【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ 作:ネイムレス
最終話に出番の無かった二人のお話です。
突然だが、少年は縛られていた。師匠の家の花壇のある庭の程中で、植物の蔦の様な物に絡まれて立ち往生しているのだ。
「い、痛い。どうして俺こんな事になっているんですか? SMプレイはちょっと、事務所的にNGなんですけど? あ、痛い痛いイタタタタタ!」
少年は地面から生えて来た蔦に縫い止められて、身動きどころか鼻の頭を掻く事すらできない。雁字搦めになった体に、みっちりと蔦が食い込んで痛いのなんのって泣く程です。えーんえーん。
そして、そんな事をしでかしているのは、少年が品種改良して作り上げたアルラウネの植物少女である。キシャーってなばかりに、敵意をむき出しにして何だか怒っている様子でございました。
「どうしてだ!? 僕達が争い合う必要性なんて皆無じゃないか! それがまるで出番を忘れられた事に激怒するかのようなこの仕打ち、いかがなものかと思いますね! アウチ! まって、蔓の鞭はやめて! アヒィ、何かに目覚めちゃうからぁ!!」
ヨツンヴァイではりつけにされた少年のケツ目がけて、バッチンバッチン蔓がしなって少年に襲い掛かる。ああ、だが鋭い痛みの後にやってくる、この不思議な感覚は何だろうか。じんわりと広がる甘い感覚に、ポッと少年の頬が桜色に染まるのであった。
このままじゃ、幼馴染姉妹の妹の方みたいになっちゃう! なお、妹の方はこの所の風評被害につきましては、大変遺憾であるとの意志を示しております。
「一体何をしていらっしゃるんですか……。こんな日も高いうちから……」
「『復讐のアルラウネ <忘れ去られた植物少女の大逆襲>』ゴッコ」
「何て言うかもう、突飛過ぎてツッコミが追い付きませんね……」
不意に掛けられた声に反応して、少年は顔を真顔に戻してあっさりと白状する。先程まで鞭を振るっていた植物少女も、少年の言葉に賛同するかのようにコクコクと頷いていた。それと同時に拘束していた体もあっさりと解放して、絡み付いていた蔦はシュルシュルと植物少女の体に収まってしまう。なんと言う事は無い、要するに暇つぶしをしていたのである。
さて、そんな爛れた遊びをしていた少年と植物少女に声を掛けて来たのは、だれあろう普段は教会から離れない仮面司祭であった。今日も特徴的な六椀が、逞しくカソックを盛り上げている。今はまだ貧弱一般人なボーヤに過ぎない少年にとっては、その逞しさは憧れてしまう物があった。筋肉、筋肉~!
はてさて、そんな仮面司祭が一体全体、どうして師匠の家まで来たと言うのだろうか。解らない事は聞いてみるのが吉であろう。
「実はですね、祭りに使う予定の花達の収穫を無事に終える事が出来まして。その報告をと思い、こちらに足を運んだ次第です。幾日もの間のご協力、本当にありがとうございました」
そう言ってぺこりと仮面を被った頭を下げて来る司祭。でっかい体なのに、とても丁寧で落ち着きのあるこの仮面司祭は、その性格ゆえかとても遠慮がちなのである。収獲も言ってくれれば手伝ったのにと、少年はいささか水臭く感じたのであった。
一つ補足すると、収穫された花達は収納用の魔具に入れられて祭りの当日まで保存されるらしい。魔法のある世界は、えてして前世の世界よりも便利だったりするのが面白い所だ。
「礼は俺よりも、おねーちゃんに言ってやってほしいな。一から十まで、あの花壇の作成と世話に尽力したのはあっちの方なんだからさ。俺は手伝っただけじゃんよ」
「ええ、彼女にはもう既に、お礼は言って来てあるんですよ。彼女もまた、貴方の方こそ礼を言われるべきだとおっしゃっていました。お二人はどうやら、色々な意味で仲良しなのですね。いやー、お熱いことで! カーッカッカッカッ!」
少年が、自分は大した事はしていないと言えば、例の奇妙な笑い方で仮面司祭は豪快に笑う。幼馴染同士で似たようなことを言っているとは、何とも面はゆい物だ。
「おっと、愉快になって忘れてしまう所でした。実は報告のほかに、折り入ってご相談したい事がありまして……」
そして漸く話は本題に入る。ここまで長い回り道をしたものだ。いつも苦労をおかけしています。
仮面司祭の相談事と言うのは、他でもない収獲が終わった後の花壇についての事であった。せっかく立派に作り上げた花壇を再利用すべく、新たに家庭菜園として活用しようとしたところまでは良かったのだが。そこで一つ問題が起きてしまったのだと言う。
「はあ、害鳥被害ねぇ。それを何とかする道具か薬が欲しいわけだ」
「はい、植えたばかりの苗木だと言うのに狙われてしまって。とは言え、あくまでも聖職の身で無益な殺生をする訳にも行かず、何とかお知恵を拝借したい所なのですが……」
頼られるのは嬉しいのだが、少年は思わずうーんと唸ってしまった。確かに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している少年ではあるが、ハイわかりましたと太鼓判を押せるような実力はまだまだ実ってはいないのが現状だ。そんな、青い狸型ロボットでもあるまいし、ポンポンと都合の良い道具が出る訳では無いのである。
と、そんな二人の相談事を他所に、植物少女は我関せずと空を眺めていた。そして、頭上を通りかかった小鳥目がけて、蔓の鞭をシュパっと伸ばして捕まえてしまう。後に残るのは数枚の散った羽毛と、笑顔でモグモグと口を動かす植物少女ばかりなり。
それを見た少年と仮面の司祭は、顔を見合わせてうんと同時に頷き合う。
「道具は無いけど、良い用心棒なら知ってるよ。知り立てほやほやのお得情報さ。多分、下手な魔具に頼るよりも効果的だと思われます。お買い得ですよ?」
「確かに無益な殺生ではないようですね。しかし、彼女を村の中で雇うと言うのは、色々と問題がありそうなのですが」
植物少女を花壇の守り手として雇うには、現状で無視できない問題が三つある。
一つは魔物が村の中を自由に行動しても良いのかと言う事だが、これに関しては少年がその安全性を保障すると言う事で保留となった。品種改良の結果、今の彼女は少年にしか興味が無い特異生物と化している。その少年が言い聞かせる事により、襲って良いのは少年だけと言う奇妙な約束が交わされているのだ。
ちなみにこれを破ると、少年による師匠仕込みの凄まじいお仕置きがあると言い含めてあるので、植物少女は義理堅く守っていた。それだからこそ、少年は心から彼女の事を送り出す事が出来ると考えていた。
だって、幼女に合法的にお仕置きできるんですよ! ヤッター!! でも、未だに破られていないのでまったくお仕置きは出来ていません! ヤダー!!
