【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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これにて一応の完結です。
最終話なんで書きたい事をめっちゃ詰め込んでみました。
どうぞ最後までごゆるりとお楽しみください。


最終話

 ああ、これは死ぬわ。少年は長い間の研究の結果として、自身の避け得ない死を悟った。

 

 錬金術とは発想さえあれば大体の物を作り出せる非常にご都合主義的な技術である。その分魔力や素材を求められるのではあるが、工面できるのであれば相応の物は作れると言う事だ。

 そして少年は、知的好奇心の導くままに前世の記憶にある道具や、前世にも無かったような奇抜な物を作るのに夢中になって行った。そして、その興味は自らの不可思議な体にも当然向けられる事となる。

 

「なんとまあ、興味本位で調べてみたけど、ファンタジー世界でもそうそうご都合主義は無いって事か」

 

 少年は自らの体を調べ、回復薬や栄養剤と言った物の作用を調べる事に成功したのだ。電子顕微鏡や遠心分離機のもどきを作りだして、前世で聞きかじった程度の知識を活用して導き出した答え。それは、錬金術師の薬は万能の霊薬などでは決してないと言う事だった。

 

「回復薬や回復魔法は要するに、治癒能力の前借りみたいなもんなんですね。無から有は作れない。無いならある所から持って来る。ま、少し考えれば当たり前の事だったんですけどね」

 

 傷を一瞬で治療すると言う事は、その分肉体のリソースを消耗すると言う事。そして少年は、生まれた時から異常なほどの回復力と成長速度を持っていた。正確には、師匠に拾われてから、だ。

 師匠は少年に様々な薬品を与えて来た。霊薬と言われる様な物から、毒としか思えないものまで様々に。そして、それは今も続いている。

 

「最近は毒の方が多いのかな。まるで、俺の体質を打ち消そうとするかのような、そんな薬ばっかり飲まされていますよね。ねえ、師匠」

「気が付いていたのか……。いや、気が付いてしかるべきか。お前もまた、錬金術師なのだからな」

 

 そして、少年は調べた結果を全て己が師に話していた。師匠のアトリエで、何時もする授業の如く向かい合い、椅子に座る小さな師匠向けて少年は真剣なまなざしを向けている。対する師匠は、フードを目深に被り目元を隠しながら唇をヘラリと歪ませた。

 

「そうだ、私の与えた薬によってお前には異常な体質が身に付いた。その体質は私が思っていたよりも優秀でな、毒薬や電撃で効果を尽くさせようとしても無駄に終わったよ。どうも、お前の体自体が薬を生み出す様に変化しているようだな。ははっ、実に優秀な臨床実験が出来たと言う物だ」

 

 そう、師匠は笑っていた。薬の優秀さを熱弁し、自身がしでかした事だと言うのを自慢げに語る。それではまるで、少年を実験動物の様に扱っていたと言わんばかりではないか。

 

「私を恨むか? 当然だろうな、私はそれだけの事をしたのだからな。知っているか? 私はな、お前を拾った時に使えそうだと思ったんだ。親も居ない、何れから来たとも知れない孤児を、ていの良い実験材料に使えるとな。はははっ! どうした、少しは怒って見せろ。自分の体をいじくり回されたんだぞ?」

「師匠……」

 

 少年が立ち上がり、己が師に向けて手を差し伸べる。師匠は一瞬だけビクッと身を竦ませ、しかしすぐにまた牙を剥く様な笑みを口元に浮かべた。少年を挑発するかのように、小さな体で不敵に哂うのだ。

 そんな嘲りの笑みに向けて手を伸ばし、少年は震える師匠の頬にそっと手を添えた。

 

「師匠って、嘘が超下手ですよね。なに悪役ぶってんですか、可愛いだけなんで逆効果ですよ」

「なっ!? う、嘘じゃない。私は本当にお前を使って実験をしてたんだ! あっ、こら、フードを脱がすな! やめ、顔を見るな! ……見る、な。おねがい、見ないで……」

 

 抵抗する師匠に逆らって、少年は白いローブのフードを脱がせてしまう。そして、師匠の両肩を掴みながら、真正面から視線を合わせその顔を覗き込んだ。

 師匠は顔を反らしてはいたが、眦から大粒の涙が零れ落ちているのが良く見えた。

 

