【完結】異世界転生したら合法ロリの師匠に拾われた俺の勝ち組ライフ   作:ネイムレス

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時間指定投稿に初チャレンジ。
ちゃんと投下されますように。


第八話

 その日、少年は怒っていました。何故ならば……。

 

「ふんっ、こんな土臭い所にまで来たと言うのに、ずいぶんと粗末な部屋に案内してくれたものだな。流石、田舎者は貴族に対する礼節と言う物を知らんらしい」

 

 豪奢な服を更に装飾品でゴテゴテと飾った、成金でございと言った感じの品の無い男が来訪していたからである。その言動、大変不遜であり不愉快千万。要するに激おこでございますよ。

 

 この男、護衛らしき甲冑姿の配下を引き連れて唐突に馬車で乗り付けてきて、今は師匠の家の居間にあるソファーでふんぞり返っている。何しに来たのか知らんが、お茶漬けでも出してやりたい気分の少年であった。

 そんな来訪者に対して、師匠はテーブル越しに向かい合って座り、にこにこと張り付けた笑顔で丁寧に対応している。顔は笑っているが、あれは絶対に怒っている顔だ。空気で分かる。

 

「生憎と突然のご来訪でしたので、充分なおもてなしも出来ずに申し訳ございません」

「ふふっ、下賤な者に期待など初めから持ってはおらんよ。それにしてもまあ……」

 

 下手に出られたのが気に入ったのか、来訪者の成金貴族はぐふふと汚い笑みを浮かべる。そして、途中で言葉を切ったかと思えば、じろじろと無遠慮に師匠の肢体を上から下まで視線で舐め回す。おいコラ、それは俺んだと少年は心の中で主張した。

 

「噂に聞いた錬金術師が、こんな小娘だとは思わなかったがな。その成りでは端女と変わらんではないか」

 

 少年はごくりと唾を飲んだ。激怒した師匠が、この貴族の首を魔具で跳ね飛ばすのではないかと瞬間的に思ったからだ。師匠の細くしなやかな指に幾つか填められている指輪は、その全てが護身用の魔具なのである。無手に見えてもフル装備。これぞ錬金術師の真骨頂なのだ。

 

 だが、予想に反して成金貴族の首は無事。それ処か、師匠は涼しい顔で言葉を受け流して、更に花が咲くような笑みを浮かべて見せた。正直そんな奴に微笑みかけないで欲しいのだが。少年は師匠の斜め後ろに控えながらやきもきしてしまう。

 

「この姿は錬金術師の業の様な物でございます。貴方様程の方が気に掛けるには値しない些末事でしょう」

「はっ、まあ良い。それよりも貴様に一つ献上してほしい物があってな。こんな片田舎までわざわざワシが出向いたのだ」

 

 自分で話題振っといてまあ良いとか頭沸いてんのかこの金髪ハゲ。それはともかく、ようやく嫌味を言うのに飽きたのか本題に入るようだ。正直もうさっさと帰って欲しいので、話が進むのはやぶさかでは無い。これの依頼を聞くのは嫌だけど。

 

「貴様は王室に不老長寿の薬を献上したと聞いている。それに相違は無いな? ならば、このワシにもそれと同じ薬を融通してもらいたいのだ」

 

 見た目も俗物だが、その中身もだいぶ俗物らしい。不老長寿の薬とか、金持ってる奴はそう言うの大好きだな。こういう奴が詐欺健康グッズとか買っちゃうんだよ。何故か無駄に自信満々でな。

 金持ちの戯言を聞かされた師匠は、一瞬だけ目を閉じて何かを思案し、直ぐにまた笑顔になって対応を続ける。

 

「…………確かに、国宝等級のエリクシルを私は作った事があります。そしてそれを王家に献上したのも本当です。その薬と同じ物をお求めと言う事でよろしいですか?」

「何度も言わすでない。ああ、金の事は心配するな、ほれ……」

 

 あくまでも丁寧に対応する師匠に対して、成金はふてぶてしさを崩さない。それどころか背後に控えていた部下の一人に顎で指示して、持っていた幾つかの鞄をどかどかとテーブルの上に置かせた。

 少年が興味深げに鞄を見ている目の前で、甲冑姿の部下が全ての鞄を開けて見せて来る。その中にはパンパンに詰め込まれた金色の硬貨の山であった。

 

「これだけあれば足りるであろう。貴様等の様な下賤の者どもが、見た事も無い様な大金だ。ほれ、さっさと薬を持ってこんか」

 

 相変わらず偉そうに言い放ち、商談は終わったと言いたげに少年が入れてやったお茶を不味そうに啜る。あれでは飲まれる茶の方が可哀想。雑巾の絞り汁とか入れてやればよかったと少年はちょっと後悔するけど、やっぱり食べ物を粗末にしちゃいけないよねと思い直す。

 

 一方の師匠はと言うと、真贋を確かめるように金貨の一枚を手に取って軽く一瞥してから、ふっと薄く笑ってそれを直ぐに元に戻す。そうしてから、真っ直ぐに成金を見つめ返してとても良い笑顔で返答を口にした。

