無邪気な笑顔である。

 それに対して、魔法使いの娘がささやかな抵抗は、手を取りつつも一言言い返しやるのが精一杯だった。

 

「あれだけ不貞腐れていたくせに、今度はさっさと案内しろだなんて身勝手すぎますわ」

「ハッ! 初対面でいきなりタイマンし掛けに来た、オメーにだけは言われとうないわ」

 

 お互いに憎まれ口を言い合って、結局その日は一日美術鑑賞で過ごす事となった。この二人は何だかんだと言っても、性格の相性はいいのかも知れない。喧嘩する程なんとやらである。

 あと、師匠同士の口喧嘩は結局、屋敷を半壊させるだけで何とか収まりました。平和って素晴らしいね!

 




魔法使いの娘との個別エピソードはこれで最後の予定です。
次回の話はちょっと自分でもニッチだと思う内容なので、あまり期待はしないでください。

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