「私の……、私のせいなんだよ? 私のせいでアナタの体は、特異体質になってしまったの。それなのに、どうして何も言わないの……? 私が憎くならないの? どうして? ねえっ!?」

「そうですね。この成長速度……、というか加齢速度と細胞の増殖限界から言えば、三十まで生きられるかどうかって感じですかね。確かに、死ぬのは怖いし、嫌だと思いますよ。だって、師匠の傍に居られなくなっちゃうじゃないですか」

 

 少年の指が師匠の頬に伝う涙を掬い上げる。そして、少年は自然と微笑みを浮かべていた。憎しみも怒りも無い、ただ喜びを伝える為だけの微笑みを。

 

「確かに、勝手に寿命を減らして行くような能力ですけど。でも、師匠がくれた物ですから。たとえそれが死に至る病でも、俺は受け入れるし嬉しいと思います」

 

 きっとそれは、狂気と言う名前の感情だろう。己が命を苛まれて喜ぶなど狂気の沙汰だ。だが、少年は確かに恋に狂っていた。狂気に突き動かされて、少年は隠し事という枷を解き放って行く。

 

「実はですね師匠、俺って前世の記憶がそっくりそのまま残っているんですよ。前世の二十七年間の思い出と、この世界での師匠との生活の思い出が俺の中にはあるんです。実質、俺はもう三十歳超えてるみたいなもんなんですよ」

「なっ!? 前世って、いきなり何を……」

 

 本当に唐突だ。常であれば正気を疑われる言動だろう。だが、今の少年は最初から狂っている。狂っているからこそ、狂った事が正常な反応として表に出るのだ。

 なによりも、本題はそんな所にはない。

 

「まあ、そんなどうでも良い事は置いといてですね」

「ど、どうでも良い事!? アナタにとって前世ってどうでも良い事なの!?」

 

 はい、まったくもって端折るぐらいにはどうでも良い事です。前世からの転生云々なんてのは、少年にとっては何の価値も無く重要な事ではない。大事なのは、転生先で師匠に出会ったと言う事実だけだ。

 

「前世の時間も含めて、俺は師匠に出会った数年間が一番幸せなんですよ。貴女に出会った事が、俺の幸せの全てなんです。それは絶対に絶対です。断言しますよ、俺は貴女に会う為に生まれて来たんです。だから……」

 

 そこで少年は一度言葉を区切り、そっと師匠の体を抱き寄せた。頬と頬が触れ合う距離で、少年は本当に幸せそうに眼を閉じて言葉を紡ぐ。

 

「だから俺は、今とっても幸せです。貴女に会えて良かった。貴女だからこそ、俺は良かったって思えるんですよ。俺を拾ってくれて、本当にありがとうございます。その恩に比べたら、寿命が減ったぐらいじゃ何とも思いませんよ」

「そんな……、悟ったみたいなことを言うなぁ……。馬鹿だよ、馬鹿、ばかぁ……」

 

 師匠は少年の言葉を聞くと、更にぽろぽろと涙を零して縋り付いて来た。背中に手を回してぎゅっと抱き留めて、しゃくりあげる背中を優しく擦る。まるで幼子をあやす様に。愛しさを込めて。

 

「ごめん……。ごめんね……。ごめんなさい……。うあ……、うあああ……」

「うん……。うん……。解ってます……。解ってますよ、師匠……」

 

 椅子に座ったままの師匠が縋り付いて来るので、自然のとその頭は少年の胸元に押し付けられる事になる。少年は師匠の緑がかった銀髪に頬を寄せながら、彼女が落ち着くまで辛抱強く待ち続けた。

 そして、落ち付いて来た頃を見計らって、再び少年は掌を師匠の頬に添える。ビクッとまた体を震わせた師匠が少年の顔を見つめ、二人の視線が絡み合った。

 

「師匠……、俺の残りの人生、全部師匠にあげます。だから、ずっとそばに居させてください」

「あ…………、それって……」

 

 少年の言葉に、涙に濡れていた師匠の瞳が大きく開かれ、ボッと頬が首筋まで朱に染まる。両頬に添えた手で硬直する師匠を軽く上向かせると、少年はそのままゆっくりと顔を近づけて行く。

