刀剣乱舞 妖刀の主   作:審神者ヘッド「S」

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同田貫正国

 

 小雪と燭台切との邂逅から数日。公義は森を突っ切り、小さな集落へと辿り着いていた。いや、元集落と表現すべきか。辿り着いたそこは廃村と化しており、煤けた家屋が隙間風を吹かせている。元々災害か何かで田畑がやられたのか、一部の家屋は隣接する山の土砂崩れに呑まれていた。住処とするには聊か不気味で寒々しいが、雨風凌げる壁があり天井があるだけ良いだろう。比較的小綺麗な家屋を選び、公義はそこを寝床とした。

 

 腐りかけた畳と埃を被った襤褸布が寝具だが、元より戦場を転々とした生活を送っていた公義である。青空の下で悲鳴と怒声を子守唄に寝ていた経験に比べればどうという事はない。

 

「……おい、そろそろ出てきたらどうだ」

 

 二日目の夜。そろそろ方針を固め、この世でどう生きて行こうかと考えていた頃。ふと、公義はひとの気配を感じた。それも――血の匂いを伴った、だ。それは懐かしい感覚、自分に慣れ親しんだ故郷の様な心地であった。

 公義が声を掛ければ、灯していた提灯の火が揺れる。この廃屋で唯一の光源だ。崩れ落ちた天井からは僅かな月明かりが漏れているが、灯りとしては心許ない。そして軽い音を立てて木戸が開き、そこから一人の男が屋内を覗き込んだ。

 

「んだよ、気付いていたのか、あんた」

「それだけ闘志を振り撒いていれば誰だって気付けるだろうよ――お前、小雪の刀剣か?」

「小雪ぃ? 誰だそりゃあ、知らねぇよ」

 

 男は公義の言葉に肩を竦め大袈裟に声を上げた。一瞬嘘かと疑ったが、どうやら本当に知らぬらしい。僅かな時間視線を交わしていた双方だが、不意に男がぶるりと肩を震わせ言った。

 

「どうでも良いけどよ、気付いたなら中に入れてくれねぇか、寒くて敵わねぇ」

「……良いぞ、囲炉裏がある、囲むと良い」

「お、そいつぁ有難い」

 

 屈託なく笑い、男は屋内へと足を進めた。二人で囲炉裏を囲み火を熾す。僅かだが炭と灰はあった。被せていた灰を払い、じんわりとした熱に手を翳す。

 灯りに照らされた男は黒い甲冑に身を包んでいた。肩当てに首まで覆う栴檀板。弦走はなく、腹は細布で覆われている。甲冑の上に胴着を着込んでいるのが分かった。何とも独特な戦装束。しかし鳩尾を除き必要な急所は守った、という風な格好だ。間違いなく戦人、こちら側の人間だと分かった。

 

「あんた、名前は」

 

 男が公義に目を向け問う。

 

「柳原藤右衛門公義」

「あん? なんだ、同類じゃねぇのか」

 

 公義の名を聞いた男は意外そうにその鋭い目を見開き、それからどこか落胆した様に背を丸めた。公義は目を細め、問う。

 

「同類って言うと、やはりお前は刀剣男士か」

「応よ、同田貫正国って銘だ」

「同田貫――」

 

 公義はその名を聞き思考を走らせた。しかし、どうにも覚えがない。そうなると自分の時代には存在しなかった刀剣なのかもしれぬ。或いは単に己が物を知らぬだけか。しかし公義が知っているとは元より思っていないのか、単純に名乗っただけなのか。男――同田貫はそれ以上己に関して口を開く事無く、囲炉裏の灰を鉄棒で突いていた。

 

「しかしあんた、こんな廃村で何しているんだ?」

「その言葉、そっくり返そう」

「あー、そりゃあれだ、俺は野良って奴だからよ」

「野良?」

「そ、あんたも刀剣男士を知っているって事は時政府の人間じゃねぇのか? どうにも、歴史修正主義者にも、検非違使にも見えねぇ」

 

