【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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師匠はとっても優しくて慈悲の心がある人です!


第五話

 はぁ、はぁ、はぁ。浅い呼気が何度も繰り返されて、胸中の熱さを夜の闇へと溶かして行く。焦りは禁物だとは解っているが、どうしたって緊張と期待で興奮は高まってしまうものだ。何故ならば、目指す先には約束されたユートピアが待っているのだから。

 だからこそ少年は今、師匠の家の屋根にへばりついているのだ。

 

「落ち着け、クールになれ。罠の位置は師匠に説明されて解っている。だからこそ、今必要なのは慎重な動きだ。焦らず急いで正確に……、焦らず急いで正確に……」

 

 言うは易しとは言うが、実際それを行うのは困難に等しい。錬金術師の工房は、言うなれば企業秘密の塊である。だからこそ、師匠もその例に漏れず、無数の魔具でアトリエを要塞の如く守護していた。それが今、浴室の窓へ近づこうとする少年を苛んでいるのだ。

 

 既に夜の帳も落ち切って、星灯り月明りでは足元も覚束ない。おまけに傾斜があるので足も滑りやすいし、とっかかりになる様なでっぱりも少ないと来た。これに更に罠があると言うのだから、ユートピアへの道はまさに艱難辛苦。へっ、面白くなって来やがった!

 

 少年の今の格好は何時もの普段着の上から、黒色のフード付きローブを纏っている。これは宵の闇に紛れるにも好都合ではあるが、師匠のお手製なので幾つかの機能が組み込まれているのだ。なにより、師匠と色違いでお揃いだし!

 その機能の一つ、消音の機能を発動させた。効果は、自身とその周囲の音をある程度まで押さえてくれると言う物。軽い魔力をローブに通すだけで発動できるので、これで万が一にも罠が発動しても音でバレる事はないだろう。

 

「さて、確かこの辺りにはカマイタチの罠が――」

 

 言いつつも慎重に踏み出した所で、少年の頬が浅くピッと斬られた。どうやら罠の効果圏ギリギリを踏んでしまったらしい。傷自体はもう治癒したが、傷口からこぼれた赤い一滴がまるで冷や汗の様に顎に伝った。あと一歩でもずれていれば、今頃は首無し死体の出来上がりだっただろう。流石師匠だ、殺意満点だね。

 

 覗くなら、除かれる覚悟をしろと言う事か。いや、違う! 間違っているぞ!

 

「覗いていいのは、除かれる覚悟のある奴だけだ! いくぞおおおおっ!!(小声)」

 

 そして始まる、緊張と静寂の攻防戦。時に慎重に、時に大胆に足を踏み出し罠の効果範囲を掻い潜る。思いの他どの罠も効果範囲が広く、そして一つ一つに個性があるかの様にその射程範囲に差異がある。有る時は潜る様に、ある時は身を反らして二つの罠の間を潜り抜けたりと、少年は気持ちの悪い動作で少しずつ進んで行った。

 

「くっ!? これは……」

 

 だが、少年は気が付く事が出来なかった。ギリギリに避けられる罠の範囲と、その罠の配置に作為があると言う事に。少年は知らず知らずの内に誘導させられていたのだ。

 そう、今目の前に無数に罠を配置された、ユートピアへの道を完璧に塞ぐ最終防衛ラインへと!

 

「これは罠だ!!(小声)」

 

 はい、最初から罠です。むしろこれは、覗き撃退の為の包囲陣に他ならない。

 すかさず、階下から聞こえて来る水音。ちゃぷんっと程々の体積の物が着水した音が、確かに少年の耳に聞こえて来た。この下に、居る!! だったら、する事は一つだろう? ロリコン的に考えて!