 ぎゅっと師匠が目を閉じて、そして二人の距離が限り無く零へと近づいて――

 

「やっぱりだめえええええええええええ!!」

「うぎゃああああああああああああああ!!」

 

 紫電一閃。少年の体にズドンと慣れた電撃が走り抜けた。毎度おなじみの雷の魔具の両手同時の大放電、名付けて師匠コレダーである。少年を黒焦げにした挙句、思いっきり突き飛ばした師匠は、顔を真っ赤にしながら両手をブンブン振り回して訴えた。

 

「そ、そう言うのは駄目よ! そう言うのはちゃんと、ちゃんとしてからじゃないと! こここ、婚前交渉とかは駄目なの!」

「おごごごご……、もうちょっとだったのに……。そりゃあないっすよ、シッショー!!」

 

 悲しきかな長い喪女人生が、師匠をとことんまで奥手に、初心にさせてしまったという悲劇。この分厚い障壁は、ちょっとやそっとの事では突き崩せない鉄壁の牙城なのである。そう、正に師匠の胸の絶壁の様に!

 

「うおー、もう我慢できんです! 告白なんておねーちゃんの目の黒いうちはさせないですよ! 例えお師匠さん相手だとしても、乙女には引くに引けない時というのがあるんです!」

「ああもう、姉さんったら……。僕は別に二号さんでも三号さんでも良いんだけどな。でもまあ、どうせなら強気に攻めてみるのも面白そうだよね?」

 

 そして、唐突に乱入して来る違法ロリ幼馴染姉妹。お前ら何時から侵入していたんだ、もうプライバシーとかこの家には存在しないのか嘆かわしい。というか、ここまで隠れて聞いていたなら、もうちょっと見逃しておいてほしいと少年は切に思った。

 

「オーッホッホッホッ! 我がライバルながら実に情けない姿ですわねぇ! それに、まだ治らないと決まったわけでも無いのに、諦めると言うのは早計に過ぎますわよ!」

 

 お前も来たのか金髪巨乳魔法使い! 相変わらずの奇抜なファッションで、無駄な胸を無駄に放り出しやがって。少年は露骨に顔を顰めて、チッと舌打ちして見せる。

 しかし、今の発言はどういう意味なのだろうか。少年が訝しんでいると、更に部屋の中に来客がありました。

 

「おーう、今度はこっちから来てやったぞ、鈴蘭の! おいおい、何だ泣いておるのか? 虚勢ばっかり張ってる所は変わらんようだなぁ、がっはっはっは!」

「あらあら、これは面白い所に出くわしたようですわね。珍しい生き物の捕獲の依頼を持って来たのですが、それ以上に珍しい物を見る事が出来ましたわ。おーっほほほほ!」

 

 王兄殿と黒百合の魔法使いさんもご登場。部屋の中の貴族度がうなぎのぼりだ、なんだこれ。っていうか、王族が気軽に遊びに来ていいのだろうか。そんな少年の疑問は、もちろんの事黙殺されました。

 

「っ!? そうか、不死鳥の素材があれば……。それならば目途はつくかもしれんな」

「おう、お前さんが以前から悩んでいたからな。今一度、余たちのパーティの復活と行こうではないか!」

「不本意ですが、貴女には借りもありますからね。その代り、作った薬は私の方にも少し融通してもらいますから、そのつもりで」

 

 なんと師匠が乙女モードから、フードを被り直して仕事モードになっていらっしゃる。立ち直りがはやーい! せっかくの愛の告白の場面が、あーもう滅茶苦茶だよ!

 そんな感じで、てんやわんやの少年と師匠の日常は、まだまだ続いて行くようです。

 

 その後。師匠の暮らす国には、とあるおとぎ話が流行った。その内容はこうである。

 

 昔々ある国に、鈴蘭の錬金術師と言う高名な賢者が暮らしておりました。

 彼女は長い寿命と幼い容姿をもって生まれ、その為に迫害されてずっと一人ぼっちで孤独に暮らしていました。完全な人嫌いになった彼女は、様々な功績を立てたと言うのに小さな村に引き籠って自堕落な隠遁生活です。

 