 公義は口を噤んだ。検非違使、というのは例の第三勢力だろう。しかし、野良とな。小雪の話では刀剣男士というのは付喪神の仮初の姿という。そしてそれを呼び起こすのは審神者の仕事だ。単独で肉を得られるものなのだろうか? 公義はその事を問おうとして、やめた。そんな事を気にしてどうするというのか、頭を使うのは己の性分ではない。

 あるがままを受け止め、そういうものであると扱う。公義は刀剣男士に関してそのような姿勢を見せた。

 

「まぁ、何だ、俺はその時政府の人間とやらではないし、歴史改変主義者でもない、無論検非違使とやらでもない」

「……じゃあ、あんたは何者だよ」

「ややこしいが、まぁただの仕手だ、こいつのな」

 

 そう言って公義は脇に置いていた打刀を膝に乗せた。同田貫は膝に乗せられたそれに目を向け、「あんたの刀か」と問う。公義は頷き鞘を僅かに払った。月明かりを反射する刀身が同田貫の目に映る。

 

「そうだ、銘は義勇與臣村正」

「村正――妖刀か」

 

 同田貫が驚いたように目を瞬かせたのが見えた。公義はふっと笑みを見せ、「正確に言えば、違うな」と首を振る。

 

「こいつは千子村正、右衛門尉村正の二振りと同じ、数打ちの一つだ、何分妖刀と呼ばれる程度には内府の連中に恐れられていたからな、名に肖るには丁度良い――だから願掛けみたいなものだ、内府打倒の為の……尤も切れ味や頑強さは保障する、村正の名は伊達ではない」

「へぇ、良いな、親近感が湧くぜ」

 

 公義が鞘をそっと撫でながらそんな事を口にすれば、同田貫がどこか嬉しそうにそう言った。その口ぶりはまるで良い同胞を見つけた様な声色だった。公義は視線を彼に投げかける。

 

「まさか、お前も数打ちか?」

「応、俺は只の一刀じゃねぇ、同田貫って銘の数打ち、その集合体だ――だからまぁ、あんたみたいに数打ちを大事にしてくれる奴は好きだぜ? それに」

 

 同田貫の目が絞られる。どこか射抜く様に、羨むように、公義の持つ村正を見ていた。

 

「あんたは【刀の使い方】を良く分かっている、無駄な装飾もねぇ、どこまでも実戦的で機能美に溢れてやがる、それにこの、禍々しい雰囲気と鉄の臭い――その刀で斬って、斬って、斬って、幾人も斬り殺して来たんだろう?」

 

 同田貫は口元を緩めた。それは羨むような、或いは本当に信頼できる仲間を見つけた様な目だった。

 

 ――成程、そういう刀か。

 

 公義もまた、口元を緩めた。邂逅が邂逅であった為に、刀剣男士とはあの月山や燭台切の様な奴ばかりだと思っていたが――何だ、話が分かる奴もいるじゃないか。

 同田貫が鉄棒を灰に突き刺し、爛々とした瞳で公義を射抜いた。口調には熱が籠っている、そこには【あんたにも分かるだろう?】という感情が躍っていた。

 

「刀は敵を斬り殺してなんぼだ、戦で殺してこそ武器の華、それを理解していない奴が多すぎる、刀は凶器だ、斬り殺すための道具だ! 飾って愛でるものでも、守る為の盾でもねぇ! 殺して、殺して、殺して、殺す……それが凶器ってもんだろうが、違うか?」

「――然り、嗚呼、そうだとも」

 

 公義は同意する、腹の底から同意する。

 刀とは凶器である、人を殺す為の道具である。それ以上でも以下でもない。それ以外の使い道などない。それを用いて尚、他を口にするならば、それは。

 

「へへっ、あんたみたいな人と会えたのは僥倖だ――あんた、俺の仕手にならねぇか?」

「何?」

 

