【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ 作:ネイムレス
本日の夕食は、ミルクタップリのゴロゴロ野菜のシチューと焼きたての種なしパン。ミルクから作った発酵バターがどちらにもふんだんに使われて、香ばしさで食べる前から思わずにっこりしてしまいます。
「ああ、良い匂い……。今日もずいぶん手の込んだ物を作ったのね。アナタが料理番になってから、毎日の食事が楽しみになってしまったわ」
「光栄です師匠。結婚し――いえ、何でもありません」
勢いでプロポーズしようとしてやっぱりできなかった元童貞(現童貞)。ゲーム位でしか女を口説いた事の無い奴が、いきなり女性に求婚とか出来るわけないだろいい加減にしろ! 少年は心の中で血涙を流した。
「さ、早く食べましょう。アナタも早く、座って座って」
「はいはい、後はパンを置くだけですから少々お待ちを」
仕事の時は少々固い言葉遣いをする師匠だが、今はもう目の前の湯気を立てるシチューに夢中で完全にオフモード。口調も柔らかく、表情も外見相応でキラキラ輝いている様だ。油断すると少年は、胸中の思いが漏れ出してしまいそうになる。思いと書いてパトスと読む。
「可愛い。結婚しよ」
「うん?」
「いえ、何でもありません! さ、食べましょう食べましょう、そうしましょう師匠ねぇ!」
「ふふっ、おかしな子ね。まあいいわ、いただきましょう?」
いただきますと二人で声を合わせて、そして淑やかに夕餉の団欒が始まった。基本的に二人とも食事中は言葉を発しないのだが、きちんと良く噛み飲み込んでから料理の味についての意見を交換したりはする。不満がある時はきちんと言ってくれるし、美味しい時は手放しに誉めてくれるのだ。だからこそ作り甲斐があると言う物で、少年は誉められたいが為に一層張り切り師匠を喜ばせている。つまりカワイイは正義。間違いないね。
「うん、今日もおいしい……。アナタの作るシチューは、毎回色が変わって目にも楽しいわね」
「ありがとうございます。これからも師匠の為に頑張りますね」
ちなみに師匠が作ると何時でも真っ黒になります。焦げるのもあるのだが、師匠は独特な素材も平気で入れてしまうので厄介極まりない。料理もまた錬金術の筈なのだが、人には得手不得手と言う物があるのだろう。
少年としても黒焼きになったトカゲが丸のまま入ったシチューとかはご遠慮したいので、料理を任されるのはそれはもう大本望であった。むしろもう、べた惚れの女の子の生活を支えられるとかお金払いたいぐらいですね。
料理をしっかりと食べ終えて、使った食器を流し台でぬるま湯に浸ければ、その後はまったりとした食後のティータイム。師匠の家に通ってくれているハウスキーパーのおばちゃんから分けて頂いた茶葉を使い、鍋で砂糖とミルクと一緒に煮出して琥珀色の濃厚なお茶を作る。チャイに似ているが生姜は入れないのでまた違う物の様だ。
「師匠? なんだか嬉しそうですけど、どうかしましたか?」
「ふふふ、大した事ではないのだけれどね。ええ、少し昔を思い出していたの。アナタを拾って、色々としてあげたなぁって……」
湯気を立てる琥珀啜り、ほうっと艶のある溜息を一つ。そんな師匠に見とれていたら、少年は彼女が遠い目をしながら微笑みを浮かべている事に気が付いた。今は仕事中と違ってローブのフードを被っていないので、その愛らしい表情がとてもよく分かるのだ。
そして、その事を素直に訊ねてみれば、ああなる程と少年は納得の感情を浮かべる。確かに、色々と『してもらった』記憶が彼にはあるからだ。
「数年前は小毬のようだったのに、今ではこんなに大きくなってくれて……。それだけでもとっても嬉しいの。やっぱり世界樹の種のエキスから作った栄養剤を毎日飲ませたからかしらね」
おかげさまで通常の三倍の速度で成長しました。というか、流石は師匠。乳幼児にミルクよりも早くそんな物を飲ませていたとは、驚きを通り越して妙に納得させられます。本当に生活力無いんだなぁ、って。
「病気もしない様にエリキシルも飲ませたし、粉末にした龍の心臓とか一角獣の角とかも飲ませたし……。うん、やっぱりあれは間違っていなかったのね」
少年の体が異常に頑丈になったのは、きっとそのせいで間違いないでしょうね。オートリジェネとかも付いていると思います。包丁で指切ったと思ったら、軽く出血しただけで何処が傷口か解らなくなると言う珍妙な現象も起きました。
「血中に今も効能が残っていると言う事か……。いや、しかし排出もされているだろうから常在効果と言うのも……」
それまでにこやかにしていた師匠が何やら思案を始め、ブツブツと呟きながら少しずつ口調が変わっていく。あ、これは半分仕事モードに入ってますね。こうなると長いんですこの師匠。
ほっとくと朝方まで研究を続けてしまうので、程々で止めて差し上げるのが内助の功。少年はお茶のお代わりを進め、返事を聞く前に空になったティーカップにお茶を注いで差し上げた。
「ん……。ああ、ごめんなさい。ついつい物思いに耽ってしまったわね。アナタと話していたのに、私の悪い癖ね」
「いえいえ、仕事に熱中する師匠を見るのも好きですから。でも、あまり夜更かしもして欲しくないですし、程々にしておいてくださいね」
少年の指摘に師匠は両手でカップを抱えて、少し恥ずかし気に頬を染める。可愛い。可愛くない? 少年は素直に可愛いと思ったので、じーっとその表情を見つめてしまった。
「んっ! お風呂、お風呂にしましょう。何だか今日はお風呂に入りたい気分だから、ちょっと入って来るわね」
「はい、行ってらっしゃいませ師匠」
気恥ずかしさを誤魔化す為か、師匠が突然入浴すると言い始める。少年は素直にそれを見送るが、師匠は何を思ったのか一旦部屋の外に出てからひょいと顔だけ見せて少年を見つめて来た。
「……覗いちゃだめよ?」
師匠それは前振りなんですか。前振りなんですね。解りました。畜生可愛いからって調子に乗りやがってこのロリ。大好き愛してる。一瞬で少年の中に無数の感情が生まれ、それをおくびにも出さずに解ってますよと手を振って送り出す。
それに対して師匠は何を思ったのやら。無言のままで頭を引っ込め、スタスタと足音軽く浴室へと向かって行った。
どうやら、今夜は長い夜になりそうだ。
スキルにするなら〈自己再生〉〈状態異常無効〉〈防御力Up大〉とかがついていそう。