 そんなある日、彼女は一人の子供を拾います。その子はあっと言う間にすくすくと成長し、鈴蘭の錬金術師の弟子となりました。そして、それはそれは幸せそうに、大好きな師匠と一緒に面白おかしい日常を過ごします。

 その弟子は妙に聡い子供であり、あらかじめ理を悟っている様な言動をする奇妙な性格をしていました。それゆえか、彼は悟りの錬金術師と呼ばれ、めきめきと錬金術の腕を上げて行きます。

 弟子の作り出した数々の薬品や魔具は、師匠や周囲の人間を時に助け時に大いに困らせました。でも、師匠も弟子もそんな生活が楽しくて嬉しくて幸せだったのです。

 

 ですが、ある時その弟子が長く生きられない事が分かると、師匠は弟子と仲間を連れて伝説の素材を求めて旅に出てしまいました。全ては、大事な弟子を生きながらえさせる為の、不老長寿の薬を作り出す為に。

 伝説の素材を持つ不死鳥を探す旅は、偉大な師匠をしても困難を極めました。師匠や弟子やその仲間達は、あまりの困難な道行きに疲弊して行きます。そしてある時からぷっつりと、歴史の舞台から姿を消してしまうのでした。

 

 人々は噂しました。不死鳥を見付ける前に力尽きてしまったのではないか。はたまた、不老長寿の薬を作り出した為に国家レベルで隠匿されたのではないか。その当時の世論は、様々なゴシップや陰謀論で加熱したそうです。

 

 はたして師匠は、その薬を完成させる事ができたのか。そして、弟子は生きながらえる事が出来たのか。それは、本人達しか知らない昔々の出来事なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……。

 

「師匠、師匠? 起きてくださいよ師匠!」

「……ん。なんだ、お前か……」

 

 自らの弟子に揺り起こされて、師匠は微睡みの世界から帰って来た。声の方に視線を向ければ、すぐ目の前に黒いローブを纏う黒髪の少女が見える。師匠は机に突っ伏していた状態から体を起こし、伸びをしながら大きく欠伸を一つ零した。

 

「ふわぁ……。ずいぶん懐かしい夢を見たよ……。お前が生まれる前の夢だ。アトリエで眠ったせいかもしれんな」

「もう、夢の話は良いですよ。それよりも早く起きてくれないと、せっかくの朝食が冷めてしまいます」

 

 昔を懐かしんで目を細める師匠は、その弟子にぐいぐいと無遠慮に引っ張られる。まるで孫に催促される様な光景だが、引っ張られているのは引っ張る方とそう変わらないぐらいの少女であった。

 

「おいおい、そんなに急がなくても朝食は逃げんだろう。髪位は整えさせてほしいんだが……」

「そうじゃありません、急がないとお兄様が起こしに来てしまうじゃないですか。……あっ!?」

 

 椅子から無理やり立たされた師匠がぐずるが、弟子の少女は更に焦って急かそうとして来る。だが、そんな少女の焦りも虚しく、危惧していた人物がアトリエに入ってきてしまった。

 

「ひゃっほーう! 師匠、今日も相変わらず可愛らしーい! 朝食の用意はとっくにできてますんで、まずはお目覚めのキッスを……――アバァッ! アババババババッ!! 愛が痺れるぅ!!」

「ああ、遅かった……。もう、二人ともいい加減にしてください!!」

 

 飛び掛かる兄弟子、飛び散る紫電、呆れ返るは妹弟子。

 今日も、弟子君と師匠は元気です。

 

 

 おわりじゃないけどおわり。




はい、一応の最終話でございました。
一応と言うのは、この作品は日常物なのでやろうと思えばサザエさんみたいに続けられるからですね。
またネタが浮かんだらちまちまと話数を増やすかもしれません。
ですが、とりあえず毎日投稿するのはこれまでと言う事で、一応の完結と相成りました。

ここまで感想や評価で応援して下さった皆様、感謝してもし足りない程感謝感激しております。
凄く励まされましたし、凄く嬉しかったです。誤字の指摘も大変助かっておりました。

私の書いた師匠や弟子君達は可愛かったでしょうか?
この話も気に入って頂ければ幸いです。

では最後に一言。
こんな小説にホイホイされちゃって、このロリコンどもめ!!
ありがとうございました!!

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