 思わず、といった風に聞き返した。同田貫は変わらず、どこか悪戯小僧然とした表情で笑っている。

 

「何だ、俺に二刀流でもやれと言っているのか?」

「違ぇよ、仕手と言ってもあれだ、俺の主って奴だ」

「主? だが俺は審神者とやらではないぞ」

「別段審神者じゃなきゃいけねぇ理由はないだろうがよ、確かに真っ当に考えるならそうなるだろうけれどよ、俺としては『正しく使ってくれる奴』を主としたいんだ……あんたにも分かるだろう?」

 

 同田貫は身を乗り出し、覗き込むようにして公義に言った。成程、意図は理解出来るし共感もする。

 彼は戦いたいのだ、斬りたいのだ、無情に、無慈悲に、『殺せ』と言われ『殺す』刀に成りたいのだ。それが本来の在り方だと、同田貫は確信している。

 

「審神者の連中と合流すりゃあ、確かに安泰だ、備も組めるだろうしな……けれどそうはならないかもしれない、大事に居間に飾られて、或いは畑仕事やらされたり、馬の世話をやらされたり――違うだろう? そうじゃないだろう? 刀剣っていうもんはよ」

「根草なしの浪人だ、良いのか?」

「偶に手入れしてくれりゃ他に望まねぇよ、それに……あんたは戦場に愛されている、こいつは確信だ」

 

 同田貫が笑った。公義もまた、笑った。

 片や付喪神と呼ばれる神格の持ち主。片や戦場で人を斬り殺す事に総てを捧げた悪鬼羅刹。比べるのも烏滸がましい、あまりに差のある二人。しかし、その性質はどこまでも似通っていた。

 

「同田貫と呼べば良いか?」

「あぁ、『俺達』は同田貫――我等同田貫一派、あんたと共に戦場を駆けてやるよ」

「宜しく頼む、同田貫」

「こっちこそ、期待しているぜ、俺の主」

 

 突き出された拳。公義は最初、それを見て目を見開き。

 けれど屈託なく笑う同田貫に魅せられ、苦笑しながら拳を合わせた。

 

 ■

 

「公義、おい、ありゃあ戦場じゃねぇか?」

「なに」

 

 同田貫と同道する流れとなり早三日程。食糧関係の問題もあり、早々に廃村を経った二人は兎角、人のいる村や町を目指し歩く事にした。そして半日程歩いたところで同田貫がそんな事を口にした。戦場(いくさば)――その言葉に反応した公義はすん、と鼻を鳴らす。火薬の臭いはしない、しかし確かに、仄かに香る血の臭い。同田貫を見れば待ちきれないとばかりに身を揺らしている。

 

「まずは見に徹す、横槍を入れるなら機を見てだ」

「了解、あんたが言うなら従うさ」

 

 僅かばかり不満顔を晒し、しかし素直に頷く同田貫。戦には興味津々だが、誰彼構わず斬り殺すという訳でもない。武器とは、仕手の意を汲んで振るわれる物であればこそ。賊の手に在らば無幸の民をも斬り殺すは道理。しかし公義は悪鬼羅刹を自認しながらも、そこらの人間を手当たり次第に斬り殺すような性格はしていなかった。

 理由は簡単――彼がやりたくないと思うからだ。

 

「……ありゃあ、刀剣男士だな」

「例の審神者の部隊か」

「そうだ、相手は歴史遡行軍みてぇだが……押されているみてぇだ」

 

 場所は湖近くの森林帯。廃村より西に真っ直ぐ進んだ場所だ。どうやら小雪とはまた別の審神者も存在している様で、彼らはそこの刀剣男士であるとの事。何故そんな事が分かるのかと同田貫に問えば、実は野良として生きて行く内にここら一帯の勢力図に詳しくなったとの事。聞けば何度か彼から逃げた事もあるのだとか。

 成程、だから馬の世話だの畑仕事だのと言っていたのか。

 