 

「大変申し訳ありませんが、その依頼はお断りいたします」

「そうか、では――今なんと言った?」

 

 自分の言葉が、よもや拒絶されるとは思っていなかったと言った様子の成金様。顔を真っ赤にしてわなわなと震えていらっしゃいます。ざまあ。

 そんな赤く熟した成金に、師匠は指を三本立てながら断る理由を説明し始める。

 

「まず第一に、現在私はその薬を所蔵しておりません。今直ぐ受け渡すと言うのは不可能です。第二に、私はその薬を一人の力で作ったわけではありません。あの時は、素材の採集や調合にも力を貸してくれた協力者の友人が居ましたので」

「な、ならばすぐにその者に協力を取りつけよ! このワシの依頼を断るなど、無礼千万であるぞ!」

 

 無礼の塊のような男がよくぞ言う。成金は相当頭に来たのだろう、顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら叫び声を上げている。口角泡を飛ばすとはこの事か。

 対する師匠は涼しい顔で、冷静に説明を続けて行く。

 

「第三に、依頼料が全く足りません。国宝等級の薬品であれば、せめてこの十倍は必要になります。以上の三点を理由として、私はこの依頼をお断りさせていただきます」

「きっきさ、きさまっ、貴様と言う奴は……っっっ!!!」

 

 成金に対して金が足りないと言うのは相当に効いたらしい。調子ぶっこき過ぎてた結果がこれとは実に痛快である。流石師匠だ、口撃でもまったく容赦がない。

 あわや一触即発かと思われ、少年も護衛の甲冑たちも身構えた所で、成金はハッと何かに気が付いたように声を張り上げた。

 

「そうか、解ったぞ!! 嘘なのだな! 国宝等級の薬を作り上げたなどと言う話は出鱈目だったのだな! だからこのワシの依頼をつっはねたのであろう!」

「…………まあ、私一人で作ったわけではないので、そうとも言えるかもしれませんね」

 

 口調は丁寧なままだが、師匠の表情が明らかに変わった。あれは少年が師匠の下着を狙ってタンスに手を掛けたのを見られた時と同じ表情だ。塵を見る様な眼、ありがとうございます。

 師匠の返答を聞いた成金は、勝利を得たとばかりに汚い顔に喜悦を浮かべる。涎をたらさんばかりのいやらしい笑顔であった。やっべ、目が汚れるから師匠の横顔を見て中和しなくちゃ。

 

「認めたな!? 認めおったな!? ようし、今直ぐ斬り捨ててやろうと思ったが、貴様が金輪際依頼など出来ない様にしてやるからな! 覚悟しておれよ!!」

「そうですか。それでは、お体にはお気を付けて……」

 

 そうして、成金御貴族さまは高笑いしながら、部下たちをぞろぞろひきつれて帰って行った。

 少年が塩でも撒いておきましょうかと提案したが、師匠は疲れた笑みを浮かべながら止めておきなさいと静止する。その代りにちょっとだけ動くなと言われ、少年は師匠に背中から抱きしめられた。

 額を背中に当てられて、ぎゅーっと強くひっつかれる。正直、堪りません。その役得は、十分ほど少年を悩ませることとなった。

 

 それから一週間ほど経ったころ、師匠当てに一通の手紙が届いた。

 何やら仰々しい封蝋で閉じられたその手紙を師匠に渡すと、少しだけ驚いた表情を浮かべてその中身をイソイソと取り出す。なんだなんだ恋文かと少年が訝しむが、師匠は内容に目を通すとふふっと可愛らしく微笑んだ。

 ちょっとだけジェラシーを感じてしまった少年が手紙の内容を尋ねると、師匠は嬉しそうな、それでいて困った様な複雑な表情で内容を要約してくれた。

 

「懐かしい友人からの手紙だったわ。一週間前に来たあの貴族が、流行病で亡くなったそうよ」

「え、あの成金病気だったんですか? だから不老長寿の薬とか求めたんですかね。そう言う事なら素直に言えば良かったのになぁ」

「ふふっ、アナタはそれでいいと思うわ。本当に、馬鹿な人だったわね……」

 

 嫌な奴だったが死んでしまったと聞いて残念がる少年に、師匠は薄く微笑みながらその頭を撫でる。いや、撫でようとしたが手が届かないので、少年の肩を掴んで無理矢理引きずりおろさせた。弟子の頭を胸に抱きながら改めて撫で撫で。二重の意味でご褒美です!

 

 そして師匠は、弟子が俯いてる隙にフードを被って顔を隠し、誰にも自分にしか聞こえない声で囁いた。

 

「どうやら私は、友人に恵まれているらしい……」

 

 手紙に使われた封蝋の刻印が、この国の王家の物だと言う事を少年が知るのはもっとずっと後の話である。

 




いやー、病気(意味深)は怖いなー。
皆さんも風邪などひかれませぬよう、お体にはお気をつけて。

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