 

「へっ、罠が何だ。こんなもんにびびっちゃいねぇ。男には、負けると分かっていてもやらねばならない時がある!!(小声)」

 

 少年は飛んだ。一直線へと罠へ向かって行き、その頭上を高跳びの要領で飛び越える。限界まで速く! 高く! 例え罠が発動しても、その攻撃で自身の体が一歩でも前に進む様に祈って。

 果たして少年の体は、発動した爆発の罠で木の葉の様に吹き飛ばされた。爆音自体はローブの効果で軽減されたが、その勢いまでは流石にどうにもできない。あわや屋根から弾き出されて地面へと真っ逆さまかと思われた時、少年の必死に伸ばした手が辛うじて屋根の縁を掴んだ。掴んだ腕に尋常では無い衝撃と、反動勢いその他もろもろが一気に襲い掛かる。

 

「おごおおおおっ!? なんとぉおおおおおっ!!(小声)」

 

 勢いがなくなれば、次いで体は重力に引かれて落ち始める。縁を掴んだ腕を始点に、少年の体がグリンと弧を描きそのまま家の壁にビターンと打ち付けられた。それでも、それでも掴んだ腕は離さない。むしろ好都合ではないか。だってホラ、浴室の窓が今はこんなに近く目の前にあるのだから。

 

 ところで、入浴中に突然浴室の壁に何かがぶつかってきたら、中の人物は一体どんな行動をとるだろうか。その時の師匠は、風呂桶からバッと飛び出して、すぐに窓を開け周囲に視線を走らせました。

 

 自然、師弟の視線ががっちりと交わる。師匠は長い髪を邪魔にならない様にタオルで纏め、何時もは中々見れないうなじを晒していた。そして、それよりも更に珍しい物が首から下に有るので、少年の視線は自然にゆっくりと下に移動して行く。

 

「ていっ!」

「ぎゃあああああっ! 目が、目があああああっ!!」

 

 可愛らしい掛け声で師匠が弟子の両目に目突きをかまし、弟子は何処かで聞いた様な悲鳴を残して地面に墜落した。幸いこの家は一階平屋建てなので、墜落自体は大した事はない。だが、両手で顔を押さえていた少年は受け身も取れず、目が痛いやら頭が痛いやらでもんどりうって地面でのた打ち回る。如何に傷が再生しようとも、痛い物は痛いのでございます。

 注意、この小説には一部危険な描写がありますのでご注意ください。

 

「まったく、馬鹿弟子が。あれだけ派手に罠を発動させるから、どこぞの間者かと思って手が出てしまったではないか」

「嘘だ。絶対こっちの顔を確認してから手を出してたよ。目が合ったし。湯上り艶やか師匠カワイイヤッター……」

 

 弟子の上げる苦悶の声を聞き流し、師匠はふうと溜息を吐いて気持ちを切り替える。フードが無いけど仕事モードになりかけていたので、勤めて落ち着くための儀式であった。

 そんな間に少年の両目は回復し、急いで地面から再び浴室の窓を見上げるがその頃には師匠は体にバスタオルを巻いて防御態勢だ。チイッと心の中で少年は舌打ちする。

 

「もう、また罠を突破して覗きに来るなんて、危ないから止めなさいと何度も言ったでしょう? それに、お風呂を覗く様な悪い子に育てた覚えはありませんよ?」

 

 すいません、ドストライクな人がいたのでつい。そんな風に言えればどんなに心が楽だろうか。でも、艶やかな姿でお説教されるのもそれはそれで嬉しいので、少年は地面に正座して師匠の言葉に耳を傾けていた。

 

「今日は罰として、暫くそこで反省していなさい。そこの罠は、屋根の上と違って『仕留める用』だから命の保証はしないわよ?」

 

 わーい、地雷原で正座だ嬉しいな。少年は結局深夜近くまで、指一本動かせない極限状態の正座できっちり反省させられたのであった。深夜になったら『もう家に入りなさい』と言ってくれる辺り、師匠は優しい人だと思います。

 

 これがおおむね、師匠と弟子の騒がしい一日の終わり方であった。




この話まで一日をじっくりと書きましたが、次からは一話完結型にしたいと思います。
出来たらいいな!(願望) 出来ると良いな!(諦念)

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