「おっ、連中退いてくぜ、まぁあんだけ斬られりゃそうなるか、んで、どうする公義?」

「……連中は確か、歴史遡行軍だったか? 金目のものは?」

「歴史を遡っても多少の誤差がある、その間こっちで過ごさなきゃならねぇし、持っているんじゃねぇか?」

「良し、なら殺して奪おう」

 

 決断は早かった。賊として連中を襲撃する事を決め、公義は腰の村正を抜き放つ。同田貫も異論を挟まず、待っていましたとばかりに笑って腰の刀を抜いた。その笑顔を横目で眺め、公義は不意に問いかける。

 

「賊として殺す事に思うところは?」

「あるかよそんなもん、あんたが殺すと決めた、ならそれに従うのが凶器の役目だろうが、 それに賊だろうと御武家様だろうと、殺しに違いはないだろうがよう」

 

 その答えに、公義はこれ以上ない程に満面の笑みを浮かべた。

 

「――最高だな、お前は」

「――その言葉、あんたにそんまま返すぜ、主」

 

 破顔する同田貫。

 とても素晴らしい笑顔で見つめ合う双方。そしてどちらからという事無く茂みから飛び出し、今しがた敵を撃退し、気を緩めた歴史遡行軍の横腹に襲い掛かった。数は五、得物は全員打刀。

 まず、同田貫が最寄りの歴史遡行軍に襲い掛かった。刃を寝かせ、こちらに気付き刀を構えるより速く刺突。肺と心臓を横合いから串刺しにし、肋骨に当たらぬ様水平に薙ぐ。それだけでひとりは鮮血共に絶命した。

 

「何奴ッ!?」

「答えるか間抜けェッ!」

 

 同田貫が吠え、骸を蹴り飛ばした。公義もまた、ひとりを斬り殺す。

 同田貫の奇襲に浮足立った打刀、その首目掛けて刀を振るう。意識するは円、刀は腕で振るうものに非ず。さながら鞭の如き軌跡を描き、村正が打刀の首を刎ねた。鮮血が宙を舞い、首がくるくると虚空に踊る。

 残り三人。

 

「同田貫ィッ!」

「応さァ!」

 

 奇襲は成った。連中は右往左往し、刀を片手に身を震わせている。

 

 事、奇襲、強襲に於いて尤も重要な事は何か? 公義は策を知らぬ、戦略も戦術も専門外だ。彼にあるのは技術それのみ。しかし、長年戦場を渡り歩いた公義には嗅覚がある。即ち、『どういう時に斬り込めば良いのか』という経験則だ。

 それによれば奇襲強襲の類は、相手が持ち直す前に済ませるべしとある。

 即ち。

 

「殺せる時に殺す――手傷では死なん! 往くぞォッ!」

 

 防御無視の突貫である。

 

 突然の奇襲に浮足立った敵、それもたった今戦を終えたばかりの状態。安堵と興奮が入り混じり、達成感に満ち溢れていた筈だ。そんな折に奇襲を受け、即座に立て直せるか? 否、必ず及び腰になる、怖気づくと言っても良い。

 事実、二人を殺され、今まさに己等に迫る公義と同田貫相手に、打刀の連中は腰が引けていた。そんな地も掴まぬ刀構えで骨肉を断てるのか?

 

 否、断じて否である。

 

 だからこその突貫、故の捨て身! 断骨の意を捨てた相手など恐るるに足らず! 一撃この身に受けようと、必ず骨で止まろう! ならば肉を切らせて骨を断つべし! 