第二の問題として、彼女は鉢植えに生えているので自律移動が出来ない。師匠の家から教会までを、毎日送り迎えするのは中々に手間である。
「という訳で、こんなこともあろうかと、作っておいたのがこちらです」
「悪魔で司祭である私が言うのもなんですが、錬金術って本当に何でもありなんですね」
『あると便利』が実現するのが錬金術。都合の良い道具がポンポン出る訳が無いと言ったな。あれは嘘だ。
そんな訳で少年が取り出したのは、赤い紐で括られた白い色のホイッスルであった。一見何の変哲もないそれは、ピピーっと一つ吹き鳴らせばたちまち効果が表れる。
音に導かれ姿を現したのはマンドラゴラ達。ボコボコボコっと花壇の土を跳ね上げて、植えられていた邪悪な顔の人型人参が飛び出してくる。そして、第二の笛の音で彼らは一斉に動きだし、植物少女の植わる鉢植えをエイヤエイヤと担ぎ上げた。
これこそがこの笛の力。笛の音でマンドラゴラを操ると言う、まったく新しいオリジナリティあふれる機能なのである。何処かで見た事があるだって? キノセイジャナイカナー、シラナイナー。
「この邪悪な顔のピク――ごほんごほん、マンドラゴラ達が植木鉢を運搬してくれるのでございます。という訳で、これはお前のな。ちょっと使ってみてくれよ」
少年はそう言うと、植物少女の正面から手を回して笛を括る紐を首から掛けさせてやる。少女の方は最初こそその赤い目をぱちくりさせていたが、恐る恐る笛に触れるとそれが少年からのプレゼントだと気が付いてキャッキャッとはしゃぎ始めた。
ピッピピーっと早速口に咥えて吹き鳴らせば、笛の音に合わせてマンドラゴラ達が植木鉢ごと植物少女を運ぶ。それだけでは無く、音の強弱や音色によって整列や運搬場所の指定までこなしていた。この幼女、すでに使いこなしている。
「でまあ、後は肝心の本人のやる気なんだけど。どうかな、お前も村に馴染む為の第一歩として、教会の畑を守ってみないか?」
最後の三つ目の問題点は、植物少女自身の意思の確認であった。しかし、少年としては自分で推薦しておいてなんだが、強制する様な事はしたくは無いと思っている。だからこその確認。だからこその、しゃがみ込んで視線を合わせながらの対話であった。
それに対して、植物少女は手に持った笛と少年を交互に見つめ、暫し逡巡した後にコクリと頷いて見せる。それは、少年が育てた魔物の少女の、自分の意思での人類との歩み寄りの第一歩……。
おお、なんと言う麗しき感動の物語――などと言う事は全く無く、少年はこの後植物少女にみっちりと対価を求められた。
「激しい交渉の末にこの子の報酬は、魔力を込めながらの撫で撫でスキンシップ等を増量するって事で手打ちとなりました」
「あ、あの……教会からももちろん、日当としてお手当を出しますからね? 作物が実ったら御裾分けもしますから、その……あまり自分を安売りする様な事は……。いえ、ありがとうございますと言うべきですね。重ね重ねのご温情、非常に助かります」
ちなみに交渉は全て、言葉を介さぬボディランゲージで行われました。言葉なんてなくったって、解り合えるって素敵ですね!
結局は話を持ち掛けた仮面司祭が罪悪感で恐縮する羽目になったが、最終的には悪くない結果になったので良しとしよう。少年はそう思いつつ、手付代わりにと齧られて歯型のついた頬を擦っていた。幼女に甘噛みされるとかご褒美かな?
そんなこんなで、植物少女は畑の護衛の為に定期的に教会へ通う事となった。師匠の家の庭しか知らない彼女の世界が、これによって広がる事を少年は非常に良い事だと思う。見識が広がれば、それだけ成長の度合いが広がると言う物である。知識欲に貪欲な少年にとっては、羨ましくも思える境遇なのだ。
未知なる世界が既知になる。ああ、それは素晴らしい事に違いない。
なお、行動範囲が広がった植物少女が村の中で様々な悪戯をするようになって、その責任が全て少年に向かって来る事になるのだが、それはまた別のお話である。
今はただ、自分の育てた娘を見守る父の様な心づもりで、少年はうんうんと感慨深く頷くのであった。
実は最終話に二人が出て来なかったのは教会に行っていたからなんですよ!!
って言う事になりました!!
ちょっと書くのに時間を掛けたために中身が不安定になりましたが、楽しんでいただければ幸いです。