 公義と同田貫はその意気で敵に踏み込んだ。

 打刀が刀を振り上げる。上段の構え、しかし腰は退けたまま、あれでは頭部に打ち下ろしても頭蓋すら断てまい。

 

「俺は強ぇ! 実戦刀の頑丈さ舐めんなァッ!」

 

 振り下ろされた上段、同田貫はそれを手甲で防いだ。刃が僅かに食い込む――だが肌には届かない。反対に同田貫の突き出した刃が打刀の喉を穿った。決着、即死である。

 

 そして公義もまた、悪足搔きの如き無様さで突き出された突きを、僅かに体を傾ける事で躱した。刀身の腹に指を添え、そのまま相手の左脇下を斬り捨てる。脇というのは人間の急所の一つだ、突き刺せば臓物に届くし斬っても大量に出血する。事実その場に崩れ落ちた打刀は得物を取り落し、呻いたまま立ち上がらなかった。

 

「最後ォッ!」

「つ、ぐ!?」

 

 最後のひとり、流石に他四人がやられるだけの時間間抜けに見守っているだけではなかった。体勢を立て直し、両手で確りと刀を握っている。だが悲しいかな、既に形勢不利は覆している。数は一、此方は二、数とはそれ即ち力である。仲間がやられて尚折れぬその心胆は敬意に値するが、勝機は既にない。

 

「同田貫、右!」

「あいよォ!」

 

 肩を並べた公義と同田貫は、打刀の歴史遡行軍を中心に円を描く。同田貫は右回り、公義は左回り。打ち刀は徐々に距離を取り、また挟撃の形をとる二人に忙しなく切っ先を向ける。多対一の剣戟に於いて挟撃は基本にして究極。もしこれを脱する事を考えるならば、一も二もなくこの場を離れる事だが――。

 

「良いのか? 彼奴はまだ息があるぞ」

 

 公義は自分の傍に転がっている歴史遡行軍のひとりを刀の切っ先で指した。

 そう、仲間の存在である。もし彼奴が背を向け逃亡するというのなら問答無用で首を刎ねる。そんな雰囲気を纏う事によって相手方の選択肢を潰した。もしこれで仲間など知った事ではないと逃亡するのであれば、それはそれでやりようがある。

 そうでなくともこの戦、元より殲滅が目的ではない。一人逃がしたところでという思いもあった。しかし打刀は逃げず、ただ公義と同田貫に挟まれたまま忙しなく視線を左右にしていた。

 

「しゃァッ!」

「おぉぉォオッ!」

「ッ、ぅ!」

 

 敵を挟んだまま、猿声を上げる。『今から打ち込むぞ』という威嚇だ、それを受けた相手は声の出した方へと意識を割かれる。しかし、その隙に逆が打ち込んでくるのではという疑念も生じる。これは敵の精神を削ぐやり方であった。同時に、挟み込んだ双方はゆっくり、じりじりと間合いを詰める。

 

 相手からすれば堪ったものではない。不意に響く猿声、詰まる間合い、もしこのまま間合いを詰められれば同時に放たれる斬撃にて己は敗死する。しかし、ならばどうするか? そんな思考が頭の中を駆け巡っているだろう。相手の動揺が手に取るように分かった。

 

「ッ――おぉぉォオオオッ!」

 

 結果、相手が選んだのは僅かに間合い近かった公義への突貫。先にひと当てし、どうにか突破口を開こうと画策したのかもしれない。しかし、それは叶わぬ。

 公義に向かって敵が突貫した瞬間、同田貫が動いた。それを待っていたと言わんばかりに敵方の背中に向け駆け、刺突。同田貫の一撃は公義に刀が届くより速くその心臓を突き穿ち、打刀は驚愕の表情と共に絶命した。ゆるやかに振り下ろされた刀を、公義が片手間に弾く。

 

「はッ、他愛ねぇ」

 

 同田貫は突き出した刀を無造作に抜き出し、骸となった打刀を蹴飛ばして地面に転がした。

 

「これで全員か」

「みたいだな、元々歴史遡行軍って言っても多くて五、六人程度の部隊だ、増援でも来ない限りこれで全員だろうよ」

「もっと大きな塊となって動いている印象があったが……」

「歴史を変えるって言っても時代なんざ腐る程あるんだ、同一の目的を持った組織っつうより、偶然目的が同じだった連中が集まったってのが実態だろうな、まぁ、俺も詳しい訳じゃねぇけどよ」

「十分だ、さて……せめて数日凌げるだけの金を持っていると良いんだが」

 

 そう言って公義は死体を仰向けに転がし、その懐を探り出した。同田貫もそれを真似て懐を漁る。傍から見れば正に賊という感じだろう。そして無言で懐を漁る事暫く、どうやら連中最低限財布の類は持ち込んでいた様で、僅かだが金銭の入った麻袋が手に入った。

 中身を覗けばまぁ、数日程度なら宿も取れるだろう。他の者も持っているなら暫くは安泰な筈だ。公義は次の死体を転がしながら、ふと疑問に思った事を同田貫に問うた。視線の先には転がった敵の打刀がある。

 

「同田貫、今更何だが」

「あん?」

「こいつらは肉体を斬るだけで死ぬんだな、てっきり見た目からして付喪神側の存在かと思ったんだが」

「あぁ……そうだな、コイツ等は俺達の模造品みたいなもんだからよ、肉体も器じゃねぇし、斬れば死ぬさ、神格は持ってねぇよ」

「そうなのか」

「あぁ」

「しかし連中、なんで態々刀なんて使っているんだろうなァ」

「……って言うと?」

 

 懐を漁りながら視線を投げかけてくる同田貫。公義は打刀の衣服を剥ぎながら、何でもない事の様に言った。

 

「いやなに、連中の目的は歴史の改変なのだろう? 聞いた話では咎人として指定されているだとか何とか」

「そうだな、俺もそう聞いているぜ」

「時の政府とやらが時代に即した武装で挑むのは分かる、無用な混乱を起こさぬ為だろう、しかし連中が態々刀で襲い掛かって来るのが解せん、本気で歴史を変えたいのなら鉄砲なり大砲なり……あとは何だ、未来の技術とやらで出来た摩訶不思議な武装で挑んだ方が楽だろうよ?」

「それは……まぁ、確かに」

「だろう? 咎人ならば今更整合性、無用な混乱云々なぞ気にしまい、それこそ歴史を変えると意気込んでいるのなら尚更」

「……主はどう考えているんだよ?」

「俺か?」

 

 聞かれると思っていなかったのか、公義は素っ頓狂な声を上げた。そしてこちらに視線を投げる同田貫を真っ直ぐ見つめ、にやりと笑う。

 

「――分かる訳ないだろう、俺は考えるのが苦手なんだ」

「……何だよ、期待して損したじゃねぇか」

「くはッ、お前に分からんことは俺にも分からんよ、だから精々同田貫、お前が頭を使ってくれ」

「だぁぁあ! 俺に考えろってかッ!? んなもん刀のやる事じゃねぇよ! 目の前の敵をぶった斬る! 俺の仕事はそれだけだろうが!?」

「ははははッ、なら俺の仕事もそれだ、難しい事を考えるのはよそう、そら、漁れ漁れ、今晩の晩飯は此処から出るんだからなァ」

 

 笑いながら今しがた抜き出した財布を掌で弾ませる。骸は五つ、ひとりひとりは少しばかりの金だが合わせればそれなりだ。同田貫も見つけた麻袋の中身を覗き込み、小さく口元を綻ばせた。

 

「そういやよ、もし、仮にだが」

「うん?」

「連中が鉄砲を揃えてきたら主は勝てるか?」

「一騎打ちならば、まぁ不可能ではないな、一発撃てば弾込めの間に斬り捨てられる」

「んじゃあ、未来の技術とやらで弾込めなしでバンバン撃って来る様な奴が来たら?」

「それは、お前――」

 

 一拍置いて、公義は吐息を零した。

 

「勝てる訳ないだろう、刀じゃ無理だ」

 

 





同田貫の腹筋で大根擦り下ろして食べたい。
食べたくない?
私は食べたい(マジギレ)

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